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古材の樹種とこれ等の樹種の地理的分布について(
針葉樹)
著者 平田 善文
雑誌名 古文化財教育研究報告
巻 2
ページ 21‑26
発行年 1973‑03
URL http://hdl.handle.net/10105/360
古材の樹種とこれ等の樹種の地理的分布について(針葉樹)
平 田 善 文
(奈良教育大学 林学教室)
緒 言
古代における木材の利用について、建築材料、仏像彫刻材料、および遺跡の発掘による出土木 材の3ツに分けて、これ等の文化財に使われ、あるいは出土した木製品のうち現在分っている樹 種のうち比較的多いものを選び、それぞれの樹種の植物分類学的位置と、わが国での天然分布の
実感について調査した。
このことは、文化財の保存科学に際し、現存文化財としての建造物、仏像等の修複、修理、改 築に際し材料として直接的係することであり、父出土木材の保存に際し、樹種の同定は勿論、保
存科学の面から木材の本質究明のためにも極めて必要なことと云える。この研究の幾会をいただ
いた古文化財教育研究室長市川米太博士に深甚の謝意を表する。
調 査 方 法
建築材料としては、法隆寺、興福寺、唐招挺寺の三寺について最も多く使われていると/キ
Chamaecyparis obtusa End、を選び法隆嶺こ比較的多く使われているアカマツPinus densiflora Sieb et Zuccを尚対比のためにクロマツPinus
thunbergiiParlatoreを選んだ。
仏像彫刻材料としては、法隆寺、法輪寺、中宮寺、唐招提寺、室生寺、当麻寺の仏像の材料が
クス、ヒ/キ、ケヤキ、カヤ、白檀が多かった。このうちヒノキ、カヤTorreyanucifera SIEB et Zuccを選んだ。
出土木材については 平城宮跡、石見遺跡、興福寺旧食堂跡から出土したものの中から、ヒノ
キ、コウヤマキSciadopitys verticillata Sieb et Zuccおよびスギ Cryptomeria japonical).Donを選んだ。
以上奈良を主とし、針葉樹6種について、植物分類学上の位置づけ、わが国における天然分布 の実態を謁宜した。
分類は、A.Englerの分煩大系を改訂した伊藤洋博士の新高等植物分煩表によった。学名は
大井次三郎博士の改訂新版日本植物誌によった。
ー21−
天然分布の実態調査は、幸い1963年から1969年にわたって国有林林野の調査を北陸、
中部、近畿、中国、九州の5ブロックについてさしてもらった時の資料にもとづいて、林弥栄博 士、矢頭献一博士、岩田利治氏等の資料を引用さしてもらった。
結果および考察
1.植物分類学上の位置づけ
この度の6樹種を分類すると、4科5属6種である。参考のために4科に含まれる属および 種の数について、世界と日本に分けて表に挙げた。
こゝに挙った樹種は何れも裸子植物のなかの松柏類Coniferae(又は球果植物煩 Coniferales)に位置づけられる科で、この煩のなかに、世界では7科47属約500種 が分布していると云われる。日本には6科16属41種分布している。表でも分るように、6 種の樹種が属する4科に含まれる属および種の数が、世界で36属36種、日本でも14属
35種の多数に及んでいる。
古文化財のなかの木材について、樹種の同定の必要性とむつかしさが分る。
これ等の5属のなかに、日本のみに分布する日本固有の属が3属ある。スギ属
Criptomeria、ヒノキ属Chamaecyparis およびコウヤマキ属Sciadopitysで ある。この3属のうちヒノキは2種であるが、スギ、コウヤマキは何れも1属1種である。
第1表 植物分類学上の位置づけ
科 名 属 名 種 名
Taxodiaceae
ス ギ 科
Taxodiaceae
ス ギ 科
Cupressaceae
ヒ ノ キ 科Pinaceae
マ ソ 科
Pinaceae
マ ツ 科Taxaceae
イ チ イ 科
Cryptomeria JapOnicaD.Don
ス ギ 属 ス ギ
Sciadopitys verticillata
Siebold et Zucc
コウヤマキ属 コ ウヤマキ
Chamaecyparis obtusa End
ヒ ノ キ 属 ヒ ノ キ
Pinus
マ ツ 属
Pinus
マ γ 属
Torreya
カ ヤ 属
densiflora Siebold et Zu
ア カ マ ソ
thunbergll Parlatore
ク ロ マ ツ
nucifera Siebold et Zu
カ ヤ
4
5 6−22−
2.地理分布について
6樹種のわが国における分布の状況を地域別にまとめたのが2表である。参考として九州、
四国、本州、北海道の四地域の外に朝鮮半島を加えた。
この表で分る通りこの度の6樹種は何れも北海道を除いてわが国における最も普遍分布の樹
種と云えよう。而も直幹性、材質の点から今日も有用樹木として価値の高い樹種である。これ
等の樹種を利用した古文化財が全国的に多いことが首肯出来る。埋蔵文化財を通じての朝鮮半 島とわが国との文化交流が多くなりつゝある。出土木材の樹種の同定はさておいて、この度の6樹種のうちアカマツ、クロマツ、およびカ ヤのみが共通分布し、スギ、ヒノキ、コウヤマキの3種は朝鮮半島には分布していないと云う のが定説である。元京都大学教授であった故尾中博士が、扶飴の陵山割こある音楽王の古墳か
ら出土した棺材を調査された結果コウヤマキであり、これは恐らくわが国から送られたもので あろうと断定された。各樹種の特性については后日報告する予定であるが、島倉博士の調査さ れた宮山古墳の棺材および天神山古墳の穂材共にコウヤマキであったと報告されている。コウ ヤマキは耐水性、耐腐性の強い樹種であることは現在も利用上の特性として認められている。
古代において既にコウヤマキの利用にあたって樹種の特性を活用していたことは興味深い問題
である。
第2表 わが国における地域別分布の状況
樹 種 朝鮮 九州 四国 本州 北海道 世界の主分布地域
ス ギCryptomeria
JapOnicaD.Don
(⊃ ○ ○ 日本のみ
ヒ/キChamaecyparis
obtusaEnd
日本、台湾、北米 ○ ○ (⊃
アカマソPinusdensiflora
SiebbldetZucc
○ ○ ○ ○ 北半球クPマツplnuSthunbergll
Parlatore ○
コウヤマキSciadopitys
Verticillata ○
SieboldetZucc
カヤTorreyanucifera
SieboldetZucc (⊃
次にわが国における6樹瞳の分布の状況を示したのが3.4表である。
普通、植物の地理分布については、経度による水平分布と、海抜高による垂直分布のコツに ついて述べるのが通例である。
−23−
この度の6樹種についても同じ方法を用いた。
3表は各樹種毎に分布範臥北限地および南限地の凡その経度、と確認された所在地をまと めたものである。文京良県における所在場所を誌した。このうち、アカマソ、クロマツについ ては実際は殆んど二次天然生林である。
既に述べた如く各樹種共にわが国における極めて普遍分布を示すことが分る。
分布を量的な視点から見た場合、天然分布の場合天然更新性の強いアカマツ、クロマツが多 いが、スギ、ヒノキについては、秋田(スギ)木曾(ヒノキ)が主で他の地方は趣く限られ た分布になりつゝある。コウヤマキはその生長のおそいことから高野山の1部を除いて殆んど 群生地が次第に衰退しつつあるのが実情であろう。カヤは大群生地は殆んどなく、小郡状ある いは点在状の分布が多い
第3表 水平分布の状況
樹橿 北限地および緯度 南限地および緯度 分布範囲 奈良県における分布
スギ
山岳地凡そ3げ15′島下屋久 吉野群山の峯筋に点在
ヒノキ 〝
台山系に多い。
アカマツ 覚空曹屏竺曹前岳
高取国有林の1乳多
〝
く二次天然生林である。
クロマツ 鹿児島県トカラ群島宝 〝 生絢山系に点在。十津
北緯凡そ41J34′
島凡そ2ダOg
川下洗流域に点在福島県九才峠、安坐山 宮崎県三財川流域 大台山系の頂上附近
北緯凡そ37037′
黒滝村の頂上附近コウヤマキ 〝 天辻峠の
自谷川(上北山村)流 域
大峯山系
宮崎県御岳国有林 鹿児島県屋久島 春日山原始林
カヤ
凡そ3げ1イ
〝何れも点在する程度
垂直分布に関しては、4表に示す通りである。参考までに最低の所在地および最高の所在地 をそれぞれ該当する地力のところに誌した。地方によって差は謎められるが、クロマツが最も 低山性を示し、コウヤマキが比較的亜高山性の樹種であることが分る。他の樹種は水平分布と
同様に垂直分布においても普遍分布を示す。ー24−
第4表 地万別垂直分布の状況
樹瞳 地方 東 北m 関 東m 中 部m 近 畿m
中 国ア花四 国m 九 州m
ス
ギ 100〜12500〜1550 150〜1400 300〜1400 300〜1850
最低分布新宮市浄島 最高分
400〜600
ヒノキ 15〜1200
長野燕岳 新宮市大浜
アカマソ 5〜1200
2〜1800
2〜2290 2〜1500 2〜1200 2〜1300 2〜1500長野南佐久郡大山
クロマソ 0一−400 0〜300 0〜900 0〜900 0〜900 0〜900
鳥取大山
500〜650
280〜1750200一−1650
コウヤマキ
岐阜木曾国有林兵庫加東郡小野
20〜800
5〜1550
5〜1550 5〜1500カ ヤ 10〜900
茨城村松国有林 長野北又沢国有林
摘 要
古材に関する樹種の同定は勿論保存科学のための木材の特性研究のために必要な古材の樹種の
植物分頬学上の位置づけを行って、これ等の樹種がわが国において天然分布をしている実麒を調 査した。
1.この度の6樹種(針葉樹)は松柏頼で、4科5属6種に分類される。4科に含まれる樹種の
数は世界に36科凡そ360種が分布し、そのうち日本には14属31種類分布している。類似の特性を有する樹種が多い関係から樹種の同定については細心の注意が必要であると考えら
れる。
2.わが国における地理的分布の実感については、北海道を除いて6樹種何れも、水平分布およ び垂直分布共に広く分布し、極めて普遍的に分布をしている。而しながら天然分布の量的な面 から考察すると、充分の計量化が出来なかったが、各樹種共に減少の傾向にあると考えられる。
古材に関する研究については現存する樹種との対比が極めて重安であることから、今后尚多く の樹種についてこの種の調査研究と併せて古材の保存についても研究する予定である。
文 献
(1)伊藤洋:新高等植物分類表1968
(2)大井次三郎:改訂新版日本植物誌1965
(3)小原二郎:木材の老化に関する研究、日本林学会関西支部大会講演集 4号1959
(4)小原二郎:古材について、木材工業 9号 1954
(5)小原二郎:古材について(そのⅢ)、木材工業10、1955
(6)北川尚史:考古学と植物学、古文化財教育研究報告 1弓1972
(7)沢田正昭:保存科学とその方法論的諸問題、考古学と自然科学、4号 1971
(8)島倉己三郎:大和古代木材考(第1報)、奈良教育大学紀要、自然科学15号
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