Yayoi Tsuchida Examination on How University Students with High Level of Autistic-Like Traits Obtain Adaptive Factors: Focusing on Athletic Students and Non-Athletic Students
自閉スペクトラム症リスクの高い大学生の適応要因の検討
-アスリート大学生と非アスリート大学生の差異に着目して-
土
つ ち田
だ弥
や生
よ い 〈要 旨〉自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder:以下ASD)リスクの高い子どもたちは, 思春期・青年期において,二次障害や自我同一性の問題に直面することにより不適応に陥 る傾向が高い。その心理的危機を回避していると考えられるASDリスクの高いアスリート 大学生が保持する適応要因としての本来感と本来感に関連する要因の様相が,どのようで あるかを非アスリート大学生と比較検討した。結果,すべての要因において,アスリート 大学生の得点が非アスリート大学生の得点より高く,特にASDリスクの高いアスリート大 学生が保持する適応要因のうち,エゴ・レジリエンス(以下ER)は,他のどの学生よりも高 く保持しており,さらに自己効力感においても非アスリート大学生と比較して高く保持し ていることが明らかとなった。この高く保持しているERと自己効力感が,ASDリスク傾 向の高いアスリート大学生の思春期・青年期を乗り切るための本来感の維持に寄与してい ることが示唆された。 〈キーワード〉 自閉スペクトラム症,本来感,エゴ・レジリエンス,自己効力感,友人サポート
Ⅰ.問題と目的
1.はじめに 大学生の修学の問題として取り上げられることが多くなった発達障害を起因とする不適応の問 題に,ASDに関する問題が存在する。 ASDは,DSM-5(2013)によれば,対人コミュニケーションと対人相互反応の欠陥,行動,関心, 活動における限定的で反復的な様式に基づき診断される。ASD特有の認知・行動特性は健常者にも存在し,ASD者から健常者の間にスペクトラム状の広がりを持つため,どこからどこまでが健 常者であり,どこからがASD者であるという境界の特定はし難い1)(神尾陽子・森脇愛子・武井 麗子・稲田尚子・井口英子・高橋英俊・中鉢貴行,2013)ことから幼児期・学童期に発見に至らず, あるいは家族も診断が受け入れにくいことも相俟って思春期以降不適応状態となり問題が重篤化 して初めて診断を受け入れるケースが報告されている(井上,2010)。そのためASDリスクの高い 児童生徒は,わがまま,自分勝手,変わっているという見方をされ,周囲から不適切な扱いを受け ることが多いことから自己肯定感や自己効力感が低下し,不登校やうつ,不安障害,強迫性障害 などの二次障害に陥りやすい(内山・江場,2004,柳楽,2017)。さらに神尾ら(2013)は,実施し たテスト2)のカットオフポイント以下の人にも適応が困難となっている人たちの存在を報告しており, ASD特性が一定以上表れると社会適応が困難になることを明らかにした。 ASD児者が,思春期・青年期に二次障害に陥る原因の一つに,自己同一性(identity:以下ア イデンティティと表記)の問題が存在する。この頃,他者の心への出会い,自己の異質性への気 づきから他者との違いに気づき始め,自分は一体何者か,自分のことが良く理解できない(ガーラン ド,2000;綾屋・熊谷,2010)などアイデンティティに関する混乱が生じやすい。そのため心身が 不安定な状態に陥り,対人場面における度重なる不適切な対応を取られることが,二次障害の引 き金となりやすい(内山・江場,2004)。したがって,自分自身を形成していく思春期・青年期にお いて獲得されるべき心理社会的課題である明確なアイデンティティを形成していくことが,将来に対 する不安や人生に対する無力感,職業生活に対する混乱の低減につながると考える。 アイデンティティは他者との相互作用の中で行われているものである(市川,1992)が,ASD者は 対人関係が苦手な人が多く他者との関係構築が難しい人が多いことから,アイデンティティの確立 が容易ではないことが指摘されている(滝吉・田中,2011)。だが,大学生活を適応的に送るASD リスクの高い大学生は,彼ら自身の認識するアイデンティティの保持に関わる力を獲得しているの ではないだろうか。
アイデンティティの獲得に関与する概念の一つに自尊感情がある(Heatherton & Wyland,2003)。 近年自尊感情の研究において,高い自尊感情は適応的なものと不適応的なものが存在しているこ とが明らかとなっている(Deci & Ryan, 1995)。Kernis(2003)は,何ものにも邪魔されない「本来 性」を反映している適応的な自尊感情こそが,最良の自尊感情であるとし,伊藤・小玉(2005)は, 最良の自尊感情を「本来感(sense of authenticity)」と表記し,「自分らしくあること」とした。自分ら しくある本来感を高く感じていれば,現在の自分自身の欠点を自我脅威として受け取ることなく,安 心してどのような局面においても自分を活かすことが出来る(Kernis,2003; 伊藤,2006)。さらに適応 を促進する要因としての自律性や心理的well-being,自己効力感とも関連の深い概念でもある(伊 藤,2006)。 ASD者の適応的な成長が可能な要因として,佐々木(2010)は,良き理解者の存在をあげてい る。特に思春期・青年期における自己確立の過程のなかで重要な他者に受け入れられ,心理的
に支えられているという感覚(サポートの知覚)が持てていることが重要である。安心できる関係性 の中においてこそ自己や他者に柔軟にかかわることが可能となると述べている。本田(2017)は, ASDの診断をした子どもたちの中で,成長後ASDの診断基準を充たさなくなった者の存在を報告 している。その報告によると,家族を含めた周囲の環境が特性を理解すると共に,ASD者である 彼ら自身が,自分の特性を受容し,自己コントロール力(自律性)を保ち,自分の能力を超えた時に 誰かに相談できる力を保持していると述べられている。両者の見解よりASD者の適応要因として, 本人自身が自分の特性を十分理解したうえでその特性を受容し,周囲の理解のもと自律性と自分 らしさを保つことが出来ていることと言えるだろう。 障害者差別解消法の施行(2016)にともない,公的教育機関は,子ども個々の特別な教育ニー ズを「合理的配慮」として定め,合理的配慮の提供者となることが義務化された。それに伴い教 育機関においてはユニバーサルデザインに基づく授業の提案もなされてきている。だが,個々の ニーズに基づきカスタマイズされた環境の完璧な実現は,現実的ではない。そのため当事者にお いても,提供さている環境に自らが適応可能な力を身に付けていく必要があるだろう。 2.本研究の目的 ASD児の療育における身体感覚の統合や遊びの中で体を動かす運動の効用,多動などに対し て剣道や柔道の効用が注目されてきている。スポーツの効用として,スポーツを通じて他者との相 互作用による情動や身体感覚,充実感,一体感を得る経験を積むことでアイデンティティが高まる と考えられている(江田・伊藤・杉江,2009)。スポーツを通じて得ることの出来るスポーツマン的 アイデンティティ3)の危機(中込,1988)について,自己形成の外的要素に関わるアイデンティティ形 成に付随して生じる自我の発達が,スポーツマン的アイデンティティには認められないとの批判があ る。しかしASD者やASDリスクの高い者にとっては,スポーツ競技を続けていくことに自己の存在 価値を見出すことで,アイデンティティが高まり,本来感をより高く保つことが可能となり,思春期・ 青年期の危機を回避出来ているのではないかと推測する。ASDリスクの高い者の二次障害の予 防という課題に対し,思春期・青年期におけるアイデンティティの危機の回避という側面から焦点 を当てた研究はあまり見当たらない。生得的なリスクを抱えながらも健常者と同様に大学生活を送 るASDリスクの高い大学生が保持する適応要因の検討は,ASDリスクの高い子どもたちが,思春 期・青年期に陥りやすい二次障害リスクの予防的介入を検討する際の示唆を得ることが出来ると いえるだろう。 そこで本研究においては,本来感とその本来感やASD者の適応に関連する自律性としての自 己コントロール力,自分の能力を信じることの出来る自己効力感,自分が支えられていると感じられ, 困った時にサポートを求めることが出来るソーシャルサポートにおいて,アスリート大学生の方が非 アスリート大学生よりも高いという仮説を設定した。その仮説よりスポーツを通じて得られるアイデン ティティが,思春期・青年期の二次障害リスクを回避することを可能とする要因と成り得ることの証
明を目的とする。その際ASDと非ASDの境界を正確に定めることが難しく,ASDの診断範囲外に おいても不適応状態に陥る可能性が示された(神尾ら,2013)ことを考慮し,ASDリスクの高さ別に アスリート大学生と非アスリート大学生が培ってきた本来感と本来感を高めることに寄与する自己コ ントロールとしてのER(佐々木・土田,2016),自己効力感,サポートの知覚であるソーシャルサポー トの保持状態を比較検討することで仮説の証明を行うことを目的とする。
Ⅱ.方法
1.調査時期および調査協力者 平成 27 年 6月上旬に関東地方の大学,7月中旬に中国地方の大学,計 2 大学での調査を行っ た。なおアスリート大学生は中国地方の大学の学生であり,全員がスポーツ学科に所属しており, 日本国内のいずれかのスポーツ競技団体に所属し,競技大会参加による授業欠席を公欠扱いと するなどの修学上の配慮を受けてスポーツ競技力向上を目指しつつ勉学との両立を目指している 大学生である。 2.調査の手続き 本研究の調査にあたり,調査協力者となる大学生の講義が終了と同時に質問紙を配布し,無 記名,自記式にて実施,その場で回収した。調査時間の制約により,項目数の少ない尺度の選 定を心がけた。倫理的配慮として,質問紙配布時に「回答の義務はない」「成績とは無関係であ る」「調査内容は博士論文や学術誌で発表する」「回答の途中で気分が悪くなったら直ちに回答 作業を中止する」「途中で中止しても何ら問題ではない」,自由意思による同意に基づき,質問紙 への回答をもって調査参加への意思があると判断することを口頭で説明し,同様の内容をフェース シートにも記載した。この調査は吉備国際大学大学院心理学研究科倫理審査委員会の承認を 得て行った(承認番号:15-21)。 3.調査内容 (1)デモグラフィックデータ 年齢,性別について記入を求めた。 (2)自閉性スペクトル指数(Autism-spectrum Quotient)10 項目版(AQ-J-10)(Kurita, Koyama, & Osada,2005) (以下AQと略す)自閉スペクトラム症の
診断を識別する能力の高い 10 項目を抽出した尺度を用いた。「社会的スキル」「注意の切り替
え」「コミュニケーション」「想像力」の下位尺度で構成されている。自分に当てはまることについて,
によって信頼性と妥当性が示されている。AQ-J-10 のカットオフポイントを7とした場合の診断判別 精度は 88%である。 (3)本来感尺度 伊藤・小玉(2005)により作成された1因子 7 項目の尺度を用いた。自分自身のことについて当 てはまる内容を「あてはまる:5」から「あてはまらない:1」の 5 件法で回答を求めた。 (4)Ego-Resiliency(以下ER89)日本語版 畑・小野寺(2013)により日本語版 14 項目で構成された尺度である。ER89 日本語版は,日常 的な内外のストレッサーに対して柔軟で臨機応変な対応ができる個人が保持する能力を測定する 尺度である。そのため,自律性や自己コントロールとも関わる尺度として本研究では採用した。自 分に当てはまることについて答えを「非常にあてはまる:4」から「まったくあてはまらない:1」の 4 件 法で求めた。 (5)自己効力感尺度 桜井(1993)により作成された 1 因子 8 項目のコンピテンス尺度である。自己効力感を自己の有 能さへの認知とし,自己期待や有能感,物事を成し遂げることへの自信としてコンピテンスを捉え, 桜井の尺度を採用した。自分に当てはまる内容について「非常に当てはまる:6」から「まったく当て はまらない:1」の 6 件法で求めた。 (6)ソーシャル・サポート尺度 ASD者の適応要因として,佐々木(2010)は,思春期・青年期における自己確立の過程のなか で重要な他者に受け入れられ,心理的に支えられているという感覚が持てていることが必要と述 べていることから,サポートの知覚を学生用ソーシャル・サポート尺度(久田・千田・箕口,1989) を参考に,心の支えとしての自己の承認欲求が満たされること,自己の存在を認め良きアドバイスを くれる支援を包含する文言のある項目を 6 項目抽出した。その 6 項目より「普段からあなたの気持 ちをよく理解し,あなたの存在のすべてを認めてくれる」「あなたがする話にはいつも耳を傾けてく れ,いろいろとアドバイスをしてくれる」の 2 項目を作問した。サポート源を一人親,一人っ子に配慮 し「家族からのサポート」,「友人からのサポート」,「先生からのサポート」とし,それぞれのサポート に作問した 2 項目ずつを割り当て,合計 6 項目とした。日頃,自分の周囲の人たちから感じている 支援について当てはまることを「そうである:5」から「全くちがう:1」の 5 件法で回答を求めた。 4.分析方法 調査データの分析に当たっては,統計ソフトSPSS.ver24,amos.ver24 を用いた。
Ⅲ.結果
1.各尺度の分析 調査の実施に同意をした大学生 321 名から,すべての項目に同一得点の回答や途中までの回 答,白紙の回答を分析対象から除外した。最終的に 307 名(男子 176 名,女子 131 名,平均年 齢は 19.20 歳(SD=1.14))の回答を分析対象とした。アスリート大学生は 118 名,18 歳が 22 名, 19 歳が 44 名,20 歳が 28 名,21 歳が 24 名,平均年齢は 19.46 歳(SD=1.018),男子 81 名, 女子 37 名,非アスリート大学生は 189 名,18 歳が 77 名,19 歳が 60 名,20 歳が 30 名,21 歳 が15 名,22 歳が5 名,23 歳が1 名,25 歳が1 名,平均年齢は19.04 歳(SD=1.184),男子 95 名, 女子 94 名であった。 (1)AQ AQ合計得点の平均値は 3.69 (SD=2.06)であり,最小値 0,最大値 9 であった。アスリート 大学生(n=118)の平均値は 3.83, 標準偏差は 2.10, 最小値 0,最大値 9 であった。カットオフポイ ント以上の得点者は 16 人であった。非アスリート大学生(n=189)の平均値は 3.60, 標準偏差は 2.03,最小値 0,最大値 9 であった。カットオフポイント以上の得点者は 20 人であった。 カットオフポイント以上の得点者は36名(全体の11.7%)で, アスリート大学生が16人,非アスリー ト大学生が 20 人であった。 (2)本来感尺度 逆転項目の処理をし,合計得点を算出した。伊藤・小玉(2005)により,信頼性が確かめられて いる尺度であるが,先行研究(益子,2013)において,因子負荷量の低い項目の存在が示されて いたことから,因子構造の確認をしたところ,本研究においては逆転項目の因子負荷量が.22と低 い数値であった。先行研究(益子,2013)を参考に,7 項目を 1 因子とした場合と第 4 項目「他人 と自分を比べて落ち込むことが多い」を除外し 6 項目を 1 因子とした場合の α係数を比較したとこ ろ除外した場合の方が,α係数が高まることが示されたため本研究においては 6 項目を採用した。 6 項目を 1 因子とした α係数は,.89 であった。 (3)ソーシャル・サポート尺度 最尤法による因子分析を行った。固有値の減衰状況と因子の解釈の可能性より3 因子解を 採用した。確認的因子分析(最尤法,プロマックス回転)の結果,3 因子構造が確認され,累 積寄与率 86.94%であった。第 1 因子はサポート源が先生であることから「先生サポート」,第 2 因子はサポート源が家族であることから「家族サポート」,第 3 因子はサポート源が友人であ ることから「友人サポート」と命名した。「先生サポート」のクロンバックのα係数は,.95,「家族サ ポート」のクロンバックのα係数は,.91,友人サポートのクロンバックのα係数は,.91 であった。 Amos24.0 による確認的因子分析の結果,適合度指標はx2 =12.876,df=6,p=.045,GFI=.986, AGFI=.950,RMSEA=.061,CFI=.995 ,AIC=42.876となり3 因子構造が確認された。(4)ER89 ER89 は畑・小野寺(2013)により信頼性が確認されている 1 因子構造の尺度である。尺度の 信頼性係数を求めたところ,α=.87となり十分な数値であった。 (5)自己効力感尺度 自己効力感尺度は桜井(1993)によって信頼性が確認されている1因子構造の尺度である。信 頼性係数を求めたところα=.86となり,十分な数値であった。 2.AQ値による群分け 神尾ら(2013)の実施したテスト4)のカットオフポイント以下の人にも適応が困難となっている人た ちの存在が報告されており,ASD特性が一定以上表れると社会適応が困難になることが示唆され ていることから,テスト内容は異なるが,カットオフポイントより少ない得点の者の中にもリスクの高い 者は存在すると考えられた。そこで,AQリスクの程度の群別を 307 名の平均値 3.69 (SD=2.06) より少ない群:AQ低群 (n=158),平均値 3.69より多くカットオフポイント7より少ない群:AQ中群 (n=113),カットオフポイント7 以上:AQ高群 (n=36))に群別した。さらにその各群についてアス リート大学生:低群 58 名,中群 44 名,高群 16 名,非アスリート大学生:低群 100 名,中群 69 名, 高群 20 名に群分けした。以降の分析に,この群分けを使用した。 3.各要因におけるアスリート大学生と非アスリート大学生の差異の検討 (1)記述統計及び相関分析 各尺度とも回答の合計値を尺度得点とした。アスリート大学生と非アスリート大学生別に各変数 の記述統計量及び,各変数間のピアソンの積率相関係数,α係数を表 1 に示した。アスリート大 学生において本来感と各変数との間に見られた有意な相関は,ER(r =.58,p <.01),自己効力感 (r =.45,p <.01),家族サポート(r=.30, p <.01),友人サポート(r=.34,p<.01)であった。ERと各 変数との間に見られた有意な相関は,自己効力感(r =.44,p <.01),家族サポート(r=.20,p <.05), 友人サポート(r=.26,p <.01),先生サポート(r=.21,p <.05)であった。自自己効力感と先生サポー トとの間に有意な相関が見られた(r=.22,p <.05)。家族サポートと友人サポート,先生サポートと の間に有意な相関が見られた(r=.56,p<.01),(r=.50,p <.01)。友人サポートと先生サポートと の間に有意な相関が見られた(r=.33,p <.01)。 非アスリート大学生において本来感と各変数との間に見られた有意な相関は,ER(r =.56, p <.01),自己効力感(r =.41, p <.01),家族サポート(r=.27, p <.01),友人サポート(r=.30,p <.01), 先生サポート(r=.19,p <.01)であった。ERと各変数との間に見られた有意な相関は,自己効力 感(r =.46,p <.01),家族サポート(r=.21, p <.01),友人サポート(r=.37,p <.01),先生サポート(r =.27,p <.01)であった。自己効力感と友人サポート,先生サポートとの間に有意な相関が見られた (r=.22,p <.05),(r=.28,p <.01)。家族サポートと友人サポート,先生サポートとの間に有意な相
関が見られた(r=.49,p <.01),(r=.20,p <.01)。友人サポートと先生サポートとの間に有意な相 関が見られた( r=.40,p <.01)。 表 1.各変数の記述統計と単相関関係 (2)学生種2水準(アスリート・非アスリート),AQ値3水準(低群・中群・高群)を独立変数とし, 各要因を従属変数とする二要因分散分析の結果を表2に示した。 表 2.大学生種別とAQ値の高さが各要因に及ぼす効果 交互作用が有意であったのは,「自己効力感」,「先生サポート」であり,「友人サポート」は有意 傾向であった。「本来感」「ER」「家族サポート」については有意ではなかった。交互作用が有意 傾向以上であった「自己効力感」,「先生サポート」「友人サポート」については,要因別単純主効 果の検討と多重比較を行った。 「本来感」においては,学生種の主効果が有意であり(F(1,301)=14.04,p <.001), AQ値の主効 果が有意であった(F(2,301)=3.10,p <.05)。交互作用は有意ではなかった(F(2,301)=0.35,n.s.) (図1)。 「ER」においては,学生種の主効果が有意であり(F(1,301)=12.44,p <.001), AQ値の主効果は有 意でなかった(F(2,301)=0.54,n.s.)。交互作用は有意ではなかった(F(2,301)=1.30,n.s.)(図 2)。 「自己効力感」においては,学生種と AQ値との間の交互作用が有意であった(F(2,301)=4.60, p<.05)。単純主効果の検定をしたところ,非アスリート大学生においてAQ値の単純主効果が
有意であり(F(2,301)=7.77,p <.01),低群が高群より高く(p <.01),中群が高群より高かった(p <.05)。AQ値における学生種の単純主効果が有意であり(F(1,301)=8.73,p <.01), アスリート大 学生の方が非アスリート大学生より高かった(p <.01)(図 3)。 家族サポートにおいては,学生種, AQ値の主効果がともに有意ではなかった(F(1,301)=2.02, n.s.),(F(2,301)=1.62,n.s.)。交互作用は有意ではなかった(F(2,301)=0.63,n.s.)(図4)。 友人サポートにおいては,学生種の主効果が有意であり(F(1,301)=14.82,p <.001), AQ値の主 効果が有意であった(F(2,301)=9.06,p <.001)。交互作用は有意傾向であった(F(2,301)=2.56, p <.10)。単純主効果の検定をしたところ,非アスリート大学生における単純主効果が有意であり(F (2,301)=12.88,p <.001),低群,中群,高群の順に友人サポートの得点が高かった。AQ値中群 の単純主効果が有意であり(F(1,301)=8.17,p <.01),アスリート大学生の友人サポート得点が高 かった。AQ値高群の単純主効果が有意であり(F(1,301)=7.39,p <.05),アスリート大学生の友人 サポート得点が高かった(図 5)。 先生サポートにおいては,学生種の主効果が有意であり(F(1,301)=42.33,p <.001), AQ値の 主効果は有意ではなかった(F(2,301)=0.77,n.s.)。学生種とAQ値の交互作用は有意であった(F (2,301)=3.03,p <.05)。単純主効果の検定をしたところ,非アスリート大学生における単純主効果 が有意であり(F(2,301)=12.88,p <.001),低群,中群,高群の順に先生サポートの得点が高かっ た。AQ値において低群の単純主効果が有意であり(F(1,301)=11.62,p <.01),アスリート大学生 の先生サポート得点が高かった。 AQ値中群の単純主効果が有意であり(F(1,301)=12.97,p <.001),アスリート大学生の先生サ ポート得点が高かった AQ値高群の単純主効果が有意であり(F(1,301)=19.45,p <.001),アスリート大学生の先生サ ポート得点が高かった(図 6)。 図1学生種とAQによる本来感の比較 図 2 学生種とAQによるERの比較
図 3 学生種とAQによる自己効力感の比較 図4学生種とAQによる家族サポートの比較 図 5 学生種とAQによる友人サポートの比較 図 6 学生種とAQ値による先生サポートの比較
Ⅳ.考察
本研究の目的は,ASDリスクの高いアスリート大学生が保持すると考えられる適応に関する要因 を非アスリート大学生と比較検討することであった。 本来感についてカットオフポイント以上のアスリート大学生の有する本来感が,非アスリート大学 生の有する本来感の 3 水準すべてにおける得点より高い得点を有していた。学生種においてア スリート大学生の方が,非アスリート大学生と比較して有意に高かった。本来感の得点がアスリー ト大学生の方が非アスリート大学生より有意に高いという結果は,江田・伊藤・杉江(2009)と一 致する。また,本来感得点がAQ値 3 水準別の比較においてもアスリート大学生の方が,3 水準 すべてにおいて有意に高い得点を有していた。このことは,ASDリスクの高いアスリート大学生は,ASDリスクの高い非アスリート大学生と比較して,スポーツ競技を通じた高い自己効力感の実感と, そこに見出された自己の存在価値によるスポーツマン的アイデンティティの獲得が,より高い本来感 を示したと考えられた。 相関分析では,非アスリート大学生においてAQと全要因間に有意な負の相関が見られ,アス リート大学生においては,AQと全要因との間に有意な相関は見られなかった。この結果よりア スリート大学生にとってのASDリスクは,全要因においてほとんど関連しないことが明らかとなっ た。このことは,本来感を高く保つということが,自分自身の欠点を自我脅威として受け取ることな く,安心してどのような局面においても自分を活かすことが出来る状態であること(Kernis,2003;伊 藤,2006)を示していると考えられた。高い本来感を有するASDリスクの高いアスリート大学生は, アスリートであることにスポーツマン的アイデンティティを見出すことで,思春期・青年期の危機を回 避していると言えるだろう。 周囲の状況に合わせて自己欲求を調節することで,日々のストレスに対処する自己コントロール 力であり,本来感に影響力を持つER(佐々木・土田,2016)において,アスリート大学生が非アス リート大学生と比較して有意に高かった。さらにASDリスクの高いアスリート大学生が,ASDリス クの高い非アスリート大学生と比較して有意に高く,他の水準のどのアスリート大学生よりも高いと いう結果であった。ERは生得的な要因であるが,遺伝的要因として説明される部分(男子 77%, 女子 70%)と残り(20 ~ 30%)の差異が,環境要因に起因するとされている(畑・小野寺,2013)。 環境要因に起因する差異の部分に,アスリートとしての環境とその環境へのASD特有の認知とが, ERを高めることにある程度寄与していると考えられる。そのためERの力が,他のどの学生より高く 保たれ,大学生活において強い自己コントロール力を発揮出来ていると言えるのではないだろうか。 このことは,アスリートとしてのストイックさともつながるのかも知れない。ただこの結果において,本 稿の調査協力者であるアスリート大学生は,1 大学のアスリート大学生であるため,所属する大学 の環境が,アスリート大学生にとって非常に良い環境が保たれている状態であるということの影響 と,ASDの特性としての「こだわり」や「ルールに対する完璧なまでの忠実さ」などの認知が及ぼす ポジティブな影響と環境から受ける影響の相互作用については調査がなされていないため,本稿 の結果を踏まえた更なる調査が必要と考える。 自己効力感においてアスリート大学生が,非アスリート大学生と比較して有意に高く,ASDリスク の高い大学生は,すべての水準においての他の大学生より高い結果であった。自己効力感にお いても,ASDリスクの高いアスリート大学生は,スポーツ競技の中に自己の存在価値を見出すこと で高い有能感を感じているといえるだろう。このことが,スポーツマン的アイデンティティの獲得によ り思春期・青年期のリスクを回避する力となると同時に,本来感を高く保つ要因となっていると考え ることが出来るだろう。 家族サポートにおいては,すべての学生間で有意な差は得られなかった。このことはアスリート であるか否か,ASDリスクの高低に関係なく,家族からのサポートを同等のレベルで感じていること
を示しており,大学生という年齢に相当する発達課題である,親からの自立という心理的離乳に達 したためと見ることが出来るだろう。 友人サポートにおいては,アスリート大学生と非アスリート大学生の間に有意な交互作用が認 められ,アスリート大学生の得点が非アスリート大学生得点より有意に高い得点を示した。さらに, AQ値の低群・中群・高群すべての水準において,アスリート大学生の得点が有意に高い値を示 したことは,アスリート大学生は,困った時に相談が出来,自分を承認してくれる,信頼のおける確 かな友人の存在があることを認識しており,特に高群において顕著であり,友人の存在が本来感 の高さに影響を及ぼしていると言えるだろう。 先生サポートにおいては,アスリート大学生と非アスリート大学生の間に有意な交互作用が認め られ,アスリート大学生の方が有意に高い得点であったことは,アスリート大学生の方が,非アス リート大学生より,先生サポートをより享受していると感じていた。さらに,AQ値すべての水準にお いてアスリート大学生の方が,有意に高いサポート感を得ていると感じていた。アスリート大学生の 場合,常に自分の競技の指導者としての先生が身近にいることから,この結果は当然の結果と見 ることが出来るだろう。先生サポートを常に受け取っていることが,状況に応じた自己欲求の調節 を促し,自己コントロールする力としてのERを高めているのではないだろうか。また自己効力感は, 先生に承認されることで確かな力として定着しているのではないだろうか。自己効力感の定着は 本来感にも良い影響を及ぼしていると考えられる。 以上のことから,本研究の目的とした仮説であるアスリート大学生と非アスリート大学生における 適応要因としての本来感とその本来感の維持に関連する自己コントロール力であるER,自分の能 力を信じることの出来る自己効力感,自分が支えられていると感じられ,困った時にサポートを求め ることが出来る家族サポート,友人サポート,先生サポートの知覚が,アスリート大学生の方が非ア スリート大学生よりも高いという仮説は,家族サポートにおいては支持されなかったが,それ以外の 要因においてはすべて支持された。 仮説証明に用いた要因は,すべて本来感を高めることに関連する要因である(伊藤,2006; 佐々木・土田 2016)。家族サポートを除く要因すべてにおいて,ASDリスクの高いアスリート大学 生が高く保持していることが示された。ASDリスクの高いアスリート大学生は,スポーツ競技をする ことに自分の存在価値を見出すスポーツマン的アイデンティティを獲得することで,本来感や本来 感を維持する要因を高く保ち,二次障害やアイデンティティの危機に対処出来たと考えられることか ら,自分の存在価値を見出すことの出来るアイデンティティの獲得は,ASDリスクの高い者の思春 期・青年期における二次障害やアイデンティティの危機に対応する有効な心理的支援の手がかり となると考える。
Ⅵ.今後の課題
ASDリスクの高いアスリート大学生が,スポーツマン的アイデンティティを獲得することにより,非ア スリート大学生より本来感とその本来感を維持する要因を高く保つことが可能であることが示され たことは,スポーツ競技の中に自分の存在価値を見出すことが出来たことと関連があると考えられ る。今回の調査は 1 つの大学のアスリート大学生のみにとどまっているため,他の大学への更なる 調査が必要であろう。また自分の存在価値を見出すことにより本来感を高く保つことが可能となる とするならば,芸術やIT部門など幅広く調査をし,他の部門でも可能かどうかの確証を得たうえで, 自分の存在価値が見出せる場の存在が,二次障害やアイデンティティの問題に対処可能な要因と なることを明らかにしていきたい。また,ERの差異としての環境要因に依存する部分に関し,ASD 特有の認知が及ぼすポジティブな影響と環境から受ける影響の相互作用が,ERの高さににどの 程度の影響を及ぼすのかを明らかにする必要があるだろう。 〈引用文献〉American Psychiatric Association (2013). DIAGNOSTIC AND STATISTIC MANUAL OF MENTAL DISORDERS FIFTH EDITION American Psychiatric Publishing.(髙橋三郎・大野裕(監訳)染矢俊幸・ 神庭重信・尾崎紀夫・三村將・村井俊哉 (訳)日本精神神経学会(日本語版用語監修)(2014).DSM-5 精神 疾患の診断・統計マニュアル 医学書院)
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3) スポーツ競技を続けていくことに自己の存在価値を見出すことで得るアイデンティティを本稿ではスポー ツマン的アイデンティティと定義する。