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インタビューは時の運 (フィールドワーク心得帖 第31回)

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Academic year: 2021

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インタビューは時の運 (フィールドワーク心得帖

第31回)

著者

岡 奈津子

権利

Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア

経済研究所 / Institute of Developing

Economies, Japan External Trade Organization

(IDE-JETRO) http://www.ide.go.jp

雑誌名

アジ研ワールド・トレンド

207

ページ

42-43

発行年

2012-12

出版者

日本貿易振興機構アジア経済研究所

URL

http://hdl.handle.net/2344/00003815

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ਸ਼৚ؙ岡 奈津子

  公務で現地調査に赴くときに は、当然ながら事前に計画を立 て職場の承認を得る必要があ る。土日祝日は﹁資料整理﹂に あてることができるが、それ以 外は何月何日にどの機関を訪問 するのか、計画書に書き込まね ばならない。アジア経済研究所 の一職員である私も毎回、この ようなシステムに従って書類を 作成するのだが、一方で﹁こん なにすんなりいかないよな﹂と ツッコミを入れている自分がい る。   私が現地調査を行う際、一番 苦労しているのがインタビュー のアポイントメント取りだ。も ちろんアポ取りは調査のごく入 り口にすぎない。だが︵インタ ビューを含む︶フィールドワー クを行ううえでの基本的な心構 えや注意点については、本連載 で先輩や同僚諸氏がすでに多く を語っている 。そこで今回は 、 調査のスタート地点で私が重ね てきた試行錯誤について書いて みたい。

●ドタキャンはあたりまえ

  私のフィールドは中央アジア に位置するカザフスタン。ソ連 崩壊によって一九九一年末に独 立した若い国で、国土は日本の 七倍以上︵世界第九位︶もある が、日本での知名度はあまり高 くない 。だが 、先のロンドン ・ オリンピックでは金メダルを七 個も取ったので、テレビでその 国歌を耳にした読者もいたので はないだろうか。   さて、カザフスタンの人々は 一般に、先々の予定を立てそれ を守るのが苦手である。という より、一部の例外を除いて、そ ういう習慣があまりない。私の 個人的印象では民族によって若 干違いはあるが、予定に対する ﹁柔軟﹂ な考え方は国民性といっ てもよいだろう。このような行 動様式は、プライベートのつき あいならまだしも仕事となると なかなかやっかいである。直前 にならないと具体的な日時を決 めてくれない人が多いし、一度 決めた予定を変えることもしば しばで、ひとつのアポイントメ ントをとるのに何度も電話をか け直す羽目になる。   こちらからお願いするインタ ビューでは、日時や場所は先方 の都合に合わせるのが基本であ る。たとえば、ある重要人物A 氏と月曜日に会うことになって いたが、都合で流れてしまった としよう 。﹁じゃあ明後日はど うだい?   時間はあとで決めよ う﹂といわれたら水曜日はまる まる空けておかなければならな い。他の面談予定を入れてダブ ルブッキングになったら相手に 失礼だからだ。そのあげく当日 になって ﹁やっぱり別の日に﹂ といわれると、さすがにがっか りする。さりとて、そんなとき に落ち込んでも腹を立てても仕 方がない。 気持ちを切り替えて、 次に進むしかない。

インタビュー相手の

探し方

  私はこれまで、主にカザフス タンのマイノリティや移民に関 する調査を行ってきたが、イン タビュー相手は政治家、社会活 動家、 民族運動の指導者や官僚、 研究者、ジャーナリストなどが 中心で、多くの場合、友人・知 人、そのまた知人から紹介を受 ける方法をとってきた。いわゆ る﹁雪だるま式﹂である。   しかし昨年以降は日常生活に 密着した場面での ﹁腐敗﹂ をテー マに、一般の人々を対象に聞き 取りを行っている。昨年は海外 赴任の機会を得て現地に滞在し ていたので、最初は友人や知人 のつてを頼って話を聞かせても らったのだが 、このやり方で データの数を増やすのには限界 があった。また、相手が研究者 の場合は比較的頼みやすいが 、 そうでない場合、親しいが故に かえって質問しづらいこともあ る。   そこで、ある研究機関から社 会調査の専門家を紹介してもら うことになった。彼女自身が持 つネットワークを利用しつつ 、 彼女を通じて別のリクルーター にも面談者の紹介を依頼する 。 自分一人でアポ取りする場合に 比べ 、このやり方は効率がよ かった。また、調査協力者を通 じて少しだが謝礼を支払ったの で、調査のために一方的に相手 を利用しているという罪悪感も

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軽減された。   ただしデメリットもある。ま ず、面談者のバックグラウンド に若干偏りが出た。調査協力者 はロシア人女性だったが、面談 者もロシア人と女性が人口比よ りも多くなってしまったのであ る。ただしこれは彼女のネット ワーク自体の偏りだけではな く、日中在宅している主婦のほ うがインタビューを引き受けや すかったこと、どちらかといえ ばカザフ人よりロシア人のほう が、政治的な話題に対してオー プンであることも影響していた と思う。   第二の問題は金銭にかかわる 点である。応じてくれた方々の 大多数は、人の役に立ちたいと いうボランティア精神の持ち主 で、初対面の私との会話にも積 極的だった 。しかしなかには 、 こちらの質問に答える気がない の に 、 謝 礼 目 当 て で イ ン タ ビューを受けたと思われる人も いた。数をこなすことだけが目 的のリクルーターが、面談者に 調査内容を説明していないこと もあった。また面談者の生活水 準は 、少額の謝礼がインセン ティブとして働きうる層にやや 偏る結果になった。ただ、この ような出会いがなければ、貧困 に苦しむ人の話を直接聞くこと も、彼らの家を訪ねてその暮ら しぶりを目にすることもなかっ ただろう。   なお、ここ一年ほどはフェイ スブックを使ったアポ取りも試 みている。話を聞きたい相手に ﹁友達﹂申請すると同時に 、調 査目的を簡略に説明したうえで インタビューの依頼をするの だ。今まで四人に申し込んで全 員から返事が来た。ただ彼らは みな、そもそも職業柄、人と会 うことに前向きな政治家や社会 活動家である 。またフェイス ブック上、 私との﹁共通の友達﹂ が多かったことも、同意を得や すかった理由かもしれない。

●思わぬ出会い

  論文に直接引用することはほ とんどないが、情報源として重 要なのが雑談、かっこよくいえ ば非公式インタビューである 。 カザフスタンのようにマスメ ディアがあまり世論を反映して いない国では、いろいろな人と 直接話をして初めてわかること も少なくない。また、語り手の ホンネに触れられるのも、イン フォーマルな場ならではだ。   友人や知人とのおしゃべりも さることながら、世相を知るの に有益なのがタクシー運転手と の会話だ。私が二度の在外研究 で滞在したアルマトゥには、バ スや路面電車、地下鉄︵二〇一 一年末に開通︶もあるが、必ず しも使い勝手がよくないので 、 私は便利で安価な︵あくまで日 本に比べればだが︶タクシーを よく利用する。ただタクシーと いっても、ほとんどがいわゆる ﹁白タク﹂である。   昨年初冬のある日、私はある タクシー運転手から、税関にお ける収賄について具体的な話を 聞く機会に恵まれた。通常のイ ンタビューで腐敗にまつわる体 験を尋ねると、多くの人が、役 人や医者などから金銭を露骨に 要求されたことについて、憤懣 やるかたない調子で話してくれ る。 ﹁自主的﹂ に渡した場合でも、 思いの外あっけらかんと語る人 が少なくない。他方、自分自身 が受け取った賄賂について話し てくれる人はまずいないから 、 私にとって彼との出会いはきわ めて貴重であった。   この﹁面談者﹂は三〇代半ば のカザフ人男性。いまは白タク を本業にしているが、以前は税 関で働いていたとのこと。そん な実入りのいい仕事をどうして 辞めたんだろうと考えている と、あたかも私の心中を察した かのように、彼の方から﹁税関 はみんな腐敗してる。仕事を辞 めたのもそのせいだよ﹂ という。 いったいどういうことか。好奇 心がむくむくと頭をもたげた が、初対面の人に聞くのはいく らなんでも失礼だろう。しかし 全く知らない者同士だからこそ 匿名性は保証されている。しば らく逡巡したあげく思い切って 頼んでみると、あっさりOKし てくれた。その結果、このイン タビューは私の手元にあるなか でも、もっとも重要な情報のひ とつになった。   なかなか思いどおりにいかな い一方で、思いがけない出会い もあるのがインタビューの醍醐 味である 。事前準備を怠らず 、 常にアンテナを張り、できる限 りの努力をしたうえで、あとは 運を天に任せるのがよい、と私 は常々考えている。 おか なつこ/アジア経済研究所 中東研究グループ これまでの主な研究テーマは、カザフスタンなど旧ソ連諸国のマイノリ ティ、移民、民族政策。現在は現地およびイギリスの研究者とともに「カ ザフスタンにおける非公式ネットワーク」研究会を鋭意実施中。

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