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アメリカの女性に対する暴力防止法と日本の刑法改正について

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Academic year: 2021

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99 国際女性 No. 32(2018) 1.はじめに  女性差別撤廃条約には,ジェンダーに基づく女 性に対する暴力に関する条文上の規定はない。こ れは,1970年代の国際人権の限界を示すものであ るが,一般勧告12号(第8会期,1989年),19号(第11 会期,1992年),35号(第67会期,2017年)等で実質的 な効力は担保している。また,1993年6月にウィ ーンで開催された国際人権会議の成果である「女 性に対する暴力の撤廃に関する宣言」が同年12月 に国連総会で採択された。これは,世界で女性に 対する暴力が,戦時/平時および私的領域 /公的 領域等で,広く起きていることを示すものである。  また,女性差別撤廃条約の付属の条約である選 択議定書の個人通報制度および調査制度の申し立 てられているケースでも,女性に対する暴力の問 題が多いことが分かる。  本稿では,アメリカの女性に対する暴力防止法 と日本の刑法改正を比較しつつ,日本の刑法の問 題点を論じていきたい。 2.アメリカの女性に対する暴力防止法  アメリカの女性に対する暴力防止法は,“Public・ Law” という大変大きな法律の一部であるが,“VI-OLENCE・AGAINST・WOMEN・ACT・OF・1994” と いう法律である。この法律は何度か改正されている が,本稿では2013年4月5日の法律を女性に対す る暴力防止法として紹介する。これは上記の “Pub-lic・Law” の “TITLE・ Ⅳ−VIOLENCE・AGAINST・ WOMEN” を,“VIOLENCE・AGAINST・WOMEN・ ACT・OF・1994” と呼んでいる。  日本の刑法改正問題と関連して,一番重要な条 文は,言葉の定義であるが,29条「性的暴行」 (SEXUAL・ASSAULT,“rape” の遠回しな表現である が,条文上はこの言葉が使用されている。)は,被害 者が同意能力を欠如した場合を含む,連邦,先住 民族,あるいは州法で禁じた,あらゆる同意のな い性行為を意味する。「あらゆる同意のない性行 為」と規定されているところが,日本の刑法との 大きな違いである。  同法では,言葉の定義をきちんと規定している が,多くの条文で,「女性に対する暴力」をドメス ティック・バイオレンス,デーティング・バイオ レンス(日本ではデートDV),「性的暴行」,ストー キング(日本ではストーカー行為)の順番で,性暴 力が登場している。  今年7月に日本で公開されたアメリカ映画『ウ インド・リバー』は,テイラー・シェリダン監督 作品で,昨年度のカンヌ映画祭「ある視点」部門 監督賞受賞作であるが,テーマは,実話に基づき, ネイティブ・アメリカン居留地で起きている若い 女性の行方不明・性暴力・殺人である。同法でも, アラスカや先住民族についての規定があることも, 映画で描かれたことが絵空事ではないことを実感 させる。  また,同法は,ケア,サービス,予算や基金など の財源まで広く規定している。日本のジェンダー 関連の法律は「理念法」が多いが,予算などの裏 付け・根拠法がないと行政は動けないし,動かな い。日本こそ,同法を参考にすべきではないだろ うか。  憲法で男女平等を規定していないアメリカで, 「女性に対する暴力防止法」という名前のついた 法律ができたことは,いかに「女性に対する暴力」 が現実の社会で問題なのかを窺わせるし,同様に 日本の社会にも言えることであろう。  ちなみに,現在のアメリカのトランプ大統領は, 同法を廃止したくてたまらないようであるが,日 本のメディアがこの法律をほとんど報道しないこ

アメリカの女性に対する暴力防止法と日本の刑法改正について

  

堀 口 悦 子

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100 国際女性 No. 32(2018) とも,重大な問題である。 3.日本の刑法改正の問題点  2017年6月,110年ぶりに刑法性暴力関係の法 改正があった。「第3次男女共同参画基本計画」 を受けて改正された,と言われているが,やはり, 国際人権上,1993年の「女性に対する暴力の撤廃 に関する宣言」を受けての改正と考えられるが, DV防止法が制定されたのが1999年で,これも遅 かったが,刑法改正も20年以上かけての改正が, このような内容では,不十分と言わざるを得ない。  最大の問題点は,アメリカの女性に対する暴力 防止法と比較しても,「暴行,脅迫」要件が残った ことだ。どうして,女性の同意なしの性行為が性 暴力ではないのだろうか。これでは,「名誉犯罪」 や「名誉殺人」ともつながる「女性の意思」を無視 した家父長制を残したままである,と言わざるを 得ない。戦前の「家制度」の下での「女性の無能 力規定」と変わらない。女性には,性行為に対す る「同意・不同意能力」が欠如している,と刑法 から宣告されているようなものである。必死に抵 抗して,殺されてしまうかもしれないので,意に 反して従う場合もあろう。女性自身が命をかけて 抵抗すべき,という考え方自体に「純潔死守」と いう思想が隠されている。また,酩酊状態など意 思表明ができない場合は,「準」という罪名が付け られていることも,問題である。アメリカのよう に,「同意」ができない状態を含めて「同意なし」 の性行為が性暴力であるという規定に,なぜ,で きないのだろうか。  今回の改正で,親告罪がなくなり,男女ともに 被害者と規定され,「強姦罪」よりも構成要件を広 くとる「強制性交等罪」に変わったことは評価で きる。  しかし,「近親かん」を18歳未満の被害者の監護 権者からに限定したことは,非常に問題である。 例えば,父による娘への「近親かん」が未成年で ある少女時代から始まっていて,成年後も継続し ている場合,該当しなくなってしまう。現時点で の狭い範囲での「子ども性虐待」さえ問題にすれ ばよいとでも,立法者は考えているのだろうか。 ここで思い出してほしい。最高裁判決(最─小判 平成19年3月8日民集61巻2号518頁)を。夫婦別姓 さえ認めない日本が,個別のケースだとしても, 事実上の近親婚である伯父と姪の内縁関係で,遺 族厚生年金の支払いを認めたことは許しがたいこ とである。判例が,「近親婚」により「近親かん」 を認めたのである。民法734条で,「近親婚」を禁 止しているにもかかわらず,この判例で認めてし まったことは,日本の裁判史上,痛恨の極みであ る。民法は何のためにある。この伯父・姪は,養 子縁組届を提出している養親子関係であるが,こ こまでで十分である。しかも,民法736条で養子 とは婚姻できない規定である。遺族厚生年金は, 事実婚を含む配偶者に支払われるものであり,そ の社会保障法上の大原則すら,破ってしまってい る。民法の解釈のこの混乱ぶりが,「近親かん(イ ンセスト・タブー)」を刑法規定から遠ざけていた とも言えるのではないだろうか。大学時代,刑事 政策の授業で,「近親相姦は被害者なき犯罪」と習 って,納得がいかなかったことを思い出す。 【参考文献】 井桶三枝子「【アメリカ】女性に対する暴力防止法の改正」『外 国の立法』5月号(2013年)。 (ほりぐち・えつこ・会員,明治大学情報  コミュニケーション学准教授)

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