都市部 トンネル施工 にお ける
周辺地 山挙動把握 と環境影響評価 に関す る研究
佐 々木郁夫*・蒋 宇静** ・棚橋 由彦**
村里 静則** *・今長谷秀亮****
Mo n i t o nn ga n dEn v i r o n me n t a lI mpa c tAs s e s s me n t d u r ingTu n n e lEx c a v a t i o ni nUr ba nAr e a
by
IkuoSASAKI*,YujingJIANG**,YoshihikoTANABASHI**
Sizunori MURASATO***andHideakiIMAHASE****
Whenimprovingatransportationsystem intheurbanarea,tunnelstructuresareoftenusedrecentlyasaresultof cltyPlannlngandenvironmentalmeasure.Thispaperistopresentamethodforpredictingthegroundmovementand assesslngtheinfluenceeffecttothesurroundingenvironmentduringtunnelconstructionprocessbyuslngthethree‑ dimensionalnumeriCal method.Theproposedapproachisclarifiedbythefieldmeasurements.Basedonthepnoresti‑ mations,arationalsupportlng design method isalso putforward to effectively controltheground movementand surfacesettlements.
1.研 究の背景 と目的
近年 ,都市化 した地域 で道路 を整備す る場合 に,那 市計 画上や環境対策上 トンネル構造が選択 されるこ と が多 くなって きてい る. また,土被 りの小 さい場所 で は,従来開削工法の トンネル とされていた ものが,用 地取得 や家屋移転,施工時の環境対策,掘 削土処分 な どの閑難 な条件 があ り,非 開削の トンネルの方が,経 済的 に も環境対策上 において も有利 となる場合が増 え てい る.一般 に, トンネルの施工 に際 しては, 自然環 境 (地形 ,地質,地下水 な ど)・社会環境 (土地利用, 既設構造物 な ど)・生活環境 (騒音 ,振動 な ど)‑ の 影響 が問題 となる.特 に都市部で は,坑 口部の用地取 得の制約が多 い ことか ら,低土被 り対策や近接施工対 策, また,地質的 には特殊地 山対 策が必要 となる.土
被 りの小 さい場所では,固結度が低 い ことや地下水 の 影響 もあって,切羽の自立性や地山の強度の不足 によっ て, トンネルの施工が困難 な場合があ る. さらに,也 表の建物 や地下埋設物 に悪影響 を与 えない よう地表沈 下お よび周辺地山の変形 を抑制 しなければな らない.
双設 トンネルで は,両 トンネルが互 いに応力 的 に影 響 し合 わない距離 をおいて施工 され るのが望 ま しく, 高速 道路 トンネルで は , トンネル中心 離 隔 を約3D (D:トンネル径 )程度確保 して路線計 画 が な されてい る. しか し都市部 な どでは,用地上の制約 などによ り, 双設 トンネル相互の応力的干渉が生 じるほ ど両 トンネ ル間の鞍 隅 を小 さ くせ ざるを得 ないケースが増 えてい る. この ような両 トンネルの離隔が小 さい双設 トンネ ルでは,通常 , トンネル間 に導坑 を先行 して掘削 しセ
平成14年4月19日受理
*
飛 島建設株式会社 (TobishimaConstructionCo.,Ltd)** 社 会開発工学科 (DepartmentofCivilEngineering)
***長崎県庁 (NagasakiPrefecturalOffice)
****大学院修士課程社会 開発工学専攻 (GraduateStudent,DepartmentofCivilEngineering)
154 佐 々木郁夫 ・蒋 宇静 ・棚橋 由彦 ・村里 静則 ・今長谷秀亮
ンター ピラーを打設する眼鏡型 トンネル と,セ ンター ピラーを設けない超近接双設型 トンネルに区分 される.
こうした厳 しい制約条件 に対 して,最近では補助工 法を活用 して解決 している施工事例が多 くなっている.
本研究は,都市部 トンネル施工 において問題 となる 騒音,振動,地表面沈下などの環境影響の うち,土被 り が小 さい都市部 トンネルを対象に,掘削 に伴 う周辺地 山の力学的挙動お よび地表面への影響 を,三次元掘削 解析モデ リングを行い的確 に把握 ・評価 し,都市部 ト
ンネルの合理的設計施工 を実現することを目的 とする.
2.補助工法の概要
補助工法 とは,ロックボル ト,吹付 けコンクリー ト, 鋼製支保工 などの通常の支保パ ターンでは対処で きな いか,対処することが得策で無い場合 に,切羽の安定 性 ・トンネルの安全性確保 ならびに周辺環境保全のた め,主に地山条件の改善 を図る目的で適用 される補助 的 または特殊 な工法 をい う.補助工法 を大別する と, 通常の機械 ・設備で施工がで き,比較的施工サイクル にお よはす影響が少 ない もの と,特殊な機械 ・設備 を 必要 とし,施工サ イクルにお よはす影響が大 きい もの に分 け られる■).近年,多種多様 な条件の もとで, ト ンネルを施工する事例が多 くなってきていることか ら, 施工的に も経済的 にも補助的な工法ではな く,む しろ 主要工種 となって きている.
各種補助工法の うち,先受け工 は トンネル周辺地山 の崩落 を防止 した り,変形 を小 さ くとどめた りするた めに,切羽前方の地山に対 して施工する ものである.
その中で も,土被 りの小 さい都市部などでの トンネル 掘削 に積極的に採用 されている長尺鋼管先受け工 (長 尺鋼管 フォアパ イ リング方式)は,地山の先行変位の 抑止,地山のゆるみ防止,施工の安全性確保 な どを目 的に,切羽安定対策,地表面沈下対策,特殊地山の う ち未固結地山対策 として採用 され,その施工実績の増 加 は泰‑1に示 された ように, トンネル現場 における 長尺鋼管先受け工 の評価 には高い ものがある.長尺鋼 管先受け工 は, トンネル掘削に先立 って,切羽前方地 山に鋼管 を打設す ると同時 に,セメン トミルクや薬液
表 ‑1 先受け工の方式別適用事例数2'
先受 け工方式 事例数
ス リッ トコンクリー ト方式 3 水平 ジェ ッ トグラウ ト方式 15
等兼至兼至箕淵 欝三箕淵 欝三業業
図‑1 長尺鋼管先受 け工の補強概念図
などを圧力注入することにより,地山の安定 に対 し梁 効果お よび シェル効果 を期待す るものである2'.図‑1
に長尺鋼管先受け工の補強概念図 を示す.
3.本研究の着 目点
都市部 トンネル施工 における周辺地山挙動把握 と環 境影響評価 を行 うにあたって着日点 を設定 し,以下に それ らの特徴 を略述する.
(1)実際の施工過程によるモデル化
トンネルや地下空洞の安定解析 に関 しては,有限要 素法 を代表 とする数値解析手法による研究が盛んに進 め られ多 くの実績が積 まれているが, トンネル縦断方 向の効果 を無視 した,二次元平面 ひずみ問題 として解 析 されることが多い. また,三次元解析が行われた場 合で も実際の施工過程 を再現 して解析 を行 っているも のは少 なく,解析 における掘削過程の表現 は唆味で単 純化 されたモデル となっている.本来,地山の挙動 は 三次元的な ものであ り,合理的な支保設計 を図るには 掘削 に伴 う切羽周辺の地山の挙動 を忠実 に解明 しなけ ればならない.本研究では,掘削過程 を表現するため
二次覆 工
/,′\
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\ ′ \ / \ ′ ′I̲ l コン
図‑2 掘削過程 のイメージ
ボルト
に,図‑2に示す ような (ヨステ ップごとの掘削作業, (∋H型鋼の建込作業 ,③ コンクリー トの吹付 け作業,
④ ロックボル トの打設作業,⑤二次覆工打設作業 といっ た現場での一連の流れ を最大限かつ忠実 に再現す る掘 削解析モデルの開発 を行い,地山の挙動 を定量的 に評 価 してい く.
(2)三次元 ビーム要素 による長尺先受 け鋼管の表現 長尺鋼管先受 け工のモデル化 は複雑であるため,既 往の研究 において も長尺鋼管先受け工 を三次元で表現 した ものは少 な く,先受 け工 によ り改良 される領域の 地山の変形係数 を大 きくす ることで二次元 的に表現 さ れて きた. しか しなが ら,本来長尺鋼管先受 け工 は, 切羽前方の地山に対 して施工す る ものであるため,切 羽の進行 とともに三次元で表現すべ きである. したがっ て,本研究では長尺鋼管先受 け工 を三次元 の ビーム要 素 で表現 す る こ ととす る.図‑3に本研究 で用 い た支 保モデル を示す.
(3)軟岩 の力学的挙動の表現
トンネル周辺地山の変形挙動 は,それ を構成す る周 辺地 山の応カ ーひずみ特性,特 に ピー ク強度以降の特 性 に大 きく支配 される.本研究で対象 とす る軟岩 は図‑
4の ようなひずみ軟化挙動 を示す もの として取 り扱 い, 軟岩 の力学 的挙動 を正 しく評価す るため に,軟岩特有 の特性であるひずみ軟化特性 とダイレイタンシー特性 のモデル化 を行 う. ここで,ひずみ軟化特性 とは岩の 種 々の内部機構 の変化 を経 て ピー ク強度 に達 した後, 一度 に内部エ ネルギーを発散 して崩壊するのではな く, 徐 々に応力が低下 し,やがて残留応力が一定 となって
ひずみだけが進行す る現象であ り, ダイ レイタンシー 特性 とはひずみ軟化お よび塑性流動状態 における体積 増加 の ことである.
図‑3 支保 モデル
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ー ゆ るみ荷重 の発生
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図‑4 軟岩の応カ ーひずみ関係
4.解析ケースの設定
本研 究では,多数ある補助工法の中で も低土被 りで の都市部 トンネルを掘削す る際 に,積極的 に利用 され ている長尺鋼管先受 け工の地表沈下 と地山変形 に対す る抑制効果 を解明す ることこそが,都市部 トンネル施 工 における周辺地山挙動把握 と環境影響評価 を行 える もの と位置付 け,前述 した3つの着 目点 に別 してその 評価 を試みた.また,実例‑の適用 として,現在長崎 市で施工 されているオラ ンダ坂 トンネルを対象 とし, 三次元掘削解析 と考察 を行 った.
5.長尺頚管先受 け工の地山変形 に対 する抑制効果の 評価
(1)モデ リング
長尺鋼管先受け工の沈下抑制効果 を評価するために, 長尺先受 け鋼管の各諸元 を変化 させ三次元掘削解析 を 行 った.掘削工法 は全断面掘削 とし,断面形状 は標準 断面 (掘削外径約10m)とす る.地山の特性値 は, 日 本道路公団の地山分頼 りのDIクラス程度 (ヤ ング率E=
278MPa,ポア ソン比リ=0・35,内部摩擦角≠=250, ダ イ レイ タンシー角¢=200)を想定 し,支保 工打 設 も それ に準 じた支保パ ター ンを用いることとす る. また 軟岩地山は,破壊後 ひずみ軟化挙動 (残留強度 は ピー ク強度の50%とす る) を呈す ることとす る.長尺先受 け鋼 管 は鋼管長 14m, ラ ップ長 4m,打設範 囲はスプ リングライ ンよ り1200とす る.解析 では,逐次掘削過 程 を表現す るために標準的な施工手順 に基づ き,掘削 は1掘削 ステ ップ長 (1.0m)毎 に行 い,支保工 は 1ス テ ップ分遅 らせて鋼製支保工 を含めた吹付 けコンクリー トお よびロ ックボル トの打設 を行 う. また,先受 け鋼 管は10ステ ップ掘削毎 に打設す る.
長尺鋼管先受け工 は, トンネル縦断方向 に打設 した
156
64
(%)qnren‑i 2
佐々木郁夫 ・蒋 宇静 ・棚橋 由彦 ・村里 静則 ・今長谷秀亮
0.15 0.25 0.35 0.45 連続率(め/㊨)
図‑5 各打設パ ター ン毎の沈下抑制効果 (ua:先受け工が有る場合の最終変位,
ub:先受け工が無い場合の最終変位)
鋼管の剛性 により地山の安定性向上 を図ることが主 目 的で,注入によるプレライニングの効果 (シェル効果) は補助的であ り,鋼管の打設間隔や鋼管周辺地山の改 良の程度 によりその効果は異なるもの と考えられる4'.
したが って,本研究ではシェル効果 を無視 し梁効果の み を考慮する.
(2)打設パ ターンの違いによる効果
長尺先受け鋼管の種々の打設パ ターンによる変形 に 対する抑制効果 を試みた.打設パ ターンは長尺先受け 鋼管の鋼管径 (≠)お よび円周方向打設 ピッチ (@) を変化 させ る こ とと した・ 比較 検討 す るため に≠
114・3@600 ,≠139.8@600 ,≠139・8@300 (単位:帆 ) と設定 した. 図‑5にそれぞれの場合 における トンネ ル天端お よび地表面沈下の抑制効果の比較 を示す.な お,図‑5において,縦軸 は先受け工の有無 による地 表面沈下抑制効果の割合,横軸は鋼管打設間隔の連続 度合 い と した・ 図‑5か ら4139.8@300 の場合 で最 も 沈下抑制効果があ り,鋼管が密 に打設 された状態であ れば沈下に村する抑制効果が増加することがわかる.
また,沈下抑制効果は連続率 に比例 していないため, 円周方向打設 ピッチを狭 くするよ りも鋼管径 を大 きく した方が効果の増加が期待 される. しか しなが ら,打 設 しない場合 に比べ最 も効果のある場合で も10%未 満 の効果 しかないため,長尺鋼管先受け工の梁効果はあ
まり期待で きないことが明 らかになった.
(3)地山強度比の速いによる効果
国内の地山分類は岩種,割れ目の状態,地山の弾性 波速度値 を因子 と している ものが多い.また,軟岩や
(%)q⊃\e⊃⊥ 8765
磨
帆
ここ:A
1/‑‑‑‑‑Y2‑‑I‑1卜‑‑4‑‑‑‑‑5‑‑〜‑‑令‑‑‑〜‑i 地 山強 度 比
図‑6 各地山強度比毎の沈下抑制効果
土砂 などの地山については弾性波速度値ばか りでな く, トンネルの土被 り荷重 と地山の‑軸圧縮強度の比(也 山強度比)を因子 とす る例が多いことか ら,本研究で は土被 りお よび‑軸圧縮強度 を変化 させて各地山強度 比毎の長尺鋼管先受 け工の効果 を評価 した.図‑6に 各地山強度此毎の効果 を示す.図‑6か ら地山強度比 が大 きいほど沈下抑制効果が増加 しているため,土被 りが小 さいほど, また地山が安定 しているほど効果が あるとい うことがわかる. また,地山強度比が2以下 になると効果が急激 に減少する傾向が見 られ,地山強 度比が2以下の不良地山に対 しては長尺鋼管先受け工 の効果はほ とん ど期待で きない と考 えられる.
(4)梁およびシェル効果の比較
梁効果のみならず注入によるシェル効果 をも考慮 し た解析 を行い,定性的に注入による効果の把鹿 を試み た.解析では薬液などの注入によって改良 された地山 の変形係数 を5倍,10倍 と変化 させ ることで注入によ る改良域 を表現 した.図‑7に トンネル天端お よび地
(%)q
⊃
\en⊥
5梁のみ 梁+シェル(×5)梁十シェル(×10) モデル方式 の比較
図‑ 7 注入によるシェル効果
表面沈下の抑制効果 を示す.図‑7か ら,注 入 に よる シェル効果が発揮 されるのは トンネル天端部であ り, 地表面沈下 にはわずかな効果 しか期待 で きない ことが わか る. したが って,長尺鋼管先受 け工 は地表面沈下 を抑制す る とい うよ りも,む しろ鏡面 の安定性 を向上 させ る補助的な もの と考 え られる.
6.実現場の環境影響評価 と対策 (1)環境影響評価
トンネル解析の現状 として,合理的 な設計 のために 行 われている とい うよ りも,単 なるケースス タデ ィや 施工の裏付 けに止 まっているのが ほ とん どで,実現場 へ適用可能 な解析手法や評価法の確立が求め られてい る.その背景で,実際の設計 は従来の実績や経験 に基 づいて行 われているのが実状 である.本研究では,具 体事例 として現在長崎市 に施工 中のオランダ坂 トンネ ル を対象 として,実現場 を忠実 に再現 したモデル化 に よる掘削解析 を実施 し,都市部 トンネル施工 における 周辺地 山の挙動 と環境影響 を考察 した.
オラ ンダ坂 トンネル は,写真‑1に示 す ように住宅 密集地下 に存在 し,最低土被 りは坑口部で約7mであ り, さらに地形的制約 によ り上下線両 トンネルの中心 間距離が約3D (D:トンネル径)か ら2D‑ と漸近 し, 特殊立地条件下での施工 を余儀 な くされている.住宅 密集地では,既設構造物やガス管 ・上下水道 などの ラ イフラインを対象 とした影響把握が必要 となるため, 坑内,坑外 において計測工 を実施 し,周辺地 山の挙動 を把握す ることで環境影響評価 を行 う. また,計測結 果の現場施工への フィー ドバ ックを行 うことで,最適 な補助工法の採用 を検討す る.オランダ坂 トンネルで は,最 も許容値 の厳 しい ガス管 を対象 に管理基準値 を 20mmに設定 している.
図‑8に計測管理 フロー図 を,義‑2に構造物 ご との 管理基準値3)を,秦‑3にオラ ンダ坂 トンネルの管理基 準値 を示す.
写真 ‑ 1 出口側坑 口状況
図‑ 8 計測管理 フロー図
秦 ‑ 2 近接工事 による構造物 ご との管理基準3)
既 設構造物 許容値 管 理値
用途 企業者 形式
建築物 鉄筋コンクリ‑ト5F 沈 下 :5mm ±120秒
C上 9へ●タ基礎F地下3 沈 下 :5mm RC直接基礎 1フ‑テ ング部材角/300‑1/500 ビルRC3F、4 傾斜士160秒
家屋 (対沈下量 :20対沈下2形角 :12‑2‑5‑30mm0) ×mm量 :10.ョrad
義‑ 3 オランダ坂 トンネルの地表面沈下管理基準
注意 レベル 地表面沈下計測を用いた管理基準 (mm) 先行 トンネル 復行 トンネル
3 以下 4 以下
I 3‑ll 4〜13
Ⅱ ll‑17 13‑20
(2)本解析手法の実現壕 にお ける適用
現在,2002年2月時点で,長尺鋼管先受 け工 を補助 工法 として (図‑3),下 り線 が上 り線 よ り90‑loom 先行 して施工が行 われているが,不浸透性 の地 山のた
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め梁効果 しか期待で きない状況にある.
モデル対 象 と したのは新地側坑 口か ら415mの区間 であ り,現場での支保パ ターンお よび地層分布 も含め て,現場施工 を忠実 に反映 させた解析モデルの設計 を 行 った.地層分布 を図‑9に示 し,モデル全体図お よ び上下線 トンネルの位置関係 を図‑10に併せ て示す.
現場で得 られた計測結果 を参考 に地山物性億 の同定 を 行い,現場で適用可能なモデ リングを行 った.求め ら れた地山の物性値 を用いて解析的に予測 した結果 と既 掘削域 における計測結果 を図‑11に示す.図‑11か ら計
図‑ 9 Ⅹ断面(y‑2500m)における地層分布
(a)モデル全体図
下 り線 上 り線
(b)上下線 トンネル位置関係(y‑坑 口か らの距離(m)) 図一10 オランダ坂 トンネルモデル図
(∈LU)fiポ恒僻単
切羽からの鎌 m)
図‑11 解析結果 と計測結果の比較 (地表面沈下量) (切羽位置:上 り線y‑2735m,下 り線y‑2815m)
沸点 (切羽の進行と共に移動) y=2815
y=2735
50m
上り線切羽位置(∩)
2735275527752795281528352855287528952915
050505050511223344
(EuJ)Tiポ腹僻君
図‑12 切羽の進行に伴うセンタービラ一部地表面沈下量
測結果 との差 は多少あるものの,実現場 における地山 の挙動 を適切 に表現で きた と考えられ,本研究で示 し たモデルおよび解析手法の妥当性 は証明で きた. した がって,未掘削域での影響 をある程度の範囲で予測で きる もの とし,未掘削域での地表面沈下量の予測 を試 みた.図‑12か ら切羽後方50m程度で変位 の収束が見 られるため,後行する上 り線の切羽位置 を基準 とし, 切羽の進行 とともに50m後方の点 も移動 させ,その点 における地表面沈下量 を予測 した.予測対象 とした場 所は上下線のセ ンター ピラー部であ り,上 り線の切羽 位 置 がy=2735m (測点位 置y=2685m)か ら坑 口のy=
2915m (測点位置y=2865m)まで とする.図‑12に解析 によって得 られた予測地表面沈下量 を示す.図‑12か ら,上 り線切羽位置がy=2835m (測点位置y=2785m) 付近で,現場 において定め られた管理基準値の中で も 最 も注意 レベルの高いⅢの20m を超 えていることが わかる.両 トンネルの中心問距離お よび地山強度比が 小 さくなったことが原因 と考 えられる. また,坑口部
では40mm程 の地表面沈下量が生 じてい るため,地表 面沈下対策 を行 うため施工法の再検討が必要であ る と 考 え られる.解析結果か ら長尺鋼管先受 け工の地 山変 形抑制効果 を考慮 した場合, この補助工法のみでは地 表面沈下量 を管理基準値以内 に抑制す ることが困難で ある ことか ら, インバ ー ト一次吹付 けに よる断面 の早 期 閉合,上半支保工脚部補強 による断面閉合 までの沈 下防止 ,高強度吹付 け コンクリー トによる支保耐力の 向上 な どの補助工法 を追加す ることによ り,出来 るだ け地表面の沈下 を抑制す る. また, これ らの補助工法 の効果 を確認 し評価す ることに よ り,坑 口部の対策工 の検討 を行 う.
7.終 わ りに
本研究 は都市部 トンネル施工 における周辺地 山挙動 把握 と環境影響評価 を行 うため に,三次元解析手法 を 用いて長尺鋼管先受 け工の各諸元 に関す るケースス タ デ ィを実施す ることによ り沈下抑制効果 を確認す るこ とがで きた.その結果,長尺鋼管先受 け工の効果 は地 山の状況 によって変化す るが,打設 しない場合 に比べ
て10%未満であ り,固緯度の低 い地 山では沈下抑制効 果はあ ま り期待で きない ことが明 らかになった. また, 影響予測 と対策のため に現場施工へ有用 な情報 を与 え 得 るモデルの開発 を行 い,環境影響 の事前評価 を行 っ た.今後 は,種 々な地 山条件 を考慮 した長尺鋼管先受 け工の沈下抑制効果の評価 を行 うとともに,環境影響 を最小限 に した都市部 トンネルの合理 的施工のための 効果的 な対策法 を提案 してい く.
参考文献
1) 土木学会編 :トンネル標準示方書 (山岳工法編)・
同解説,1996.
2) 土木学会 :トンネル ・ライブラリー第10号 ,プ レ ライニ ング工法,2
(
X胎.3) トンネル技術協 会 :地中送電線土木工事 における 構造物近接部設計施工指針,1985.
4) 箱石他 :計測 デー タ分析 に基づ いたア ンブ レラ工 法の効果に関する一考察, トンネル工学研究論文 ・ 報告集,第7巻,pp.23‑30,1997.