中学生用向社会的動機づけ尺度の作成と信頼性および
妥当性の検討
1), 2), 3)
山 本 琢 俟
上 淵
寿
早稲田大学 早稲田大学 日本学術振興会 本研究では,向社会的行動の動機づけ(向社会的動機づけ)について中学生を対象とした尺度の開発を 目的としている。従来,向社会的行動はその実行によりポジティブな結果をもたらすものとして注目され ているが,その功名は動機づけによって支えられている部分が大きいと推察される。自己決定理論に依拠 し,向社会的動機づけを自律性の観点から捉えるべく,計1,017名の中学生に自記式調査を実施した。先行 研究を参考に作成した項目群について,因子分析を行った結果,日本の中学生が認知する向社会的動機づ けとして「同一化的調整」と「統制的調整」の2因子が抽出された。このことから,中学生の向社会的動機 づけにおいては外的調整と取り入れ的調整が未分化であり,統制的動機づけという1つのまとまりとして認 知されていることが示唆された。その後,尺度の信頼性と妥当性を確認すると共に,向社会的動機づけの 性差について検討した。 キーワード:向社会的動機づけ,向社会的行動,自己決定理論,尺度開発,中学生問題と目的
近年,学齢期の子どもに向社会的行動を身につ けさせることの重要性が強調されている(e.g., Bergin, 2014)。向社会的行動とは他者の利益を意 図した行動のことを指し(Batson, 1998),これら の行動を総称する広範な概念である(Batson,1998; Weinstein & Ryan, 2010)。これまで,学齢 期の子どもを対象とした多くの研究で向社会的行 動が良好な人間関係の形成や,個人の精神的健康 の向上に寄与することなどが示されてきた。例え ば,向社会的行動を多く行うことによって,他者 からの高い評価を予測することが確認されている (e.g., Caprara, Barbaranelli, Pastorelli, Bandura, &
Zimbardo, 2000)。 また,Bandura, Barbaranelli, Caprara, & Pastorelli(1996)は向社会的行動の 実行が本人の問題行動,怒りやすさ,反芻傾向の 低減に効果的であることを示している。 向社会的行動はその実行によりポジティブな結 果をもたらすものとして,行動の生起に注目した 研究が多く見られる。その一方で,向社会的行動 の動機づけ過程が重視されてきている(松崎・浜 崎,1990)。例えば,向社会的行動の実行に対す る周りからの期待や圧力,向社会的行動を重要と 1)本研究は,早稲田大学において人を対象とする研究 に関する倫理審査を受け実施の承認を得たものであ る(承認番号2019-294)。 2)本研究は,令和2年度日本学術振興会科学研究費補 助金(課題番号:JP20J11921)の助成を受けたもの である。 3)本研究の一部は日本パーソナリティ心理学会第29回 大会にて発表された。調査にご協力いただきました 中学校の先生と生徒の皆様,本論文の執筆にあたり 貴重なご助言をいただきました小野島昂洋さん(早 稲田大学),ならびに査読者の先生方に記して感謝 申し上げます。 DOI: http://doi.org/10.2132/personality.30.1.2 J-STAGE First published online: April 9, 2021
考える度合いが向社会的行動の生起と関連してい ることが確認されている(Gagne, 2003; Grube &
Piliavin, 2000)。また,向社会的行動の自律性が
高いほど個人の精神的健康も高く,自律性が低い ほ ど 精 神 的 健 康 も 低 い こ と が 示 さ れ て い る
(Weinstein & Ryan, 2010)。このように,向社会
的行動についての検討を進めるうえで,その動機 づけは無視できない要因である。向社会的行動の 生起はもとより,向社会的行動のポジティブな結 果は,行動に至る動機づけ過程によって支えられ ている部分が大きいと推察される。 向社会的行動の動機づけを捉える視点として は,自 己 決 定 理 論 の 適 用 が 提 案 さ れ て い る (Weinstein & Ryan, 2010)。自 己 決 定 理 論 で は,
動機づけが自律性の程度によって段階分けされ
(Deci & Ryan, 1985),最も統制的な状態から順
に,外的調整,取り入れ的調整,同一化的調整, 統合的調整とされており,最も自律性が高いとさ れている内的調整(内発的動機づけ)と共に,す
べての調整が1次元上に位置づけられている
(Ryan & Deci, 2000)。よ り 高 次 な 分 類 と し て, 外的要因による被統制感を持っているかどうかを 基準に,外的調整と取り入れ的調整は統制的な動 機づけ,同一化的調整と統合的調整と内的調整は 自律的な動機づけとされている(櫻井,2017)。 ここで,向社会的行動の動機づけと内発的動機 づけとの区別について述べておく。内発的動機づけ とは,行動自体が目的である動機づけ,あるいは目 的のない動機づけである(上淵,2019)。一方で, 向社会的行動とはその行動を通して他者に利益を 与えることを意図した行動である(Batson 1998)。 そのため,向社会的行動自体を目的とし「楽しい から」行動を行うということは,向社会的行動の 動機づけとしては理にかなっていない(Ryan & Connell, 1989)。このことから,本研究では向社 会的行動の動機づけに内発的動機づけ(内的調 整)を含めず検討を進める。 これまでに自己決定理論の観点から向社会的行 動の動機づけを捉えた研究は多くないが,例えば
Ryan & Connell (1989)は,小学生における向社
会的行動の動機づけのうち,取り入れ的調整と同 一化的調整が共感性と正の関連にあること,中高 生において同一化的調整が親や教師との良好な 関 係 と 正 の 関 連 に あ る こ と を 確 認 し て い る。
Weinstein & Ryan (2010)は,大学生において向
社会的行動の生起自体はその日の主観的幸福感, 活力,自尊感情と関連が見られず,自律的な動機 づけと統制的な動機づけのうち,前者優位による 向社会的行動の生起がその日の主観的幸福感,活 力,自尊感情と正の関連にあることを示してい る。それどころか,後者優位で向社会的行動を 行った日の主観的幸福感,活力,自尊感情は,向 社会的行動を行わなかった日よりも低いことが確 認されている(Weinstein & Ryan, 2010)。このよ うに,向社会的行動の自律性の程度により対人関 係や個人の精神的健康が異なるため,向社会的行 動の動機づけを自己決定理論の観点から測定する ことには大きな意味があると考える。 特に中学生は,自身のアイデンティティ形成に おける初期の重要な時期にあり,子どもが多くの 時間を過ごす学校での関わりは子どものアイデン ティティ形成に大きく影響している(Verhoeven,
Poorthuis, & Volman, 2019)。また,中学生の時
期には,それまで主流であった家庭での価値観と 家庭外における価値観との衝突を経験し社会化が 進 む(Padilla-Walker & Thompson, 2005)。つ ま り,中学生は学校など家庭外の社会的な価値観に 触れて影響を受けつつ,自身の価値観を形成し始 める時期にあると言える。向社会的行動は,他者 の利益を意図するという性質上,社会的な価値観 を強く反映するものである。ゆえに,中学生を対 象として向社会的行動の動機づけを測定し検討す ることは,個人が社会的な価値観を内在化してい く心理的発達の理解に寄与するものであると考え る。加えて,自律性の観点から向社会的行動の動 機づけを把握することで,子どもの持つ動機づけ
の段階に合わせた向社会的行動に関する指導を考 慮する上での重要な指標ともなろう。 しかしながら,日本において中学生を対象とした 向社会的行動の動機づけを測定する尺度は開発さ れていない。一方で諸外国において,自己決定理 論に依拠し向社会的行動の動機づけを捉えようと する尺度として最もよく用いられているものに,小 中高校生を対象としてRyan & Connell(1989)が 作 成 し たPerceived locus of causality for prosocial
acts(以下PLOC-P)や,大学生を対象にWeinstein
& Ryan (2010)が作成したMotivation to help scale
(以下MHS)がある。しかし,PLOC-Pは同一化 的調整と取り入れ的調整と外的調整から成る3因 子構造を採用しているのに対し,MHSは自律的 動機づけと統制的動機づけから成る2因子構造を 採用しており,向社会的行動の動機づけの因子構 造が共通していない。MHSの項目はPLOC-Pを 参考に作成されたものだが,MHSの作成段階で 2つの尺度の因子構造のずれについては触れられ ておらず,異なる因子構造を採用した根拠が不明 である。また,MHSは主成分分析によって因子 構造が検討されているが,PLOC-Pは主成分分析 や因子分析といった統計的検討は行われておら ず,議論の余地がある。 以上の内容から,本研究では日本の中学生を対 象に,自己決定理論に依拠した向社会的行動の動 機づけにおける因子構造の検討とその信頼性およ び妥当性の検討を目的とし,向社会的行動の動機 づけを測定する尺度を開発する。以降は,向社会 的行動の動機づけを「向社会的動機づけ」と表記 し,向社会的動機づけを「他者に利益をもたらし たいという欲望」と定義する。また,中学生を対 象とすることを考慮し,回答する際の負担を軽減 することを目的に各因子の項目数が5つずつにな るよう調整する。各因子の項目数を5とする理由 は 以 下 の 通 り で あ る。MacCallum, Widaman,
Zhang, & Hong(1999)は因子分析において採用
する項目の数は各因子3か4以上が必要であると
いう考えとともに,Comrey & Lee(1992)を引
用しつつ因子数の5倍以上の項目数が必要である
という考えを紹介している。因子の項目数につい ての議論は多くなされているが,本研究では
MacCallum et al.(1999)とComrey & Lee(1992)
の主張を満たす項目数として各因子の項目数を5
とする。
尺度の信頼性については,信頼性係数の算出に よって検討する。妥当性については,内容的妥当 性と構成概念妥当性を検討する。なお,構成概念 妥当性を検討するため,先行研究(e.g., Ryan & Connell, 1989; Weinstein & Ryan, 2010)で 向 社 会的動機づけとの関連が確認されている主観的幸 福感と共感性を取り上げる。自律性の高い動機づ けほど適応的な結果との関連が主張されており
(Ryan & Deci, 2000),主観的幸福感についても
自律性の高い動機づけとの正の関連が予想され る。また,自律的な動機づけは被統制感を伴わず 積極的に行動を生起させる段階であり(櫻井, 2017),向社会的行動の実行に際し他者への配慮 も積極的に行っていると考えられる。そのため, 向社会的動機づけの自律的な調整段階と共感性に は正の関連が予想される。さらに,性差について, 女子の方が男子に比べ,より自律的な向社会的動 機づけに対して高い得点を示すという先行研究 (e.g., Weinstein & Ryan, 2010)の知見との整合性
を確認する。
予備調査
目 的 初めに,予備調査として向社会的動機づけ尺度 の原案を作成する。先行研究を参考に作成した項 目群について,大学生を対象に過去の記憶を想起 してもらい,作成した項目の内容的妥当性を検討 する。 方 法 調査対象 大学生91名(女子45名)を対象と した。対象者の年齢は18歳から24歳,平均年齢は20.49歳(SD=1.27)であった。
向社会的動機づけ尺度草案 Ryan & Connell
(1989)のPLOC-P, Weinstein & Ryan (2010)の
MHS,Deci & Ryan(1985)とRyan & Deci(2000) による概念的定義を参考に,外的調整,取り入れ 的調整,同一化的調整に該当する項目を作成し た4)。具体的には,外的調整は「ルールへの追従 と賞の獲得や罰の回避」,取り入れ的調整は「自 己や他者による受容の獲得と排斥の回避」,同一 化的調整は「内在化された価値による目標と個人 的な重要性」がそれぞれの特徴となるよう計22 項目を作成し,向社会的動機づけ尺度草案として 使用した。作成した項目と各調整との一致につい ては,心理学専攻の大学教員1名と大学院生4名 が検討を行い,論理的妥当性が確認された。教示 文は「あなたが小中学生だった時,誰かを手助け したり相手のためになると思うことをしたりする ことについて,次の項目がその理由となったこと がありますか」とした5)。 調査時期および調査手続き 調査は2019年10 月から11月に実施した。回答は,「いつもあては まっていた(5点)」,「よくあてはまっていた(4 点)」,「ときどきあてはまっていた(3点)」,「ほ とんどあてはまらなかった(2点)」,「全くあて はまらなかった(1点)」の5件法で求めた。 倫理的配慮 すべての調査対象者に対して,調 査内容の説明,各項目への回答は任意であるこ と,無記名であり個人の特定は行われないこと, 回答協力の有無と回答内容は評価に用いられない ことを質問紙の表紙に明記し,熟読するよう周知 した。これらに同意が得られた場合のみ回答して もらった。 結果と考察 作成した22項目のうち3項目において床効果が 確認されたため,当該項目は向社会的動機づけと して表面的妥当性を満たさないと判断し,以降は 除外した。最終的に外的調整6項目,取り入れ的 調整6項目,同一化的調整7項目から成る計19項 目を向社会的動機づけ尺度原案とした。これら 19項目については,中学生の持つ向社会的動機 づけとして矛盾のないことを現職中学校教諭2名 が確認した。
本 調 査
目 的 尺度原案を用いて向社会的動機づけの因子構造 および信頼性,構成概念妥当性の検討を行い,中 学生用向社会的動機づけ尺度を作成する。また, 向社会的動機づけの性差について検討する。 方 法 はじめに,探索的因子分析を行い向社会的動機 づけの因子構造を検討した。次に,得られた因子 構造の確認と各因子の項目数を5に調整するため 確認的因子分析を行った。ゆえに,それぞれの分 析のために2つの調査対象を設けた。特に確認的 因子分析に際しては,全国から広範に調査対象を 募り,有用性の高い尺度の完成を目指した。 調査対象 1 公立中学校1校に在籍する中学生 291名(女子130名,性別無回答1名,1年生107 名,2年生87名,3年生97名)を対象とし,学級 を単位とする集団形式で質問紙調査を実施した。 対象者の平均年齢は13.84歳(SD=0.88)であっ た。 調査対象 2 株式会社バルクにインターネット 4)本研究での統合的調整の扱いについて,統合的調整 とは同一化的調整の段階からさらに内在化が進み, 行動の価値が完全に自己の価値観や欲求と同化した 段階を意味する(Ryan & Deci, 2000)。本研究は中 学生を対象とした尺度の開発を目的としており,社 会的な価値観を強く反映する向社会的行動の価値認 識が中学生の段階で自己と完全に一致するとは考え 難いことから,本研究では統合的調整を扱っていな い。 5)想起時期が「小中学生」の理由について,予備調査 実施時には本調査の対象を小中学生とし,小中学校 の調査協力予定校を確保していたためである。しか し,本調査実施前に協力予定小学校から協力取り止 めの連絡を受け,実際の調査は中学生のみに行った。を通じた調査を依頼し,全国の中学生726名(女 子354名,1年 生241名,2年 生230名,3年 生 255名)を対象としたクローズ型調査を実施した。 対象者の平均年齢は13.23歳(SD=0.93)であっ た。居住地域の分布は,全国人口推計(総務省, 2020)の各地方人口比とおおむね類似していた。 向社会的動機づけ 予備調査で作成した計19 項目から成る向社会的動機づけ尺度原案を用い た。教示文は「誰かを手助けしたり相手のために なると思うことをしたりすることについて,次の ことがその理由としてどのくらいあてはまります か」とした。 主観的幸福感 伊藤・相良・池田・川浦(2003) の主観的幸福感尺度を用いた。原尺度は大学生以 上を対象としているため,現職中学校教諭2名が 中学生に理解可能であると判断した8項目のみを 用い,項目の表現も中学生が理解しやすいよう改 めた6)。教示文は「毎日の生活の中で,次のこと がどのくらいあてはまりますか」とした。 共感性 桜井(1986)の児童用共感測定尺度短 縮版9項目を用いた。全項目について,中学校教 諭2名により中学生にも理解可能であると判断さ れた。教示文は「毎日の生活の中で,次のことが どのくらいあてはまりますか」とした。 調査時期および調査手続き 調査対象1につい て,調査は2020年2月に各学級の担任が著者の 代理として実施した。調査内容は向社会的動機づ け,主観的幸福感,共感性について回答を求めた。 調査対象2について,調査は2020年5月に実施 し,調査内容は向社会的動機づけについてのみ回 答を求めた。調査用webページのURLを対象者 の親に送付し,子どもに回答してもらうよう指示 した。全項目へ回答していることを回答完了の条 件とし,回答努力の最小限化を判断するための1 項目(「ここでは『ややあてはまる』をえらんで ください」以下,判断項目)を調査内容に加えた。 また,因子構造の検討を学年間や性別間で行うこ とを見越し,各学年200名の有効回答数の確保を 目標にすべての学年の回答数が230名に到達した 時点で回答を締め切った。 すべての調査対象者に対し,それぞれ用いた調 査内容について,回答は「すごくあてはまる(5 点)」,「ややあてはまる(4点)」,「どちらともい えない(3点)」,「あまりあてはまらない(2点)」, 「ぜんぜんあてはまらない(1点)」の5件法で求 めた。 倫理的配慮 調査対象1について,副学校長を 窓口に調査内容や調査手続きの説明と調査協力依 頼を行い,学校からの同意を得た。 調査対象2について,事前にスクリーニング調 査として中学生の子を持つ親を対象に,調査内容 や調査手続きの説明と調査への協力依頼を行っ た。同意の得られた親の子どもを対象に調査を進 めた。 子ども本人に対しても,調査内容の説明に加 え,各項目への回答は任意であり途中で回答を取 り止めてもよいこと,無記名であり個人は特定さ れないこと,(調査対象1に対してのみ)回答協 力の有無と回答内容が学校の成績とは関係ないこ とを調査の実施前に説明し,これらに同意が得ら れた場合のみ回答してもらった。 結果と考察 調査における不誠実回答の存在を無視しないた め,回収された回答のうち明らかな誤答(例:判 断項目への誤答)のあるものを除外した。有効回 答数は調査対象1が278名(女子128名,性別無 回 答1名,有 効 回 答 率95.53%),調 査 対 象2が 611名(女子297名,有効回答率84.16%)であっ た。本研究の分析にはMplus version 8.2とIBM
SPSS Statistics 26を使用し,モデル推定では無回 答などの欠損値を完全情報最尤法にて補完した。 向社会的動機づけ尺度の因子構造の検討 調査 6)主観的幸福感は認知的側面と感情的側面から成るも のである(伊藤他,2003)。8項目の選出にあたって は主観的幸福感の両側面が含まれていることなど概 念的に矛盾のないことも確認された。
対象1に対し,向社会的動機づけ尺度原案の項目 群を用いて探索的因子分析(最尤法,ジオミン回 転)を行った。1因子解から5因子解までの結果 をTable 1に示す。Kaiser-Guttman基準から4因 子解,平行分析の結果から2因子解,情報量規準 から3因子解をそれぞれ採用可能である。しかし, 4因子解と3因子解において,2項目のみから成る 因子が提案されており,先に挙げたMacCallum
et al. (1999)とComrey & Lee (1992)の 主 張 を
満たしていなかった。加えて,2因子解から5因 子解のRMSEAはどれも1を下回っており,かつ BICの差はそれほど大きくないことからも,2因 子解の採用が妥当であると判断した。その後,単 独の因子に.40以上の負荷量を示すという基準を 満たさない項目を除外し,計16項目で再度因子 分析を行った(Table 2)。 第1因子には,尺度原案において同一化的調整 に該当する項目が高い負荷量を示していたため 「同一化的調整」と命名した。第2因子には,尺 度原案において外的調整と取り入れ的調整に該当 する項目が高い負荷量を示していたため「統制的 調整」と命名した。 次に,調査対象2に対して,向社会的動機づけ の2因子モデルに基づき確認的因子分析(最尤法) を行った。分析では各因子の分散を1に固定し, 誤差分散間に共分散を設定しなかった。分析の結 果,χ(2 103)=583.280 (p<.001), CFI=.872, RMSEA=.087, SRMR=.074, BIC=22987.497 で あった7)。ここで,今後,向社会的動機づけ尺度 の回答者となる中学生の負担を軽減することを目 的に,各因子で負荷量の高い項目を5つずつ用い て,再度確認的因子分析を行った。この時,統制 的調整から選択した5項目は向社会的動機づけ尺 度原案における「外的調整」2項目と「取り入れ 的調整」3項目から構成されており,統制的調整 の内容的妥当性は崩れていないと判断した。分析 の 結 果,χ(2 34)=181.755 (p<.001), CFI=.929, RMSEA=.084, SRMR=.067, BIC=14369.804 で あり,十分な適合度が得られた。そこで,最終的 に10項目による向社会的動機づけ尺度を採用し た。 また,学年ごとに同様の因子構造を有している かについて検討するため,調査対象2に対し各学 年を母集団とした多母集団同時分析(最尤法)を 行った。比較するモデルとして,集団間で同じモ デル構造を仮定するもののすべての推定値が異な ると仮定する配置不変モデルと,集団間で同じモ デルを仮定し因子負荷量や因子分散,因子間共分 散の推定値が等値であると仮定する測定不変モデ ル を 設 定 し た。配 置 不 変 モ デ ル の 適 合 度 は χ(2 102)=280.349 (p<.001), CFI=.916, RMSEA =.093, SRMR=.075, BIC=14677.873,測定不変 モ デ ル の 適 合 度 はχ(2 124)=314.063 (p<.001),
CFI=.911, RMSEA=.087, SRMR=.090, BIC=
14570.455で あ っ た。尤 度 比 検 定 の 結 果 は, Δχ(2 22)=33.714 (p=.053)であり適合度の有意 な悪化は確認されなかった。BICの値が低いこと からも測定不変モデルを採用し,各学年で同様の 因子構造を有していると判断した。次に,性別に ついても調査対象2に対し各性別を母集団とした多 母集団同時分析(最尤法)を行った。配置不変モ デルの適合度はχ(2 68)=218.695 (p<.001), CFI= 7)ちなみに向社会的動機づけ尺度原案の19項目を用い て,元々想定されていた3因子モデルに基づき確認 的 因 子 分 析(最 尤 法)を 行 っ た 結 果,χ(2 150)= 929.589 (p<.001), CFI=.826, RMSEA=.092, SRMR =.111, BIC=27826.179であり,本研究において採 用した2因子構造の方がより適合した結果であった。 Table 1 向社会的動機づけの探索的因子分析によるモ デル比較 固有値 平行分析による 平均固有値 BIC RMSEA 1因子解 5.50 1.50 15157.311 .163 2因子解 3.81 1.40 14395.615 .087 3因子解 1.16 1.33 14344.587 .069 4因子解 1.08 1.26 14358.242 .057 5因子解 0.88 1.21 14389.669 .048
.927, RMSEA=.085, SRMR=.072, BIC=14535.110, 測定不変モデルの適合度はχ(2 79)=224.855(p< .001), CFI=.929, RMSEA=.078, SRMR=.075, BIC=14470.704であった。尤度比検定の結果, Δχ(2 11)=6.160 (p=.862)であり適合度の有意な 悪化は確認されなかった。BICの値が低いことか らも測定不変モデルを採用し,男女で同様の因子 構造を有していると判断した。 信頼性の検討 調査対象1と調査対象2につい て,CronbachのαとMcDonaldのωをTable 3に 示 す。McDonaldのωはMcDonald (1999)を 参
考に算出した。αとωの値から十分な信頼性が確
認されたと判断し,項目の加算平均を下位尺度得 点とした。またBlack & Deci(2000)を参考に, 同一化的調整の標準化得点から統制的調整の標準 化得点を減じた値を自律性指標(以下RAI)とし て算出した。 下位尺度間の相関関係 各変数の基礎統計量と 変数間の相関係数をTable 3に示す。調査対象1 では向社会的動機づけの同一化的調整と統制的調 整との間に有意な相関関係が確認されなかった が,調査対象2では有意な相関関係が確認された。 そこで,先述の最終的な確認的因子分析のモデル に因子間相関を0と仮定する制約を加え,調査対 象2に対し再度確認的因子分析を行った。結果は χ(2 35)=236.632 (p<.001), CFI=.903, RMSEA =.097, SRMR=.128, BIC=14418.266であり,尤 度比検定の結果Δχ(2 1)=54.877 (p<.001)であっ た。この結果から,因子間の相関を無相関とみな すより自由推定する方が妥当と判断できる。因子 間の相関を自由推定した結果はr=.36であったた め,向社会的動機づけの同一化的調整と統制的調 整には一定の関連が存在すると考えられる。 主観的幸福感や共感性との関連の検討 まず, 元の尺度との対象の違い等を踏まえ,主観的幸福 感と共感性の因子構造を確認した。主観的幸福感 について,伊藤他(2003)を参考に1因子構造と 仮定して確認的因子分析(最尤法)を行った。適 合度指標はχ(2 20)=199.115 (p<.001), CFI=.748, RMSEA=.179, SRMR=.111, BIC=5986.333 で Table 2 向社会的動機づけにおける2因子解モデルの探索的因子分析結果 項 目 F1 F2 第1因子:同一化的調整 x1. 誰かのためになることをしたいからa .84 .01 x2. 相手の役に立ちたいと思うからa .74 −.06 x3. 他の人に親切にすることを自分の中で大事にしているからa .71 −.02 x4. そうすることは自分にとって意味のあることだからa .70 .08 x5. そうすることは自分のためになると思うからa .69 .02 x6. そうすることは大切なことだから .68 −.02 第2因子:統制的調整 x7. そうしなければ親や先生にほめてもらえないからa −.14 .81 x8. そうすることで親や先生に受け入れてもらえるからa .14 .76 x9. 親や先生に怒られたくないからa −.15 .69 x10. そうすることで相手や周りの人に良い印象を与えたいからa .11 .65 x11. そうしなければ相手や周りの人ががっかりするからa .00 .64 x12. そうすることで親や先生にほめてもらえるから −.02 .61 x13. そうすることはルールや決まりだから −.07 .58 x14. 親や先生からそうするように言われているから .05 .57 x15. そうすることで相手や周りの人に受け入れてもらえるから .36 .50 x16. そうしなければ自分の事がきらいになってしまうから .24 .42 因子間相関 F2 .06 a最終的に採用した項目。
あった。適合が低いため負荷量が.40未満の3項 目を除外し,再度分析を行った結果,χ(2 5)= 31.792 (p<.001), CFI=.945, RMSEA=.139, SRMR=.056, BIC=3638.644で あ っ た。RMSEA がやや高いものの十分に改善されたと判断し, 5項目1因子構造を採用した8)。共感性について, 桜井(1986)を参考に1因子構造と仮定して確認 的因子分析(最尤法)を行った。なお,項目「悲 しいドラマや映画を見ていると,つい泣いてしま うことがあります」と項目「悲しい物語や映画を みていて,泣くようなことはありません」は互い に逆転項目の関係にあると考え,項目間に共分散 を 設 定 し た。適 合 度 指 標 はχ(2 26)=90.517 (p<.001), CFI=.881, RMSEA=.095, SRMR =.067, BIC=7804.251であった。CFIがやや低い ものの,桜井(1986)が検討した過程を重視し, 9項目1因子構造を採用した。 主観的幸福感と共感性について信頼性係数を算 出した(Table 3)。なお,共感性のω係数につい ては,確認的因子分析で一部の誤差分散間に共分 散を仮定しているため,ωの値としてKano & Azuma(2003)を参考にρ′に該当する値を求めた。 確認的因子分析の適合度指標やαとωの値から信 頼性が確認されたと判断し,項目の加算平均を尺 度得点として,向社会的動機づけとの相関係数を 算出した(Table 3)。向社会的動機づけのうち同 一化的調整は主観的幸福感,共感性と有意な正の 相関関係にあり,統制的調整とこれらの変数との 相関係数は小さかった。また,RAIは主観的幸福 感,共感性と有意な正の相関関係にあり,向社会 的動機づけの自律性の高さと適応的な指標との関 連が示された。これらは,自律性の高い動機づけ ほど適応的な結果と関連しているというRyan & Deci (2000)の主張と整合しており,向社会的動 機づけ尺度の構成概念妥当性が確認されたと言え る。 向社会的動機づけの性差 調査対象1と調査対 象2それぞれについて,量的な性差を検討するた め,向社会的動機づけを従属変数,性別を独立変 数,学年を共変量とした分散分析を行った。調査 対象1について,向社会的動機づけの同一化的 調整,統制的調整,RAIへの主効果が有意であり (順にF(1, 271)=4.72, p<.05, 偏η2=.02; F(1, 272) =5.98, p<.05, 偏η2=.02; F(1, 271)=11.15, p< .001, 偏η2=.04),同一化的調整とRAIは女子の 方が,統制的調整は男子の方が高得点だった。調 査対象2について,向社会的動機づけの同一化的 調整,統制的調整への主効果が有意であり(順に F(1, 608)=7.27, p<.01, 偏η2=.01; F(1, 608)= 8.24, p<.01, 偏η2=.01),同一化的調整は女子の Table 3 向社会的動機づけ,SWB,共感性の基礎統計量と変数間の相関係数 n 同一化的 統制的 RAI α ω M SD 歪度 尖度 調査対象1 同一化的 275 .86 — 3.92 0.79 −0.64 0.30 統制的 276 .06 .83 — 2.49 0.88 0.03 −0.64 RAI 275 .69*** −.69*** — — −0.00 1.37 0.23 −0.39 SWB 278 .43*** .06 .27*** .77 .78 3.62 0.75 −0.51 −0.26 共感性 274 .46*** −.08 .39*** .72 .67 3.52 0.71 −0.26 −0.03 調査対象2 同一化的 611 .83 .83 3.62 0.66 −0.50 1.33 統制的 611 .31*** .80 .80 2.92 0.71 −0.33 0.40 RAI 611 .59*** −.59*** — — 0.00 1.18 0.54 0.72 注.同一化的=同一化的調整,統制的=統制的調整,RAI=自律性指標,SWB=主観的幸福感。*** p<.001. 8)最終的に採用した5項目にも認知的側面と感情的側 面の両側面に該当する項目が含まれており,主観的 幸福感の概念は崩れていないと判断した。
方が,統制的調整は男子の方が高得点だった。
Weinstein & Ryan (2010)は,男子に比べ女子 の方がより自律的な向社会的動機づけに対して高 い得点を示すことを明らかにしており,本研究は これに整合している。また,文化横断的に女子の 方が向社会的行動を多く行うことが確認されてい る (e.g., Gherghel, Nastas, Hashimoto, Takai, &
Cargile, 2019)。自律性の高い動機づけは行動の
生起に繋がりやすいというDeci & Ryan(1985) の主張に準じると,向社会的行動の性差は向社会 的動機づけの性差に起因する可能性を指摘でき る。つまり,向社会的動機づけのうち同一化的調 整は女子の方が,統制的調整は男子の方が高いた め,向社会的行動の頻度にも差が生じていると考 えられる。
全体的考察
本研究では,自己決定理論に依拠した向社会的 動機づけの因子構造の検討とその信頼性や妥当性 の確認を行った。初めに,用意した項目について 大学生を対象に予備調査を行い,内容的妥当性の 検討を行った後,本調査として中学生を対象とし た探索的因子分析を行った。その結果,向社会的 動機づけは「同一化的調整」と「統制的調整」か ら成る2因子構造であることが示唆された。さら に,全国の中学生のデータを用いて,2因子モデ ルの確認的因子分析を行った。最終的に「同一化 的調整」5項目と「統制的調整」5項目から成る 中学生用向社会的動機づけ尺度が作成され,尺度 の信頼性が確認された。これら2つの下位尺度は, 向社会的動機づけの一部を自律性の程度という観 点から捉えたものであり,同一化的調整は統制的 調整よりも自律性の高い調整として位置づけられ ると仮定している。 次に,向社会的動機づけ尺度と主観的幸福感, 共感性との関連を検討した結果,構成概念妥当性 が確認された。向社会的動機づけの総合的な自律 性指標についても適応的な指標とのポジティブな 関連が確認され,理論的に矛盾のない結果が得ら れた。 以上から,本研究において一定の信頼性と妥当 性を有する中学生用向社会的動機づけ尺度が作成 されたと言える。本研究で作成された向社会的動 機づけ尺度は,特に教育場面での活用が期待され る。例えば,子どもの自律性を尊重,あるいは促 進するような教師の関わりとして自律性支援の重 要性が主張されている(e.g., Deci & Ryan, 1985)。 向社会的行動について指導する際,子どもが望ま しい行動を行っているかどうかだけでなく,親や 教師からの関わりが子どもの向社会的動機づけに 与える影響を自律性の観点から検討することで, より望ましい指導の在り方にも言及できると考え る。 最後に本研究の課題として,動機づけの因子構 造について,その領域固有性を検討する必要があ る点を挙げる。日本において学業領域(e.g., 西 村・河村・櫻井,2011)や対人関係領域(e.g., 中 井,2015)での中学生を対象に作成された自己決 定理論に依拠している尺度では,外的調整と取り 入れ的調整が別の因子として抽出されている。向 社会的動機づけ固有の特徴として,外的調整と取 り入れ的調整が未分化であり,統制的な動機づけ という1つのまとまりとして認知されている可能 性が考えられる。複数領域間での動機づけの同異 を検討し,包括的な個人の動機づけの解明が求め られよう。* こ の 論 文 はJ-StageでSupplemental Materialを 公開中。
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Development of Prosocial Motivation Scale
for Japanese Lower Secondary School Student
Takuma Yamamoto
1, 2and Hisashi Uebuchi
1 1Waseda University2Japan Society for the Promotion of Science
The Japanese Journal of Personality 2021, Vol. 30 No. 1, 12–22
Prosocial behavior is one of the soft skills that should be taught in schools to develop children’s positive relationships and improve their mental health. Some studies have focused on the motivation toward prosocial behavior to elucidate the outcomes of such good action. In this study, a prosocial motivation scale for Japanese early adolescence was developed within the framework of the self-determination theory. The survey participants were 1,017 seventh to ninth graders (age range=12–15, M=13.40, SD=0.96) in Japanese
lower secondary school. Factor analyses demonstrate two dimensions of prosocial motivation, namely identified and controlled regulations. After assessing the reliability and validity of the scale, we refer to the sex-related differences in prosocial motivation cross-sectionally. This has implications for sex-related differences in prosocial behavior. Finally, the future direction and the limitation of the present study are discussed.
Key words: prosocial motivation, prosocial behavior, self-determination theory, scale development,