地学教育と科学運動 83号(2019年11月)
金 正逸
*・田崎和江
**・李 一烈
***・
奥野正幸
****・立山赤色粘土研究グループ
*****富山県立山町栃
とち津
づ地区から産出する赤色粘土の
特性と応用・利用
はじめに 北陸地方では,道路が赤褐色に汚れており,地下水調 査でも,鉄の濃度に注意が払われてきた.特に,粘土層 の厚い地域の地下水中において鉄濃度が高い傾向が報告 されている(柴崎 2016).また,スメクタイトを含む 軟岩の性質(石田・堤 1994)や立山町の赤色粘土層 についても報告されている(金子・藤井 1998). 本研究の調査地である富山県立山町栃津地区において も赤褐色の粘土層が認められた.この地域は,山林に囲 まれており,北にゴルフ場,南東に温泉やスキー場など がある.1975年頃から土砂採取のために掘削され始め, 2010年頃に赤色粘土の大きな崖が露出した.この赤色 粘土は,含水率が高く軟弱で盛土に不向きであるため, 搬出されなかった.その後,2015年の豪雨によって, 赤色粘土は斜面崩壊を起こし,さらなる土砂崩壊を防ぐ ために,安定化工事を行い,緑化のために植林した.こ の 赤色粘土 は防災の視点からは危険を及ぼす可能性が 考えられているが,その土砂崩れの根本的な原因と対策 は施されていない. 一方,石川県でも,数ヶ所で赤色粘土が認められてお り,この赤色粘土を利用した“泥漬け”と呼ばれる伝統 技法が知られている. 泥中の鉄イオンとナスに含まれ るアントシアニンが結合し,ナスが青色を呈することが 報告されている(田崎・倉繁 2000).富山県立山町栃 津地区から産出する赤色粘土も様々な用途に応用するこ とができれば,地域おこしに繋がる可能性がある. そこで,本研究では赤色粘土の特性を明らかにするた めに,地元住民と共に同研究を行った. 栃津地区から 産出する赤色粘土及び周辺の黒色及び灰色の粘土を採取 し,蛍光X線分析を用いて化学組成を,粉末X線回折を 用いて鉱物組成を調べた.また現地において湧水のpH と土壌pHを測定した.その結果を基にして赤色粘土の 特性を明らかにすることができた.また,専門分野の違 う十数名で異種交流を行うことによって様々な用途が考 案され,赤色粘土を活かした地域おこしに向けた応用と 利用の方法を検討したので報告する. 試料採取 2018年 5 月21日に富山県立山町栃津地区で赤色を 呈している 3 地点の地層から深度10cm程度を採取し た(第1図①③④).赤色粘土は採取した順に 赤色粘 土 1 , 赤色粘土 2 , 赤色粘土 3 とした.各粘土 の色はそれぞれ,標準土色帖で暗赤色(10R 3/6), 暗赤色(10R 3/6),赤色(10R 4/6)であった.また, 赤色粘土の性質を比較するために,周囲から産出す る黒色粘土を 2 地点(第1図②⑥),灰色粘土を 1 地 点(第1図⑤)の深度10 cmから採取した.黒色粘土 はオリーブ黒色(2.5GY 2/1),灰色粘土は,暗オリー ブ灰色(5GR 4/1)であった.各試料を105℃で 3 時 2019年 5 月 2 日受付,2019年 7 月23日受理. * 北陸支部 赤鉄焼研究所 〒929-1176 石川県かほく市外日角5-6 [email protected] ** 北陸支部 河北潟湖沼研究所 〒929-0342 石川県河北潟津幡町北中条ナ9-9 [email protected] *** 赤鉄焼研究所 〒929-1176 石川県かほく市外日角5-6 [email protected] **** 金沢大学理工研究域 〒920-1192 石川県金沢市角間町 mokuno@staff .kanazawa-u.ac.jp ***** 田崎和江(代表)・上田覚子・松浦明久・金 正逸・金 至児・李 一烈・奥野正幸・橋田由美子・山本幸子・ 今井由美子・矢方憲三・竹原照明・福山厚子・佐藤ひろ美・小原瑛子・田崎史江・金子一夫・深谷香代・松枝 章・ 新宅睦子・加波瑞惠Г Г
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第1図 本研究調査地域である立山町栃津地区の位置とサンプリング地点及び観察地点 a,b:調査位置図,bは国土地理院発行2万5千分の1地形図「五百石」を使用.c:栃津地区試料採取地地点(図 b),☆:試料採取地点,①:赤色粘土1,②:黒色粘土1,③:赤色粘土2,④:赤色粘土3,⑤:灰色粘土, ⑥:黒色粘土2,△は湧水のpH測定地点(⑦⑧),地図は上田組重機株式会社所有の栃津地内土採取計画図を使 用.d:試料の採取場所の様子.矢印は各地点でのサンプリング箇所,スケールバー(e ~ i)はすべて10㎝.金 正逸・田崎和江・李 一烈・奥野正幸・立山赤色粘土研究グループ 間乾燥させたものを分析試料とした. 土壌pHは採取した試料20gに蒸留水50mLを加え, 浸透機で30分間浸透させ(200rpm),沈殿した堆積 物の上澄み液のpHはガラス電極式水素イオン濃度指 示計(HM-42X東亜ディーケーケー)で測定した(第 2図). 蛍光X線分析各試料は105℃で乾燥後,アルミナ乳鉢 で粉砕し加圧成型したものをRigaku ZSX Primus Ⅱを 用いて,照射面30mmφ真空雰囲気で定量分析を行った. X線粉末回折分析で乾燥した試料を,アルミナ乳鉢で 粉砕し,試料ホルダーに詰めて測定した.同様に,試料 ホルダーに詰めた試料にエチレングリコールを数滴滴下 したものも同様に測定した.測定は粉末X線回折装置(島 津製作所XRD-6100)を用いて,X線管球:Cu,電圧: 40.0kV,電流:40.0mA,測定範囲:5.0 ∼ 70.0°(2θ), ステップ幅:0.020°(2θ)で測定した. 試料分析の結果 赤色粘土を構成する元素と鉱物組成 各試料に含まれる元素の質量%を第1表に示した. すべての試料において,SiO2,Al2O3,Fe2O3が主要成
分であることを示している.赤色粘土のFe2O3は14.4
∼15.3%であり,少量のTiO2,CaOと微量のMgO,
K2O,Na2O,MnO,P2O5を含んでいた.
一 方, 黒 色 粘 土 や 灰 色 粘 土 は 赤 色 粘 土 よ り も CaO,MgO,K2O,Na2Oの割合が高かった.赤色粘
土は黒色粘土,灰色粘土と比較し,MgOは2.5∼ 4 倍, Na2Oが 5 倍以上高い違いが見られた. 粉末X線回折分析により,赤色粘土からは,モンモ リロナイト(d=14.9Å),ハロイサイト(7.29Å),石 英(3.34Å),磁鉄鉱(2.52Å)が検出された.一方, 黒色粘土からはモンモリロナイト・カオリナイト・ 石英・磁鉄鉱に加え,長石類・方解石が検出された (第 3図).黒色粘土と灰色粘土は,赤色粘土と比較して 非晶質相が多く,かつ膨潤性が低い.赤色粘土にの み含まれている鉱物はハロイサイトであり,黒色粘 土と灰色粘土に含まれていた鉱物は正長石であった. また,赤色粘土及び黒色粘土試料にエチレングリコー ル処理を行うと,15Åの回折線が16Åにシフトし, 膨潤性の粘土鉱物であるモンモリロナイトと同定し た.一方,灰色粘土はエチレングリコール処理によっ ても大きな変化が認められなかった. ᱇≧ᅗ a,b ᶞᮌᆅᖏ pH5.0㹼6.0 c ㉥Ⰽ⢓ᅵ pH4.0㹼4.8 d ㉥Ⰽ⢓ᅵ e,f ◁ᆅᖏ pH8.0㹼9.5 ➨ ⾲
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➨ ᅗ pH 4.0 pH 4.2 pH 4.8 2.0 m 2.0 m 2.0 m pH 8.0b
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pH 6.8 pH 5.0 pH 6.0 2.80 m 7.70 ma
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pH 9.5 柱状図 第2図 現地における試料採取とpH測 定の様子 定の様子 が a:上位層,下位ほど土壌pHが 土 酸性になった,b:aにおける土 壌pHの測定風景,c:下位層の 性 全体,上位層よりもさらに酸性 であったが,下位ほどややpH け が高くなっていた,d:cにおけ 水 る土壌pHの測定風景,e:湧水 第 現場付近の様子,湧水付近(第 1図cの△⑦△⑧)のpHは8.0, 第 f:藍藻が繁茂していた水路(第 1図c△⑧),a ~ fの図中の白 丸○ p 測定した地点 丸○はpHを測定した地点.富山県立山町栃津地区から産出する赤色粘土の特性と応用・利用 粘土の特性 各試料の土壌pH測定の結果から,黒色粘土や灰色 粘土(pH 8.4 ∼ 9.7)は赤色粘土(pH 6.6 ∼ 7.2)よ りもpHが高く,アルカリ性であることが明らかに なった(第2図・桂状図). 土壌pHが高くなった要因は,黒色粘土に含まれてい た正長石や斜長石などの長石類鉱物が水に溶けたことに より,アルカリ金属やアルカリ土類金属がイオン化され, 水素イオンが減少し,アルカリ性を示したと考えられる. 一方,カリ長石類が含まれていない赤色粘土は,水溶液 中に放出されるアルカリ金属イオンが少ないため,中性 になったことが考えられる. また,スメクタイトを含む軟岩が水を吸収したときの 圧力(膨張圧)は,7 45 kgf/㎠に達するとも言われて おり(石田・堤 1994),本地域から産出する14Å粘土(モ ンモリロナイト)についてエチレングリコ−ル処理をし たところ膨潤性粘土鉱物の割合が高いことがわかった. 災害との関連を考えた場合こうした特性は,雨によって 粘土鉱物が膨張し,斜面崩壊(土砂崩れ)を引き起こす 原因になったことが十分に考えられる.なお,中部地方 における地すべり・大規模崩壊及び地震災害については, 日本地質学会(2006)により詳細に述べられている. 赤色粘土の応用 陶器への応用「赤鉄焼」 赤色粘土の特性に着目し,その応用利用を検討し ➨ ⾲ ヨᩱ ㉥Ⰽ⢓ᅵ㸯 ㉥Ⰽ⢓ᅵ㸰 ㉥Ⰽ⢓ᅵ㸱 㯮Ⰽ⢓ᅵ㸯 㯮Ⰽ⢓ᅵ㸰 ⅊Ⰽ⢓ᅵ Ⰽ ᬯ㉥Ⰽ ᬯ㉥Ⰽ ㉥Ⰽ ࣮࢜ࣜࣈ㯮Ⰽ ࣮࢜ࣜࣈ㯮Ⰽ ࣮࢜ࣜࣈ⅊Ⰽ ᅵተ pH 7.2 6.6 6.6 8.4 9.7 9.3 SiO2 48.6 50.0 50.3 53.0 54.8 56.7 Al2O3 24.4 23.6 23.3 14.5 16.8 18.6 Fe2O3 15.3 15.0 14.4 12.3 10.4 8.3 CO2 5.7 5.2 5.4 5.6 5.1 5.2 TiO2 1.9 1.8 1.9 0.8 0.7 0.9 CaO 1.7 1.6 1.9 4.4 3.4 4.4 MgO 0.9 1.4 1.3 6.5 5.2 3.1 K2O 0.9 0.8 0.9 1.1 1.5 1.0 Na2O 0.3 0.3 0.3 1.4 1.6 1.5 MnO 0.2 0.2 0.1 0.2 0.2 0.1 P2O㸳 0.1 0.1 0.1 0.1 0.1 0.1 Total 100.0 100.0 99.9 99.9 99.8 99.9
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第1表 赤色粘土,黒色粘土,灰色粘土の色と土壌pH,蛍光X線分析よる化学組成(質量%) 微量元素があるためTotalが100.0%にならない場合もある. た.一般的に,酸化鉄(Fe2O3第二酸化鉄)は工業的 にベンガラと呼ばれ,色素や研磨剤,凝集剤や鉄分 供給剤としても用いられる.鉄分以外は主に珪素と アルミナから成る粘土鉱物であったので多角度から できる陶器への利用を試みた.本研究対象地域から 産出する赤色粘土は,特に粘土の成分と性質,出土 量の条件が整っていることから,町おこしにつなが る地域ブランド化の可能性を持つ陶器への応用を目 的として研究を進めた. 陶器の母体となる粘土を製造するために,原料として の赤色粘土を100℃で 4 時間かけて乾燥した後,電動石 臼で粗目に粉砕した.粉砕した粉に含まれる不純物や荒 い粒子を20メッシュのふるいを使って取り除き,水を 混ぜながら練って粘土を製造した.赤色粘土単体は可塑 性がなく,カオリン鉱物の成分が少ないと成形ができな いため,磁器質の粘土と50:50の割合で混合し, 3 日 間熟成させてから成形した. 赤色粘土,黒色粘土及び灰色粘土の性質を比較するた めに,採集した黒色粘土を同様に石臼で粉砕した後,20 メッシュのふるいにかけて黒色粘土80%にカオリン鉱 物20%を混合し,ろくろ成型後1250℃酸化(電気窯) 焼成した.しかし,骨材の役割をするカオリン鉱物の成 分が弱いために形状が崩れてしまった. 赤色粘土は,1000℃以下で焼成すると原料の赤色 を保持した陶器が形成できた.しかし,赤色粘土は 粒度が不均質であり,水分を多く含んでいるため焼金 正逸・田崎和江・李 一烈・奥野正幸・立山赤色粘土研究グループ 第3図 各試料の粉末X線回折パターン a:赤色粘土,b:黒色粘土,c:灰色粘土.Dried sampleは乾燥試料,EGはエチレングリコール処 理を示す.Mo:モンモリロナイト,Q:石英,H: ハロイサイト,Mg:磁鉄鉱,F・A・O・P:長 石類,Albite:曹長石 第4図 赤色粘土50%に磁器土50%の粘土を使用してろく ろで成型した陶器(すべてチタン白釉) a 赤色粘土 b 黒色粘土 c 灰色粘土 成時の収縮率が高い.石臼で粉砕した粘土から作ら れた陶器は,可塑性が低く,形を保つことができな かった.赤色粘土を種々の条件で焼成したところ, ろくろで成型した陶器(すべてチタン白釉)は,現 在までの実験結果として赤色粘土50%に磁器土50% の粘土(1250℃酸化焼成)が水漏れ防止や生地の強 度を保つことに最適であることが明らかになった(第4図). 電気窯を利用した焼成は,酸化焼成のみなので,赤色 粘土の色味を残すことができた.ガスを燃料とする楽焼 窯を利用すると,還元作用がはたらき,還元鉄の緑色や 酸化鉄の黒色を出すことが可能である.釉薬を用いない 素焼では粒径が荒く焼成しても空隙が残ることを利用 し,植木鉢など水はけを求められる用途には適している. 焼成条件を変えることで,赤・黒・緑・黄など鉄の発 色を出して酒器や花器など高付加価値の焼き物の制作が 可能であることが実証された.立山町栃津地域から産出 する赤色粘土の色味を利用した陶器「赤鉄焼」は,地域 おこしにつながることが期待できる. 赤鉄焼によるビール泡の実験 赤鉄焼のビアカップ用途についての検討をおこ なってみた.15分間冷蔵庫で冷やしたビ−ルを赤鉄 焼のビアカップに注ぎ,泡立ち,泡の保持時間をガ ラス質,磁器質のグラスと比較した.5 分経過すると, 赤鉄焼のビアカップが最も泡を保持することができ た(第5図).泡の主成分はビールに溶けているCO2 であり,ビールに含まれているタンパク質は,親水 性と疎水性の両方を持つ.これは石けんとよく似た 特性で,かき混ぜると安定した泡を作ることができ る.ビールの場合,CO2を含んでいるので,グラスに 勢いよくビールを注ぐだけで,きめの細かい泡を作 ることができる.第5図に示したように,ビールの 気泡はグラスの壁から一直線にボコボコと生成され ることがわかる.これはビールに溶けているCO2が, グラスのキズや汚れのある場所で液体から気体に変 わることを示している(瀧澤 2017).本研究で作成 したビアカップには,内側表面に凹凸(小さい穴) が点在しており,小さいエネルギーで表面積の小さ い泡を生み出す性質を持っていると考えられる. また,赤鉄焼・磁器質・ガラス質それぞれに注いでか ら 5 分後のビールの液面温度を放射温度計で測定した ところ,それぞれ12.6℃・14.0℃・13.9℃であった.赤 鉄焼に注がれたビールは,磁器質やガラス質カップより も温度が 2 ℃程度低く,かつ気泡を長時間保つ性質が あるためガラスカップよりも冷たい口触りで飲むことが
できると考えられる. ナスの漬物への応用 立山の赤色粘土で作った陶器には磁鉄鉱が入ってお り,弱酸性(pH5.8)のレモン水を注ぐと,容器から鉄 が溶出し0.1mg/Lの濃度になることを実験で確かめた. このことから,ナスの泥漬けにも利用できることを期待 し,ナスの漬物実験を試みた. 第6図 赤鉄焼陶器を用いたナス塩漬け実験の結果 左は梅干し用の陶器で漬けたナス,右は赤鉄焼陶 器に漬けたナス,赤鉄焼に漬けたナスはより鮮や かな紫色を呈した. 第5図 容器ごとの時間経過によるビールの泡立ち程度の 違い a:注いだ直後,b:2分経過,c:5分経過.容器は 左から赤鉄焼,磁器質,ガラス質.赤鉄焼の容器 が最も泡立ち時間が長かった. 2018年10月25-26日に,ナスを用いて,塩漬け実験 を行った.150gのナス 2 個,塩分 3 %の水溶液(塩 15g+水500mL(塩分濃度約 3 %)を沸騰させ,常温 まで冷ました後,赤鉄焼の陶器にナスを入れた.そ の後,重しをして一日置いた(10月25日 4 時半から 10月26日 5 時半まで).比較のために一般的に使われ ている梅干し入れ用の陶器も用いた(第6図左側). その結果,①梅干し用陶器の方(第6図左側)はま だ少し早く,赤鉄焼陶器の方(第6図右側)が鮮やか な紫色を呈していた.②ナスの皮の色は,梅干し用 陶器の方が茶色になっているが,赤鉄焼陶器のナス はきれいな紫色を呈していた(第6図右側).この実 験を 2 回行ったが同様の結果を得た.梅干し用陶器 よりも,赤鉄焼のほうが,きれいな紫色に染まって おり,紫色を保持していた.一方,梅干し用陶器を 利用したナスは褐色部分が多く,短時間で変色した. 農作物栽培への応用・利用 石川県の能登の特産品である赤土スイカは,赤色 粘土で栽培されている.立山赤色粘土も農業に応用 できる可能性を試みた.2018年 7 月初旬から 8 月下 旬まで,石川県金沢市俵町において,赤色粘土を用 いたナスとトマトの栽培実験を行った.ナスとトマ トの苗は市販のものを栽培し,赤色粘土を表面に散 布したものと,従来の畑の土壌に栽培したもの各々 5 株の生育状況を観察した.苗の高さ,実がなり始 めてから収穫した個数,重量を測定した.収穫日は 2018年 7 月11日・19日・23日・27日・31日・ 8 月 4 日・ 17日である.ナス・トマトの収穫した個数,重量の
金 正逸・田崎和江・李 一烈・奥野正幸・立山赤色粘土研究グループ 第7図 赤色粘土の被覆の有無によるトマトの収穫量と平 均重量の違い ◆赤色粘土を被覆した農地から採取されたトマト の平均重量,▲一般土壌農地から採取されたトマ トの平均重量,■赤色粘土を被覆した農地から採 取されたトマトの果実数,●一般土壌農地から採 取されたトマトの果実数. 第8図 赤色粘土の被覆の有無によるナスの収穫量と平均 重量の違い ◆赤色粘土を被覆した農地から採取されたナスの 平均重量,▲一般土壌農地から採取されたナスの 平均重量,■赤色粘土を被覆した農地から採取さ れたナスの果実数,●一般土壌農地から採取され たナスの果実数. 平均をグラフに示した(第7図,第8図). 赤色粘土によって被覆した土壌で栽培したナスは,数, 重量とも大きな差異が認められた.一般土壌で栽培した ものに比べ,個数では2.0倍,重量では1.8倍であった. 赤色粘土で栽培したトマトの部分は,一般土壌で栽培し たものよりも個数1.36倍,重量0.93倍であり,大きな差 は認められなかった. ナスは乾燥に弱い野菜の一つである.特に2018年の 夏の猛暑では,土壌が乾燥しやすい環境にあったが,畑 に含水鉱物を多く含む赤色粘土を被覆したことで,畑の 保水力が上昇した. その結果,ナスの乾燥を防ぐこと ができ,生育環境が良くなったので,収穫数及び重量が 上昇したと考えられる.一方,乾燥に強いトマトは,畑 の保水力が向上しても,生育にあまり影響しないので, ナスよりも赤色粘土の効果が得られなかったと考えられる. 2018年 8 月20日に測定した 6 ケ所のナスの赤色土 壌の平均のpHは6.43,一般土壌の平均は5.68であった. トマトについては両者とも5.60であった.ナスとトマ トの生育に最適なpHは6.0∼6.5の微酸性領域であるこ とが知られており,赤色粘土を被覆したナスの畑の 土壌は,最適なpHであったが,赤色粘土を被覆して いないナスの畑のpHは,弱酸性領域であったために, 大きな果実が実らなかったとみられる.トマトの畑 においては,赤色粘土の被覆の有無に関わらず,弱 酸性領域だったために,成果に違いが認められなかっ たと考えられる.赤色粘土を被覆したトマトの畑のpH が高くならなかったことは,更なる検討が必要である. 赤色粘土は元々の畑よりも鉄分が約10%高く,鉄分 不足で育ちにくいアルカリ土壌を改良することが期待で きる.植物は葉緑素の光合成をする際に鉄を利用するた め,土壌中に鉄が含まれていることが成長の鍵となる. 本実験結果から,立山の赤色粘土は一般土壌を包み込み, 植物が鉄を吸収しやすい生育環境に変え,光合成を活発 にしていることが示唆される.なお日本の一般土壌はほ とんどが酸性なのに対して,立山の赤色粘土はほぼ中性 (6.6 ∼ 6.8)であり,鉄分を多く含んでいるため植物の 光合成を促進する性質があると考えられる( 高橋 1994;中田 2011;山中 2015). 保水力,pH,鉄分のうち,どの成分が最も効いてい るのかは明らかになっていないが,本研究から,赤色粘 土が,一部の野菜や果物の生育環境を良くすることが示 唆された.今後は,どの作物ならば適用可能なのかを検証し ていくとともに,そのメカニズムを明らかにする必要がある. 赤色粘土染め 草木染などの染色では,植物等の煮出しや発酵に より,独特の色を作り出していく.本研究試料であ る赤色粘土は,鉄分を多く含むため,媒染剤の性質 も持っている可能性があるため,媒染剤を用いずそ のまま染料として利用できるのではないかと考えた. 本研究では,皮革,綿,絹,和紙,ヘチマを用いて, 染色実験を行った(第9図). 赤色粘土の割合によって,どのくらい染色される
第9図 赤鉄染めをしたヘ チ マ(a), 皮 革 (b),綿(c),絹(d) いずれの試料も媒 染剤を利用してい ない. 第10図 赤色粘土を利用し た布の染色 a:左から元の生 地,約20%での染 色,約50%での染 色. ベ ス ト は 約 20%で染色した布 から作成した.b, c,d: 染 色 し た 布の走査型電子顕 微 鏡 写 真.b: 元 の 生 地.c: 約 20%での染色.d: 約50%での染色. ➨ ⾲ Ꮫ⤌ᡂ ඖࡢ⏕ᆅ㸦E㸧 㸣 ᰁⰍ㸦F㸧 㸣 ᰁⰍ㸦G㸧 &D2 6L2 )H2 $O2 第2表 XRFによる染色生地に含まれる化学組成(%)
金 正逸・田崎和江・李 一烈・奥野正幸・立山赤色粘土研究グループ のかを比較するために,約20%と約50%割合の赤色 粘土を用いて,生地を染色した(第10図).濃度が高 いと,赤色挿入粘土の赤みが増した.また,染色を 2 ∼ 3 回繰り返し行うことによっても,赤みが増し た.染色した布を電子顕微鏡写真で観察すると,濃 度が高くなると,天然繊維に浸透したSiO2・Fe2O3・Al2O3
濃度が高くなることが明らかになった(第10図,第2表). 実際に,ヘチマ,皮革,綿,絹を染色するために,緑 茶を80℃で煮出した液に浸したのち,赤色粘土液で染 色した.どの試料も赤色粘土によって染められることが 明らかになった.多くの試料では,赤色粘土に由来する 赤色∼ピンクに染まったが,皮革試料は黒く染まった. 皮革を黒く染めるために,釘を酢で煮出した液に漬ける ビネガルーン法があるが,本研究では,赤色粘土の鉄分 が溶出したことで,皮革が黒くなった可能性が考えられ る.いずれにしても,赤色粘土を用いて染色すると媒染 剤を要せずに,生地を染めることができることが明らか になった. この赤色粘土を利用した「赤鉄染め」は,草木染めに 比べて高温での処理や触媒の薬品を添加する必要もない ので,小さい子どもや障害のある方にも安全な作業である. 媒染剤などの薬品を要しない赤鉄染めは,一般的な染 色法に比べて,より安全で容易に染めることができるこ とが示された.これまでに,肌着や靴下,手袋,浴用の ヘチマ等を試したところ,すべての染色が可能であるこ とが明らかになった.また,薬草染めは,ウコン染めの 布に防虫効果があることで東南アジアの僧侶が身に着け る布を初めとして私たちの日常でも呉服を包む布に活用 されている.今後は,赤色粘土に染められた布に残留する 磁力の確認を行い,健康衣料等への可能性を検証していく. 立山赤色粘土の魅力と市民科学の取り組み 立山赤色粘土の活用案としては赤鉄焼や染物,農作物 としての様々な方向性を実験に基づいて行った.赤色粘 土は単なる鉱物ではなく,より実用性の高いものとして の可能性と魅力が高いことをあらゆる業種を通じて確認 した.各分野の専門家を含めて村で生きる人々の協力は まさしく,市民科学としての可能性を提案することがで きたのにちがいないと考える. こうした取り組みの一端が,「赤色粘土に秘めた力を 探る」(2018,9 月),「立山赤色粘土可能性を探る」(2018, 11月).「立山の粘土に磁性細菌」(2018,11月)として, 富山新聞の記事に 3 回に分けて掲載された.また,グ ループのみんなでつくった本「立山の赤色粘土 立山赤 色 粘 土 の 魅 力 と 市 民 科 学 」( 田 崎・ 市 民 グ ル ー プ 2019)を出版することができた. ま と め 立山町栃津地区から産出する赤色粘土,黒色粘土,灰 色粘土の鉱物組成,化学組成,土壌pHを測定した.赤 色粘土はモンモリロナイトなどの粘土鉱物と磁鉄鉱から 構成されており,エチレングリコ−ル処理の結果,膨潤 性に富むことから土砂崩れが生じたと考えられる.この 赤色粘土に長石と無鉛フリットを釉薬として焼成する と,鉄の赤色を保持した陶器が出来上がった.また,赤 色粘土を畑の土壌の上に被覆した結果,ナスの果実の収 穫個数が増え,重量が重くなった.さらに,赤色粘土で 染色を試みた.このように,赤色粘土は陶器,農業,染 色などに大いに利用できるといえよう.今後の赤色粘土 による立山町及び富山県の地域おこしと市民への取り組 みが期待される. 謝辞 本論文をまとめるにあたり, 2 名の査読者に有 益なご助言をいただいた.ここに,お礼申し上げます. 文 献 石田良二・堤 貞夫 (1994) スメクタイトを含む軟岩の諸性質 (2) 組織および膨張圧特性.粘土科学, 34,1,22-34. 金子一夫・藤井昭二(1998)富山県中新川郡立山町で見つかっ た高度540 ∼ 570mに分布する赤色古土壌と高位礫層.富山 県立山博物館研究紀要,5,71-76. 中田貴之(2011)人を助けるへんな細菌,すごい細菌.株式 会社技術評論社.207p. 日本地質学会(2006)日本地方地質誌4中部地方.日本地質学 会編,朝倉書店,490-507. 柴崎直明 (2016) 地盤沈下と地下水の水質―粘土層(難透水層 に注目して). 地学教育と科学運動, 76, 73-81. 瀧澤美奈子(2017)身近な疑問がすっきりわかる理系の知識. 青春出版社,176-177. 田崎和江・倉繁和也(2000)北陸地方に伝わる泥漬けに利用 される“赤ベト”の特性.地球科学,54.287-297. 田崎和江・市民グループ(2019)立山の赤色粘土 立山赤色 粘土の魅力と市民科学.高桑美術印刷,69p. 高橋英一(1944)「根」物語−地下からのメッセージ.研成社. 156p. 山中健生(2015)地球とヒトと微生物.株式会社技術評論社.271.