Ⅰ.緒言
日本国内で手洗いが不十分であったために発 生した食中毒事例は、これまでに複数報告され ている1)。食中毒を防止するためには、管理栄 養士だけでなく食品の製造や調理に従事してい る人々(以下、調理従事者ら)が徹底した手洗 いを励行し、感染防止に努める必要がある。管
理栄養士は現場で指導的立場に立ち、調理従事 者らの衛生意識の向上に努めなければいけな い。調理従事者らの中には、衛生意識が身につ いていない者も存在する可能性があると予測さ れるが、彼らに対して一方的に衛生に関する知 識を詰め込むだけで衛生意識を身につけさせる ことは極めて困難と考えられる。
【目的】昨年度の第1報に引き続き、将来、管理栄養士として調理施設等の現場で指導 的立場に立つ学生の衛生意識を高めるため、簡単に手の洗い残しの有無を調べることが できる手洗い試験を実施した。同時に、食品衛生学実験受講前後に衛生意識・行動に関 するアンケート調査をし、その教育効果を検証した。
【方法】対象者は、食品衛生学実験を受講している大学2年生(以下、受講生)40名であっ た。洗浄方法の異なる条件を複数設定し、ヨウ素デンプン反応を利用した手洗い試験を 実施した。手洗い試験を行う前と終了後に受講生に対してアンケートを実施し、衛生意 識・行動に関して前後比較した。
【結果】複数の条件を設定したが、対照実験を行ったことで受講生自身に効果的な手 洗い方法を考え実践させることができた。また、実験終了後には、100%の受講生が食 品衛生学実験受講後に意識が“大きく変化した”または“変化した”と回答すると同時に、
95%の学生が食品衛生学実験受講後に行動が“大きく変化した”または“変化した”と回答 した。
【結論】ヨウ素デンプン反応を利用した手洗い試験により、受講生に手洗いの大切さを 実感させると同時により効果的な手洗いの方法を考え実践させることができた。また実 験を通して、受講生の衛生意識を高めるだけでなく、行動変容まで結び付けることがで きた。本試験の内容を含む食品衛生学実験を受講した学生が、将来、管理栄養士として 従事するとき、現場の従事者の衛生意識を高める指導を行うことが期待される。
キーワード:衛生意識、食中毒、手洗い
Faculty of Health and Nutrition, Yamagata Prefectural Yonezawa University of Nutrition Sciences 山形県立米沢栄養大学健康栄養学部
MIURA Kana , SAZUKA Masaki
三浦 佳奈,佐塚 正樹
Educational Effects of Hand-Washing Test for Improvement of Hygiene Awareness(2)
衛生意識向上のための手洗い試験とその教育効果(第2報)
昨年度、本紀要の第1報において、食品衛生 学実験における手洗い試験の教育効果を検証し たところ、学生の衛生意識を高めることができ たという結果が得られたが、各手洗い条件の試 験区分の人数に差があったため、試験合格率の 比較が困難であった。そこで今年は、第1報時 と同じ条件下で各試験区分の人数が同程度の人 数になるよう工夫し、手洗い試験を行った。ま た、今年は手洗い試験により、衛生意識がどの ように変化したのかを明確にするため、手洗い 試験開始前と終了後にアンケート調査を実施 し、その結果と手洗い試験の結果を照合するこ とによって、教育効果を検証した。
Ⅱ.方法 1.対象者
対象者は、食品衛生学実験を受講している大 学2年生(以下、受講生)40名であった。
2.材料および方法
1)受講生の衛生意識・行動のアンケート調査 食品衛生学実験開始前(表1)と終了後(表2)
に、受講生の衛生意識・行動に関するアンケー ト調査を行った。
2)ヨウ素デンプン反応を利用した手洗い試験 本試験は、保健実験大図鑑に記載されている
「手の洗い残しを調べる実験」の内容2)を一部 改編して下記の通り実施した。
2 - 1 )材料
実験材料として、デンプン溶液、ヨード液 を準備した。デンプン溶液は、水400mLをガス コンロの弱火にかけて加熱した。100mL容ビー カーに水50mLを入れ、そこに市販の片栗粉大 さじ2杯を加え、よく攪拌した。次に加熱した 水に少しずつ加え、のり状になるまでかき混ぜ た。また、ヨード液は水1Lに希ヨードチンキ(日 興製薬)10mLを加えてかき混ぜた。
2 - 2 )方法
まず、デンプン溶液を両手全体と手首にまん べんなくすり込み、乾燥させた。これを菌が付 着した状態と仮定し、つづいてそれぞれの条件
(表3)で手洗いを行った。各自が普段行って いる手洗い方法で洗浄(条件1)、ハンドソープ を用いずに水で30秒間洗浄(条件2)、ハンドソー プを使用して30秒間洗浄(条件3)の3条件での 手洗い試験は40人全員が行い、これらの他に上 記の試験をふまえたうえで各自が考えた効果的 な手洗い方法での試験を行った。さらに、手洗 いを終えた受講生からヨード液に両手全体と手 首を5秒間浸した。ヨード液から手を出し、手 掌部、手背部、手首に呈色が見られるかどうか を確認した。呈色反応が有る場合、付着させた デンプンを手洗いで落としきれなかったことに なる。そこで、呈色反応がある者を不合格者、
呈色反応が無い者を合格者とした。また、それ ぞれの手洗い条件における合格者数を計数し、
合格率を求めた。不合格者を呈色反応の程度に より+(わずかに汚れていた)、++(中程度汚 れていた)、+++(かなり汚れていた)の3段階 に分類した。呈色反応の判定結果は手掌・手背・
指(手掌側)・指(手背側)・手首(手掌側)・
手首(手背側)の6つの部位ごとに行い、合格 率を計算した。
表1. 実験実施前アンケートの調査項目 調査項目(実験開始前アンケート)
Q1. 普段の手洗いで手指をきれいに洗うことができている と思いますか?
Q2. 調理をする前、手洗いをしていますか?
Q3. 外出先から帰宅したとき、手洗いをしていますか?
表2. 実験終了後アンケートの調査項目 調査項目(実験終了後アンケート)
Q1. 食品衛生学実験を受講してから「意識」の変化はあり ましたか?
Q2. 食品衛生学実験を受講してから「行動」の変化はあり ましたか?
Q3. 「手洗い試験」の内容はあなたの役に立ちそうですか?
Ⅲ.結果
1)実験開始前アンケートによる受講生の衛生 意識・行動調査
実験開始前にアンケート(表1)を実施した ところ、受講生すべてから回答が得られた。
まず、「普段の手洗いで手指をきれいに洗う ことができていると思いますか?」という問い に対して、“汚いと思う”が2.5%、“やや汚いと 思う”が7.5%、“どちらでもない”が32.5%、“き れいだと思う”が57.5%で、“とてもきれいだと 思う”と答えたものはいなかった(図1)。
また、「調理をする前、手洗いをしています か?」という問いに対しては、“水だけで手洗 いをしている”が12.5%、“せっけんを使って手 洗いをしている”が85.0%、“その他”が2.5%で、
“手洗いをしない”と答えたものはいなかった
(図2)。「外出先から帰宅したとき、手洗いを していますか?」という問いに対しては、“手 洗いをしない”が7.5%、“水だけで手洗いをして いる”が10.0%、“せっけんを使って手洗いをし ている”が82.5%だった(図2)。
2)ヨウ素デンプン反応による手指の呈色 ヨウ素デンプン反応を利用した手洗い試験の 判定結果を図3に示した。
普段の手洗い方法で行った手洗い試験の合 格率は、手掌で40.0%、手背で30.0%、指(手 掌側)で42.5%、指(手背側)で17.5%、手首
(手掌側)で20.0%、手首(手背側)で45.0%
となった(図3A)。ハンドソープを用いずに水 で30秒間洗浄したときの手洗い試験の合格率 は、手掌で10.0%、手背で10.0%、指(手掌側)
で25.0%、指(手背側)で0%、手首(手掌側)
で20.0%、手首(手背側)で32.5%となった(図 3B)。ハンドソープを用いて30秒間洗浄したと きの手洗い試験の合格率は、手掌で85.0%、
手背で52.5%、指(手掌側)で82.5%、指(手 背側)で25.0%、手首(手掌側)で60.0%、手 首(手背側)で65.0%となった(図3C)。上記 の試験結果をふまえ、各自が考えた効果的な 手洗い方法で行った手洗い試験の合格率は、
手掌で97.2%、手背で86.1%、指(手掌側)で
表3.ヨウ素デンプン反応を利用した手洗い試験の条件 手洗い方法
条件1(n=40) 各自が普段行っている手洗い方法 条件2(n=40) 30秒間洗浄(水で洗浄)
条件3(n=40) 30秒間洗浄(ハンドソープをした後、
水で洗浄)
条件4(n=36) 上記の試験をふまえて各自が考えた 効果的な手洗い法
図1. 実験開始前アンケート項目Q1に対する回答
図2. 実験開始前アンケート項目Q2およびQ3に対する回答
3)実験終了後アンケートによる受講生の衛生 意識・行動調査
実験終了後にアンケート(表2)を実施した ところ、受講生すべてから回答が得られた。
「食品衛生学実験を受講してから「意識」
の変化はありましたか?」という問いに対し て、“大きく変化した”が52.5%、“変化した”が 47.5%、“どちらでもない”、“あまり変化はな
い”、“受講前と何も変わらない”と答えたもの はいなかった(図4)。「食品衛生学実験を受講 してから「行動」の変化はありましたか?」
という問いに対しては、“大きく変化した”が 27.5%、“変化した”が67.5%、“どちらでもない”
が2.5%、“あまり変化はない”が2.5%、“受講前 と何も変わらない”と答えたものはいなかった
(図4)。
97.2%、指(手背側)で69.4%、手首(手掌側)
で91.7%、手首(手背側)で100.0%となった(図 3D)。
図3. ヨウ素デンプン反応を利用した手洗い試験の結果
(A)普段の手洗い (B)ハンドソープを用いずに水で30秒間洗浄
(C)ハンドソープを用いて30秒間洗浄 (D)各自が考えた効果的な手洗い方法
また、「『手洗い試験』の内容はあなたの役に 立ちそうですか?」という問いに対しては、“と ても役に立つ”が77.5%、“役に立つ”が22.5%、
“どちらでもない”、“あまり役に立たない”、“役 に立たない”と答えたものはいなかった(図5)。
Ⅳ.考察
本研究では、試験実施前後の受講生の衛生に 対する意識・行動変容の有無をアンケートによ り調査すると同時に、アンケートの結果とヨウ 素デンプン反応を利用した手洗い試験の結果を 照合することによって、教育効果の検証を行っ た。
まず、実験開始前に行ったアンケート調査の 結果、57.5%の受講生が普段の手洗いで手指を きれいに洗うことができていると感じているこ とが分かった。その理由として“せっけんを使っ
て洗っているから”、“丁寧に洗っているから”
といったものが多く挙げられ、普段の手洗いを 適切に行っていると感じている受講生が多いこ とがわかった。
また、「調理をする前、手洗いをしています か?」「外出先から帰宅したとき、手洗いをし ていますか?」という問いに対しては、共通 して80%以上の受講生から“せっけんを使って 手洗いをしている”と回答があり、せっけんを 使った手洗い習慣のある受講生が多いこともわ かった。その一方、“そこまで汚いと思わない から”“あまり気にしないから”といった理由か らせっけんを使わずに手洗いをする受講生も 10%程度いることがわかり、食品衛生学実験受 講前は、衛生意識が高い受講生ばかりではない ということが示唆された。
その後行ったヨウ素デンプン反応を利用した 手洗い試験において、まず普段実際に行ってい る手洗い方法(表3 条件1)で手洗い試験を行っ たところ、図3Aに示した通り合格率はすべて の部位において50%以下であった。次に、ハ ンドソープを用いずに水で30秒間洗浄(表3 条 件2)、ハンドソープを使用して30秒間洗浄(表 3 条件3)という2つの条件で試験を行い、昨年 本紀要で報告した結果3)同様、せっけん使用の 有無が合格率に大きくかかわることが示唆され た。その結果を受講生が比較することによっ て、効果的に手の汚れを落とすにはどのような 方法で手洗いをすべきか各自考えることができ た。また、昨年と同様3)せっけんを使っていて も爪部分の汚れを落とすのが難しいという結果 が示された。先行研究においても爪部分は汚れ を除去するのが難しいといわれており4,5)、爪部 分の汚れを落とすために、爪ブラシを使用する ことが効果的だという報告がある6)。最後にこ れらの結果をふまえ、受講生各自が考えた効果 的な手洗い方法(表3 条件4)での試験を行っ
図4. 実験終了後アンケート項目Q1およびQ2に対する回答
図5. 実験終了後アンケート項目Q3に対する回答
た。合格率が低い部位でも69.4%の受講生が合 格し、ほとんどの部位で90%以上の合格率と なった。これは、受講生が、自分自身の手洗い の癖に気づいて手洗い方法を改善し、正しい手 洗い技法を習得できた結果といえる。合格者の 中には、前述した対照実験において爪ブラシを 使用することの大切さを実感し、爪ブラシを使 用しながら60秒間以上手洗いをした受講生も多 数いた。
さらに、実験終了後にアンケート調査(表2)
を行ったところ100%の受講生が、食品衛生学 実験受講後に意識が“大きく変化した”または
“変化した”と回答しており、本試験が受講生の 衛生意識の向上に貢献できたことが分かった。
また、95%の学生が、食品衛生学実験受講後に 行動が“大きく変化した”または“変化した”と回 答しており、手洗い試験の実施により、意識の 変化だけでなく行動変容を起こすことができた ことが示唆された。具体的には、“帰宅後や調 理前など今までよりも丁寧に時間をかけて手を 洗うようになった”“爪部分をしっかりと洗うよ うになった”などという行動変容につながった ようだ。本試験では、すべての学生の手洗い方 法が合格率100%に達するまでの成果は得られ なかったため、次年度以降も継続して受講生の 衛生意識を高めることができる実験内容の考案 が求められる。
Ⅴ.結論
ヨウ素デンプン反応を利用した手洗い試験に より、受講生に手洗いの大切さを実感させると 同時により効果的な手洗いの方法を考え実践さ せることができた。また実験を通して、学生の 衛生意識を高めるだけでなく、行動変容を起こ すほどの効果を上げることができた。本試験の 内容を含む食品衛生学実験を受講した学生が、
将来、管理栄養士として従事するとき、現場の
従事者の衛生意識を高める指導を行うことが期 待される。
利益相反
本研究においては利益相反に該当するものは ない。
文献
1 )文部科学省:学校給食調理場における手洗 いマニュアル(2008)
2 )少年写真新聞社「全国保健実験研修会」編:
保健実験大図鑑,pp.6-22(2004),少年写真新 聞社,東京
3 )三浦佳奈,佐塚正樹:衛生意識向上のため の手洗い試験とその教育効果,山形県立米沢 栄養大学『紀要』,5,25-28(2018)
4 )山口雅子,乗松貞子,林沙絵子:効果的な 手洗い指導法の検討,大学教育実践ジャーナ ル,4,9-16(2006)
5 )小田原涼子,前野さとみ,村田富美子,他:看 護師における効果的な手洗い方法の評価に関 する研究,環境感染,19(4),494-497(2004)
6 )諸橋京美,竹内奈生美,北里順,他:特定給食 施設における調理従事者等の手洗い方法の検 討,北海道文教大学研究紀要,34,81-85 (2010)