Ⅰ.はじめに
思春期・青年期における自己肯定感の重要性はこ れまで多くの研究によって示されてきている。松井・
佐藤(18)や松井(17)は、中学生の学校適応と進路(キャ リア)成熟、自己肯定感との関係を検討し、中学生の 自己肯定感を高めることは、学校生活への適応促進 につながるということを指摘している。粟谷・本間(3)は、
思春期の子どもを対象に自己肯定感に影響を及ぼす 要因を検討し、学校における友人関係、進路につい ての意識、家族との会話や手伝いの影響が大きいこ とを指摘している。また、久芳・竹村(16)および久芳・
齊藤・小林(10)(11)(12)は、それぞれ小・中・高校生 を対象として、自己肯定感と人とのかかわりの関連に ついて検討し、人とのかかわりが良好である方が自 己肯定感が高いことを示している。
本研究では、自己肯定感を「自分自身のあり方を 肯定する気持ちであり、自分のことを好きである気持 ち」(高垣(23))と捉えることとする。自己肯定感の類似 概念として、自己受容性、自尊感情があると考えられ る。自己受容性は、従来、個人の自己実現に必要 な一要因として位置づけられ(伊藤(4))、「ありのまま の自己を客観的に認知し、全体的に肯定する」ことで あるとされている。さらに、認知された自己の領域とし て、身体的側面、精神的側面、社会的側面、役割
的側面、全体的側面の5領域を設定する(沢崎(19)) ほか、自己の多次元性が指摘されている。また、自 尊感情は「自己概念に含まれている情報を評価するこ とであって、今の自分に関するすべての事柄につい て自分が抱えている感情から出てくるもの」(アリスW.
ポープら(1))であり、この自尊感情は、本人について の客観的情報とその情報に基づいて本人が行う主観 的評価の組み合わせによって構成されており、「知覚 された自己」と「理想の自己」の2つの面から検討する ことができるとされている。加えて、子どもの場合は、
社会、学業、家庭、身体イメージ、全般的自尊感情 という5領域から捉えるが有益だとされる。
一定以上の自己評価が求められる点で自尊感情が
「西欧的な自己肯定感」と指摘されるのに対し、自己 肯定感は、「日本的な自己肯定感」とされている。また、 多次元性を想定する自己受容性や自尊感情とは異な り、自己のあり方を包括的に肯定する感情と捉えられ るため、本研究では、自己肯定感という概念を用いる こととした。
椛島(8)は、社会学の立場から、現代社会の変容 に伴い女性の生き方が変化し、過剰なほど「自己実 現」へ追いつめられており、そのことが自己肯定感・
セルフエスティームに影響を及ぼしていると述べてい る。伊藤(5)は、女子における性受容は男子と比較し、
思春期以降急激に低下することを明らかにしている。
中学生 の 自己肯定感 と 性受容 に 関 する 研究
―社会的性意識と父母像との関連―
A Study of Sense of Self-Affirmation and Acceptance of Sex and Gender among Junior High School Students:
Relationship between Gender Consciousness and Image of Father/Mother キーワード:自己肯定感、性受容、社会的性意識、父母像、中学生
久芳 美恵子 齊藤 真沙美* 小林 正幸**
*世田谷区教育相談室 **東京学芸大学教職大学院
また、伊藤(7)は、女子青年を対象に、自尊感情およ び身体満足度と性同一性との関連を検討し、自尊感 情には、自己の性の受容が関連していることを見出し ている。鈴木・伊藤(20)(21)は、小学生から大学生ま での女子を対象に女性性受容と摂食障害傾向につ いて検討し、中学生以上において、女性性受容の低 さが自尊感情に作用して摂食障害傾向をもたらすとい う過程が考えられるとしている。尚、本研究において は「性受容」を鈴木・伊藤(20)を参考に「女性/男性 であることの性的、身体的および社会的レベルでの 受容」と捉えることとする。
先述の伊藤(7)の研究においては、性同一性は「父 への信頼」「母への同一視」「ステレオタイプ的な 性役割への同調」「性的成熟への戸惑い」「性の非 受容」から構成されるとしている。これは本研究で扱う
「性受容」を包括する概念であるといえる。「性の非 受容」が本研究の「性受容」を逆の立場から捉えた 同一概念であるとするならば、性役割や母親/父親 像を関連する要因として捉えていく必要があると考え られる。また、自尊感情と関連のある要因として、性 受容のほかに、母親への同一視や両親の良好な関 係の認知も重要であるとし、母親を否定的にみること が、性の非受容につながると指摘している。青木(2) は、女子中学生を対象に面接調査を行い、性の受 容群の方が父親像が良好で、非受容群における父 親像は、「父親」という面からだけでなく、同一化対 象としての母親の夫という側面からも大きく影響を及ぼ していることを明らかにしている。さらに、母親像は「母
親」としてのあり方だけでなく、妻としてのあり方も同 一化の対象として重要な要素になるとしている。
青年期における発達課題として、自我同一性の確 立が挙げられるが、この自我同一性を考える上でも、 性の領域は欠かせないものといえる(伊藤(7)など)。こ れまでの研究においては、青年期女子を対象としたも のが多く、男子も調査対象とし、性別による差異を検 討したり、発達的観点を視野に入れて調査を行って いる研究はあまり見受けられない。久芳・齊藤・小 林(14)(15)は、小学生および高校生の男女を対象に、
自己肯定感と性受容、社会的性意識および母親/ 父親像の関連を検討した結果、男女ともに、性を受 容できていることが自己肯定感の高さに影響を及ぼし ていることを明らかにしている。しかし、関連要因も含 めてみていくと、性別や発達段階によって自己肯定感 に影響を与える諸要因やその影響力の程度は異なる ことが確認されている。
これまで述べてきた先行研究を踏まえ、本研究にお
いてはFigure 1のような仮説を立てた。社会的性意識
(「性役割」と類似の概念であるが、「役割」に限定 せず、より広義の「性に対する意識」を扱うため、本 研究においては「性意識」という言葉を用いる)および 父母像が、性受容に影響を及ぼし(①,②)、性受 容が自己肯定感に影響を与える(③)。社会的性意 識と父母像は自己肯定感に直接的にも影響を及ぼす
(④,⑤)。社会的性意識と父母像は相互に影響を 与えあっている(⑥)。
本研究では、中学生男女を対象とし、自己肯定感、
Figure 1 自己肯定感と性受容、社会的性意識、父母像の関連(仮説モデル)
性受容、社会的性意識、母親/父親像を調査し、 以下の2点を検討することを目的とする。
①性受容と社会的性意識、母親/父親像の学年 差を検討する。
②自己肯定感と性受容、および社会的性意識、
母親/父親像の関連について、仮説モデルを 検証する。
Ⅱ.方法 1.対象
東京都、神奈川県、石川県、栃木県の、公立中 学校2校、国立中学校1校、私立中学校1校に通う 中学生男子、女子(中1~中3)、およびガールスカ ウトに所属する中学生女子(中1~中3)、計1799名
(中1:632名、中2:536名、中3:631名)。学年別、
性別の構成は、Table 1に示した通りである。
2.手続き
以下の4種類から構成される質問紙調査を実施し た。調査用紙は無記名で、学年と性別の記入を求め た。調査は、2009年7月~10月に実施した。
(1)自己肯定感尺度
自分自身をどの程度肯定的に捉えているかを測定 するために、自己に関する評価を求める尺度で、8項 目、4件法、1因子から成る(久芳ら(10)(11)(12)など)。
(2)性受容尺度
鈴木・伊藤(20)、伊藤(7)の研究を参考に久芳ら(13) が作成した被調査者が自分の性を性的、身体的およ び社会的レベルで受容している程度について回答を 求める尺度。女子用10項目、男子用8項目、4件法。
(3)社会的性意識尺度
鈴木・伊藤(20)、伊藤(7)の研究を参考に久芳ら(13)
が作成した被調査者の捉えている男女に振り分けら れた性への意識について回答を求める尺度。本研 究においては、自己の性受容により深く関連している と考えられる同性の性意識について回答を求めた。
女子用8項目、男子用10項目、4件法。
(4)母親像尺度、父親像尺度
青木(2)、柏木・高橋(9)および伊藤(7)を参考に久 芳ら(13)が作成した被調査者の親に対する認識につ いて回答を求める尺度。本研究においては、自己の 性受容により深く関連していると考えられる同性の親 に対する認識について回答を求めた。女子用、男子 用ともに8項目、4件法。
Ⅲ.結果と考察 1.尺度の検討
実施した質問紙を構成する4種類の尺度について 因子分析を行った。その際、分析の手法については 久芳ら(13)の研究における各尺度の分析を参考にし た。
(1)自己肯定感尺度(Table 2-1、Table 2-2) 女子、男子ともに8項目からなる質問紙に対する被 調査者の反応について、主成分分析を行った結果、
8項目、1因子が抽出された。
(2)性受容尺度(Table 3-1、Table 3-2)
女子の10項目からなる質問紙に対する被調査者 の反応について、プロマックス回転による主成分分 析を行った。負荷量の低い1項目を削除し、再度分 析を行った結果、9項目、3因子が抽出された。第1 因子は「中核的性受容・身体的満足」(以下、「中核 的・満足」、4項目)、第2因子は「母性的性受容」(3 項目)、第3因子は「身体的劣等感」(2項目)と命名 した。
男子の8項目からなる質問紙に対する被調査者の 反応について、プロマックス回転による主成分分析 を行った。負荷量の低い2項目を削除し、再度分析 を行った結果、6項目、3因子が抽出された。第1 因子は「身体的満足」(2項目)、第2因子は「中核的 性受容」(2項目)、第3因子は「身体的劣等感」(2 項目)と命名した。
Table 1 対象生徒の学年別・男女別構成
Table 2-1 中学生女子「自己肯定感」尺度の因子分析結果
Table 2-2 中学生男子「自己肯定感」尺度の因子分析結果
Table 3-1 中学生女子「性受容尺度」の因子分析結果
Table 3-2 中学生男子「性受容尺度」の因子分析結果
(3)社会的性意識尺度(Table 4-1、Table 4-2) 女子の8項目からなる質問紙に対する被調査者の 反応について、バリマックス回転による主成分分析 を行った。負荷量の低い1項目を削除し、再度分析 を行った結果、7項目、2因子が抽出された。第1 因子は「楽観的主婦志向」(4項目)、第2因子は「社 会進出」(3項目)と命名した。
男子の10項目からなる質問紙に対する被調査者 の反応について、バリマックス回転による主成分分 析を行った。負荷量の低い2項目を削除し、再度分 析を行った結果、8項目、2因子が抽出された。第1 因子は「ステレオタイプ的性意識」(6項目)、第2因 子は「家庭的性意識」(2項目)と命名した。
Table 4-1 中学生女子「社会的性意識尺度」の因子分析結果
Table 4-2 中学生男子「社会的性意識尺度」の因子分析結果
(4)母親像尺度・父親像尺度(Table 5-1、Table 5-2) 女子の8項目からなる質問紙に対する被調査者の 反応について、プロマックス回転による主成分分析 を行った結果、8項目、2因子が抽出された。第1 因子は「母親への同一視」(5項目)、第2因子は「妻 としての母親像」(3項目)と命名した。
男子の8項目からなる質問紙に対する被調査者の 反応について、主成分分析を行った。負荷量の低い
1項目を削除し、再度分析を行った結果、7項目、1 因子が抽出された。これをポジティブな父親像として 捉えることとする。
男女ともに、調査項目の差異はあるものの、高校生 を対象とした久芳ら(15)の尺度の構造と同一の結果 が得られた。
女子の性受容尺度は、小学生においては、「中核 的・母性的性受容」と「身体的満足」の2因子構造で
Table 5-1 中学生女子「母親像尺度」の因子分析結果
Table 5-2 中学生男子「父親像尺度」の因子分析結果
あったが(久芳ら(14))、中学生を対象とした本結果 では、調査項目の違いはあるものの、高校生の結果
(久芳ら(15))と同様の3因子構造が確認された。小 学生の時点では未分化であった性受容が中学生段 階で身体的・性的成熟に伴い、「母性的性受容」が 分化し、単独で因子を構成し、高校生まで同じ構造 で推移していると考えられる。また、小学生から中学 生に移行する段階で、「身体的劣等感」が「身体的 満足」とは異なる因子として抽出されており、この傾 向は、高校生段階まで続いていることも明らかになっ ている(久芳ら(15))。女子の場合、初潮に先駆けて 生理的に皮下脂肪が急増しはじめ、次第に丸みをお びた体型へと変化し、明らかに男子との間に体型の 差が生じる。鈴木・伊藤(20)は、中・高校生の女子 は、誰もが第二次性徴に伴う身体発達の認知に戸惑 い、混乱している状況にあり、身体面において自己 像をゆがめてとらえていると指摘している。本結果は、
これを裏付けるものになったといえるであろう。 男子の性受容尺度は、小学生において「中核的・
身体的満足」と「身体的劣等感」の2因子構造であっ たが(久芳ら(14))、中学生においては、項目数の違 いはあるものの高校生と同じ結果となり、「中核的・
身体的満足」が「身体的満足」と「中核的性受容」に 分化し、3因子構造となった。女子と比較すると男子 の方が第二次性徴の発現は遅いと考えられるが、女 子と同じように小学生から中学生にかけて性受容の 分化が促進し、その後高校生まで大きな変化は生じ ないと推測される。
ここで注目すべきは、男子は中学生以降に身体的 特徴とは異なる次元で、「中核的性受容」が抽出され ているのに比べ、女子においては、中学生以降に「身 体的満足」と「中核的性受容」が同一因子として抽 出されていることである。男子は、身体的特徴とは切 り離した次元で性受容の側面が確立される一方で、
第二次性徴以降、女子は両者を切り離して捉えるこ とは難しくなると推察される。これは前述のように女子 における身体的変化への混乱が著しく、そのことが性 受容そのものに大きな影響を及ぼす可能性が高いこと を示唆するものであるといえよう。
2. 性受容、社会的性意識、母親/父親像の学年 差の検討
性受容、社会的性意識、母親/父親像の学年差 を検討するために、各尺度の下位尺度得点を算出 した。それぞれの平均値と標準偏差はTable 6-1~
Table 6-6に示した。この各下位尺度得点を従属変
数として、1要因分散分析を行った。結果は、Table 7-1~Table 7-3に示した通りである。尚、有意な主 効果が確認されたものに関しては、Tukey LSD(等 分散が確認された場合)、またはDunettのC(等分 散が確認されなかった場合)を用いて多重比較を 行った。
(1)性受容尺度について
女子は「中核的・満足」において、中3<中1、「身 体的劣等感」においては、中1<中3という有意な学 年差が確認された。鈴木・伊藤(20)は、女性性受容 における「母性」・「身体受容」・「中核的受容」を含 む「積極的女性性受容」は年齢とともに高くなる傾向 がみられるとしている。しかし、中学生を対象とした 本結果においては、「中核的・満足」と「身体的劣等 感」においては、これとは異なる傾向が認められ、「母 性的性受容」では有意な学年差は確認されなかっ た。先行研究においては、小・中・高・大の校種別 の比較を行っており、学年差は検討されていないた め、本結果と単純に比較することは難しく、発達に伴 う変化をより詳細に検討する必要があると考えられる。
伊藤(6)は性同一性の発達過程を記述するなかで、
青年期における性同一性の形成には2つの相がある としており、第1の相は青年前期で、急速な身体発
達と性的成熟を契機に自己像が不安定になり、性同 一性の身体的側面における危機が訪れると考えてい る。また、東京都幼・小・中・高・心障性教育研究 会(24)の調査によれば、男女ともに性を受容している 者の割合が小学校高学年から急激に減り始め、特 に女子においては中2で4割を切る結果となっている。 また、鈴木・伊藤(20)は、小学校5,6年生から中学2,3
年生にかけて女子の自尊感情は著しく低下し、高校 生段階までほぼそのままで、大学になると回復すると 述べている。本研究結果もこれを支持するものとなっ たといえる。
一方、男子においては、いずれも有意な学年差は 認められなかった。前述の東京都幼・小・中・高・
心障性教育研究会(24)の調査によれば、男子におい ても、性を受容している者の割合は小学校高学年か ら急激に減り始めるとしているが、その後も急激に低 下する女子と比較し、男子は大きな変化はなく推移し ている。そのため、中学生男子を対象とした本研究に おいては、学年差が確認されなかったと推察される。
(2)社会的性意識尺度について
女子は「社会進出」において、中1・中2<中3とい う有意な学年差が確認された。「楽観的主婦志向」
においては有意差が認められなかった。伊藤(7)は、
女子におけるストレオタイプ的な性役割の同調は中 3で強まり、周囲からの期待に敏感になるとしている。 本研究における「楽観的主婦志向」がステレオタイ プ的な性役割であると考えると、これは先行研究とは
異なる結果を示している。このことには尺度の構成の 相違も少なからず影響を及ぼしていると考えられる。
つまり、先行研究における「ステレオタイプな性役割 への同調」は、性同一性を構成する1因子として抽出 されており、同性だけでなく、異性に対する性役割も 含めて、その傾向を見出しているのに対し、本研究 では同性についての性意識に焦点を当てて回答を求 めているのである。一方で、「社会進出」の性意識は、
中3において高まっており、進路選択が目前の重要 な課題となる時期であることが、このことに影響を及ぼ していると推測される。
一方、男子は「ステレオタイプ的性意識」におい て、中1<中2という有意な学年差が認められた。男 子においては、小学生段階では小4・小5<小6とい う学年差が確認され(久芳ら(14))、高校生において は有意な差は認められていない(久芳ら(15))。本結 果からだけでは、学年差の要因を検討することは難 しいが、第二次性徴の発現、進路への意識などに 関連がある可能性も考えられる。この点に関してはよ り詳細な検討が望まれる。
Table 6-1 女子の性受容の平均値・標準偏差
Table 6-2 男子の性受容の平均値・標準偏差
(3)母親像尺度、父親像尺度について
女子では有意な学年差は確認されなかったが、
男子では中3・中2<中1という有意な学年差が認め られた。伊藤(7)は、女子の父親像、母親像とも、中 1から中3にかけて一度低下し、高2になると回復し、 大学でさらに肯定的になるとしている。久芳ら(14)の 研究によれば、小学生女子においては、小6<小4
という有意な学年差が確認されているが、中学生段 階では先行研究が示しているような学年差は確認さ れなかった。一方で、男子においては、これと合致 するような傾向が見出された。小学生、高校生の結 果と単純に比較することはできないため、今後は縦断 的な研究が不可欠であるといえる。
Table 6-3 女子の社会的性意識の平均値・標準偏差
Table 6-4 男子の社会的性意識の平均値・標準偏差
Table 6-5 女子の母親像の平均値・標準偏差
Table 6-6 男子の父親像の平均値・標準偏差
3. 自己肯定感と性受容、社会的性意識、母親/
父親像の関連
各尺度の因子得点を算出し、自己肯定感と性受 容、社会的性意識、母親/父親像の関連を検討す るため、仮説モデルに基づきパス図を作成し、パス 解析を行った。結果はFigure 2-1、Figure 2-2に示し た通りである(女子: R2=.29, p<.001, 男子: R2=.32, p<.001)。
(1)女子について
①パス解析の結果(Figure 2-1)
女子の性受容尺度の「中核的・満足」、「母性的 性受容」は自己肯定感に影響を及ぼし、「身体的劣
等感」は自己肯定感に負の影響を及ぼしていることが 確認された。社会的性意識尺度の「社会進出」は性 受容尺度の「中核的・満足」と「身体的劣等感」に影 響を及ぼしているとともに、自己肯定感に直接的にも 影響を及ぼしていた。「楽観的主婦志向」は「中核的・
満足」、「母性的性受容」、「身体的劣等感」に影響 を及ぼしているともに自己肯定感に直接的に負の影 響を及ぼしているという結果となった。母親像尺度の
「母親への同一視」は「中核的・満足」と「身体的劣 等感」への影響が認められた。「妻としての母親像」
は「中核的・満足」、「母性的性受容」に影響を及ぼ しているとともに、自己肯定感に直接的にも影響を及
Table 7-1 性受容の学年差の分散分析・多重比較結果
Table 7-2 社会的性意識の学年差の分散分析・多重比較結果
Table 7-3 母親像・父親像の学年差の分散分析・多重比較結果
ぼしていることが確認された。また、母親像尺度の「母 親への同一視」と「妻としての母親像」、「社会進出」
と「母親への同一視」および「妻としての母親像」の それぞれに有意な相関が見出された。
②性受容との関連
先行研究同様、中学生においても、性を受容でき ていることが自己肯定感の獲得に影響を及ぼすという 結果が得られた。特に、「中核的・満足」の影響は 大きいといえる。鈴木・伊藤(20)は、「身体的満足」と「自 尊感情」との間には高い相関があることを指摘してい る。また、中学生以上においては、「積極的性受容」
が「自尊感情」に影響を与えるということも示している。 鈴木・伊藤(21)は、中学生では「母性」が「自尊感情」
に影響を及ぼしていることを明らかにしている。本結 果もこれを支持するものであるといえる。
③社会的性意識との関連
「楽観的主婦志向」「社会進出」のどちらの社会的
性意識も、性受容の各因子を介して、または直接的 に自己肯定感に相反する正負双方の影響が認められ た。これは、いずれの性意識も高い方が自己肯定感 を高めるという小学生の結果とは異なるものであり(久 芳ら(14))、高校生の結果とは類似することから(久芳 ら(15))、この傾向は中学生段階によって発現する特 徴であると推察される。どちらの性意識も「身体的劣 等感」を介して自己肯定感に負の影響を与えているこ とは高校生の結果と一致するが、「社会進出」が「中
核的・満足」に影響を与え、「楽観的主婦志向」が 直接的に自己肯定感に負の影響を与えていることは、
高校生との違いであり、特筆すべき中学生特有の結 果といえる。前者は、小学生の結果では認められた ものであるため、本結果は小学生、高校生の特徴を 併せ持っていると考えられ、中間的段階に位置し、よ り混沌とした複雑な構造を呈しているといえる。
鈴木・伊藤(20)によれば、大学生女子では、「“楽”
Figure 2-1 自己肯定感と性受容、社会的性意識、母親像の関連(女子)
Figure 2-2 自己肯定感と性受容、社会的性意識、父親像の関連(男子)
で“得”」という伝統的な性役割を引き受けることが自 尊感情を高められないことに影響を及ぼすとしている。 また、鈴木・高橋(22)は、“仕事か家庭か”という二
者択一の生き方ではなく、“仕事も家庭も”両立させよ うとする、自立的な女性像を象徴している群では、社 会的立場としての女性性を受け入れられないことから 生まれてくる葛藤が自己に与える影響は大きいと指摘 している。つまり、伝統的な性意識においても、社会 進出を求める性意識においても、その社会的性意識 が高いことにより、自己概念に葛藤が生じやすくなり、 それが正の影響だけでなく、相反する負の影響として も表れていると考えられる。本結果から、その一端は、
中学生の年齢段階からも確認できるといえよう。
④母親像との関連
伊藤(7)は、青年期女子の自尊感情には両親の良 好な関係の認知と父親への信頼が関係し、母親へ 同一視できないことが性の非受容につながっている としている。「妻としての母親像」は、小学生、高校 生同様、これと合致する結果を示しているだけでなく、
「身体的劣等感」を低める形でも自己肯定感に間接 的に影響を及ぼしている。これは、両親の良好な関 係の認知および父親への信頼が、中学生において は特に重要な要因になることを意味している。一方で、
「母親への同一視」は自己肯定感への正の影響だ けでなく、「身体的劣等感」を介して負の影響も及ぼ しており、これは、小学生、高校生ではみられなかっ た結果である。伊藤(7)は母親に否定的で同一視の 対象とみなせないことが自己の身体像の否定につな がるとしているが、これとも異なる結果である。しかし、 ここで伊藤(7)のいう特徴が中3だけで確認されている ことを考慮すれば、中学生全体を対象とした本結果 においては、第二次反抗期における母親へのアンビ バレントな感情が影響しているとも考えることもできる だろう。
「社会進出」が「母親への同一視」および「妻とし ての母親像」のそれぞれに有意な相関があることも、 中学生にのみ見出された特徴である。伊藤(7)は、
父母に対する肯定的な評価は、ステレオタイプ的な 性役割の受容につながるとしているが、本結果にお いてはその傾向は認められず、いずれも「社会進出」
の性意識を高めることが明らかになった。
(2)男子について(Figure 2-2)
①パス解析の結果
男子の性受容尺度の「身体的満足」は自己肯定感 に影響を及ぼし、「身体的劣等感」は自己肯定感に 負の影響を及ぼしていることが確認された。社会的 性意識の「ステレオタイプ的性意識」は「身体的満 足」、「中核的性受容」、「身体的劣等感」に影響を 及ぼしているとともに自己肯定感に直接的にも影響を 及ぼしているという結果となった。「家庭的性意識」は
「身体的満足」、「身体的劣等感」に影響を与えてい るとともに自己肯定感に直接的に影響を与えていた。
父親像は「身体的満足」、「中核的性受容」に影響を 及ぼしているとともに、自己肯定感への直接的な影響 も認められた。また、父親像は、社会的性意識の「ス テレオタイプ的性意識」と「家庭的性意識」それぞれ と有意な相関があった。
②性受容との関連
「身体的満足」と「身体的劣等感」は自己肯定感に 影響を与えているものの、「中核的性受容」にはその 影響が認められないという結果は、小学生の結果(久 芳ら(14))から高校生の結果(久芳ら(15))へ移行する 途中の段階を示していると考えられる。「身体的満足」
の自己肯定感に与える影響が大きいことは、小学生か ら高校生まで共通してみられる特徴で、中学生男子 においても例外ではないことが明らかになった。しか し、男子においては、発達に伴って性受容が自己肯 定感に与える影響が減少していくという、女子とは明 らかに異なる特徴が認められるため、男子特有のこ
の特徴に関しては、今後より詳細な検討が望まれる。
③社会的性意識との関連
「ステレオタイプ的性意識」は「身体的満足」、「中 核的性受容」を高めると同時に「身体的劣等感」を高 める方向にも作用しており、これは小学生、中学生の 結果とも一致する。加えて中学生においては、直接 的にも自己肯定感に影響を及ぼしているという結果が 得られた。また、「家庭的性意識」が「身体的劣等感」
を介して自己肯定感に負の影響を及ぼしているのも、 中学生のみに見出された結果である。前述のように、 伊藤(6)は、青年期における性同一性の形成には2つ
の相があるとしている。第1は青年前期で、身体的 側面に危機が訪れ、第2は中・後期は、社会的側 面の危機で、性役割葛藤が急増するとしている。こ れを踏まえて考えるならば、社会的性意識が高いこと が「身体的劣等感」を高め、自己肯定感を低める方 向にも作用するという結果は、女子同様、性役割葛 藤が生じ始める時期であるとも考えらことができる。し かし、「ステレオタイプ的性意識」に関しては、小学 生段階でも、「身体的劣等感」への影響が確認され ているため(久芳ら(14))、これには、社会的な役割に おいてステレオタイプを求める意識が高いことが、身 体的にも「筋肉質でたくましい」というような男性像を求 めやすい傾向につながっているとも考えられる。その 結果、身体面への意識が高まり、身体的劣等感につ ながっているとも推測される。
④父親像との関連
「父親像」は、「身体的満足」と「中核的性受容」を 介して自己肯定感を高めているだけでなく、直接的に も自己肯定感に影響を及ぼしている。さらに、「身体 的劣等感」を低めることを介して自己肯定感に影響を 与えていることは、中学生にだけみられる結果である。 伊藤(5)は、女子が母親に対する評価と性受容との 関連で葛藤を抱きやすいのと比較し、男子は葛藤が 少ないとしているが、母親との夫婦関係も含めた父親 へのポジティブな評価は、女子だけでなく男子にとっ ても、非常に重要な要因であると考えられる。
Ⅳ.まとめ
本研究は、中学生男女を対象に、性受容と社会 的性意識、母親/父親像の学年差を検討した上で、
自己肯定感とそれぞれの関連を明らかにした。その 結果、女子では、中1で「中核的・身体的満足」が 高まり、中3で「身体的劣等感」が強くなることが確認 された。男子は有意差が確認されなかった。社会 的性意識については、女子で、「社会進出」が中3 で高く、男子では、ステレオタイプ的性意識が中2 で高くなることが明らかになった。女子の母親像に学 年差は認められず、男子の父親像は中1で最もポジ ティブな評価となった。
女子においては、すべての性受容因子が自己肯 定感に影響を及ぼし、男子においては、「身体的満 足」と「身体的劣等感」が影響しているという結果と なった。
女子においては、社会的性意識および母親像へ のポジティブな評価が強いことがそれぞれの性受容 を介して間接的に自己肯定感に影響を与え、「社会 進出」の性意識と「妻としての母親像」は、直接的に も影響を及ぼしていた。一方、社会的性意識および
「母親への同一視」には、「身体的劣等感」を介して、
「楽観的主婦志向」に関しては直接的にも、自己肯 定感を低める作用も見出された。
男子においては、社会的性意識と「父親像」がそ れぞれの性受容を介して間接的にも、直接的にも自 己肯定感に影響を与えていることが確認された。一 方、社会的性意識には、「身体的劣等感」を介して、
自己肯定感を低める作用も見出された。
本結果は男女それぞれにおいて、小学生、高校 生の結果の中間に位置する特徴をもっていると推測さ れ、発達的変化の様相を示唆するものと考えられる。
Ⅴ.今後の課題
本研究においては、これまで性受容に関する研究 では対象として扱われてこなかった男子も対象として 調査を行った。各尺度について、今後、信頼性およ び妥当性を高める必要がある。特に、社会的性意識 には下位尺度間に相関が確認されておらず、その要 因についても検討の余地がある。また、男子に関し ての研究は多くないため、今後、研究を重ね、女子 とは異なる要因について検討することが求められる。
伊藤(7)は、中学生から大学生の女子を対象に同 一性の研究を、鈴木・伊藤(20)は小学校5年生から 大学生を対象に女性性受容の研究を行っている。性 受容に関して、今後対象を広げ、発達的観点から 縦断亭に検討を行うことが望まれる。
また、性受容に影響を与える要因として「異性意識」
「異性の性役割意識」「異性の親への意識」なども 指摘されており(伊藤(5)(7), 鈴木・伊藤(20))、これら の意識も含めて検討することが必要であると考える。