高空隙率小天体模擬標的の衝突破壊実験
:焼結温度の異なる混合物の影響
○村上雄一 1 , 中村昭子 1 , 瀬戸雄介 1 , 長谷川直 2
1 神戸大学大学院理研究科 , 2 宇宙科学研究所
1. 背景・目的
太陽系初期の小天体はかなり高い空隙率を持つと考えられ、最大で 86%になる天体も あると考えられている(Consolmagno et al., 2008)。土星の小衛星の場合、それらが氷
(0.9 g/cm 3 )と岩石(2.6 g/cm 3 )の混合物だと仮定すると空隙率は約 40~80%と見積 もられる。また、近日点が 1~3 AU の彗星の表面は氷粒子が焼結により固化し、
Europa では氷地殻が焼結を経験しているかもしれない(Gundlach et al., 2018) 。こ のような、高い空隙率を持ち、混合物を混ぜた焼結体の衝突実験破壊実験の例はあま りないので、高い空隙率を持つ焼結体における混合物の衝突破壊実験への影響を調べ た。
2. 実験 2.1. 実験試料
HGB のみ、もしくは HGB とパーライトを混合させた粉を容器に入れ、電気炉で加熱し て焼結させて作成した。試料はそれぞれ HGB 試料を2種類(HGB87, HGB94)、混合物試 料(以下 mix)(mix2:1, mix1:1)を 2 種類の合計 4 種類用意した。標的試料の物性は表 1 にま とめられている。
2.2. 衝突実験
衝突実験は宇宙科学研究所にある二段式ガス銃を用いて、真空条件下で衝突速度 2~7 km/s で行った。弾丸にはΦ3.2 mm のナイロン球(密度 1.1 g/cm 3 )とΦ3×2.5 mm の木
(密度 0.74 g/cm3)の円柱を用い、衝突による破壊の様子をハイスピードカメラにより
5400 コマ毎秒で撮影した。
This document is provided by JAXA.
3. 実験結果
3.1. 最大破片質量比とエネルギー密度
最大破片質量比 m L /m t (m L :最大破片質量、m t :標的質 量)とエネルギー密度 Q の関係は図 1 のようにな り、最大破片質量比がちょうど 0.5 となるエネルギ
ー密度 Q*はそれぞれ表 1 に示す値となった。
3.2. 反対点圧力
反対点圧力 P a は反対点速度 V a を用いて(1)式のよ うに表せ、初期発生圧力と反対点圧力は(2)式のよう に表すことが出来る。
𝑃 𝑎 = 𝜌 𝑡 𝐶 𝑡 𝑉 𝑎
2 (1)
𝑃 𝑎 = 𝑃 0 ( 𝐿 𝑝 𝐿 𝑡 )
𝑛
(2)
ここで、𝑉 𝑎 は反対点速度 、 𝑛は減衰率、𝐿 𝑡 は試料長さ、
𝐿 𝑝 は弾丸直径、 𝐶 𝑡 は標的のバルク音速、 𝑃 0 は初期発 生圧力、𝑃 𝑎 は反対点圧力である。
図 2 は初期発生圧力と反対点圧力の関係を示し、本研 究で用いた試料の減衰率は 3~4 の間であると考えられ ることが分かる。
3.3. 減衰率の見積もり
本研究では、衝突破壊において弾丸が標的試料に
貫入してから弾丸が破裂するということが見受けられた。そこで、弾丸の貫入を考慮しな い場合(n suf )とする場合(n PD )の 2 種類の減衰率を求めた(表 1 参照)。HGB94 を除いて、貫 入を考慮しない場合はき純物質と混合物試料では大きな違いは見られないが、貫入を考慮 した場合は純物質試料より混合物試料のほうが大きい値となっている。
表 1 標的試料の物性値 試料 空隙率 (%) 圧縮強度
(MPa)
Q * (J/kg) n suf n PD
HGB87 85.8±0.3 1.7±0.4 6.6× 10 3 ±510 3.6±0.0 3.9±0.1 HGB94 94.1±0.2 0.09±0.03 1.8× 10 3 ±220 3.2±0.2 3.7±0.2 mix1:1 89.3±0.1 0.25±0.06 4.0× 10 3 ±840 3.5±0.2 4.1±0.2 mix2:1 90.6±0.3 0.09±0.02 3.6× 10 3 ±670 3.6 ±0.3 4.3±0.2
図 1 Q と最大は変質量比 中抜きのシンボルはクレータリ ングや弾丸が試料を掠めるよう に衝突したものになっている。
図 2 初期発生圧力と反対点圧力
点線は、左側が n=3、右側が n=4 の場合を示している。
This document is provided by JAXA.
4. 無次元 Q * と標的試料の空隙率 4.1. 無次元 Q *
𝜌 𝑡 𝑄
𝑌 𝐶 = 𝜌 𝑡 1 2 𝑚 𝑝 𝑣 𝑖 2
𝑌 𝑐 (𝑚 𝑡 + 𝑚 𝑝 ) ∼ 𝜌 𝑡 1 2 𝑚 𝑝 𝑣 𝑖 2 𝑌 𝑐 𝑚 𝑡
(3)
𝑚 𝑡 ∝ 𝜌 𝑡 𝐿 3 𝑡 (4) m 𝑝 ∝ 𝜌 𝑝 𝐿 3 𝑝 (5) 𝜌 𝑡 𝑄
𝑌 𝐶 ∼ 1 2 𝜌 𝑝 𝑣 𝑖 2
𝑌 𝑐 ( 𝐿 𝑝
𝐿 𝑡 )
3 (6)
様々な物質の Q*を比較するため𝜌 𝑡 𝑄 ∗ ⁄ 𝑌 𝑐 を導入す る。 𝑚 𝑡 ≫ 𝑚 𝑝 とすると、(3)式のように変形すること ができ、 𝑚 𝑡 と m 𝑝 は(4),(5)式のように表せるのでこれ らを(3)式の最右辺に代入すると𝜌 𝑡 𝑄 ∗ ⁄ 𝑌 𝑐 は(6)式 のように表すことができる。ここで、𝑚 𝑡 は標的 質量、 𝑚 𝑝 は弾丸質 , 量、 𝜌 𝑡 は標的密度、 𝜌 𝑝 は弾丸 密度 、 𝑌 𝐶 は圧縮強度 、 𝐿 𝑡 は試料長さ 、 𝐿 𝑝 は弾丸直径 、
𝑃 0 は初期発生圧力である。 𝜌 𝑝 𝑣 𝑖 2 は単位体積あたりの エネルギーを表し、圧力の次元を持つので、
𝜌 𝑡 𝑄 ∗ ⁄ 𝑌 𝑐 は距離の 3 乗比例して減衰すると仮定し た際の反対点での圧力を、圧縮強度で規格化した ものである。図 3 に初期発生圧力 と 𝜌 𝑝 𝑣 𝑖 2 ⁄ 2 の関係 を示す。 𝜌 𝑝 𝑣 𝑖 2 ⁄ 2 は初期発生圧力よりも少し小さい 値となっていることが分かる。
4.2. 空隙の効果
図 4 に空隙率と𝜌 𝑡 𝑄 ∗ ⁄ 𝑌 𝑐 の関係を示す。全体の 傾向として𝜌 𝑄 ∗ ⁄ 𝑌 𝑐 は充填率が小さくなると大きく
なっているが、混合物(黒い四角のシンボルは、純物質とは傾向が異なるということが見 受けられる。これは充填率が小さくなると弾丸の持つエネルギーが伝わりにくくなってい ること、純物質と混合物では同じ空隙率でも減衰率が異なるということに起因しているか もしれない。
図 3 初期発生圧力と 𝜌 𝑝 𝑣 𝑖 2 ⁄ 2 の関係
10 -4 10 -3 10 -2 10 -1 10 0 10 1
0.2 0.4 0.6 0.8 1
HGB
1CHGB94
2GB
3GB
4雪5 軽石