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ハドロン構造における s クォーク ud 反ダイクォーク間 の対称性

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(1)

ハドロン構造における

s

クォーク

ud

反ダイクォーク間 の対称性

天野 大樹

2020

1

10

(2)

概要

ハドロン物理において,対称性は重要なツールである. ハドロンはクォークとグルーオンの複合粒 子であり,量子色力学による強い結合定数により,クォーク同士の結合は非常に強くなり,クォーク 単体で観測することは出来ない. このためハドロン内部の構造を観測することは非常に難しい. ドロンは対称性を導く群の表現として分類される. 特にフレーバーSU(3)はハドロンの質量スペク トルを説明する最も成功した例の1つである. ストレンジネスの発見の後,近い質量を持ったハド

ロンはSU(3)8重項と10重項に分類された. 対称性はある種ハドロンにとっての周期表とも呼

べる. フレーバー対称性は厳密な対称性ではなく破れてはいるが,その破れの起源はクォーク間の 質量差からの明らかな破れである. 破れのパターンもその対称性の性質に従い,縮退する表現の中

, Gell-Mann大久保の質量公式が各ハドロンの質量に関係を与える. 本論文では,構成子sクォー

クとud反ダイクォークに対して対称性を考える. フレーバー対称性と同様に対称性を記述する代 数からハドロンの表現を導き,そのハドロンに対する質量関係式を導く. ここからハドロンの構成 要素としてのudダイクォークの存在可能性について議論していく. ダイクォークとはハドロンの 構成要素として考えられている2つのクォークの束縛状態である. ダイクォークはカラー電荷を 持っているため,ダイクォーク単体で観測することは出来ない. そのためハドロン内部に存在する と期待されている. スピン0,アイソスピン0udのクォーク間にはカラー電磁気力による引 力が働く. このことによってダイクォーク対が形成される. udダイクォークの質量はまだ確定して いない. しかしu, dの構成子クォーク質量が300 MeVであることから上述の引力も鑑みて400

600 MeV程度であると予想できる. このudダイクォークの質量はsクォークの構成子クォーク質

500 MeVと非常に近い. 本論文まずハドロン物理の成り立ちや,対称性,群を用いる上で必要な

数学に触れたあと, sクォークとudダイクォークを基本表現として代数を組み,そこから導かれる ハドロンスペクトルについて議論していく.

(3)

目次

概要 1

1 Introduction 3

1.1 ハドロン物理 . . . 3

1.1.1 中間子 . . . 4

1.1.2 ストレンジネス . . . 4

1.1.3 ハドロンの分類 . . . 5

1.1.4 クォークモデル . . . 7

1.2 量子色力学 . . . 8

1.2.1 強い力とカラー電荷 . . . 8

1.2.2 QCDの真空とカイラル対称性 . . . 10

2 対称性と物理法則 14 2.1 群の定義 . . . 15

2.1.1 簡単な群の例 . . . 15

2.2 Lie . . . 16

2.2.1 ユニタリ群 . . . 17

2.2.2 直交群 . . . 18

2.2.3 Lie代数とLie群の関係 . . . 18

2.2.4 構造定数 . . . 19

2.2.5 SU(2) . . . 20

2.2.6 SU(3) . . . 23

2.3 フレーバー対称性 . . . 24

3 Dynamical supersymmetry 26 3.1 Definition of algebra . . . 26

3.1.1 Field definition . . . 26

3.1.2 V(3) algebra . . . 28

3.2 Representations of V(3) . . . 31

3.2.1 Fundamental representation:ΨiΨi . . . 31

3.2.2 “Adjoint" Representation: ΨˆiΨjΨˆiΨj . . . 31

3.2.3 ΨiΨj ΨiΨj representations . . . 33

3.2.4 ΨiΨjΨkΨiΨjΨkrepresentations . . . 34

3.3 Representations of hadrons . . . 37

(4)

3.3.1 Triplet Representation . . . 37

3.3.2 Mesonic representation . . . 38

3.3.3 Other representations . . . 39

3.4 Symmetry Breaking . . . 40

3.4.1 Triplet representation . . . 41

3.4.2 Mesonic nonet representation . . . 41

3.4.3 Quintet representation . . . 43

3.5 Summary . . . 43

参考文献 45

(5)

1

Introduction

自然界には4つの相互作用,すなわち電磁相互作用,強い相互作用,弱い相互作用,重力相互作用 がある. 我々が普段見て触れるような物質は原子や分子間に働く電磁気力によって物質として一つ の形を維持している. ではその原子はどのようにしてその構造を維持しているのだろう. 原子は原 子核を中心にその周りに電子が分布し,原子核と電子は電磁気力で束縛されることが知られている. 一方原子核は陽子と中性子から構成されるため,電気的に正の陽子と,電荷を持たない中性子は電磁 気力では原子核を構成できない. この陽子と中性子を束縛させておく力こそ強い核力である. 素粒 子物理の研究から,陽子や中性子はそれ自体が物質の最小単位ではなく,クォークとグルーオンから 構成されることが分かった. そしてこれらクォークとグルーオンから構成される粒子の事を総称し てハドロン(Hadron)と呼ぶ. ハドロン物理とはその名の通り,ハドロンと呼ばれる粒子の集団を研 究する分野である.

ハドロン物理における目標の一つとして,ハドロンの内部構造の解明が挙げられる. 20世紀の後 半にハドロン内部の構造や強い相互作用の研究が進み,その基礎理論としてQCD (QuantumChromo

Dynamics,量子色力学)が生まれた. しかし基礎理論の定式化がそのまま現象の理解を完全にする

わけでは無い. 事実QCDの性質として漸近的自由性や,クォークの閉じ込めなどがハドロン物理を 複雑なものにしている.

本論文ではまず第1章においてハドロン物理の成り立ちや,その基礎理論であるQCDの複雑な 性質について論じる. 2章ではハドロン物理において重要なツールとなる対称性についてそ の数学的な側面とその物理への応用について触れる. 3章ではその対称性のアイデアを用いハド ロン構造においてダイクォークの存在の可否,また存在するときのその性質について議論していく. 4章では第3章において議論した対称性に対して,そこから縮退の見えるハドロンの間の崩壊過 程を比較することで妥当性を検討する.

1.1

ハドロン物理

ハドロン物理の始まりは湯川秀樹の中間子の予言から始まったと言っても過言ではない. この節 では中間子の予言からハドロン物理の発展を見ていく.

(6)

1.1.1 中間子

何が原子核を原子核たらしめているのか,原子核を構成しているものは何なのか. このような問 に対して湯川秀樹は1934年に中間子というアイデアを提案した[1]. 1つの原子核は複数個の 陽子と中性子で構成される. 正の電荷を持った陽子は電磁気による反発を受けるはずである. この ような原子核が束縛するためには,電磁気力の反発よりも強い何らかの力によって原子核はつなぎ 止められなければならない. この力を当時の物理学者は強い力と呼んだ. 湯川は,月と地球が万 有引力によって引かれ合うのと同様に陽子と中性子の間も電磁気力とは違う何らかの場によって引 き合っているはずだと考えた. 場の量子論によれば第2量子化により場も量子化することができ, この事によって相互作用もある種の粒子とみなす事ができる. 湯川はこの強い力をもたらす粒子の 性質を調べた.

強い力が電磁気力よりも強いならばなぜそれを目で見えるスケールで観測出来ないのだろうか. それはこの力の到達距離が原子核の大きさ1fm程度にとどまっているからである. 力の到達距離 が非常に短いということはその力を媒介する粒子の質量は重いということである. 湯川はこの質量 を見積もり, 陽子と中性子よりは軽く,電子よりは重いため中間の重さの粒子ということで中間子

(Meson)と呼んだ. (同様の理屈で電子をレプトン,陽子中性子をバリオンと呼ぶ.) その後湯川の予

言に対応する粒子の探索が実験物理の中で行われた. 1947,宇宙線中の粒子の研究により,湯川 の予言した中間子の候補が2つ挙がった[2]. このうちの1つがπ中間子であり,もう一方がレプト ンの1µ粒子であった.

1.1.2 ストレンジネス

1947年ようやくパイ中間子が見つかった. このことにより素粒子物理の中の大きな問題は解決 されたと思われていた時期が少しの間存在した. (反粒子も陽電子の発見により受け入れられ始め, ニュートリノも信じられるようになっていた)しかしその年の後半, RochesterButlerは鉛板に当 たった宇宙線から想定外の飛跡を発見した[3]. 飛跡はVの形をしており,中性粒子から粒子反粒子 の対生成が起きていることを示している. 解析によりVの飛跡はπ+,πということが判明した. このことから少なくともπ中間子の2倍の質量を持つ中性粒子の存在が明らかになった. 実際この 粒子は現在K0粒子と呼ばれている.

K0→π++π (1.1)

その後

K+→π++π++π (1.2)

の反応も見つかり,新たな中間子として認識されるようになった. 当時K0K+は別物と扱わ れていたがフレーバー対称性の導入により同一粒子の電荷共役状態であることがわかった.

また,同様なVの飛跡が陽子とπ への崩壊においても確認された. これは今ではΛの崩壊とし て考えられている:

Λ→p+π+. (1.3)

このようにして陽子よりも重いバリオンが発見された. これら新しく見つかった重い粒子は加 速器の発展に伴い,続々と観測されるようになった.

(7)

1.1 鉛板に衝突した宇宙線による飛跡 G.D.Rochester and C.C.Butler, Nature 106, 885 (1947)

この新粒子たちのストレンジな性質として,生成は瞬時にできるものの崩壊過程は比較的ゆっ くりというものがあった. この点からもこれらの粒子がストレンジという印象を与えた. これ はは粒子の生成機構と崩壊の機構が全く別物であることを示唆している[4]. 実際は生成は強い力 により生成され,崩壊は弱い力によってするということが分かっている. これら当時の物理学者に とっては奇妙な性質はアメリカ人物理学者Murray Gell-Manと西島[10]らによって説明され . 彼らは,これら新粒子に対して新たな量子数ストレンジネスを導入する. ストレンジネスは 新粒子の生成過程においては保存し,崩壊過程においては破れるという性質を持っている. 例えば

π+p→K0+ Λ (1.4)

のような過程では,π中間子と陽子の衝突によって2つのハイペロン(ストレンジネスを持った粒子 のこと)を生成するがK0はストレンジネス+1を持ち−1であり,両辺のストレンジネスは 保存する. 一方ハイペロンの崩壊に関しては(1.3)でも分かるように,両辺のストレンジネスは保存 しなくて良い. このことが強い相互作用と弱い相互作用の機構の違いである. ストレンジネスの導 入によって今までの旧粒子とその後η,φ,ω,ρなどのメソン,Σ,Ξ,∆などのバリオンが見つかりπ 中間子が見つかった47年にはまだこざっぱりしていた空間が60年には粒子だらけになっていた

のである. このChaoticな状況を当時の物理学者達はParticle Zoo(粒子の動物園)と形容した.

1.1.3 ハドロンの分類

新粒子は大量に見つかるが,そのあいだに秩序はなくハドロン物理における周期表が必要に なっていた. そのような中, Gell-Mann"八道説"を導入した. これは仏教用語の"八正道"(Eightfold way)からちなんでいる(が実際に仏教とはなんの関係もない).八道説は電荷とストレンジネスに よってハドロンを分類するものであり,メソン,バリオンそれぞれを幾何学的なパターンに配置し . 1つはバリオンの8重項, 1つはメソンの8重項である. 1.2においてバリオンが六角形に配 置されている. 左上から右下に入る斜線に応じて電荷が決まる. また水平に入る線によってストレ ンジネスが割り振られている.

(8)

1.2 バリオン8重項

メソンも同様にパターンに割り振られ, 8重項と単重項を構成する. 擬スカラーメソンにおいて数 学的には8重項からくるη8と単重項からくるη0が存在する. しかし物理的にはこの2つは混合を 起こし,ηηに分離する. 1.3ではミキシング後の擬スカラーの表現を表している. 注意するべ きはストレンジネスの割り振られ方がバリオンと違うことである. 実際このストレンジネスの割り 振り方は任意であり,一番上のK中間子に対して-1をつけても良かった.クォークモデルが定式化 した今,ストレンジクォークのストレンジネスが-1になっている原因はこれである. (K+ のフレー

バーはsu)¯ しかしGell-Mannはこのようにストレンジネスを分類し, これが定着した. (電流の向

きを決めるときと同じことが起きている. しかし電流の場合では電子が電流の流れを決めているこ ,K 中間子の場合ではK中間子にsクォークではなくs¯が含まれていることはまだ誰も知らな

1.3 メソン9重項

(9)

かった)

分類は科学の第一歩である. Gell-Mannの導入した八道説によってハドロン物理は道標を得たの である. 実際,バリオン10重項も表すことが出来る1.4当時9個の粒子は見つかっていたが10 目の(三角形の一番下)は見つかっていなかった. Gell-Mannはこの粒子の質量と寿命を予言し, 実際見事64年に発見された[11].

1.1.4 クォークモデル

八道説はハドロンの分類と新粒子の予言により,成功を収めた. なぜ八道説はこのようにうまく いくのだろうか? その答えこそクォークモデルである. つまりハドロンは粒子ではなくさら にその構成要素となる実態が存在するということである. Gell-Mannはこの物理的実体をクォー クと呼んだ. フレーバー対称性において登場人物はup, down, strange3つのフレーバーであり, これらでSU(3)の基本表現を構成する. 現在ではクォークには6つのフレーバーがあり(1.1),

strangeより質量の大きいクォークの事を重いクォーク(Heavy quark)と呼ぶ.

クォークからメソン,バリオンを構成するには

メソン:クォークと反クォークからなる.

バリオン:クォーク3つからなる. (反バリオンは反クォーク3) これら2つのルールによって構成される.

クォークの登場によって八道説は理論的には説明がついた. しかし,問題は実験的にその存在が 発見が全くされなかったのである. 陽子がクォークから構成されるのならば陽子を高エネルギーで 叩けば,クォークは見えるはずであり,その電荷は分数電荷(1.1)であるから,その発見は容易と 考えられていた. ハドロンの残骸からはクォークを発見出来ず,徐々にクォークに懐疑的な目が向 けられていく中で, Rutherfordが原子に構造を発見したように,陽子の大きさを探る実験が60年代

1.4 バリオン10重項

(10)

後半始まった. ハドロンがクォークから構成されるならばハドロンは大きさを持つはずだからであ . カリフォルニアのSLAC国立加速器研究所において,電子をビームとして,電子-陽子の非弾性 散乱実験が行われ,原子構造と同様,陽子にも大きさの存在が確認された.

1.2

量子色力学

この節ではハドロンを構成するクォークとグルーオンに対する基礎理論である量子色力学

(QCD)の基本的な性質について,特にカラー電荷, 強い力, QCDの真空について触れる. QCD

Lagrangian

LQCD = ¯ψi(iγµDµ−mδij)ψj 1

4GaµνGµνa , (1.5)

ここで添字のi, jはフレーバーのインデックスであり,a= 1,2,3, . . . ,8SU(3)の随伴表現のカ ラー自由度である.

1.2.1 強い力とカラー電荷

前節のクォークモデルのパートで,クォークの存在に対して疑問が投げられたことについて触れ たが,もう1つクォークの存在を疑う理由があった. それはクォークがPauliの排他律を破るという ことである. 陽子はuクォーク2つとdクォーク1つで構成されるが,クォークはフェルミオンで あるためuクォーク2つは同じ束縛状態として存在できない. これに対する答えとして, Greenberg

Moo-Young Han-南部はクォークに対する新たな量子数,カラー電荷(色荷)を導入した. クォー

クはフレーバーから成り立っているだけでなく,それぞれに3色のカラー電荷があると提案した.

Pauliの排他律は同種粒子に対する制限なので同じフレーバーでも別のカラーを持っていれば問題

は起きない. ここでいう色とは当たり前だが実際にクォークが色を持っているということではない.

”, “”, “という名前の量子数を粒子がいくつ持っているかということである. つまり赤いu クォークはカラー電荷として赤+1,0,0持っている. 反クォークであればその反対の符号を持 つということである. ただ色という表現が便利なのは,ハドロンに対するカラー電荷の性質:

ハドロンの持つカラー電荷は白色のみ

1.1 クォークのフレーバーとその量子数

フレーバー 電荷 I I3 C S T B

u +2/3 1/2 +1/2 0 0 0 0

d −1/3 1/2 −1/2 0 0 0 0

c +2/3 0 0 +1 0 0 0

s 1/3 0 0 0 1 0 0

t +2/3 0 0 0 0 +1 0

b 1/3 0 0 0 0 0 1

(11)

というものである. つまりハドロンはクォークからくるカラーを持っているが,それぞれのカラー の大きさが等しいかゼロである場合のみに存在できるのである. これは光の3原色(,,)が混 ざる場合,またはある色とその補色が混ざる場合に白色になるということの比喩から来ている. ドロンが白色でのみ安定に存在するというのは, QEDにおいて電荷がプラスマイナスゼロの場合で 安定であるのと同じである. QED(量子電磁気学)QCDは同じゲージ理論であり,理論的構造は 似通っている. QEDでは光子の交換によって荷電粒子は相互作用をする. それと同様にQCDでは グルーオンの交換によってクォーク間に相互作用が働く. 両者の違いとしてはQEDでは電荷が1 種類であるのに対し, QCDでは赤,,緑の3種類あるという点である. クォークがグルーオンを吐 き出す過程の中でクォークの色は変わる. つまりグルーオンはカラー電荷+1, -12色持っている のである.(クォークが元々持っていた色を消し,吐き出したあとの色を与えるため)グルーオンは数 学的にはSU(3)の随伴表現に属するため(詳しくは次章)8種類存在する. グルーオンがカラー電荷 を持つということはグルーオン同士が相互作用するということである. 実際には3つのグルーオン の結合する場合と, 4つの結合のバーテックスが考えられる. QEDでは光子は電荷を持たない. かしQCDではこれらグルーオン同士のバーテックスを考えなくてはいけないので, QCDQED よりはるかに複雑になる.

もう一つのQCDの大きな特徴が強い力である. つまり強い力の結合定数が電磁相互作用に比べ て大きいということである. QEDでは,因子として微細構造定数のα= 1/137が掛かり,摂動計算 が可能になる. QCDではこの結合定数が実験的に見ると1より大きくなり,高次の複雑なダイアグ ラムの寄与はどんどん大きくなってしまう. ここにQCDの難しさがある. しかし強い力の結合定 数はエネルギースケールに依存することが知られている. つまり結合定数が相互作用している粒子 の距離に依存しているということである. 強い相互作用の結合定数は

αs = g2(µ)

4π (1.6)

で与えられるが,このαs µ依存性はくりこみ群方程式から求めることができ,計算は省略するが αs2) = 12π

(332NF) ln(µ22QCD) [

16(15319NF) (332NF)2

ln(ln(µ22QCD)) ln(µ22QCD)

]

+. . . (1.7) と与えられる. ここでΛQCD QCDの特徴的なエネルギースケールパラメータである. 複雑な

(1.7)で注目するべきは,エネルギースケールをµ2→ ∞とすると,a(µ2)0となる点である.

れをQCDの漸近的自由性と呼ぶ. つまり相対的に距離の大きいハドロン間における相互作用では 結合定数は大きくなり,ハドロンの見えてこない高エネルギー(距離の短い)領域においてはαs 非常に小さくなる. QEDにおいても結合定数に対して同様のスケール依存性は確認できるが効果は QCDとは逆に低エネルギーにおいて結合定数は小さくなる方に働く. そのためQEDは漸近的自由 ではない. このQCDに特異な性質はグルーオン同士の相互作用によってもたらされる. QEDでは 荷電粒子が存在する場合,その周りに電子-陽電子対が生成消滅を繰り返し(不確定性原理による), その影響によって荷電粒子の電荷は長距離であれば小さく見え(電子-陽電子対に覆われるため), 距離になればなるほど大きく見える(その荷電粒子の真の電荷が見えてくる). クォークにおいて QEDと同様の効果が考えられるが, QCDの場合対生成されるのはクォークだけでなくグルー オンも生成される. このグルーオンペアの効果がクォークよりも大きいためQEDとは逆に低エネ ルギーで結合定数が大きくなる方向に働く[7]. この漸近的自由性によってハドロン物理の複雑な 階層性が現れる. 分解能を上げ,高エネルギーを見ることでハドロン内部の構成子であるクォーク

(12)

が現れ,更に分解能を上げていくことでクォークやグルーオンの対生成の雲をまとっていない裸の

クォーク(u, dに関してはほとんど質量のない)が見えてくるはずである. そしてそれらのクォー

ク間には非常に弱い力で相互作用している. 逆に分解能を弱めていくと,結合定数は大きくなり, ラー1重項(白色)のハドロンのみが観測される. ハドロンスケールにおいてクォークを観測しよ うとすると(ハドロンを砕こうとすると),ハドロンを構成しているクォークは強結合しているため, 砕くために必要なエネルギーよりも新たなクォーク対を生成して,ハドロン2つに崩壊するほうが エネルギー的に安定なのである. このようにハドロン内部のクォークを単体で取り出せない問題を クォークの閉じ込めと呼び現在も解決出来ていない問題である.

1.2.2 QCDの真空とカイラル対称性

次にQCDの真空について触れていく. QCD真空で最も大きな特徴はカイラル対称性の自発的破 れである. カイラル対称性の自発的破れは真空の相転移現象と捉えることができる. 陽子,中性子の

質量は約1 GeVと考えるとu, dクォークの質量は300400 MeVとみなすことができる. しかし

ヒッグス機構によるクォークの質量獲得ではせいぜい25 MeVでハドロンスケールと比較すれば

ほとんどmasslessとみなせる程度である. 現在,この質量のギャップは自発的破れによる相転移に

よってクォークがカイラル対称性のダイナミクスを取り込むことによって説明できる. この節では カイラル対称性の自発的破れによるクォークの質量獲得機構を見ていく. まずはカイラル対称性と はなにかである. ここでは簡単のために2フレーバーで計算する.

クォークはフェルミオンであるためDirac場である. このクォーク場を ψ=

(u d

)

(1.8) とする. このクォーク場に対するカイラル変換をここから定義していく. ガンマ行列のγ5はよく知 られているように

γ5=0γ1γ2γ3= (0 1

1 0 )

=γ5 (1.9)

と定義される. γ52= 1であるからその固有値は±1である. この固有値をカイラリティと呼ぶ. れら固有値を持つ固有状態への射影演算子は

PL = 1−γ5

2 (1.10)

PR = 1 +γ5

2 (1.11)

で表される. これら射影演算子は当然以下の性質を持っている:

PL+PR= 1 (1.12)

PL2=PL (1.13)

PR2 =PR (1.14)

PRPL=PLPR= 0 (1.15)

つまり空間全体はカイラリティ+1−1の空間に分割することができ,それぞれの空間は直交し ているということである. このような射影演算子を用いて,クォーク場をカイラリティで2つの空

(13)

間に分ける.

ψL=PLψ= (uL

dL

)

ψR=PRψ= (uR

dR

)

(1.16) これらはそれぞれクォーク場をカイラリティ+11の固有状態に射影されている. これらをそ れぞれ左巻き,右巻きクォークと呼ぶ. これらクォーク場のDirac共役な場は

ψL= (ψL)γ0=ψPR (1.17)

ψR= (ψR)γ0=ψPL. (1.18)

この関係を用いてベクトルとスカラー演算子に適応してみると,

m=ψψ=ψ(PL+PR)ψ=ψPL2ψ+ψPR2ψ=ψLψR+ψRψL, (1.19) 同様に

Vµ =ψγµψ=ψRγµψR+ψLγµψL. (1.20) このようにスカラーに関しては左巻きと右巻きは混ざり,ベクトルでは完全に分離する. 分離した クォーク場に対して以下のような変換を考える:

ψL =ULL,

ψR =URR. (1.21)

ここでU(θ) = exp(i∑3

a=0θaτa/2)というユニタリ変換である(ユニタリ変換については次章で 詳しく触れる). つまりパラメータθを左,右で独立に回すということをする. このようにカイラリ ティによって独立なユニタリ変換をカイラル変換と呼ぶ. このようなユニタリ変換は元のクォーク

(1.8)への変換として,左と右を同じ方向に回す場合と,逆に回す場合の2パターンが取れる.

まり,

0成分同方向:θ0L=θ0R=α0

0成分逆方向:−θL0 =θ0R=β0

• 13成分同方向:⃗θL=⃗θR=α⃗

• 13成分同方向:−⃗θL =⃗θR=β⃗

2つのU(1)2つのSU(2)に分けられる. 同方向の2つに関しては通常のユニタリ変換であ . 我々が注目したいのは逆方向に回すもので,これらを具体的に見てみると,

ψ=ULψL+URψR= exp(iγ5β0)ψ, (1.22) ψ=ULψL+URψR= exp(iγ5β⃗·⃗τ /2)ψ (1.23) となる. 通常のユニタリ変換と違うのは指数関数の中にγ5が入ることである. これらの変換を それぞれUA(1),SUA(2)と呼ぶ. カイラル対称性の自発的破れを見るに当たって重要なのはこの UA(1),SUA(2)なので,これ以降これらをカイラル変換と呼ぶ.

先程,スカラーはカイラル変換によって右巻き,左巻きが混ざり,ベクトルでは独立であることを みた. このスカラー場をUA(1)カイラル変換させてみる:

ψψ=σ→ψexp(iγ5β)ψ

=ψψcosβ+ψiγ5ψsinβ. (1.24)

(14)

このようにスカラー(クォークの質量項)を変換させるとスカラーと擬スカラーが混ざる(スカラー σと擬スカラーπ2次元平面の回転とみなせる).同様に擬スカラーをUA(1)回転させると,

ψiγ5ψ=π→ψiγ5ψcosβ−ψψsinβ. (1.25)

したがって,それぞれの2乗を足し上げると,

(σ)2+ (π)2= (ψψ)2+ (ψiγ5ψ)2, (1.26) となる. これはカイラル変換に対して不変である. 同様にSUA(2)に対してカイラル変換をさせて みる:

ψψ→ψexp(−γ5τaθa/2)γ0exp(γ5τbθb/2)ψ

=ψ (

1−iγ5τaθa 2 1

2(θ

2)2+· · · )

γ0

(

1 +5τbθb 2 1

2(θ

2)2+· · · )

ψ

=ψ (

cosθ

2 −iγ5τaθˆasinθ 2

) γ0

( cosθ

2 +5τbθˆbsinθ 2

) ψ

=ψ(cosθ+5τ5θˆasinθ)ψ

=ψψcosθ+iψγ5τ5θˆaψsinθ,

(1.27)

ψiγ5τkψ→ψexp(−γ5τaθa/2)γ05τkexp(γ5τbθb/2)ψ

=ψ (

cosθ

2 − −iγ5τaθˆasinθ 2

)

γ05τk (

cosθ

2 +5τbθˆbsinθ 2

) ψ

=ψiγ5τkψ−(ψiγ5τaθˆaψ) ˆθk(1cosθ)−ψψθˆksinθ,

(1.28)

ここでθˆa = θθaa. カイラル変換したSUA(2)のスカラーとベクトル場に対して,UA(1)と同様に それぞれを2乗して足し上げると(1.26)と同様にカイラル不変となる. このためカイラル不変な Lagrangianとして

LNJL =ψi∂/ ψ+G 2

[(ψψ)2+ (ψiγ5ψ)2]

, (1.29)

というものが作れる. 先程求めたカイラル不変な第2項は相互作用項としてみることができる. れは明らかに質量ゼロの粒子に対するLagrangianである. u, dのクォークはヒッグス機構による数 MeVの質量はあるもののハドロンスケールの1 GeVと比較すればmass lessとみなすことができ . このLagrangianに対して平均場近似をとる:

G

2(ψψ)2→Gψψ

ψψ. (1.30)

また真空ではパリティは良い状態であるので,

ψiγ5ψ

= 0. (1.31)

この近似により, Lagrangian

LM F A=ψi∂/ ψ+Gψψ

ψψ, (1.32)

(15)

となる. この近似によって質量m=−Gψψ

のフェルミオンに対するDirac Lagrangianと見るこ とができる. このmはフリーのパラメータであるが,真空期待値に比例するというところからこの 値を評価していこう.

m=−G⟨0|ψψ|0=Glim

x0Tr0|T ψ(x)ψ(0)|0=iGlim

x0TrG(x), (1.33) ここでG(x)Feynmanの伝播関数:

G(x) = 1 (2π)4

d4p eipx +m

p2−m2+iϵ, (1.34)

である. この伝播関数を代入し,トレースを取ると, m= 4iGNc

(2π)4

d4p m

p2−m2+iϵ. (1.35)

この4 次元Minkowski 空間における積分をp = (p0, p1, p2, p3) (ip4, p1, p2, p3) 4次元の

Euclid空間積分に変換する:

m= 4GNc

(2π)4

m

p2+m2d4pE. (1.36)

これを極座標変換すると,

m= GNc

2

Λ2 0

dp2 p2m

p2+m2, (1.37)

ここで,上記の積分は発散してしまうので,カットオフΛを導入する. 積分計算を実行すると以下の 解を得る:

m1) =κm3

Λ2 logΛ2+m2

m2 , (1.38)

ここで,κ= GN2cΛ2である. この関係式において,自明な解m= 0は常に存在する. しかしκ >1 では対称性の自発的破れに対応する非自明な解も存在し,クォークはカイラル対称性の力学を纏っ た質量を獲得する.

格子は約1 GeV 程度の質量である. 構成子としてのクォーク質量 300400 MeVとカレント

クォーク質量数MeVとのギャップはこのカイラル対称性の破れから来る.

(16)

2

対称性と物理法則

自然界には多くの対称性が存在する. 生物の形態や物質の結晶構造,また優れた美術作品の中に も対称性を見出すことができる. 人が対称性に美を見出すのは自然界そのものが対称性を内包して いるからかもしれない. 実際物理法則の背景には様々な対称性が隠れている. 法則とはパターンで あり,そのパターンに対応する幾何学的なイメージとして対称性が存在する.

一方ハドロン物理においてはQCD真空の複雑さから真空のカイラル対称性が自発的に破れ, のことがハドロンの世界をより一層複雑に,一層面白くしている. 対称性の破れという概念が理論 の理想的な世界と現実の現象との差を定量的に測るための道具となっている.

対称性が物理と密接に関わっている最も良い例がNoetherの定理である. これは注目している系 のラグランジアンに対して対称性が存在することと,系に保存量が存在することが同値であるとい う主張である.

系に対する連続変換対称性

⇐⇒

保存量の存在

この関係性を実際に見てみよう. 座標の無限小変分は

xµ −→xµ=xµ+δxµ, δxµ 1 (2.1)

場の無限小変分は

ϕ(x)−→ϕ(x) =ϕ(x) +δϕ(x), δϕ≪1 (2.2) とする。注意しなければいけないのは,場の変分は座標の変分に依存する.

作用変分は

0 =δI =

d4xL(∂µϕ(x), ϕ(x))

d4xL(∂µϕ(x), ϕ(x)) (2.3) となる. 変換のJacobian

d4x = ∂xµ

∂xν

d4x= det(δνµ+νδxµ)d4x. (2.4)

さらに

µϕ(x) =

∂xµ(ϕ(x) +δϕ(x))

= ∂xν

∂xµ

∂xν(ϕ(x) +δϕ(x))

= (δνµ−∂µδxν)(∂νϕ+νδϕ)

=µϕ+µδϕ−(∂µδxν)∂νϕ.

(2.5)

(17)

よってδI 0 =

(1 +µδxµ)d4xL(∂µϕ+µδϕ−∂νϕ(∂µδxν), ϕ+δϕ)−

d4xL(∂µϕ(x), ϕ(x))

=

d4x

[

(∂µδxµ)L+ (∂µδϕ−(∂µδxµ)∂νϕ) ∂L

∂(∂µϕ) +∂L

∂ϕδϕ ]

.

(2.6)

ここにLie微分の定義からµδϕ=µδϕ+µ(δxννϕ)なので 0 =

d4x [

(∂µδxµ)L+ (∂µδϕ+δxνµνϕ) ∂L

∂(∂µϕ) + (δϕ+δxµµϕ)∂L

∂ϕ ]

=

d4x [

δϕ {∂L

∂ϕ −∂µ

( ∂L

∂(∂µϕ) )}

+µ

{

δϕ ∂L

∂(∂µϕ) −δxννϕ ∂L

∂(∂µϕ) +δxµL } ]

(2.7) というように導かれる. 3行目から4行目は被積分関数第2項目のµδϕを部分積分した.

この恒等式に対してEuler-Lagrange方程式を適用すると第1項が消える. この恒等式が任意の場に 対して成り立つためには積分内部が0になることが必要十分.

よって

µ

{

δϕ ∂L

∂(∂µϕ) −δxννϕ ∂L

∂(∂µϕ) +δxµL }

= 0. (2.8)

中括弧内をδJµとするとこの量が不変量であることが分かる. このδJµの第0成分の空間積分 δQ(t) =

3

d3xδJ0(x)

を広義の電荷と呼び,これが連続変換の群の生成子となっていて,その群の変換性を決めている. の生成子に関してはこのあと議論していく.

2.1

群の定義

ここからは対称性を数学的に定義するために群を定義していく. 群とは,集合の要素間に演算法 則を与えたものである. ある集合Gがあったとして,Gが群であるとは具体的には以下の4つの性 質を満たすことと同義である.

閉性: ∀a, b∈Gのときab=c∈G.

結合性 :∀a, b, c∈Gのとき(ab)c=a(bc).

単位元 :ia=ai=aとなるようなi∈Gが存在する.

逆元 : aa1=a1a=iとなるような元a1∈Gがすべてのa∈Gに対して存在する. 群の定義において可換性は必要ではない. ただし任意の元に対して可換である時その群をアーベリ アンと呼ぶ. またGの部分集合をHとし,H単体で同様に上記4つの性質を満たすとき,HG の部分群と呼ぶ.

2.1.1 簡単な群の例

ここでは具体的に簡単な群について紹介する.

図 1.1 鉛板に衝突した宇宙線による飛跡 G.D.Rochester and C.C.Butler, Nature 106, 885 (1947)
図 1.2 バリオン 8 重項 メソンも同様にパターンに割り振られ , 8 重項と単重項を構成する . 擬スカラーメソンにおいて数 学的には 8 重項からくる η 8 と単重項からくる η 0 が存在する

参照

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