本書は,経済学を専門としない,大学に初めて入学した学生を対象とした入 門書である。 私たちの身近な生活では,経済問題を避けて通ることはできない。たとえば, 2019 年 10 月 1 日から実施された消費税率 8% から 10% への引き上げを取り 上げてみよう。この税率の引き上げは私たちの生活にどのような影響を与えた のだろうか? なぜ消費税率を引き上げる必要があったのだろうか? 消費税 率引き上げは,いま日本がかかえている財政赤字問題を解消する方向に経済を 導いてくれるのだろうか? 他方,私たちの将来を見据えると,少子高齢化に 伴う人口減少によって,これまで作り上げてきた社会保障制度が持続できない のではないかという難題が待ち構えている。 第二次世界大戦後の明日の生活にも困難を極める状況から立ち上がり,現在 のような生活水準を多くの国民が享受できるようになったのは,先人たちの努 力による成果であることは間違いないが,個々人を取り巻く社会制度や,それ を支える国家運営の存在を抜きにすることはできない。個人の生活状況が変化 すれば,当然のことながら社会制度,国家運営のありようも対応を余儀なくさ れる。 私たちは日常生活の中で収入と生活費用のバランス,職業の安定的確保,生 活環境の維持,災害・新型肺炎の拡大などによる自然環境の変化への対応等々 の諸課題に直面している。日々の個々人の生活では,個別の課題にのみ関心が おかれ,他の課題には関心がないことが多いであろう。しかし,よくよく調べ
はじめに
現代経済社会入門 稲葉 和夫・橋本 貴彦・本田 豊著 https://www.kyoritsu-pub.co.jp/bookdetail/9784320096486iv はじめに てみると,これらの課題の多くは直接的,あるいは間接的に相互に関連してい ることに気づく。たとえば,政府が与えられた財源をもとに,子育てのための 支援の予算を増加させるとしよう。そのこと自体は,少子化をできるだけ食い 止めるためにも重要な政策である。そのためには,他の支出(社会保障,教育, 公共事業,防衛費など)のどれかあるいはいくつかを削減しなければならない。 何が当面不必要なのかを検討しなければならない。さもなくば,そのような支 出削減を避けるために政府がさらに借金をして(国債を追加発行して)資金を 捻出することになる。まずは,課題の所在を明らかにし,解決の糸口を見つけ るためには,どのような形で経済活動が成り立っているのか基本的な見取り図 を把握する必要がある。そのうえで,問題を引き起こしている原因を突き止め る必要がある。 本書では,第 1 章で明らかにするように,まず経済活動の仕組み,基本的な 経済の諸問題についての問いを提示する。問いに対しては,通常答えが用意さ れていると期待するであろうが,明確な回答は出さず,むしろ読者と一緒に解 決の方向性を探ろうとする。つまり本書は,経済学に対して,興味関心を持っ てもらうことを目的とした導入的な役割を持っている。本書は,立命館大学の 一般教育科目「経済と社会」を数年間担当している筆者 3 名が講義の教材を互 いに提供して作成したもので,講義内容に対する受講生諸君の質問等も参考に している。そのため,経済学の専門分野を解説する形式を必ずしもとっていな い。難しい専門用語は避け,かつ経済分析で必要な数式等はコラムに掲げ,本 文だけでも内容が理解できるように努めた。 本書における経済社会の対象は,日本経済を中心としている。本来ならば, 経済全般の課題を対象とすべきであるが,地域経済社会,世界経済などのトピ ックについては,紙面の関係上割愛せざるを得なかった。近年,キャッシュレ ス化,ビットコインなど貨幣に関わる議論が非常に活発に行われているが,残 念ながらこの問題も取り上げることはできなかった。なお,各章末には基礎的 な内容も含めて,読者が現実の経済社会に関心を持ってもらえるような手軽に 入手できる本を中心に参考書として掲げている。 本書の執筆にあたって,立命館大学経済学部社会人学生卒業生の方々には, 原稿段階での誤植,文章表現上の問題等について,多くのご指摘をいただいた。 現代経済社会入門 稲葉 和夫・橋本 貴彦・本田 豊著 https://www.kyoritsu-pub.co.jp/bookdetail/9784320096486
はじめに v 岡田美代子,奥野善信,木村千壽子,小林道子,中村武司,福田俊一郎,古石 美和子,三上明子,前田謙二の諸氏にはこの場を借りてお礼を申し上げたい。 本書の企画は,共立出版の山内千尋,木村邦光両氏の発案で進められた。著 書の出版に至るまで粘り強く励ましていただいた。また,野口訓子氏には,原 稿の細部にわたるまで点検していただき,著者のわかりにくい表現の多くを指 摘していただいた。これら出版社の方々の激励がなければ完成に至ることはな かったであろう。心よりお礼を申し上げる次第である。 2020 年 3 月 著 者 現代経済社会入門 稲葉 和夫・橋本 貴彦・本田 豊著 https://www.kyoritsu-pub.co.jp/bookdetail/9784320096486