看護職員の需要と供給に関する一考察(2・完)
玉 川 淳
目 次
Ⅰ.はじめに
Ⅱ.看護職員確保対策の沿革
Ⅲ.看護職員就業者の現状と需給の見通し 1.看護職員就業者の現状
2.看護職員の需給の見通し(以上 30 巻1号)
Ⅳ.看護職員の需要把握にかかる課題 1.看護職員の需要とは
2.地域的な拡がりの範囲 3.専門性等に応じた需要
Ⅴ.看護職員の供給にかかる課題 1.確保対策のアプローチ 2.就業分野に特化した確保対策
Ⅵ.おわりに(以上本号)
Ⅳ.看護職員の需要把握にかかる課題 前節まで看護職員確保対策の沿革や看 護職員就業者の現状と需給の見通しについ て概観したが,累次にわたる看護職員需給見 通しの策定においては,需要を推計する方法 の変更が重ねられてきた。
推計方法を如何なるものとするかは,どこ まで正確に需要数を把握し得るかという技術 的な問題にとどまらず,看護職員の需要とし て何が想起されるべきかという基本的な概念 に関わる問題である。
このような観点から,一般の被雇用者の需 要に関する考え方を踏まえ,看護職員など医 療サービスの従事者の需要を推計するに際し
て考慮すべき要素等について検討する。
また,看護職員の需要については,個別の 医療機関や施設ごとの需要として具現化され るが,これらの個別の需要を一定の地域的な 拡がりの中で積み上げて地域の需要として把 握することによって初めて,学校養成所の新 設など集団的なアプローチによる対策を効果 的に実施できることとなる。この集積された 需要を把握する地域的な拡がりとして,どの 範囲のものを想定するかは,如何なる主体が 実質的に需要推計のとりまとめを担うべきか とも密接に関連する課題である。
さらに,看護職員の免許保持者であれば,
保健師助産師看護師法上はあらゆる看護現場 において業務に携わり得るが,近年は医師と
同様に看護職員についても専門性を備えた人 材を養成するための取組みが推進されつつあ る。このような動向を踏まえ,専門性等を考 慮した需要把握を進める必要性についても検 討する。
1.看護職員の需要とは
⑴ 一般の労働需要との相違
看護職員を始めとする医療従事者のほとん どは,医療機関や施設の開設者によって雇用 されている(1)。
一般に雇用労働者については,労働市場に おいて賃金と労働時間の調整を経て,労働需 要と労働供給が均衡していくものと考えられ ている(2)。
これに対して,看護職員の需給については,
一般的な雇用労働者の需給調整と比較をした 場合,どのような特徴があるのだろうか。
① 一般の労働需要
一般の労働需要については,消費者がある 価格で購入しようとする財・サービスの量に 応じて,当該財・サービスを生産するために 必要な人材を確保しようとすることによって 発生すると考えられる。したがって,財・サー ビスの対価が高額過ぎるのであれば消費者は その購入を控えようとし,結果として労働需 要も低調なものにとどまることとなる。これ とは逆に財・サービスが比較的低価格であれ ば購入を希望する消費者が多くなり,その結 果生産に必要な労働需要も増加することとな るものと考えられる(3)。
② 医療サービスの不可欠性と医療保障制度 医療も消費者に享受されるサービスの一つ
ではあるが,はじめにでも述べたように 人々が生存を続けていく上でその提供を受け ることが不可欠なもの(ニーズ)という位置 を占めている。
このため,現代の福祉国家においては,資 力が十分でない者であっても一定水準の医療 サービスを受けることができるよう努めるこ とが,政府の基本的な役割の一つであると考 えられている(4)。
我が国においては,既に国民皆保険や公費 負担医療といった医療保障のための様々な制 度が構築されており,基本的な医療に対する アクセスの保障が図られている。かかる制度 の下で,医療費の支払いについては,提供さ れる医療サービスの価格が診療報酬で公定さ れている。
医療サービスの価格が公定であることは,
当該サービスの提供に従事する就労者の賃金 水準が直ちに制御されるものであることを意 味するものではない。しかしながら,医療保 障制度が存在することによって,一般的な 財・サービスの場合と比較すれば,医療従事 者の賃金の変動の幅は抑制的なものとなる傾 向が生じると考えられる。
③ 情報の非対称性と医療サービスに対する ニーズ
医療サービスについては,一般に医師と患 者の間に情報の非対称性が認められる(5)。医 療サービスにアクセスしようとするか否かに ついては,患者側の判断によって決定される が,診断を行った上で,患者に対してどのよ うな治療が適切と考えられるかを説明し,治 療行為を実施することは,医師の役割となっ ている(6)。
このため,当該患者に関してどの程度の医 療サービスに対するニーズが発生するかにつ いては,専門家である医師の判断に依存する 度合いが高い状況にある。これは,基本的に 消費者がどれだけ消費しようとするかを判断 できると考えられている一般的な財・サービ スとは大きく異なるところである。
⑵ 看護職員の需要と医療サービスに対す るニーズとの関係
以上に掲げた特徴のほかに,医療サービス を必要とする患者がどれだけ存在するかは,
直ちに当該サービスを提供する看護職員など の医療従事者の雇用量を決定するものではな いことを指摘することができる。
① 医療サービスに対するニーズに基づく医 療機関の整備目標に応じた推計
ある医療圏において,入院又は外来による 医療サービスを必要とする住民が一定程度居 住していることを前提条件とすれば,かかる 医療サービスを提供するための病床,あるい は医療機関がどの程度必要となるかについて も推計し得ると考えるのではないだろうか。
そして,必要と見込まれる病床数など整備さ れるべき医療機関の規模が明確化すれば,こ れを稼働し続けるのに必要な看護職員等の医 療従事者の数も算定できるようになるのでは ないだろうか(7)。
しかしながら,最近策定された看護職員需 給見通しにおける看護職員の需要数は,この ような手法によって推計されたものとはなっ ていない。では,それは如何なる理由による のだろうか。
② 経営上の理由による医療機関の整備や事 業継続の困難性
仮に医療サービスの最終消費者ベースでみ た一定規模のニーズが存在するとしても(8), 当該サービスが実際に提供されるためには,
医療設備を備え,医療従事者を確保した医療 機関が既に整備されていることが必要であ る。しかしながら,経営的な理由から医療機 関の整備が進まない場合もあり得る(9)。
また,提供される医療サービスの内容に よっては,施設整備よりも事業運営上の困難 さから供給体制が十分に整わない場合もあり 得る。例えば,就業場所別の看護職員の就業 者数の推移をみると,近年人口の高齢化が進 み,在宅患者の数も増加し続けているにもか かわらず,訪問看護サービスに従事する看護 職員数はそれほど増加していない(10)。
一般に訪問看護サービスなどの居宅サービ スについては,医療機関を開設するのと比較 すれば,施設整備等は軽易なもので済むとい える。しかしながら,訪問看護の対象となる 患者がある程度集中しているなどの条件を満 たす立地でないと経営的に事業の継続が容易 でない側面もあるものと考えられる(11)。
他方,医療サービスに対するニーズについ ては,前述したように供給(専門家である医 師)側の判断に影響されるところが少なくな い。医療機関の機能分化について十分な進展 がない中で,手厚い看護職員の配置が条件と なるものの,診療報酬において比較的高い点 数評価が付けられている急性期病床を相当数 の病院が目指そうといった実態もあったので はないだろうか(12)。また,既に医療機関が設 置されていた場合には,対象者の状態からす れば,介護保険施設や在宅医療で対応するこ
とが適当であったにもかかわらず,それらの 地域資源が十分ではない等の事由もあって,
代替的な機能を果たし得る医療機関への入院 が継続されてきたところがあったのではない かと想定される(13)。
③ 推計方法の違いによる看護職員の需要数 の乖離
以上のような事情等によって,対象住民数 や入院率等に基づき推計される医療サービス に対するニーズを賄うものとして算定される 看護職員の需要数と,既に開設されている医 療機関において雇用し,又は求人をしている という,顕在化した看護職員の需要数とには,
少なからぬ乖離が生じ得るものと考えられ る。このような乖離は,長期的には,医療機 関の機能分化が進展し,介護保険施設への転 換や廃止が実施され,あるいは新規の医療機 関が開設されること等によってある程度縮減 される可能性もある。
しかしながら,現在ないしは近い将来にお ける看護職員の需要とは何かと問われれば,
既に開設され,又は近い将来に開設が予定さ れている医療機関等において雇用され,又は 求人を出すことが予定されている看護職員の 人数をもって需要と観念せざるを得ないので はないだろうか。
④ 看護職員の需要を医療サービスに対する ニーズを賄うのに必要十分な人数とする 場合の問題点
看護職員の需要を論じるに当たっては,最 終的なサービス消費者である患者の医療サー ビスに対するニーズを賄うのに必要かつ十分 な看護職員の人数を想定すべきであるという
考え方も可能性としては排除されるものでは ない。
しかしながら,患者の医療サービスに対す るニーズを実現していくためには,医療の質,
アクセスの公平性,コストという同時に達成 することが困難(14) な課題に対処していかな ければならない。そのことは,患者の医療 サービスに対するニーズをそのまま実現でき る医療供給体制が構築されるものとは限らな いことをも示唆する。
例えば,医療機関等の開設者(看護職員の 雇用者)となるものが当面現れる見込みがな いところについても,その時点の看護職員の 需要に含めることは妥当だろうか。仮にこの 需要に応じて供給を増やした場合には,短期 的には雇用先の見つからない失業者が生じる ことにもなり得る。
他方,いわゆる社会的入院など医療サービ スに対するニーズが真に存在しているのか疑 念があるものも含まれているからといって,
雇用者が求人をしているにもかかわらず,そ の時点の看護職員の需要数のうちに算定しな いという取扱いをすることは妥当だろう か(15)。
⑤ 看護職員の需要を医療機関等が雇用し得 る人数とすることとその問題点
したがって,需要見通しの推計を策定する 目的が,看護職員確保に資する基本的な資料 づくりという当面の供給拡大に向けた施策を 講じるための準備にあるならば,現に雇用さ れることが想定される看護職員の人数をもっ て需要と捉えることは妥当であろう。
このような意味において,病院等の各施設 の看護担当責任者(看護部長等)が各施設(所)
長の了承を得て,各施設における看護の質の 向上や勤務環境などの要因に関し実現可能 と判断して記載した人数を基に積算された 第七次看護職員需給見通しの需要数の把握方 法については,一定の合理性が認められるも のと考える(16)。
しかしながら,看護職員の需要数の把握に ついて専ら医療機関の開設者側に尋ねた情報 に依拠するとすれば,たとえ住民が必要とす る医療サービスに変化が生じたとしても直ち にそれが反映されず,むしろ当該医療機関の 規模を維持することに優先度を置いた判断に よる回答に基づいて推計されるという可能性 も否定できない。
また,請求する上で一定の条件を充足する 必要はあるものの,現在の診療報酬制度にお いては,一般により手厚い看護体制をとった 場合には,より高額な診療報酬を請求するこ とが可能となることから,より多くの看護職 員を雇用する誘因が働いてしまう傾向もある ものと考えられる(17)。
⑶ 長期的な推計における看護職員の需要 これまでの看護職員就業者数の推移をみれ ば分かるように,医療の高度化等の要因から 病床当たりの看護職員数は増加を続けてお り,将来的に適正な配置としてどこまで必要 となるのかを判断することは容易ではない。
短期的には,人材確保にかかるコストを調 達することが困難等の理由によって患者側に 発生する医療サービスに対するニーズにその まま応えることができないとしても,ある程 度の時間をかければ,財源構造の調整等も実 施してニーズへの対応をすることも期待し得 る。その過程においては,他のサービスの代
替的な役割を担っていた医療サービスについ て,その適正化を図っていく必要があり得る だろうし,その実現のためには,政策目標と してサービス供給体制の改革像を示すことも 必要となろう。
すなわち,10 年を超えるような長期的な推 計については,潜在的な看護職員の需要と具 現化した看護職員の需要との乖離を解消して いくために医療供給体制のあり方まで論じる 際の基礎資料という性格が強くなってくる。
その際に重視されるのは,医療という相当額 の公費を投入する政策分野として適切な資源 配分となるかという視点であろう。
また,近年,診療報酬を始めとして医療経 営を取り巻く環境については,比較的短い期 間で大きな変化がみられることから,個別の 医療機関にとって5年を超えて具体的に発生 する需要を予見することは極めて困難である という事情も考えられる。
このため,長期的な推計を策定するに当 たっては,一定の仮定を明示した上で,マク ロ的な推計手法を用いて需要数を推計すると いう方法をとらざるを得ない。
なお,看護職員就業者の現状でもみたよ うに,諸外国と比較しても,我が国の人口当 たりの病床数はかなり多い状況にある。ま た,病床当たりの医療従事者を手厚くし,患 者の平均在院日数を短縮するのが,各国に共 通してみられる動向となっている。我が国に おいて,どこまでこうした動きに追随するこ ととなるのかについて一概に論じることはで きないが(18),仮に平均在院日数が従来よりも 更に短縮されるのであれば,全体として必要 となる病床数も減少し得るのではないかと想 定される。
このように,長期的な推計の策定について 検討するに際しては,医療機関の機能分化や 在宅医療の進展についても併せて考慮してい くことが不可欠である。したがって,社会 保障・税一体改革成案がいくつかの改革シ ナリオを設定して,その条件の下で必要数を 求めたことについても合理性が認められよ う。
また,このような長期的な推計については,
今後の制度改革の進展等に絶えず影響を受け るものであることも十分留意すべきである。
2.地域的な拡がりの範囲
看護職員の需要については,個々の医療現 場ごとに発生するものであるが,当該医療現 場の求人活動を超えて体系的な確保対策を講 じようとするのであれば,一定規模の地域的 な拡がりにおける需要をとりまとめていく作 業が必要となる。
このとりまとめの行程は,どの程度の地域 的な拡がりを前提として実施されるべきなの だろうか。また,誰が中心となって地域の需 要をとりまとめるべきなのだろうか。
前述したとおり,現在の看護職員の需要に ついては,地域の医療供給体制に大きな影響 を受けることから,これに関する情報を参酌 せずに検討することは適当ではない。すなわ ち,当該地域の当面の確保施策のとりまとめ に資するという目的の推計であるとすれば,
それぞれの地域的特性について考慮せずに全 国一律に需要数を算定する方法によることは 不適当である。
医療供給体制の構築に関して,医療法は,
都道府県に病院の開設許可の権限を認めると ともに,都道府県が当該都道府県における医
療提供体制の確保を図るための計画(医療計 画)を定めるべき旨を規定している(19)。また,
都道府県は,医療機関等に対する看護職員確 保のための補助金の配分の事務も担ってい る(20)。このような医療供給体制の構築のあり 方や確保対策との連携を考慮すれば,都道府 県に地域の看護職員の需要のとりまとめに当 たって中心的な役割を果たすことが期待され よう(21)。
先にとりまとめに当たる主体の問題から論 じたが,看護職員の需要については,どの程 度の地域的拡がりで検討すべきか,という問 題についてはどのように考えるべきだろう か。
通常の入院医療を念頭に置いた医療供給体 制との関わりで考えれば,二次医療圏単位で の医療機関整備の一要素として看護職員確保 を考えることも一定の理由があるのだろう。
しかしながら,確保対策との連携を念頭に 置けば,都道府県ナースセンターが原則とし て県全域を対象地域としていること(22),看護 系の大学も急増し(23),学校養成所の養成が広 域化しつつあること等から,まずは都道府県 単位での需要を検討対象とし,その上で二次 医療圏ごとの特性に応じた対応を講じること が適当であると考える(24)。
以上で論じたとおり,看護職員需給見通し の策定に当たって,都道府県が病院等に対し て調査を行い,その集計結果を基に都道府県 ごとの需要数を算定した上で,厚生労働省が 全国のとりまとめを行うという現在とられて いる方法は,合理性があるものと考える。
3.専門性等に応じた需要
これまで看護職員の需要については,累次
の看護職員需給見通しにみられるように,基 本的には取得した免許の違いや専門性といっ た要素については捨象して看護職員として一 体的にその需要と供給が論じられてきた。
チーム医療の推進に当たっては,それぞれ の専門職の専門性がより発揮されることが前 提となっているが(25),看護職員の総数の確保 のみならず,質の向上も加味して専門性等に 応じた需給を考えていく必要性があるのでは ないかという点について検討を行う。
⑴ 免許種別による専門性や知識・技能の 差違
看護職員のうち助産師については,助産業 務が業務独占とされていることを踏まえ(26), 第六次看護職員需給見通しと第七次看護職員 需給見通しでは別掲(再掲)されている(27)。 これに対して,保健師については,法的に は名称独占という位置付けであること(28) も あって助産師のような需給見通しの別掲(再 掲)が行われていない。保健師については,
全国で5万 4289 人いる就業者(平成 22 年)
の う ち 就 業 場 所 を 市 町 村 と す る も の が 47.0%,保健所とするものが 13.1%を占める など公務員として就労している者が多いとい う特徴も影響を与えているものと考えられ る。
他方,前述したように看護師と准看護師で は,学校養成所の入学資格,修業年限,教育 の内容や試験の内容のいずれもが異なること から,就業時点で備えている医療知識の量や 深さも大きく異なっている(29)。
このような知識及び技能面における差違と の関連も想定されるが,看護師の就業者の 71.6%が病院で就業し,診療所で就業してい
る者が 15.5%であるのに対して,准看護師で は病院を就業場所としている者は 44.8%に とどまり,診療所を就業場所としている者が 35.4%,介護老人保健施設が 5.8%,居宅サー ビス等が 5.6%と,それぞれの就業場所につ いては少なからぬ相違がみられる(30)。
准看護師については,平成8年にとりまと められた准看護婦問題調査検討会報告が現 行の准看護婦養成課程の内容を看護婦養成課 程の内容に達するまでに改善し,21 世紀初頭 の早い段階を目途に,看護婦養成制度の統合 に努めることを提言していることも踏まえ,
看護師との就業実態の差違について注視を続 けていく必要がある。
⑵ 専門性を備えた看護師
看護師免許を有する者の中には,看護系の 大学を卒業した者もいれば,3年制の養成所 の卒業者もいる(31)。さらには,最近では,看 護系大学院に進む者も少なくない。大学院へ の進学者には研究者を志望する者も含まれて いるが,実践,相談,調整,倫理調整,教育 や研究を担う専門看護師を目指す者も増加し ている(32)。
他方で,実践,指導,相談を担う認定看護 師の制度も設けられており,認定を受けた者 は各医療現場において医療の質の向上に貢献 している(33)。
専門看護師,認定看護師については,その いずれもが日本看護協会の認定によるもので あり,一般の看護師と比較して,法的に実施 し得る業務の範囲などには差違が存在しな い。
もっとも,これらの制度によって一定の専 門性が担保されていることにかんがみ,それ
ぞれの専門分野・領域ごとの専門看護師,認 定看護師については,医療に関する広告にお いて,看護師の専門性に関する資格名として 広告することが認められている(34)。
さらに,特定の診療報酬の算定に当たって は,専従や専任の看護師が配置されているこ とが要件になっているものがあり(35),これら の配置に係る研修要件に該当するものとし て,関係する専門分野・領域の専門看護師,
認定看護師が認められているものがある。
医療に関する専門職である看護職員につい ては,免許を保持していないと就業すること ができないことから,一般の労働市場とは分 断が生じており,部分的な労働市場の中で需 要と供給の調整が行われている。ここで問題 となるのは,さらにこの看護職員の労働市場 の中で,専門性等を備えた看護職員について は,それ以外の看護職員の需要と供給の調整 の過程から分断されて部分的な労働市場を形 成している状態にまで達しているとみるべき かどうかであろう(36)。
前述したように助産師については,業務独 占が認められ,当該業務に従事するに当たっ ては,助産師学校養成所による教育内容を修 め,国家試験に合格することも求められてい る。
これに対して,専門看護師や認定看護師が 従事する専門分野や領域で就労するに当たっ ては,看護職員の免許保持者であれば誰もが 携わり得ることとなっている(37)。
専門性等に応じて個別に需給見通しまで作 成する必要があるかについては,当該分野に おける就業実態において,専門性を備えた看 護職員とそれ以外の者で一種の排他性までみ られる状態にまで達しているかにより判断さ
れるべきである。現在のそれぞれの専門分 野・領域における就業状況としては,前述し た段階までは至っていないところがほとんど ではないかと考えられる。
したがって,一律に個別の専門分野に応じ た需給見通しまで策定することについては,
時期尚早といえよう。当面は,それぞれの専 門分野において,教育・研修を担う機関側が 検討を行った上,全国ベースでの養成目標を 掲げるのが現実的な対応と考える(38)。
なお,看護職員における専門性への対応は,
配属された職場における経験等によって形成 されるところも少なくない。専門性を考慮す るに当たっては,このような医療現場の実態 も踏まえて議論をする必要がある。
Ⅴ.看護職員の供給にかかる課題 看護職員就業者の現状と需給の見通し でみたように,これまで看護職員の就業者数 については,一貫して増加をし続けてきた。
しかしながら,人口の高齢化等から看護職員 の需要数については,我が国の総人口や生産 年齢人口が減少局面にあるにもかかわら ず(39),今後もかなりの規模で増加していくも のと見込まれている。
このような需要見込みに対して,将来的に も供給面で十分な対応をとっていくことがで きるのだろうか。以下では,看護職員の業務 の特徴も踏まえ,供給数を増加させていくた めのアプローチについて改めて検討を行う。
需給見通しを実現するための施策で述べた ように,看護職員確保対策としては,基本的 には,養成の促進,定着の促進,再就業の支 援の3つのいずれかに該当すると考えられる
ことから(40),順次取り上げることとする。
また,これまでの看護職員の確保対策につ いては,最も就業者数の多い病院におけるそ れを中心として講じられてきた。しかしなが ら,今後これまで以上に在宅医療の推進等が 求められるようになっているものの,かかる 分野については,従来からの取組みだけでは 十分な就業者数の伸びが見込めるか懸念があ る。このため,就業分野に特化した確保対策 についても検討する。
1.確保対策のアプローチ
⑴ 養成の促進
① 計画的養成の必要性
前述したとおり看護職員を始めとする医療 従事者のほとんどは,医療機関や施設の開設 者に雇用されている。
一般の雇用関係においては,被雇用者に対 して,従来よりも賃金や労働時間で有利な条 件が提示されることによって,休職していた 者や他の分野で雇用されていた者までもが当 該企業に求職をするようになって供給が拡大 することとなる。
このように賃金や労働時間で有利な条件を 提示することができるかについては,当該雇 用によって生産される財・サービスが十分な 価格で消費される見込みがあるかに依拠する こととなろう。
これを医療サービスの大宗を占める社会保 険診療に当てはめれば,看護職員の確保につ いては,その雇用に十分な診療報酬が設定さ れているか否かがすべてを決定するようにも 思われる(41)。
しかしながら,看護職員を始め医療従事者 の労働市場については,それほど単純に論じ
ることができるものではない。何故ならば,
看護職員については,保健師助産師看護師法 31 条1項本文が看護師でない者は,第5条 に規定する業をしてはならないと規定する など,診療の補助及び療養上の世話について 業務独占が認められているからである(42)。
すなわち,看護職員については,医療サー ビスの安全性を確保するために,免許を保有 していない限り当該分野で就労することが認 められない医療専門職と位置付けられている ことから,一般の労働市場とは分断が生じて おり,部分的な労働市場の中で需要と供給の 調整が行われることとなろう(43)。
看護職員の免許を有していない者について は,前述した業務を行うことが法的に認めら れていないことから,ある時点において医療 供給体制を急激に変更して,これに付随して 看護職員の就業者を増員しようとしても対応 することが困難なこととなる(44)。
したがって,看護職員のような医療専門職 としての養成には一定の時間がかかることを 踏まえ(45),計画的な養成に取り組んでいくこ とが不可欠となっている。
② 養成力強化の限界
もっとも,看護職員の養成促進については,
過去の看護職員の需要増加に対応する施策と してよく機能してきたものの(46),更なる少子 化が進展し,18 歳人口が減少していく中で一 定の限界に直面していくものと考えられ る(47)。
看護業務の重要性ややりがいについての理 解が深められ,併せて免許を取得できれば卒 業後の就業状況が極めて堅調であることが周 知されることは,看護師等学校養成所の入学
者の維持確保に一定の効果をもたらすことに 繋がり得るものである。
しかしながら,現在と比べて飛躍的な水準 まで養成力の強化を求める要望があったとし ても,入学者の確保に向けた更なる取組みと しては,男子学生の増加を図ること(48) や本 格的な社会人入学への対応を図ることなど限 られた施策しか想定することができない。
⑵ 定着の促進
① 離職防止対策の重要性―人的な社会資源 という性格―
看護職員を養成するに当たっては多額の費 用がかかるが,看護職員確保対策の沿革で みたように,その確保の重要性にかんがみ看 護師等養成所運営事業を始めとして相当額の 公費がこれまで投入されてきた。
かかる事情を考慮すれば,看護職員の免許 取得者が医療現場で十分な期間就労しないま ま離職してしまう状況が続くことは,看護職 員を社会的な資源としてみた場合,極めて大 きな損失であるといわざるを得ない。
それと同時に,個々の看護職員も,医療専 門職として就労するために少なからぬ年月を かけて知識及び技能の習得を図っているはず である。然るに,実践できる現場にほとんど 携わる機会を持たないまま離職してしまうの は,非常に惜しまれる状況ではなかろうか。
このような観点から,養成された看護職員 については,相応の処遇を確保することに よって医療現場への定着を図り,人的な社会 資源としてできる限り長期にわたって活用さ れることが期待される(49)。
② 離職の理由と対応策
看護職員が離職した理由については,看護 部長等に対して実施した調査では,本人の健 康問題,人間関係,家族の健康・介護問題等 が主な理由として挙げられている(50)。
これに対して,看護職員に対して実施した 調査の結果によれば,退職(したい)理由の 上位には,結婚・出産・育児などの生活上の 理由や,人間関係,他施設(分野)への興味 のほか,超過勤務が多い,休暇がとれない・
とりづらいなどの理由が含まれている(51)。 このような調査結果をみると,看護職員の 場合には,給与に対する不満が相対的に小さ いものであるものと見込まれ,現状よりもあ る程度賃金を増額しただけでは離職を防止で きない可能性が高い(52)。
看護職員の最も多くが就業場所としている のは病院であるが,病院の病棟部門には入院 機能があるため,夜勤を伴う交代制勤務が不 可欠となっている。その一方で,看護職員に ついては,女性の比率が高い職業であること から,出産や育児といったライフイベントへ の対応において,就業時間に関する制約が離 職に繋がっている事例が多いものと考えられ る(53)。
したがって,仕事と育児・介護等を両立さ せながら働き続けることができる環境の整備 を図っていくことが重要であり,具体的には,
労働時間管理における工夫等をさらに進めて いく必要がある(54)。
その一環として業務の改善取組み事例の共 有化を図るとともに,短時間正規雇用(55) 等 を活用し,できる限り看護職員としてまった く実務に携わらない期間を短くするなど多様 な勤務形態の導入を始めとした努力を重ねる
必要がある(56)。
③ 広義の看護職員の職場からの離職防止 一般に看護職員の離職率については,ある 医療機関における年度の平均常勤職員数に占 める当該年度退職者数の割合とされており,
看護職員が特定の医療機関から退職するかに 着目して算定される。
個別の医療機関における職場定着のための 指標としては,極めて重要な数字であるが,
全国の看護職員の労働市場を観念して,当該 市場からの退出(完全に就労しない場合もあ れば,他の業種で就労を始める場合も考えら れる。)をできる限り少ないものにしていく という視点も全国の看護職員の確保にとって は重要である。
すなわち,看護職員が就業できる現場につ いては,医療機関以外にも老人保健施設や社 会福祉施設など介護や福祉も含め多様な職場 があり得るのであり,そうした就業場所まで 含めた広い意味での看護職員としての需要に 応える働き方を支援していくことも考慮すべ きである(57)。
一般に急性期の病棟業務は,体力的にも厳 しい負担が強いられること等から,誰しもが 長い期間にわたって勤務し続けることができ るものではないといわれる。他方,看護職員 を必要とする職場の中には,様々な医療密度 のところも含まれることから,本人の意向と 合致するのであれば,一定の経験を経てそう した分野にシフトしていくといったキャリア パスを構築することも有力な選択肢となろ う。
⑶ 再就業の支援
① 無料職業紹介機能の強化
看護職員の再就業支援の重要性にかんが み,無料職業紹介として,求職者一般を対象 とするハローワークのほかに,職能団体であ る看護協会が実施するナースセンターにおい てナースバンク事業が実施されている(58)。
しかしながら,平成 22 年においては,再就 業者約 11.8 万人のうち,これらの無料職業 紹介によるものは,ハローワーク約 5.3 万人,
ナースセンター約 0.7 万人で,両者を合わせ て 50.8%にとどまっている(59)。
他方,看護職員就業状況等実態調査によれ ば,看護職員として退職経験のある者のうち,
再就職をした者が再就職先を探す際に利用し て実際に再就職に結びついた施設等として回 答があった中では,友人・知人による紹介が 22.1%で最も多かった。
また,近年においては,民間の職業紹介所 を介した再就業もかなり活用されている。こ うした中で,ハローワークとナースバンクの 連携強化を始めとして,公的な再就業支援の 強化は引き続き大きな課題となっている。
② 潜在看護職員の復職
我が国では看護職員の免許は,免許の取消 し事由に該当しない限り(60),生涯その効力を 失わないが,看護職員就業状況等実態調査に よれば,現実には,離職後5年以上経った者 が看護職員として復職することは,容易では ない(61)。
看護職員確保対策の一つとして,約 60 万 人にも達する潜在看護職員を活用すべきであ るとの見解が指摘されることがある。潜在看 護職員に対して,最新の知識や技術等に関す
る臨床実務研修を実施することは,復職の困 難さをある程度軽減することに繋がるものと 期待されるが,潜在看護職員の多くはそうし た施策を講じても従来勤務していた医療機関 等に復職することにかなり困難な面があるも のと考える。
したがって,将来的に看護職員として就労 することを選択肢として残しておきたいとい う離職者に対しては,離職後一定期間内にた とえ臨時雇用職員のような形態であっても看 護業務に携わる機会を持ち続けてもらうこと が重要であると考える(62)。
⑷ 外国人看護師(候補者)の受入れに対 する評価
① 経済連携協定に基づく外国人看護師候補 者の受入れ
近年,経済連携協定に基づきインドネシア,
フィリピン両国からの外国人看護師候補者の 受入れが始まっている(63)。
もっとも,この外国人看護師候補者の受入 れについては,経済活動の連携の強化の観点 から特例的に行われているものであり,看護 分野の労働力不足への対応ではないと位置付 けられている(64)。
経済連携協定に基づく外国人看護師候補者 の受入れについては,看護師としての就労を 認めるまでに我が国の看護師国家試験への合 格を必須としていることから,人材養成の特 殊な形態とみることも可能であろう(65)。
② 外国人看護師の受入れの是非に関して考 慮すべき事項
それでは,上記の段階にとどまらない人の 移動については,どのように考えるべきであ
ろうか。例えば,EU においては,域内で看 護師の養成課程を修了した者については,資 格の相互承認が行われているが(66),将来的に 我が国がアジア諸国からこのような形態を通 じて外国人看護師の受入れを推進していく余 地はあるのだろうか(67)。
この問題に関しては,次に掲げる4つの点 について考慮する必要があるものと考える。
第一に,我が国は,専門的な知識,技術,
技能を有する外国人については,我が国の経 済社会の活性化に資するとの観点から積極的 に受け入れることとしている(68)。この中に は,医師や弁護士,情報通信分野等の技術者 など,高度な資格,専門知識,技術を有する 高度専門・技術分野の人材も含まれる。
我が国の免許を受けた看護職員についてもこ れに該当する(69)。
第二に,医療の在留資格が認められるの は,我が国の国家試験に合格し,看護職員の 免許を受けた者となっている。これは,医療 サービスに係る専門職のあり方については,
国民の生命・身体の安全にも直結することも あり得ることによるためである。看護業務に ついては,専門職による対人サービスであり,
専門的な医療看護情報についてその国の言語 で的確なコミュニケーションをとる必要があ ることから(70),日本語による国家試験が実施 されている。
第三に,送出し国の医療供給体制に与える 影響についても考慮する必要がある。2010 年5月の WHO 総会で採択されたWHO 保 健人材の国際的リクルートに関する実施規 程においても,国際的に先進国が保健人材
(医師,看護師)を取り合う状況が出現した ことに対してルール化を図るための原則を定
めており,保健人材の持続可能性に関して,
保健人材の確保に向けた各国の努力が必要と されている。
第四に,アジア諸国も今後急速に少子高齢 化を迎えていくことが予想されている(71)。
これらの状況を踏まえた上でどのように判 断するかであるが,我が国は生産年齢人口の 減少を迎えているものの,製造業における製 造拠点の海外移転などから国内で製造業に従 事する者が急激に減少している。このような 経済状況の下において,医療や介護サービス については,地域において確実に雇用確保が 求められる場ともなっている。
また,大量の外国人労働者の受入れについ ては,単に雇用問題のみでなく,生活,教育,
文化や社会保障制度など広範な分野におい て,長期にわたる影響が生じるものである。
このため,国内における看護職員の需給の状 況の推移も踏まえ,慎重に検討していく必要 があるものと考える。
⑸ 小括
看護職員の新規養成に対して従来のような 大幅な伸びを期待することが困難である以 上,医療機関等においては,一定の費用がか かるとしても看護職員の定着促進を進めてい くことが不可避な状況となっている。
医療サービスは,住民生活を維持していく 上で不可欠のものであるにもかかわらず,医 療従事者にも憲法上保障されている職業選択 の自由や移動の自由があることから,強制的 な手法によって資源配分をすることが容認さ れていないからである。
一方で,看護職員の業務については,業務 独占が認められているが,その業務内容を再
精査し,看護補助者や事務職員といった他職 種によって実施可能な業務については積極的 に権限委譲を実施することにより(72),真に必 要となる業務への集中を図ることも課題であ ろう。
2.就業分野に特化した確保対策
看護職員については,資格を取得した直後 はその多くが病院の病棟部門で就労し,その 後,病院の外来部門や診療所,さらには介護 保険施設などを就労場所とする者が現われて くる(73)。
ここでは,今後ますます在宅医療の進展が 期待されているにもかかわらず,既に指摘し たとおり就業者数があまり増加していない訪 問看護という就業分野について取り上げるこ ととしたい。
新人看護師で最初の就労場所として在宅医 療を選択する者が極めて少ないことは前述の とおりであるが,看護師等養成所の運営に関 する指導要領(74) においては,実習施設等に 関する事項として,在宅看護論の実習につい ては,病院,診療所のほか,訪問看護ステー ション等の実習施設を確保することとされて いる。訪問看護という働き方があることにつ いて,看護職員になろうとする者に対して普 及啓発を図る上で,このような看護基礎教育 における臨地の経験は大変重要である。
もっとも,医療機関等に勤務する看護職員 と比較して,訪問看護職員の就労の特徴とし て挙げられるのは,看護師1人によるサービ ス提供であること,24 時間の待機体制である こと,非常勤職員が多いこととなっている(75)。
このような訪問看護という働き方の特徴の 中に看護職員の定着の難しさがあるとすれ
ば,結局のところ,かかる就労環境を改善し ていくための個別の支援策を地道に積み重ね ていくほかないとも考えられる(76)。
他方,訪問看護ステーションについては,
一般に事業規模が小さいため単独で研修を実 施することが困難であることや職員の乳幼児 保育に対応することが困難なところが少なく ないといわれている。したがって,利用者が 重度化し,緊急対応が求められる中で事業所 規模の拡大など訪問看護サービスを安定して 提供できる体制の構築も求められているもの といえよう(77)。
Ⅵ.おわりに
本稿においては,看護職員確保対策の沿 革や看護職員就業者の現状と需給の見通 しの概観に続いて,看護職員の需要把握に かかる課題について検討をした。
看護職員の需要については,最終的な医療 サービスに対するニーズに基づく医療機関等 の整備目標に応じた人数という捉え方と,開 設された医療機関等が雇用し,又は求人を出 す予定の人数という捉え方があり得るが,ど ちらの推計手法により算定すべきかについて は,看護職員の需要見通しを策定する目的に 応じて判断すべきものである。すなわち,策 定の目的が当面の供給拡大に向けた施策を講 じるための基本的な資料づくりであれば後者 の考え方によるべきであり,医療供給体制の あり方の検討まで視野に入れた長期的な推計 であれば前者の考え方によらざるを得ない。
また,看護職員の需要把握をどのような地 域的拡がりで行うかについては,確保対策と の連携も視野に入れる必要があることから,
まずは都道府県においてとりまとめを行うべ きである。
さらに,専門性等に応じた需要の把握につ いてであるが,個別の需要見通しまで推計す る必要が認められるかについては,当該分野 の就業に関して専門性等に応じた排他性が認 められるまで分化が進展しているか否かによ るものと考えられる。
続いて,看護職員の供給にかかる課題に ついて,養成の促進,定着の促進,再就業の 支援といった確保対策のアプローチごとに検 討を行った。看護職員については,人的な社 会資源であるという視点をもって,できる限 り有効に活用し続けられる環境づくりを進め るべきであるが,業務の内容の再精査により 真に必要となる業務への集中も課題である。
さらに,今後ますます在宅医療の進展が期 待されているにもかかわらず就業者数があま り増加していない訪問看護という就業分野の 確保対策についても検討した。
これまで論じたところにも現れているよう に,医療が直面する多くの課題と同様に,看 護職員の人材確保のあり方については,医療 供給体制や医療保険制度といった医療システ ム全体からこの問題だけを切り離して論じ,
あるいは対応策を講じることができるような 性質のものではない(78)。現在の医療供給体制 は,看護職員の需要が顕在化するのに大きな 影響を及ぼすものであるとともに,必要不可 欠なサービスは実現されるべきであるという 需要側からの要請は,医療供給体制のあり方 を検討するに当たって非常に重い課題でもあ るからである。
また,医療機関の機能分化や在宅医療の進 展の程度など,医療が提供される場が今後ど
のように変化していくのかによって,そこで 就労することが必要とされる人材の質や規模 は大きく左右される。他方,比較的短期間に 供給量を増大させることが可能な医療器材と は異なり,医療人材については計画的な養成 が必要とされることから,現実的に供給可能 な医療従事者数が,医療を提供する場のあり 方に制約を課すという側面もある。
本稿は,この関係性に留意して,看護職員 という医療従事者に焦点を当てて,需要と供 給に関する諸課題を論じようとしたものであ るが,主たる論点を再確認するにとどまった 部分も少なくない。
今後,看護職員の就業状況に関して,労働 条件の基本的な要素である賃金や労働時間に 関する調査結果について分析を加え(79),考察 を深めていく必要があるものと考えている。
医療保険によって給付を受けることができ る医療サービスの内容は,看護職員の配置を 含む医療供給体制によって大きな影響を受け るものである。したがって,看護職員を確保 していくためにどの程度の社会的なコストを 負担していくか,医療サービスの最終的な消 費者であり,負担者でもある国民が納得でき る水準を探る努力を重ねていく必要がある。
注
⑴ 厚生労働省医療施設調査によれば,平成 22 年 10 月現在における我が国の病院の開設者は,
医療法人が 66.0%で最も多く,個人の 4.7%と 合わせ,民間立のものが7割を超えている。こ れに対して,国は 3.2%,公的医療機関も 14.7%
にとどまっている。
⑵ 労働需要,労働供給,雇用調整の基本的な考え 方については,清家篤 労働経済(東洋経済新 報社,2002 年),太田聰一・橘木俊詔 労働経済
学入門〔新版〕(有斐閣,2012 年)等を参照され たい。
⑶ 他方,労働供給については,労働者に支払われ る賃金が高い程,就労しようとする者が増加し,
賃金が低くなれば,就労しようとする者が減少 することとなる。
⑷ 福祉国家については,武川正吾 福祉社会〔新 版〕― 包 摂 の 社 会 政 策(有 斐 閣,2011 年)
203-211 頁等を参照されたい。なお,福祉国家の 展開と憲法の関係を主として米国との比較を通 じて論じたものとして,尾形健 福祉国家と憲法 構造(有斐閣,2011 年)がある。
⑸ 情報の非対称性については,池上直己医療保 険の給付範囲をめぐる論点―混合診療と特定療 養費制度 講座医療経済・政策学第2巻 医療 保険・診療報酬制度(勁草書房,2005 年)の 242-244 頁を参照。
⑹ 患者と医師ないしは医療機関の関係は,法的 には,医療側が患者に対して,最善の医療を提供 し,患者が,これに対して対価を支払うことを基 本とする双務契約である医療契約と捉えるのが 通説的理解である。医療契約の内容については,
増田聖子医療契約総論加藤良夫編著 実務医 事法講義(民事法研究会,2005 年)94-100 頁を 参照。
⑺ 訪問看護を対象とした研究であるが,中島民 恵子ほか訪問看護利用者数および訪問看護師 必要数の推計厚生の指標 Vol. 58(11)(2011),
30-37 頁は,こうした考え方に近い方法で推計を 行っている。ただし,近似するのに他に適切な 方法が得られるかという事情はあるものの,ニー ズのみならずコストないしは人材確保の問題と いった供給面からの制約を受けている現在の利 用率を基に推計している点については,結果と して人口構造の変化だけが反映されているに過 ぎないのではないかという点で疑問が残る。
⑻ 前掲注⑺と同様に訪問看護を対象とした研究 であるが,田口敦子ほか訪問看護の潜在ニーズ を含めたニーズの推計厚生の指標 Vol. 59(4)
(2012),16-22 頁は,訪問看護を現在利用して いる者(顕在ニーズ)のみならず,訪問看護の利