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倫理,政治・経済 ! "解答番号

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Academic year: 2021

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(1)

第1問 以下は,大学生Aとその後輩Bの会話である。これを読み,下の問い(問 1〜5)に答えよ。(配点 14)

A:インターネットで見たけど,日本はほかの国と比べて仕事の時間がすごく 長いんだってね。そんなに働くなんて嫌だなあ。

B:先輩は働きたくないんですか? 確かに働きすぎはよくないと思いますが。

A:だって,働きづめの人生なんてむなしいでしょ。できることなら,趣味とか自 分の好きなことに没頭して生きたくはない?

B:でも,趣味では得られないようなやりがいが,仕事にはあると思いませんか。

環境保護や福祉に携わる仕事のような,人の役に立つものはどうです?

再生医療の研究とか,先輩も絶賛していたじゃないですか。

A:それはそうだけど,誰もがそんな仕事に就けるわけじゃないでしょ。それに仕 事だと結局,自分の気持ちよりも仕事の都合を優先しなきゃいけないし。やっ ぱり,自分のしたいことをできるのが望ましい人生だと思うな。

B:そうでしょうか。好きなことをするだけじゃなく,働くなかで,与えられた課 題を乗り越え,自分の殻を破って成長することも大事だと思いますよ。

A:でも,好きなことに真剣に打ち込むことで成長することもできると思うんだ。

仕事では,どうしたって自分らしさを曲げることになるんだから,仕事は生活 に必要なお金を得る手段と割り切った方がいいと思うな。

B:働くことから得られるものは,お金だけじゃないでしょう。自分から責任 をもって働くことで感謝されたり,自分が周囲や社会に認められていることを 実感したりするのは,意味のあることですよ。

A:他者の評価を気にしすぎると,流されるだけになりそう。仕事は生きてい くために大事だし,しなきゃいけないと思うけど,自分の価値を仕事のなかだ けに見いだして,自分を見失ってしまわないようにしないとね。

B:確かに流されちゃ駄目ですね。何のために社会のなかで働くのか,仕事の意 味って何かを,もう一度ちゃんと考えてみたいと思います。

!"解答番号 36 #

$

―108― (2202―308)

(2)

問 1 下線部に関連して,現代日本では,インターネットの発展などによって情 報化が進んでいる。それに伴って生じた問題,あるいは情報化に対応するため の取組みについての説明として最も適当なものを,次の!$のうちから一つ 選べ。

! 情報の漏洩や悪用から個人を保護することを目的とした法制度は存在しなろうえい

いため,各個人によるセキュリティ対策が必要となっている。

" 大量の情報から必要な情報を収集し活用したり,得られた情報の真偽や客 観性を的確に判断したりする,情報リテラシーが必要となっている。

# 国の保有する情報の公開を誰でもインターネット上で請求できるユビキタ ス社会づくりを目的として,情報公開法が制定された。

$ 電子化された情報の不正なコピーを禁止してパブリック・アクセスを保護 する制度づくりを目的として,著作権法が改正された。

問 2 下線部に関して,再生医療についての説明として適当でないものを,次の

!$のうちから一つ選べ。

! ES細胞やiPS細胞などの研究が進むにつれて,様々な細胞に分化する可 能性をもつ細胞を人工的に作り出せるようになってきた。その結果,従来は 作ることが難しかった臓器などの再生への可能性が開けてきた。

" ES細胞を作るには,受精卵や初期胚が必要である。それに伴う問題とし

ほう が

て,人間の生命の萌芽であるとされる受精卵や初期胚を実験に使ったり,医 療資源として使ったりすることの是非が議論されている。

# iPS細胞を作るには,脳死状態に陥ったドナーによって提供された臓器が 必要である。それに伴って,そもそも人の死とは何なのか,身体や臓器は誰 のものなのか,などを改めて考え直す必要性が高まってきた。

$ ES細胞やiPS細胞などの研究が進むにつれて,それらは生殖細胞にも分 化し得ることが分かってきた。その結果,生殖細胞を人工的に作ったり,そ れらを受精させたりしてもよいのか,という問題が生じている。

―109― (2202―309)

(3)

問 3 下線部に関連して,次の文章は,自己の成長について説明したものであ る。文章中の に入れる語句の組合せとして正しいものを,

下の!&のうちから一つ選べ。

人格発達の理論を提唱したエリクソンによれば,乳児期に育つ が,

自分自身や将来に対する肯定的な感覚をもつ基礎となり,一生を通じて安定し た人格の下地となる。社会で自立するための準備期間である青年期には,部活 動の長となったり,ボランティア活動に参加したりするなど, によっ て自分の可能性を模索する。しかし,この時期は自分の考えや行動に自信がも てず,不安や混乱に陥りやすい。このときに, が土台となることで,

「大丈夫,何とかなる」と明るい見通しをもち,自分の力で困難を克服していく ことができるのである。

! 自我意識 脱中心化

" 自我意識 役割実験

# 自我意識 通過儀礼

$ 基本的信頼 脱中心化

% 基本的信頼 役割実験

& 基本的信頼 通過儀礼

―110― (2202―310)

(4)

問 4 下線部に関連して,次の文章は,哲学者のシモーヌ・ヴェイユが自発性と 責任について述べたものである。その内容の説明として最も適当なものを,下 !$のうちから一つ選べ。

自発性と責任とは,役に立つ存在,さらには不可欠な存在であろうとする感 情のことであり,人間の魂の生き生きとした欲求である。

だが,失業者の場合,それらが完全に奪われてしまっている。たとえ,その 人が衣食住に困らないよう保護されていても,事態は同様である。……自発性 と責任という欲求が満たされるためには,次のような条件が必要である。第一 に,自分とは直接利害関係がなくとも,自分と何らかの関わりがあると思われ る様々な問題に関して,意志決定を下し得る場合があること。第二に,自分が 絶えず努力を惜しまないこと。最後に,自分が属している集団の活動に関し て,たとえ何の決定権も意見する余地もない場合であれ,思索をめぐらすこと によって,その集団の活動全体を自分自身の事柄とみなせること。

(『根をもつこと』より)

! 人間は自分が役に立つ,必要とされる存在であることを欲する。だが,仕 事を失った人はそのような欲求をもてなくなってしまっているため,衣食住 の保護を求めることを通じて,自らの意欲を引き出さねばならない。

" 人間は自分が役に立つ,必要とされる存在であることを欲する。その欲求 を満たすためには,自分と直接の利害関係のあることは自分で決める権利を 得なければならない。しかし,それ以上の決定権を求めてはならない。

# 人間は自発性を発揮したり,責任を引き受けたりすることを求める。その ためには,自分のことだけでなく,自分の属する集団についても関心をも ち,その集団の活動を自分のこととして考えられるのでなければならない。

$ 人間は自発性を発揮したり,責任を引き受けたりすることを求める。その ためには,自分自身に関わる事柄と集団に関わる事柄とを明確に区別して,

両者を混同しないよう努力しなければならない。

―111― (2202―311)

(5)

問 5 下線部に関連して,他者との関係において生じる感情や行動についての説 明として最も適当なものを,次の!$のうちから一つ選べ。

! ヤマアラシのジレンマとは,相手から傷つけられることを恐れるあまり,

互いに相手を先に攻撃しようとする状況を表している。

" ヤマアラシのジレンマとは,自分を傷つける相手を恐れるからこそ,互い に相手に近づき,取り入ろうとする状況を表している。

# リースマンの唱えた他人指向型の人間類型とは,第三者(公平な観察者)の 立場から他者に共感する人間のあり方を表している。

$ リースマンの唱えた他人指向型の人間類型とは,他者からの承認を求め,

周囲に同調しようとする人間のあり方を表している。

―112― (2202―312)

(6)

第2問 次の文章を読み,下の問い(問1〜7)に答えよ。(配点 18)

富士山や高尾山などの著名な山が,ある種の力が宿る場所として「パワースポッ ト」と呼ばれるのを耳にすることがある。それは,日本古来の思想や信仰と何か 関わりがあるのだろうか。山をめぐる先人の営みを振り返ってみよう。

『万葉集』において,山は,神そのものとも,死者の魂の在りかともみられ た。山は古来,神や魂と深い関わりをもつ,霊的な他界であった。

大陸から日本に伝来した仏教は,平安時代,山に本拠を求めるようになっ た。古来,霊的な他界として畏敬された山を,仏教もまた修行の場として尊重した のである。修行者は,悟りを求め,あるいは呪力を獲得しようと山に入った。後の

鎌倉仏教の祖師たちも,比叡山などで仏道修行に励んだ経験をもっている。一 方,皇族をはじめとする多くの人々もまた山深い熊野などに参詣した。極楽浄土の 教主とされた熊野本宮の神に参ることは,往生を願うことでもあったからである。

つまり,山は,悟りや呪力を求めて修行し,魂の救済を願う場であり,世俗的な世 界とは異なる,霊的な他界と考えられていたのである。

江戸時代,「天」を根拠にこの世の秩序を説いた儒学では,熊沢蕃山のように 山林の有用性を説きその保全を訴えた学者はいたが,他界としての山について積極

せんだつ

的には語られなかった。他方で,この時代も,庶民は,講を組み,あるいは先達に 導かれるなどして,遠い熊野や富士山あるいは出羽三山などに,盛んに参拝してい た。日常を離れた他界である山への行程は,行楽でもあり,御利益を願う信仰の旅 でもあった。明治時代になると,富国強兵をスローガンとした近代国家の建設が進 められ,山は開発の対象へと傾いた。その一方で柳田国男は,近代的な思想をもつ 人も古来の心意を無意識に保存しているものだと指摘している。柳田によれ ば,祖霊が身近な山にとどまると考えるのは,そうした心意の一つである。

このように,先人たちは,山を,神や死者の魂と関わりをもつ場所として敬い,

あるいは悟りを求めて修行し,魂の救済を願う場所として尊んできた。「パワース ポット」という言葉は新しい言葉だが,山を特別な場所と捉えることは古くから行 われてきたことなのである。今,改めて山に目を向けることは,日本の伝統的な思 想の深みを探る旅の,一つの出発点となるだろう。

―114― (2202―314)

(7)

問 1 下線部に関連して,世界の様々な宗教思想についての説明として最も適当 なものを,次の!$のうちから一つ選べ。

! ユダヤ教によれば,神には裁きの神としての一面があり,永遠の神と契約 を結んだ民族に対して,裁きに基づいて罰と救済とがもたらされる。

" キリスト教では,永遠の神において,父なる神,子なるキリスト,自然の 光という三者が一つのものであるという教義が説かれている。

# バラモン教によれば,個人の本質であるブラフマンと永遠不滅の根本原理 であるアートマンとが合一することで,輪廻の苦から解放される。

$ イスラーム教では,永遠の神アッラーにのみ神性が認められ,カーバ神殿 を例外としてその他の場所での偶像崇拝が禁止されている。

問 2 下線部に関連して,日本の神話を研究した本居宣長が,古代の精神を解明 するうえで最も重視し,その注釈書を著した書物として正しいものを,次の

!$のうちから一つ選べ。

! 『古事記』

" 『日本書紀』

# 『風土記』

$ 『古史通』

―115― (2202―315)

(8)

問 3 下線部に関連して,大陸から伝来した仏教や儒教に影響を受けた十七条憲 法(憲法十七条)における「和」の教えについての記述として最も適当なものを,

次の!$のうちから一つ選べ。

! 儒教の教えに則って,年長者の意見を疑うことなく尊重し,必ずそれに同のつと

調することで「和」を実現すべきである。

" 凡夫の身で議論を重ねることの無意味さを悟って,仏の教えにひたすら従 うことで「和」を実現すべきである。

# 儒教の教えに則って,他人と意見が対立した場合には,自分の意見を取り 下げることで「和」を実現すべきである。

$ 凡夫であることを自覚し,自己の主張に間違いがあることを恐れつつ謙虚 に議論することで「和」を実現すべきである。

―116― (2202―316)

(9)

問 4 下線部に関して,次の文章は,宗派の異なる僧の争いを描く狂言『宗論』に ついての記述である。文章中の に入れる語句の組合せとし て正しいものを,下の!(のうちから一つ選べ。

いんせい

二人の僧は旅の途中であり,一人は宗祖が晩年に隠棲した に参詣し た帰りであり,もう一人は善光寺参りの帰りである。相手の宗派に気づいた二

くろまめかぞ じようこわもの そし

人は「例の黒豆数へ」「例の情 強者」と心のうちに相手を謗る。「黒豆数へ」とは その宗派の人々が黒玉の数珠をつまぐって念仏したことを嘲ったものであり,

や ゆ

「情強者」とは四箇格言にみられるようなこの宗派の激しさへの揶揄である。互 いに譲らぬ二人は踊り念仏と踊り唱題で競うが,その激しさにつられて口にす る文句が途中で入れ代わってしまう。つまり,善光寺参りの「黒豆数へ」が

」と言い,他方がその逆を唱えてしまうのである。はっとして口を押 さえる二人だが,考えてみれば,これらの宗派の母胎とも言える は両 方の要素を含んでいる。比叡山という本源を共有する二人の僧は仲直りし,互 いの教えに「隔てはあるまじ」という二人の唱和で,狂言はめでたく結ばれるの である。

! 高野山 南無阿弥陀仏 天台宗

" 高野山 南無阿弥陀仏 律 宗

# 高野山 南無妙法蓮華経 天台宗

$ 高野山 南無妙法蓮華経 律 宗

% 身延山 南無阿弥陀仏 天台宗

& 身延山 南無阿弥陀仏 律 宗

' 身延山 南無妙法蓮華経 天台宗 ( 身延山 南無妙法蓮華経 律 宗

―117― (2202―317)

(10)

問 5 下線部に関して,中国思想における「天」についての記述として最も適当な ものを,次の!$のうちから一つ選べ。 10

! 周の王たちは,万物はすべて天の支配のもとにあるという信仰を背景とし て,自らを天と同一視し,自身の下す命令がとりもなおさず天命であると考 え,王の権威を神聖化した。

" 孔子は,「怪力乱神」を語らず,神秘的な存在について積極的に言及するこ とを避ける一方で,「五十にして天命を知る」と述べ,天から与えられた使命 を果たそうとした。

# 孟子は,天命を受けた者が天子となって天下を治めるという考え方を逆転 させ,実力本位で王の位についた者を,天命を受けた者として事後的に承認 すべきだという易姓革命の考えを説いた。

$ 荘子は,気質の性ではなく,本然の性こそが天によって与えられた理であ るとし,天の理に従って自らを律することが人間の正しい生き方であると主 張した。

問 6 下線部に関して,古来の心意を研究した折口信夫についての説明として最 も適当なものを,次の!$のうちから一つ選べ。 11

! 伝承された習俗や信仰を手がかりに民俗学的な視点から国文学を研究し,

人々と神の交流を通じて文芸や芸能が発生したと考えた。

" 柳田国男や自己の学問を古学と呼び,それが本居宣長や平田篤胤による江 戸時代の学問を受け継ぐものであると考えた。

# 伝承された習俗や信仰を手がかりに古代の思想を研究し,村落にとどまる 祖霊としての田の神こそが日本の神の原型であると考えた。

$ 柳田国男や自己の学問を新国学と呼び,それが日本の伝統文化を人類学や 生物学の知見を用いて捉え直す営みであると考えた。

―118― (2202―318)

(11)

問 7 本文の趣旨に合致する記述として最も適当なものを,次の!$のうちから 一つ選べ。 12

! 古来,山は日常を超えた他界だった。神そのものであり,死者の魂が宿る 場所でもある山の霊性を人々は畏れ,山の力を封じ,その強い霊力が命や生

まつ

活に影響を与えないよう山を祀った。そのような思想は後に薄れたかにみえ るが,一部の人々によって受け継がれている。

" 今日「パワースポット」と呼ばれる山は,死者やその魂と無縁な,生命力に

あふ

溢れた霊地であると古くから考えられてきた。そのような山で修行する者 は,山の生命力を受け取ることができるとされたのである。その意味で,山 を「パワースポット」と呼ぶことは的を射ている。

# 古来,山は神としてまた魂が宿る場所として敬われ,悟りや呪力を求めて 修行をする者や,救いや御利益を求めて訪れる者がいた。山を,日常とは異 なる他界とみるこの思想は後に薄れたかにみえるが,近世以降においても,

庶民の営みなどを通して,その伝承を垣間見ることができる。

$ 今日,聖地として敬われる山は,かつては神そのものとして,また,死者 の魂の帰る他界として敬われた。仏教が伝わると山の霊性は否定され,山は 修行によって悟りを目指す,神信仰を排した修行の場となった。その意味 で,山を仏教的な聖域とみなすことは的を射ている。

―119― (2202―319)

(12)

第3問 次の文章を読み,下の問い(問1〜6)に答えよ。(配点 18)

よ きよくせつ

時代は紆余 曲 折を経て進んでいく。思想家は,現実の様々な困難を前に,現実 を捉え直すための「原点」にいったん立ち戻り,課題の解決を目指してきた。その歩 みを,西洋近代思想のなかに追ってみることにしよう。

近代は,全く新しい価値の創造からではなく,古代ギリシア・ローマの古典 や聖書を原点として再発見することから始まった。ルネサンス期のペトラルカは,

たた

プラトン哲学を熱烈に支持すると同時に,古代ローマを讃えるための叙事詩を著 し,人々の生活をのびやかに描き出した。また,宗教改革を主導したルターやカル ヴァンは,聖書の言葉に立ち返り,真の信仰を模索した。これらの原点回帰の 動きは,単なる回顧を越えて,現実を捉え直す思想を生み出している。

17世紀になると,思想家たちは現実の政治や社会のあり方について批判的な思 考をめぐらして,新たな社会理論を展開した。社会契約説を唱えた思想家たち は,社会や国家の成立を説明するために自然状態という原点を想定し,そこからい かにして社会や国家が成立するかを探究した。例えば,ルソーは,自然状態を自由 で平等な世界として描くことで不平等になった文明社会を批判し,社会契約によっ て理想の共和国を実現することを構想した。このような社会契約説は,自由で平等 な個人からなる社会の実現を目指す市民革命に,大きな影響を与えた。

ところが,資本主義や科学・技術が進展すると,巨大な社会組織が生まれて 力をもつようになり,人間の画一化の傾向が強まってくる。そのような社会の現実 を見据えて,何よりもまず自己の原点の問い直しを重視する思想が生まれてきた。

キルケゴールは,普遍的・客観的真理の追究では捉えられない主体的真理を求 め,人間本来のあり方の解明を目指した。また,ハイデガーの考えによれば,人間 は,避けられない自己の死という可能性に向き合いながら,自らのおかれた状況を 積極的に引き受けることで,「世人」という状態から本来の自己に立ち返ることがで きる。彼らの思想は,近代的な人間像の更なる捉え直しにつながっていく。

行き詰まった状況を前にして,ただ手をこまねいていても現実は変わらない。物 事の原点にまで立ち戻って現実の課題に対応しようとする先人の営みは,様々な問 題に直面する現代にも多くの示唆を与えてくれるのではなかろうか。

―120― (2202―320)

(13)

問 1 下線部に関連して,次の文章は,古代ローマの思想家セネカが今という時 の価値について述べたものである。その内容の説明として最も適当なものを,

下の!$のうちから一つ選べ。 13

ところで,自分には予見の能力があると言って自慢する者たちの判断ほど軽 薄なものがあり得ようか。人は,より善く生きようとして,なおさらせわしな く何かに忙殺される。……人は,これを,次にはあれを,と考えをめぐらせ,

遠い将来のことにまで思いを馳せる。ところが,この先延ばしこそ生の最大の 浪費なのである。先延ばしは,先々のことを約束することで,次の日が来るご とに,その一日を奪い去り,今という時を奪い去る。生きることにとっての最 大の障害は期待をもつこと,つまり,明日という時に依存し,今日という時を 失うことである。君は運命の手中にあるものをあれこれ計画し,自分の手中に あるものを喪失している。君はどこを見つめているのか。どこを目指そうとい うのであろう。来るべき未来のものは不確実さのなかにある。直ちに生きよ。

(『生の短さについて』より)

! 人間は,今日できることは明日でもできると考え,怠惰な毎日を過ごしが ちであるが,それは時間の浪費につながる愚かな行為であるから,将来の計 画をしっかりと立てたうえで,今を大切に生きなければならない。

" 人間は,善き生のために未来のことを考え,様々な計画を立てるあまり,

この今という時の価値を見失いがちであるが,自分が本来は手にしている今 という時を真剣に生きることが大切である。

# 人間にとって,目前の事柄に追われ,多忙な毎日を送ることは,長期的な 視野で人生を考える時間をなくすことであるから,目前の事柄ではなく,遠 い将来に目を向けて人生の計画を練ることを優先すべきである。

$ 人間にとって,未来の運命は完全には予測できないが,自分が手にしてき た過去の経験から未来を推測することはできるのだから,善き生のために今 という時をいかに過ごすべきかを真剣に考える必要がある。

―121― (2202―321)

(14)

問 2 下線部に関連して,次のア〜ウは,古代におけるユダヤ教やキリスト教の 信仰についての記述である。その正誤の組合せとして正しいものを,下の!

&のうちから一つ選べ。 14

イエスの活動以前から,ユダヤ教のなかでは,イスラエル民族を苦難から 救う救世主(メシア)を待ち望む信仰が存在していた。

初期のキリスト教会では,刑死したイエスがこの世の終わりにはじめて復 活するとされ,そのことに対する希望に基づく信仰が生まれた。

アウグスティヌスは,パウロによって基礎づけられた信仰・希望・愛の三 元徳を,ギリシアの四元徳と等しい価値をもつものと考えた。

!

"

#

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―122― (2202―322)

(15)

問 3 下線部に関して,社会契約説を唱えたホッブズとロックの思想の説明とし て適当でないものを,次の!$のうちから一つ選べ。 15

! ホッブズによれば,人間は,自然状態では,自己保存の欲求に基づいて自

おおかみ

由に行動をするので,互いに 狼 のように争ってしまう。そこで,互いの安 全を図るため社会契約を結ぶ必要がある。

" ロックによれば,人間は,他人を思いやる良心をそなえているので,内的 制裁によって利己的な行為を抑えるものである。しかし,それだけでは自然 権の保障は確実ではないため,社会契約を結ばなければならない。

# ホッブズによれば,自然権を譲渡された個人ないし合議体は,リヴァイア サンのような強大な権力をもつべきである。そして,人民はこの権力に服従 しなければならない。

$ ロックによれば,最高権力である主権はあくまでも人民にある。それに対 し,政府の役割とは,もともと人民のもつ,生命や財産などの権利を保障す ることである。

―123― (2202―323)

(16)

問 4 下線部に関連して,次の文章は,科学をめぐる現代の哲学的考察について の説明である。文章中の に入れる語句の組合せとして正し いものを,下の!&のうちから一つ選べ。 16

私たちが言語で表現するもののなかには,科学的命題のように検証可能な命 題と,形而上学的命題のように検証不可能な命題とが混ざり合っている。ウィ トゲンシュタインは,その混乱の除去を哲学の中心課題と考え, の末 尾で「語り得ないことについては,沈黙しなければならない」と述べたが,論理 実証主義者たちはそれを検証不可能で無意味な命題を排除することだと受け止 めた。また, は,科学的命題は検証可能なことに特徴があるのではな く,反証可能な点に特徴があると主張した。そして,科学的にみえる言説で あっても,一切の反証を受けつけないような場合には,科学の名には値しない と論じた。

! 『形而上学』 スペンサー

" 『形而上学』 ポパー

# 『言葉と物』 スペンサー

$ 『言葉と物』 ポパー

% 『論理哲学論考』 スペンサー

& 『論理哲学論考』 ポパー

―124― (2202―324)

(17)

問 5 下線部に関して,次のア〜ウは,キルケゴールの思想を説明した記述であ る。その正誤の組合せとして正しいものを,下の!&のうちから一つ選べ。

17

ヨーロッパの人々が,生きる意味や目的を失ってしまったのは,キリスト 教道徳に原因があり,そのキリスト教道徳は弱者が強者に対して抱く「ルサ ンチマン」に基づいている。

人は倫理的に生きようとすると,欲望を「あれも,これも」満たす生き方に とどまることはできず,自らの生き方について「あれか,これか」の決断を迫 られざるを得ない。

人間は自由な存在である。だが,自由に自分の生き方を決められるという ことは,その選択の責任がすべて自分にかかることを意味する。人間のこの あり方は「自由の刑に処せられている」と表現される。

!

"

#

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%

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―125― (2202―325)

(18)

問 6 本文の趣旨に合致する記述として最も適当なものを,次の!$のうちから 一つ選べ。 18

! 現実の行き詰まりを目の当たりにした西洋の思想家たちは,物事の原点に 立ち返ることで,現実を捉え直してきた。原点とは物事の自然なあり方のこ とであるから,どの思想家も,現実が自然から逸脱した経緯をたどり直し て,自然に帰ることを説いてきた。

" 西洋の思想家たちは,その時々の現実を見据え,物事の原点に立ち戻って 考えてきた。各時代の課題はそれぞれ異なるが,どの課題も物事が本来のあ

かい り

り方から乖離することで起こるため,永遠に妥当する理念を示すことで解決 を図ろうとした点では共通していた。

# 現実の行き詰まりを目の当たりにした西洋の思想家たちは,どの時代でも 物事を原点から捉え直してきた。原点とは物事の起源のことであるから,各 時代の思想家は過去の思想に手がかりがあると考え,できる限り古典に忠実 に従って,伝統を守ることが理想だと説いてきた。

$ 西洋の思想家たちは,その時々の現実を見据え,各時代の課題と真剣に向 き合ってきた。物事の原点に立ち戻ることによって課題の解決を目指した彼 らの努力から,文化,社会,人間のあり方などを新たに捉え直すための思想 が生み出されてきた。

―126― (2202―326)

(19)

第4問 次の文章を読み,下の問い(問1〜8)に答えよ。(配点 22)

1990年代以降,日本政治で取り組まれてきた主要な制度改革を振り返ってみよ う。戦後,経済が大きく発展する中で,自民党が長期間政権を担ってきた。90 年前後の金権汚職事件で政治不信が高まったこともあり,非自民の連立政権下で,

選挙制度の改革や政治献金への規制強化などの政治改革が実現した。

日本の発展を支えてきた行政のあり方も改革の対象となった。中央省庁が再編さ れ,地方に対する国の権限が強いという仕組みを改める地方分権改革が重要な 課題とされた。政治と行政の役割分担を見直す目的で,内閣や国会審議のあり 方を改める制度改革も進んだ。また,司法制度を国民にとって利用しやすくす ることなどを目標に司法制度改革が行われた。

経済に目を向けると,バブルが崩壊し,景気が後退する中で,市場原理を重 視した構造改革が推進された。構造改革の目的は,「失われた10年」と呼ばれてい た経済を浮揚させ,悪化する財政状況を改善することである。

さらに,少子高齢化が,日本社会の行く末を大きく左右する問題として,一 層強く認識されるようになっている。結婚や子育てをしやすくしたり高齢者が安心 して暮らしたりできるように,社会保障制度やそれを支える負担のあり方が大きな 注目を集めているのである。

このように,政治が取り組む課題は国家の統治制度から市民生活に身近な制度に 至るまで幅広い。また,実施された改革への見方も一様ではなく,たとえば,政治 改革では,政治資金の透明化が不十分との評価がある。他方,構造改革に対して は,雇用の実態を大きく変化させ,所得の格差を拡大させたという評価もある。こ れらの評価への対応も政治の役目になる。

制度改革では,利益集団,官庁,メディアなどもかかわりながら,国民によって 選出された議員が大きな役割を果たしてきたし,今後の制度改革においても大きな 役割を果たすと予想される。そのため,私たちは,選挙のときだけでなく日頃から 政治の動向に関心をもち,民意を政治に反映させる努力を続けていくことが必要で ある。

―128― (2202―328)

(20)

問 1 下線部に関連して,次の経済用語A〜Cと,その内容ア〜ウとの組合せと して正しいものを,下の!&のうちから一つ選べ。 19

依存効果

デモンストレーション効果 消費者主権

消費者の欲望は自律的ではなく,企業の宣伝や広告に喚起されるようにな ること

消費者の購買行動が生産されるものの種類や数量を決定するという考え方 のこと

個人の消費行動が他人の消費水準や消費パターンの影響を受けること

!

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―129― (2202―329)

(21)

問 2 下線部の一つとして,小選挙区制がある。ある議会の定員は&人であり,

各議員はこの選挙制度で選出されるとする。この議会の選挙において,三つの 政党ACが五つの選挙区ア〜オで,それぞれ%人の候補者を立てた。次の表 は,その選挙での各候補者の得票数を示したものである。この選挙結果につい ての記述として正しいものを,下の!$のうちから一つ選べ。 20

選挙区 得票数

A B C

45 30 25 100 10 70 20 100 40 30 30 100 10 50 40 100 40 25 35 100 145 205 150 500

! 得票数の合計が最も少ない政党は,獲得した議席数が最も少ない。

" B党の候補者の惜敗率(当選者の得票数に対するB党の候補者の得票数の

割合)が50パーセント未満である選挙区はない。

# C党の候補者の惜敗率(当選者の得票数に対するC党の候補者の得票数の 割合)が50パーセント以上である選挙区はない。

$ 得票数の合計が最も多い政党は,死票の数の合計が最も多い。

―130― (2202―330)

(22)

問 3 下線部に関連して,日本の地方自治についての記述として誤っているもの を,次の!$のうちから一つ選べ。 21

! 国会が特定の地方自治体にのみ適用される特別法を制定するには,その地 方自治体の議会の同意を得なければならない。

" 複数の地方自治体が後期高齢者医療制度をはじめとする事務の処理を共同 で行う仕組みとして,広域連合がある。

# 都道府県を越えた広域行政に対応し地方分権を進めるため,全国をいくつ かの区域に分けて新たな広域自治体をおく改革構想は,道州制と呼ばれる。

$ 都道府県知事や市町村長は,議会の同意を得て,教育委員会の委員を任命 する。

問 4 下線部に関連して,日本国憲法の定める内閣や内閣総理大臣の権限につい ての記述として最も適当なものを,次の!$のうちから一つ選べ。 22

! 内閣は,両議院が可決した法案について国会に再議を求める権限をもつ。

" 内閣総理大臣は,最高裁判所の長官を任命する権限をもつ。

# 内閣は,憲法改正が承認されたとき,これを公布する権限をもつ。

$ 内閣総理大臣は,内閣を代表して,行政各部を指揮監督する権限をもつ。

―131― (2202―331)

(23)

問 5 下線部に関連して,裁判や紛争解決の手続についての記述として誤ってい るものを,次の!$のうちから一つ選べ。 23

! 第三者が関与して,訴訟以外の方法によって民事上の紛争の解決を図る手 続のことを,裁判外紛争解決手続と呼ぶ。

" 刑事裁判において有罪判決を受けた者について,重ねて民事上の責任を問 われないことが,憲法で定められている。

# 刑事裁判において,公判の前に裁判の争点や証拠を絞る手続のことを,公 判前整理手続と呼ぶ。

$ 被告人が自ら弁護人を依頼することができないときに,国の費用で弁護人 をつけることが,憲法で定められている。

問 6 下線部について,景気循環の各局面において一般的にみられる現象として 最も適当なものを,次の!$のうちから一つ選べ。 24

! 好況期には,生産が拡大し,雇用者数が増加する。

" 景気後退期には,商品の超過供給が発生し,在庫が減少する。

# 不況期には,労働需要が労働供給に対し過大になり,失業率が上昇する。

$ 景気回復期には,在庫が減少し,投資が縮小する。

―132― (2202―332)

(24)

問 7 下線部に関連する記述として最も適当なものを,次の!$のうちから一 つ選べ。 25

! 2000年度以降,日本では国債が発行されなかった年度がある。

" 2000年度以降,日本では国債依存度が50パーセントを上回る年度はな い。

# 国債費の膨張が社会保障や教育などに充てる経費を圧迫することを,財政 の硬直化という。

$ 国債費を除いた歳出が国債発行収入を除いた税収などの歳入を上回ると,

基礎的財政収支は黒字となる。

問 8 下線部に関連して,2000年以降の日本の少子高齢化の動向や国の対応策 についての記述として最も適当なものを,次の!$のうちから一つ選べ。

26

! 待機児童の問題を解決するため,認可保育所の定員拡大を図った。

" 高齢社会から高齢化社会へ移行した。

# 合計特殊出生率は,低下し続けている。

$ 現役世代の保険料負担が過重にならないように,公的年金の保険料を段階 的に引き下げる仕組みが導入された。

―133― (2202―333)

(25)

第5問 次の文章を読み,下の問い(問1〜5)に答えよ。(配点 14)

人権の保障に国際社会が取り組むのはなぜだろうか。それは国際平和の実現のた めであると言われたら,不思議に思うかもしれない。順を追ってみていこう。

国内では,政府が武力などの実力を独占することによって平和を維持してい る。これに対し国際社会では,それぞれの が武力を保有しており,実力の 独占は存在しない。その結果,紛争の平和的解決手続の拡充,侵略に対する制裁の 仕組みの整備,軍縮の促進など,多様な手段を動員して国際平和の実現が図られて きた。

これらの手段に加えて,20世紀半ば以降は,国内で人権を保障する政治体制の 確立も,国際平和の実現に不可欠だととらえられるようになった。ナチスなどのよ うに国内で人権抑圧を行う政権は,国際的にも侵略行為に乗り出す危険性が高いと 考えられたのである。こうして,人権保障のための国際協力が進展することになっ た。最近では,国家以外の主体による人権保障のための活動も活発化している。

日本も,このような人権保障の国際的取組みの進展に応じて政治や法の仕組みを 整えていかなければならない。国際人権規約などの国際条約が定める諸権利の 実現はとくに重要である。たとえば,刑事手続において被疑者や被告人の権利 が十分に保障されているか,再検討の余地がある。また,日本社会も国際化する中 外国人の権利をいかに保障するか,社会全体で考えていく必要がある。国際 的な基準にかなった労働者の権利の保障も求められるだろう。

これらの課題に誠実に対応することに加えて,移民や差別などの国際社会が直面 する問題に対処するためのアイデアを発信して,人権の一層の保障に貢献すること は,日本国憲法の にも合致する。このようにして人権保障のための国際協 力に積極的に取り組む姿勢をもつことが,日本にも必要であろう。

―134― (2202―334)

(26)

問 1 本文中の空欄 に当てはまる語句の組合せとして最も適当 なものを,次の!$のうちから一つ選べ。 27

! 国際組織 国際協調主義

" 国際組織 単独行動主義

# 主権国家 国際協調主義

$ 主権国家 単独行動主義

問 2 下線部に関連して,さまざまな政治のあり方についての記述として最も適 当なものを,次の!$のうちから一つ選べ。 28

! 韓国では,冷戦期において開発独裁体制が成立した。

" イギリスでは,第二次世界大戦後に議院内閣制が確立した。

# フランスでは,大統領は国民議会によって選出される。

$ 中国では,全国人民代表大会が国家の行政を担当する機関である。

―135― (2202―335)

(27)

問 3 下線部についての記述として最も適当なものを,次の!$のうちから一 つ選べ。 29

! 人類が達成すべき人権保障の共通基準を示した国際人権規約を基礎とし て,世界人権宣言が採択されている。

" 世界人権宣言とは異なり,国際人権規約には法的拘束力がある。

# 国際人権規約には,自由権を中心とした規約と参政権を中心とした規約と の二つが存在する。

$ 日本は留保を付すことなく,国際人権規約を批准している。

問 4 下線部に関連して,司法への市民参加に関する記述として誤っているもの を,次の!$のうちから一つ選べ。 30

! 日本の裁判員は,立候補した国民の中から選ばれる。

" 日本の裁判員は,評議中にやりとりした意見について守秘義務がある。

# ドイツの参審制では,参審員も量刑の判断に加わる。

$ アメリカの陪審制では,陪審員のみで評議を行う。

―136― (2202―336)

(28)

問 5 下線部に関連する記述として正しいものを,次の!$のうちから一つ選 べ。 31

! 最高裁は,国政選挙権を一定の要件を満たす外国人に対して法律で付与す ることを,憲法は禁じていないとしている。

" 指紋押捺を義務づける外国人登録制度が,実施されている。おうなつ

# 最高裁は,憲法上の人権保障は,性質上日本国民のみを対象とするものを 除いて外国人にも及ぶとしている。

$ 外国人が給付を受けることのできる社会保障制度は,実施されていない。

―137― (2202―337)

(29)

第6問 次の文章を読み,下の問い(問1〜5)に答えよ。(配点 14)

価格とはお金と財の市場での交換比率である。つまり,価格は単に財の価値を表 しているだけでなく,お金の価値も表している。お金の価値に着目するときは,さ まざまな財の価格を集計した物価を使用する。物価が持続的に上昇することを

インフレーション(インフレ)という。インフレが発生すると財の価値が上が り,お金の価値が下がることになる。お金の価値が下落すると預金の実質的な 価値も下落するため,預金者が被害を受ける。インフレの反対をデフレーション

(デフレ)と呼ぶ。デフレは不況期に発生しやすく,また,デフレが発生すると景気 が悪化することが多い。

日本では第二次世界大戦後長らく,インフレが問題であった。終戦後,猛烈なイ ンフレに見舞われ,預貯金が目減りした。また,石油危機の時には高インフレに苦 しめられた。それに対して1990年代以降はデフレが発生して不況が長期化した。

その主因として,バブル崩壊により土地などの資産の価格が下落して消費や投資が 低迷したことがあげられる。それ以外にも,経済のグローバル化が加速して海 外からの安い商品が出回るようになったことや,企業が雇用の非正規化などに より人件費を圧縮したことも,デフレの要因となった。

デフレがこれほど長期にわたり発生したことは戦後初めてであり,明確な解決策 は存在していなかった。このため,政府や日本銀行はデフレの克服の試みとして,

所得税や法人税等の減税,そしてこれまで行われたことのない新たな金融政策を導 入した。欧米でも,アメリカで発生した金融危機以降はデフレの懸念が高まった。

こうした中,各国がさまざまな政策を行ったものの,デフレ懸念を払拭することは できなかった。英知を結集してデフレを克服するための新しい方法を編み出す必要 がある。

―138― (2202―338)

(30)

問 1 下線部に関連して,次の図は,1965年から2000年までの日本の消費者物 価指数と企業物価指数の変動率(いずれも対前年比)の推移を示したものであ る。この図から読みとれる内容として正しいものを,下の!$のうちから一 つ選べ。 32

1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000

30

25 20 15 10 5 0

−5

企業物価指数の変動率 消費者物価指数の変動率

(資料) 消費者物価指数(総務省Webページ)および企業物価指数(日本銀行Webペー ジ)により作成。

! プラザ合意後の円高不況の期間には,消費者物価指数の変動率が企業物価 指数の変動率を下回ることがあった。

" 平成不況と呼ばれる景気が悪化した期間には,企業物価指数の変動率はマ イナスになることがあった。

# スミソニアン協定が締結された年には,消費者物価指数の変動率は%パー セントよりも低かった。

$ 第二次石油危機の翌年には,消費者物価指数と企業物価指数の変動率はと もに10パーセントよりも高かった。

―139― (2202―339)

(31)

問 2 下線部に関連して,物価が変動すると名目経済成長率が実際の経済の成長 率を表さないことがある。このことに対処するため,実質経済成長率が用いら れ る。次 の 表 は,あ る 国 の2000年 と2001年 の 名 目GDPGDPデ フ レ ー ターを示している。この国の2001年の実質経済成長率として正しいものを,

下の!$のうちから一つ選べ。 33

名目GDP GDPデフレーター 2000年 500兆円 100

2001年 504兆円 96

! −4.0パーセント

" 0.8パーセント

# 4.0パーセント

$ 5.0パーセント

問 3 下線部に関連して,預金や貯蓄についての記述として誤っているものを,

次の!$のうちから一つ選べ。 34

! 貯蓄は,金融機関や株式市場などを通じて企業に出資されたり貸し出しさ れたりし,投資に使われる。

" 高齢化が進展し,貯蓄を取り崩す高齢者が増加すると,家計貯蓄率が低下 する要因となる。

# 日本では,金融の自由化が進んだこともあり,預金金利や貸出金利は自由 化されている。

$ 日本では,銀行が破綻した場合に,日本銀行が預金者に一定額の払戻しを 行う制度がある。

―140― (2202―340)

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