論 文
強磁性体におけるスピン波不純物準位
川部 健* 堀 悦男**
(昭和47年9月26日受理)
Spin Wave lmpurity Levels in a Ferromagnet Takeshi KAwABE and Etsuo HoRI
(Received September 26, 1972)
Localized spin waves due to a single substitutional ferromagnetic or antiferromagnetic impurity atom in a ferromagnet are studied by the two−time Green function method. The localized spin wave modes emerge above the spin wave band and do also below it for the antiferromanetic impurity. Their energy levels are expressed as a function of J7J and 〈S 2> / 〈S2> through ari extended Watson integral, where the primes refer to the impurity atom. The temperature−effects of the loca1ized levels are also discussed.
1 緒 書
純粋な結晶の中に1個の不純物原子が含まれている系の 格子振動には,連続なエネルギースペクトルの他に,不連 続なエネルギースペクトルが現われる。不純物原子のまわ りの局所状態を摂勤として,これを最初に理論的に明らか にしたのはLifshitz 1)である。その後これに類似した問題 として,不純物が金属中の伝導電子のエネルギースペクト ルに与える影響や2),磁性体におけるンピン波不純物状態 の問題が明らかにされるようになった。後者については
Wolfram, Calloway3)や, Takeno4)が強磁性体の中にまわ
りの原子スピンと強磁性的に結合する不純物原子を含む系 のスピン波不純物状態を調べている。さらに同様な母体の 中に反強磁性的に結合する不純物原子を含む系については Ishii等5)によって調べられ,;著者くKawabe)もこの場合の詳細な数値解析を行なっている6)。
ここでは強磁性体の中に1個の不純物原子(母体と強磁 性的に結合する場合と,母体と反強磁性的に結合する場合 を含む)を含む系のスピン波不純物状態を,2時間グリー
ン関数の方法を用いて統一的に記述し,従来の絶対零度で の議論を有限温度まで拡張できることを示す。なお強磁性 不純物によるs型局在波についてはHone等が有限温度に
おける研究を行なっている7)。
*非常勤講師(岡山大学理学部)
**本校一般物理
2グリーン関数と不純物準位
不純物を含む系を考える前に純粋な強磁性体の系のグリ
ーー投ヨ数を求めておく。純粋な強磁性体のスピン系のハミ ルトニアンを次のように与える。
π・=一碧ノiisi ・si・ (1)
(1)においてSi, Sゴはそれぞれゴ番目,ブ番目の格子点に ある原子のスピンオペレーーター,ノゴ はそれらの間に作用 するスピン間の交換結合の大きさである。
2時間グリーーン関数の定義を
GOIm(t−tノ)…≡≡〈Sl+(の;Sm一(ガ)〉 (2)
で与え,Tyablikov decoupling<S〆Sノ+;Sガ》→〈5〆>
x〈Sゴ+;Sm一〉を用いて,時間からエネルギーωにフーリ エ変換されたグリーン関数を求めると
隙課爵・} r)
で与えられる。(3)式においてkについての和は第1ブリ
ルアン領域についてとられる。また,ノ。,κ=1(0)一ノ(k),
ただし
」(k)一=Jodeikd. . (4)
A
・itについての和は最近接格子点に関する和である。
次に原点0にスピンSノをもつ不純物原子が含まれている 系について考える。この系のハミルトニアンは
一 261 一
X=X,一2Σノ o Sち・Si十2Σ1,iS』 Si, (5)
i i
と書ける。ノ 。i>0は不純物原子が母体の原子と強磁性的 に結合していることを,ノ oi<0は反強磁性的に結合して いることを示す。弱い摂動がある時のグリーン関数は次の Dyson方程式に従うことが知られている。
Gl.rGOI.十Z GaliVil・ Gi.. (6)
∫ノ
GOImは既に(3)式に求められた純粋な系のグリーン関数で ある。以後の記述を簡単にするために,GO, Gを<sz>/π で割り,Vに<S2>/πを掛けて,それらを改めてGe・G. V と定義する。交換相互作用は最近接格子点の問にのみ働く と仮定し,ハミルトニアン(5)式をもとに不純物を含む系 のグリーン関数を求め,(6)式と比較すればγの行列要素 を得ることができる。結果は次のようになる。
篠射レ⑦
ただし,<SiZ>=〈sz>=σσ≒0),〈Soε〉=♂とおいた。
また,JOA=∫,.1 OA=ノt. 2は最近接格子点の数である。(7)
に示された以外のVの行列要素は0になる。不純物原子が 強磁性的なときはJ ,σ >0であり,反強磁性的なときは
■,dぐ0であることを注意しておく。ここで結晶構造と
して単純立方格子を仮定し,(7)を用いて(6)式を具体的に 表わすと,
・・。一G・・m+・2・(アー川…脚一壱(・・1,・・+σ・1一・・
+GOI .OIO+GOi .e−iO+GOI,OO1+GOI,OO−1)}Go,m −2(σ7Lσ川(GoムOoo−Goム100)GIOo,m+(Gol,ooo
−GOt ,一ioo) G−ioo,m 一1 (GOi , ooo−GOi .oio) Goio,m
+(GOi,ooo GOI,一io)Go−io,m+(GOi,ooe−GOi,ooi)
Gooi,m十(GOi,oee−GOi,oo−i)Goon ;m}. (8)
ここでGOI,IOOにおける100等は格子間隔を単位にとってそ の位置の指数を示した。
GOImをその指数によってGOIx−nx , ly 一一my , le−Maと表
わせば結晶の対称性からGenoo = GO−noo=GOono= ・・ =:GOoo−n,
GOnn o = GOn−n e == GOnon == = GOn o−n ,
等の関係が成り立つことは容易に示すことができる。また スピシ波不純物状態を仮定すれば,そのエネルギーωをも つGO(ω)はC(ω)に比べて無視できる。これらのことに注
意して(8)式をGOO。Jm, Gioo,m, G−loo,me Goio,m, Go−iO,m,
GOOi,m, Geo−i,mについて解く。この目的のために(8)式
で1について原点及び6個のその最近接格子点に対応する 7個の方程式を書けばこれから解が得られる。上記のグリ ーン関数が0でない意味のある解をもつ条件として,次の7次元行列式が0でなければならない。
DEi1
ただし
β
βεεεεδ 一 1β βεεεε㎝δ
1 ββεεδ一εε
1 εβεε﹇δεε
1β
βδ εεεε 1 ββ一δεεεε 1 ㍊γγ・γγγ
1
a=12cr(/ 一」)(GOooo−GOiee),
β綴2(atノ 一σノ)(GOOOO−GO100),
7一・2・(■一・){壱(・…+・・2・・+・G・・1・)
一GOIoo} ,
6=:: 2 (a7 一aJ) (GOIoomGO200) , e= 2 (a7 一aJ) (GOIoo−GOne) ,
(9)
(10)
を用いた。(9)式は計算は少し面倒であるが,次の形に因
数分解される。
D一 {(1−a) (1一一B+6+ 48) 一6B7} (1−B−8)3
×(1一一B+6−28)2. (11)
33種類の局在スピン波
原点および6個のそのまわりの格子点におけるグリーン 関数が解をもつ条件として,D=0でなければならないこ とを前の節で示したが,(11)式の右辺から次のような3種 類の異なった形の解が得られることがわかる。
(1一α)(1一β+δ+4ε)一6βγ=0, (12a)
1−3−S== O, (12b)
1−B+S−2e=O. (12c)
この節ではこれらの解がもつ物理的な意味について調べる が,その前にGOImnについて成り立つ関係式およびexte−
nded Watson integral Ilmn(pa)との関係を求めておく。
結晶の対称性を考慮すれば,(3)式より次の恒等式
GOioo =iitliii. +(1 iltii}ir.GOeoo, (13)
GOioo 一 ilfi (GOooo + GO200 + 4GOiio) == iit}.GOioo , (14)
が成り立つことは容易に示すことができる。一方,単純立
方格子におけるextended Watson integral Ilmn(μ)は次の ように定義される。
あ
Ilmn(・)噛∫∫∫ coslx cosmy cosnx
。吉一9(…x+・…+・…)
O$ pa :1{ 1 .
dxdyd2,
(15)
この積分の数値計算および解析的性質はすでに詳しく調べ
られている8)一一10)。この積分とグリーン関数GOImnの関係
を求めれば次のようになる。強磁性体におけるスピン波不純物準位
臨1}1匙ω }(・6)
μ=1はスピン波エネルギーバンドの上限に対応し,μが 小さくなるに従ってωは大きくなり,μ=0はω→D。に対
応する。
(i)s型局在波
まず,(12a)式だけが満たされる場合について,もとの 7個のグリーン関数の方程式を解くと,
Gioo==G−ioo==Goio==Go−io=Gooi=Goo−i, (17)
が得られる。この平なスピン波励起はs型局在波と呼ばれ る。(12a)をもとの記号で書き改めれば,
1+(ξη一1)ωGoi⑪o+12σノ(1一η)(Goooo−Goloo)=O,(18)
ただし,ξ=σノ/σ,η=ノγノとおき,恒等式(14)を用い た。さらに,(13),(16)式を用いれば,
…(・)一、一1銘導錦上1呈1男〉。, (・9)
が得られる。この関係式からs型局在波のエネルギ・一一・t・は μを通してσt/σ,∫ /ノの関数として求めることができる。
ここで注目すべきことは,反強磁性的な不純物を含む場合 にはω〈0の短域(物理的にはω>0はスピンの回転が ω♪0の場合に比べて一向きになっており,エネルギーと
してはその絶対値をとると理解すればよい)にもs型局在 波が現われるということである。ω≦0のときはμ≦一1
であり,(15)式からIooo(一μ)=一1000(μ)の関係があるの で((15)式は形式的には0≦1μ1≦1で定義できる),(19)
式でμを一μとおくことにより,
1・・(・)一、一ll三1砦奪赤1警;)。、 (・・)
が得られる。この場合にξ,η〈0であることに注意してお こう。(20)式に従ってωぐ0の領域に現われる局在スピン 波を特にsO局在波と呼び,スピン波バンドの上に現われ る局在スピン波をs1局在波として,これと区別する。
(ii).P型局在波
つぎに,(12b)式が成り立つ場合に.は,7個の方程式か
ら解として,
Gooo=O,Gioo=一G−ieo,Goio=一Go−io,Gooi==一Coo−i (21)
が得られる。これは,
Geoo == O, Gioo == HG−ioo,Goio == Go−io=Gooi == Goo−i=O (22)
および同様な2種類のスピン波励起の重ね合わせで作られ,
P型局在波と呼ばれる。この状態は3重に縮退している。
(12b)式を書き改めると,
i 一一il一 (gn−i) (iooo (pa) 一i200 (ib))一 o. (23)
この式からp型局在波のエネルギースペクトルを♂/σ,
ノ /ノの関数として求めることができる。
(iii) d型局在波
最後に,(12c)式が成り立つ時,
Gooo=e, Gioo ==G−ieo, Goie==Go−io, Geoi=Goo−i,
Gieo十Goio十Gooi==O (24)
が解として得られるが,これは
Gooo==:O,Gioo G−ioo=一Goio =一Go−ie,Gooi =Goo−i (25)
および(25)と同様な解の重ね合わせとして求められる。
(25)はd型局在波と呼ばれ,2重に縮退している。(12c)式
は
1 一e(gn−1)(leoo(lt)+1200(pa)一21no(p))=o (26)
と書き改められ,この式からd型局在波のエネルギースペ クトルを求めることができる。
反強磁性不純物を含む系では(i)で調べたようにスピン 波バンドの下にs型局在波が現われるが,(23),(26)式か
らこの領域にp型,d型局在波が現われることはない。μ
〜1における近似式11)
3ゾ5
11mn (sh) == llmn(1) 一
Vfi. 十〇(1−pa) (27)
ゾ2π
を用いれば,スピン波バンドのすぐ上ではs型,s1型, p 型,d型局在波のエネルギーは
憂=:=:;二;:;: }(28)
で表わされる。ただし,E篇ω/12」σ(従ってE・=2はスピ ン波バンドの上限)であり,η。,ξaはそれぞれの局在波が
バンドの上端に現われる時のノ /ノおよびσ /σの値である。
また,スピン波バンドのすぐ下では,sO型局在波のエネル ギーはξに無関係に
E=in
で表わされる。(19),)(20),(23),(26)式から数値解析に
より得られた結果をFig.1〜Fig.4に示しておく。.E
4
3
彗#7 ξ・5
ξニユ 〜二1
S:O.2
2 0 ! 2 3 を る
Fig.1 Reduced energies of spin wave i皿purity levels for s一 like mode (ferromagnetic impurity).
一 263 一
6E
4
2 o
一2
一4
一6
g一一一一7
葦=一5
SP1鯉 WハレE BAハ∫D
2 牟 6 8・ σ一塁
e=一〇2 ξ畠『1
g=一7
}=一5
Fig.2 Reduced energies of spin wave impurity levels for sl一 and sO一1ike modes (antiferromagnetic impurity),. The former appears above the spin wave band and the latter below it. Absolute values of E should be taken for the energies.
最後に,これらの局在波がスピン波バンドの上または下 に現われる境界条件を求めておく。(19)式より,強磁性不 純物を含む系のs型局在波および反強磁性不純物を含む系 のs1型局在波に対してそれぞれ
3,937
rp}一ll−
≠撃煤Gg6gTl 968,
・≦,鷺8,
(g, op>o)
(g, n〈o)
(30亜目
(30b)
が得られる。sO型局在波は回が十分大きい領域を除 いてスピン波バンドの上限付近で常に存在する。p型局在 波,d型局在波の場合には,(23),(26)式より不純物の種 類の如何にかかわらず,その境界条件がそれぞれ次式で与
えられる。
g q ;;1 5,765,
gnk6.398.
(31)
(32)
Fig・5は上の結果を示したものであり,各々の曲線の上 側がそれらの局在波が存在する領域である。
E
3
2 Q5 1
p
d1引昌7
p
d
邸言5
1gl=2 iP
d
2 3 4叩
Fig.3 Reduced energies of spin wave impurity levels for p−and d−like modes. They are the same for both cases of a ferromagnetic and an antiferro−
rnagnetic impurities.
ーマ ー
6
5
4
3
2
1 s
p d
4 E
lgl 一3
P d
z
.E
S1
3 so
s
st
狽煤@3 − 51nf 60
Fig.4 Reduced energies of spin wave impurity levels fdr all modes appearing for a ferromagnetic and an antiferromagnetic ・impurities.
OM. e6 3 g s 6 11
Fig.5 Boundary curves for s一, p一, d一 and sl−like modes appearing outside of the spin wave band.
Each localized mode appears above its bounda−
ry curve.
4 有限温度における振舞
σ,σ は絶対零度ではそれぞれS,S という値をもつ が,温度の上昇とともに減少していく関数である,Jtが小 さいとき不純物の磁化あるいはσ が分子場近似で実験結果
(FeMn:Mn 1.5%含有)を非常によく説明できることを Jaccarino等が報告している12)。そこで前節までのスピン 波不純物準位をσt/σを通して温度の関数として調べてみ
る。
σはグリーン関数(3)について不ベクトル定理を用いれ ば,T5/2の項までスピン波近似と一致する結果が次のよう
強磁性体におけるスピン波不純物準位
に得られる。
a=s一 g(g) t3/2一一gZ f g (g) ts/2.
(33)
ただし,t=kBT/8πS1。また,♂については分子場近似に
より,
σ =S Bsノ(12ノノσSノ/kBT)
(34)
で与えられる。Bs はBrillouin関数である。(33),(34)式
よりσ /σが温度の関数として求められ,従ってこれらを3節で得られた結果に用いれば,s型, P型, d型スピン 局在波エネルギーが温度の関数として計算できる。
5 結 言
ここで取り扱った系のスピン波不純物準位は既に研究さ れている3)〜5)が,ここでは不純物が強磁性原子,反強磁性 原子の場合を統一的に,しかもスピンオペレーターのまま 取り扱った。さらにスピン局在波についてグリーン関数に 最初からs型,p型, d型局在波としての条件を与えるこ とをせず,忠実にグリーン関数に関する7次元行列式を解 き,その解からこれらの局在波を導いた。結果は既に得ら れているものと変わらないが,その数値解析は,詳細に調 べられているextended Watson integralを用いているので 正確である。また,スピン波バンドのすぐ上における局在
波エネルギーのE−2・・c(η一ηo)2,E−2・〉⊂(ξ一ξO)2等の依
存性は,この積分の解析的性質から導かれる。スピン波バンドのすぐ下におけるsO型局在波のエネルギーがξに関係 せずE29ηであることは,ηすなわちノγノが十分小さく ても常に局在波が現われるということであり,注目すべき ことである。局在波の温度依存性についてその定式化を行 なうにとどまったが,数値計算による結果は今後の論文と
して発表したい。
References
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一 265 一