暴力団排除条項と保険契約
藤 本 和 也
■アブストラクト
暴力団排除条項は,保険契約から反社会的勢力を排除するため,保険法に おける重大事由解除の包括条項を具体化したものと整理し保険約款に導入さ れた。しかし,重大事由解除に位置づける理論的根拠,暴排条項未導入の旧 約款契約における解除の可否等,未だ十分に議論されていないと思われる論 点もあることから,これらの整理を試みることが本稿の目的である。
反社に属すること自体,保険金不正請求を招来する高い蓋然性を有してい る。保険法はモラル・リスク排除のため反社該当という属性要件の充足のみ で保険契約の重大事由解除を許容している。したがって,保険法は重大事由 解除における包括条項の具体化である暴排条項も許容している。暴排条項が 導入されていない旧約款に基づく保険契約については,理論上,保険法にお ける重大事由解除規定を直接の根拠として,反社属性をもって解除を行うこ とが許容されると考える。
■キーワード
反社会的勢力,重大事由解除,暴力団排除条項
*平成24年9月7日の日本保険学会関東部会報告による。
/平成25年3月1日原稿受領。
1.はじめに
保険業界における反社会的勢力(以下, 反社 という。)排除の取組みが 進んでいる。平成24年4月1日,暴力団排除条項 (以下, 暴排条項 と いう。)を導入した生命保険約款を用いた契約実務が開始され,生命保険契 約からの反社排除が本格化した。契約締結時には加入申込者等の反社該当性 につき反社データベースを用いたスクリーニングが行われ,反社該当の恐れ がある場合には,加入謝絶による排除が実施されている。契約締結後に契約 者等の反社該当性が判明した場合には,暴排条項に基づき交渉や解除を行い,
滞りなく排除を完了した事例も現れている。また,損害保険業界では,暴排 条項導入に向け多種多様な商品の特性を踏まえた諸課題の検討が重ねられ,
損害保険約款への暴排条項の導入および運用の道筋が整えられた 。 さて,保険約款に導入された暴排条項は,保険法における重大事由解除の 包括条項の具体化として位置づけられた。しかし,保険契約者等が反社属性 を有すると何故に重大事由解除が可能となるのか,暴排条項が未導入である 旧約款に基づく保険契約は属性要件のみで重大事由解除を行うことができな いのか,暴排条項導入後の新約款に基づく保険契約と旧約款契約が併存する 場合はどのように取り扱うべきなのか等,数々の疑問が生ずる。
そこで,本稿では暴排条項と保険契約に関する理論的整理を試みる。
1) 本稿は,基本的に平成25年3月1日時点で公表されている情報に基づく。
2) 暴力団 排除条項との呼称であるが,暴排条項による排除対象は暴力団
(員)に限定される訳ではなく,その他の反社会的勢力も排除対象となる。
3) 共済の取組みに関しては,藤本和也他 共済からの反社会的勢力排除とコー プ共済連にお け る 反 社 会 的 勢 力 対 応 の 取 組 み 共 済 と 保 険 通 巻658号32頁
(2013)参照。
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2.反社排除の動向
⑴ 反社の現状と反社対策
平成24年末時点における暴力団情勢 は,指定暴力団21団体,暴力団構成 員及び準構成員(以下 暴力団構成員等 という。)数 は6万3200名,暴 力団構成員数は2万8800名,準構成員数は3万4400名,主要3団体(山口 組・住吉会・稲川会)の暴力団構成員等の数は4万5800名であり,主要3団 体の寡占下にある。総会屋及び会社ゴロ等(会社ゴロ及び新聞ゴロをいう。)
は1250名,社会運動等標ぼうゴロ(社会運動標ぼうゴロ及び政治活動標ぼう ゴロをいう。)は6320名であり,反社の中心勢力は暴力団およびその構成員 である。
暴力団に対する法規制は着実に強化されている。暴力団排除条例(以下,
暴排条例 という。)は,平成23年10月1日に全都道府県で施行された。暴 排条例の多くは,暴排条項の導入を求め,事業者に対し暴力団員への利益供 与を禁止すると共に実効性を確保すべく勧告・公表等の行政措置を規定す る 。既に暴排条例を根拠として勧告が行われた事例も多く見られる 。平 成24年7月には,暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律(いわゆ る 暴対法 )の一部を改正する法律が成立し,反社の中心たる暴力団の壊 滅を目指す警察当局による一層強力な取り締まりが可能となった。民間事業
4) 反社対策の動向については,鈴木仁史 暴力団等反社会的勢力の現状と ヒ ト・モノ・カネ の対策 金融法務事情1916号6頁,1918号14頁,1920 号90頁(いずれも2011)が詳しい。
5) 警察庁組織犯罪対策部暴力団対策課・企画分析課 平成24年の暴力団情勢 参照。
6) 以下の反社の構成員数はいずれも概数である。
7) 鈴木仁史 全国における暴力団排除条例の制定 金融法務事情1914号6頁
(2011),東京弁護士会民事介入暴力対策特別委員会編・暴力団排除と企業対応 の実務14頁(商事法務,2011)参照。
8) 渡邉雅之 暴力団排除条例の利益供与の禁止の基準―各都道府県の利益供与 の禁止規定・勧告事例の検討― 金融法務事情1947号6頁(2012)参照。
者は, 社会対暴力団 の構図のなかで,暴力団排除に取り組んでいる。
⑵ 政府指針と金融庁の動向
平成19年6月19日,政府犯罪対策閣僚会議は, 企業が反社会的勢力によ る被害を防止するための指針 (以下, 政府指針 という。)を発表した。
政府指針は,反社による被害防止のための五つの基本原則を示し,基本原則 に基づいた対応を行うよう企業に求めた。政府指針の発表以後,我が国にお ける反社排除の動きは加速した。
政府指針を受け,金融庁は監督下の各業界に対する監督指針を整備し,各 業界は反社排除態勢を整えることとなった。保険業界に対しては, 保険会 社向けの総合的な監督指針 (以下, 監督指針 という。)および 保険検 査マニュアル(保険会社に係る検査マニュアル) において反社排除に関す る項目を設けた。監督指針では Ⅱ−3−10 反社会的勢力による被害の防 止 等が示され反社排除態勢整備の具体的方針が示された。検査マニュアル では 法令等遵守態勢の確認検査用チェックリスト Ⅲ.個別の問題点 4.
反社会的勢力への対応 が示され保険会社の反社排除態勢整備に関する検査 を行うこととされた。検査事務年度毎の金融検査指摘事例集においては,保 険会社等の反社排除態勢整備の不備が数多く指摘されている。
⑶ 保険約款への暴排条項導入
政府指針は, 反社会的勢力が取引先や株主となって,不当要求を行う場 合の被害を防止するため,契約書や取引約款に暴力団排除条項 を導入する よう求めている。そこで監督指針は, ①反社会的勢力との取引を未然に防 止するための適切な事前審査の実施や必要に応じて契約書や取引約款に暴力 団排除条項を導入するなど,反社会的勢力が取引先となることを防止するこ と。 とし ,保険会社に暴排条項の導入を求めている。また,暴排条例の 多くは契約書面への暴排条項導入を求めており(例えば,東京都暴排条例18
9) 監督指針 Ⅱ−3−10−2 主な着眼点 参照。
条2項1号) ,暴排条項導入の要請は一層強まった。
このような状況の中,保険約款に暴排条項が導入されることとなった。
3.重大事由解除としての暴排条項
⑴ 暴排条項の定義および理論的根拠
暴排条項の定義には様々なものが見られるが,いずれも,①反社が自社の 取引相手となることを拒絶することを宣言すること,②取引の相手方が反社 に該当しないことを表明・確約すること,③取引開始後に取引相手が反社で あると発覚した場合や不当要求が行われた場合には契約を解除して取引相手 を排除できることを,その要素としている 。
そして,契約締結時の排除に関しては 契約自由の原則 が,契約締結 後の排除に関しては 信頼関係破壊の法理 が,暴排条項を支える理論的根 拠であると考えられている 。
⑵ 暴排条項の保険法における位置づけ
保険法における保険契約解除事由は,告知義務違反による解除(28条,55 条,84条),危険増加による解除(29条,56条,85条),重大事由解除(30条,
57条,86条)の三つに限定され,かつ,これらは片面的強行規定である(33 条,65条,94条)。そこで,暴排条項は保険法においてどのように位置づけ
10) 東京弁護士会民事介入暴力対策特別委員会編・前掲註7)15頁参照。
11) 代理店委託契約と暴排条項に関しても検討すべき課題が数多くあるが,その 検討は別の機会に譲りたい。
12) 第一東京弁護士会民事介入暴力対策委員会編・業界別民暴対策の実践2頁
(金融財政事情研究会,2003),同・保険業界の暴排条項対応16頁・84頁(金融 財政事情研究会,2012)参照。
13) 契約自由の原則 については,平井宜雄・債権各論Ⅰ上契約総論70頁(弘 文堂,2010)参照。
14) 企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針に関する解説⑸契約 書及び取引約款における暴力団排除条項の意義 ,第一東京弁護士会民事介入 暴力対策委員会編・保険業界の暴排条項対応22頁参照。
られるのかが検討された。
社団法人生命保険協会(以下, 生保協会 という。)が示した 反社会的 勢力への対応に関する保険約款の規定例 は, ① 会社は,次のいずれか の事由(重大事由)がある場合には,保険契約を将来に向かって解除するこ とができます。 として,暴排条項を告知義務違反による解除や危険増加に よる解除ではなく重大事由解除に位置づけた。その後,生命保険各社は暴排 条項を生命保険約款に導入したが,いずれも生保協会と同様に重大事由解除 に位置づけて整理するようである。
これら,生保協会の暴排条項案および生保各社の暴排条項は,保険契約者,
被保険者または保険金の受取人が,暴力団,フロント企業,共生者,密接交 際者等に該当することをもって,重大事由解除を可能としている。
⑶ 告知義務違反解除や危険増加解除に位置づけた場合の問題点
では,何故,暴排条項は告知義務違反解除や危険増加解除として整理され なかったのだろうか 。その理由は以下のとおりである 。
暴排条項を告知義務違反解除として整理した場合,①反社に該当する旨の 事実が 告知事項 (保険法4条,37条,66条)に該当するのか,②除斥期 間(同28条4項,55条4項,84条4項)は反社排除の妨げにならないか,③ 因果関係不存在特則(同31条1項2号,59条1項2号,88条1項2号)によ り,告知義務違反の対象となった反社に該当する旨の事実と保険事故との間 に因果関係が認められない限り反社排除ができなくなるのではないか,④募 15) 保険引受の際に行う危険選択の観点から暴力団構成員等の危険性を検討し,
危険増加による解除の可能性や告知義務違反による解除の可能性を検討したも のとして大野徹也他 生命保険分野における暴力団排除の方策に関する契約法 的観点からの考察
NBL930号18頁(商事法務,2010),同 生命保険分野
における暴力団排除の方策に関する契約法的観点からの考察NBL
931号35 頁(商事法務,2010)がある。16) 鈴木仁史 生命保険・損害保険約款への暴排条項導入 金融法務事情1938号 66頁(2012),第一東京弁護士会民事介入暴力対策委員会編・保険業界の暴排 条項対応72頁参照。
集者が告知妨害等を行った場合には解除ができなくなるのではないか(同28 条2項2号,55条2項2号,84条2項2号),⑤反社に該当しないことが告 知事項ではなかった既存契約から反社を排除できなくなるのではないか,等 の問題が生じる。
また,暴排条項を危険増加解除として整理した場合,①契約者・被保険 者・保険金受取人が反社に加入したとの事実が 危険の増加 (保険法29条,
56条,85条)をもたらしたといえるのか,②除斥期間(同29条2項,56条2 項,85条2項)は反社排除の妨げにならないか,③因果関係不存在特則(同 31条2項2号,59条2項2号,88条2項2号)により,反社に加入した事実 と保険事故との間に因果関係が認められない限り反社を排除できないのでは ないか,④保険法29条,56条,85条の遡及適用は認められないことから(保 険法附則3条1項,4条1項,5条1項参照)既存契約から反社を排除でき ないのではないか,等の問題が生じる。
⑷ 重大事由解除として整理した場合の利点
一方,暴排条項を重大事由解除として整理した場合,①約款に暴排条項の 定めがなくとも重大事由に該当する事実が認められるならば解除可能となる 余地があること,②保険法附則3条ないし5条により,保険法施行前の保険 契約にも保険法の重大事由解除規定を適用できるため既存契約に対しても対 処可能となること,③重大事由解除には因果関係不存在特則が適用されない こと,④除斥期間が設けられていないこと 等により,告知義務違反解除 や危険増加解除として整理した場合の問題を回避できる 。
17) 社団法人生命保険協会が示した 反社会的勢力への対応に関する保険約款の 規定例 の<解説>は, 上記規定は保険法(平成20年法律第56号)の重大事 由解除(第57条,第86条)に準拠しており,告知義務違反による解除権とは異 なり,保険法上,契約の締結時や解除権発生時からの行使期間制限(5年)や 会社が知ったときからの行使期間制限(1か月)はありません。 としている。
18) 鈴木・前掲註16)66頁(2012),第一東京弁護士会民事介入暴力対策委員会 編・保険業界の暴排条項対応77頁参照。
以上が,暴排条項を重大事由解除に位置づけて整理した理由である。そし て,反社に該当することを理由とする解除は1号事由および2号事由に直接 該当しないことから,暴排条項は重大事由解除における3号の包括条項の明 確化ないし具体化として整理された。
⑸ 保険法における重大事由解除および包括条項(3号)の趣旨
保険法に重大事由解除が規定された趣旨は,保険契約は保険契約者等と保 険者との間の信頼関係を前提とするところ,保険者に保険契約維持を期待す ることができない場合には信頼関係が破壊されたものとして,保険者の一方 的な解除を認める点にある 。重大事由解除は,信頼関係破壊の法理をその 基礎としている 。重大事由解除が前提とする信頼関係を破壊する事情のう ちモラル・リスクを招来し保険制度の健全性を害する行為については ,1 号および2号が具体的に例示している 。重大事由解除における3号は包括 条項(バスケット条項)である 。保険者と保険契約者等との間の信頼関係 が破壊され保険契約の存続が困難となる場合であって1号もしくは2号に該 当しないもののうち,これらと同程度に強度の背信性を有する事情が存在し た場合に,保険者に保険契約の解除権を認める趣旨の規定である。
ただ,保険契約における保険者の保険契約者等に対する信頼とは何か,信 19) 落合誠一監修・編著 保険法コンメンタール(損害保険・傷害疾病保険) 99
頁〔甘利公人〕(損害保険事業総合研究所,2009),山下友信=米山高生編・保 険法解説563頁〔甘利公人〕(有斐閣・2010),萩本修編著・一問一答保険法97 頁(商事法務,2009)参照。
20) 榊素寛 保険法における重大事由解除 保険法改正の論点(法律文化社,
2009)367頁参照。
21) 甘利公人=福田弥夫・ポイントレクチャー保険法30頁(有斐閣,2011)は,
保険契約は,保険金を取得する目的で保険事故を故意によって招致するなど といった行為,すなわちモラル・リスクを招来する危険性を内在しており,保 険の健全性を維持するという観点からも,法律上,保険者による契約の解除を 認める必要 があるとする。
22) 山下=米山編・保険法解説568頁〔甘利公人〕参照。
23) 山下=米山編・保険法解説576頁〔甘利公人〕参照。
頼関係の破壊により保険契約の存続を困難とする事情とは何かについては条 文上明確ではなく解釈に委ねられているため,検討が必要とされる。
4.契約者等が反社に該当することをもって3号の要件は充足される のか
⑴ 3号の適用要件と保険金不正取得目的
包括条項である3号を適用するためには,保険者の保険契約者等に対する 信頼を損ない保険契約の存続を困難とする重大な事由の存在が必要となる
(保険法30条3号,57条3号,86条3号)。そして, 重大な事由 の存在を 認めるためには,① 信頼関係破壊 および② 契約存続の困難性 の2要 件の充足が必要となる。①が充足されるには単に被保険者と保険契約者の関 係が悪化したというだけでは不十分であり,また,①が充足される場合であ っても,保険契約者側が保険契約をその後適切に履行することが依然として 不可能ではない場合には,②の要件を充足しないとされる 。
ここで, 保険金不正取得目的を有しないが反社に該当する者 が存在す る可能性も考えられることから,3号の適用要件として保険金不正取得目的 が必要となるか問題となる。
3号は,1号または2号に該当しないが,これらと同程度に強度の背信性 をもった場合につき保険者による解除を認めるものであることから,信頼関 係破壊が認められるためには,3号に基づく解除であっても1号や2号と同 様に保険金不正取得目的が必要であると考えることもできる。しかし,保険 金不正取得目的がある場合には,1号または2号による解除が可能であるた め,3号に基づく解除においては保険金不正取得目的が要求されないという べきである。反社が保険金不正取得目的を有していない場合であっても,3 号に基づく解除は妨げられないと考えられる 。
24) 萩本編著・一問一答保険法99頁参照。
25) 山下=米山編・保険法解説577頁〔甘利公人〕参照。
⑵ 信頼関係破壊 についての検討
暴排条項は保険契約者等 が反社に該当することを根拠に保険契約の解 除を可能とする条項であるが,保険契約者等が反社に該当することのみをも って,① 信頼関係破壊 ,および,② 契約存続の困難性 が充足される と判断できるのだろうか。まず,① 信頼関係破壊 について検討する。
如何なる場合に信頼関係が破壊されたと判断すべきかについては解釈に委 ねられている。保険法における重大事由解除は,学説において認められてき た特別解約権や生命保険約款の重大事由解除条項をその沿革としており , モラル・リスクをはじめとする保険の健全性を害する不正利用事案に対処す るために設けられた規定である。 解除対象となる保険契約で後に不正請求 が行われる可能性を念頭に置 いて信頼関係破壊を考察するのが多くの見解 であるとされる 。そうすると,信頼関係破壊を判断するためには,反社該 当性と保険の不正利用との関係を明らかにする必要が生じる。
この点,反社に該当することのみで,当該保険契約におけるモラル・リス ク(後に不正請求が行われる可能性)を招来する危険性があると判断してよ いのかについては疑問も残る 。暴力団構成員から共生者に至る反社関係者 を一人一人個別に考察した場合,保険金詐欺等を行う可能性が高い者とそう でない者が存在し,全ての者が保険金の不正請求を行う訳ではないだろう。
しかし,反社は, 暴力,威力,詐欺的手法を駆使して,経済的利益を追 求する集団または個人を指す概念 (政府指針)であるところ,その実態は,
26) 保険契約の関係者には,保険契約者,被保険者,保険金受取人等が考えられ るが,これらを総称して 保険契約者等 とする。
27) 山下=米山編・保険法解説563頁以下〔甘利公人〕参照。
28) 榊・前掲註20)377頁の註60)参照。
29) 宮根宏一 片面的強行規定の 趣旨 との抵触に関する判断と脱法行為論 保険学雑誌第614号5頁註12)(2011)は,暴排条項につき 当該条項を重大事 由解除制度の一環として位置づけるのであれば,暴力団という属性等のみで解 除に値する信頼関係破壊があったといいうるか,暴力団であること等はモラル リスクとは直接の関係を有しないにもかかわらず解除の遡及効が認められるの はなぜか,等の点が問題となりうる。 と指摘する。
組織的に統制された状態で威力等を用い,違法な手段または脱法的手段を用 いて巧妙に経済的利益を獲得すること,それ自体を生業とする存在である 。 反社が用いる違法な資金獲得手段の中には保険金不正請求も含まれるのであ り,暴力団やその構成員が保険金詐欺等のモラル・リスクに親和性が高いこ とは従来から指摘されてきた 。 暴力団構成員等は,暴力行為を伴った資 金獲得活動・威力威信の維持回復活動や対立抗争を事情とする団体の構成員 であり,かかる暴力の担い手そのもの である。射倖契約であり最大善意 の契約である保険契約においては反社という属性自体が不正請求の可能性を 示唆するのであり,このことは保険者との信頼関係を破壊する要因といえる だろう。例えば,平成18年から平成20年までの3年間に生命保険金詐欺で検 挙された者のうち実に42.9%を暴力団構成員等の反社が占めていたとのデー タが示されており ,また,平成19年2月から平成20年1月までの新聞記事 に基づく保険金詐欺による逮捕事例116件において,逮捕者が暴力団関係者 であることが明示されているものだけでも25件あり,全体の21.5%にのぼっ ている 。反社の犯罪傾向が高いことは間違いないところであり ,反社が 犯罪行為に手を染める場合,当該犯罪が保険金の不正取得である可能性は通 常に比して極めて高いと判断することは可能と思われる。
30) 大野他 生命保険分野における暴力団排除の方策に関する契約法的観点から の考察
NBL930号21頁,松坂規生 暴力団排除の展開と課題 金融法務事
情1938号18頁(2012),第一東京弁護士会民事介入暴力対策委員会編・金融実務 と反社会的勢力対応100講6頁(金融財政事情研究会,2010),同・保険業界の 暴排条項対応2頁参照。31) 大野他・前掲註30)21頁,清野憲一 暴力団排除条項のフロンティア
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基礎研REVIEW10号59頁(2011),鈴木・前掲註16)65頁,第一東京弁護
士会民事介入暴力対策委員会編・保険業界の暴排条項対応26頁・36頁参照。32) 大野他・前掲註30)23頁参照。
33) 清野・前掲註31)59頁参照。
34) 社 団 法 人 損 害 保 険 協 会・わ が 国 に お け る 保 険 金 詐 欺 の 実 態 と 研 究 28頁 (2008)以下参照。なお,弁護士法人宮﨑綜合法律事務所編 反社会的勢力排 除の法務と実務 533頁(きんざい,2012)も参照。
35) 平成23年の暴力団情勢(確定値版) , 平成24年上半期の暴力団情勢 参照。
組織的に統制された状態で違法・脱法的手段を用いて経済的利益を獲得す る反社に所属する者は,犯罪行為に手を染めることが約束された存在であり,
将来,保険金の不正請求に関与する蓋然性は通常人に比べて相当に高いとい うべきであろう。反社に属すること自体で保険金の不正請求を招来する高い 蓋然性があることをもって信頼関係が破壊されたと考えることは,モラル・
リスク排除を念頭に置く重大事由解除の趣旨に反しない。保険者は,保険契 約者等が将来において保険金の不正請求等の保険制度の健全性を害する行為 を行わないことを信頼して保険契約を締結するのであり,保険契約者等が将 来において保険金の不正取得等を行う蓋然性が高い集団に属すること自体,
保険者との信頼関係を破壊する事情であるというべきである 。
以上が,保険契約者等が反社に該当することのみをもって, 信頼関係破 壊 が認められる根拠である。
⑶ 契約存続の困難性 についての検討および結論 次に, 契約存続の困難性 について検討する。
反社に属する者は保険金不正請求を招来する高い蓋然性を有しており,こ のこと自体で契約継続は困難といえる。のみならず,政府指針や監督指針は,
保険会社が反社との 一切の関係 を排除するよう求め,反社であることを 知らずに関係を持った場合には,取引の相手方が反社に該当することが判明 した時点で可及的速やかに反社を排除することを求めている(なお,暴排条 例の多くは,反社に利益を与えることを禁じる定めを置いており,保険契約 者等が反社に該当することを知った保険会社は直ちに保険契約を解消する必 要に迫られるのみならず,保険契約者等が反社に該当することを知りつつあ えて保険契約を維持した場合,暴排条項の不行使が利益供与に該当すると判
36) これは,将来において保険金の不正取得に手を染める可能性が高い集団に属 する者を3号に基づき排除することを可能とすることにつながる考え方といえ よう。保険約款への暴排条項導入の許容は,3号による重大事由解除の適用領 域を拡張する契機を有しているのではないかと思われる。
断される可能性も否定できない 。)。更に,これらの要請に加え,事業者が 反社と一切の関係を遮断すべきことは社会的コンセンサスにまで高まりつつ ある状況であり ,保険会社は強く反社排除を求められる立場にある。
このように,反社排除は保険会社の責務ともいえる状況であり,② 契約 存続の困難性 も認められる。
以上より,反社であるとの属性のみをもって,① 信頼関係破壊 および
② 契約存続の困難性 が充足され,重大事由が存在すると判断することが でき ,3号の要件は充足されることとなる 。
37) 渡邉・前掲註8)29頁は,暴排条項の不行使が東京都暴排条例で禁止される利 益供与に該当する余地がある旨を指摘する。
38) 暴力団関係者であることを秘してゴルフ場を利用したことをもって詐欺罪に 該当するとした裁判例や山口組直参組長6名が暴力団組長であることを秘して ゴルフ場を利用したことをもって,詐欺罪で逮捕された事例も現れている。更 には,山口組総本部敷地内に設置されていた飲料水の自動販売機が利益供与に 該当する可能性があるとして撤去されるに至った事例も報告された。
39) なお,属性要件の充足のみで反社該当性を肯定してもよいのかも問題となる。
反社該当性は,属性要件および行為要件を総合して判断されるが,行為要件の 存否が明確でなくとも,属性要件を充足させうるに足る明確な資料が存在する 場合には,属性要件のみをもって反社認定を行うことは妨げられない。そして,
3号の重大事由該当性判断に際しては, 信頼関係破壊 および 契約継続の 困難性 の充足が必要となるところ,これらの充足に際して行為要件に該当す る事実の存在は要求されていない。
以上より,属性要件の充足のみで反社該当性を肯定してもよいと考えられる。
40) ただ,保険契約に関係する利害関係者は多数存在するのであり,契約解除や 免責により被害者が救済されない事態は避けるべきであろう(反社に該当しな い交通事故の被害者を想定するとよい。反社が偶々交通事故の被害者になった 場合の処理は考え方が別れうる。)。また,暴排条項導入の趣旨は反社との関係 遮断にあるところ,反社との接点が認められないと思われる保険商品にあえて 暴排条項を導入する必要はないだろう。
特に損害保険会社が有する保険商品は多種多様であるが,保険会社は各商品 の特性に配慮しつつ保険契約における反社との関係遮断を実現することになる だろう。例えば,被害者救済の観点から法律で引受が強制される自動車賠償責 任保険,国や地方公共団体が被保険者となるため反社との関係性が一般に認め られないと考えられる保証保険等の損害保険商品等は,約款への暴排条項導入
5.保険者による重大事由解除の濫用とならないか
⑴ 暴排条項を片面的強行規定である重大事由解除に位置づける根拠 保険法における重大事由解除規定は, 当該規定に反する特約で保険契約 者等に不利なものを無効とする 片面的強行規定である(保険法33条1項,
65条2号,94条2号)。反社に該当することをもって解除を認める暴排条項 が片面的強行規定に反し無効とならないかを検討する必要がある。
片面的強行規定が保険法に導入された趣旨は,保険契約者等を保護する点 にある。付合契約であることが一般的な保険契約においては,保険契約の内 容につき保険契約者と保険者との間の交渉の余地が少ないため,常に約款内 容が保険法の規定に優先するならば,保険契約者等の保護を図ろうとした保 険法の趣旨が十分に実現できなくなる。そこで, 保険契約者等の保護を図 る必要性が高い規定について,当該規定よりも保険契約者等に不利な特約を 無効とする ことにより,契約者等が不当に害される事態を防止すべく片面 的強行規定が導入されたのである 。したがって,片面的強行規定に反し,
実質的に保険契約者等に不利な約款規定は無効となる 。一方,重大事由解 除が保険法において規定された趣旨は,モラル・リスクを招来し保険制度の 健全性を害する行為の排除を可能とするためである。保険者と保険契約者等 との信頼関係が破壊され保険契約維持が期待できない場合に,重大事由が存
がなされない可能性がある。また,自動車の対人保険等においては,被害者保 護(賠償義務の確保)等の観点から,反社に該当する被保険者についてのみ解 除を行う処理(一部解除)も考えられる。なお,このようにして暴排条項が導 入されない保険契約については,反社に該当することを理由とした保険者によ る契約解除は制限されることになる。
41) 鈴木仁史 保険法における片面的強行規定と暴力団排除条項 金融法務事情 1889号1頁(2010),鈴木・前掲註16)65頁参照。
42) 山下=米山編・保険法解説235頁〔萩本修・嶋寺基〕参照。
43) 山下=米山編・保険法解説236頁〔萩本修・嶋寺基〕参照。
44) 萩本編著・一問一答保険法22頁註5)参照。
改行します。
上付45があります。強制
在するとして保険者による一方的な解除を認めるのである 。そして,暴排 条項の規定目的は,モラル・リスクを招来し保険制度の健全性を害する行為 を行う蓋然性が高い反社該当者を保険契約から排除する点にある。暴排条項 の規定目的は重大事由解除の趣旨に合致している。
また,暴排条項の行使により保険契約は将来に向かって解除され,重大事 由発生後の保険事故については保険金を支払わない等,暴排条項がもたらす 効果も重大事由解除の規定が予定する範囲内にある。
したがって,暴排条項に基づく解除により契約者等が不当に害される事態 は生ぜず,暴排条項が片面的強行規定に実質的に反することはない。
⑵ 重大事由解除濫用の防止
重大事由解除における包括条項は広範に適用される余地があり,保険法制 定に際しては濫用を懸念し衆参両院で附帯決議が成立した 。また,監督指 針も重大事由解除の濫用を懸念している。そのため重大事由解除の濫用防止 の手だてを検討しておく必要があるだろう。
重大事由解除の濫用であるとの指摘を受けないためには, 反社は保険に 加入できないこと,保険加入中に保険契約者等が反社に該当すると判明した 場合には保険契約が解除される旨 を事前に周知しておくことが重要である。
①反社が保険に加入できない旨を募集ツール(パンフレット,重要事項説明 書)やウェブサイトに記載すること,②申込書等に反社に該当しない旨の表 明確約を行う欄を設けること,③募集時に反社に該当すると保険に加入でき ず,また,加入後に反社に該当すると契約が解除されることを説明すること,
④説明した旨を記録に残しておくこと等の実務的工夫が考えられる。
募集者の安全や無用なクレームを予防するという観点から,これらを実際 に導入するか否かは様々な考慮を要するだろうが,濫用との指摘を受けない
45) 山下=米山編・保険法解説563頁〔甘利公人〕,萩本編著・一問一答保険法97 頁参照。
46) 榊・前掲註20)371頁参照。
ためには上記のような工夫は検討に値するのではなかろうか。
6.反社に該当した場合に保険会社は契約解除すべきか
保険契約者等が反社に該当した場合,保険会社は保険契約を解除しなけれ ばならないのだろうか。
保険法における重大事由解除条項や保険約款に導入された暴排条項は,保 険契約者等が反社に該当する場合,必ず保険契約を解除すべきとするもので はない(暴排条項は保険者が解除することができるとするのみである。)。し かし,政府指針・監督指針・暴排条例等は,保険契約加入者が反社に該当す ると判明した場合,速やかに契約関係から排除することを求めている 。ま た,事業者が反社と取引できないことは社会的コンセンサスにまで高まって いると言いうる状況であり,保険会社は反社との契約を維持することが許さ れない立場にある。このような中,重大事由解除が可能であるにも関わらず 解除を行わないとすれば,保険会社は社会の信頼を失いかねない。法令等遵 守の姿勢を示しレピュテーションを維持するためには,反社が保険契約者等 に留まることを放置することは許されないだろう 。
少なくとも,保険契約者等に反社該当性が認められ,反社であることの立 証に困難がないと思われる場合には,保険者は重大事由解除により反社を排 除することが求められるのではなかろうか 。
47) 監督指針 Ⅱ−3−10−2 主な着眼点 は,保険契約者等が反社に該当し た場合には,例外なく速やかな契約解除を求めていると思われる。
48) 東京弁護士会民事介入暴力対策特別委員会編・反社会的勢力リスク管理の実 務180頁(商事法務,2009)参照。
49) 反社に該当する可能性があるからといって安易に解除権を行使すべきと主張 するものではない。訴訟上のリスクを十分に検討の上,反社該当性の認定にお ける立証上の困難性等の問題がクリアされたのであれば解除を行うべきとの主 張である(なお,解除が制限される可能性がある場合(前掲註40) 参照)には 解除を行うことができない。)。
なお,損害保険契約には短期ものの契約も多い。満期までの期間が比較的短 く,保険契約の更改を謝絶可能な場合には,満期を待って更改謝絶を行うこと
7.その他の問題点
⑴ 暴排条項が導入されていない約款に基づく契約の取扱い
暴排条項が導入されていない約款(以下, 旧約款 という。)に基づく契 約( 旧約款契約 という。)において保険契約者等が反社に該当すると判断 される場合,旧約款契約はどのように取り扱えばよいのであろうか 。
新たに暴排条項が導入された約款( 新約款 )内容は,旧約款契約におけ る合意内容になっておらず,旧約款契約に新約款の内容を遡及適用すること はできないと考えられる 。しかし,暴排条項は重大事由解除の包括規定を 具体化したにすぎず,約款を用いた保険契約時の合意により解除事由を新た に創出するものではない。旧約款契約も新約款に基づく新たな契約( 新約 款契約 )も保険契約者等と保険者との間の信頼関係を前提としていること は同様であり,また,保険法は保険法施行前の保険契約についても重大事由 解除の遡及適用を認めている(保険法附則3条1項,4条1項,5条1項参 照)。暴排条項は重大事由解除の包括条項(3号)の具体化であると整理さ れるのだから,旧約款契約であっても保険契約者等が反社に該当するのであ れば,保険法の重大事由解除における重大事由(3号)に該当することを根
を否定するものではない。事案に応じて実効的な関係遮断方法を選択すべきで ある。
50) 代理店主が反社に該当する場合,代理店委託契約における暴排条項に基づき 委託契約を解除することになる(暴排条項が導入されていない代理店委託契約 においても,例えば,損害保険代理店委託契約書に記載されていることの多い 予告解約条項等を活用して関係遮断することになろう。)。仮に,代理店主が保 険契約者である場合には(そうである場合は多い。),保険契約の解除を行うべ きことになる。
51) 旧約款には,保険法施行後の約款で重大事由解除に関する条項が導入された ものと,保険法施行前の約款で重大事由解除に関する条項が導入されていない 約款が考えられる。
52) 渡邉雅之 保険約款への暴力団排除条項の導入 金融法務事情1898号43頁
(2010),弁護士法人宮崎総合法律事務所編・前掲註34)554頁,山下友信・保険 法117頁(有斐閣,2005)参照。
拠に解除することは理論上可能であると考えられる 。
なお,旧約款契約締結時には 反社は保険に加入できない とする暴排条 項の趣旨が示されていないことを根拠に,保険者による解除は認められない とする考えもあろう 。しかし,暴排条項は重大事由解除の包括条項の具体 化として整理されたのであり,保険法における重大事由解除は旧約款契約に ついても適用されるのであるから,そのような考え方は妥当ではない。
むしろ,旧約款契約において保険契約者等の反社該当性が疑われる事案に つき保険者が重大事由解除に踏み切る必要はないとする立場は,反社該当性 の立証上の困難を根拠にしていると思われる。保険契約者等の反社該当性判 断に際しては警察が保有する情報が重要な要素となるところ,警察情報は平 成23年12月22日付警察庁通達 暴力団排除等のための部外への情報提供につ いて に準拠して提供されることとなる。ここでは,暴排条例上の義務,す なわち,暴排条項導入義務を前提に情報の開示が行われるため,旧約款契約 については警察から情報が提供されない恐れがある。そのため,旧約款契約 については反社該当性立証が困難であることから解除を行うべきではないと する判断は可能である。しかし,この判断は,あくまで立証上の困難を根拠 とするものであり,旧約款契約につき重大事由解除を行う理論的可能性を否 定するものではないだろう。
53) 鈴木・前掲註16)66頁参照。なお,保険法施行後の旧約款であれば,概ね重 大事由解除条項が組み込まれていると思われる。約款に重大事由解除条項が存 在する場合,当該重大事由解除条項を直接の根拠として解除を行うことになる だろう。一方,保険法施行前の旧約款には重大事由解除条項が組み込まれてい ない可能性が高い。保険法施行前の旧約款契約においても,保険法の重大事由 解除規定における重大事由(3号)に該当することを直接の根拠として解除す ることは理論上可能であるが,解除権の濫用と評価されないよう慎重な事実認 定と運用が求められる。
54) 暴排条項を重大事由解除の包括条項の具体化と整理し,重大事由解除が保険 法施行前にも遡及適用されることを前提としつつも,旧約款契約につき重大事 由解除の適用が否定されるとする考え方もあり得るかもしれないが,未だその ような考え方には接していない。
旧約款契約であっても,反社該当性に関する立証に困難がないと判断され る場合 には,保険者は保険契約を解除すべきであろう 。
⑵ 新約款契約と旧約款契約が併存する場合の取扱い
新約款契約と旧約款契約が併存する場合としては,同一契約者が旧約款に 基づく長期の火災保険契約と新約款に基づく短期の自動車保険契約を保有し ている場合が考えられる。また,主契約が旧約款契約であり特約が新約款契 約である場合も考えられる 。ここで,保険契約者等が反社に該当するとの
55) ただし,保険実務上,反社該当性立証の判断は,クレーム対応上のリスクお よび訴訟リスクを考慮し慎重に行う必要がある。属性要件の慎重な検討を行う とともに,行為要件についても行為を裏付ける確実な証拠の存否等を含めて慎 重に検討する必要がある。反社に該当する疑いのある契約者等から解除の法的 根拠,事実認定に関する資料や判断過程の開示を要求される可能性もある。そ れらの要求が
ADR
や訴訟においてなされる可能性も否定できない。保険会社 は,弁護士や警察等と緊密な連携をとりながら,訴訟上の立証に耐えうる具体 的根拠を確保しておく必要がある。もっとも,行為要件は反社該当性立証を確 実にする観点から検討するものであり,理論上,旧約款契約においても属性要 件の充足のみで解除は可能である。なお,旧約款契約の解除に際しても,保険商品の特性等を考慮したうえで解 除の可否を判断することになるだろう。前掲註40)参照。
56) 金融検査結果事例集(平成23検査事務年度後期版) 165頁は,生命保険会 社の 総務部門が,反社会的勢力への対応について,既契約先の中に反社会的 勢力が混入していないかどうかのスクリーニングを行っていない事例 につき,
既契約先の中に反社会的勢力が混入していないかどうかという観点でのスク リーニングを行っていない。このため,今回検査において,既契約について,
同部門の反社会的勢力データベースと照合したところ,保険取引開始後に反社 会的勢力の疑いのある契約者等が認められる。 と指摘した。ここでいう 既 契約 とは暴排条項の導入されていない旧約款契約を意味すると思われるが,
仮にそうであるならば,金融庁は旧約款契約についても反社該当性のスクリー ニングを行うと共に,反社に該当した場合には,速やかな契約解除を求めるも のと思われる。
57) 例えば,長期間の契約関係が想定されている生命保険契約等においては,暴 排条項の導入されていない旧約款に基づく長期契約が主契約であり,5年程度 の短期で更新される特約が付帯している場合が考えられる。平成24年4月1日
疑いが生じた場合,保険会社は反社認定の確実性を高めるべく警察に情報提 供を要請することになるが,新約款契約が存在するため警察から反社該当性 に関する情報提供を受けることが可能となる。では,保険契約者等の反社該 当性立証に十分と思われる資料の提供を受けることができた場合,両契約は どのように取り扱うべきであろうか。
ここでは,警察より反社該当性立証に十分な資料が提供されており,新約 款契約を解除することは可能である。そして,属性立証が可能である以上,
旧約款契約についても立証上の困難はない状況といえる。反社該当性を立証 しうる十分な資料が存在するにもかかわらず,一方が旧約款契約であること をもって両契約とも解除しないとする整理は,反社排除を求められる地位に ある保険会社としては困難な選択であると思われる。また,特約のみを解除 することも不十分であろう。特約のみを解除した場合,主契約を解除するこ とができるにもかかわらず,あえて主契約を存続させることにより反社に利 益供与を行ったと評価される恐れがある。保険会社は,政府指針・監督指 針・暴排条例等の要請より法的に反社排除を求められる地位にあり,反社と の契約を維持することが許されないのである。主契約の保険期間が長期にわ たる場合は,なおさらといえよう 。
そうであれば,新約款契約および旧約款契約いずれも解除すべきである 。 以降に特約が更新された場合,主契約は旧約款に基づき特約は新約款に基づく こととなる。
58) 前掲註57)の事例においては,特約を手がかりに反社該当性立証に十分な資 料の提供を受けた場合,特約を解除することが可能となるのみならず,属性立 証が可能である以上,主契約についても立証上の困難はない。主契約と特約と の密接な関係を考えると,主契約が旧約款に基づくことをもって主契約および 特約のいずれも解除しないとする整理,および,特約のみを解除するとの整理 も,反社との一切の関係遮断を求められる保険会社としては困難な選択である と思われる。
59) 旧約款契約の解除に際しては,暴排条項が規定されていないこと,これまで 保険契約が継続されてきたこと等を理由として,解除の根拠に関する詳細な説 明を求められることも想定できる。そこで,反社立証を確実に行う観点からは 行為要件の存在も検討することになるだろう。
8.おわりに
暴排条項を重大事由解除に位置づけ反社属性を有することのみをもって解 除を可能とする以上,保険法施行の前後を問わず旧約款契約においても反社 属性を有すること根拠とした解除は可能となるのが理論的帰結である。解除 を躊躇させる要因として,反社立証の困難性,クレーム等の反社対応の困難 性,金融庁や警察庁の動向等,様々な要因が考えられるが,いずれも重大事 由解除の理論的可能性を否定するものではない。例えば,特定危険指定暴力 団の幹部組員が旧約款契約の契約者であると判明した場合,属性要件に加え て行為要件の充足も明確でなければ当該保険契約の重大事由解除に踏み切ら ないとする選択は,果たして保険会社に許されるのであろうか。今後,保険 会社の姿勢が問われることになるだろう。
また,生損保および共済における反社排除の本格化とともに,多くの実務 上の困難や理論上の問題点が提起されるであろう。適切な実務上の工夫や理 論が求められている。
(筆者は弁護士 共栄火災海上保険株式会社勤務)