Title
小学校社会科におけるデジタル教材を利用したアクティ
ブ・ラーニング導入の試み : NHK for School 教材の活用
Author(s)
宮城, 能彦
Citation
沖縄大学人文学部紀要 = Journal of the Faculty of
Humanities and Social Sciences(19): 103-109
Issue Date
2017-03-24
URL
http://hdl.handle.net/20.500.12001/21467
〈実践報告〉
小学校社会科におけるデジタル教材を利用した
アクティブ・ラーニング導入の試み
- NHK for School 教材の活用-
宮城 能彦
要 約 アクティブ・ラーニングとは、「課題の発見・解決に向けた主体的・協働的な学び」 である。ここでは「主体的」と「協働的」がキーワードとなる。アクティブ・ラーニ ングはこれらを実現するためのひとつの「方法」であり決してそのものが「目的」で はない。我々はその基本を絶えず確認し続けなければならないだろう。なぜならば、 極端な場合、たとえばグループ学習というひとつの「型」の授業を行うことが目的化 してしまう可能性が少なくないからである。 本稿は、「受動的」な教材としてとらえられがちな放送教材やデジタル教材を、小学 校3~6年生の社会科において、いかにアクティブ・ラーニングに利用できるか。そ の条件と方法について考察したものである。 キーワード:アクティブ・ラーニング 小学校社会科 放送教材 デジタル教材 考える力 はじめに 「アクティブ・ラーニング」という言葉は、これまでの受動的な授業への反省から生まれた、 能動的な教授・学習法の総称である。具体的には、教室内で行われる「グループ・ディスカッショ ン」や「ディベート」、「グループ・ワーク」、あるいは主に教室の外で行われる「体験学習」、「調 査学習」「発見学習」、「問題解決学習」等のことである。 一方、ドキュメンタリー番組や NHK の学校向け番組を利用した授業はかなり以前から行われ ており、最近は学校教育における ICT 活用のその実践報告もよく見られるようになってきた。 ところが、関連論文を検索してみると放送番組を活用した授業実践に関する論文は意外にも それほど多くはない。そこには、ドキュメンタリー番組や放送番組を利用することに対する教 師の「引け目」が存在するのかもしれない。つまり、映像に説得力があればあるほどそれに頼っ てしまい、教師個人の独自の授業展開を行うことが逆に困難になってしまう。あるいは、映像 の多用が「安易」に授業を行っているように見えてしまい、児童が受け身になってしまうので はないか、という不安が教師たちにあるのかもしれない。 しかし、もちろん、映像だけでなく写真や文字資料であっても、それを使うのは教師であり、 それを使って児童らが能動的に学習が行えるようにするのも教師である。すなわち、アクティブ・沖縄大学人文学部紀要 第 19 号 2017 ラーニングの方法として映像を効果的に使用することは可能であり、むしろ、少なくとも小学 校社会科においては積極的に活用すべきではないか、というのが本考察の目的である。 本稿では特に NHK for School が提供しているデジタル教材をいかにアクティブ・ラーニン グにつなげるかという視点から考察してみたい。 1.アクティブ・ラーニングとは何か 様々な場面で使われるようになった「アクティブ・ラーニング」という言葉であるが、ここで、 そもそもどのような目的でこの言葉が使われるようになってきたかについて確認しておく必要 があるだろう。 「アクティブ・ラーニング」が注目されたのは、2015 年 8 月に発表された初等中等教育分科 会の養育家庭企画特別部会による答申案である。その時の配付資料 1「教育課程企画特別部会 論点整理」の2として「新しい学習指導要領等が目指す姿」があり、そのうちの 「(3)育成すべき資質・能力と、学習指導要領等の構造化の方向性について」の「2.学習活動 の示し方や『アクティブ・ラーニング』の意義等」に次のように述べられている。 次期改訂の視点は、子供たちが「何を知っているか」だけではなく、「知っていることを使っ てどのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか」ということであり、知識・技能、 思考力・判断力・表現力等、学びに向かう力や人間性など情意・態度等に関わるものの全てを、 いかに総合的に育んでいくかということである。 「アクティブ・ラーニング」の意義 思考力・判断力・表現力等は、学習の中で、(2)1.2)に示したような思考・判断・表現 が発揮される主体的・協働的な問題発見・解決の場面を経験することによって磨かれていく。 身に付けた個別の知識や技能も、そうした学習経験の中で活用することにより定着し、既存 の知識や技能と関連付けられ体系化されながら身に付いていき、ひいては生涯にわたり活用 できるような物事の深い理解や方法の熟達に至ることが期待される。 また、こうした学びを推進するエンジンとなるのは、子供の学びに向かう力であり、これ を引き出すためには、実社会や実生活に関連した課題などを通じて動機付けを行い、子供た ちの学びへの興味と努力し続ける意志を喚起する必要がある。 このように、次期改訂が目指す育成すべき資質・能力を育むためには、学びの量とともに、 質や深まりが重要であり、子供たちが「どのように学ぶか」についても光を当てる必要があ るとの認識のもと、「課題の発見・解決に向けた主体的・協働的な学び(いわゆる「アクティブ・ ラーニング」)」について、これまでの議論等も踏まえつつ検討を重ねてきた。 すなわち、アクティブ・ラーニングとは、「課題の発見・解決に向けた主体的・協働的な学び」 である。ここでは「主体的」と「協働的」がキーワードであることを確認しておこう。 「論点整理」では、アクティブ・ラーニングへの懸念も明記されている。 育成すべき資質・能力を総合的に育むという意義を踏まえた積極的な取組の重要性が指摘
される一方で、指導法を一定の型にはめ、教育の質の改善のための取組が、狭い意味での授 業の方法や技術の改善に終始するのではないかといった懸念などである。我が国の教育界は 極めて真摯に教育技術の改善を模索する教員の意欲や姿勢に支えられていることは確かであ るものの、これらの工夫や改善が、ともすると本来の目的を見失い、特定の学習や指導の「型」 に拘泥する事態を招きかねないのではないかとの指摘を踏まえての危惧と考えられる。 (※下線は筆者による) 2.「アクティブ・ラーニング」提言への経緯 アクティブ・ラーニングという教育手段に至った経緯も重要だと思われる。「論点整理」では、 「2.新しい学習指導要領等が目指す姿(1)新しい学習指導要領等の在り方について」で次のよ うに説明されている。特に重要だと思われる部分を抜き出してみよう。 教育課程全体や各教科等の学びを通じて「何ができるようになるのか」という観点から、 育成すべき資質・能力を整理する必要がある。その上で、整理された資質・能力を育成する ために「何を学ぶのか」という、必要な指導内容等を検討し、その内容を「どのように学ぶ のか」という、子供たちの具体的な学びの姿を考えながら構成していく必要がある こうした検討の方向性を底支えするのは、「学ぶとはどのようなことか」「知識とは何か」 といった、「学び」や「知識」等に関する科学的な知見の蓄積である。 また、その過程で、対話を通じて他者の考え方を吟味し取り込み、自分の考え方の適用範 囲を広げることを通じて、人間性を豊かなものへと育むことが極めて重要である。 身に付けるべき知識に関しても、個別の事実に関する知識と、社会の中で汎用的に使うこ とのできる概念等に関する知識とに構造化されるという視点が重要である。個々の事実に関 する知識を習得することだけが学習の最終的な目的ではなく、新たに獲得した知識が既存の 知識と関連付けられたり組み合わされたりしていく過程で、様々な場面で活用される基本的 な概念等として体系化されながら身に付いていくということが重要である。 これらは、学校教育における授業の在り方についてかなり本質的な議論となっている。す なわち、一般的にグループ学習的な授業形態としてイメージされてしまっている「アクティブ・ ラーニング」であるが、実は、このような従来の日本の学校教育における授業への本質的な 反省と「学び」や「知識」の在り方に対する本質的な考察がその基本となっているのである。 これらのことを、図式としてよくまとめられているのが次の図である①。 答申案でも明記されているように、アクティブ・ラーニングはこの3つの柱を実現する ための「ひとつの」「方法」であり、アクティブ・ラーニングを実施することが「目的」で はない。極めて基本的なことではあるが、それを絶えず確認し続けなければならない。な
沖縄大学人文学部紀要 第 19 号 2017 ぜならば、一般的には既にアクティブ・ラーニング=グループ学習というイメージが先行 してしまい。グループ学習を中心に授業を行うことが目的化しまいかねないからである。 図1.アクティブ・ラーニングと三つの柱の関係(内田洋行教育総合研究所) 3.メディア教材・デジタル教材の活用の現状 NHK 放送文化研究所は「進む多様化と新しいメディアへの期待」というテーマで、全国 の小学校現場におけるメディア環境の現状の把握と NHK 教育サービス利用の全体像を調 べるために、「小学校教師のメディア利用に関する調査」を実施している②。 2014 年の調査によると、授業におけるメディアの利用実態は、「ほとんど毎日」から「年 に数回」までの「利用あり」の割合は、テレビ受像機 61%、録画再生機 59%、パソコン 81%、インターネット 73%と高いものの、「週に1~ 2 回程度」以上、すなわち、日常的 に利用していると思われる教師は、テレビ受像機 25%、録画再生機 6%、パソコン 34%、 インターネット 21%と意外と低い。 メディア教材、特に NHK 関連の教材の利用については、小学校教師全体では、「NHK 学校放送番組」44%、「NHK デジタル教材」38%であり、ほぼ高学年になるに従って利用 率は高くなり、「NHK 学校放送番組」は 1 年生担任 30%に対して 6 年生担任は 59%、「NHK デジタル教材」は 1 年生担任 11%に対して 6 年生担任 60%となっている。 しかし、これも、週に 1 ~ 2 回程度以上の日常的に利用している教師となると、「NHK 学校放送番組」8%、「NHK デジタル教材」6%にすぎない。 「NHK 学校放送番組」を利用しない理由の最も多いのが「放送時間と授業時間があわな
い」(55%)である。だとすれば、時間の制約がない「NHK デジタル教材」を利用すれば 解決できると考えられるが、「NHK デジタル教材」を利用しない理由で多いのは、「教材の 内容がわからない」(23%)、「利用の仕方がわからない」(21%)であり、教師にあまり知 られていない、あるいは興味を持たれていないことがわかる。また、そもそも「パソコン やインターネットの環境が整っておらず、見せることができない」が 21%もあることは驚 きであった。 4.NHK for School のコンテンツの特徴 現在、小学校社会科関連の番組には次のようなものがある。 【小学 3〜 4 年】 ・「見えるぞ!ニッポン」(47 番組・全都道府県) ・「知っトク地図帳 発電所」(20 番組) ・「コノマチ☆リサーチ スーパーマーケットのひみつをさぐれ!」(8 月 12 日放送) 【小学 3〜 6 年】 ・「どきどきこどもふどき」(24 番組) 【小学 5 年】 ・「未来広告ジャパン!」(地理 24 番組) 【小学 6 年】 ・「歴史にドキリ」(歴史 41 番組、くらしと政治 4 番組) その特徴は、まず、番組の内容が洗練されており、小学生が見て楽しめるような様々な 工夫と演出がなされていることである。 例えば、「歴史にドキリ」2016 年度第 3 回「中大兄皇子・中臣鎌足~大化の改新・天皇 中心の国づくり~」のサイトには動画と共に児童用教材として「ドキリ・ソングムービー」「ド キリ・年号覚え方」「ドキリ ・ リンク集」が用意されており、さらには、教師向けに「中大 兄皇子・中臣鎌足」活用案(授業プラン)、「中大兄皇子・中臣鎌足ワークシート」、「ドキリ・ ソング」印刷用 PDF 一覧(指導用資料)、「中大兄皇子・中臣鎌足」の指導用資料が揃って いる。 小学校 3 ~ 4 年生向け「見えるぞ!ニッポン」でも、例えば 2016 年度第 30 回「秋田 県~なまはげ~」の回のサイトに、「秋田県の産業 秋田杉」「秋田県の畜産業 比内地鶏」 「世界遺産 白神山地」「世界遺産 白神山地」「日本の川 秋田県 雄物川(おものがわ)」 をクリックすれば、その部分だけを見ることができ、復習として利用できる。また、「みえ るレポート『秋田県』」や「日本地図から探す」をクリックすることで、関係資料を即時に 見ることができ、児童用のクイズのページまで用意されている。 これらは、まさに教師にとって「至れり尽くせり」である。
沖縄大学人文学部紀要 第 19 号 2017 5.NHK for School をアクティブ・ラーニングに繋げるために 至れり尽くせりの NHK for School であるがゆえに、教師たちが逆に尻込みしてしまう 可能性も大いにあるだろう。すなわち、これらに頼っていては、児童一人ひとりの特徴に あった授業ができなくなるのではないか、受動的な授業になってしまい自ら問題を見出し て考えるという力がつかないのではないかという不安である。教師としてはやはり、「手作 り」の教材にこだわるべきで、「手作り」の教材こそが児童たちの興味や関心を引くことが できるのではないか。 しかし、様々な報告書等の作成に追われ多忙化している教師にとっては、むしろ、大切 なポイントで「手作り」の教材を作成するためにも、これらの番組やコンテンツを利用し た方がよいと考えるべきだろう。 その時に最も重要なことは、それらの番組やコンテンツはあくまでも教材のひとつであ ることを基本にすることである。そして、メディア教材・デジタル教材が、ソーシャル・ メディア、特に SNS 等と同様に利便性と危険性が紙一重だということさえ踏まえ、その可 能性と弱点を整理し理解しておけば、能動的な授業(アクティブ・ラーニング)へと展開 するための教材として大いに活用できると考えられる。 そのための条件や活用例として次のようなことがあげられる。 (1)特に歴史教材は番組が与えるインパクトが強く、児童のその時代や人物へのイメージ が固定化されてしまう可能性が大きい。それを防ぎ、より豊かなイメージを育むためには、 教師による補足が重要となってくる。特に注意すべきは、人物や物語が「勧善懲悪」とし てとらえられないように様々なエピソードや、後の時代にどのようにその人物などのイメー ジが形成されていったかなど、すなわち、時代によって人物や政治や文化の評価が異なっ てくることを絶えず意識して言及しなければならない。 (2)地理的分野についても同様で、番組で描かれている地域の特徴は、あくまでもある一 つの「切り口」から見た特徴であることを踏まえなければならない。見る角度を変えれば また違った地域の特徴が見えてくる。 (3)児童が興味を持つためには「おもしろくてわかりやすい」番組をつくらなければなら ない。おもしろくするためには「誇張」が必要であり、わかりやすくするには「単純化」 が必要となる。「この番組教材は何を切り捨て、何を誇張し、どのように整理したのか」と いう視点や問題意識で番組を見る必要がある。 (4)以上のことを、(表現をその児童やクラスに合わせるように工夫しながら)、問題提起 として投げかけることで、「考える授業」「能動的に問題を発見する授業」「疑問に思ったこ とを他の児童に投げかけることができる授業」「それをみんな(グループ)で考えることが できる授業」への展開が可能になる。 (5)例えば先に示した「中大兄皇子・中臣鎌足~大化の改新・天皇中心の国づくり~」の
授業では、番組を見た後に「ほんとうに蘇我入鹿は悪い人だったのだろうか?」という質 問から、教師が蘇我入鹿の立場に立って反論し、児童たちと議論を交わしたり、あるいはディ ベートのように、二つの立場に別れて議論するということも一つの方法として考えられる。 (6)地理的分野においては、例えば、自分たちの県や地域を扱うときに、番組を見た後に 「私たちの地域の特徴はほんとうにそれだけだろうか?」という疑問を投げかけ、児童らが 知っている知識を集めたり、地域へ取材に出かけたり家族などから聞き取りするなどの調 べ学習をしたりして、地域がいかに豊かであるかを実感させる。そのうえで、「それならば、 私たちが行ったことのない他の県(地域)も同じように、もっといろんな特徴をもってい るかもしれないね」と発展させていく。 (7)以上のことからわかるように、NHK for School の番組は、むしろ授業の「導入」あ るいは、「問題提起」として位置付けた方がよいということである。 おわりに 本稿の目的は、アクティブ・ラーニングを行う際に、デジタル教材である小学校 3 年~ 6 年生用 NHK for School が活用できないかということであった。NHK for School が優れ た教材であることは間違いないと思われるが、優れているからこそ現場の教師は尻込みを してしまうか、あるいは依存的になってしまうことが考えられる。 しかし、そもそもアクティブ・ラーニングとは何を目的とした「手段」なのか?それは どのような経緯で提言されるようになったのかを理解すれば、これまで、児童が受動的に なってしまうと考えられがちな、メディア教材・デジタル教材も十分に活用ができると考 えられる。 それらを活用するためには、教師の社会科の知識や教材活用能力が問われることになる。 デジタル教材を活用した授業が受動的にならず、むしろ児童らが能動的に考えることに繋 がるようにするためには、デジタル機器を使いこなす技術のみならず、教師のより一層の 教科の知識と地理・歴史・公民的な問題意識の質の高さが求められるのである。 ――――――――――――――― (註) ①内田洋行教育総合研究所 HP「教育ウォッチ:意外と知らない " アクティブ・ラーニングのねらい "」 https://www.manabinoba.com/edu_watch/24310.html ②宇治橋祐之/小平さち子、2015、「進む多様化と新しいメディアへの期待~ 2014 年度「NHK 小学校教 師のメディア利用と意識に関する調査」から~」『放送研究と調査』2015 年 6 月