■アブストラクト 生命保険契約の失効後の復活の場面において,自殺免責期間の起算点を原 契約時とすべきか復活時とすべきかについての問題は,期間制限のある自殺 免責の趣旨が自殺による保険事故発生率の増大する危険を防ぐという趣旨か ら考えれば,復活請求時にもこの危険を防ぐ要請は認められ,一律に復活時 を起算点とするとすることは困難と考える。しかし,具体的状況下において は,失効前には自殺免責が認められなかったのにも関わらず,失効後復活し た場合には自殺免責が認められることが相当でないという場合も想定でき, 自殺免責が失効に至った理由や失効から復活までの期間等の具体的事情に基 づいた自殺免責の主張制限はあり得るものと考える。 ■キーワード 復活,自殺免責,信義則 ⚑ 初めに 本邦の生命保険契約約款では,一部の例外を除き,保険料の支払いがなさ れない場合について,無催告失効条項と復活条項が定められている。この失 効と復活は,本邦においては,法律上の規定はなく,約款上にのみ存在する 規定である。そして,約款上では,通常,⚒年ないし⚓年の自殺免責期間を 設けているが,復活の際にも,この自殺免責期間を新たに進行させるものと
村 上 裕 行
生命保険契約における復活と自殺免責
*平成30年10月28日の日本保険学会大会(日本大学)報告による。 / 令和⚒年⚓月27日原稿受領。規定している。 最判平成24年⚓月16日民集66巻⚕号2216頁(以下⽛平成24年判例⽜とい う。)は,生命保険契約約款の無催告失効条項が,一定の条件のもと消費者 契約法10条に反しないことが確認されたが,失効条項の有効性を基礎づける 事情として,復活の存在及びその内容を挙げることはなかったため,復活の 位置づけ及びその内容については別途問題となる。 本稿では,復活時の自殺免責規定の起算点を復活時と定める約款既定の有 効性について考え,また,当該規定が有効であるとしても復活の際の自殺免 責は新規契約時と同様に解して良いのか若干の考察を試みたい。 ⚒ 復活の法的性質論等について 上述のように,多くの生命保険契約では,失効後一定期間保険者からの請 求があり保険者が承諾すれば,生命保険契約が復活する旨約款で定められて いる。このような規定が設けられているのは,保険者としては,保険契約を 失う不利益を避けることができ,また保険契約者としては新契約を締結する ことができないあるいは新契約を締結すると元の契約時から加齢・健康状態 の悪化等の関係で保険料等の契約条件が不利になることを避けることが出来 るためであるとされる1)。 そして,失効と復活の法的性質論については,従来から様々な議論がなさ れてきたところである。 従来の通説は,失効を,復活を解除条件として解除条件が成就しない限り 保険契約が完全に消滅するものと捉え,復活を従来の契約の状態を復元させ る特殊な契約であるとする(特殊契約説)2)。また,失効となっても解約返 戻金の支払いや復活に関して法的根拠が存続していることが必要であること から,失効すると,これらに関する合意のみ存続し,そのほかの合意に関す 1) 湯浅誠弐⽛判批⽜生命保険判例百選(増補版)164頁〔鴻常夫〕(1988年) 2) 大森忠夫⽛保険法(補訂版)⽜315頁(有斐閣,1985年)
る効力が失われるとする見解もある3)。 失効が生じても契約関係は存続し,保険契約上の責任が喪失するだけであ り,復活請求により保険契約上の責任が復活するという見解もある(契約関 係存続説)4)。 一方で,失効により保険契約は完全に消滅し,復活は新契約に限りなく近 い特殊な契約であると考える見解もある5)。復活後の契約完全な継続性はな いものの,保険契約の重要部分が完全に引き継がれる点を見ると,完全な新 契約とも言い切れないため,この意味で特殊な契約であるとする。 以上のような見解について,復活の効果をどう考えるかで分けてみると, 従来の法状態に復帰させる考え方と,同内容の新契約の締結という考え方が あると言える。そして,復活の効果を従来の法状態に復帰させるものとする 従来の通説的なとらえ方から,素直に考えると,復活を従来の法状態に復帰 させるものと捉えると自殺免責の起算点を新たに進行させるべきでないとい う考え方になる6)。一方,復活した契約は従来の契約ではなく新契約と捉え ると新たに自殺免責規定の起算点を進行させるべきということになるであろ う。 法的性質論については,具体的な帰結にどのように結びつくか明らかでな いとする指摘や7),法的性質論から演繹的に各論点の結論を導くことに対す る批判もある8)。ただ,⽛復活⽜という文言に整合性のある解釈がより良い とは思われ,復活という文言からは,原契約の法状態への復帰と捉える方が 3) 竹濵修⽛生命保険契約の失効と復活⽜⽝三宅一夫追悼・保険法の現代的課題⽞ 288頁(法律文化社,1993年) 4) 潘阿憲⽛生命保険契約における失効復活制度の再検討⽜生命保険論集140号 54頁(2002年) 5) 福田弥夫・生命保険契約における利害調整の法理195頁(成文堂,2005年) 6) 甘利公人⽛生命保険契約の復活と自殺免責条項⽜保険学雑誌630号268頁 (2015年) 7) 山下友信米山高生編・保険法解説243頁〔洲崎博史〕(有斐閣,2010年) 8) 村田敏一⽛判批⽜事例研究会レポート294号22頁(2016年)
より文言に合致する解釈であると考える。復活をこのように考えたときの自 殺免責規定との整合性に関しては,後述する。 ⚓ 自殺免責の趣旨について ⑴ 復活時に新たに自殺免責期間を設定することが妥当であるか検討するに あたり,自殺免責の趣旨について検討する。 ⑵ 自殺免責の趣旨としては,従来,①射倖契約である生命保険契約におい て要請される契約当事者間の信義誠実の原則に反すること,②生命保険金 を保険受取人に取得させることを目的として保険に加入し,加入後に被保 険者が自殺するという傾向に歯止めをかけ,生命保険契約の不当な利用を 防ぐこと,③生命保険契約が自殺促進機能を有するという道徳的・社会的 非難を回避すること,④自殺は損害保険契約にいう故意の事故招致に相当 するものであること,等が挙げられてきた,と整理されている9)。 また,保険契約の不当利用を防ぐという考え方の中にも,生命保険契約 の締結中に自殺することを問題と捉える考え方と,契約中に自殺すること を目的として生命保険契約を締結することを問題と捉える考え方の二つの 考え方がある10)。 ⑶ 一方,最判平最判平成16年⚓月25日民集58巻⚓号753頁(以下,⽛平成16 年判例⽜という。)は,以下の通り述べて,自殺免責期間経過後の自殺に ついて自殺免責の趣旨に触れ,例外的な場合を除いて,免責を認めないこ とを明らかにしている。⽛期間を⚑年とする⚑年内自殺免責特約は,責任 開始の日から⚑年内の被保険者の自殺による死亡の場合に限って,自殺の 動機,目的を考慮することなく,一律に保険者を免責することにより,当 該生命保険契約が不当な目的に利用されることの防止を図るものとする反 面,⚑年経過後の被保険者の自殺による死亡については,当該自殺に関し 9) ࡗ素寛・⽛故殺・自殺・保険事故招致免責の法的根拠⽜黒田悦郎ほか編⽝江 頭憲治郎先生還暦記念企業法の理論下巻⽞348頁(商事法務,2007年) 10) ࡗ・前掲注9)
犯罪行為等が介在し,当該自殺による死亡保険金の支払を認めることが公 序良俗に違反するおそれがあるなどの特段の事情がある場合は格別,その ような事情が認められない場合には,当該自殺の動機,目的が保険金の取 得にあることが認められるときであっても,免責の対象とはしない旨の約 定と解するのが相当である。そして,このような内容の特約は,当事者の 合意により,免責の対象,範囲を一定期間内の自殺による死亡に限定する ものであって,商法の上記規定にかかわらず,有効と解すべきである。⽜ ⑷ 生命保険契約のうち死亡保険契約では,その効力が生じるのに被保険者 の同意を要する(保険法38条)ことから,被保険者は,生命保険契約にお ける信義則上の義務を負うことを基礎づけるだけの根拠があると考えて差 し支えないと思われる。ただ,信義則を理由とするだけでは,期間制限を 設けている約款規定の趣旨を十分に説明することはできないと思われる。 また,自殺を目的とした保険契約を許容することは,自殺目的の保険契 約を促進することとなり,保険集団内の自殺率を増大させるのは指摘され るとおりであり,保険契約中に自殺することを許容することでも同様に保 険集団内の自殺率を増大させる。しかし,被保険者が自ら命を絶つのには やむを得ない事情があり,これ自体は非難するには値しないと思われる。 一方で,既に自殺の意思を有しているのにも関わらず生命保険契約を締結 しようとすることは,保険契約の不当な利用であるということができると 思われる。 そこで,期間制限を設けている自殺免責の約款規定は,自殺目的の保険 契約締結を防止し,生命保険契約が不当に利用されることを防ぐという目 的が含まれていると考える。一方で,射倖契約性に基づいた信義則という 側面については,これと両立しないわけではないけれどもこれを第一の意 義として強調することは難しいと考える。 ⚔ 復活における自殺免責条項の必要性と保険契約者の期待について ⑴ 自殺免責規定の趣旨目的を上記のように解した場合,復活の場面におい
て,自殺免責の必要性をどのように根拠づけられるか検討する。 自殺免責の趣旨を生命保険契約保険契約当事者間において自殺をするこ とが信義則に反するということに求めると,復活時にもその趣旨は妥当し そうである。しかし,上記のように期間制限がある自殺免責規定の場合に おいては,信義則等の趣旨を強調することは相当ではないと考える。 一方で,保険集団内の自殺発生率の上昇を防ぐという逆選択の危険の防 止という趣旨から見た場合,復活時における自殺免責の必要性をどう考え るべきであろうか11)。 この点については,自身の生命を自ら絶つ自殺をする意思を有する者が 保険集団内に占める割合はそれほど多くないのではないかと考えられ,自 殺免責を貫徹すべき要請がどれほど高いかは問題となりうるかも知れな い12)。しかし,失効をさせた後に,未納の保険料を支払ったうえで復活請 求をしようとする者の置かれている状況を想起する場合,自殺を意図する 者の割合は,契約締結時より大きいとも考えられ,このおそれを一般に排 除せずとも良いとは言えないと思われる。 平成16年判例は,自殺免責期間の⽛経過後の被保険者の自殺による死亡 については,当該自殺に関し犯罪行為等が介在し,当該自殺による死亡保 険金の支払を認めることが公序良俗に違反するおそれがあるなどの特段の 事情がある場合は格別,そのような事情が認められない場合には,当該自 殺の動機,目的が保険金の取得にあることが認められるときであっても, 免責の対象とはしない旨の約定⽜であると述べており,約款の定める期間 を過ぎたあとに復活時にあらためて自殺免責期間の進行を始めるのは平成 16年判例に抵触するのではないかとの指摘もある13)。しかし,平成16年判 11) 福田・前掲注5)220頁 12) フランスにおいては,死亡保険の遺族保護の趣旨を重視し,保険金が一定金 額以下の団体信用生命保険については,自殺免責の主張を認めないという規定 が設けられるようになった。(山野嘉朗⽛フランス保険契約法の新たな改正動 向 2001年・2002年の法改正を中心に ⽜生命保険論集141号⚑頁)(2002年) 13) 甘利・前掲注6)266頁
例は,契約時の自殺免責条項の解釈について述べただけであり,失効及び 復活の場合までその趣旨を及ぼしうるかどうかについては何も述べていな いのではないかと考える。 自殺免責は法文上,期間制限はなく,その趣旨を生命保険契約上の信義 則等によっても基礎づけることができると言いうる以上,当然に期間制限 を設けるべきとは言い難く,また,自殺免責期間を一定の期間内に収めな ければならないというわけでもない。 したがって,復活の際に自殺免責の起算点を改める旨約款上規定するこ とは,許容されると考える14)。 ⑵ 一方で,保険契約者は,失効に至った契約が復活することで,契約が原 契約の状態に戻ることを期待するかもしれない。しかし,生命保険契約が 失効に至るために,平成24年判例は,以下のように述べ,一定の用件が揃 えば,消費者契約法10条に反しないとしている。⽛保険料は払込期月内に 払い込むべきものとされ,それが遅滞しても直ちに保険契約が失効するも のではなく,この債務不履行の状態が一定期間内に解消されない場合に初 めて失効する旨が明確に定められている上,上記一定期間は,民法541条 により求められる催告期間よりも長い⚑か月とされているのである。加え て,払い込むべき保険料等の額が解約返戻金の額を超えないときは,自動 的に上告人が保険契約者に保険料相当額を貸し付けて保険契約を有効に存 続させる旨の本件自動貸付条項が定められていて,長期間にわたり保険料 が払い込まれてきた保険契約が⚑回の保険料の不払により簡単に失効しな いようにされているなど,保険契約者が保険料の不払をした場合にも,そ の権利保護を図るために一定の配慮がされているものといえる。⽜ ⽛さらに,上告人は,本件失効条項は,保険料支払債務の不履行があっ 14) 仮に,法文上自殺免責の期間制限があるとした場合,契約時からの自殺免責 期間と復活時からの自殺免責期間の合計が法定の期間を超えることがありえる が,この場合は,当該約款規定が消費者契約法10条との関係で問題になりうる かも知れない。
た場合には契約失効前に保険契約者に対して保険料払込みの督促を行う実 務上の運用を前提とするものである旨を主張するところ,仮に,上告人に おいて,本件各保険契約の締結当時,保険料支払債務の不履行があった場 合に契約失効前に保険契約者に対して保険料払込みの督促を行う態勢を整 え,そのような実務上の運用が確実にされていたとすれば,通常,保険契 約者は保険料支払債務の不履行があったことに気付くことができると考え られる。多数の保険契約者を対象とするという保険契約の特質をも踏まえ ると,本件約款において,保険契約者が保険料の不払をした場合にも,そ の権利保護を図るために一定の配慮をした上記イ《前鍵括弧内の部分》の ような定めが置かれていることに加え,上告人において上記のような運用 を確実にした上で本件約款を適用していることが認められるのであれば, 本件失効条項は信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものに当た らないものと解される。⽜ すなわち,法的に有効な失効がなされるためには,上記のような一定の 要件が充足されることが必要となるのであり,失効の段階で,保険契約者 は一定の保護を受けているものと言うことが出来る。そこで,失効に至っ た保険契約者の期待を全て保護すべきとまでは言うことが出来ないと考え る。したがって,この点からも,自殺免責の起算点を一律に原契約時とす ること困難と考える。 しかし,上記の失効と消費者契約法10条との関係においては,保険者側 の定めた失効手続に関する約款の規定の内容と失効手続に関する運用を検 討するに留まっており,保険契約者側の事情については考慮されていない。 保険契約者側の執行に至った経緯等の事情等によっては,自殺免責の起算 点を復活時とすることが不当な場合もあり得るのではないかと考える。 ⚕ 復活時の告知義務との異同 失効と復活に関しては,復活の際に告知義務を課すことが出来るか,どの 範囲の事情について告知義務を課すことが出来るか,という点についても議
論があるところである。 平成24年判例の差戻後の控訴審判例である東京高判平成24年10月25日金 融・商事判例1404号16頁(以下⽛平成24年差戻審判例⽜という。)では,失 効後保険者が復活を拒絶したことについて信義則違反が問われた。平成24年 差戻審判例では,結論として信義則違反は否定されたが,この点に関しては 疾病の発症時期を失効の前と後にわけ,失効前の疾病であれば告知義務を課 すべきでないとの見解もある。その理由としては,失効前の疾病は,保険集 団が引き受けていた危険であるという点が挙げられている15)。私見としては, 復活請求時に,一律に失効前の疾病等を告知義務の対象から外すことは困難 であるが,失効に至った理由や失効までの期間の長短等の具体的な事情を考 慮して,信義則上失効前の疾病を理由に復活請求を拒絶することが出来ない 場合もあり得ると考える16)。 理論的には,自殺免責についても,免責期間経過後に自殺意思が生じたと しても,保険集団は,その意思に基づいた自殺の危険を引き受けていたとい うことはできる。しかし,平成16年判例が述べるように,趣旨としては,自 殺の意思を有しながら保険契約を締結することを防止するものであるところ, この自殺の動機等の判別が実際上困難であることから,動機等を問わず,一 定期間の自殺を全て免責としたものである。 疾病に関しても,疾病の発症時期の特定が実際上どの程度可能かという問 題もあるが,自殺の場合は,そのリスクの発生・上昇の時期等の認定はより 困難であると言えそうである。 そうすると,復活における告知義務の要否の問題と必ず同一の結論とすべ きということにはならないと考える。 15) 福田弥夫⽛生命保険契約の失効と復活⑴ アメリカ法の検討を中心に⽜生 命保険論集143号43頁(2003年) 16) 私見の詳細については,拙稿⽛生命保険契約における復活と危険選択の範 囲⽜保険学雑誌第646号39頁(2019年)をご参照されたい。
⚖ 復活の法的性質論との整合性について 復活の効果を原契約への復帰と捉える場合,あらためて自殺免責期間を進 行させることは,復活に新たな条件を付すものであり,復活の法的効果と矛 盾するように思われる。実際,アメリカ法の判例では,復活後の契約は新契 約ではなく原契約であるということを捉えて,自殺免責の起算点を原契約時 とするものもあるようである17)。 しかし,原契約時の約款に復活時の自殺免責の起算点について明記されて いるのであれば,復活時に自殺免責期間を新たに進行させることは,原契約 時から予定された契約上の効果であり,契約の復活時に新たな条件を付加す るということにはならないと考えられる。 したがって,原契約時の契約約款に復活時の自殺免責の起算点について明 記された条項が存在するのであれば,理論的に不整合であるとまでは言えな いと考える。 ⚗ 信義則上の自殺免責の主張制限について 一方で,復活時の自殺免責条項の適用が争われた裁判例に目を向けると, その多くは,具体的事情を評価根拠事実として信義則上の免責主張の制限と いう形で行われている18)。 復活において自殺免責条項の適用があることが原則であるとしても,復活 の動機等が自殺による保険金取得目的でないことあるいはそのように伺われ 17) 福田・前掲注5)195頁 18) 東京高裁平成24年⚗月11日金融法務事情2018号82頁,東京地裁八王子支部判 平成13年⚒月16日生命保険判例集13巻137頁,東京高判平成16年⚖月25日生命 保険判例集15巻402頁等 19) 福田・前掲注4)219頁では,アメリカの多数の州では,自殺免責期間の起算 点を原契約時とする一方,復活請求時に被保険者が自殺の意図を有していれば 保険者の免責を認めることが紹介されているが,これとは逆向きの主張・立証 となる。
る事情を信義則の評価根拠事実の一つとして考慮しうるかという問題は別途 検討すべきであると思われる19)。 たとえば,失効後まもなく復活の請求をしているという場合,自殺による 保険金取得の意思を有していれば失効に陥らないようにするであろうし,自 殺による保険金を取得する意思が新たに生じたとは考え難いことから,自殺 免責の趣旨に反しない旨主張することが考えられる。 一方で,平成16年判例は,自殺免責条項はその動機等を問わず,自殺であ ることをもって免責とするものであると解釈している。そうすると,このよ うな主張をすることは,平成16年判例に抵触するのではないかと考えうる。 この点について,東京高裁平成24年⚗月11日金融法務事情2018号82頁は, 保険金請求者で被控訴人が,復活により従前の契約が継続するにもかかわら ず自殺免責期間が再開することに理論的合理性がないから,保険者が自殺免 責を主張できる場合は限定的に解すべきであり,保険契約者による逆選択で あることを具体的にうかがわせる事情が存在しない限り,その主張は権利の 濫用というべきであるとの主張に対して,以下のように述べている。⽛被保 険者の自殺は,旧商法680条⚑項⚑号(保険法51条⚑号)が,生命保険契約 における一般的な免責事由として定めるものであって,保険契約の期間のう ち契約当初の一定期間に固有のものではない。また,上記各号の定めは,被 保険者が自殺をすることにより故意に保険事故(被保険者の死亡)を発生さ せることは,生命保険契約上要請される信義誠実の原則に反し,また,その ような場合に保険金が支払われるとすれば,生命保険契約が不当な目的に利 用される可能性が生ずるから,これを防止する必要があること等によるもの と解され,本件免責条項のような自殺免責条項は,生命保険契約締結の被保 険者の自殺による保険金の取得にあったとしても,その動機を一定の期間を 超えて,長期にわたって持続することは一般的には困難であり,一定の期間 経過後の自殺については,当初の契約締結時の動機との関係は希薄であるの が通常であることなどから,一定の期間内の被保険者の自殺による死亡の場 合に限って,動機・目的にかかわりなく,一律に保険者を免責することとし,
これによって生命保険契約が上記のような不当な目的に利用されることを防 止する考えによるものと解される(最高裁平成16年⚓月25日第一小法廷判 決・民集58巻⚓号753頁)。一方,本件免責条項が復活時に自殺免責期間を再 開させることとしているのは,復活が,いったん保険契約を失効させた保険 契約者が保険契約の復活を求めるものであるため,当初の契約締結時と同様 に生命保険契約が上記のような不当な目的に利用されることを防止する必要 があるとの考えによるものと解され,旧商法680条⚑項⚑号(保険法51条⚑ 号)の上記趣旨にかんがみれば,上記のような考えにより,復活の場合に自 殺免責期間を再開させることに理論的合理性がないとはいえない。そして, 本件免責条項が復活時にも一定の期間を自殺免責期間として再開することと しているのは,当初の自殺免責期間と同様に,一定の期間内の被保険者の自 殺による死亡の場合に限って,動機・目的にかかわりなく,一律に保険者を 免責することによって生命保険契約が上記のような不当な目的に利用される ことを防止する考えによるものと解されるから,個別の保険契約者の動機・ 目的により,その適用が左右されることは相当でない。したがって,Aに逆 選択をした形跡がないことから控訴人の自殺免責の主張は権利の濫用ないし 信義則違反に当たるとの被控訴人の主張は採用できない⽜。その上で,滞納 が初めてであることや,保険者が自殺免責期間を説明していなかったことに ついて信義則違反・権利濫用とならない旨判示した。 現在の自殺免責約款は,自殺免責期間を一定期間に限る一方,動機・経緯 を問わず免責とすることで,保険契約当事者間の衡平を図ったものと言われ る20)。 復活の場面において,想定される自殺による保険金目的の復活請求の危険 は,どの程度のものであろうか。失効をした者の中であえて復活をするとい う者は,新規契約時よりも何らかの不当な意図を有しているおそれが高いか も知れない。しかし,保険集団全体のリスクに与える影響は,新規契約の場 20) 田辺康平⽛生命保険契約と保険者の免責事由⽜ジュリスト736号107頁(1981 年)
合に比べ少ないのではないかとも考えられる。 また,復活の際には,既存の契約関係が存在することから,保険者が上記 のような被保険者の目的を一定程度推測できる場合もあると思われる。 復活の場面においても,新規契約と同等の期間を自殺免責期間として設け, 動機等を問わず一律に免責とすることが,衡平とは言い難い場合もあるので はないかとの疑問が残る。 実際立証を成功させることは難しい場合も多いかもしれないが,復活請求 が自殺による保険金取得目的でないことやそれを根拠づける事情を,信義則 違反の評価根拠事実として主張することは,平成16年判例を根拠に排除する べきではないのではないかと思われる。 ⚘ まとめ 復活時における自殺免責条項については,復活の際自殺免責の起算点を復 活時とする約款規定が存在する限り,原則として,約款通り起算点は復活時 とすべきであると考える。 平成16年判例は,自殺免責条項は自殺免責の動機等を問わず自殺であるこ とをもって自殺免責を認める趣旨であるとするが,従前の契約関係が存在し ていたという契約時とは異なる状況があることから,復活の動機等の具体的 事情を問題とし,自殺免責の信義則上適用を排除すべきとの主張は有りうる と考える。 (筆者は弁護士)