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企業環境の新動向と経営課題

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131

企業環境の新動向と経営課題

克 彦

 目   次 1 序

皿 企業とシステム的接近

 (1)社会経済的システムとしての企業  (2)オープン・システムとしての企業  (3)相互作用システムとしての企業と社会 皿 企業環境の新動向と経営課題

 (1)企業環境の動向   (i)経済理念の変化   (ii) 企業の社会的責任の増大   ㈹ 参加の進展

  (iv)技術革新の展開   (v)政府活動と規制緩和

  ㈹ 企業環境の世界化と市場競争の激化  (2)現代の経営課題

]V 現代の企業と経営者  (1)企業像とその展開

  (i)伝統的企業像から経営者的企業像へ   (ii)新しい企業像の必要性

 (2)経営老の役割

  (i)デイヴィスらの経営者機能論

  (1i)基本的機能としての境界機関と変化機関 V 企業環境の世界化と日本的経営

 (1)企業の多国籍化と企業経営

 (2)日本的経営とその移転可能性

 (3)東南アジア社会と日本的経営

(2)

132

1 序

 現代の企業は社会との係わり合いのうちに存在するが,社会の高度化に伴いその構造と機 能はますます複雑化する方向にある。また,社会において展開されつつあるところの諸変化 は,企業の性格およびその経営者の役割についての新しい見方を要請している。本稿ではま ず,これらの点について論ずることにする。

 ところで,企業環境としての社会は,世界的な広がりをもつようになっており,このこと は幾つかの新たな企業経営課題を経営者に提示する。わが国の企業の場合,かかる課題の1 つは日本的経営の国際的移転可能性である。されば本稿ではまた,企業環境の世界化に伴っ ての日本的経営の移転可能性の問題についても,東南アジア社会への日本的経営の移転可能 性を中心に考察することにしたい。

∬ 企業とシステム的接近

 企業の大規模化,ならびに企業環境の拡大と複雑化は,企業の構造と機能についての理解 を困難たらしめる傾向にあるが,かかる困難の打開策として多くの論者が提示するものが,

企業へのシステム的接近である。それは企業をより大きなシステムのサブシステムとして,

あるいは企業をサブシステムより構成されるシステムとしてとらえようとするものである。

ここでは企業を社会経済的システムおよびオープン・システムの角度から,ならびに企業と 社会の関係についての相互作用システムの角度から考察することにより,現代の企業の特質 を把握するための手掛りを得ることとしたい。とれら3つの接近は,相互に密接に関連する

ものである。

 (D 社会経済的システムとしての企業

 企業を経済的システムとして理解することは,企業が経済という社会のサブシステムの中 の代表的な制度であり,企業の基本的な機能が財貨と用役の提供にあることを明らかにする。

 ひとびとはその生活を営むためには,あい集まって社会を形成するが,社会はその存続の ためには,その内部において4種の機能が遂行されることを必要とする。第1の機能は価値 ないし目標の設定と,目標ないし価値の実現へ向けてのひとびとの協同の達成である。第2 の機能は,目標達成に必要な財貨と用役の準備である。第3の機能は,価値を維持し促進す ることである。第4の機能は,上記の3機能の円滑な遂行の促進である。この場合,システ ムとしての社会は,これら4種の機能の夫々を分担するところのサブシステムを有するので あって,第1の機能を担当するサブシステムがいわゆる政治であり,第2の機能を担当する ものがいわゆる経済である。また,第3の機能を担当するサブシステムがいわゆる文化であ

り,第4の機能を担当するものがいわゆる社会である。そして,企業は経済というサブシス

(3)

      133       エ  テムの代表的な制度である。

 このように企業の基本的機能は,財貨と用役の提供という経済的機能の遂行にある。むろ ん,企業は社会において経済なるサブシステム以外のサブシステムのすべてにも係わり合う が,その基本的機能は経済的機能の達成であって,この意味でそれは経済的システムである。

 経済システムとしての企業は経済的機能の遂行のために,社会から人的ならびに物的資源 を獲得するとともに,財貨と用役の産出に向けてこれら資源の処理・加工を行う。より具体 的にこの点を述べるならば,それはまず,資金提供者から資金を獲得しかかる資金を用いて 作業的労働力,経営管理的労働力,原材料,設備,経営情報,等の資源を調達する。ついで それは,これらの調達された資源を結合することにより,財貨と用役を産出する。最後に,

かくして産出された財貨と用役はその費消者に引渡されるとともに,企業は費消者から財貨 と用役の対価として受領するところの貨幣収入によって使用資金を回収する。かかる過程は 連続的かつ循環的であるとともに,過程の中で資金と経営情報および労働の熟練の蓄積が生 ずるのである。なお,企業におけるこれら一連の過程の存在は,財務,生産,販売,等の機 能的サブシステムを企業内部に存在せしめることになる。

 ところで,市場経済体制の下では企業はこのような経済的機能を市場との係わりの中で遂 行することになる。すなおちそれは,資本市場,労働市場等の資源市場より資金,労働力,

原材料,設備等を導入し,企業内部でこれら諸資源を財貨と用役に加工するとともに,製品 市場でこの財貨と用役を引換えに売上収入を獲得する。売上収入は処分されて資金提供者へ の元本返済と報酬提供,政府・地方自治体等の市場外よりのサービス提供者への対価支払,

ならびに状況によっては労働サービス提供者等への追加支払にあてられるとともに,残余は 企業活動の拡大のために企業内に留保される。この意味では企業の経済的機能は,財貨と用 役の提供とそれによる貨幣収入の獲得,ならびに資源提供者および企業自身への収入の配分 として示されることになる。今日の企業は市場内外でさまざまな関係者と係わり合っている       

が,図はかれらへの売上収入の配分の形態を示している。図では留保利益は所有者帰属分に 分類されていないが,それは所有と支配が分離し多目的化した現代の企業にあっては留保利 益を伝統的に所有者のみに帰属せしめうるかについて論議の余地のあることによる。また,

仕入先帰属分に属せしめられる減価償却費は蓄積されて資本提供者への元本支払に充当され

る。

 以上のように企業を経済的システムとして理解することにより,企業の基本的機能が明ら かとなる。しかしながら,今日の企業は社会のサブシステムの1つとしての経済にのみ係わ

り合うことを許されない。それは,社会の他の諸サブシステムの期待に応えることを要請さ れているのであって,ここから企業を,経済的システムから一歩進めて社会経済的システム

として理解する必要がある。

 すなわち,今日の企業は社会目標の設定とその実現,社会の価値パターンの維持,社会の

統合といったことがらに関心をもつことをも要請されるに至っている。すなわち,それは社

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134

会のひとびとのさまざまな社会的ないし非経済的なニーズに応えることを期待されているの であって,財貨と用役の提供を通じての収益の獲得,およびその配分という前述の経済的機 能に加えて,社会の非経済的ニーズへの対応という社会的機能を担当せねばならない。この 社会的機能は一般に,市場メカニズムとは異なるメカニズムの下で遂行されることになる。

 デイヴィスらは,今日の社会が企業についての伝統的な経済的モデルとは異なった,いわ ば企業についての社会経済的モデル(Socioeconomic Mode1)を要請しているという。ここ に企業についての社会経済的モデルとは,企業を社会との経済的関係および社会的それの両 者を満足させる必要性を伴うような社会のサブシステムとしてとらえるところのフレーム

ワークであって,企業は独自の経済的制度ではあるが,それはまたその活動が社会的ならび       ヨラ に経済的な一種のアウトプットを提供するところのサブシステムであるとされる。現代の企 業は経済的機能をその基本的機能として有するが,それはまた非経済的機能をも担うもので あって,ここからそれは社会経済的システムとして,すなわちデイヴィスらのいう社会経済 的モデルとして理解される必要があるのである。

財 貨

用 役

提 供

11

消 費 者

よ り

の 売 上 収 入

企業への帰属分(留保)

震麓=羅騨}資本購に帰属

経営者への帰属分(経営者奉給,役員賞与)

従業員への帰属分(賃金,福利費)

政府・地方自治体への帰属分(租税)

地域社会・一般大衆への帰属分(企業寄付)

仕入先への帰属分(減価償却費,原材料費等)

売 上 収 入 の

処 分

 (2)オープン・システムとしての企業

 ところで,現代の企業の特質を理解するためには,企業をオープン・システムとして認識

することが不可欠である。ここにオープン・システムとは,外部環境との係わり合いのうち

に存在するところのシステムを指している。ちなみに,企業の環境とは企業の存続・成長に

影響する諸要因の総計であるが,それは最広義には,社会環境と自然環境より構成されると

(5)

 企業環境の新動向と経営課題       .       135 ともに,社会環境は経済,政治,文化,社会といったサブシステムに分類することも可能で ある。環境はまた,サブシステムの構成要素の一部たるいわゆる利害関係集団の総計として の1次的環境と,利害関係集団の背後にある社会環境一般に自然環境をも加えたところの2        の

次的環境とに分けることもできる。更に環境は,企業とその利害関係集団の間の経済的取引 を扱うところの市場環境と,非市場環境とに分けることも可能である。加えて環境は,外部 ならびに内部といった観点からも分類をなしうるのであって,この場合,内部環境とは企業 に投入された人的,物的,金銭的,あるいは情報的諸資源の企業での諸パターンを意味する。

 現代の企業は,利害関係集団をはじめとするさまざまな社会的ならびに自然的な外部環境 要因から種々の貢献期待,あるいは制約を受けとる形で存在する。企業はこれらの貢献,

期待,制約条件をいわば環境からの企業へのインプットとして受け入れるとともに,そのよ うなインプットに照応するような,ないしインプットを充すような行動をアウトプットとし        らヨ

てもたらすことを必要とする。

 より具体的にいうならば,企業はまず市場の中で,あるいは市場以外の場において,さま ざまな利害関係集団と接触をもつ。かれらは,労働力,資金,資材,売上収入,等といった 経済的・物資的な資源を企業に提供する。かれらのあるものは,政府による法と秩序の維持 の提供にみられる如く,非経済的ならびに間接的な形で企業の経済的機能の遂行に貢献を行 う。他方,かれらは商品の提供,賃金の支払,自然環境の保全,等といった形で企業が経済 的ならびに非経済的にかれらの貢献に応えることを期待するのである。更には企業は,利害 関係集団の背後にあるところのより一般的な経済的,政治的,文化的,社会的な諸要因によ

って,ならびに物理的・自然的な諸要素によってその行動と構造に影響を受ける。この場合,

企業が環境に影響を及ぼすことも忘れてはならないのである。

 企業がこのようなオープン・システムであるということは,ある意味では自明のことであ る。すなわち経済的環境への,わけても各種の市場,とりわけ製品市場への企業の適応はす ぐれて経営者の関心事であったし,経済学や経営学が伝統的にとり上げてきたところの主題 であった。しかしながら,今日の企業は経済一般のみならず政治、文化、社会との間でまた 物理的・自然的環境との間でますます相互作用的関係を有する方向にあるとともに,このこ とは企業あるいはその主体としての経営者に対しオープン・システムとしての企業観の受け 入れを必須たらしめているといわねばならない。

 歴史的にみるならば企業はその発展の初期の段階においては,どちらかといえば内部環境 を重視してきた。その戦略は,生産過程の合理化に焦点を当てるところの生産指向的,内部 指向的戦略が中心であった。しかしながら経済の発展に伴って製品市場における企業競争の 激化と,消費者ニーズの多様化がみられるようになるにつれて,企業はその戦略的決定の領 域として,従来の生産活動の領域に加えて,製品市場での企業適応活動を重視するに至る。

製品差別化等による市場シェア拡大戦略,新製品による新市場開拓を指向する多角化戦略は

そのような適応活動の例である。しかるに,近年における非市場領域への企業の係わり合い

(6)

136

の増大は,企業が従来の戦略に加えてより新しい次元の戦略をもとること,また,経営目的 についても見直すことを要請しつつあるのであって,例えば,自然環境の保全,社会的問題 への配慮等について考えることを企業は要請される方向にある。あるいは,製品市場環境の        ラ 国際化と市場競争の激化は,技術開発戦略の重要性を企業に認識せしめつつある。

 かくの如く,現代の経営環境はオープン・システムとしての企業法の企業経営的意義を増 大せしめている。

 (3)相互作用システムとしての,企業と社会

 現代の企業はさまざまな利害関係集団と社会の諸領域で密接に係わり合っており,利害関 係集団としての社会は企業にとってのいわば第1次的環境を構成する。利害関係集団との相       

互作用の中で企業が存続し成長することは,デイヴィスらのいう「相互作用システム

(1nteractive System)」として企業と社会の関係を眺めることの重要性を裏付ける。

 すなわち,デイヴィスらは,企業がその対外関係および対内関係において利害関係集団と しての社会と密接に係わり合っており,相互影響的関係にあるという。かれらによると企業 は,その内外の多様なグループのさまざまな要求に直面しており,かかる社会的ネットワー クに包み込まれているのであって,企業は社会の部分となっているのである。このことの1 つの結果は,すべての企業決定が社会的インパクトをもつということであり,他の結果は企 業の活力と生存が社会の行為と態度に依存しているということである。かくの如く企業と社 会は一体となって相互作用システムを構成しており,企業は社会の部分であるとともに社会       

は企業に浸透するのである。

 この場合,デイヴィスらは企業と社会の間のかかる相互作用関係に2種のものが存在する という。すなわち,かれらによるとその1つは第1次的な相互作用関係と呼ばれるものであ って,それは財貨と用役を社会に効率的に供給するという企業の主要な社会的役割とより直 接に関連する。それは,財貨と用役を社会のために生産するという企業の主要な使命を遂行 するのに必要なすべての直接的関係を含んでおり,購入と販売のプロセスたる市場でその遂 行がなされる。デイヴィスらはこの第1次的相互作用関係として,企業と株主(資本を投下),

債権者(資金を貸与),従業員と組合(労働を販売),仕入先(資材を販売),卸・小売業者  (製品を配給),顧客(製品を購入),および競争企業(競争)との間の諸関係を挙げる。他 の相互作用関係は,派生的ないし第2次的な相互作用関係であり,かれらによるとそれは,

企業がその第1次的な使命を遂行するときに生ずる社会的インパクト(例えば,自動車会社

の生産する自動車による大気汚染)から生ずるところの企業と社会の関係である。具体的に

はかかる関係には企業と,地域社会,政府および地方自治体,外国政府,社会活動家グルら

プ(婦人,少数民族,消費者,教会,環境主義者),マス・コミ,企業支援団体(商工会議

所,シンク・タンク,事業者団体),および世論との間の諸関係が含まれる。この第2次的

な相互作用は通常,市場の外部で生ずる。なぜならば,第2次的相互作用に係わる集団が関

(7)

 企業環境の新動向と経営課題           「    137 心をもつ問題は市場活動のみによっては容易には接近もしくは解決が図られないからであ

  う る。

 以上のようにデイヴィスらは,企業と社会の関係を相互作用システムとして把握するとと もに相互作用のパターンを2つに分けている。オープン・システムとしての企業は,その外 部に位置するさまざまなひとびとと係わり合いをもつ。むろん,企業はその内部においても ひとびとと係わり合いをもつ。企業内外のこれらの関係者は今日,いわゆる利害関係集団を 形成しておりグループ化するのであって,企業と利害関係集団の関係はかなりに交渉的関係

となる。この場合,関係者は,財貨と用役の生産と配給という企業の基本的な機能に直接に 結びつくような,そして貨幣価格という単一の尺度での測定が容易であるような事項につい ては,しばしぼ価格のあり方をめぐり企業と交渉するとともに,価格を指標として企業への 対応の仕方を決定する。関係者が企業との間にかくの如きパターンで自由意志の下に,非交 渉的関係を含めて相互作用的関係を有するとき,かかる関係は自由市場を形成する。他方,

関係者はまた,企業の基本的機能に直接には関係しないような,そして取引価格をめぐる交 渉には必ずしもなじまないような問題については,企業との間で直接に,あるいは政府への 働きかけ等を通じて間接に,相互作用的関係をもつのであって,かかる関係は市場外の取引 関係を構成する。デイヴィスらの主張は,以上のことを裏付けるものといえよう。

 いずれにしても,現代の経済社会にあっては企業はさまざまな利害関係集団と市場内で,

また市場外で相互作用の関係にある。市場は自由市場として存在するが,そこにおいては企 業間の競争が依然として存在する一方,利害関係集団と企業の間での,取引価格をめぐる団 体交渉的関係もみられる。また,利害関係集団はしばしぼ,市場外で社会的,政治的手段で 企業と係わり合う形で,企業へのその期待を実現しようとするのである。なお,企業と利害 関係集団の間の上記2種の相互作用的関係は,市場外の相互作用が市場における取引条件の あり方をめぐるものである場合には,そしてまた,市場における取引条件のあり方とは無関 係な問題をめぐっての市場外での相互作用が市場での取引価格へのはね返りを生ずる場合に は,関連性を有することになる。

注1)社会のかかる機能的分化については,Tarcott Parsons and Neil J. Smelser, Economy and Socie−

 ty,1956(富永健一訳「経済と社会(1および皿),昭和33年),およびH:arold L. Johnson,

 Disclosure of Corporate Social Performance:Survey, Evaluation, and Prospects,1979(名東孝二   監訳,青柳清訳「ソーシャル・ディスクロージャーの新展開⊥昭和55年)に詳しい。

 2)売上収入の配分については,拙著「現代企業の経営政策」,昭和54年,第3章を参照。

3)K・ith D・vi・, Willi・m F・ed・・i・kl R・b・丘L・B1・m・t・・m・B・・iness and S・ci・ty・C・ncept・and

 Policy Issues, Fourth Edition,1980,p.8,

 4)かかる環境概念に関しては,前掲拙著,第2章。

(8)

138

 5)この点を強調する論者として例えばデイヴィスらを挙げうる(K.Davis et aL, op. cit.,p.14ff.)。

 6)経営戦略のこのような動向を指摘するものとして,例えば森本三男「経営学入門⊥昭和57年,

  第5章。

 7)Keith Davis and Wi11セm C. Frederick, Business and Society:Management, Public Policy,

  Ethics, Fifth Edition,1984.

 8) Ibid., pp.6−7.

 9) Ibid., pp.7〜10.

皿 企業環境の新動向と経営課題

 (1)企業環境の動向

 現代の企業をとり巻くところの環境は,絶えざる変化の過程にあるとともに,そのような 変化は加速化する方向にあるとみてよい。以下,重要と思われる変化の幾つかについてその 動向を簡単に眺めることにする。

  (i)経済理念め変化

 経済および企業についての現実とあり方に関して社会のひとびとが抱くところの基本的な.

見解が社会の経済理念であって,それは企業環境の主要な構成要素の1つである。資本主義 経済社会で伝統的にひとびとが抱いてきた経済理念は,個人主義,私有財産,レセ・フェア

と限定的政府,完全競争市場,私益追求と社会福祉との両立,クローズド・システムであり 経済的ならびに私益追求的単位としての企業,等を強調するところの古典的な資本主義理念

であったとみてよい。他方,今日の社会において普偏的となりつつあるところの経済理念は,

社会と企業の協働,政府の経済的ならびに社会的役割,企業に対する多様な対抗的勢力,企 業の社会的責任,オープン・システムにして多目的的な社会経済単位である企業,等を強調 するところの現代的な資本主義理念であるといえよう。古典的な資本主義理念と現代的なそ れとの併存がみられる一方,後老はより有力となりつつあるのであって,かかる傾向は不可         の 逆的なものである。

  (il)企業の社会的責任の増大

 社会の経済理念の変化と結びつくところの他の環境変化は,企業の社会的責任が増大の傾

向にあるということである。すなわち,企業の大規模化と寡占化に伴って企業は,社会の諸

領域で権力を有するに至っている。また,企業の大規模化と寡占化は,その経済的生活を特

定の企業に依存するところの多くのひとびとを生んでいる。更に,社会のひとびとの価値観

は変化してきており,経済的・物質的価値と並んで非経済的な価値が重視されるようになつ

(9)

 企業環境の新動向と経営課題         ,      139 てきている。かくして企業は,社会のひとびとからの多様な期待に直面するのであり,企業 の社会的責任が登場することになる。

 今日,企業はかかる社会的責任を回避することを許されなくなっている。社会のひとびと はさまざまな形で企業に係わり合うが,かれらは係わり合いの態様に応じて種々の形でグ ループ化し,企業行動を制肘しょうとする。この場合,かれらは直接に企業行動に影響を及 ぼそうとするのみならず,しぼしぼ,政府への働きかけを通じて企業に間接的に係わりあう。

いずれにしても,企業はこれらグループの影響下で,その経営政策を策定せざるを得なくな っているのである。加えて,企業が直面する社会的責任は,経済的な責任と非経済的なそれ との両者を含むに至っているのであって,企業はひとびとの経済的な期待の充足にのみなら        う

ず,非物質的な欲求の充足にも努めることを必要とする。

 この場合,そのような社会的責任の具体的な内容は,社会の急激な変化に伴って今日,大 きな変動の過程にあることを忘れてはならない。例えば,技術革新の急速な進展や,企業環 境の世界化に伴っての製品市場競争の激化は,企業維持ならびに雇用維持の責任を改めて企 業に提示している。あるいは高齢化社会の急速な展開は,高齢者の雇用と能力活用という問 題への対応を企業に提示しているのである。

  (iii)参加の進展

 プレストンらは,社会のひとびとの間に組織の意思決定への参加が増大しつつあることを       ヨラ 指摘し,今日の社会において「参加革命」が展開されつつあるとみるが,今日の社会におけ る顕著な動向の1つに参加の進展を挙げることができる。企業の場合についていえば,多様 な利害関係集団がその利益の実現を求めて,企業における支配,経営管理,ならびに成果処 分をめぐることろの諸決定に直接あるいは間接に参加せんとする。かれらはまた,企業につ いての情報に参加することを求める。企業の社会的行動に関心を抱くひとびとによる株主総 会への出席,取締役会への公益代表の社外取締役の任命,社会的責任への対応情況の企業に

よるディスクロージャー,等といった出来事は,企業をめぐり参加が進展しつつあることを 物語っている。

  (iv)技術革新の展開

 今日の産業社会の特色の1つは科学技術の進歩に伴っての産業技術の急速な進化であり,

またかかる進化の加速化である。生命科学,医学,エネルギー技術,電子工学,情報処理科

学,通信技術,新素材関連科学,輸送関係技術,更には宇宙や海洋関連の科学,等といった

面での近年の止まるところを卸らぬ進歩は,半導体産業,コンピューター関連産業,ファイ

ン・ケミカル産業,精密機器関連産業,医薬品産業,等といったハイテク産業をはじめさま

ざまの産業に大きな影響を及ぼしている。技術革新の展開は,消費者ニーズの創造および変

化,消費者ニーズ充足手段の新展開,製品ライフサイクルの短縮化,他の産業による産業代

(10)

 140

替,等の形で,企業競争を激化せしめるとともに企業に対して成長のための新しい機会を提 供する。なお,技術革新の展開が,技術が社会に対してもたらすマイナス面へのより一層の 留意を企業に要請していることも忘れてはならない。

  (v)政府活動と規制緩和

 近年の社会傾向の特色の1つは,政府の役割の増大と,他方での規制緩和の傾向である。

産業社会の雑雑化・高度化に伴い,政府が社会の諸プロセスで担う役割は一般に増加の方向 にある。例えば企業の社会的影響の増大に伴う社会問題の展開は,消費者保護,環境保全,

等についての政府の役割の増大へと導いてきている。かかる傾向は,今後とも継続するとみ てよい。他方,このことは経済成長の鈍化の下では政府の肥大化と国家財政の硬直化を招来 せしめうることになるのであって,ここから,他面においていわゆる規制緩和が社会的要請

として登場することになる。

 社会のひとびとの経済的ならびに非経済的なニーズのより一層の充足を市場競争の強化と 利害関係者の自律的判断とによって実現せしめることが,規制緩和の狙いであるが,このこ

とはディスクロージャーのより一層の充実等といった責任を企業に課すことになる。

  ㈹ 企業環境の世界化と市場競争の激化

 現代の企業環境の基本的動向の1つは,企業環境の世界化である。資本と貿易の自由化が 世界的に定着してきているが,このことは企業に対し種々の経営課題を提示する。第1に,

企業環境の世界化は基本的には企業に対し,その製品市場と資源市場の拡大をもたらし成長 のための機会の増大をもたらすことになるが,他面,それは,製品市場における競争の激化 をもたらすことになる。企業競争は技術革新の進展や規制緩和に加えるに,外国企業の市場 参入によって一段と激しさをみせることになるであろう B第2に,企業環境の世界化は成長 機会の探究や競争への対応,等を求めての企業のいわゆる多国籍化を促進せしめることにも なるが,このことは企業に対し,本国および進出先のひとびとの経済的・社会的な諸期待に いかに対応すべきかという新たな社会的責任問題を招来せしめることになるとともに,本国 での経営方式の現地適用可能性についても考えることを必要たらしめる。

 (2)現代の経営課題

 以上,現代の企業環境の基本的動向ならびに新動向についてその幾つかを眺めた。企業は かかる環境動向への対応を回避しえない。されぽ,つぎにそのような対応のための経営課題 についてその一端を示すことにする。

 さて,そのような経営課題を一言でいえば,それは社会指向の企業経営を行うという基本

的姿勢を企業において存在せしめることである。すなわち,企業は社会との係わり合いの中

に存在しておりその存続は社会のひとびとの期待の充足の程度にかかっているということ

(11)

 企業環境の新動向と経営課題        ・       141 が,企業経営においてなによりも認識されねぽならない。より具体的にいうならば,企業内 外のひとびとの経済的ならびに非経済的ニーズへの対応の必要性が,経営理念,経営目標,

経営戦略といったものの設定に際して強調されねばならず,経営過程の諸プロセスおよび企 業内の一連の資源処理活動において認識されねぽならないのである。

 この場合,経営理念,経営目標,および経営戦略の夫々のあり方について更にいうならば,

まず,企業と社会についての現代的な経済理念に照応するような経済観,企業観が経営理念 において導入されねぽならない。その際,前述の社会経済的システムとしての企業観,オー プン・システムとしての企業観,社会との相互作用システムとしての企業観といったものが 経営理念の基礎に存在することが不可欠である。

 つぎに,企業をめぐる利害関係集団の諸期待が企業の具体的な目的と責任においてとり上 げられることが必要である。企業の目標は多元的な形で,また経済的ならびに非経済的な種 類の目標を含む形で設定されねばならない。

 目標が設定されたならぼ,目標達成の基本的手段である経営戦略の策定がなされねばなら ないが,そのような戦略は経営過程の諸要素および企業内のさまざまな資源処理活動の1つ もしくは幾つかに関連する。なにが企業にとって戦略的要因を形成するかは企業の置かれた 環境状況によって異なりうるが,参加の進展は企業情報のディスクロージャーといったこと を戦略的要因の1つたらしめうるし,企業環境の国際化・世界化は多国籍企業の社会的責任 や特定の経営方式の国際移転といった,多国籍:企業経営問題を戦略的要因の1つたらしめる かもしれない。

注1)詳しqよ拙稿「現代の経済理念とその動向」,長崎大学東南アジア研究年報,第24・5集,昭和58年。

 2)企業の社会的責任については前掲拙著,第1章を参照。

 3)Lee E. Preston and James E. Post, The Third Managerial Revolution, Academy of Management  Journal, Vol.17 No.3,1974.

]V 現代の企業と経営者

 これまでのところでは,現代の企業を理解するためのシステム的接近の重要性,ならびに

企業環境の変化の動向について眺めてきた。そして,社会指向の企業経営が今日,基本的な

経営課題として登場していることを明らかにした。ここでは,これらの点をより明確ならし

めるため,現代の企業の実態を説明するとともにその進みつつある方向を示すような企業像

ないし企業モデルとはなにか,また今日の経営者が企業経営において担当する基本的な機能

ないし役割とはなんであるかについて考察することにする。

(12)

142

(1)企業像とその展開

  (i)伝統的企業像から経営者的企業像へ

 現代の企業の本質的性格を適切にとらえた企業像ないし企業モデルが企業経営者にとって も,また企業内外の他のひとびとにとっても大きな意義をもつことは,改めて指摘するまで

もない。

 これまでに多くの論者が,企業モデルについて論じている。例えばイールズは伝統会社,

メト・コーポレーション,および環境適応的会社(the We11−Tempered Corporation)とい       り う3つの企業パターンを示している。あるいはジャコビィは企業の動機づけと行動につい て,古典学派的市場モデル,経営者的モデル,および社会環境モデルの3種のモデルを提示

   う

する。ここでは諸論者によって提示されてきた企業像を企業行動への拘束のパターン,企業 の目的,企業の主要な支配者といった3つの角度から整理することによって,最初に2つの 代表的なタイプの企業像を示すことにする。その1つは伝統的企業のモデルであり,他は経 営者企業のモデルである。

 まず,伝統的に経済学,法学をはじめとする諸領域で論者によって提示されてきた企業像 が,伝統的企業である。それは完全競争的市場をその主要な環境とする企業である。市場で は自由にして完全な競争が存在するとされ,かかる市場競争が企業への基本的な拘束を提供 する。企業の目的は所有者のための利潤の最大化である。企業の支配者は所有者たる株主で あり,経営者はその代理人として行動するのである。

 このような伝統的企業のモデルは今日でも依然として,社会の一部で根強く信奉されてい る。他方,所有と支配の分離,市場の寡占化,等といった現象が社会経済に普遍化するに伴 い,幾人かの論者は伝統的企業に代わる企業像を提示するのであって,そのうちの有力なも のが経営者企業のモデルである。それは比較的に限られた大企業が市場を支配するところの 寡占競争経済を想定する。寡占企業間の競争の存在,また,組織化された利害関係者の市場 内外における企業拘束力の台頭,等の要素もモデルには織り込まれるがそれらは企業行動の 主要な制約要因ではない。企業は,かなりに市場内外の財力から自由であるとされる。企業 の目的は,所有者のための利潤最大化ではなく,経営者の効用の最大化であって,それは具 体的には経営者の経済的報酬,安全性,威信,権力といったものの追求として,あるいは企 業内外をめぐる利害関係者への企業の成果の公平な配分としてさまざまに画かれる。企業の        ヨ  支配者は専門経営者であり,1 ゥれは大幅な自由裁量的権力をもつのである。

 企業についてのこれら2つの対照的なモデルがこれまでに強力に論者によって提示されて

きたとともに,伝統的企業のモデルに代って経営者的企業のモデルがより強く主張される方

向にあったとみてよい。しかしながら,既に指摘したような,システム的企業観の必要性の

増大や企業環境の新動向の展開といったことがらは,より現代の企業についてその現実と動

(13)

 企業環境の新動向と経営課題

向を説明しうるところの新しい企業像を要請しつつあるといえよう。

143

  (ii)新しい企業像の必要性

 既に幾人かの論者が,そのような新しい企業像について論じている。例えば上記のジャコ ビイは企業行動についての社会環境モデルを示しているが,そこでは有効に競争的な経済の 存在,長期利潤最大化としての企業目的,L企業の意思決定権力の所在地としての株主と取締 役会,企業行動への外部制約としての市場・世論・政治的圧力といったことが挙げられる。

また,経営者の社会的ならびに慈善的性向に代って長期利潤の最大化が企業の社会的活動の        の

決定要素として示される。

 新しい企業像をどのように理解するかは,今日の企業経営,経済,および社会にみられる 諸動向のうちのいずれをどのような比重でとり上げるか,いかにしてそれらを総合的に把握 するかといった困難な問題を伴うのであり,理解はかなりに恣意的にならざるを得ない。し かしながら,これまでの検討をもとに前述の3つの観点から企業の動向について示すならば,

つぎのようになる。

 まず,企業行動への制約についていえば,それは多元的である。その1つは市場とりわけ 製品市場での競争の存在である。寡占市場における競争に加えて,技術革新の展開は新しい 競争企業を市場に参入せしめつつあるとともに,代替産業を登場せしめつつある。加えて市 場環境の世界化は,企業競争の舞台を国際化する。その2は,市場内外における利害関係集 団の企業への圧力の増大である。現代は参加の時代であり,企業の意思決定に直接あるいは 間接に影響を及ぼそうとする利害関係集団の種類と力はますます増大の傾向にある。

 つぎに企業の目的に関していえば,企業行動への上記のさまざまな制約によってかなりに 規定されつつ,企業の目標と責任は多元化の方向を歩みつつあるとみてよい。社会経済的シ ステムとして企業は,利害関係集団の多様な経済的ならびに非経済的ニーズに応える必要が あり,その目的は経済的な目的と非経済的なそれとによって構成される。この場合,経済的

目的には所有者への利潤という伝統的な目標に加えて他のさまざまな経済的責任が存在する ことになる。

 企業の主要な支配者についていうならば,それはジャコビイのいう株主の復活ではなく,

依然として専門経営者である。もっともかれは独裁者ではありえず,企業の目的は究極的に はとりわけ所有者,従業員,経営者自身の意向を中心に決定されることになる。しかしなが ら,企業経営に関する諸決定,つまり企業支配,管理運営,成果処分に関する決定は,株主 総会や取締役というよりは集団としての専門経営者に直接にはゆだねられるのである。

 (2)経営者の役割

 企業の第1次的な支配者はこのように経営者であり,かれは企業の存続・成長の鍵を握る。

つぎにその役割について考えることにする。

(14)

144

  (i)デイヴィスらの経営者機能論

 経営者の機能についてはさまざまなことが多くの論者によって述べられているが,デイヴ

   ら 

イスらの見解は,社会と相互作用にあるところの現代の企業の主体として経営者が課せられ ている主要な役割を理解するための手掛りを提供しており,まず,かれらの見解をとり上げ ることにする。

 さて,かれらは社会システムとしての企業という観点から,経営者の役割を,計画化,組 織化,人員配置,指揮,統制という伝統的機能の見地からよりも,受託者,境界機関,活動 管理,生産性機関,変化機関,およびリーダーという6つの機能の見地から説明しようとす

  う る。

 これらの機能について簡単に説明するならば,受託者の機能とは,経営者が社会のひとび とから企業に提供される多様な社会的ならびに経済的資源をかれらのために効果的に管理す るという役割である。現代の経営者は受託者として,多様な参加者と構成者から企業に投下 される諸資源を用いてインプットを上回るアウトプットを産出せねばならず,かれらの利害 を調整せねばならない。また,その行動についての説明義務をかれらに負うのである。境界 機関の機能とは,企業と環境の間の橋渡しとして行動するという役割である。経営者はオー プン・システムとしての企業を導いており,環境からのインプヅトを受けとりそれを企業に 投入するとともに,企業からのアウトプットを環境に転送するのであって,環境の要請に応 えつつも企業の要求を充さねばならない。デイヴィスらにあっては活動管理の機能とは,い わゆる企業における資源処理活動の管理を指しているとみてよい。現代の企業にあってはか かる活動は,環境およびパブリックの期待と調和することを必要とする。生産性機関の機能 とは,単位当りのインプット(コスト)に対して最大のアウトプット(ベネフィット)を生 ずるよう資源を用いるという役割である。この場合,今日の経営者は,資本資源のみならず 社会よりの種々の投下資源についてもそれらを賢明に用いることを要請されているのであ る。変化機関の機能についていえば,それは社会の要求に応えうるよう企業を変化させるこ とである。現代の社会にあっては,企業は社会の経済的ニーズに応えうるよう革新に努めね ぽならない。かかる革新は経済的,技術的な側面にのみ限定されないのであって々イノリテ ィのニーズに対応しての雇用慣行の変更,等も含まれる。リーダーの機能についていうなら ば,かかる役割は従業員の指導という伝統的役割に加えて,社会で他の組織のリーダーと並 んで社会のニーズへの対応に向けて社会的リーダーシヅプをとるということを意味するので

ある。

 以上のようにデイヴィスらは,受託者,境界機関,活動管理,生産性機関,変化機関,リー

ダーといった6つの角度から経営者の機能について論じており,企業と社会の関連の広がり

と緊密化に伴いこれらの機能の内容が変化しつつあることを示している。経営者の機能につ

いてのかれらの上記の分類・説明は,今日の企業が社会との相互作用のうちに課せられつつ

(15)

 企業環境の新動向と経営課題      145 あるところの責任ないし課題についてのかれらの見解と密接に結びついているとみてよい。

すなわち,かれらは経営者機能についての考察とは別の筒所で,今日の企業が直面している        ラ

社会よりの挑戦について述べている。かかる挑戦とは,生態学的バランスの達成職場での 人間的要素,生産性の改善,世界的な圧力・要求・ニーズ,倫理と経済学のバランス,およ び社会的パートナーシップのデザインである。

 これらの挑戦についてその内容を極く簡単に示すならば,生態学的バランスの達成は,自 然と工業生産の間の健全な生態学的バランスを達成することである。職場での人間的要素と は,人間の尊厳と健康を護りつつ,生産的労働のために人間の熟練と才能を利用することで あり,そこでは個人の尊厳,プライバシィの保護,決定への参加,平等な機会,安全で健康 的な職場,労働倫理の衰退への対応,といったことが問題として登場する。生産性の改善と は,天然資源,人的資源,資本資源といった諸資源の効率的な使用を通じて社会の厚生の増 大に寄与するこであり,技術革新,従業員の訓練,官僚主義の減少,高いモラールの労働者,

等がその鍵となる。世界的な圧力・要求・ニーズとは,多国籍企業が進出先の国々のひとび との生活水準の向上に向けて現地の経済成長を支援すべきであるということを含む。倫理と 経済学のバランスとは,社会が必要とする財貨とサービスの生産に努めるのみならず,善悪

・公正・正義を定めた社会の倫理的システムにのっとり倫理的な方法で経済的活動を行うこ とを意味するのであって,社会は高い経済的業績と高い倫理的水準の両者の達成を企業に要 求するとされる6最後に,社会的パートナーシップのデザインとは,企業が社会問題の解決 を政府や他のグループとのより積極的なパートナーシップの形成のうちに試みるということ である。例えば,その経営能力,計画技能,資源を政府のそれらとプールすることによって,

企業はその社会的責任に有意義に応えうるかもしれないとされる。

 デイヴィスら.の挙げるこれらの挑戦が先に示したかれらの経営者機能論を支えていること は明らかである。

  (ii)基本的機能としての境界機関と変化機関

 それでは,現代の経営者に課せられた役割のうちでもとりわけ重要なそれとはなんであろ うか。この点についてはさまざまに考えることが可能であるが,社会の中の企業という今日 の企業特性を,また社会の変化の急速な進展ということを考えるとき,デイヴィスらの用語 を用いるならば,基本的な機能としては境界機関と変化機関という2つの役割をまず挙げて もよいと思われる。

 はじめに境界機関の役割についていうならば,それは経営者がオープン・システムたる企 業の主体として,内外環境とりわけ外部環境と企業との接点に位置していることを,そして

ここから,かれは企業への環境主体のニーズの動向を適切に把握し,かかるニーズの経営政

策への反映を通じて企業を環境に適応させねばならないというζとを意味している。より具

体的にいうならば,かかる役割とは企業と相互作用関係にある利害関係集団の期待の動向を

(16)

 146

適確に見通し,そのような期待動向をとりわけ企業の目的と戦略に適切に反映せさていくこ とを中核とする。現代の経営者が受託者として多様な利害関係者の利害を調整せねぽならな いことは明らかであるが,現代の企業にあってはかかる受託者の機能は境界機関としての経 営者機能の適切な遂行を要請する。あるいは経営者はまた生産性の向上に努めることを不可 欠とするが,生産性はそれをどのように解するにしても,その役割は企業の有効性の向上で なく効率の向上にあるのであって,生産性の向上が企業の社会的適応力の増大をもたらすた めには,企業はなによりもまず社会のニーズの適切な把握と企業の目的および戦略へのその 投影を必要とするのである6      

 つぎに,変化機関の役割についていえば,それは環境の変化に適応すべく企業がその目的,

戦略,経営過程のパターン,更には資源処理に関する業務活動のパターンを変化させていく ことを意味するのであって,換言するとそれは企業活動のすべての領域における革新を意味

する。

 今日の絶えず変化する環境の中で企業が存続していくためには;それは新製品の開発,新 事業の展開,製造工程の更新と改善,等の形で革新に絶えず努めねばならぬことはいうまで もないが,かかる革新は経営組織構造を含めての経営過程のあり方についても存在せねばな らず,人事・労務管理等といった生産や研究開発以外の諸業務分野においても存在せねばな らない。のみならず,経営理念や経営目標についても存在せねばならないのであって,この ように考えるとき経営者はまさに,企業システムの基本的な変革者として存在することにな

      う るのである。

注1)Richard Eells, The Meaning of Modern Business,1960.

 2)Neil H. Jacoby, Corporate Power and Soc量al Responsibility,1973.

 3)この点については例えば,Ibid., P.193 ff..

 4) Ibid., pp.194〜5.

 5)K.Davis, W.C. Frederick, R.L. Blomstrom, op. cit..

 6) Ibid., p.106 ff..

 7)K.Davls and W.C. Frederick, op. cit., p.13 ff..

 8)小川教授は経営者をチェンジ,・エージェントとして理解される。教授にあっては,チェンジ・エージ

 ェントとは変化の起動者であり推進者であるが,かかる概念は戦略的変化の計画と実践に対し責任をも

 つ経営者に適用しうるとされるのである(小川英次稿「変化のマネジメントーその理論への考察

  一」,経済科学,第28巻第4号)。

(17)

企業環境の新動向と経営課題

 V 企業環境の世界化と日本的経営

147

 (1)企業の多国籍化と企業経営

 既にみたように,現代の企業環境における基本的動向の1つは企業環境の世界化である。

世界的規模での貿易と資本の自由化の進展に,企業が世界的環境の中で行動することを不可 避的なものとしている。現代の企業はいわゆる多国籍企業となっているとみてよく,それが 相互作用的関係をもつところの利害関係集団は世界的な広がりを示すに至っている。また,

それは,しばしぼ相互にかなりに異なりうるような各種の経済的,政治的,文化的,社会的,

ならびに自然的な諸環境にまたがって活動せねぽならない。そしてここから,企業の多国籍 化は2つの経営的課題を提示することになる。

 かかる課題の第1は,多国籍:化に伴う社会的責任の複雑化である。企業は市場および市場 外部でさまざまな利害関係集団と相互作用関係にあるが,多国籍化はこうした相互作用関係 を一段と複雑なものとする。利害関係集団として新たなものが登場するとともに,特定の範 疇の利害関係集団の内部においても,利害の対立が生じ利害関係集団の細分化が生じる。

 このように企業の多国籍化はその責任を複雑たらしめることになるのであって,企業は多 様化し,しばしば深刻に対するところの利害の調整に悩まねばならないことになる。多国籍 化しない企業にあってもそれは一般に,幾つかの地域で事業所を営んでおり,またさまざま なグループと利害関係を有している。この意味では多国籍企業の社会的責任は国内的企業の それと基本的には共通するともいいうるが,多国籍企業にあっては責任への対応は一般に,

より困難となる。

 第2の課題は,企業が特定の地域で展開してきた経営方式ないし経営システムが,他の地 域でのその操業にどこまで移転可能であるかという問題である。この場合,なんらかの経営 方式が移転可能であるためにはそれはなによりも,いわば経済的に適応可能でなければなら な:い。ここに経済的適応可能性とは,移転された経営システムが地域の他企業に対して十分 に競争力をもちうることを意味する。加えて経営方式はまた,社会的に適応可能であること を必要とする。ここでの社会的適応可能性とは,移転された経営システムが現地の政治的,

社会的,文化的環境に適応しうることを指している。この場合,一般に,経済的適応可能性 の存在は社会的適応可能性の存在を前提とするとみてよいであろう。

 このように,企業の多国籍に伴って2つの経営課題が生起することになるが,以下のとこ ろでは,「日本的経営の国際的移転可能性に焦点を当てつつ後者の問題について考察すること にしたい。

 (2)日本的経営とその移転可能性

 はじめに,日本的経営とはなにを意味するかについて簡単にみてみることにしよう。日本

的経営とは日本の企業経営が,他の国の企業経営と比較した場合に示すところの相違点ない

(18)

 148

し特色を指している。かかる特色として論者はさまざまのものを挙げているが;それらは現 実の日本企業の経営方式が時代の進展につれて絶えず変化するため,必ずしもその同定が容 易ではない。この点について更にいうならば,例えば占部教授にあっては昭和53年出版の書 物では,日本的経営の特質として終身雇用,年功昇進件,集団主義,福利厚生主義といった         り

ものが挙げられるが,その後昭和59年に出版された書物では,今日の日本的経営の特質とし て人間主義の理念,ステータスの平等化,終身雇用,日本的給与形態(職能給制,固定給制 および賞与制度),内部昇進制(能力主義人事の導入。但し,専門職制度や資格制度がとら れその範囲内で年功昇進は維持),人間関係と小集団活動,および協調的な日本的労使関係       ラ が挙げられ,年功主義から能力主義への移行が指摘されている。

 ここでは日本的経営の特質を経営福祉主義の理念(全人への責任の引き受け),集団主義 の理念,終身雇用制(定期採用と長期的雇用の慣行),職能給,福利厚生制度,集団的・ボ トムアップ的な意思決定,長期的・多面的基準での選抜,経営における比較的多くの非公式 的要素,企業別組合と協調的労使関係,QCサークル等に代表される小集団活動, OJT,企        ヨラ 業集団,更には長期的視野での経営決定と企業成長の重視,等として理解することにする。

 問題はこのような日本的経営の国際的移転可能性である。なんらかの具体的な経営システ ムは,企業の採用する技術や企業の規模,企業の置かれた市場的ないし経済的環境,企業を とり巻く政治的,文化的,社会的,ならびに自然的な諸環境の産物であって,この意味では 現実の経営システムは夫々,その基本原理についてはともかく,原理から展開されるところ の原則については異なりうる。そして,このことは経営理論におけるコンティンジェンシイ  アプローチがつとに主張するところである。同時に,コンティンジェンシイ・アプローチ

は,企業における技術や企業の環境,等において一応の共通性が存在する限りにおいて,経 営システムの類似性・比較可能性を認めるとみてよい。それはともかく,日本的経営は日本 の社会という環境の中で展開されてきたものであり,日本においてはすぐれて社会的ならび に経済的適応性をもってきたのである。また,』日本的経営自身,日本社会の変化に適応して 絶えず変化を示してきたのである。しかしな:がら,このような日本的経営が日本とは相対的 にしろかなり異質であるような社会に移植されるとき,それが社会的にも経済的にも十分な 適応可能性をもつという保障は存在しないであろう。むろん,トータルなシステムとしての 日本的経営でなく,その部分的な構曄要素については,より適応の可能性は大であるかもし れないが。

 近年,終身雇用制や年功賃金といった伝統的に日本的経営の特質と考えられてきたものが 西欧諸国や米国でも存在しており,日本的経営はこの意味で普偏性をもつという見解が労働 経済学者のうちにみられる。あるいは, 日本の企業組戸の特質と米国のそれとの両要素を備        わ えた企業が米国でしばしば成功を収めているという論者も存在する。しかしながらこうし

て点については,・かれらの指摘は日本と欧米の企業の表面的類似性に基づくものに過ぎない

という批判もありうるのであって,慎重に検討を加える必要があるのである。

(19)

企業環境の新動向と経営課題 149

 (3)東南アジア社会と日本的経営

  されば,この問題を,東南アジア社会への日本的経営の移転可能性に関連させつつ,よ り具体的に眺めることにしよう。

 この場合,はじめに東南アジア社会と一口にいろても,それは経済,政治,文化,社会,

自然の面でその内部においてかなりな地域的差異を示していることに留意せねばならない。

東南アジア諸国にあっては人種,文化,歴史,言語,宗教,等が国によってしぼしばかなり に異なるとともに,特定の国にあっても多様な文化等が併存しているのであり,雇用慣行,

等は一般に日本よりも西欧的であるともいわれる。

 さて,そのような東南アジア諸国の企業経営と日本の企業経営とは,企業経営の基本的な 原理やパターンに関する限り本質的には異ならないであろう。第1に,東南アジア諸国は国 によってかなりに程度の違いはあるにせよ,工業化の道を歩みつつあり,工業化についての       らう

収敏仮説(convergence hypothesis)の示すところに従うならぽ,相互に類似する方向を辿 りつつある。合理性,責任,長期的計画性,節約,規律正しさ,時間の遵守,変化の受け入 れ,自立,等の概念がひとびとに受け入れられることが工業化にとって必要であるように思 われるが,そのような概念の受け入れへと向う状況が東南アジア諸国にも生じてきているよ

        うにみえる。そしてこのことは,計画,組織化,指導と動機づけ,結果の評価という経営過 程を形成する諸要素の東南アジア諸国今の基本的な適用可能性を確かなものたらしめるとみ てよい。第2に,市場より調達した諸資源を結合して財貨と用役を生産し,かかる財貨と用 役を製品市場に提供するという企業の基本的な経済的機能は生産,販売,等の機能ないし職 能を企業において存在せしめるが,このようなことはいずれの国の企業にも認められるので ある。第3に企業は基本的には経済的制度であり,経済的機能の遂行の過程の中で,収益を 製品市場で獲得しそれを資源の提供者に配分する。もっとも収益の配分に際してどのような 資源提供者が重視されるかによって企業の目的は異なるのであって,一般に企業の発展の最 初の段階では所有者が,制度化した現代企業の段階では所有者に加えて他のグループも重視 されることになる。これらのことは日本の企業についてであれ,米国の企業についてであれ 同様であって,同様のことを東南アジアの企業についても云いうるのであろう。

 他方,現実に展開されてくる企業経営の仕組みは,企業の置かれた状況によって同じ国の 中でも異なりうる。いわゆる日本的経営の諸特質は日本という社会環境においてそれが経済 的ならびに社会的適応性ないし合理性をもつが故に,存在しているといえる。例えば,日本 的経営の特色の1つとして挙げられる終身雇用制は非横断的な労働市場,特定企業への従業 員の忠誠心,等という日本社会の下では,大きな経済的ならびに社会的適応性をもちうる。

終身雇用制の下では企業は,業績不振時には過大な労務費を負担するが,そのような負担の 支出は業績の好調時にそれを回収することによって,また従業員の忠誠心の増大によって,

企業にとり経済的にみあうこととはなる。しかるに,労働の移動が自由であり特定企業への

(20)

150

従業員の忠誠心が薄いような社会状況が存在するならば,特定企業による終身雇用制の導入 は業績不振時には終身雇用制未導入の他企業に比し高い労務費を,また好調時にも従業員誘 引のための他企業なみの高い労務費をという結果を招来するのみとなるのである。あるいは,

日本の企業において盛んな自発的小集団活動は,仕事とその決定への参加とが金銭的報酬と ならんで社会のひとびとのうちに重視されているような状況で,はじめて企業にとり効果的 な形で成立しうるのである。

 このように考えるとき,日本的経営というものをどこまで東南アジア諸国に移転しうるか については,慎重な検討が必要となる。終身雇用制は東南アジア社会の従業員にとっては,

それが仕事の保障を意味する以上,東南アジアで社会的適応性をもつことになる。しかしな がら,横断的予州市場が一般的な東南アジア社会では,それは企業的合理性を必ずしも保障 しないであろう。そうはいっても,雇用維持への社会的な期待と圧力,一面での従業員の安 定志向等は東南アジア諸国でも存在するであろうし,その限りでは終身雇用制は,ある程度 の社会的のみならず経済的適応性ももちうるもしれない。あるいは,福利厚生制度は,従業 員への長期的報酬の一形態であり企業による従業員への全人的配慮の表われであるといいう るが,それを従業員が好意的に評価するか,それを労働移動への拘束であり・,かつ私生活で の個人の自由への侵害であるとして否定的に評価するかは,東南アジアでも地域によって異 なるかもしれない。あるいは,長期にわたる比較的ゆるやかな昇進という仕組みは,東南ア ジアの比較的に横断的な労働市場の下では,企業経営担当の優秀な現地人材の誘因にとって マイナスに働くかもしれないのである。

 東南アジア諸国は工業化の途上にあり,発展の途上にある。かかる工業化は今後,ますま す加速化の方向にあるであろう。そして工業化に伴い,東南アジア諸国における社会経済制 度や文化・価値といったものと,日本のそれらとは,程度の差はあるにしても,一面では収 敏の方向に向いつつあるといえる。そしてこの限りで,日本企業の行動と構造の日本的特質 は移転可能性を増してきているといいうる。しかしながら,日本的経営が日本の社会の特質 を背景に展開されてきたものであること,また日本的経営の構成要素のあるものはしばしぼ,

夫々他の構成要素とのつながりの上に存在していることを考えるならば,更には日本の社会 およびそれを基盤にする日本的経営自身が絶えざる変化の過程にあることを念頭に置くなら・

ば,そして東南アジア社会というものが多様性をもつ社会であり,かっかかる社会自身がこ れまた変化の傾向にあるということを考えるならば,東南アジア社会への日本的経営の移転 可能性についての回答は,日本および東南アジアの社会と企業経営の実態と動向に関する慎 重な分析を前提とするのである。

注1)占部都美「日本的経営を考える」,昭和53年。

 2)  〃  「日本的経営は進化する」,昭和59年。

(21)

企業環境の新動向と経営課題       ・      151  3)この点については拙稿「わが国企業の多国籍化と日本的経営」(志津田氏治編著「多国籍企業の法と経営」,

  昭和59年収録)および拙稿「日本の経営についての一考察   その普偏性と特殊性に関連して一」,長崎   大学東南アジア研究年報第27集,昭和60年を参照。なおアベグレンらは日本企業の強い競争力のファンダメ   ンタルズとして,成長指向,競争相手の行動への強い関心,相手の優位に立ち優位性を徹底的に利用するこ   と,およびこれら3つを支える財務政策(負債の導入と収益性の軽視とを伴う設備投資)および人事政策(定   着率を高める努力,協力的な社内労動組合の組織化,多方面へのジョブ・ローテーシ。ン,柔軟な給与体係,

  功績に応じた賞与,等)を挙げる(James C. Abeg91en&George Stalk Jr.,KAISHA,1985(植山周一郎訳「カ   イシャ」,昭和61年),Chap 1)。

 4)例えば,William G. Ouchi, TheoryZ,1981(徳山二郎監訳「セオリーZ」,昭和56年)。

 5)この点については,Frederick Harbinson and Charles Myers, Management in Industrial World,1959   に詳しい。

 6)1Gunnar Myrdal, Asian Drama:An Inquiry into the Poverty of Nations,1971(板垣與一監訳「アジア

  のドラマ,上・下」,昭和49年).

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