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生命保険契約における無催告失効条項と 消費者契約法10条

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生命保険契約における無催告失効条項と 消費者契約法10条

⎜⎜ 東京高判平成21年9月30日の検討 ⎜⎜

深 澤 泰 弘

■アブストラクト

東京高判平成21年9月30日は,生命保険契約における無催告失効条項を消 費者契約法10条により無効であると判示した。しかし,同判決には,継続保 険料の支払いの履行期に関する約款解釈や消費者契約法10条後段要件の判断 方法等,疑問を感じざるを得ない点が少なくない。確かに無催告失効条項は,

履行の催告や解除の意思表示もなしに保険契約が失効するという点において,

民法の解除に関する規定よりも保険契約者の権利を制限しているが,①支払 期月に保険料が未払いであっても1ヵ月の猶予期間を設定していること,② 約款外の実務とはいえ事実上義務化されている督促通知の送付を行っている こと,③自動振替貸付や復活といった代償措置の存在等を考慮すると,信義 則に反するほどに保険契約者の利益を一方的に害しているとはいえず,消費 者契約法10条に該当するような不当条項であるとはいえない。

■キーワード

無催告失効条項,消費者契約法10条,不当条項

1 はじめに

保険契約において,保険契約者からの保険料は保険者が危険を負担するた

*平成22年3月19日の日本保険学会関東部会報告による。

/平成23年4月7日原稿受領。

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めの対価であるから,保険契約者は定められた期日までに保険料を支払わな ければならず,これは保険契約者の中心的な債務である 。しかし,保険法 には保険料の支払義務に関する規定がほとんどないので,民法の規定に従う ことになる。したがって,金銭債務の一般原則に従い,保険者は,保険料支 払債務の不履行の場合において,契約の解除(民法541条)だけでなく債務 の強制履行(民法414条)や損害賠償請求(民法415条)をすることができる ものと解されている 。しかし,保険契約,特に生命保険契約では,契約が 長期に継続的になされるのが通常であるので,その間に保険契約者の経済的 状況の変化により保険料を支払えなくなったり,保険契約を必要としなくな ったりすることがある。そのため保険契約者には任意の解除権が認められて いる(保険法54条)。そうすると保険者が強制履行を求めたとしても契約を 解除されてしまえば徒労に終わるであろうし,何よりも強制履行や損害賠償 請求を行うことの手間や費用が大きくなるので,そのような手段に出ること は現実的ではない。そこで,生命保険契約では約款において,保険料が不払 いの場合に一定の猶予期間(月払いの場合は1ヵ月間)を設けて,その期間 が経過してもなお保険料が支払われない場合には,当該保険契約を催告なし に失効する旨の規定(いわゆる無催告失効条項)を定めている。この規定は,

大量処理を要する保険者に対して,個々の契約について時間と費用をかける ことなく簡便に処理しうる便宜を与えるものと解されている 。他方で,も はや保険契約を継続する意思のない保険契約者にとっても,任意の解除権を 行使することなく保険料の支払いさえしなければ,強制履行も損害賠償請求 もされることなく保険契約が失効されるので,有益な制度であるといえる 。

1) 山下友信=米山高生編 保険法解説 679頁(有斐閣,2011年)〔沖野眞已〕。

2) 山下友信 保険法 333頁(有斐閣,2005年),竹濵修 生命保険契約の失効 と復活 三宅一夫先生追悼論文集 保険法の現代的課題 274頁(法律文化社,

1993年), 阿憲 生命保険契約における失効・復活制度の再検討 生命保険 論集140号50頁(2002年)等。

3) 竹濵・前掲注2)275頁。

4) 竹濵・前掲注2)79頁。これに対し,任意解除権がある現行の保険法ではこの

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このような無催告失効条項について,東京高判平成21年9月30日金判1327 号10頁(以下では, 本判決 という)は,この条項を消費者契約法10条に 照らして無効であると判示した。これまでにこのような判決を下した裁判例 は存在せず,無催告失効条項は生命保険契約において一般的な約款規定であ るだけに,保険業界に及ぼす影響も小さくない。そのため非常に注目を集め た判決であり,既に多くの研究がなされている が,本稿においても,本判 決の妥当性や本判決の及ぼす影響等について検討を行う。

2 本判決の概要

⑴ 事実の概要

本件控訴人X(原告,保険契約者兼被保険者)は,被控訴人Y(被告,

点を強調すべきではないという指摘がある。神作裕之 本件判批 山下友信=

洲崎博史編 保険法判例百選 160頁以下(2010年)。しかし,契約を解除して しまうとその時点で保険保護は受けられなくなるが,当該制度の場合契約を継 続する意思がない保険契約者は保険料を支払わないで契約をそのままにしてい ても,猶予期間までは保険保護が継続されるのであるから,単なる契約解除よ りも保険契約者にとって有益な制度であるといえる。

5) 足立格 本件判批

NBL

916号4頁以下(2009年),浅井弘章 保険約款と 消費者契約法 金判1327号1頁(2009年),仁科秀隆 生命保険約款と消費者 契約法 金法1883号1頁(2009年),渡邉雅之 消費者契約法10条に関する近 似の重要判例の分析

NBL

918号49頁以下(2009年),山下友信 生命保険契 約における継続保険料不払いと無催告失効条項の効力 金法1889号12頁以下

(2010年),上山一知 生命保険約款における無催告失効条項に対する消費者契 約法10条の適用 金法1889頁21頁以下(2010年),竹濵修 生命保険契約の失 効条項の効力 立命327・328号414頁以下(2010年),山本哲生 本件判批 金 判1336号240頁以下(2010年),大澤康孝 保険料支払い遅滞と無催告失効条 項 横国18巻3号27頁以下(2010年),薬袋真司=加藤昌利 本件判批 消費 者法ニュース83号207頁以下(2010年),甘利公人 本件判批 石田満編 保険 判例2010 274頁以下(保険毎日新聞社,2010年),山下典孝 本件判批 速報 判 例 解 説 商 法

No.

38(2010年),鹿 野 菜 穂 子 本 件 判 批 金 法1905号75頁

(2010年),遠山聡 本件判批 保険事例研究会レポート245号1頁以下(2010 年),神作・前掲注4)160頁以下(2010年),榊素寛 本件判批 リマークス42 号94頁以下(2011年)等。

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生命保険会社)との間で平成16年8月1日に医療保険契約を,平成17年3月 1日に生命保険契約をそれぞれ締結した。各保険契約の保険料振込方法はい ずれも月払い・口座振替方式であった。また各保険契約には保険料の払込猶 予期間内にその払込みがない場合には,保険契約はその払込猶予期間の満了 日の翌日から効力を失う旨の無催告失効条項が含まれていた。

Xは,保険料振替口座の残高不足により,平成19年1月末日を振込期限 とする同月分の保険料の払込みができず,また猶予期間である同年2月にお いても,1月及び2月分の支払いをしなかった。その後の平成19年3月8日 に,XYに対し,同年1月分から3月分の保険料を添えて本件各契約の 復活の申込みをしたが,Yは,Xの健康状態を理由に復活の申込みを拒絶 した。そこで,Xは本件を提訴し,本件の無催告失効条項が信義則,公序 良俗,または消費者契約法10条に照らして無効であると主張し,Xの復活 の申込みを不承諾としたYは信義則に反し,権利濫用であると主張した。

原審である横浜地判平成20年12月4日金判1327号19頁は,当該無催告失効 条項は消費者契約法10条に該当し無効であるとはいえないとし,その他の Xの主張も否定しXの契約の復活を認めなかった。そこでXは控訴した。

⑵ 判旨:原判決取消・請求認容

保険契約者が遅滞の責任を負うこととなる 期限の到来した時 (民法 412条1項)は,猶予期間の末日が経過した時であるというべきである。

保険契約者がその保険料支払債務を履行しない場合に保険者がその履行の 催告をすることを要しないとしている点及び保険者が保険契約者に対して契 約解除の意思表示をすることを要しないとしている点において,同法(民 法:筆者注)の公の秩序に関しない規定(同540条1項及び541条)の適用に よる場合に比し,消費者である保険契約者の権利を制限しているものである ことは,明らかである。

医療保険契約や生命保険契約においては,消費者である保険契約者側に とって,それが意に反して終了することになった場合の不利益の度合いは極

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めて大きいものである。 そうであるのに, 保険料の支払を口座振替の方法 にした場合は,保険契約者のささいな不注意や口座振替の手続上の問題から 保険契約が失効することがあり得 ,このような事態を防止するために 民 法の原則どおりに,保険契約が終了する前に保険契約者に保険料の支払を催 告するという手順を踏む必要がある。

保険料振替口座の残高不足により平成19年1月分の本件各保険契約の保 険料の振替ができなかった後,Yは,同年2月14日,Xに対し,同月分の 保険料の振替時に同年1月分の保険料の振替も併せて行うこと,同年2月中 に同年1月分の保険料の支払がない場合には本件各保険契約が失効すること などを記載した通知書を送付した が, 本件で問題になっているのは,本 件無催告失効条項自体が消費者契約法10条の規定により無効となるかどうか であって,Yが約款外の実務においてそのような措置をとっていること

(なお,これは保険契約上の義務として行っているものでないことが明らか であるから,保険契約者のためには恩恵的なものにすぎない。)は,本件保 険約款自体の有効性を判断する際に考慮すべきであるということはできな い。

解約返戻金の範囲内で保険料自動貸付けの制度が設けられているが,そ れにより保険契約の失効を防ぐためには十分な解約返戻金がなければ意味の ないものであるから…保険契約者側のこうむる不利益を少なくする手段とし ては十分とはいえない。 また,保険契約の復活についても,復活が認めら れないことは十分に考えられるから,復活制度があるかといって 保険契約 者が被る不利益が小さいということは必ずしもできない 。

Yが民法の原則に従い,催告や解除の意思表示を要することになると,大 量処理のため手間とコストがかかることに対しては,前述した書面による督 促などを例に挙げ, 民法の原則に従って催告等することによる手間やコス トはさしたる問題ではない 。なぜなら,約款において保険契約者の住所届 出義務の規定や,当該住所宛てに催告すればそれが通常到達すべきであった ときに到達したものとみなす旨の規定を置けば,費用の増大は容易に回避で

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き,このような規定をおいても消費者契約法10条に照らして有効性に疑問が 生じるということにはならないからである。

以上の点を総合すると, 本件無催告失効条項は…民法1条2項に規定す る基本原則である信義誠実の原則に反して消費者の利益を一方的に害するも の であり,消費者契約法10条の規定により無効になるべきものであって,

本件各保険契約が失効することはないというべきである。

3 無催告失効条項の概要

本件で問題となった無催告失効条項は,生命保険契約において古くから用 いられている一般的な規定であるが,保険契約者が単なる不注意で保険料の 支払いを遅延してしまった場合でも,保険者からの催告も解除の意思表示も なく保険保護が消滅してしまうので,保険契約者の受ける不利益は小さくな い。そのため,以前から催告を義務付けるべきであるとの見解 も主張され ており,これについて昭和56年の国民生活審議会消費者政策部会においても 議論された。そこでは,失効の不利益を保険契約者に明確に自覚させるため には猶予期間経過前に書面による保険料の督促を行うことを失効の要件とし て約款に規定することが望ましいと示すも,督促の立証方法等検討すべき課 題も多く残されているから,実務で行われている書面による保険料の払込み の督促を一層確実なものにし,保険料の払込みがないまま猶予期間が過ぎる と契約が失効することを明瞭に理解させるための措置を講ずるよう要請した に留まった。これを受けて保険業界は従来から行われている書面による督促 を一層確実にし,通知内容を改善するという対応をとった 。これに対して,

その後に公表された生命保険改正試案では,催告の義務化を明文で規定する

6) 岩崎稜 保険料支払義務論 240‑242頁(有斐閣,1970年)。

7) 昭和56年の国民生活審議会による約款適正化における議論については,経済 企画庁国民生活局消費者行政第一課編 消費者問題に対する提言 275頁以下 (大蔵省印刷局,1987年),吉田明 国民生活審議会消費者生活部会の約款適 正化についての報告 をめぐる問題 生命保険経営50巻1号15頁以下参照。

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ように提案され ,平成20年に成立した保険法の制定過程においても議論の 対象にはあがった 。しかし,現行の保険実務を前提とする限り催告を義務 化する必要はないと判断され,結局立法による催告の義務化は見送られた。

無催告失効条項の有効性に関し,学説では保険料の不払いに関する強行規 定がないことや,一定の猶予期間が設定されていることをもって有効である と解されていたり ,督促通知の送付や各種代償措置の存在といった実務対 応が図られていることを前提に(かろうじて)有効であると解されており , その有効性を肯定するものがほとんどであった。

裁判例においても,当該条項の適用が信義則に反し無効であるとした判決 がないわけではないが,その事例においても控訴審判決 で結論が逆転し ており,その有効性を認めるものが大勢であるといえる 。しかし,これま での事例で問題となった保険契約は,ほとんどが消費者契約法適用以前のも のであり,本件のように消費者契約法10条に照らして無催告失効条項の有効 性が争われた事例はない。その意味で本件は非常に注目された判決であるが,

本判決の判旨には説得力が乏しく疑問があるといわざるを得ない箇所が少な

8) 生命保険法制定研究会(第二次) 生命保険契約法改正試案(2005年確定版)

理由書 疾病保険契約法試案(2005年確定版)理由書 109頁以下(生命保険 協会,2005年)参照。ただし,最終的には任意規定であるとされた。

9) 法制審議会保険法部会第2回会議議事録,萩本修編 保険法立案関係資料 69頁,124頁(別冊商事法務321号,2008年)参照。

10) 中西正明 生命保険法入門 138頁(有斐閣,2006年)。

11) 山下・前掲注2)343頁,伊野直幸 保険料の支払義務 塩崎勤編 現代裁判 法大系 (新日本法規,1998年),木下孝治 保険料の不払と保険会社による 保険免責の主張の可否 ほうむ49号68頁以下(2003年)等。

12) 長崎地判平成19年3月30日および福岡高判平成19年9月27日(ともに判例集 等未搭載)。両判決については甘利公人 判批 保険事例研究会レポート225号 1頁以下(2008年),広瀬裕樹 判批 保険事例研究会レポート226号8頁以下

(2008年)参照。

13) 前記福岡高判平成19年9月27日以外にも,東京地判昭和48年12月25日判タ 307号244頁,東京地判昭和53年8月29日生判2巻210頁,東京高判平成11年2 月3日判時1704号71頁等。

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くない。そこで,以下では本判決について具体的に検討を試みるが,その前 にまずは消費者契約法10条の趣旨と要件を確認する。

4 消費者契約法10条の趣旨と要件

消費者契約法10条は不当条項に関する一般規定である。何が不当条項に当 たるかは列挙しておくほうが予見可能性の面から望ましいが,すべてをもれ なく列挙することは不可能である。そこですべてを列挙できなくても,信義 則や公序良俗といった民法の一般規定よりは予見可能性の高い不当条項に関 する一般規定の立法化には意味があるものとして,本規定が設けられた 。 消費者契約法10条に該当するための要件は前段要件と後段要件の大きく2 つに分けられる。前段要件は,問題となっている条項が 民法,商法その他 の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し,消費者の権利を 制限し,又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項 であるかどうかで ある。ここでいう 公の秩序に関しない規定 とは任意規定を指す。問題と なっている消費者契約における条項の内容と,当該事実関係に適用される任 意規定における消費者の権利・義務とを比較して,前者の方が消費者の権利 を制限したり,義務を加重したりしている場合に本条が適用される 。

次に後段要件として,前段要件に該当する条項が 民法第1条第2項に規 定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの でなければな らない。これは任意規定の適用の場合と比較して,当該契約条項による消費 者の権利の制限または義務の加重が,信義則違反であると評価されるほど消 費者の利益を一方的に害するものでなければならないことを指している 。 ここでいう信義則は民法レベルの信義則であることを確認しているにすぎな い(確認説)と解すべきではなく,民法レベルよりも厳格なもの(民法では

14) 落合誠一 消費者契約法 144‑146頁(有斐閣,2001年)。

15) 山本豊 消費者契約法⑶・完―不当条項規制をめぐる諸問題 法教243号62 頁(2000年)。

16) 落合・前掲注14)150頁。

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必ずしも無効とされない状況においても本条において無効となる程度のも の)である(創造説)と解すべきであると考えられている 。

当該契約条項が信義則違反と評価されるかにあたっては,契約締結の時点 のすべての事情が考慮されると解されている 。また, 消費者の利益を一 方的に害する とは,事業者が消費者の正当な利益に配慮せず,自己の利益 を専ら優先させて消費者の利益を害する結果をもたらすことをいう 。

5 本判決の検討

⑴ 失効に関する条項と解除に関する規定との比較の当否

それでは具体的に本判決の判旨について検討を行う。まずは失効の法的性 質から確認する。というのも,失効が解除と同視しうるものでなければ,解 除に関する民法540条1項・541条と比較することは適当でないからである。

失効の法的性質については,復活を解除条件とする保険契約の消滅である と従来は説明されてきた 。しかし,契約が完全に消滅したものと解すると 約款を根拠とする復活請求権も消滅してしまうとの批判がなされ,現在では 復活請求権と解約返戻金請求権を除く,その他の保険関係本体が効力を失う ものである とか,保険契約の危険責任の消滅のみの効力を有するもので あり,保険契約自体の完全消滅ではない 等と解されている。

解除の場合,同じ相手方と契約を結び直すことができたとしても,それは 新たな契約であるから,当然に解除前の契約と同等の条件が保証されるわけ ではないし,そもそも再契約をしてもらえないことも考えられる。これに対

17) 落合・前掲注14)150頁,潮見佳男編 消費者契約法・金融商品販売法と金融 取引 80‑89頁(経済法令研究会,2001年)〔松岡久和〕。

18) 落合・前掲注14)151頁,消費者庁企画課編 逐条解説・消費者契約法〔第2 版〕 221頁(商事法務,2010年)。

19) 落合・前掲注14)152頁,消費者庁企画課・前掲注18)222頁。

20) 松本烝治 保険法 259頁(中央大学,1922年)。

21) 竹濵・前掲注2)288頁。

22) ・前掲注2)80頁。

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して失効の場合は,復活さえ認められれば以前と同じ条件で契約が継続され る。このように考えると解除と失効は異質なものであり,単純に比較すべき ではないように思われる。しかし,失効により保険者の中心的な債務である 危険負担が消滅することや,復活に際して契約締結時と同レベルの危険選択 がなされ,無条件復活が認められる期間もないわが国の現行の復活制度を前 提とするかぎり,実質的には解除に相当するものということができる。そも そも失効制度がない場合,保険者が危険負担を免れるためには契約を解除し なければならないであろうから,解除に関する民法540条1項・541条と失効 に関する約款条項を比較することは不当であるとはいえない 。

本判決は,無催告失効条項と民法540条1項・541条を比較すると,無催告 失効条項には 催告 がないこと,および契約関係の解消に向けた 意思表 示 を要しないことの2点において,消費者である保険契約者の権利を制限 しており,消費者契約法10条の前段要件に該当すると判示した。この点につ いては原審でも同じ立場をとっている。消費者契約法10条の前段要件は任意 規定との乖離の程度を問題としないと解する と,解除に比べて保険契約 者の権利を制限していることは間違いないので,この判断は妥当である。

⑵ 継続保険料の支払いの履行期

次に消費者契約法10条の後段要件の判断方法について検討する。まずは本 判決の最大の問題点であると指摘される 継続保険料の支払いの履行期に ついてである。原審は,保険契約者が保険料支払債務につき履行遅滞となる 期限の到来した時 (民法412条1項)を,支払期月の末日が経過した時で あると判断した。したがって,支払期月が経過し保険契約者が債務不履行と なっても,失効まで1ヵ月間の猶予期間があるものと判断している。これに 対し,本判決は,この 期限の到来した時 を猶予期間の末日が経過した時

23) 遠山・前掲注5)6頁。

24) 遠山・前掲注5)6頁。

25) 上山・前掲注5)27頁。

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であると判断した。このような本判決の立場に立つと,民法の解除が適用さ れる一般的な契約であれば,契約を解除するのに期限の到来した時から一定 期間を定めた催告や解除の意思表示が相手方に対してなされるのに,生命保 険契約では無催告失効条項により期限の到来した時(つまり,本判決の立場 では猶予期間の末日)以後は,解除の意思表示も催告もなく即契約が失効し てしまうことになり,明らかに民法の規定に比して消費者の利益を一方的に 害しているということになる。

本判決は履行期をこのように考える理由として,強制履行や遅延損害金の 請求,解除をすることができるのは猶予期間の末日が経過した時からである ということを挙げる。確かに,本件の保険契約において,保険契約者は支払 期月の末日を過ぎたとしても強制履行や遅延損害金を請求されることはなく,

猶予期間内に未払いの保険料さえ支払えば,当該保険契約は何ら問題なく継 続されるのである。したがって,猶予期間に入ったとしても,保険契約者は 履行遅滞の状態ではないと解することができるかもしれない 。しかし,強 制履行や損害賠償請求は猶予期間が経過しなければ行えないというものでは なく,それらにかかる費用を考えるとそのような行為に出ることは現実的で はないという理由から,保険者があえて権利を放棄しているものと解すべき である 。猶予期間は保険料の支払期限が猶予され,その間は債務不履行に 陥らないという意味ではなく,その間に保険料の支払いがなされるならば債 務不履行が治癒され保険契約者側に不利益が生じないとされる期間である 。 また,約款には明確に保険料の支払いはその支払期月の末日までと記載され ている。したがって,支払期日の明記や猶予期間の設定の背景等を考慮する と,本来の履行期は支払期月の末日であると解することが合理的な解釈であ ろう 。これまでに履行期を猶予期間の末日とした裁判例はなく,学説にお

26) 薬袋=加藤・前掲注5)209頁はこのような解釈が可能であると説く。

27) その証拠にかつては約款上に遅延損害金の定めが設けられていた。倉澤康一 郎 保険契約法の現代的課題 229頁(成文堂,1978年)参照。

28) 山下=米山・前掲注1)681頁〔沖野〕。

29) 山下・前掲注2)340頁,山下=米山・前掲注1)366頁〔沖野〕等。

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いてもそのような立場をとるものは見当たらない。したがって,本判決はこ の点において約款解釈に大きな誤解をしているといえる。

また,仮に本判決のように履行期限を猶予期間の末日と解するにしても,

民法の解除の規定であれば履行期限を支払期月の末日であると設定すること もできるところを,無催告失効条項により猶予期間の末日まで延長されてい るということを考慮する必要があるのではないだろうか 。

⑶ 督促通知の評価に関する検討

次に,本件において保険者が催告や解除の意思表示を行わなくても,保険 者契約者に不利益が生じないように用意された各種代償措置について検討す る。まずは約款外の実務である督促通知の送付に関して検討するが,その前 に民法に定める催告とは何か,そして民法ではなぜ解除に際して催告を必要 とするのかについて確認する。

そもそも催告とは,債務者に対し債務の履行を請求する意思通知である 。 債務不履行に陥った契約を即解除することができるとなると,契約の一方当 事者に及ぼす不利益が少なくないために,民法ではまず 相当の期間 を定 めて催告し,期間内に債務者に履行の機会を与え,それでも履行がなされな いときにのみ契約を解除することを認めている。そうすると,催告が履行を 促す機能を有することは当然であるが,同時に契約が解除になることの不利 益について注意を喚起する機能も果たしている。契約が失効することにより 保険契約者が被る不利益が大きく,強制履行が現実的ではない保険契約にお いては,前者の役割よりも後者の役割が重要であるといえる。

この点無催告失効条項の適用に際しては,約款の規定ではないが,保険者 は督促通知を保険契約者に送っている。このような督促通知が,保険契約者 に対する保険契約が失効した場合の不利益についての注意喚起として十分に

30) 山本・前掲注5)241頁。

31) 谷口知平=五十嵐清編 新版注釈民法 債権⑷〔補訂版〕 821‑823頁(有斐 閣,2006年)〔山下末人〕。

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機能するのであれば,必ずしも催告という形をとらなくても,契約が解除さ れる相手方の不利益防止の目的を果たせるのではないだろうか。むしろ督促 通知の送付はそもそも催告とみることも可能であると思われる 。

また,解除の意思表示は必ずしも催告と別個に行わなければならないとい うわけではなく,催告の際の通知に解除の意思表示も加えておくことでその 要件を充たすものと解されている 。本件の督促通知にも猶予期間の末日経 過後に失効する旨の文言が記載されていたのであるから,これは失効予告で あるといえ ,解除の意思表示と同等の効果を有していたものといえる 。 本判決は履行期を猶予期間の末日と判断しているため,猶予期間経過後に 即失効となる本件無催告失効条項は 相当の期間 を定めて催告していない という結論に至ってしまう。しかし,本来の履行期を支払期月の末日と考え るのならば,本件では契約を失効する前に履行をなすための 相当の期間 も与えられているし,催告の機能を有する督促通知も行っている。本判決で は,消費者契約法10条の後段要件の判断枠組みとして, 個別の当事者間に おける事情を捨象して,当該条項を抽象的に検討して判断する という判断 枠組みを採用した。しかし,このように約款条項を抽象的に検討するのは妥 当ではなく,本判決のこの立場には批判も多い。というのも,消費者契約法 10条の後段要件に該当するか否かを判断する際には,全契約に一般的な事情 だけでなく個別事情を含めて判断するというのが立法当初から認められてい るからである 。また,本判決はこの督促通知を 保険契約上の義務として

32) 神作・前掲注4)161頁,大澤・前掲注5)45頁,山下=米山・前掲注1)696頁

〔沖野〕。

33) 谷口=五十嵐・前掲注31)803頁〔山下〕。

34) これに対し薬袋=加藤・前掲注5)221頁は,本件の無催告失効条項における 記載では不利益の予告として不十分であると指摘する。

35) 上山・前掲注5)31頁。

36) 榊・前掲注5)95‑97頁では,適格消費者団体による差止請求権を認めた平成 18年の消費者契約法改正以後はそれ以前よりも約款条項の抽象的な判断に親和 的な状況となっていると指摘する。しかし,榊准教授も差止めの文脈と個別条 項適用の文脈では判断が同一である必要はなく,個別事情については約款条項

(14)

行っているものではないことが明らかであるから,保険契約者のためには恩 恵的なものにすぎない ものと評価している。確かに,本件の督促通知は約 款外の実務であるから,保険契約者がそれを受け取る権利が保障されている わけではないとの指摘もある 。しかし,このような督促通知の導入の経緯 を考えると,保険者は督促通知の送付を事実上義務付けられているのであり,

このような督促通知を保険者が送らなかった場合にまで,無催告失効条項を 適用して契約を失効することができるとは思えない。本件の督促通知の送付 は今日においては既に契約内容であると考えるべきであるとの見解もある 。 いずれにしも督促通知の送付は本件の契約に限らず,事実上義務化されてい る全契約における一般的な事情であるから,仮に本判決の立場のように個別 事情を考慮から外すとしても,督促通知の送付に関しては考慮から外すべき ではない 。したがって,この点に関する本判決の判断には賛成できない。

⑷ 自動振替貸付制度と復活制度の評価に関する検討

次に,本判決における自動振替貸付制度と復活制度の評価について検討す る。本判決は,これらの制度があるからといって,保険契約者の不利益を少 なくする手段として十分であるとはいえないと判断している。これに対して,

本判決はこれらの制度を過小評価しすぎであるとの批判がある 。

確かに,これらの制度は保険契約者の利益を考慮した制度であり,単なる 解除の状況よりも有利な規定であることは間違いない。しかし,一定の状況

の当否の問題ではなく,援用の次元で考慮すべきとの立場である。

37) 山下友信 消費者契約法と保険約款―不当条項規制の適用と保険約款のあり 方 生命保険論集139号32頁参照。消費者契約における不当条項研究会 消費 者契約における不当条項の実態分析 (別冊

NBL

92号,2004年)〔神作裕之〕

も,督促通知の確実性や実効性が不明である点から,催告を義務付けるべきだ と指摘している。

38) 大澤・前掲注5)45頁。

39) 山下(友)・前掲注5)17頁,渡邉・前掲注5)52頁,足立・前掲注5)5頁,上 山・前掲注5)32頁。

40) 上山・前掲注5)30頁。

(15)

においてしか機能せず,その恩恵を受けられない保険契約者も存在すること を考えると,万能の制度ではない。したがって,このような制度があれば,

保険契約者に失効の注意喚起をなすような催告やそれと同等の制度がなくて も,保険契約者にとって不利益とはならないとはいえない。このような制度 は失効状態になって,またはなりそうになって初めて機能する制度であり,

またそのような状態になったときに必ずしもすべての保険契約者が利用でき るとは限らないことを考えると,失効に至る前に注意喚起をする制度のほう が保険契約者にとっては望ましく,そのような制度の代償物として置き換え られるという性質のものではない。これらの制度は,失効に対する注意喚起 の制度が存在することを前提として,初めて ないよりもあるほうが保険契 約者の保護に資する という制度であると思われる。本判決は督促通知の送 付を約款外の実務であり考慮の対象から除外するという立場をとっているの であるから,この立場を前提にすると本判決がこれらの制度につき低い評価 しか下していないとしても,いたしかたないものと思われる 。

⑸ みなし到達条項に関して

本判決は,保険者が懸念する催告を義務付けられることによるコストの増 大に関しては,約款において,保険契約者にその住所の届け出を義務付け,

保険者が保険契約者に催告等をするときは当該住所宛てに発すれば足り,当 該催告等はそれが通常到達すべきであった時に到達したものとみなす規定

(いわゆるみなし到達条項)を定めておけば良く,そのような規定は消費者 契約法10条の規定に反しないという。本判決はこの理由として既に保険約款 で採用されているみなし到達規定や会社法126条2項の規定を挙げる。確か に約款で採用されているみなし到達規定であれば,保険契約者が住所変更を 行ったのにその届出をしなかったのだから,落ち度は保険契約者側にあり,

当該規定により到達しなかったことの責任を負わせることも問題はなさそう

41) 薬袋=加藤・前掲注5)210頁。

(16)

である 。しかし,立法上の根拠もないのに,みなし到達規定を定めて,督 促通知が到達しなかったことに対し何の落ち度もなかった保険契約者に,到 達しなったことのリスクを負担させることが本当に妥当であるのか,消費者 契約法10条の規定に反しないといえるかどうかについては疑問である 。

⑹ 本判決の及ぼす影響

本件は最高裁に上告されており確定しているわけではない。本判決では無 催告失効条項が無効となっても保険者の不利益はさほど大きなものではない と考えているようであるが,実際にそうであろうか。以下では本判決の立場 で確定した場合に,実務ではどのような対応に迫られるかについて検討す る 。

まずは,現行の無催告失効条項を前提に失効とされた保険契約は,この条 項の無効により失効とはならないのであるから,当該保険契約を失効または 解除とするためには相当の期間を定めて催告をする必要がある。また,既に 保険事故が発生してしまっている保険契約については,有効な失効または解 除がなされていなかったのであるから,保険者は危険負担をせざるを得ない ということになるのではないか。

また,現在契約中の保険契約については約款に猶予期間がある以上,猶予 期間が経過するまでは保険契約者は債務不履行にならない。猶予期間の廃止 は約款の不利益変更となるので容易には行えないであろう。約款が変更でき ないとなると,契約を失効するためには,猶予期間経過後,さらに一定期間 を定めて催告する必要があるということになる。

そして,これから締結する保険契約についてであるが,現行の約款条項の ままであると,保険契約者が保険料を支払わない場合に,猶予期間経過後さ らに相当の期間を定めて催告しなければ,保険契約を失効することができな

42) 山下(友)・前掲注5)19頁,遠山・前掲注5)8頁。

43) 山下(友)・前掲注5)19頁,遠山・前掲注5)8頁。

44) この点に関しては,仁科・前掲注5)1頁に示唆に富む見解が示されている。

(17)

くなる。これでは猶予期間を設けた意味がないので,猶予期間をなくし履行 期を支払期月の末日として,その後一定期間を定めて催告するというように 約款を修正するかもしれない。このような規定に修正しても(そもそも失効 に関する規定を設けなくても),民法の解除の規定に従っているだけなので 何の問題もない。しかし,このような変更は保険契約者にとっては明らかに 好ましくない。というのも,金銭債務については数日程度でも不相当とはい えないとする判例 もあることから,このような場合に相当の期間として 保険者が従来の猶予期間のように1ヵ月間と設定してくれるかどうかは怪し い 。また,催告を義務化すると内容証明郵便による催告を行うことにより コストが増大し,それが保険料の増加という形で保険契約者にとって不利益 を生じる。保険者にとっても契約はできる限り継続されることを望むであろ うから,相当の期間の設定をそれほど短い期間にはしないかもしれないが,

後者の催告の義務化によるコストの増大という点は,それにより保険契約者 が得るベネフィットよりも大きくなる可能性はあるかもしれない

45) 最判昭和30年3月22日民集9巻3号321頁,最判昭和46年11月18日判タ271号 169頁等。判例については,谷口=五十嵐・前掲注31)825頁〔山下〕参照。

46) ただし,厳密にいうと現行の督促通知は支払期月の末日までに支払いがなさ れていないことを確認してから送付されるので,猶予期間の末日まではおよそ 2週間程度の期間であるとの指摘もある。井野・前掲注11)66頁。

47) 榊・前掲注5)97頁,大澤・前掲注5)46頁。

48) この点に関し,催告が義務化されたとしても現在の督促通知を催告とする旨 の規定を置けばコストはそれほど増大しないかもしれない。というのも,督促 通知の送付は現行実務においても事実上義務化されているのであるから,現在 においても,保険契約者に督促通知が到達しなかった場合に,そのような督促 通知を送付したことを証明する責任は保険者側が負っているはずである。それ にもかかわらず内容証明郵便を用いていないのは,これまで督促通知の到達に ついて争いがないからか,そのような争いにかかるコストのほうが内容証明郵 便を用いるコストよりも低いと判断しているからであると思われる。したがっ て,催告が義務化されても,現行の督促通知の送付を催告とすればコストは増 大しないかもしれない。山下(友)・前掲注5)19頁参照。しかし,判例上催告 が義務化されることで,督促通知の到達に関する争いが増える可能性は否定で きないし,催告は内容証明郵便を用いて行われている実務慣行を考えると,催

(18)

6 おわりに

以上のように本判決には法および約款に関して誤った解釈がなされており,

判旨および結論に対して賛成できない。

確かに,無催告失効条項は無催告で失効という形式をとるため,一見する と保険契約者に不利で保険者の便宜のために設けられた規定のように見える。

しかし,督促通知により催告がなすべき機能は果たされているといえ,さら に復活や自動振替貸付といった解除にはない保険契約独自の制度等を考慮に 入れると,必ずしも保険契約者に不利な規定であるとはいえず,消費者契約 法10条により無効となるような約款規定ではないであろう。

しかし,現行の失効制度や復活制度では保険契約者の保護制度としては十 分ではなく,見直すべきだとの主張もある。そこで,最後に以下の2点につ いてだけ簡単に触れておく。

1つ目は現在の1ヵ月間の猶予期間が契約を失効するうえで妥当な期間で あるかという点である 。生命保険契約は長期の継続的契約である。他の継 続的契約である賃貸借契約では,信頼関係破壊の法理により数ヵ月の賃料の 未払いがなければ解除することができないとされている。生命保険契約の場 合,契約が失効されると健康状態によっては復活も新たな契約締結もできな くなる可能性があるので,その不利益は賃貸借契約よりも大きいといえる。

したがって,このように考えると,生命保険契約でも1ヵ月あまりの保険料 の不払いでは信頼関係を破壊しているとはいえず,失効とすべきではないと いうことになるであろう 。

告が義務化された場合,保険者が内容証明郵便を用いた催告の方法をとること は仕方のないことであろう。

49) 薬袋=加藤・前掲注5)209頁。

50) 薬袋=加藤・前掲注5)210頁。しかし,生命保険契約が失効されるのは1ヵ 月の保険料の不払いではなく,2ヵ月の保険料の不払いである。ただし,2ヵ 月であっても賃貸借契約を基準にすると信頼関係が破壊されるほどの期間では ないとの主張は可能であるかもしれない。

(19)

しかし,保険契約における保険料は,一方では保険者の危険負担に対する 対価としての側面があるが,他方では保険という集団的な契約関係における 保険給付の原資という側面がある。それゆえに,保険料の支払いは前払いが 原則であって,保険料の支払いのないまま保険給付がなされることのないよ うな仕組みを維持する必要がある 。それにもかかわらず,猶予期間中に保 険事故が起きた場合,未払保険料を控除して保険金を支払うことになってい るので,これは実質的な保険料の後払いである。したがって,このような状 況がそれほど長く続くのは履行期に真面目に保険料を支払っている保険契約 者との間で不公平が生じるし,保険制度自体にも望ましいことではない。

外国法と比較をしても,ドイツ法では2週間以上の期間を設定して催告す れば保険契約を失効できるし,アメリカ法においても猶予期間は1ヵ月程度 である 。したがって,我が国の猶予期間である1ヵ月はとくに短いものと はいえないので,猶予期間を延長する必要はないものと思われる 。

2つ目は現行の復活制度の見直しについてである。猶予期間を延長するの は,事実上の保険料の後払いを認める期間を延長することになるので好まし くないが,ドイツ法のように保険保護の停止後一定期間であれば無審査で復 活を認める制度であれば,保険料の支払いは確保されるのであるから,問題 はないかもしれない。現行の復活制度では,本件の保険契約者のように,有

51) 山下=米山・前掲注1)679頁〔沖野〕,山下(友)・前掲注5)16頁。

52) ドイツ法については山下(友)・前掲注5)15頁参照,アメリカ法については

ROBERT  H. JERRY,

, UNDERSTANDING  INSURANCE  LAW

595(4

th

2007)参照。

53) ただし,単純に猶予期間を延長するというのではなく,自動貸付制度が採用 されない保険契約の場合には,信義則上払込猶予期間を伸長すべきであり,猶 予期間としては督促通知の到達後1ヵ月間とすべきであるという見解(広瀬・

前掲注12)18‑19頁)や,督促通知の到達と猶予期間の末日の期間が十分にゆと りのある期間といえない場合には猶予期間の末日を経過しても失効しないとす べきであるという見解(岩原紳作 判批 鴻常夫=竹内昭夫=江頭憲治郎編

商法(保険・海商)判例百選(第二版) 113頁)は傾聴に値する。

(20)

効な保険契約期間中に生じた病気であっても復活が認められないため ,短 期間であれば無条件復活制度を認めるほうが保険契約者保護に資するであろ う 。しかし,無審査復活制度には逆選択のリスクが伴う。したがって,逆 選択のリスクを考慮に入れると無審査復活を導入すべきか,するとしてもど の程度の期間とするか等は慎重に検討しなければならない。

以上のように,現行の失効制度や復活制度に対しては批判的な見解も少な くない。しかし,現行の各種代償措置でも,誠実であるが不注意であった保 険契約者を救うことができるものといえるから,それらの措置を伴う無催告 失効条項は十分に合理的な制度であって,これまでの議論や実務慣行を無視 して個別事例だけを見て安易に変更すべきではない。むしろ本件のような事 例を防止するためには制度そのものを見直すよりも,このような制度の仕組 み(特に保険契約者に対する不利益等)を保険契約者に理解させることが重要 ではないかと考える 。

(筆者は岩手大学人文社会科学部准教授)

54) 遠山・前掲注5)9頁,薬袋=加藤・前掲注5)210頁。

55) 榊・前掲注5)97頁。

56) 大澤・前掲注5)44頁。現在でも 保険会社向けの総合的な監督指針 Ⅱ-3−

3−2⑵②イ において, 保険料の払込猶予期間,契約の失効,復活等 は注 意喚起情報の項目として掲げられているが,それで十分かは検討を要する。

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