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刑務所出所者の自己実現に向けた エンパワーメント

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刑務所出所者の自己実現に向けた エンパワーメント

10sw1148 高橋 秀直

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i 目 次

目次・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ⅰp

序章・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1p

第 1 章 理論解説・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2p 第 1 節 理論1:潜在能力の理論・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2p 第 2 節 理論 2:欲求階層説・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4p

第 2 章 出所者の現状・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6p 第 1 節 住居・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7p 第 2 節 就労・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8p 第 3 節 受刑者分析―年齢と知能指数の観点・・・・・・・・・・・・・・・9p 第 4 節 出所者の問題点の考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11p 第 3 章 出所者支援の現状・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13p 第 1 節 主軸とされている支援・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14p 第 2 節 平成 18 年度刑務所出所者等総合的就労支援対策・・・・・・・・・・17p 第 3 節 ・欲求階層説から分析する出所者支援の現状・・・・・・・・・・・18p 第 4 章 出所者の高次の欲求を満たす支援にむけて―日本の支援を補完するもの

―・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20p 第 1 節 安全欲求を満たす支援への提案・・・・・・・・・・・・・・・・・21p 第 2 節 愛と所属の欲求を満たす支援への提案・・・・・・・・・・・・・・22p 第 3 節 尊重の欲求を満たす支援への提案・・・・・・・・・・・・・・・・23p 第 4 節 自己実現の欲求に近付くために・・・・・・・・・・・・・・・・・23p 終章・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・26p

注・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27p

参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・29p

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1 序章

本論文では刑務所から出所してきた人々のエンパワーメントを考える。福祉というと多 くの人々の頭に最初に浮かんでくるものは高齢者、障害者というワードではないだろうか。

社会福祉を学んでいる筆者も学び始めた当初は障害者や高齢者を中心とした一般的にいう 弱者に関する学問だと考えていた。今回、筆者が選択したテーマは刑務所出所者の福祉を 考えるものであり、彼らが社会の一成員として貢献し、経済活動を通して自立した生活を 送り、社会人として自己実現に向けた生活を送るためにエンパワーメントをしたい。なお、

本論文では少年院出所者は含めず、刑務所を出所した成人の出所者に焦点を当てる。

なぜ、筆者が出所者の福祉を扱おうと思ったのか、それは犯罪者と私が決定的に違うと は思えなかったところにある。福島章著『犯罪心理学入門』をはじめ、犯罪や非行に陥っ た人々の境遇を綴った伊藤芳朗著『少年Aの告白』、斎藤充功著『ルポ 出所者の現実』を 読み、犯罪は本人だけの責任と考える事が出来なくなった。犯罪者に転じた個人には、そ れまでの生い立ちや家庭環境に問題が見られる場合が多く、両親の離婚、虐待が稀ではな い。そのような環境が犯罪を起こす一つの原因となっていると考えると、自分は恵まれて いたという気持ちが湧いてこないだろうか。どんな環境下で育っていても自分は法を遵守 する社会適応者になっていると胸を張って言える人は何人いるだろうか。筆者は、この問 に胸を張って応えることが出来ない。犯罪者を身近に感じたというのは語弊があるかもし れないが、罪を犯しその罪を償い、社会に復帰をするときの制度や受け皿が現在の日本で まだ確立されていないと考え、このテーマを扱うこととした。

犯罪白書によれば、犯罪者の社会復帰の主軸は、就労支援と住居確保への支援の 2 つで ある。この 2 つは生活基盤をつくる上で重要であり、とても大切な支援である。しかし、

筆者はこのような支援策について論じている犯罪白書や更生保護について取り扱っている 論文を読んでいると違和感を覚えることがある。それは、再犯防止に目が行き過ぎるあま り、出所者個人の尊重がなされていないということである。更生保護法の基本理念は再犯 防止である。しかし、出所者の自己実現のために就労支援、住居確保をすることが再犯防 止に繋がるというのが望ましい形ではないか。そして出所者の福祉を目的とすることで、

主軸となる就労支援と住居確保のほかにおこなうべきプラスαの支援や、民間協力の形を 再度見直すことになるはずである。

では、出所者の自己実現に向けたエンパワーメントを目的とする場合、何を参考にする べきであろうか。筆者は、アマルチュア・センの潜在能力の理論とマスローの欲求階層説

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を用いる。第 1 章で詳しく説明するが、「潜在能力を高める」という目的地に到達するため に、欲求階層説がナビゲーションの役割を果たしてくれる。この評価軸を取り入れること で今までの支援の再検討や犯罪者の社会復帰の取組が就労支援や住居確保だけにとどまる ことなく、内面にも言及するような支援となる。また、まだ広がってはいないが現在、犯 罪者のことを第一に考えて行われている地域一体となった犯罪者のソーシャルインクルー ジョンの取組や海外の取組を紹介することでプラスαの視点や現状足りてない点をどのよ うに補っていくのかを考えていく。なお、出所者のエンパワーメントは障害や年齢の有無 に関わらず支援をしなければならないが、本論文では障害者と健常者の支援が異なること、

高齢層と若年層での支援は違うという理由から、健常者の 20~50 歳代の支援を対象とする。

本論文は、第 1 章でアマルチュア・センの潜在能力の理論とマスローの欲求階層説につ いて説明し、この論文の理論的枠組みを示す。第 2 章は、出所者の現状を概説する。受刑 生活を終え社会復帰する出所者を取り囲む就労状況や住居の状態から現状の問題点をまと める。また、受刑者を年齢や知能指数といった変数でグループ分けをし、どのグループへ の支援が特に不十分であるのかを考察する。第 3 章は、出所者の援助の現状をまとめる。

現在行われている援助をマスローの欲求階層説を用いて整理し、前章の出所者の現状と照 らし合わせることで現状では補えていない支援を見つけ出す。第 4 章は、3 章で明らかに なった欠如している部分をどのように補うかを考え海外や日本の取組から補完すべき支援 を考察する。官民協働のものや、海外の活動を紹介し結びとする。

価値ある生き方を選択する自由を獲得するための支援を本論にて提供することを通して、

今後の更生保護の改善、発展に貢献できるよう願う。

第 1 章 理論解説

本論文は、出所者のエンパワーメントの提案を目的としているが、その目的の達成に向 けてアマルチュア・センの潜在能力の理論とマスローの欲求階層説を用いて分析を進めて いく。以下にセン博士の理論およびマスローの理論を概説し、本論文の理論的枠組みを説 明する。

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3 第1節 理論1:潜在能力の理論

出所者の自己実現に向けたエンパワーメントとはどのように考えれば良いだろうか。筆 者は、アマルチュア・セン博士の潜在能力の理論『不平等の再検討』を用いて出所者のエ ンパワーメントを考える。社会福祉用語辞典によれば、エンパワーメントは、人間の潜在 性に絶対の信頼を置き、自己実現に向けてそれを阻む要素に抗う力を養成することを目的 としている。筆者がこの理論を本論文の理論的枠組みとした理由は、エンパワーメント に沿う形で出所者の支援を考察できると考えたからである。筆者は、潜在能力の理論が持 ち合わせている 2 つの特徴がそれを可能にすると考えている。1つ目の特徴は、潜在能力 の理論が、仕事に就いているとか、貯蓄があるという物質的な成果にだけに注目せず、価 値ある生き方を選択する自由がどのくらいあるのかというところを重視している点である。

センは、潜在能力を「ある人が幾通りかの生き方(つまり機能の組合せ)の中から選択で きる自由を反映したものである。としている。つまり、多くの生き方から自分の生き方 を選択できる自由をもっていることが潜在能力の高さを表している。潜在能力を研究の理 論として組み込めば、支援の身体的側面として、十分に栄養をとる、衣料や住居が満たさ れているといったものだけでなく、コミュニティの一員として社会生活に参加するといっ た複雑な社会面なども視野にいれて検討することができる。これは従来の更生保護では考 慮されていない点である。

2 つ目の特徴は、人それぞれの利用可能な資源や、その資源を価値ある生き方に変換し ていく能力には、多様性があるとしている点である。センは「性別・年齢・遺伝的な資質 など多くの特質が多様であるために、たとえ同じ組合せの基本財を持っている時でさえ、

生活における自由を構築する能力はとても違ったものになってしまう。と述べている。

就労している、親族とともに住んでいるといった表層的な支援では、見逃されてしまうよ うな性格が衝動的であるとか、対人関係に問題があるといった個人的資質も考慮する必要 がでてくる。また、個人的な面で、出所者であるラベリング、彼ら自身が抱えているステ ィグマなども、個人が置かれている状況として考慮する必要性が示唆される。ここでセン の具体例を引用する。

個人1と個人 2 がいて、個人 2 が何らかの点で不利な立場にある(例えば、身体 的な障害がある、精神的な障害がある、病気にかかりやすいなど)とする。二人 の目的や目標、あるいは善についての構想は同じではなく、個人1は B より A を

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高く評価し、個人 2 は、個人1とは反対の評価を持っているとする。二人とも A よりも2A を、また B よりも 2B を高く評価しており、各人の順序付けは次の通り とする。ある基本財のセットが与えられた場合に、個人 1 は 2A または 2B を達成 することができ、A または B も(大きなメリットはないが)達成できる。反対に、

個人 2 は不遇な立場にあるので、基本財が全く同じであっても、その人は A また は B しか達成できない。個人1は(その人にとって実現可能な最善の結果である)

2A を達成できるのに対して、個人 2 は(実現可能な結果である)B を達成するに とどまる。

同じ資源をもっていたとしても、個人的な面で差が出てくるという例を引用した。これ はわかりやすい例だが、筆者は、本人の対人関係能力やスティグマなどにも同じ要素が含 まれると考える。こうしたことから出所者の自己実現に向けたエンパワーメントを分析す るうえで、センの潜在能力に関する理論は効果的に働くと考えた。

第 2 節 理論 2:欲求階層説

理論1では、アマルチュア・セン博士の潜在能力の理論を説明し、セン博士の理論を 枠組みとして用いることの有用性を説いた。次に規定しなければならない点は、潜在能力 が高い状態とは、どのような状態を指すのかということである。センの理論は、人間の資 質や目的の多様性を主張した理論のため、潜在能力が高い状態とは実際にどのような状態 なのかが明確にされていない。この点を補完するために、心理学者であるマスローの欲求 階層説を用いる。欲求階層説とは、人間の欲求は、階層状になっており、低次の欲求が満 たされるにつれて高次の欲求が発現するというものだ。上田は、欲求階層説を「人間を全 体立体的にとらえ、その構造の中に、発展過程やその発展への方法を含む点において、極 めて示唆に富む理論であるといえる。」と評価している。欲求階層を形成するのは、生理、

安全、所属と愛、尊重、自己実現という 5 つ欲求である。

1段階目の生理的欲求とは、食欲や睡眠欲に代表される生命の維持、健康の維持に欠か せないものを求める欲求である。2 段階目の安全の欲求は、生理的欲求が満たされると生 じる人格内の不安を満たそうとして顕れる欲求である。安全や安定を生活の中で求める欲 求である。3 段階目の所属と愛の欲求は、社会の一員として認められたい、人々から愛さ

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れたいという欲求である。4 段階目の尊重の欲求は、人より勝りたい、何かを達成したい、

有能でありたい、名声を得たいといった、自己を高い位置に置こうとする欲求である。5 段階目の自己実現の欲求は、これらの欲求が満たされてもなお、自分の力を最大限段階的 に発揮することを目指す、自分のありたい姿を目指す欲求である。上田は、この欲求を満 たしていくにつれ、人格的に寛容で温和な性格となっていき、精神的な健康度も増すと述 べている。以下に、マスローの欲求階層の例を引用する。

A という人が、数週間にわたり危険なジャングルの中で時折、食物や水をみつけ ながら、どうにか生きているとしよう。B という人は、ただ生きつづけているだ けではなく、ライフル銃と閉じこもれる入口のついた隠れ穴をもっている。C と いう人は、これらすべてをもったうえ、自分と一緒に二人の男の人がいる。D と いう人は、食物、銃、仲間、洞穴に加えて、彼の最愛の友をもっている。最後に、

同じジャングルに住む E という人の場合は、これらすべてをもっていて、そのう え彼自身よく尊敬されている隊長である。

マスローの各欲求階層にある人々の例をみると、高次の階層の人間ほど多くの自由を獲 得し、潜在能力が高い人間になっているといえる。生理的欲求階層の A は十分に栄養をと ることもできないが、安全欲求階層の B は、ライフル銃と隠れ穴のおかげで栄養をとるこ とに加え、ゆっくりと休む自由も与えられている。所属の欲求階層に該当する C は B の行 動に加え、二人の男と共に狩りができる。愛の欲求階層に該当する D は、C に加え心の拠 り所を得て相談や協力ができる。尊重の欲求階層の E は D に加え、部下に狩りを任せ余暇 を楽しむ自由を与えられる。

筆者は、マスローの欲求階層説において、高次な欲求に上っていくにつれて潜在能力が 高くなることに注目した。欲求階層説を理論的枠組みとして日本の出所者支援を考察し、

足りない支援を補完することで出所者の潜在能力は高くなるといえる。高次な欲求階層に 到達するように支援していくことが、出所者のエンパワーメントとなる。本論文では、欲 求階層説で自己実現の欲求階層に出所者を導けるよう、現状の支援の再検討を図る。

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6 図1 理論1、2を組み合わせた出所者支援の図

自己実現の =潜在能力が高く

欲求 自己実現を実行する状態

尊重の欲求

愛と所属の欲求

安全の欲求

生理的欲求

(出典)筆者作成

第 2 章 出所者の現状

この章では、矯正統計年報や犯罪白書を参考に出所者の現状を 3 つの観点から把握し ていく。その 3 つとは、住居の状態、就労状態、受刑者分析である。社会の一員として生 活を営むことは日本という国では大半の人が意識せずともこなせることである。しかし、

犯罪を犯し刑務所から出所するという特殊な環境では、社会生活を営むことも困難となる。

そこで、就労状況や住居状態、から問題点を浮き彫りにする。また、受刑者分析は、個々 の特性を考慮し生き方を選択していくための潜在能力を高めるうえで欠かせない要素とな る。第 1 節では、住居の現状、第 2 節では就労状態、第 3 節は受刑者の特性、第 4 節は現 状を踏まえた考察とする。

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7 第 1 節 住居

本節は出所者の住居状態を研究する。帰住先は、安定した社会生活を送る上で大きな役 割を担っており、就労においても、地域社会でコミュニティを形成する上でも重要な土台 となる部分である。「住む」と一口にいっても、住居がある、家族がいる、家族関係が良好 である、と住み方も多様だ。統計や白書を通して、実情に近付くよう努める。

犯罪白書では、出所者の住居の問題は、住む場所自体がない場合も多い。ということ を述べているが、矯正統計年報によれば 2012 年は、約 50%の出所者は家族・親族のもと に帰住し、約 25%の出所者が知人・雇用主・施設を帰住先としており、計 75%は住居を確 保している。残りの 25%は、帰住先不明や帰住先が暴力団関係者であることが見受けられ る。10

犯罪白書の刑事施設出所後の住居に関する問題認識の項目においても、出所後の住居に 関して問題はないと回答したものが全体の 59%と約6割を占め、半数以上は問題に直面し ていない(もしくは問題を認識していない)と応えている。11

全体を通して、住居には問題がないと応えている出所者が半数以上であったが、これを 年代ごとに分類すると偏りがある結果となった。まず、年代別にみれば 20 代の出所者は住 居に問題があるものが、17.7%であるが、30 代は 26.0%、40 代は 36.1%、50 代は 42.3%

と、年代が上がるにつれて割合が上がってゆく。つまり、年齢を重ねるほど住居に問題が ある出所者が多いということになる。次に釈放のされ方で分類をする。受刑中の態度が良 かったために刑期が満期になる前に社会内処遇というかたちで仮釈放となったものと、満 期で出所したものを比較する。仮釈放者は 24.4%が問題であるとするのに対し、41.8%の 満期釈放者が、問題があるとしている。従って、満期釈放者が約 2 倍、問題を抱えている と回答していることが見受けられた。その他にも本件犯行当時の住居状況において住居が 不定だった者の 50%以上が問題があると応えており服役中に問題が解決せずに出所に至 っていることがわかる。また、住居においては、住居を確保することに加え、同じ場所で 安定して住み続けるという課題も残っている。

同書には保護司に対して住居が安定しない原因もアンケートしているが、保護司の 40%

が本人の資質の問題が原因で家族のもとに住み続けられないとしている。また、次の理由 として家族の側に問題があり、家族のもとに住み続けることができないが 20%を超える。

他にも家賃が支払えないといった経済的原因も保護司は指摘している12。住居に関しての 問題は、帰住先や問題認識だけに注目すると良い結果となっている印象を受けるが、満期

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釈放者となって出所する人間や、既に自分の父母が高齢となっている年配の出所者には、

住居確保に問題を抱えている場合が多い。また、定住においても本人の問題だけでは解決 できず、支援が必要となることが明らかとなった。

第 2 節 就労

本節は、出所者の就労状況についての現状を説明する。岸は、「就業その他の社会活動に より、社会の一員としての居場所を得ているとの実感を得られることも、社会復帰を促進 する重要な要素である。」13と述べている。また、炭谷は、刑務所出所者は社会的に排除 されているが、包摂する鍵となっているものは仕事であると述べている14。出所者自身が まっとうな生き方を目指す上でも、社会が出所者を受容するためにも、仕事は重要である ことがわかる。マスローの欲求階層説に照らし合わせてみても、生理的欲求を満たす上で 金銭を稼ぐことは欠かせない。また、所属の欲求を満たすことや、尊重の欲求を満たすこ とも可能である。まさに就労は生理的欲求から、自己実現の欲求に至るまで幅広い欲求を 満たすこと可能性をもつ。ここでは、具体的に出所者の就労状況を考察し、出所者の現状 と問題点を洗い出す。

犯罪白書によれば、保護観察終了者のうち、24.1%は無職で保護観察を終了する15。つ まり保護観察者の 4 人に 1 人は、仕事が無いまま、保護司や保護観察官などの行政の関係 者との繋がりを断たれ、社会で暮らしていくこととなる。また、就職に関しての問題は就 職先を見つけることだけに留まらない。就職はしたものの早期退職となり職を失う者や就 労形態が日雇いのため不安定で突然退職となる者も存在する。就労先を見つけることと仕 事を継続すること。出所者の就労の問題はこの 2 つの問題が横たわっている。ではどのよ うな問題が就労の妨げや早期退職に関係があるのか。就労に横たわる問題と就労継続の問 題の 2 点に分けてそれぞれ問題を洗い出してみる。

保護局更生保護振興課によると、雇用が促進されない理由は次の 3 つに大別できる。1 つ目が、出所者を雇うことに不安が付きまとうが挙げられる。犯罪者はトラブルメーカー であるというイメージが風評被害に繋がるのではないかという不安から雇うことを拒んで しまう。2 つ目が、就労の意欲や必要な技能などが不十分であるということが指摘される。

対人関係能力の不足やこれまでの人生においての多くの失敗経験から働く意欲を無くして しまっている。3 つ目が、就労先の開拓に限界があるという点である。主に建設業が大半

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を占めるが臨時的な仕事が多く、継続的雇用が困難である16。問題は1つではなく、出所 者個人が抱える問題、社会が持つ犯罪者のイメージ、現状の社会状況と様々な要因が絡み 合って就労が進んでいないことが窺われる。

また、犯罪白書で報告されている保護司のアンケートによれば、「仕事を探すこと」にお いて、成人保護観察者の課題は、「求人・雇用情報や自分の問題に合った公的支援を見つけ ることができない」「楽な仕事、割の良い仕事を求めるなど、職業観に問題がある」とい うことにある。この 2 つが群を抜いて高く、アンケート内の保護司の 40%が課題だと述べ ている項目である。また、次いで「職業紹介を受けるための行動に出ない」「年齢や病気 等、やむを得ない事情のために働き口がない」となる17。楽な仕事や割の良い仕事を求め るということは、仕事においてお金を稼ぐこと以外にやりがいを見出せていないというこ とが窺われるのではないだろうか。また、雇用率に関して年齢ごとに差が出ることは、実 社会と変わらない。しかし、次節の年齢層と再犯率の表を考察すれば、いかに高齢者の援 助が遅れており、早急に手を打たなければならないかは自明である。

次に、就労継続についての問題点を挙げる。保護司のアンケートによれば、就労継続に ついて「粘り強さや対人関係能力等、資質に問題があり就労を継続できない」に約 47.5%

が該当するとある18。次いで「規則正しい生活習慣を保てない」が挙がる。このアンケー トから協力雇用主や同僚との関係の悪化、生活習慣が保てず社会人としてのルールが守れ ないといった原因から離職となると考えられる。弥永も、協力雇用主の側も採用では時間 やルールの順守、あいさつといった社会人としての基礎的なマナーを重視している企業も 多いとしている19。技術というより、出所者本人の社会性を重視していることがわかる。

どのようにして社会性を育んでいくのかが就労についての課題といえる。

第 3 節 受刑者分析―年齢と知能指数の観点から―

出所者の現状として挙げたい 3 つ目の観点は、受刑者の特性である。潜在能力を理論的 枠組みに用いるため、出所者という大きな集団を細分化して支援を行わなくてはならない。

この節では、その細分化を試みる。細分化の基準として年齢と知能指数を用いる。

・知能指数

山本は、自分の服役体験から、再犯を重ねた者が服役する累犯刑務所は初犯刑務所とは 比べものにならないほど知的障害者が多く、刑務所の一部は福祉施設の代替施設と化して

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いると述べている20。健常者と障害者では出所後の就労や住居の問題の難易度がまるで違 う。知能指数という基準から全体の刑務所内の現状を把握する。

一般的に IQ50~75 で軽度障害者と認定される。医学的には、IQ50 で精神年齢は 8 歳程 度、IQ75 で精神年齢は 12 歳程度である。矯正統計年報によれば、平成 24 年の新受刑者約 2 万 5 千人のうち、IQ70 未満の受刑者は約 5 千人。テスト不能者を合わせると 6 千人であ り約 4 分の 1 が知的障害を持っていることになる。IQ70~79 の受刑者が、約 5400 人いる ため、単純にこの半数に軽度障害者認定がされるとして、プラス 2500 人。毎年の受刑者の うち 7000~8000 人の受刑者に知的な障害があるといえる21。さらに、山本は、知的障害 のある受刑者のうち、7 割以上が累犯者であり、10 回以上服役しているものが 2 割を占め ると指摘している22。このように、服役回数が重なるということは、山本も指摘している が、軽い罪によって服役しているということがわかる。2001 年浅草女子短大生殺人事件も、

累犯を重ねていた障害者が、最後に殺人を犯し逮捕された。障害と服役という 2 つが重な った結果、福祉のセーフティネットにかかることなく、出所後に放浪を繰り返していた。

この事件は犯人の家庭の貧困や出所後の福祉の問題点を露呈した事件といえる23。矯正統 計年報には、帰住先に社会福祉施設という欄があるが、ここに帰住している人間は全体の 出所者の1%に過ぎない24。先ほどの知能指数と比較すると大部分の人が福祉とは連携が なされずに出所したということがわかる。前川は、保護司や、更生保護法人などの更生保 護関係者と社会福祉関係者の連携が分離した状態で取組を進めた経緯が障害者たちを福祉 的支援へ円滑に繋げない原因としている25。障害者に対しては欲求階層説における生理的 欲求に該当する支援さえも完備されていない状態である。

・年齢

年齢層によって家族の有無や就職の難易度はかわってくる。例えば、20 代と 50 代の家 庭環境は、立場や親族との関係も異なってくることは想像するに難しくない。年齢と出所 後の境遇に相関関係が認められるのであれば、支援を改善する必要がみられる。

犯罪白書によれば再入所者人員を年齢別にみると多少の増減はあるものの、30 代が約 4500 人、40 代が約 3500~4000 人、50 代は約 3500 人、60 歳以上は 3000 人ほどである。20 代が約 1200 人であるので再入所者は 30 代~50 代が大半を占めるということがわかる26

表1は、矯正統計年報と犯罪白書を参考に筆者が 2008 年の新受刑者と再入所者の年齢構 成を比較した表である。年齢ごとに全受刑者と再入所者の人数を比較すると、20 代が再犯 を犯した人数は新受刑者と比較して 4 分の1なのに対して、30 代は約 2 分の1、40 代は 3

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分の2、50~65 歳以上までは、それをさらに上回るほどの割合となっている。

犯罪白書(2012 年)保護司調査では、親の介護といった家庭の事情が、就労が安定しない 理由の1つであると挙げている。住居の項目でも指摘をしたが、年齢と住居の問題は年齢 が高くなるに連れて問題があると指摘する割合も増えている。

表1 年齢別 新受刑者と再入所者の人数比較 (2008 年度)

(出典)筆者作成

第 4 節 出所者の問題点の考察

1 節から 3 節では出所者の現状を把握してきた。本節では、それぞれの問題点を整理す る。

住居の問題は、一見すると少ないように見られがちである。しかし、問題がみられる人 を細かくみてゆくと、そこには明らかに偏りがみられるという状況が明らかになった。具 体的にいえば、満期釈放者や高齢になるにつれて住居の問題を持つようになる傾向がある ということだ。満期釈放者は、引受人(出所後の更生に協力してくれる人で基本、親族が なる)がいない等の仮釈放の条件を満たすことができずに満期で釈放され、突然社会に戻 ってしまうという事実がある。高齢者は、20 代の出所者と比べると家族との関係が異なり 自分の親を介護し養っていかなければならない立場となっている者が大半だろう。高齢者 の介護という、現代の福祉が抱えている問題も孕んでいるということがいえる。

受刑者分析は、知能指数の観点からみると、軽度知的障害者の割合は全受刑者の 4 分の 1を占める結果となった。福祉施設の利用の低さから障害者の対応には、課題が多くある ことが明らかとなった。年齢の観点からみると、高齢になるに従って再犯率が高い。この

平成 20 年 20 代 30 代 40 代 50 代 60-64 歳 65 歳以上 総計

全受刑者 6408 人 12527 人 10769 人 9268 人 3367 人 3363 人 45702 人

再入所者 1231 人 4474 人 4219 人 4165 人 1442 人 1571 人 17102 人

割合 再入所者比

19% 36% 39% 45% 42% 43%

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ことから高齢になるにつれて援助が行き届いておらず、多くの問題を抱えたまま、社会に 出ていってしまう出所者が多いということが予想される。

就労に関しては、就労することと就労を継続することの 2 つが問題ということが明らか となった。促進されない要因は、出所者、社会、雇用主の 3 者がそれぞれ持っていたが、

出所者自身の問題点に関してここでは、言及したい。問題点の内訳は「粘り強さや対人関 係能力の不足」「意欲が無い」「楽な仕事を求める」「支援を見つけることが出来ない」など が主であった。このような問題点を改善しなければ雇用率の増加や就労の継続の根本的解 決は果たされないだろう。また、このような現状を打破することは、出所者の潜在能力を 高め、自己実現の達成に繋がる。このような問題点の改善をマスローの欲求階層説に照ら し合わせ考察する。まず、第一に出所者のこのような問題点が、どのような心理状態から 生じるものなのかを考察する。

犯罪を続けている犯罪者と犯罪からの更生を果たした犯罪者を対象に、犯罪からの離脱 とは何かを研究したリヴァプール離脱研究所の研究結果を綴ったシャッド・マルナは、累 犯を継続してしまう犯罪者の特徴は、非難の脚本を持っている点としている。これは自分 の人生の脚本はすでに完成されており、人生は変えられるという希望を持たず現在の運命 をただ受け入れてしまうというものだ。自己効力感が高い人間が自分自身の運命の主人で あると感じるのに対し、累犯する犯罪者は自己効力感が高い人間とは正反対に環境や偶然 のできごとが人生を決定するという思考を持っている27。つまり、犯罪者は自己効力感が 低く、自分は無力であり環境や境遇は変えられないと思っている。筆者は、自分の無力さ や自分の人生に諦念を抱いていることが粘り強さの欠如、楽な仕事、意欲の無さ、支援を 見つけないということに繋がっていると考えている。では、欲求階層説に照らし合わせる とこの思考はどの階層の欲求と繋がっているのか。筆者は安全欲求が満たされていない状 態から生じた思考であると考察している。安全欲求について上田は、人格内に表れる不安 が原因とし、その不安は自己の衝動に対するおそれや否定的感情から生ずるとしている。

また、その不安は、自己に対する不信と動揺がもとになっていると述べている28。上田は、

安全欲求を満たすということは、自己を信じ、自己の願望を価値あるものとして認め、自 己の求めるところにしたがって行動し、最良の生き方を見出す人間となる、と述べている

29。累犯する犯罪者は、過去の失敗経験や、家庭環境から、自己効力感が極端に低くなっ ていると予想できる。自己に対する不信を抱え、安全欲求を満たしていない状態が、非難 の脚本や、就労継続における問題点を誘発していると考えている。

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以上が出所者の現状からいえることである。次章では、出所者支援の現状を概観し、

本論の理論的枠組みを用いて日本の支援を考察する。

第 3 章 出所者支援の現状

前節では、出所者の現状を住居、就労状態、年齢や知能といった個人的な特性の 3 つに 分けて把握した。第 3 章では、出所者の援助が現在どのようにおこなわれているのかにス ポットを当て、日本の更生保護の現状を把握する。図 2 は、筆者が作成した更生保護の組 織を簡易化した図である30。出所者の更生保護では法務省が中心となり、図の下部に位置 する五つの組織が直接的に出所者の支援に当たっている。この章では、まず、上の図に沿 って機構ごとに行っている活動を考察し、その後、平成 18 年度から法務省と厚生労働省が 連携しておこなっている刑務所出所者等総合的就労支援対策について概観する。3 節にて、

概観した出所者支援を理論的枠組みにあてはめ考察する。

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14 図2 現行の更生保護機関

法務大臣

法務省保護局

地方更生保護委員会

保護観察所

保護司 更生保護法人 更生保護女性会 BBS 会 協力雇用主

(出典)筆者作成

第1節 主軸とされている支援

ここでは、図1に載っている下の機構について説明する。BBS 会はビッグブラザーアン ドシスター会の略であり、少年の援助に関わる機構であるので割愛する。色々な機構が様々 な役割を果たし、更生保護に力を割いている。それぞれの活動を概観し、考察する。

①保護司

保護司法第一条には、「保護司は、社会奉仕の精神をもって、犯罪をした者の改善及び更

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生を助けるとともに、犯罪の予防のため世論の啓発に努め、もって地域社会の浄化を図り、

個人及び公共の福祉に寄与することを、その使命とする」と定められている31。保護司の 職務は主に 3 つある。1 つ目は、保護観察である。仮釈放となった犯罪者や、非行を犯し た少年と定期的に面接を行い、定められた遵守事項を守るように指導しながら、生活、就 労の手助けを行う。2 つ目は、生活環境調整である。少年院や刑務所に収容されている人 が、釈放後にスムーズに社会復帰できるよう、帰住予定地の調査や、出所者の更生を協力 してくれる引受人との話し合いを行い、受け入れ態勢を整える。3 つ目は、犯罪の予防活 動である。世論や地域に対して、犯罪を未然に防ぐとともに、罪を犯した人の更生の理解 を深める活動である32。保護観察や生活環境調整は、仮釈放者の社会生活に大きな影響を 与える。筆者は、社会と出所者を繋ぐ重要な役目を担っていると考える。

②更生保護法人

更生保護法人は、更生保護事業を営む目的で、法務大臣の認可を受け設立された法人の ことでその大半が継続保護事業を行い、具体的には更生保護施設を運営している33

更生保護施設は、国の委託費を主な収入として、民間の法人によって運営されているた め民と官の間にあるような施設である。この施設は、犯罪者の中でも身よりとなる家族や 親族がいない、もしくは関係が既に壊れている元犯罪者を保護している施設で出所者と社 会を繋ぐ最後のセーフティネットと呼べるような施設である。例年、この施設には出所者 の約 15%が入っている。最大 1 年間食事付きで施設にいることができ、施設に入所して最 初の 2 か月間は食事も宿泊費も無料となっており、出所者は地域で生活を送るための土台 となる就労、資金調達に安心して取り組めることになっている。ここからは更生保護施設 行っている具体的な取り組みをまとめる。小長井は更生保護施設へのインタビュー調査を 行い、行われている指導や支援について分かり易くまとめている。まず、行われている指 導内容は就労指導、自立資金の積み立て、施設の規則、社会のルールを守らせる指導の 3 つが行われている。就労先となるのは、ハローワークの斡旋先、施設と繋がっている協力 雇用主、人材派遣業者の 3 者である。近年増加しているのは人材派遣業者の斡旋による就 職だ。小長井は人材派遣業者が短期的で低賃金な斡旋先を紹介する傾向があることを指摘 していることから考えると、就労に繋げることができていても、安定した社会的基盤が出 来ているとは言えず、課題が残っていると言える。また、自立資金の積み立てにおいては、

自立資金 30~50 万円を目標に貯めさせるよう指導している。しかし、基本的に 2 か月、最 長で 1 年のこの施設では賃金の減少からこの金額を貯めることは困難のようだ。規則やル

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ールを守らせる指導も掃除やゴミ出しなどの役割を与えてルールを守る、集団に貢献する ということを教えている。このような指導が行われている施設であるが、援助内容も就労 関係のものが多い34。1 つ目が、食事と住まいの無償提供だ。期間は地域によってまちま ちだが 60~120 日が一般的である。この援助中に他の心配を一切せずに就労に全力を注い でもらう。2 つ目が、個別面接である。施設スタッフとの信頼関係の構築を図り、心の安 定や職場への適応を促す役目を担っている。3 つ目は就労支度金の貸与である。働き始め ても給料が入るまでにはラグが生じる。それまで職場へ通う交通費を賄っている。4 つ目 が、社会生活に必要な知識、技能を付与する処遇だ。社会生活技能訓練、そのための専門 家を招いた学習会などを施設で開催し、自立した生活を送るための準備を行っている。長 いスパンで更生を考えた支援を行っていると言える。退所者の状況だが、2006 年度の住居 においては就業先が 24.1%、借家 22.7%、親類、縁故者 15.2%、知人、友人 7.5%と 6 割以上が住居を見つけ出している。また、職業では労務作業 50.7%、サービス業 6.9%、

運輸・通信 2.7%、無職 30.9%だということである35。7 割が就職しているという高い実 績を誇っている。

③更生保護女性会

更生保護女性会は、犯罪や非行のない明るい地域社会の実現に寄与することを目的とし て、地域の犯罪予防活動や犯罪をした人や非行のある少年の更生保護支援活動を行う女性 のボランティア集団である36。多様な活動をしている団体であり、保護観察対象者の社会 参加活動から、地域において子育て支援の活動、更生保護思想の啓発活動、街頭補導活動 と、活動内容は更生保護だけに留まらない。

新宿区更生保護女性会では、今年度は、「社会を明るくする運動・パレード」や「府中刑 務所との協働バザー」などを行っている37。出所者と密に関わる活動を団体が行うという よりは、更生保護法人や保護司会と協働という形で出所者の更生に携わっている。出所者 と継続的に密に関わるというより、イベントを通しての出所者支援や、啓発活動を通して 地域や社会への働きかけが強い団体といえる。

④協力雇用主

出所者の就労は非常に重要な課題であるが、出所者を積極的に雇用し社会復帰や社会と の繋がりを強化する役目を果たしてくれているのがこの協力雇用主である。年々,協力雇用 主に登録をしてくれている業者数も増加傾向にあり、平成 23 年では、9346 事業者が登録 している。弥永によると、協力雇用主の業種は建設業が約 50%、製造業が 15%、サービス

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業が 15%と偏りがみられ、この業種の偏りが対象者の希望にうまくフィットしない、能力 とかみ合わないことから実際に雇用している企業は 285 業者であると述べている38。企業 側にとっても、出所者にとっても短期で離職してしまうのはマイナスのはずである。確か に実際に雇用している企業は少ないが、お互いにとってプラスとなるような就労とするた めにも、今後さらに協力雇用主登録数を増やし、業種や業界の幅の拡大することでより高 精度の適性雇用が実現すると考える。

第 2 節 平成 18 年度刑務所出所者等総合的就労支援対策

平成 18 年度に法務省と厚生労働省が連携して出所者の就労についての支援を開始した。

犯罪白書を参考に概観する。これは、犯罪歴のあるものは対人関係や社会適応能力におい て問題があるものが多く、就労が困難であるという事実に基づき、きめ細やかな支援を通 して出所者の更生を図るというものだ。この支援は法務省保護局、厚労省、法務省矯正局 によって運営されている。この支援は 3 つのフェーズによって構成されている。第 1 の段 階では、個別支援計画を作成する。この支援の対象者は、就労意欲、稼働能力を有してい るものが対象となるが、そのような支援対象者の就労をする上での問題の改善を図ること や、公共職業安定所で求職登録をして積極的に職業を見つけてゆく。第 2 の段階は、就職 能力向上のための施策をおこなうフェーズである。これは、受刑者と保護観察者によって 支援が違ってくるが、受刑者に対しては、職業訓練や進路指導、職業相談、面接の心構え などを説明している求職活動ガイドブックが配布され、本人の能力や適性に応じた求職が 案内される。保護観察対象者に対しては、公共職業安定所の担当職員からの職業紹介や、

実践経験を積みスムーズに職場になじむための職場体験講習などを通して就職能力の向上 を図る。他にも面接での諸注意、履歴書の書き方の説明をするセミナー、職場見学や実際 に働いている人との対話をする事業見学もこのフェーズで行われ就職するための知識、仕 事に関する知識を養成している。そして最後は、求人企業への推進をするフェーズである。

この段階で実際に就労となる。身分保証を法務省が請け負う。厚労省が施行雇用という形 で就職支援ナビゲーターや公共職業安定所職員のアシストを伴いながら、常用雇用のため に働く。その後も職場への適応や定着の支援を行い、継続的な就労につなげていくという ものである。

ではこの制度は実際、どのくらい機能しているのだろうか。犯罪白書では、この支援を

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通して就職した人数は平成 23 年度では 2757 人であった39。この支援を通して、約 2000 人前後が毎年就職をし、就職支援対象者は平成 23 年度の段階で 7786 人である。就職者の 伸びは無いが支援者の人数は年を追うごとに増えているのは評価できる。しかし、保護観 察終了者の無職率はあまり低下しておらず、全体として無職者の人数は減っていない。就 職率が上昇しない事実から、平成 23 年度にさらに更生保護就労支援モデル事業が始まった。

この事業は、岸によれば、一部の保護観察所において始まり、民間の法人が設置や運営を している更生保護就労支援員が、刑務所入所中から、就職、職場定着まで支援をするとい うものである40。以上、出所者を支えている主軸の支援を概観した。次節から、理論的枠 組みにあてはめ、支援の考察を試みる。

第 3 節 欲求階層説から分析する出所者支援の現状

1 節と 2 節に渡って出所者支援の現状をまとめてきた。本節では、出所者支援をマスロ ーの欲求階層説に照らし合わせ整理する。欲求階層説は一番下の欲求階層である生理的欲 求が満たされると安全の欲求が生まれ、安全の欲求が満たされると愛と所属の欲求が生ま れ、これが満たされると尊重の欲求が生まれ、尊重の欲求が満たされると、一番高次の欲 求である自己実現の欲求が生まれる。日本の支援がどの階層の欲求までを満たしているの かを表 2 を用いて整理した。○は欲求がおおむね満たされていると考えた支援に対して付 けている。満たされているわけではないが、若干満たしていると考えた支援には△を、満 たしていないと考えた支援には、×を付けた。なお、序章で述べた通り支援の分析は健常 者の 20~50 代を対象とした支援とする。

表 2 で分析する支援とは、法務省、更生保護の機構の図に示されている保護司、更生 保護法人、女性更生保護会、協力雇用主に加え、法務省と厚労省が協働で行っている平成 18 年度刑務所出所者等総合的就労支援対策を示す。以下、欲求ごとに分けて各支援を分析 する。

表 2 から、日本の支援は、出所者の生理的欲求をほぼ満たすものであるといえる。筆者 は「生理的欲求は、社会生活を送るために衣、食、住を満たすことができる支援体制とな っている、就労し金銭を稼げる体制となっている。」という観点を評価基準とした。住居に 関しては、60%が問題が無いと回答したが、更生保護法人の支援によって、住居の無い出 所者も衣、食、住において心配をせずに生活が送れている。就労に関しては 5 種の支援の

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うち 4 種が該当し、支援の充実が図られている。しかし、2 章で述べたように、保護観察 終了者の 4 人に1人が無職である。協力雇用主の拡大や、対人関係能力や粘り強さといっ た出所者の問題点の解決は急務である。一方、高齢者や障害者については、再犯率の高さ や、福祉施設の帰住先人数の少なさから生理的欲求さえ満たされていないのが現状である といえる。出所者の能力や立場などを考慮し、出所者の能力や資質にあった支援を行うべ きである。

安全の欲求に関しては、確実に満たしているという支援が見つからなかったため、△と した。まず、「職場や住居において、争いごとが起きないよう配慮した支援かどうか」を評 価基準とした。住居や職場でトラブルが多発するようでは安全であるということはできな いので、その点に配慮がなされているかどうかを 1 つの基準とした。この点を満たしてい る支援としては、4 種が該当した。平成 18 年度刑務所出所者等総合的就労支援対策は、就 労支援員が、出所者が就労した後も定期的に雇用先に赴き雇用主の相談に応じ、出所者に 助言することを通して雇用の継続を図っている。保護司は、生活環境の調整を担う。出所 者の引受人は、更生に協力的で、出所者を理解し、生活の安定を考える役割をもつ。一方、

更生保護法人は安全な住居を提供する。また、協力雇用主は、就労支援対策に基づき、出 所者の安定を目指す会社である。以上のことから、これら 4 種の支援は、出所者の安全に 配慮がなされた支援であると評価した。筆者は、安全の欲求に該当する支援としてもう一 点、「自己効力感が育める支援であるか」という観点から評価した。安全欲求が満たされな い原因に、自己の不信といった自分に対してのマイナスイメージがあると考えられる。そ れを払しょくすることが次の階層欲求に辿りつく鍵となる。しかし、この視点を満たすも のは現状の支援では見受けられなかった。

愛と所属の欲求を満たす支援としては、協力雇用主の 1 つのみが該当すると考えた。こ れを評価するうえで考慮した点は 2 点ある。1つ目が、「会社や社会の一員となっていると 実感できる支援となっているか」ということだ。協力雇用主と出所者は共に仕事をしてゆ く仲間である。支援する、されるという関係を超え、出所者自身がこの機関の一員である と思える可能性があるのは協力雇用主による就労支援である。しかし第 2 章 2 節で考察し た通り、出所者も雇用を継続する上で問題を抱えており、規則正しい生活や対人関係能力 など、育んでいかなければならない点も多い。出所者はこうした問題点を改善し、双方に とってプラスの関係を育んでいかないと、仲間としての関係は長期化しないだろう。2 つ 目は、「他者から認められ必要とされていると実感する支援となっているのか」ということ

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だ。分析では、これに該当する支援は今回見受けられなかった。支援する、されるという 図式では、この項目を満たす支援を行うことは難しいと考える。

分析では、尊重の欲求に該当する支援は見られなかった。尊重の欲求は、自ら他人を超 えることを求める41という性質があるため、援助を受けるとか力を借りるという現行の日 本の支援では満たすことができない。尊重の欲求に該当する支援は、支援という枠組みを 超える形でなければならないと考える。

表2 支援と欲求階層説の考察

(出典)筆者作成

以上がマスローの欲求階層説を用いて分析した結果である。分析では、安全欲求に該当 する支援が不十分であり、次いで愛と所属の欲求に該当する支援も足りていないことが明 らかとなった。また尊重の欲求に関しては、該当するものが存在せず、支援の現状では、

出所者の欲求階層は生理的欲求が満たされるに留まっている状態といえる。

なお、分析では女性更生保護会による支援が満たす欲求として該当するものが無いとし たが、この機関は出所者の更生に直接関わるというよりも、社会啓発活動を通して一般国 民などに出所者の理解を深める活動が主であるため、そのような評価となった。

第 4 章 出所者の高次の欲求を満たす支援にむけて―日本の支援を補完するもの―

第 3 章では、現状の支援を欲求階層説にあてはめて、現状の支援が出所者のどの欲求 を満たし、どの欲求が満たされていないのかを分析した。この結果を踏まえて、次に、出 所者が潜在能力を高め、自己実現を実行できる状態に導く支援について、国内で小規模に 行われている支援や海外で実践されている支援を交えて考察し、現状を補完する支援を提

生理的欲求 安全欲求 所 属 と 愛 の 欲

尊重欲求 自 己 実 現 の 欲

H18 年雇用支援 × × ×

保護司 × × ×

更生保護法人 × × ×

女性更生保護会 × × × × ×

協力雇用主 × ×

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21 案する。

第 1 節 安全欲求を満たす支援への提案

3 章の分析から、安全欲求のなかでも出所者の自己効力感を高める支援がなされていな いことが明らかとなった。筆者は、安全欲求を満たす支援は、職場や住居の争いごとが起 きないように配慮をするということの他に、自己効力感が満たされる支援であるかどうか が大切な要素であると考える。本節では、自己効力感を育む支援に焦点を当て、提案を試 みる。

出所者の自己効力感を育む仕事の形として、筆者はソーシャルファームを提案する。ソ ーシャルファームとは、「障害者あるいは労働市場で不利な立場にある人々のために、仕事 を生み出し、また支援付き雇用の機会を提供することに焦点をおいたソーシャルエンター プライズの一種」とされている42。そもそもイタリアのトリエステで、精神障害者の雇用 創出から始まったものである。炭谷は、ソーシャルファームの特徴を 5 つ挙げている。1 点目は、仕事を作る目的があるということだ。仕事を見つけることが困難な人に向けて、

仕事を作るという目的を有している。2 点目は、税金に依存せずビジネス手法で運営する ということだ。税金を財源とせずに活動する。3 点目は、利潤を挙げるがそれを配当にま わすのではなく、内部に再び投資するというシステムである。4 点目は、働く人間が、様々 な形で事業に参加し、やりがいを感じ取ることができるように配慮されていることである。

5 点目は、地域住民が参加することである。住民にボランティアや資金援助、ソーシャル ファームが提供するサービスの購入などを通して事業に参加してもらい、ソーシャルイン クルージョンを強化する役割を持つ43。筆者は、協力雇用主のもとで働くことも大切であ ると考えるが、自己効力感を育むという観点から考えた時に、より効果を発揮する形態は ソーシャルファームであると考える。協力雇用主は、利益を生み出さなくてはならない。

それに対してソーシャルファームは、仕事を作ること、やりがいを感じてもらうことを優 先する。自己効力感が満たされるためには、達成体験が重要である。仕事に意義を見出し、

やりがいの創出に力を入れているソーシャルファームでは、自己効力感が育まれる。炭谷 は刑余者のソーシャルファームとしてスウェーデン、イエテボリにあるウェイアウト協同 組合について言及している。同協同組合は、幅広い活動を展開しており、障害者のカフェ なども展開しているが、その 1 つの支援の形として保護観察者や刑余者に対しての活動も

参照

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