大学におけるピア・サポート拡大の政策過程 : 学 生支援GPに着目して
その他のタイトル Policy process for expanding peer support at universities : Focusing on the Student Support GP (Good Practice)
著者 松田 優一
雑誌名 政策創造研究
巻 15
ページ 127‑152
発行年 2021‑03‑25
URL http://doi.org/10.32286/00022954
大学におけるピア・サポート拡大の政策過程
―
学生支援GPに着目して
―松 田 優 一
【要旨】
ピア・サポートは、1970年代のカナダにおけるいじめ問題の対応から始ま ったとされる。その後、高等教育に学ぶ学生の増加と多様化に対応するもの として各国で積極的に導入されてきた。日本においても1990年代以降、各大 学・学生を取り巻く環境の変化から取り組みが開始され、2000年代後半以降 に急激に拡大した。独立行政法人日本学生支援機構[2011]によれば、ピア・
サポートプログラムのうち60%後半は2005年以降に設置されたものであるこ とが明らかとなっている。しかし、取り組みの数、内容、教育的効果に関す る先行研究は複数存在するものの、2005年以降の大学におけるピア・サポー トの拡大の背景については明らかにされていない。本論文は、2000年代後半 に日本の各大学でピア・サポートの取り組みが拡大してきた背景について、
特に、新たな社会的ニーズに対応した学生支援プログラム(以降、学生支援 GP)の役割について、政策過程から明らかにしたものである。
Peer support is said to have started in dealing with the bullying problem in Canada in the 1970s. Since then, it has been actively introducedineachcountrytorespondtotheincreaseanddiversification ofstudentsstudyinginhighereducation.InJapanaswell,effortsbegan in the 1990s due to changes in the environment surrounding each universityandstudent,andexpandedrapidlyafterthelatterhalfofthe 2000s.AccordingtotheJapanStudentServicesOrganization[2011],itis clear that the latter half of 60% of peer support programs were established after 2005. However, although there are several previous studies on the number, content, and educational effects of efforts, the
background to the expansion of peer support in universities since 2005 has not been clarified. This paper clarifies the background of the expansion of peer support efforts at Japanese universities in the latter half of the 2000s, especially the role of Student Support GP(Good Practice)fromthepolicyprocess.
キーワード:ピア・サポート、GP(GoodPractice)、新たな社会的ニーズに 対応した学生支援プログラム、学生支援、政策過程
Keywords:peer support, GP(Good Practice), student support programs thatmeetnewsocialneeds,studentsupport,policyprocesses
Ⅰ.はじめに
1 .研究の背景と目的
大学において学生支援に寄せられる期待は大きく、「面倒見の良さ」をキーワ ードとして、きめ細やかな学生支援の実現に向けた取り組みが行われている。
しかし、実際の大学では、学生相互の自然な助け合いが生じにくくなっており、
相互援助力を活性化させる試みが必要になっている(独立行政法人日本学生支 援機構[2007])。こうした状況を踏まえて、ピア・サポートが全国的に急激に 拡がった。ピア・サポートは、学生・生徒に他者を思いやることを学ばせ、そ の思いやりを実践させる手法であり、適切なスーパービジョンのもと学生・生 徒自身が仲間の学生・生徒を援助する取り組みとされている(Carr[1981])。
また、日本学生支援機構はピア・サポートについて「学生生活上で支援(援助)
を必要としている学生に対し、仲間である学生同士で気軽に相談に応じ、手助 けを行う制度」と定義している(日本学生支援機構[2020])。ピア・サポート には、「ピアサポートモデル」と「ピアサポートシステムモデル」があり、「ピ
す活動であり、「ピアサポートシステムモデル」とは、ピア(ピア・サポータ ー)がサポートを行う活動であるとされる(藤岡[2002])。
ピア・サポートは、1970年代のカナダにおけるいじめ問題の対応から始まっ た。その発端は、いじめが社会問題となったバンクーバー周辺で、スクールカ ウンセリングの制度が導入されたことである。いじめ対策としてフルタイムの スクールカウンセラーが学校に配置されたが、多様な問題を持つ子どもとその 保護者の対応に追われ、問題そのものの予防や解消には至らない状況であった。
そのため、ブリティッシュコロンビア大学の教育心理学の教授であったレイ・
カーが中心となり、現場のスクールカウンセラーと協力して、中学生、高校生 が抱える悩みとその解決について、実態調査を実施した。その結果、中学生、
高校生は仲間との関係、将来の職業の選択、学業成績など、様々な悩みに直面 しており、それらの問題の約80%を生徒同士で相談し、解決しているというこ とが明らかになった。それを踏まえて、自助(セルフヘルプ)を基本とし、生 徒がお互いに助け合える(ピアヘルピング)ように指導し、子どもたちが、仲 間として互いの悩みを受け止め、解決していく力を身に付けさせることで、悩 みを持つ子どもが減少するであろうと考えられた。そして、高等教育に学ぶ学 生の増加と多様化に対応するものとして各国で積極的に導入されてきた(日本 ピア・サポート学会[2017])。
日本においても1990年代以降、各大学・学生を取り巻く環境の変化からピア・
サポートが開始された。独立行政法人日本学生支援機構(以降、日本学生支援 機構)[2011、2014、2017、2018、2020]の調査によると、高等教育におけるピ ア・サポートは近年横ばいであるものの調査を開始した2010年度以降、どの学 校種においても実施割合が増加している(安部[2020])。そして、実施してい る大学のうち99.2%が今後の取り組みについて、「拡充」または「現状維持」と 回答している(日本学生支援機構[2020])。加えて、2010年度時点で行われて いたピア・サポートプログラムのうち60%後半は2005年以降に開始されたもの であることが明らかとなっている(日本学生支援機構[2011])。学生支援は教
育・研究を主とする大学において補助的なものとされがちであるが、組織的か つ戦略的な教育的関与としての可能性を検討されるべき領域であり、大学教育 の質保証を議論する上で避けては通れない領域になっている(川島[2014])。
しかし、取り組みの数、内容、教育的効果に関する先行研究は複数存在する ものの、2005年以降の大学におけるピア・サポートの拡大の背景については明 らかにされていない。本論文は、こうした問題認識にもとづき、2000年代後半 に日本の各大学でピア・サポートの取り組みが拡大してきた背景について、特 に学生支援 GP の大学におけるピア・サポートの拡大への役割について、政策 過程から明らかにすることを目的とする。
2 .GP 事業について
文部科学省は、各大学の改革を後押しすべく、競争的資金制度である GP 事 業を設けた。GP は「GoodPractice」の略であり、教育の質向上に向けた取り 組みや政策課題対応型の優れた取り組みなど、大学における学生教育の質の向 上を目指す個性・特色のある優れた取り組みを選び、その取り組みをサポート するものであった。そして、GP には 3 つの特徴があった。①国公私を通じた競 争的環境、②第三者による公正な審査、③積極的な社会への情報提供である。
①については、各大学等に「競争的環境」を整えることで教育改革へのインセ ンティブを与え、互いに切磋琢磨することを目的とした。②については、有識 者や専門家等から構成される委員会によって、書面審査や面接審査などにより、
公表された審査基準に基づいて、ペーパーレフェリーの専門的見地からの意見 も踏まえ公正な第三者評価による審査を行った。③については、選定された「優 れた取り組み」を全ての大学等の共有の財産として、多くの大学等が自らの教 育改革をすすめる議論に活用してもらうため、「優れた取り組み」に関する情報 を多くの大学等に積極的に提供した。
た。特色 GP は、2003年度から2007年度まで実施され、期間中に採択された事 業は国公私立の大学、短期大学の285件にのぼった。現代 GP は、2004年度から 2007年度までの期間に実施され、期間中に採択された事業は国公私立の大学、
短期大学、高等専門学校の401件にのぼった。特色 GP は、採択年度で異なるテ ーマ区分を設定し、特色ある優れた取り組みを支援した。もともとは「財政支 援とは無関係の大学基準協会の委託事業として始められた。しかし実質的には、
競争的資金のための評価システムを構築した役割を果たした」(小笠原2007)。
現代 GP は、テーマが機能別に設定され、政策課題対応型のプロジェクトであ った。2007年度には学生支援 GP が開始された。その後、2008年度には特色 GP、
現代 GP が統合され、「質の高い大学教育推進プログラム」(以降、教育 GP)が 開始された。「大学設置基準等の改正等への積極的な対応を前提」とし、特色 GP や現代 GP の取り組みを継続的に支援した上で、教育課程や教育方法、それ 以外の工夫改善を主とする取り組みをテーマに事業を選定するものであり、国 公私立の大学、短期大学、高等専門学校の148件が採択された。その後、2009年 度には各種の GP 事業が「大学教育・学生支援推進事業」となり、教育 GP が
「大学教育・学生支援推進事業【テーマ A】大学教育推進プログラム」、学生支 援 GP が「大学教育・学生支援推進事業【テーマ B】学生支援プログラム」に 再編された。
これらの施策により、大学全体に改革への機運が醸成されたのは確かであり、
採択された大学の教育を変えていく原動力になったものの、全学的な動きに広 がらない、支援期間終了後の継続性がないといった、多くの課題が残された。
これを踏まえて、2010年の民主党政権下で行われた「事業仕分け」において、
GP 支援事業に対して「効果が不透明」、「大学の本来業務ではないか」、「GP を 取ることが目的化している」等の意見が大勢を占め、その多くが廃止された(樋 口[2014])。
3 .分析方法と論文の構成
本論文は、2000年代後半に日本の各大学で学生ピア・サポートの取り組みが 拡大してきた背景のうち、特に学生支援 GP の役割について、政策過程分析と して、関係アクターの行動と影響力関係、過程に与えた環境条件などを取り上 げる。
第Ⅰ章では、ピア・サポートの登場とその拡がりについて、ピア・サポート の定義にも触れながら考察した。そして、ピア・サポートの取り組みが拡大し たとされる2005年以降の大学におけるピア・サポートの拡大の背景については 明らかにされていないことを提起した。そして、本論文において、2007年に開 始された学生支援 GP の大学におけるピア・サポートの拡大への役割について 考察するとともに、大学におけるピア・サポートの課題と展望を明らかにする ことを述べ、前提となる各種 GP 制度についてまとめた。
第Ⅱ章では、学生支援 GP について、政策アクター、政策的背景から考察す る。学生支援 GP がどのようなアクターにより、どのような成果が期待され、ど のように展開されてきたのかについて明らかにする。第Ⅲ章では、学生支援 GP と大学におけるピア・サポートの関連について、制度実施初年度である2007年 度に採択され、他の大学のモデルともなったと考えられる関西大学と法政大学 の事例を分析する。第Ⅳ章では、第Ⅲ章までを踏まえて、学生支援 GP の大学 におけるピア・サポートの拡大への役割についてまとめるとともに、大学にお けるピア・サポートの意義と今後の展開について述べる。
Ⅱ.学生支援 GP について
1 .政策アクターについて第 1 節では学生支援 GP の政策過程における政策アクターについて考察する。
(1)日本ピア・サポート学会
日本ピア・サポート学会は、1990年に設立された日本学校教育相談学会を母 体とし、2002年に日本ピア・サポート研究会、2005年に現在の名称で設立され た学会である。日本学校教育相談学会が「認定スクールカウンセラー」の制度 を導入するため、アメリカのスクールカウンセラー制度の視察を行った際に予 防的・開発的なガイダンス・カウンセリングプログラムの一環としてピア・サ ポートが紹介されたことがきっかけとなった(日本ピア・サポート学会[2010])。
ピア・サポートの普及に際し、日本におけるピア・サポート実践・研究の中心 として、2005年以降の各大学のピア・サポートの取り組みに学術的な裏付けを 与えた学会である。
(2)日本学生支援機構
日本学生支援機構は、2004年に設立された「合理的、効率的・効果的な事業 の実施などの行政改革の基本的視点を踏まえつつ、学生支援業務の総合化、大 学等との適切な役割分担と連携の強化等による学生支援機能の充実を図る観点 から設立された全国唯一の国の学生支援の中核機関」である。設立に際して、
「今後少子化が進行し、より厳しい競争的環境に置かれる大学等が個性輝く大学 等づくりを目指して取り組む中、新機関には、国公私立大学等における学生支 援の充実が図られるよう、各大学等に共通しかつ共同して実施することが合理 的、効率的・効果的な業務を実施する」ことが求められ、それにより各大学が 独自の個性を生かした学生支援業務に重点的に取り組むことが期待された(文 部科学省「新たな学生支援機関の設立構想に関する検討会議」[2002])。そし て、後述する学生支援 GP において、各大学等から申請されたプログラムの選 定、実施中のフォローや実施後の評価までを日本学生支援機構が担った。学生 支援 GP が「大学教育・学生支援推進事業【テーマ B】学生支援プログラム」に 再編された後も、日本学生支援機構が運営した学生支援推進事業委員会がプロ グラムの選定を担当した。なお、学生支援 GP が開始された2007年に日本学生
支援機構政策企画委員会(第 7 回)において、精神的課題を抱える学生の急増 を踏まえ、広島大学におけるピア・サポートが紹介され、委員から「来年度か ら始まる新たな社会的ニーズに対応した学生支援プログラムでも積極的に取り 上げていただきたいと思う」(日本学生支援機構政策企画委員会[2007])との 発言がなされていただけでなく、同年に日本学生支援機構が公表した「大学に おける学生相談体制の充実方策について ― 『総合的な学生支援』と『専門的 な学生相談』の『連携・協働』― 」(以下、苫米地レポート)において、ピア・
サポートについて言及した。(日本学生支援機構[2007])。
(3)日本学生相談学会
日本学生相談学会は、1955年に設立された学生相談研究会を起源とし、1987 年に現在の名称で設立された学会である。全国の高等教育機関の学生相談室、
カウンセリングセンター、保健管理センター等に所属するカウンセラー及び教 職員など、学生の援助活動を行う実践者・研究者が会員となっている。日本学 生支援機構において、後述する苫米地レポートの検討を行った大学における学 生相談体制の整備に関する調査委員会については、検討委員会の15名の委員中 11名が日本学生相談学会の会員であった。
(4)経済財政諮問会議
経済財政諮問会議は、経済財政政策に関し、首相のリーダーシップを十全に 発揮させるとともに、関係国務大臣や有識者議員等の意見を十分に政策形成に 反映させることを目的として、2001年に内閣府に設置された合議制の機関であ る。また、経済財政諮問会議の発案により、「人間力」という用語を軸として、
様々な面から現状分析や政策提言を行うことを目的として、人間力戦略研究会 が2002年11月に開催され、その報告書が2003年 4 月にまとめられた。
(5)中央教育審議会
中央教育審議会は、1952年 6 月に設置された文部科学大臣の諮問機関である。
文部科学省設置法には「中央教育審議会は、文部科学大臣の諮問に応じて教育、
学術または文化に関する基本的な重要施策について調査審議し、およびこれら の事項に関して文部科学大臣に建議する」と定められている。2005年から2010 年にかけて、高等教育への要請を受けて「我が国の高等教育の将来像(答申)」
及び「学士課程教育の構築に向けて(答申)」を出した。
(6)社会人基礎力に関する研究会
社会人基礎力に関する研究会は、2005年 7 月に経済産業省に設けられた研究 会である。企業の経営・人事担当者、教育関係者、NPO、行政、産官学の有識 者が集まり、昨今の人材育成に関わる課題、とりわけ若年層に不足がみられる
「仕事の現場で求められている能力」について検討された。そして、2006年 2 月 に「職場や社会の中で多様な人々とともに仕事をしていくために必要な基礎的 な力」として「社会人基礎力」の概念を発表した(経済産業省[2010])。
(7)行政刷新会議
行政刷新会議は、2009年の第45回衆議院議員総選挙において自民党が大敗し、
民主党が衆議院第 1 党となったことを受け、民主党政権によって内閣府に設置 された機関である。「国民の視点に立って行う国の行政に関する予算及び制度そ の他国の行政全般の在り方の刷新並びにこれに伴い必要となる、国、地方公共 団体及び民間の役割の在り方の見直し」を「行政の刷新」と定義し、首相の諮 問に応じて行政の刷新に関する重要事項について調査審議することを目的とし た(内閣府[2009])。2009年11月には鳩山由紀夫首相が掲げる政治主導の一環 として、行政刷新会議にワーキンググループを置き、各事業の予算の正統性に ついて判断する「事業仕分け」を開始した。予算を削減される可能性が高まっ た各界から反対の意見が噴出していたこともあり、2012年に民主党が下野する
と廃止された。
2 .学生支援 GP の政策過程
第 2 節では、学生支援 GP の政策的背景について学生支援 GP の制度概要をも とに考察する。
(1)学生支援 GP
学生支援 GP は、「学生の人間力を高め人間性豊かな社会人を育成するため、
各大学・短期大学・高等専門学校における、入学から卒業までを通じた組織的 かつ総合的な学生支援のプログラムのうち、学生の視点に立った独自の工夫や 努力により特段の効果の上がっている取り組みを含む優れたプログラムを選定 し、広く社会に情報提供するなど、各大学等における学生支援機能の充実を図 ること」(文部科学省[2007])を目指して2007年 5 月30日に初年度の公募が開 始された。文部科学省[2007]は、プログラムの背景として「進学率の上昇」、
「国際化の進展に伴う外国からの留学生」、「教育内容の多様化や高度化」、「学生 を取り巻く環境が大きく変化」、「資質、能力、知識の異なる多様な学生が増加」、
「少子化、ニート・フリーターなどの様々な社会的課題」等の問題を挙げた。そ して、「学生が学習に集中できる環境作り」、「学生生活の様々な悩みの解決」、
「学生の人間的な成長の促進」、「多様な学生の就学機会の確保」、「様々な社会的 課題に対応」の 5 点が期待された。
なお、文部科学省の2007年度概算要求に関する事業評価書[2006]において、
「我が国の高等教育の将来像(答申)」、「大学における学生生活の充実方策につ いて ― 学生の立場に立った大学づくりを指して ― (報告)」(以降、廣中レポ ート)が記載され、事業実施のエビデンスとされた。
究会が出した廣中レポートは、現代の大学生について自由で豊かな時代を生き ながら、他者とのつながりを希薄化させ、心の悩みに遭遇するなど新しい問題 に直面しているとし、今後は、総体として教員の研究に重点を置く「教員中心 の大学」から、多様な学生に対するきめ細かな教育指導に重点を置く「学生中 心の大学」へと、視点の転換を図ることが重要とした。そして、学生が社会と の接点を持つ機会を多く与えたり、学生の自主的な活動を支援したりするなど、
各大学がそれぞれの理念や教育目標を踏まえた取り組みが期待され、さらに従 来、正課教育を補完するものとして考えられてきた正課外教育の意義を捉え直 し、その在り方について積極的に見直す必要があることを示した。加えて、学 生に対する教育・指導に学生自身を活用することは、教育活動の活発化や充実 に資するのみならず、教える側の学生が主体的に学ぶ姿勢や責任感を身につけ ることができることにもなり、非常に意義深いとした(大学における学生生活 の充実に関する調査研究会[2000])。
(3)人間力
学生支援 GP の要領で明記された「人間力」は、小泉純一郎首相が議長を務 めた2002年の経済財政諮問会議において、「経済活性化戦略中間整理とりまとめ に当たって」が提出され、その中で経済を活性化するための「技術力、人間力、
経営力、産業発掘、地域力、グローバル化」の中で初めて登場した言葉である
(牛尾・奥田・本間・吉川[2002])。人間力に関する議論の背景として、1990年 代以降の青少年問題の顕在化と経済不況による教育への社会的要請があった。
初等教育、中等教育を中心にいじめ問題の深刻化、不登校の頻発、青少年によ る凶悪犯罪、自殺者が 3 万人を超えるなどの問題が起こる中で、教育内容の変 化が求められた。その議論の過程の中で「ゆとり教育」、「生きる力」といった キーワードが登場し、1998年の学習指導要領の改訂で「総合的な学習の時間」
が設けられる形で結実した。一方で、岡部・西村・戸瀬編[1999]『分数が出来 ない大学生』の刊行、中高生の学習時間の減少による大学入試の最低ラインの
低下、家庭での学習時間の社会階層格差とそれによる格差の再拡大が叫ばれ始 めた(市川[2009])。経済協力開発機構(OECD)による学習到達度調査
(PISA2003)の結果や国際的な大学ランキングの開始もそれを後押しした。加 えて、日本の産業競争力の低下、景気の低迷を受けて、戦後の高度成長を支え てきた画一的な教育からの脱却について経済界からの強い要請があった。経済 財政諮問会議においても、「入社する社員を見ていると人間力が落ちているので はないか」、「世の中では学力が落ちているという議論が大変あるけれども、人 間力が落ちているような気がする」という議論があった(市川[2009])。この ように、基礎学力を重視しつつも、これからの社会を生きるたくましさを「何 のために学ぶのか」を明確にし、内発的に動機づけられる形で身に着けて欲し いという社会的要請が強まっていったのである。
これらを踏まえて、「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2002」におけ る 6 つの経済活性化方略の 1 番目に「人間力」の強化がうたわれた。その後、
遠山敦子文部科学大臣から「人間力戦略ビジョン」が出された。その後、2002 年11月に人間力戦略研究会が内閣府、経済産業省、厚生労働省、産業界の連携 により設けられ、2003年 3 月まで「人間力」の在り方について審議が行われた 後、報告書が経済財政諮問会議に提出された。そこでは、人間力について「社 会を構成し運営するとともに、自立した一人の人間として力強く生きていくた めの総合的な力」と定義し、職業人としての活動に関わる「職業生活面」、社会 参加する市民としての活動に関わる「市民生活面」、自らの知識・教養を高め、
文化的活動を高める「文化生活面」で必要とされる知的能力的要素、社会対人 関係力的要素、自己制御的要素から構成される力であることが示された(市川 編[2003])。なお、「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2002(基本方針 2002)」以降、2007年度までの基本方針においては、人間力強化のための対策が 挙げられている。
(4)我が国の高等教育の将来像(答申)
学生支援 GP 公募要領においては、「中央教育審議会答申『我が国の高等教育 の将来像』において、早急に取り組むべき重点施策の一つとして『学生支援の 充実・体系化』が取り上げられているなど、大学等における学生支援の充実は 重要な課題であり、国公私立の大学等を通じ、競争的な環境の下で取り組みを 支援していく必要がある」と述べられている(日本学生支援機構[2008])。2005 年に中央教育審議会が出した「我が国の高等教育の将来像(答申)」では、21世 紀は「知識基盤社会」の時代であることに言及した上で、18歳人口が減少して 約120万人規模で推移する一方、大学・学部等の設置に関する抑制方針が基本的 に撤廃されたこと等により、主として18歳人口の増減に依拠した高等教育政策 の手法はその使命を終え、「高等教育計画の策定と各種規制」の時代から「将来 像の提示と政策誘導」の時代へと移行するとした。そして、国の今後の役割は、
高等教育の在るべき姿や方向性等の提示制度的枠組みの設定・修正、質の保証 システムの整備、高等教育機関・社会・学習者に対する各種の情報提供、財政 支援等であることを示した(文部科学省[2005])。また、この答申の検討過程 で、社団法人私立大学情報教育協会が「高等教育の役割の中で、全人格的な発 展の基礎を培う大学の使命に応えられるよう、大学卒業生の無業者、フリータ の増加をくい止めるための就労意欲・職業観を育成する人間力養成教育の必要 性を確認しておくことが望まれる」との意見を出している(社団法人私立大学 情報教育協会[2004])。この答申により、各大学は競争的環境の中で、人間力 養成等の社会のニーズに即した学生支援が求められるようになった。
(5)社会人基礎力
社会人基礎力は、2006年に経済産業省が発表した「職場や社会の中で多様な 人々とともに仕事をしていくために必要な基礎的な力」として発表された(経 済産業省[2010])。社会人基礎力は「前に踏み出す力」、「考え抜く力」、「チー ムで働く力」という 3 つの力と、それらを構成する「主体性」、「働きかけ力」、
「実行力」、「課題発見力」、「計画力」、「創造力」、「発信力」、「傾聴力」、「柔軟 性」、「状況把握力」、「規律性」、「ストレスコントロール力」という12の具体的 能力で構成されている。社会人基礎力の背景には、1990年代以降の経済不況に よる新卒採用の縮小から、2007年問題ともいわれた団塊の世代の定年到達を控 え、急激な採用拡大を見据えての人材育成ニーズの高まりがあった。2006年に 閣議決定された「経済財政運営と構造改革に関する基本方針2006」においても
「人財立国」の実現に向けて、「人間力」と「社会人基礎力」の養成強化、競争 的資金の研究促進のための人件費への活用等による産学双方向の人材流動化、
官官・官民の水平移動を進め、競争的資金の拡充、研究・技術人材の育成、健 全性を確保した奨学金事業の充実を図ることが示された(内閣府[2006])。
「社会人基礎力」は、具体的能力の定義がなされなかった「人間力」とは異な り、育成すべき12の具体的能力が示されたという特徴がある。これらの能力は 高等教育機関への社会の要請が反映されたものであり、その後の高等教育政策 や各大学の動きに大きな影響を与えた。
(6)苫米地レポート
2007年には日本学生支援機構から苫米地レポートが出された。苫米地レポー トでは、「近年、相互援助力を活性化させる試みとして、学生生活や進路上の悩 みに学生が助言する『ピア・サポート』等、積極的に学生間のネットワークを 構築することも有効と考えられる」(日本学生支援機構[2007])とされた。苫 米地レポートの目的は、日本学生支援機構[2007]によれば「最近の学生相談 件数の増加や複雑化の中、大学の学生相談体制の現状を把握するとともに、そ の課題を明らかにし、今後、各大学が相談体制の整備・充実を図る際の参考と なるものを提供すること」(42頁)であり、出発点として「廣中レポート」を挙 げた。苫米地レポートは、大学におけるピア・サポートについて、文部省、文
もあり、各大学の学生支援 GP 応募に際して影響を与えた可能性が高い。
(7)学士課程教育の構築に向けて(答申)
2008年に文部科学省中央教育審議会は「学士課程教育の構築に向けて(答 申)」を出した。この答申は、目的意識の希薄化、学習意欲の低下等学生の多様 化により、大学側の対応の困難性は増していることを指摘し、その上で、グロ ーバル化した知識基盤社会において、学士レベルの資質能力を備える人材育成 が重要であるとし、各大学に目先の学生確保だけではなく、学位の実質化を求 めた。加えて、学士課程教育に対しては、産業界から、社会人としての基礎力 の育成、自立した21世紀型市民を幅広く育成するなどに関し、十分な成果を求 める声が強まってきている点について言及した。そして、学士課程教育で身に 付けさせるべき力として「学士力」を示し、その内容として「知識・理解(文 化、社会、自然 等)」、「汎用的技能(コミュニケーションスキル、数量的スキ ル、問題解決能力 等)」、「態度・指向性(自己管理力、チームワーク、倫理 観、社会的責任 等)」、「総合的な学習経験と創造的思考力」を示した。そし て、到達すべき学習成果は、課外活動を含む教育活動、修業年限全体を通じて 培うものであることが示された。その結果、多くの大学において「学士力」育 成の手段として正課外教育の取り組みが加速することとなった。
また、この答申の原案となる「審議経過報告」を取りまとめた大学分科会制 度教育部会学士課程小委員会で主査を務めた黒田壽二は学士課程答申の前段に あるのは、「我が国の高等教育の将来像」答申であると述べている。加えて、学 士課程教育は正課と正課外に分けられ、学士力と専門基礎学力は正課、人間力 は正課外教育で培われると指摘した(日本私立大学協会[2009])。
Ⅲ.学生支援 GP とピア・サポート
1 .学生支援 GP の政策過程分析
第 1 節においては、第Ⅱ章を踏まえ、学生支援 GP の政策過程をまとめる。
2000年代に入り、2000年の廣中レポート以降、2002年の経済財政諮問会議に よる「人間力」の言及、2005年の中央教育審議会「我が国の高等教育の将来像
(答申)」、2006年の経済産業省による「社会人基礎力」の言及、2007年の日本学 生支援機構による苫米地レポート、2008年の「学士課程教育の構築に向けて(答 申)」等、大学の学生支援に関連する政策文書が関係機関から矢継ぎ早に出され た。
1990年代以降、社会の変化、青少年の変化に対応するため「生きる力」、「人 間力」、「社会人基礎力」という育成すべき能力について異なるアクターから異 なった名称で提言がなされてきた。しかし、人間力戦略研究会の座長であった 市川(2003)は「個人的には、『人間力』というのは、『生きる力』の延長と位 置付けてよい」(22頁)と述べ、経済産業省編[2010]において「人間力」と
「社会人基礎力」を同義とした広島経済大学を社会人基礎力育成の参考事例とし て紹介していることからも、「生きる力」、「人間力」、「社会人基礎力」は、その 当時の社会的要請を踏まえ、より具体性を帯びながら高まってきた人材育成ニ ーズの表現であったと考えられる。
大学教育に対しての社会からの具体的な要請を踏まえ、高等教育政策を実現 に導くべく、学生支援の強化という政策目標実現のインセンティブとして学生 支援 GP が設定されたのである。
2 .学生支援 GP におけるピア・サポート関連事業について
第 2 節においては、学生支援 GP におけるピア・サポート関連事業の採択結
の272件の申請に対して70件、2008年度は230件の申請に対して23件が採択され た。大学に限定すると、 2 年間で64件の採択であった。採択された64件の国公 私立 4 年制大学のうち、半数以上にあたる43件の取り組みにおいて、何らかの 形で学生による学生支援活動が取り入れられており、学生が主体の学生支援活 動が注目されていたことは明らかである(西本[2011])。「学生による学生支援 は、支援する学生のエンパワーメントにつながるという面で、『支援することは 支援されること』という二重性を持っている」(加野[2011]:12頁)。ピア・サ ポートは、「支援を受ける学生のみならず、支援を行うピア・サポーター自身に も、さらにはプログラムを運営し、ピア・サポーターを支える教職員にも恩恵 がある」(沖[2009]:12頁)とされており、多くの大学が精力的に取り組んで きた。日本の大学におけるピア・サポートは、前述のとおり、1990年代以降、
社会の変化により取り組みが開始され2005年に以降に拡大したことが明らかと なっているが、2005年時点の大学におけるピア・サポートの実施状況は12.9%
であった。しかし、2008年には21.3%となり、2010年には35.6%、2013年には 43.6%となった(日本学生支援機構[2006、2009、2011、2014])。2005年以降、
特に学生支援 GP の採択期間であった2008年から2010年にかけて急拡大してい るだけでなく、2010年に行政刷新会議の事業仕分けにより、学生支援 GP が廃 止された後、実施状況の伸びが鈍化していることも、学生支援 GP がピア・サ ポートの拡大に影響していたといえよう。
3 .関西大学及び法政大学のピア・サポートと学生支援 GP との関わり 第 3 節においては、2007年度に学生支援 GP にピア・サポートの取り組みで 採択され、ピア・サポートについての特集記事「悩める学生、仲間が手助け担 い手も組織率いて成長」(日本経済新聞[2012])においても紹介された関西大 学、法政大学の事例について考察する。
(1)関西大学におけるピア・サポート「広がれ!学生自立型ピア・コミュニティ」
関西大学におけるピア・サポートは、学生が豊かな人間力(21世紀型学生気 質)を備え、学生が主体性をもって構築するキャンパス環境を育むとともに、
卒業後に21世紀の知識基盤社会を支える「社会人基礎力」を備えた人材の養成 を目指して推進されている(独立行政法人日本学生支援機構[2008])。現在も 合計約100名の学生がピア・サポート活動を行っている。関西大学のピア・サポ
50.4%
52.4%
49.3%
43.6%
35.6%
21.3%
12.9%
49.4%
47.4%
49.6%
56.2%
64.0%
77.7%
85.5%
0.3%
0.1%
1.1%
0.3%
0.4%
1.0%
1.6%
0% 20% 40% 60% 80% 100%
2019(令和元)
2017(平成29)
2015(平成27)
2013(平成25)
2010(平成22)
2008(平成20)
2005(平成17)
実施している 実施していない 無回答
出所:日本学生支援機構[2006、2009、2011、2014、2017、2018、2020]を基に筆者作成。
図 1 大学における「ピア・サポート」の実施状況
の先進的事例として紹介されている(日本ピア・サポート学会[2011])。日本 学生支援機構[2020]においては、「ピア・コミュニティは発足当時の活動が活 発な時代から、安定的な活動展開に挑戦する現状において、学生の役割・構造 化が進んでいた。(中略)大規模大学おける学生活動を組織的に運営するという 点において未だ先駆的な取り組みを継続している」とされ、「外部資金が終了し た後の活動の継続性についても、非常に参考になることが多かった」(206頁)
という評価を受けている。
ピア・サポートと学生支援 GP の関連について、関西大学のピア・サポート の所管部門である学生センターの副所長であった大島薫は、「『ピア・サポート』
というこのキーワード。関西大学では GP に採択されるまで、おそらく学生達 で知っている子というのは、ほんの少数であったと思います。教職員の中でも、
非常に少なかったと思います。これを取り組みとして作り上げていく中で私達 も学んだ」(法政大学[2010]:119頁)と述べている。
加えて、筆者は、学生支援 GP 申請業務を担当した関西大学専任事務職員の A 氏に対し、学生支援 GP にピア・サポートで応募した背景について2020年12 月に問い合わせを行い、以下の回答を得た。
社会的背景として、不登校やいじめ問題の増加傾向、人間関係を上手に 構築できない者や自己肯定感の少ない者の増加などがあり、一方で関西大 学では課外活動への参加者の激減、学生生活支援グループ窓口での相談者 数の増加、初年次教育のあり方や高大接続などの課題に向き合う必要があ りました。これらの課題解決にあたる一つの鍵として、先輩が後輩の面倒 をみることや指導すること、加えて同世代の仲間が共に助け合い支え合い ながら自己実現や課題を乗り越えていく(例として学園祭も含む)といっ た関西大学の伝統・文化に着目し、当時、教育現場で利用されていた教育 手法と照らし合わせたとき、海外でも類似の取り組みがあったこと、また 日本においても学会活動があるということが確認できたことから、担当教
職員と懇談を重ね、ピア・サポートという概念との紐づけを行うに至った と思っています。また、2000年 6 月、文部省高等教育局から出された『大 学における学生生活の充実方策について(報告)― 学生の立場に立った大 学づくりを目指して ― 』(廣中レポート)が大きく影響していた気がしま す。ここから課外活動のあり方や正課外教育がより一層注目されるように なり、その流れから他大学も含めて同様の発想へと繋がったのではないか と思います。
以上から、関西大学におけるピア・サポートについては、学生の実態の変化 に対応するものとして学生支援 GP の公募を受けて検討が開始され、その採択 が取り組みを推進したといえる。
(2)法政大学におけるピア・サポート「『学生の力』を活かした学生支援体制の 構築 ― クラス・ゼミ(正課教育)、クラブ・サークル(正課外教育)に次 ぐ、『第 3 のコミュニティ』づくり」
法政大学のピア・サポートについては、日本経済新聞[2010]や日本私立大 学連盟の「大学と学生」(土屋[2010])等において、大学におけるピア・サポ ートの先進的事例として取り上げられている。
法政大学におけるピア・サポートは、2000年に開始した新入生合宿やオープ ンキャンパスで「学生スタッフ」が定着し、「学生が学生を支援する」、「支援を 受けた学生が支援する側に転化していく」という、ピア・サポートの土壌が築 かれてきたことを受けて、新たな学生支援の在り方を模索する中でも、この「学 生力」を重視し、GP の申請を行ったとされる(日本私立大学連盟[2010])。そ して、学生支援 GP に応募するにあたり、「新しい学生プログラムは教職員のサ ポートのもと『学生が考え』『学生が学生を支援する』『支援される側から支援
(近藤[2009]:45頁)と述べている。そして、「クラス・ゼミナール(正課教 育)、クラブ・サークル活(正課外教育)に次ぐ、第 3 のコミュニティ作り」を キーワードとし、「学生の視点」と「学生の力」を活用し、「総合的な知性『=
人間力』」を目指してピア・サポートが行われている(独立行政法人日本学生支 援機構[2008])
その背景として、「法政大学学生生活実態調査」の結果があったことが明らか となっている。約 3 万人の学部学生から 1 万人を無作為に抽出した調査であり、
その中で「悩み・不安がありますか?」という質問に対して、68.5%の学生が
「悩み・不安がある」と回答し、「その悩みを誰に相談しましたか?」という質 問に対して、先輩・友人が55.7%。次に両親の32.5%、兄弟・姉妹の12.9%、
教職員に相談した人は2.5%であったことを受けて、学生は同級生などの「身近 な存在」、「身近なコミュニティ」に相談することで、自助的に悩みを解決して いると考えるに至った。また、「サークルに入っていますか?」という質問に対 して、25.0%程度がコミュニティ、ゼミにもサークルにも入っていないと回答 しており、その学生たちの不安・悩みの解決の場として、HoseiPSC(ピア・サ ポートコミュニティ)の構想につながったと述べられている(法政大学[2010])。
これは第Ⅰ章で述べたピア・サポートがカナダで生まれた背景と重なっている。
以上から、法政大学におけるピア・サポートについては、既存の取り組みを 発展させることに学生支援 GP が影響し、構造化されたピア・サポートが開始 された事例であるといえる。
Ⅳ.おわりに
第Ⅰ章では、本論文で取り上げたピア・サポート、GP 事業の全体像を明らか にした。第Ⅱ章では、社会の変化、青少年の変化を踏まえ、日本ピア・サポー ト学会、日本学生支援機構、日本学生相談学会、経済財政諮問会議、中央教育 審議会、社会人基礎力に関する研究会、行政刷新会議等の様々な政策アクター
が大学における学生支援に影響を与えたことを明らかにした。2000年代半ばか ら日本ピア・サポート学会は海外のピア・サポートの先進的な取り組みを紹介 し、学生支援の手段としてピア・サポートが注目されるきっかけを作った。日 本学生支援機構は苫米地レポートでのピア・サポートについての言及や学生支 援 GP におけるピア・サポート関連の取り組みの採択を通して、ピア・サポー トの拡大に影響を与えた。日本学生相談学会は学生相談に関する学術団体とし て日本学生支援機構の事業を後押しした。経済財政諮問会議及び社会人基礎力 に関する研究会は、当時の人材育成ニーズを政策に反映すべく産業界から求め られる具体的な能力について提言を行い、学生支援 GP の実現に影響を与えた。
中央教育審議会は、社会からの人材育成ニーズを汲み取りつつ、2000年に出さ れていた廣中レポートを踏まえ、我が国の高等教育の将来像(答申)、学士課程 教育の構築に向けて(答申)を行い、大学における学生支援の強化について影 響を与えた。加えて、我が国の高等教育の将来像(答申)で示された競争的環 境下での政策誘導と財政支援への言及がその後の学生支援 GP に繋がり、それ が各大学の学生支援における新たな取り組みのハードルを下げることとなった。
一方で、行政刷新会議による事業仕分けは学生支援の拡大を抑制した。第Ⅲ章 では、関西大学、法政大学とも学生支援 GP の公募を契機として、ピア・サポ ートが開始され、2010年度を以て文部科学省からの財政支援期間は終了した後 も継続的・発展的に取り組みを継続していることを明らかにした。両大学とも 学生気質の変化を背景として、その解決・予防のみならず、支援する学生の社 会人基礎力の向上を目指す取り組みとしてピア・サポートに着目し、学生支援 GP を活用して取り組みが開始されたことも明らかにした。
以上の通り、本論文では、2000年代後半の大学におけるピア・サポート拡大 の政策過程おける学生支援 GP の役割について考察した。第Ⅱ章で取り上げた 各政策アクターの影響により学生支援 GP が実施され、第Ⅲ章の関西大学、法
近接すると思われる内容で学生支援の採択を受けた全大学の取り組みの考察ま では至っておらず、学生支援 GP の大学におけるピア・サポートの拡大への影 響の度合いについての分析は不十分である。この点については、今後の研究課 題としたい。
大学におけるピア・サポートは、1990年代以降の社会の変化への対応策とし て実施された学生支援 GP による政策誘導の後押しも受けて拡大してきた。政 権交代により GP 事業が終了した後も各大学の取り組みとして継続、発展して きたことは、多くの研究成果から明らかである。廣中レポート以降、教育から 学習へのパラダイム転換が促進され、学生支援は学生の成長を保証する「本丸」
となった(川島[2017])。日本学生支援機構[2020]においても、91.0%の大 学の学長が「学生支援の取り組み全般について、『現状よりも強化・充実させた い』と回答しており、学生自身の力を活用した学生への支援の動きは今後も続 いていくものと考えられる。大学を取り巻く状況は刻々と変化しており、今後 のピア・サポートの在り方についても今日的な議論と検討が必要であると考え る。本研究がその一助になれば幸いである。
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