• 検索結果がありません。

図表1 金融派生商品市場の内訳(残高ベース10億ドル)

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "図表1 金融派生商品市場の内訳(残高ベース10億ドル)"

Copied!
25
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

勝   悦 子

1.はじめに一問題の所在

ここ数年にわたってわが国金融産業を悩ませてきた不良債権問題は深刻さを 増し,金融機関の経営悪化や破綻が現実のものとなっている。わが国金融シス テムの安定性に対する懸念は国際的な問題にまで広がっており,金融産業の脆 弱化が平成不況からの回復を阻害している最大の要因であるとさえみられてい る。わが国の金融産業が強固なシステムとなるには,こうした不良債権問題を 克服し,さらには金融技術を高度化することが必要不可欠である。金融技術の 先端を行くアメリカにおいては,とりわけ90年代以降デリバティブ取引が金融 業務の中核にまで急膨張し,収益の一つの柱にまで成長してきた。こうした金 融技術の進展は世界的なトレンドとなっており,わが国金融産業の安定と成長 のためには,デリバティブ取引を含む金融技術のイノヴェーションが不可欠な 条件であるとみられている。

一方,80年代以降の金融のグローバリゼーションと金融自由化の一段の進展 のなかで,金融仲介機能は大きく変貌しているが,この延長線上でデリバティ ブ取引の急増を捉えることもできる。すなわち,ヘンリー・カウフマンがいう ところの「金融のアメリカナイゼーション」(注1)の進展のなかで,バブル 形成が容易となりうる土壌が国際的に醸成されつつあり,国際的に金融システ ムが脆弱化する懸念が増大している。(Kaufman(1994))。

これまでのデリバティブ研究においては,デリバティブ取引は,金融取引に 伴うリスクとリターンを分解(アンバンドリング),あるいは組み替えること

(バンドリング)により,異なるリスク選好をもつ経済主体にリスクを移転す ることを通じ,「社会全体として最適なリスクシェアリングを実現する(金融 制度調査会(1995)2−3ページ)」ものとみなされてきた(注2)。しかし,

(2)

これとは対照的に,デリバティブ取引,特に店頭取引(以下OTC取引)の急 増をみた米国においては,94年以降の市場の急変のなかでOTCデリバティブ ズの取引に伴う巨額損失が露呈され,OTC取引に伴うシステミック・リスク の可能性増大に対する懸念が高まっている。金利スワップなどのOTC取引は,

先物などの上場取引と異なり,カウンターパーティー・リスク(信用リスク)

が存在するばかりでなく,取引残高の上限が民間金融機関の判断に委ねられて いるため,マクロ経済や金融システムの安定性に甚大な影響を与える可能性が 高いからである。

デリバティブ取引のマクロ経済的インプリケーションを考える場合,第1に,

OTC取引と取引所(上場)取引を峻別することが必要である。第2に,デリ バティブズの商品特性ばかりでなく,デリバティブ取引,特にOTC取引の市 場構造を考慮することが必要である。OTC取引は,エンドユーザー,ブロー カー,ディーラーといった三層の市場構造をなし,特定のディーラーへのリス クの集中がみられることを認識することが重要である(BOE(1993))。とり わけアメリカにおいては,少数の大手銀行,証券会社,保険会社にディーリン グ業務が集中しており,システミック・リスクが生じ易い土壌にある。

デリバティブ取引のマクロ経済的インプリケーションについて検討した近年 の研究(BISユーロ・カレンシー・スタンディング委員会(1994b)(1995),

経済企画庁(1995))によれば(注2),リスクが特定金融機関に集中する傾向 があることを認めつつも,デリバティブ取引が金融システムの安定性,ひいて はマクロ経済に深刻な脅威を及ぼすものではない点が強調されている(注3)。

Edwards/Mishkin(1995)は,「デリバティブ活動を含むオフバランス活動 が金融システムの安定性の脅威となるとは思われない」と結論するとともに,

個々の銀行のリスク管理を軸として適切に使用また規制されるならば,「デリ バティブ取引は,リスク管理を促し,銀行と金融システムの長期にわたる存続 可能性を高めることができる」と主張している(Edwards/Mishkin(1995)

P.42)。

しかし,国際金融取引の決済システムの一翼を担うマネーセンターバンクへ のリスク集中やインターバンク市場を含む金融市場間のリンケージの高まりと いった最近の急激な構造的変化を考慮すると,OTC取引の金融システムに与 える影響を楽観視することはできない。本稿は,ミクロ的なデリバティブ取引 の契約形態の特性や価格付け,あるいはリスク管理手法を対象にするものでは

(3)

なく,OTCデリバティブズ取引の市場構造に焦点を置き,デリバティブ取引 と金融システムの安定1生との関連について検討を加えたものである。なお,本 稿では,デリバティブ取引については,OTC取引を主な検討対象とし,取引 所取引は必要な限りに留めた。

2.デリバティブ取引の現状

2.1 0TC取引

BIS年報95年版によれば(図表1,2),想定元本残高ベース(注4)で みた取引所取引額は94年末で8兆8,378億ドル,店頭取引額が8兆4,746億ドル

と,それぞれ過去3年間に2.51倍,2.46倍と急拡大した。とりわけ,OTC取 引が急増していることが最近の特徴である。

図表1 金融派生商品市場の内訳(残高ベース10億ドル)

1989年 1990年 1991年 1992年 1993年 1994年 取引所取引商品 1,766.6 2,290.2 3,518.8 4,632.5 7,760.8 8,837.6

金利先物 1,200.8 1,454.3 2,156.7 2,913.0 4,942.6 5,757.4 金利オプション(1) 387.9 599.5 1,072.6 1,385.4 2β62.4 2,622.8

通貨先物 15.9 16.9 17.9 24.9 32.2 33.0

通貨オプション(1) 50.2 56.5 62.8 70.9 75.4 54.5

株価指数先物 41.3 69.1 76.0 79.7 109.9 127.7

株価指数オプション(1)

70.6 93.7 132.8 158.6 238.3 242.4

店頭取引(OTC)商品(2)

3,450.3 4,449.4 5,345.7 8,474.6

金利スワップ 1,502.6 2,311.5 3,065.1 3β50.8 6,177.3 通貨スワップ(3) 449.1 577.5 807.1 860.4 899.6

その他スワップ関連商品

561.3 577.2 634.5 1,397.6 一

(注)1)コール,およびプット。2)国際スワップ派生商品協会(ISDA)による。

3)ISDAメンバー間の重複は調整。 FRA,通貨オプション,先物為替予約,

株式,商品関連商品は除く。

(資料)先物業協会,各先物オプション取引所,ISDA,およびBIS推計。

図表2 主要店頭取引(OTC)派生商品の推移(新規契約,単位

:10億ドル)

1990年 1991年 1992年 1993年 総   計 1,769.3 2,332.9 3,717.0 5,517.0 金利スワップ 1,264.3 1,621.8 2,822.6 4,104.8 通貨スワップ 212.8 328.4 301.9 295.2

その他スワップ関連派生商品

292.3 382.7 592.4 1,117.0

(出所) ISDA

(4)

ISDAの統計によれば,94年上期のOTC取引は前期比46%増と急増した が,このうち金利スワップ取引が75.5%のシェアと圧倒的であり,スワップ・

ビジネスのほとんどが金利スワップからなっている。金利スワップ市場のうち インターバンク取引(銀行間ディーリング)が全体の51%(94年上期)を占め,

金融機関が短期資金ディーリングにおいて金利スワップの活用を増大させてい る姿が窺える(87年の同シェアは32%)。

OTC市場金利スワップ取引の取引相手別特徴をみると,インターバンクが 48%,エンド・ユーザーおよびブローカーが51%のシェアとなっている。エン

ド・ユーザーの内訳をみると一般企業が36%,金融機関が53%,政府が11%

(図表3)となっており,エンド・ユーザーとしても金融機関がOTCデリバ ティブ取引を活用していることが分かる。また,金利スワップについては,高 リスクの長いターム物よりも,短期物(マチュリティが3年以下)取引が多い 点が特徴となっている(BIS(1992))。

図表3 金利スワップ取引エンド・ユーザーの機関別内訳

(10億ドル,想定元本ベース)

90年末 91年末 92年末

93年末(シェア%)

エンド・ユーザー総計 1,402 1,723 1,970 3,209(100.0)

金融機関 817 985 1,061

1,715(53.4)

政  府

137 166

243 327 (10.2)

事業法人 448 572 666

1,167(36.4)

(資料)BIS,1舵erηα孟 oηα♂Bαη勉π9απ4 F ηαηc αJ Mα漉θ DθひθZopmθ彫s より作成。

通貨スワップは引き続きマイナーなポジションであるが(金利スワップと異 なり元本部分もスワップの対象となるため市場のボラティリティに伴うリスク に晒され易い。このため短期ALM管理で利用されるよりもむしろ主に起債で 利用される),ドル・円スワップの取引増大が原動力となって,94年上期(年 率)は,前年比52.2%増であった。

もっともISDAのデータは, OTC市場の一部を示しているに過ぎず,近 年増大しているFRA(金利先渡し契約)などは含まれていない。実際のOT C市場はこれより遙かに大きいものと推測されており,このためBISを中心 に,加盟国所在銀行がサーベイを作成中であると伝えられる(尚95年12月にB

ISがグローバル・ベースの集計値を発表したが, ISDAのデータとはカバー

(5)

範囲が大きく異なっている。BISによれば,95年3月末のOTC取引残高は 約17兆ドルと図表1の数値とは大きく異なる)。

2.2 米銀のOTCデリバティブ取引の実態

ISDAによれば,国際的にOTCデリバティブ・ディーラーとして活躍す る金融機関は約150に限られており,国籍別でみると,米銀・英銀の活動が突 出しており,次いでフランス,スイス等の金融機関が続いている。邦銀は国際 的なプレイヤーとしては,未だ取引量は少ない。

G30(1994)によれば,94年の全米銀のデリバティブ取引は,想定元本ベー スで16兆ドルにのぼり,そのうち63%が金利関連デリバティブ取引,35%が外 国為替関連デリバティブ取引で,残りが商品関連等のデリバティブ取引であっ た。金利関連デリバティブ取引については,スワップ取引のシェアが高く,金 利先物,金利オプションもそれなりのボリュームとなっている。外国為替関連 デリバティブ取引については,為替先物,先渡しがそのほとんどを占め,為替 オプション,為替スワップのシェアは低いものにとどまっている。為替関連デ リバティブ取引については,国際的に活動している銀行においてそのポジショ ンが大きい(図表4)。

図表4 各銀行のデリバティブ取引の構成(%)

金利関連契約 外国為替関連契約

先物/先渡し オプション スワップ 先物/先渡し オプション スワツプ

その他

バンクアメリカ 17

7 25

48

0

3

0

バンク・ワン

1

6 93 0 0 0 0

バンカーズ・トラスト

25

25

18 23 4

3 2

チェイス・マンハッタン・バンク 13 12 22

43

6

1 2

ケミカル・バンク

32

11

27

27 2 1 0

シティ・コープ

21 10

12 49 5 2 1

J.P.モルガン

16 19 34 19 6 6 n。a.

ネイションズバンク

16 55

15

6 8 0 0

(資料)各マニュアル・レポート,およびソロモンブラザーズによる(1993年12月末)

(出所)Salomon Brothers(1994)

OTCデリバティブ取引については,金融機関別にみると,大手7銀行,大       ●

閧Tインベストメントバンク,および3大保険会社に集中している(図表5)。

なかでも大手7銀行の取引量は全銀行の取引の9割を占めているなど,規模に

(6)

図表5 アメリカにおける15大OTCデリバティブ・ディーラーの取引量

(想定元本ベース,100万ドル)

〈銀行〉

ケミカル      3,177,600

シティ・コープ      2,664,600

J.P.モルガン       2,472,500

バンカーズ・トラスト       2,025,736 バンカメリカ       1,400,707 チェイス・マンハッタン      1,360,000

ファースト・シカゴ       622,100

〈証券会社〉

ソロモン・ブラザース      1,509,000 メリル・リンチ      1,326,000 リーマン・ブラザース      1,143,091 ゴールドマンサックス      995,275 モルガン・スタンレー      843,000

〈保険会社〉

アメリカン・インターナショナル・グループ  376,869 ジェネラル・リー・コーポレーション     306,159 プルデンシャル・インシュランス       102,102 総   計      17,852,239

(原資料)各行94年アニュアル・レポート

(出所)Edwards and Michekin(1995)

図表6 デリバティブの概念図

阪昇的プレーヤー      甑昇的プレーヤー

○○       ○○

3>。/()\♂:

○○       ○○

エンドユーザー

@       エンドユーザー

(資料)DKB(1995)を基に作成。

(7)

より取組み姿勢が二極分化している様相が見てとれる。特筆されるのは,マネー センターバンクと呼ばれる少数の大手銀行にOTC取引が過度に集中している ことで,リスク管理にたけた銀行だけがデリバティブ取引に参入可能であるこ とを示唆するものでもある。また最近では,プレインバニラ・タイプの商品よ りもエキゾチック商品と呼ばれるより複雑な取引の増大が顕著で,このため流 動性が低くなる傾向にあると言われる。

銀行によって大きくばらつきがあるものの,マネーセンターバンクのなかで も,ケミカル,バンカーズ・トラスト,J.P.モルガンなどの,ホールセール 業務に特化した銀行の取引ポジションが大きい。これらの銀行は後述するよう に,トレーディング目的およびALM管理(ヘッジ)目的双方からデリバティ ブ取引のポジションを増大させているが,そのうちほとんどがトレーディング 図表7 0TCデリバティブ取引の目的別内訳(単位:10億ドル,%)

トレーディング目的(比率) ALM目的(比率)

総 計

バ  ン ク  ・ ア メ リ カ 1,333 95.0 68  5.0

1,401 バ  ン  ク  ・  ワ  ン

0  0.0 45 100.0

45

バンカーズ ・ トラス ト 1,982 98.0 44  2,0

2,026 チェイス・マンハッタン・バンク

1,293 95.0 67  5.0

1,360 ケ    ミ    カ    ル

3,069 97。0 109  3.0

3,178 シ テ ィ  ・ コ ー  プ

2,449 92.0 216  8。0

2,665

J . P . モ ル ガ ン 2,180 88.0

292 12.0 2,472

ネーショ ンズ ・バンク

485 95.0

26  5.0 511

総 計/平 均 12,791 94.0 867  6。0

13,658

(原資料)各行アニュアル・レポート(1994年版)

(出所)Edowards and Mishkin(1995)

図表8 全トレーディング収益に占めるデリバティブ・トレーディング収益

(単位100万ドル)

デリバティブ・トレーディング収益(94年)

シェア(%)

同収益(93年)

シェア(%)

チ ェ ー ス

108 15 201

28

ケ ミ カ ル

391 61

453 42

シティ・バンク 400

29

800 27

J.P.モルガン 663

65

797 39

総計/平均 1,562

42

2,251 34

(資料)各行アニュアル・レポート(1994年版)

(出所)図表5と同じ

(注1)全トレーディング収益に占めるデリバティブ・トレーディング収益のシェア

(8)

取引にかかるものである(図表7)。上位4行のOTCデリバティブ・トレー ディングからの収益は,全トレーディング収益の42%(94年,93年は34%。図 表8)を占めており,収益の柱にまで成長していることが窺える(注5)。逆 に中小銀行においては,デリバティブ取引はALM管理などのエンド・ユーザー としての使用に限られている(図表6の概念図参照)。

もっとも,OTC取引でディーラー,マーケット・メイカーとして市場で活 躍するには,かなり高い格付けが必要であり,このことが市場の安定性を維持 するバッファーとなっているとの指摘もできる。また,ALM管理のためのデ リバティブ取引についても,自行独自の見通しに基づいて行われるため,必ず しもトレーディング取引よりリスクが小さいとも言えない。

2.3 市場構造の変化

OTC市場の急拡大を背景に,各主要取引所はマーケット整備を実施し,営 業日毎の時価での値洗いの実施や,よりフレキシビリィティの高い商品開発な

どにより,競争力を強化している。

一方OTC市場においては,カウンターパーティ・リスクの軽減や自己資本 を有効に活用するため,取引所取引と極めて似た,金融保護的色彩の強い措置 を準備中であることが伝えられている(例えば複数商品のネッティング・スキー ム,長期契約決済のための証拠金導入など)。また,OTC取引の急増は,市 場間のリンケージを強めるとともに,それまで取引のなかった経済主体との新 たなリンケージを生み出しており,金融取引の複雑化,深化をも招来している。

3.デリバティブ取引と金融システム

3.1 デリバティブ取引の定義と経済的機能

デリバティブ取引は,広義には原資産価値や指数等から価値を引き出される 双務的契約ないし支払交換の合意,と定義される(Group of 30(1993)pp.

28−9)。こうした広義の定義では,モーゲージ・バックド・セキュリティな どもデリバティブ取引に分類される。しかし狭義には,価格変動に伴うリスク 移転をその主要な目的とする金融契約(先物,フーチャーズ,FRA,スワッ

プ,オプション,キャップスなど)と定義できる。もっともデリバティブ取引 をリスク管理手段としてだけ捉えることは,デリバティブ取引の多面性を過度 に単純化していると言う意味で,問題を含んでいる。

(9)

もともとデリバティブ取引は,「貸出等の伝統的取引と全く同じキャッシュ フローをバランスシート上の資産の変化を伴わないままで創出すること」(日 銀(1993)35ページ)が可能である点に特徴がある(注6)。これは,取引所 取引とOTC取引の役割の相違をみるとよりよく理解できる。取引所取引はマ チュリティ,契約額,受け渡し期間,などが標準化されており,決済を保証す るクリアリング機関が存在し,カウンターパーティ・リスクが低く,商品の標 準化を通じ市場流動性が高い。しかし,他方,取引量やマチュリティーが制約

されており,自由なキャッシュフローの創出には制約がある。

これに対しOTC取引はキャッシュフローを自由に創出することができるた め,個々の取引相手のニーズにあったテイラーメイドの商品提供が可能である 一方,カウンターパーティー・リスクが高い。このようなキャッシュフローを 自由に創出できるという性格が,OTC取引に異なった経済的役割を担わせる ことになる。OTC取引においては,企業顧客などのエンドユーザーと,契約 の仲介者ないしディーラー(ホールセラー)としての金融機関とは,取引締結 のインセンティブ,資金調達やリスク管理の性格に顕著な違いがあるばかりで なく,OTC取引の経済的機能も異なっている。したがって, OTC取引の参 加者を,少なくともエンドユーザーとディーラーという大まかな二つのカテゴ

リーに分けてその経済的機能を検討する必要がある(もちろん,実際には双方 の行動形態を採る金融機関もある)。

「エンドユーザー」である事業会社,機関投資家(年金基金,ミューチュア ル・ファンドを含む),公的機関,国際機関,あるいは金融機関がOTC取引 を行う理由としては,(1)ファインナンス・コストを減少できること,(2)

資産のイールドを増大できること,(3)企業の取引に伴う金利,通貨,商品,

株式などのエクスポージャーに伴うリスクをヘッジできること,(4)市場価 格の動きを予想し投機的なポジション造成が可能となること,などが指摘でき

る。総じて「エンドユーザー」にとっては,OTC取引は,金利や為替の変動 に伴うリスクを回避する手段としての役割を担っている。とりわけ金融機関等 のALM管理には,スワップやオプションなどのデリバティブ取引,特にヘッ ジ手段として自由度の高いOTC取引は必要不可欠となっている。

一方「ディーラー」として参加するホールセラーとしての金融機関からみれ ば,OTC取引の意義は,リスク・ヘッジ機能に求められるよりもむしろ,

「原資産自体への投資は必要としない金融商品」(「ブロックマイヤー報告」22

(10)

ページ)である点に求めることができる。デリバティブを仲介,ホールセール する金融機関にとっては,原資産の価格や金利をもとにキャッシュフローの交 換を行なうが,原資産の所有権自体を移転させたり,購入したりする必要がな い。このため,貸出元本に相当する負債や資本を必要とせず,仲介量に応じて 金利収益(巧くいけば)を確保できる極めて投資効率の高い収益源であるとい

える。

3.2 伝統的銀行業務の衰退とOTCデリバティブズの膨張

先物やオプションなどのデリバティブ取引は,形式的には市場経済の成立以 来存在する長い歴史を持つものであるが,オプションやスワップなどの契約形 式がいつ生まれたかを詮索することはそれほど重要ではない。むしろ,デリバ テイブ取引,とりわけOTC取引がなぜ近年急激に膨張したのかという点が重

要である。

まず第1に,80年代以降の金融商品の価格変動の拡大と,これに対応する形 でのヘッジニーズの高まりがその「基本的背景」(日銀(1993)31ページ)と

して指摘できる。

70年代以降の変動為替相場制への移行,金利自由化の進展,外為・資本取引 などにかかる規制の緩和・撤廃などにより,金利や為替等の金融商品の価格変 動が拡大する傾向が強まった。企業活動が国際的に展開され,取引規模が増大

したことにともなって,企業あるいは金融機関は膨大な金融資産を保有するよ うになり,資産・負債構造を大型化・複雑化させていった。こうした大企業や 機関投資家にとっては,金融商品の価格変動をヘッジする必要性が高まった。

特に機関投資家は国際分散投資を積極化させたため,資産面における通貨構成 や期間構成が複雑化し,リスク・ヘッジ技術もまた複雑なものとならざるをえ ず,このことがOTC取引急増の需要側の背景となった。株価指数先物やオブ ション市場などの取引所取引はプレミアムや取引コストが高く,また巨額のポ ジションを自由に創ることができないため,テイラーメイドである店頭取引が 増大したといえよう。また,銀行や証券会社の資産負債構造が変化し,ALM 管理が不可欠となったことも,OTCデリバティブ取引拡大の需要側の要因を

なしている。

しかし,エンド・ユーザーのヘッジ需要だけで近年のOTC取引の拡大を説 明することはできない(Chorasfas/Steinman(1994)p.43)。劇的に拡大し

(11)

たOTC取引,特に金利スワップのうち大部分は,ディーラー相互間で取引さ れている(Edwards/Mishkin(1995)p.35 Table 2;Salomon Brothers

(1994)p.8)。OTC取引を急増させた主因は需要側よりもむしろ,高格付け の一部銀行がデリバティブ商品を大量に提供する内在的なインセンティブをも ち,また供給しえる条件が整備された,という供給側の事情にあると言ってよ

いo

OTC取引急増が供給側の事情に大きく依ることを指摘したが,その主要な 担い手である銀行サイドの事情は,近年以下のように構造的に大きく変貌して

いる。

第1は,いわゆる伝統的銀行業務が量的に大きく減退していることである。

第2は,金融の自由化・国際化を背景に銀行間競争が激化し,これにより利鞘 が縮小したことである。第3は,それに伴って高リスク分野への貸出が拡大し,

信用リスクが増大したことである。第4は,88年に国際的に合意されたBIS 自己資本比率規制によって銀行がROA(総資産収益率), ROE(自己資本 収益率)重視のスタンスに転じたことである。第5は,通信・情報処理技術が 急速に発展し,金融イノベーションが展開する条件が整ったことである。

1960年代後半以降のインフレの高進に伴って金利が上昇すると,投資家はイー ルドにより敏感となり,低利の規制金利預金から他の金融資産にマネーがシフ

トし,いわゆるディスインタミディエーションが起きた。レギュレーションQ の対象外であるノンバンク金融機関が競争上有利となり,このため金利の自由 化が促進されたが,金利の自由化に伴って,預金受入金融機関は資金調達コス トの上昇,利鞘の縮小,および収益の圧迫に直面することになった。また,C P市場やジャンクボンド市場の発展,および債権のセキュリタイゼーションの 進展に伴って,銀行の信用供与という伝統的業務の優位性は薄れた。こうした 金融制度の構造変化,および競争激化に対して商業銀行は,よりリスクの高い 貸出分野への進出という形で収益を確保しようとした。すなわち,商業不動産 ローンへの積極的な進出,LBOなどレバレッジ取引の増大などである。さら に,商業銀行は現法内で証券業務へも積極的に進出し,また貸付債権の証券化 をつうじて資産の流動化をはかり資産効率を高めるという戦略をとった。

さらに,収益の圧迫は銀行に企業金融や決済業務における手数料収入に傾斜 させた。例えば,事業会社のCP発行の信用保証や信用枠の設定,金利・通貨 スワップの仲介,M&A仲介の手数料などである。こうした土壌のなかで急増

(12)

したのがOTCデリバティブズ取引である。これは企業融資などの伝統的銀行 業務が衰退するなかにあって,従来の取引と同様のキャッシュフローを元本の 投入や原資産の購入なしに可能とするもので,投資効率が極めて高いものであっ た。OTCデリバティブのディーラー業務への進出の動機は,明らかに伝統的 業務で失った収益をデリバティブ業務から生じる収益(注7)でカバーするこ

とにあったと言える(Edwards/Mishkin(1995)p.35)。

上述の構造的な金融機関の収益構造の変化とOTCデリバティブ取引の関連 は,商業銀行の経営スタンスの変化という文脈からもみることができる。銀行 は,短期金融市場を利用して負債管理技術を発展させたが,金利自由化に伴う 資金コストの上昇に対しては変動金利の導入など,資産面での対応を図らざる を得なかった。これは金融情勢の予測により不確実性とリスクを最少し,さら に収益の極大化と期間ミスマッチの是正を図るという,ALM管理の採用となっ

て現れた。70年代以降競争が激化するなかで銀行業が追求してきたのは,一方      し

ナは短期金融市場の拡大・深化を利用しつつ,他方では投下資本当たりの収益 性を高める,という動きであった。こうした動きのなかで,銀行経営は負債管 理よりもALM管理を重視するようになり,ローン・コミットメントや信用保 証などのオフバランス取引が増大し,OTCデリバティブ取引が増大すること

となる。

4.OTCデリバティブ取引と金融シズテムの安定性 4.1 0TC取引におけるリスクの種類

以上,OTCデリ.バティブ取引の発展が金融自由化の延長線上にあり,また 金融仲介が近年変貌していることを大きく関連していることが分析された。そ れではOTC取引におけるリスクは伝統的金融取引のそれとは如何に異なるの

か。

まずOTC取引に伴うリスクの種類は,形態のうえでは他の信用取引と基本 的に同じものである。具体的には,(1)信用リスク(取引相手の債務不履行に よる損失リスク),(2)市場リスク(金利,為替などの相場変動による損失リ スク),(3)流動性リスク(金融機関の倒産,急激な相場変動で,決済取引が 出来なくなるリスク),(4)リーガル・リスク(法律,行政,税法上の措置で 取引が無効になる損失リスク),(5)オペレーション・リスク,などである。

OTC取引にかかるリスクが伝統的金融業務のそれと異なる点は,第一に,

(13)

その規模および複雑さにおいてである。第二に,規制の範囲外にあるノンバン クも含め,少数の金融機関にそのリスクが過度に集中していることである。第 三に,ディスクロージャーが徹底していないことやあるいは市場価格がいくつ もの市場にまたがって決定されることに由来する透明性の欠如である。第四に,

法制面,会計面を含めて国際的な基準が明確でないことである。こうした相違 点は,リスク評価・管理技術の欠如や法制・会計面での制度的対応の遅れに起 因するものとみられている(Edwards/Mishkin(1995)p.39;Board of Governors of the Federal Reserve System, Federal Deposit Insurance

Corporation, and Office of the Comptroller of Currency(1993))。

OTC取引に伴うリスクの特異性が,単に複雑さや制度面の遅れだけによる ものであるならば,ディーラーのリスク管理能力の向上や監督当局による法制 および制度面の整備によって,システミック・リスク(注8)の制御は可能で あろう。したがって,OTC取引がリスク配分を最適化し金融システムの効率 性,安定性をもたらすものと位置付けることも誤りではない(経済企画庁

(1995))。しかし以下で検討するように,OTC取引に伴うリスクは伝統的銀 行業務のそれと大きな相違点があり,必ずしも長期的観点からみてリスク配分 を最適化し,金融システムを効率化,安定化させるとは限らない。

4.2 0TC取引における信用リスク

個々のリスクの形態面からみれば,OTC取引に伴う主要リスク(マーケッ ト・リスク,信用リスク,流動性リスク)は,伝統的銀行業務,特に市場取引 に関連したすべての業務に共通するリスクであり,デリバティブ取引に限った ものではない。しかし,伝統的銀行業務における市場取引が何らかの経済活動 に基づく原資産のキャッシュフローに依拠するのに対して,OTC取引は原資 産価格の予想にだけ依拠した,損益の変動を著しく増幅するものとなっている。

したがって,OTC取引に伴うリスクは,伝統的銀行取引に伴うそれとは変動 性やその度合において著しく相違し,「暴走しないよう自立的に管理する」(小 西(1995)105ページ)ことが必要となる。この点を伝統的銀行業務との信用

リスクの違いという観点を中心にみてみよう。

第1に,OTCデリバティブ取引関連の信用リスクと貸出関連の信用リスク については,キャッシュフローの確実度に関して異なる。例えば信用リスクに ついては,貸出先が延滞するかどうかが景気循環などが大きく作用する貸出関

(14)

連のそれと,損益がマーケットの変動率に依存するそれとは本質的に異なって いる。前者がなんらかのキャッシュフロー創出業務に関っており,その信用リ スクの度合が経済変動と深く関係しているのに対して,後者は,企業それ自体 の信用度を別にすれば,価格変動の予想にのみ依存しており,両者の間には信 用リスクの度合に相違がある。すなわち,OTCデリバティブ取引に伴う信用

リスクは市場リスクの性格を伴う。

第2に,OTC取引の信用リスクは,伝統的銀行業務と異なって契約時に固 定されているわけでなく,原資産価格の変動や契約相手のデフォルトの可能性 に応じて時間の経過とともに大きく変化する。このため伝統的業務とは異なり 信用リスクの測定が非常に難しいことである。というのも,デリバティブズや 仕組み商品の信用エクスポージャーはそれ自体,あるいはデフォルトの可能性

も,時間の経過とともに変化しうるものであり,両者の間にも相互関係が生じ

ることである。

第3に,OTCデリバティブ取引においては,信用リスクの度合いという点 において取引所取引とは大きく異なっている。前述したようにOTC取引は取 引所取引と違って相対であり,決済を保証する清算機関が存在しない。そのた め,デフォルト・リスクすなわちカウンター・パーティ・リスクに常に晒され る。OTCデリバティブ取引においては,このようにカウンター・パーティー・

リスクが存在することが,こうした競争の激しい市場へ参入する金融機関が財 務的に強固な機関に限定されている理由となっている(従って不確実性が極め て高く賭博性がある取引については,信用リスクが高いため,取引所で行われ るか,あるいは胴元といった信用力のレベルが一段と高い組織が取り仕切り,

参加者を制限し,それにより半ば公的な清算機構を構成している)。

デリバティブ取引の信用リスクを測定するためのッールとしては「再構築コ スト」がある。「想定元本」が利払いを確定するための計算上の(すなわち仮 定の)単位であるのに対して,「再構築コスト」は,原契約の当初の条件と,

現在の市場条件との相違から導かれる(すなわちその時点で同額のキャッシュ・

フげ一を新たに構築するためのコスト,図表9)。「再構築コスト」は市場価格 変動により変化し,また,その規模はカウンターパートが市場リスクに対処で

きる能力如何に依存している。現在の自己資本比率規制に関する国際統一基準 においては,オリジナル・エクスポージャー方式による開示が認められている が,原資産価格の変化に伴って契約残存期間中に信用エクスポージャーが増大

(15)

図表9 アメリカ銀行持ち株会社の信用エクスポージャーの再構築コスト(92年9月)

全 取 引

金利関連取引 為替関連取引

億ドル 総資産比 億ドル 想定元本比 億ドル 想定元本比

シテ ィ ・ コ ー プ

30.2 13.5

6.8 1.5

23.4

2.7

ケ   ミ  カ   ル

27.4 19.7

9.5 1.3

17.9

3.3

J.P.モルガン

27.1 23.0 11.6

22

15.5

3.7

バンカーズ・トラスト

24.7 33.4

7.3 2.2

17.5

4.5

バンク・オブ・アメリカ 22.4 12.0

6.7 2.5

15.7

4.0

チェース・マンハッタン 21.7 22.3

5.8 1.7

15.9

3.2 ファースト ・シカゴ

10.9 22.2

2.3 1.4 8.7 3.8

コンチネンタル・バンク

2.4

10.5

1.6 2.1 0.8 2.9

バンク・オブ・ニューヨーク

22 5.1 0.5 1.9 1.7 3.4

バンク・オブ・ボストン

1.0 3.2 0.4 2.5 0.6 4.0

上記10行計 170.0 17.3 52.5

1.8

117.7

3.4

その他大手銀行持ち株会

8.5 0.5 6.9 3.2 1.3 3.0

<資料> FRB et al, Dθrlびα如θPro伽c乱Ac孟 ひ漉θs oゾCommθrcεαZ−Bαπんs

(注1)先物取引を除く。

(2)総資産が10億ドル超の銀行持ち株会社(BHC)

(3)エクスポージャーはグロス・ベース。但し,ネッティングが行われる一部外国

為替関連デリバティブを除く。

(4) オリジナル・マチュリティが14日以下を除く。

するリスク(ポテンシャル・エクスポージャー)についての定量的情報開示は 現在ほとんど行われていない。また,システム上再構築コストを計測できる金 融機関は限られている。

以上みたように,OTC取引にともなう市場リスクと信用リスクとの関連は 伝統的取引におけるそれと変動性や度合で著しく異なっている。そればかりで

なく,ある種の店頭OTCは,損失額の発生が非対称的である。オプションの 購入者は損失を限定できる一方で,オプションの発行者の損失は理論的に無限 であるからである。また,市場リスクについても,キャッシュ市場取引では債 券や株式も相場変動によって取得時の価格よりも損失(含み損)や利益(含み 益)が出るが,その含み益,含み損は相場変動を上回る規模にはならない。し かし,デリバティブズの場合,債券や株式など元々の資産(原資産)の相場変 動よりも大きな損益になるケースが多い。

確かに,OTCデリバティブズのほとんどは元本の支払いを必要としないた め,信用リスク(再構築コスト評価)は想定元本額よりもはるかに小さい(図

(16)

表9)。また,リスク管理技術の発展やネッティングにより,信用リスク量は 大きく削減することができる。しかし,信用リスクは,流動性リスクとも大き

く関連しており,流動性資金の調達はカウンターパートの信用力(市場での評 価)に大きく依存している。このため,とりわけストレス時には市場リスクの 顕在化が信用力を損失させ,流動性の喪失,さらには信用リスクの顕在化をも たらす懸念を増大させる(Kuprianov(1993)p.257)。すなわち, O T C取 引は市場リスク,信用リスク,ひいては流動性リスクなどリスク相互の関連を 強めることを示唆している。

4.3 システミック・リスクとリスク管理の限界

このように見てくると,OTC取引のリスクは伝統的金融業務とその種類は 同じであるものの,質的には非常に異なっていることが分かる。とりわけ信用 リスクの性格の相違が,(1)市場間のリンケージの高まり,(2)リスクの一部 金融機関への集中,という近年のOTC市場の環境のもとで,システミック・

リスクの潜在性を高めることになる。

第1に,エンド・ユーザー・レベルでのリスクの拡散と,ホールセール・レ ベルでのリスクの集中が,金融ショックを増幅する可能性をもっている。今後 新規参入する金融機関が増加すると見込まれること,それも銀行だけでなく,

ノンバンクである証券会社や保険会社など異業種にまたがって増大しているこ とも考慮すると,システミック・リスクの可能性は従来より潜在的に高まって いる。また,国境を越えてリスクが分散していることは,ショックが国際的に 波及する可能性をも高めている。

第2に,OTC取引における銀行ディーラーは,引受けたポジションをヘッ ジするためもあって多くの異なった市場で同時に活動せざるをえない。これは,

各市場から取引所,そして短期金融市場をも含めたリンケージを強め,ひいて は金融商品価格のカップリング(連動性)を高める。リンケージやカップリン グの強まりは,トレーディング機会の増大や,代替的な市場の提供を通じ資本 利用の効率性を高めるものの,ストレス時には逆に,市場リスクや流動性リス クが市場間に波及する度合を高め(中曽(1994)),その波及は,金融システム の根幹をなす決済システムを直撃し,金融システムの安定性に重大な影響を与 える可能性がある。

第3に,前述したようにOTC取引のポジションが高格付けの大手銀行に集

(17)

中していることは,通常時にはOTCデリバティブズの市場流動性を高める方 向に作用するが,市況が急変し,損失を避けるためにそれら大手機関の一つで

もマーケットメークから撤退すれば,派生商品市場のみならず派生商品業務に かかる一般的な資金調達源となる市場の流動性も急速に喪失し(Chorafas/

Steinmann(1994)p.228),システミック・リスクの可能性を従来より増幅 させる。またOTC市場において,金融機関相互の取引に集中していることは,

個別レベルにとどまらず,相互にネッティングしあう(キャッシュフローに依 存することなしに契約残高を拡大させる)ことによって金融システム自体のレ バレッジをも高めている。

このようなシステミック・リスクの可能性の高まりのなかで,もし一金融機 関の破綻が起きるならば,87年のクラッシュや92年の欧州通貨危機の際見られ たような流動性問題は再び現実のものとなる危険性は常に存在している。国際 的にリスクが拡散し,各市場間のリンケージが強まり,信用リスクの集中がみ られる状況で,リスク管理に利用されるネットワーク,コンピューター,ソフ トウエアが,ニュース,うわさ,誤解を市場に急速に伝播し,流動性問題の波 及速度を一層早め,特定方向へのバイアスを増幅する(Chorafas/Steinmann

(1994)p.223)。とりわけストレス時には,「情報の非対称性」の存在がリス クを助長する可能性がある。このような状況においては,金融機関の信用度が,

インターバンクでのOTC取引や資金調達にとって決定的な物差しとなる。し かし,信用度は急激に劣化する恐れがあり,それがディーラーによる価格リス クのヘッジを困難とするばかりでなく,信用リスクをも急増させる。その場合 は複数の市場においてドミノ・エフェクト的に流動性危機が起きるであろう。

OTC取引にともなうシステミック・リスクの高まりに対して, BISを中 心とする政策当局は,人為的に規制するというよりもむしろ,国際的整合性を 持った時価評価会計制度の整備,ディスクロジャー制度の拡充,ネッティング・

スキーム(注9)の導入等を通じ,取引の透明度を高める方が金融システムの 安定を図るうえで有効であるとの方針に基づいて対応している(BIS(1994a;

1995))。確かに近年米国でOTC取引に向けた自己資本規制が一部導入されて いるとはいえ(注10),銀行業務の収益源となったOTC取引を量的規制など によって抑制することはもはや困難であり,金融システムの安定性を図るため には,基本的には民間部門のリスク管理手段の向上に委ねざるをえない。しか し,民間レベルのリスク評価・管理能力については以下のように疑念が表明さ

(18)

れていることも事実である。

まず現存のリスク評価手法は,OTC市場がそれほどの規模に達しておらず,

市場が相対的に安定していた時期に登場した。それらは,リスクをもたらす質 的な複雑性,あるいは原資産市場およびOTC市場相互の因果関係を必ずしも 捉えていない。また,個々のリスク・ヘッジの成果と全体のリスク・ヘッジの 成果とは異なる可能性がある。例えば,金利リスクと価格変動リスクは相関し ており,金利リスクや価格変動リスクを個別にヘッジしても,取引のリスク全 体に対するヘッジは低下する可能性がある。さらに,適正価格や最大損失額を 推計するモデルは絶対的に信頼がおけるものではない。例えば,オプション価 格モデルなどの適正価格を産出するモデルは,取引コストがゼロ,市場は完全 に効率的であるといった非現実的な仮定を行っている。現在主流となっている 市場リスクの評価方法であるVAR(バリュー・アット・リスク)にしても,

実際の損益(実際値)がVAR(最大損益可能性)を越えることがしばしばあ り,こうしたツールも絶対的なものではあり得ない。

また,リスク管理について言及すれば,どれ程リスク評価技術が進歩しても,

それをどのように利用するかはコーポレート・ガバナンスのあり方や経営判断 に委ねられている(注11)。まず金融機関のコーポレート・ガバナンスのあり 方については現状では弱点があることが指摘されている(GAO(1994))。経 営判断について言えば,リスク管理の強化と投資効率の上昇とが短期的には利 益相反があり,適正なリスク管理が行なわれにくい懸念もある。

このようにリスク評価や管理においていくつかの限界をもつことに加え,0 TC取引にともなうリスク評価が正確にかつ常時おこなわれたとしても,リス ク増大に対応する資本やキャッシュフローの調達ができるかどうかはまた別の 問題である(Duffee(1994)p.32)。現実にはリスク管理は,かなり微妙な金 融上の操作を前提として成り立っている。事実,リスク管理において,リスク 評価システムを構築するか,それとも資本調達を含めたポジション調整の手段 や可能性を重視するかという問題は,英米の中央銀行とドイッのブンデスバン クとのデリバティブ規制における対立点をなしているといわれる(Chorafas

/Steinmann(1994)p.163)(注12)。

膨大に膨れ上がったOTC取引に伴うシステミック・リスクを制御すること ができるのは,最終的には事後的な各国中央銀行の大規模な協調的な介入だけ である(Chorafas/Steinmann(1994)p.4)。問題は, O T C市場の特異性

(19)

のため取引実態が容易に把握できないことに加え,各国の制度的・法制的な差 異が存在することが,事前的な協調的行動を極めて困難なものにしていること である。特に,各国の制度的・法制的な差異は,単に歴史的な残存物というよ りも各国の金融産業の競争力維持や安定化政策と関連しているだけに収敏が難 しいのが現状である(GAO(1994))。各国中央銀行の協調や対応力が全く欠 如しているとは思えないにしても,システミック・リスクの可能性の増大は金 融政策やマクロ政策の自由度を著しく縛ることになり,経済成長を阻害するこ

とにもなりかねない。

5.むすび

一一一一一一

80年代末から急増したOTC取引が孕む最大の問題は, OTC取引という収 益の変動性が極めて高い取引が,リスクの正確な評価手段,会計処理の統一基 準,あるいは開示規準もなしに,決済機構の中軸を担う銀行組織,特に高格付 けのマネーセンターバンクを中心によって行なわれている点である。OTC取 引は投資効率が高いため,内外の各種の市場で容易にポジションをつくること ができる。それは各原資産市場の「市場流動性」を高めることになるが,一旦 短期金融市場が動揺すると各市場の「流動性」は急速に消失し,システミック・

リスクの可能性を増幅させる。しかし,これを阻止するための国際的な監督制 度あるいは取決めは未だ形成されていない。

アグリエッタは,70年代からはじまった金融のグロバリゼーションを「強制 されたアドベンチャー(1 aventure oblig6e)」と名付けた。銀行は,損益の変 動性が極めて高いため従来自己抑制してきた業務に,その高い投資効率性ゆえ に乗り出したのである。国際決済機構の中軸に位置するマネーセンターバンク のOTC取引の拡大もまた,伝統的銀行業務の衰退によって半ば強制されたも

のであった。

それでは,わが国においては銀行のOTCデリバティブ取引は今後どのよう に位置付けられていくのだろうか。金融業の競争力強化,あるいはわが国産業 の競争力強化のための金融インフラの整備という観点からは,OTC取引を積 極的に行っていく必要がある。わが国銀行のOTC取引は増大傾向にあるもの の,未だ欧米系銀行には及ばない。加えて昨今の不良債権問題を主因に,格付 けが低下傾向にある邦銀は,国際金融市場のメージャー・プレイヤーとしての

(20)

競争力が一段と低下している。こうした観点からは,不良債権問題を官民一体 となって早めに解決の目処を付け,邦銀の競争力を高めていくことが喫緊の課 題である。同時に,金融当局としても,新たな金融仲介機能を強化するための 一段と自由な環境作りが必要である。

他方,システミック・リスクの観点から見ると,OTC取引のリスク管理を 金融機関の「危機管理能力」だけに委ねるのはあまりにも危険にすぎよう。

こうしたなかで,わが国の金融行政で急がれるのは,こうした新規金融商品 を取引するための,インフラ整備である。前述したように,伝統的金融仲介機 能のシェアの低下は,金融技術の進展,および金融自由化のさらなる進展のな かで避けられないものとなっており,わが国においては,新規産業育成のため にも金融システムのバックアップが必要不可欠となっている。かかる状況では,

新たな金融仲介機能を支援する形での金融行政が必要であり,デリバティブ取 引に伴う市場の効率化の促進により,各市場が有機的に結びつき,価格形成が より合理的になされることが望まれる。そのためには,デリバティブ取引のリ スク管理の測定のためのツールの充実,会計制度の国際的スタンダードへのさ や寄せ,ディスクロージャー(情報開示)規準の確立,さらには取引をより自 由にできるような行政指導などのインフラ作りが喫緊の課題であろう。

結局のところ,デリバティブ取引の是非は,(1)市場の効率性の増大,と

(2)金融システムの安定性,という二つの相反する命題を如何にバランスさ せるかという問題に集約される。

わが国としては,健全なデリバティブ取引を育成することが求められるが,

加えて国際的監督制度を拡充することが,システミック・リスクを回避しつつ,

金融システムを高度化し,社会全体の厚生を高めるためにも重要なことである

と思われる。

(本稿は働石井記念証券研究振興財団より助成を頂いた研究の一部である)

〈注〉

(1)市場および金融システムのデレギュレーションが進行したこと,セキュリタイゼー

ションの一層の進展,金融デリバティブ取引などの新金融商品の増大やトレーディ

ング技術の発達,および通貨,株式,債券商品および関連デリバティブを横断的に

自由に取引する「ハイオク的」ポートフォリオ・マネージャの台頭,などが挙げら

れる。

(21)

(2)OTC取引の急増を懸念し,何らかの規制強化を求める見解もある。初期の論争

については,Corrigan(1992), BIS(1992), Phillips(1992)を,米議会におけ

るデリバティブ規制論については,House Banking Committe Minority Stuff

(1993)をみよ。

(3)BIS(1995)は,デリバティブ取引の実態経済への影響について,リスクを選考・

引き受ける意志と能力のある経済主体にリスクが移転される場合には,リスクから 解放された経済主体の投資や消費が増大するとしている。

(4)受取り,支払い利息等を決定するために用いられる名目上の元本を意味し,それ

自体は必ずしもリスクの大きさを示すものではない。

(5)デリバティブ取引が主要な収益源であるのは米銀にとどまらない。スイス・ユニ オン銀行(UBS)は1989年のトレーディング収益の三割をデリバティブで稼ぎだ

している。

(6) 「スワップ取引」とは,相対で行われる金利や為替等に関連する「債務の交換」

取引を指す。従来は,例えば外債発行に伴う為替リスクヘッジを目的とした通貨ス ワップや,各市場における主体ごとの資金調達力の違いを利用した金利スワップ等 の取引が一般的であった。しかし,最近ではこうした「原債務から切り離された取 引」も活発化しており,むしろ互いのニーズにあった資金の流れを交換する「キャッ シュフローの交換」取引と定義するほうが実態に則しているとされる(日銀(1993)

31ページ)。

(7)OTC取引の収益源泉としては,オプションなどによる取引手数料(オプション・

プレミアム),スワップ取引などにおけるビッド・オファー・スプレッド,そして ディーリング業務による売買差益などがある。スワップ取引契約においては原則と して手数料(fee)はかからない。そのかわりデリバティブ契約の書き手と顧客との 信用力の差を反映したトレーディング・スプレッドを確保できる契約が締結される

(Kuprianor(1993)p.241−2;Board of the Federal Reserve System et al.

(1994))。

(8)システミック・リスクは,「金融システムに内在するさまざまな相互依存性を背

景に,個別市場参加者の何らかの業務上の支障や,特定市場または決済機関におけ る問題の発生等の影響が,他の参加者,市場または金融システム全体に波及するリ スク」(「オフバランス取引の拡大とわが国金融市場の課題」p.43)と定義される。

OTC取引の拡大がシステミック・リスクに対してどのような方向に作用するか検

討することは単に各国政策当局ばかりでなく,現代の金融取引のマクロ経済への影

参照

関連したドキュメント

-89-..

実験は,試料金属として融点の比較的低い亜鉛金属(99.99%)を,また不活性ガ

このたび、第4回令和の年金広報コンテストを開催させていただきま

点から見たときに、 債務者に、 複数債権者の有する債権額を考慮することなく弁済することを可能にしているものとしては、

、肩 かた 深 ふかさ を掛け合わせて、ある定数で 割り、積石数を算出する近似計算法が 使われるようになりました。この定数は船

基本的金融サービスへのアクセスに問題が生じている状態を、英語では financial exclusion 、その解消を financial

個別財務諸表において計上した繰延税金資産又は繰延

●老人ホーム入居権のほかにも、未公 開株や社債といった金融商品、被災