トワーク分析によるアプローチ
著者 中嶋 学
雑誌名 同志社政策科学研究
巻 20
号 1
ページ 43‑59
発行年 2018‑08‑10
権利 同志社大学政策学会
URL http://doi.org/10.14988/pa.2018.0000000189
概 要
本稿は、共同研究のソーシャル
・
イノベーショ ンへの貢献を促進することを意図して、チー ム・サイエンスという形態の共同研究における 研究者間の知識共有に影響を与える要因ついて 検討を行っている。I-Chooseプロジェクトとい う国際共同研究プロジェクトにおける研究者間 の対面による知識共有およびインターネットに よる知識共有について、社会ネットワーク分析 の知見に基づき近接性と同類性に注目して分析 を行った結果、(1)研究者の多くが対面よりも インターネットにより定期的に知識共有してい るものの、研究者間の距離が対面だけでなくイ ンターネットによる知識共有の制約となってい ること、(2)研究者間の研究分野の一致あるい は相違は知識共有に影響を与えていないこと、(3)研究者間の言語の一致はインターネットに
よる知識共有には影響を与えないが、対面によ る知識共有は主要言語が同一の研究者間で行わ れていることが明らかとなった。これらの結果 は、インターネットの活用によって知識共有に 対する距離の制約を低減することはできるが完 全に克服することはできないこと、また、研究 分野や言語の境界を越えた知識共有が自動的に 生じるわけではなく、チーム・サイエンスが多 様性のメリットを活かし、ソーシャル・
イノベー ションへ貢献するためには、研究分野や言語の 境界を越えた知識共有を促進するためのマネジ メントが必要となることを示している。1.はじめに
本研究の目的は、共同研究における研究者間 の知識共有に影響を与える要因について検討す ることである。研究分野を問わず共同研究が増 加しており、その重要性が高まっている。50年 間にわたる約
2000
万の論文と約200
万の特許に ついて分析した研究では、研究分野を問わず共 同研究が年々増加しており、量でも質でも個人 による研究を圧倒するようになっていることが 指摘されている(Wuchty et al. 2007)。また、共 同研究が、研究分野、組織、国の境界を越えて 行われるようになっていることも報告されている(Cummming and Kiesler 2005; Fiore 2008; Jones et al. 2008; Stokols et al. 2008; Wagner and Leydesdoff 2005a, 2005b)。
共同研究には、例えば、同じ研究分野の研究 者が
1
つの研究分野の研究を深めるために行う もの、異なる研究分野の研究者が知識共有し新 たな研究分野に取り組むために行うもの、メ ンターが駆け出しの研究者や学生の育成のた めに行うものなど様々な形態があるが(Leahey2016)、本稿では、「チーム・サイエンス(team science)」と呼ばれる形態の共同研究を対象と
する。チーム・サイエンスは、異なる研究分野 の研究者が協働し、研究分野の境界を越えて知 識共有することによって、1つの研究分野の範 囲を越える共通問題に取り組む共同研究であ り(Fiore 2008; Stokols et al. 2008)、ネットワー ク組織1という組織的な特長をもつ(Dimitrovaand Wellman 2015)。チーム・サイエンスは、保
共同研究における研究者間の知識共有
―社会ネットワーク分析によるアプローチ―
中 嶋 学
1ネットワーク組織は、「組織の内外において、ヨコの連携を活かしつつ、人材、資源、情報、ノウハウを最適に結合するような組織活 動の形態である」と説明されている(若林 2009: 4)。
ミュニケーションが困難となる傾向がある。城 山(2010: 83-84)は、自らの経験に基づき、
「安
全性に係わる社会技術研究及び関連研究で垣間 見たことでいえば、外部からはなかなか区別 の難しい原子力工学研究者と化学工学研究者、あるいは法医学者、臨床医(内科医、外科医)
も、見ている対象、観点が異なり、しばしば相 互のコミュニケーションは困難を極めていた。
また、人社プロジェクトの経験でいえば、例え ばガバナンスといった概念の理解も、行政学・
政治学研究者、法学研究者、経済学研究者で異 なり、用語の共通理解、翻訳もなかなか困難な 側面があった」と述べている。そして、コミュ ニケーションが困難になると知識の共有および 統合において問題が生じ、ソーシャル・イノ ベーションへ貢献できないという結果になって しまう。つまり、チーム・サイエンスは、ソー シャル・イノベーションへの貢献を可能にする 多様性というメリットが、研究者間の知識の共 有および統合という面においていてはデメリッ トになるというネットワーク組織に内在する多 様性と統合のパラドックスを抱えているのであ る(Cummming and Kiesler 2005; Ospina and Saz-
Carranza 2010; Saz-Carranza and Ospina 2011)。
多様性と統合というパラドックスを抱える チーム・サイエンスに参加している研究者間で は、知識共有はどのように行われているのだろ うか、研究分野の境界を越えて知識共有が行わ れているのだろうか、どのような要因が研究者 間の知識共有に影響を与えるのだろうか。前述 のように本稿の目的は、共同研究における研究 者間の知識共有に影響を与える要因について検 討することであるが、チーム・サイエンスに参 加している研究者間の知識共有パターンおよび そのパターンに影響を与える要因を明らかにす ることによって、チーム・サイエンスのプロセ スに対する理解が深まり、その理解に基づきプ ロセスの改善・向上への方策を示すことができ るであろう。さらに、チーム・サイエンスのプ ロセスの改善・向上によって、ソーシャル・イ ノベーションへの貢献が促進されることも期待 できる。以下、本稿は次のように構成されてい 健・医療、貧困、環境などの複雑な社会問題に
取り組むためには、研究分野の境界を越えた共 同研究が必要不可欠であるという理由から活発 に行われるようになっている(Börner et al. 2010;
Fiore 2008; Stokols et al. 2008)
2。保健・医療分野
を例にとると、現在十分に明らかにされていな い病気の原因を特定する必要がある、もし病気 の原因が特定できたとしても、病気になる危険 性のある人の行動を変容させる方法を特定する 必要がある、もし行動を変容させる方法が特定 できたとしても、危険性のある人が新たに増加 しないように根本的な社会的原因を特定する必 要があるというように、病気の原因を特定する ための医療分野における共同研究にとどまらず、行動を変容させるための行動科学や、病気の発 生に影響を与える社会的な要因を明らかにする ための社会科学の貢献が求められるので(Syme
2008)、研究分野の境界を越えて知識共有する
チーム・サイエンスが必要となるのである。本稿がチーム・サイエンスを対象とする理由 は、チーム・サイエンスが、ソーシャル・イノ ベーションへ貢献する可能性をもつからであ る。ソーシャル・イノベーションは、「社会問 題に対する既存の解決方法よりも効果的、効率 的、持続可能、公正であり、そして、その価値 が個人ではなく社会全体に及ぶ新規の解決方 法(筆者訳)」(Phills et al. 2008: 36)と定義さ れ、政府、市場、市民社会のアクターがそれぞ れ、あるいは、協働して、ソーシャル
・
イノベー ションにより既存の解決方法では対応できない 複雑な社会問題に対応することを求められてい る中で(谷本他 2013)、チーム・サイエンスは、前述の保健・医療分野の例のように、異なる研 究分野の研究者が研究分野の境界を越えて知識 共有することによって、複雑な社会問題に対し て新規の効果的な解決策を創出できる可能性を もっているのである。
しかしながら、チーム・サイエンスは、研究 分野の境界を越えて知識共有することで、ソー シャル・イノベーションへ貢献することが可能 になる一方で、異なる研究分野の研究者間で は、研究対象、理論、方法などの相違によりコ
2 日本においては、「対象となる素材を共有しつつ、異なった分野間での共同研究を目指す」というプロジェクト型共同研究(城山 2010:
74)が、2000年代から増加していると指摘されている(城山 2010)。
どのノード間の比較的に継続的な繋がりを表 わす(Brass et al. 2004; Marin and Wellman 2011;
Wasserman and Faust 1994)。つまり、ノードと
紐帯は、研究対象に応じて研究者によって選択 されるのであり、本稿の場合でいえば、後述す るように、ノードは研究者、紐帯は研究者間の 知識共有ということになる。社会ネットワーク分析における理論は、ネッ トワークを独立変数とする「ネットワークに よる理論(network theory)」とネットワークを 従属変数とする「ネットワークについての理 論(theory of networks)」に大別される
(Borgatti and Foster 2003; Borgatti and Halgin 2011; Borgatti and Lopez-Kidwell 2011)。ネットワークによる
理論は、紐帯を導管として捉え、例えば、紐 帯を通して得られる資源によって行為者のパ フォーマンスを説明する「フロー・
モデル(flow
model)」と、紐帯を接着剤として捉え、
例えば、同じパターンの紐帯をもつ行為者は同じ役 割に結び付けられることから行為者間の類似 性を説明する「ボンド・モデル(bond model)」
に分けられる(Borgatti and Foster 2003; Borgatti
and Halgin 2011; Borgatti and Lopez-Kidwell 2011;
Borgatti et al. 2009)
5。ネットワークについての
理論は、ネットワークによる理論と比べて未 発達であるが、ネットワーク形成に影響を与 えるメカニズムとして、行為者が出会う可能 性という機会に基づく説明と効用の増加・減 少という便益に基づく説明の2
つに分けるこ とができる(Borgatti and Foster 2003; Borgatti etal. 2009) 。機会に基づくネットワーク形成メカ
ニズムと便益に基づくネットワーク形成メカ ニズムの代表的なものが、それぞれ「近接性
(propinquity)」と「
同類性(homophily)」であ り、どちらもノードが個人であれ組織であれ国 であれ、ネットワーク形成に影響を与える要因 である(Kadushin 2012=2015)。近接性とは、
「同じ時間に同じ場所にいる」(Kadushin 2012
=
2015: 15)ことであり、ネットワーク形成の
る。次章では、先行研究の検討を行い、本稿の 問題意識を明確にする。第
3
章では、データ収 集や分析方法などの研究方法について説明し、第
4
章では分析結果を説明する。最後の第5
章 においては、分析結果についての考察を行い、そして、本稿の結論を提示する。
2.先行研究
2. 1 チーム・サイエンスの科学と社会 ネットワーク分析
多様性と統合というパラドックスを抱える チーム・サイエンスのプロセスおよび成果を 向上させ、複雑な社会問題の解決に貢献する 知識を産出することを目的とする研究分野が、
「チーム・サイエンスの科学(Science of Team Science)」と呼ばれる研究分野である(Börner et al. 2010; Falk-Krzesinski et al. 2010; Falk- Krzesinski et al. 2011; Stokols et al. 2008)
3。チー
ム・サイエンスの科学では、研究者が研究分野 の境界を越えて共同研究を行い共同研究の目的 を達成するためには、研究者間の知識共有が必 要であるという理解に基づき、研究者間の知識 共有、コミュニケーション、関係性などを理解 するためのツールとして、社会ネットワーク 分析が重要なツールとされている(Börner et al.2010; Leischow et al. 2008; Stokols et al. 2008)
4。
社会ネットワーク分析は、「さまざまな『関 係』のパターンをネットワークとしてとらえ、その構造を記述・分析する方法」(安田 1997:
2)であり、その最大の特徴は、行為者間の繋
がりあるいは繋がりのパターンに焦点をあてる 点である(Brass et al. 2004; Marin and Wellman2011; Wasserman and Faust 1994)。ネットワーク
は「ノード(node)」と「紐帯(tie)」により構 成され、ノードは、個人、組織、国などを表わし、紐帯は、友人関係、資源依存関係、同盟関係な
3チーム・サイエンスの科学は、核となるべき問題領域が確定していない萌芽的な段階にあるが、チーム・サイエンスが成功するための条 件やプロセスを理解すること、ならびに、科学的発見、教育効果、および政策提言などのチーム・サイエンス成果を向上させることを目 的とする研究分野であると説明されている(Falk-Krzesinski et al. 2010; Falk-Krzesinski et al. 2011; Stokols et al. 2008)。
4 2010年に行われた第1回目のチーム・サイエンスの科学の国際会議では、社会ネットワーク分析のワークショップが行われている
(Falk-Krzesinski et al. 2010)。
5ボンド・モデルは、Borgatti and Foster (2003)においては「structurelist view」、Borgatti and Lopez-Kidwell(2011) においては「network architecture model」と呼ばれている。
New Media)」と呼ばれるプログラムがあり、
GRAND
の参加者はプロジェクトへの参加が求められているのだが、そのプロジェクト・レベ ルの分析を行った貴重な研究がある
(Dimitrova et al. 2013)。その研究では、研究成果を実際
に産出するという活動の焦点があるために、GRAND
全体よりもプロジェクト・レベルにおいて研究者間の仕事上のコミュニケーションや アドバイスなどの繋がりが密になっているこ と、また、GRAND全体では仕事上のコミュニ ケーションやアドバイスが対面と電子メールに よって同程度行われているのに対し、プロジェ クト・レベルにおいては対面よりも電子メール によって仕事上のコミュニケーションやアドバ イスがより頻繁に行われていることが報告され ている(Dimitrova et al. 2013)。対面よりも電 子メールによって仕事上のコミュニケーション やアドバイスがより頻繁に行われる理由は、プ ロジェクト・レベルでは緊密なコミュニケー ションが必要であり、また、プロジェクトに参 加している研究者間の距離が近いとは限らない ので、電子メールによるコミュニケーションが より頻繁に行われるためとされている。つまり、
研究者間の対面による知識共有については近接 性の影響がある一方で、電子メールによる知識 共有については近接性の影響がないということ が示唆されている。果たして、電子メールを含 むインターネットの活用によって距離の離れた 組織や国の研究者間の知識共有は促進されるの であろうか。対面では距離が研究者間の知識共 有に影響しても、インターネットでは影響しな いのであろうか。そこで本稿の第
1のリサーチ ・
クエスチョンは、「研究者間の距離は、
プロジェ クト・レベルにおける研究者間の対面による知 識共有およびインターネットによる知識共有に どのような影響を与えるのだろうか」である。Dimitrova et al.(2013)は、プロジェクト・レ ベルにおける研究者間のネットワークを分析し た貴重な研究であるが、同類性が研究者間の ネットワーク形成に与える影響については検討 していない。そこで、プロジェクト・レベルの 研究から、少し範囲を広げて、研究機関や大 学などの組織内あるいは組織間における研究者 間のネットワークを検討した研究をみていきた い。これらの研究は、近接性が研究者間のネッ トワーク形成に影響を与えるという点で一致し 機会を提供するという点で、ネットワーク形成
の基本的な規定要因である(Rogers and Kincaid
1981)。つまり、会う機会がなければ、ネット
ワークが形成されることはないのである。同 類性とは、類似した行為者は良好な社会的関 係を形成しやすくなる、つまり、「類は友をよ ぶ」というメカニズムであり(McPherson et al.2001)、
類似した2
者間では、コミュニケーションが容易になり、行動の予見性が高まり、そし て信頼の形成が促進されることにより、良好な 社会的関係が形成されることになる(Brass et
al. 2004)。
本稿の問題関心は共同研究における研究者間 の知識共有であり、つまり、研究者というノー ド間における知識共有という紐帯の形成を検討 することなので、ネットワークについての理論 に基づくことになる。ネットワークについての 理論では、近接性と同類性がネットワーク形成 の基本的なメカニズムだと考えられるが、チー ム・サイエンスがソーシャル・イノベーション へ貢献するためには、研究者は異なる研究分野 の研究者と研究分野の境界を越えて知識共有 する必要があり、また、共同研究は組織あるい は国の境界を越えて行われるので(Cummming
and Kiesler 2005; Jones et al. 2008; Wagner and Leydesdoff 2005a, 2005b)、研究者は距離の離れ
た場所にいる研究者と知識共有する必要がある。つまり、チーム・サイエンスにおいては、ネッ トワーク形成の基本的なメカニズムである近接 性および同類性に相反するネットワーク形成が 求められるのである。それでは、社会ネットワー ク分析を用いた先行研究では、近接性と同類性 が研究者間の繋がりに与える影響についてどの ように論じられているのであろうか。以下で先 行研究を検討していきたい。
2. 2 社会ネットワーク分析を用いた共同 研究の先行研究
社会ネットワーク分析を用いた先行研究で、
研究成果を実際に産出する基礎的な活動単位 であるプロジェクト・レベルにおける研究者 間のネットワークを対象とした研究は限られ ている。カナダにおいて研究分野およびセク ターを越えて全国から
ICT
関連の研究者が参 加している「GRAND(Graphics, Animation and先行研究では同じ研究分野という同類性が研 究者間のネットワーク形成に与える影響が検討 されているが、それに加えて、国際的な共同研 究が増加している中で(Wagner and Leydesdoff
2005a, 2005b)、同じ言語という同類性が研究
者間のネットワーク形成に影響を与える可能 性が示唆されている(Lungeanu and Contractor2015)
6。前述のように、異なる研究分野では用
語の理解が異なりコミュニケーションが困難と なることが指摘されているが(城山 2010)、異 なる言語の研究者間においても同様の問題が生 じる。例えば、アカウンタビリティという用語 について、アングロ・サクソン諸国とそれ以外 の国では理解が異なることが指摘されている
(山本 2013)
7。チーム・サイエンスに異なる言
語あるいは国の研究者が参加し知識共有するこ とは、異なる研究分野の研究者が知識共有する のと同様に、多様性というメリットをもたらし、ソーシャル・イノベーションへの貢献の可能性 を高めるであろう。プロジェクト
・
レベルでは、同じ言語という同類性は影響を与えるのであろ うか。多様性のメリットが活かされるように、
言語の境界を越えて知識共有されているのであ ろうか。また、対面による知識共有とインター ネットによる知識共有では、同じ言語という同 類性の影響は異なるのであろうか。そこで、本 稿の第
3
のリサーチ・クエスチョンは、「研究 者間での言語の一致あるいは相違は、プロジェ クト・レベルにおける研究者間の対面による知 識共有およびインターネットによる知識共有に どのような影響を与えるのだろうか」である。2. 3 小括
本章のここまでの内容を小括しておきたい。
チーム・サイエンスのプロセスおよび成果の改 善・向上を目的とするチーム・サイエンスの科 学では、研究者間のネットワークを理解するた めのツールとして社会ネットワーク分析が重視 されている。しかし、プロジェクト
・
レベルのチー ている。つまり、距離の近い研究者間でネットワークが形成されることが報告されている
(Long et al. 2015; Okimoto 2015; Sciabolazza et al.
2017)。その一方で、チーム・サイエンスにおい
て研究分野の境界を越えた知識共有が重要視さ れていることから、同じ研究分野という同類性 が研究者間のネットワーク形成に与える影響が 検討されているが、この同類性の影響について は一貫した傾向がみられない。例えば、Harriset al.(2015)は、研究センターに所属している
研究者間のネットワークを分析し、一般的な協 働経験を紐帯として捉えた場合は、同じ研究分 野の研究者間でネットワークが形成される傾向 があるのに対し、共著論文の執筆、共同のプレ ゼンテーション、共同の補助金申請といった具 体的な活動を紐帯として捉えた場合には、同じ 研究分野という同類性の影響がみられないこと を報告している。また、共著論文の執筆を紐帯 として捉えた場合は、同じ研究分野の研究者間 でネットワークが形成される傾向があるのに対 し、共同の補助金申請を紐帯として捉えた場合 には、同じ研究分野という同類性の影響がみら れないことを報告している研究もある(Dhandet al. 2016; Luke et al. 2015)。このように組織内
あるいは組織間における研究者間のネットワー ク形成を検討した研究では、同じ研究分野とい う同類性の影響が検討されているものの、一貫 した傾向は見出されていない。それでは、プロ ジェクト・レベルでは、同じ研究分野という同 類性はどのような影響を与えるのであろうか。多様性のメリットが活かされるように、研究分 野の境界を越えて知識共有されているのであろ うか。対面による知識共有とインターネットに よる知識共有では、同じ研究分野という同類性 の影響は異なるのであろうか。そこで、本稿の 第
2
のリサーチ・クエスチョンは、「研究者間 での研究分野の一致あるいは相違は、プロジェ クト・レベルにおける研究者間の対面による知 識共有およびインターネットによる知識共有に どのような影響を与えるのだろうか」である。6この研究は、新規の研究分野における研究者間の共著論文執筆を紐帯として捉えて分析し、同じ国の研究間でネットワークが形成される という結果から、近接性が研究者間のネットワーク形成に影響を与えると結論付けている。ただし、近接性ではなく、同じ言語や同じ文 化という同類性がネットワーク形成に影響している可能性があると述べている。
7山本(2013: 48)は、アカウンタビリティという用語の理解の相違について、「アカウンタビリティの原語にある懲罰的な意味を含む責任 概念で理解されているのはアングロ・サクソン諸国に限定的である」と述べている。
使用する。I-Chooseプロジェクトは、消費者に対 し、商品の生産過程(例えば、労働条件、賃金)
や生産による影響(例えば、環境への影響)な どの情報提供を可能にする情報システムを構築 することを目的としており、最終的には、この情 報システムの構築によって、環境的に持続可能 で経済的に公正な商品・サービスの選択が可能 になることを目的としている。I-Chooseプロジェ クトには、米国、カナダ、メキシコから複数の研 究分野にわたる
13
名の研究者が参加している。この
13
名を対象に、2012年4
月にインターネッ トを通じて、調査票を用いたデータ収集を行った。回収率は
100
パーセントであった。3. 2 分析方法
本稿では、13名の研究者間の知識共有を紐 帯として捉え、その知識共有パターンという ネットワーク構造を分析するために、指数ラン ダムグラフ・モデル(Exponential Random Graph
Modeling: ERGM)を用いる。ERGM
は、ノード間に紐帯が存在する確率を推定するネットワー ク・データのための統計分析手法であり(Harris
2014; Lusher et al. 2013; Robins et al. 2007)、本稿
の場合では、研究者間の知識共有という紐帯が 存在する確率が推定されることになる。ERGMでは、ノード間に紐帯が存在する確率 を推定するために、ネットワーク構造、行為者 の属性、2者間関係の属性という
3
つのタイプの 変数を用いることができる。ネットワーク構造と しては、行為者の属性および2
者間関係の属性 とは独立して紐帯の有無に影響を与える「互酬 性(reciprocity)」10や「推移性(transivity)」11な どの変数が用いられる。行為者の属性は、例え ば、影響力の大きい研究者は多くの研究者と知 識共有するというように、行為者の属性と紐帯 の有無の関係を捉えるために使用される。2者 ム・サイエンスを、社会ネットワーク分析を用いて検討した先行研究は少ない。これは、研究 成果を実際に産出する基礎的な活動単位がプ ロジェクト・レベルであることを考えると、埋 められるべきリサーチ・ギャップである。そこ で、本稿はプロジェクト・レベルを対象として、
社会ネットワーク分析においてネットワーク形 成の基本的なメカニズムとされる近接性と同類 性に注目して、近接性と同類性が研究者間の知 識共有に与える影響について明らかにするため に、次の
3
つのリサーチ・クエスチョンに取り 組む8。
RQ1:研究者間の距離は、プロジェクト・レベ
ルにおける研究者間の対面による知識共 有およびインターネットによる知識共有 にどのような影響を与えるのだろうか。RQ2:研究者間での研究分野の一致あるいは相
違は、プロジェクト・レベルにおける研 究者間の対面による知識共有およびイン ターネットによる知識共有にどのような 影響を与えるのだろうか。RQ3:研究者間での言語の一致あるいは相違
は、プロジェクト・レベルにおける研究 者間の対面による知識共有およびイン ターネットによる知識共有にどのような 影響を与えるのだろうか。3.研究方法 3. 1 データ収集
上記の
3
つのリサーチ・クエスチョンに取 り組むために、米国のニューヨーク州立大学 の付属研究機関であるCenter for Technology in Government
を拠点とするI-Choose
9と呼ばれる 国際共同研究プロジェクトから収集したデータを8 本稿が、仮説検証ではなく、探索的なリサーチ・クエスチョンに取り組む理由は次の2つである。(1)チーム・サイエンスにおいては、
ネットワーク形成の基本的なメカニズムである近接性および同類性に相反するネットワーク形成が求められているため、ネットワークに ついての理論、つまり近接性および同類性というメカニズムに基づき、研究者間の知識共有パターンを予測し仮説を導出することができ ない。(2)本稿の分析対象であるプロジェクト・レベルのチーム・サイエンスという形態の共同研究を社会ネットワーク分析を用いて検 討した先行研究が少ないため、実証研究に基づいて仮説を導出することができない。
9 I-Chooseプロジェクトの詳細は、次のウェブサイトを参照。http://www.ctg.albany.edu/projects/ichoose
10 互酬性とは、例えば、研究者iが研究者jに有益な知識を提供した場合に、お返しに研究者jが研究者iに対して有益な知識を提供する という関係性である。
11 推移性とは、例えば、研究者iと研究者jが知識共有し、かつ、研究者jと研究者kが知識共有している場合に、研究者iと研究者kと の間でも知識共有が行われるという、いわば、友達の友達は友達であるという関係性である。
名の研究者間の知識共有ネットワークである。
ロースター方式12を用いて、13名の研究者間 の
「対面による知識共有」
および「インターネッ
トによる知識共有」という2
種類のネットワー ク・
データを収集した。13
名の研究者に対して、対面およびインターネットによる知識共有のそ れぞれについて、「あなたは、表に記載されて いる方々と、I-Chooseプロジェクトに関する知 識あるいは専門知識を、平均するとこの
6
ヶ月 の間にどの程度の頻度で共有しましたか」とい う質問をし、回答者は表に記載された13
名の 研究者の中から自分を除く12
名に対し、知識 共有の頻度を、「1= 2
ヶ月に1回以下」、「2= 1
ヶ 月に1
回程度」、「3
=1
ヶ月に2
−3
回程度」、「4
=
1
週間に1
回程度」、「5
=1
週間に2
回程度」、「6
=1
週間に3
−4
回程度」、「7=1
週間に5
回以上」から選択した。そして、「2=1
ヶ月 に1
回程度」をカットオフ値とし、つまり、知 識共有を1
ヶ月に1
回程度以上している場合13 は定期的な知識共有が行われているとみなし、「対面による知識共有」および「インターネッ
トによる知識共有」という研究者の知識共有に 関する2
種類のネットワークを作成した。また、研究者
i
が研究者j
と定期的に知識共 有していると回答していても、研究者j
が研究 者i
と定期的に知識共有していると回答してい るとは限らない。そこで、本稿では、研究者i
が研究者j
と定期的に知識共有していると回答 し、同時に、研究者j
が研究者i
と定期的に知 識共有していると回答した場合に、研究者i
と 研究者j
との間で定期的な知識共有が行われて いるとみなしている。この結果、「対面による知 識共有」ネットワークおよび「インターネットに よる知識共有」ネットワークという13
行13
列 の対称行列、つまり、研究者i
と研究者j
との間 の紐帯に方向性がない2
つの変数が作成された。3. 3. 2 説明に用いる変数
前述のように、ERGMでは、ネットワーク 構造、行為者の属性、2者間関係の属性とい 間関係の属性は、例えば、研究者
i
と研究者j
の研究分野が同じである場合に知識共有が行わ れるというように、2者間の関係性と紐帯の有 無の関係を捉えるために使用される。
ERGMでは、ネットワーク構造、行為者の属 性、2者間関係の属性という変数が、ノード間 の紐帯の有無に与える影響が次のように推定さ れる。観察されたネットワークを再現するため に、モデルに組み込まれた変数に基づいて大量 のネットワークのシュミレーションが行われる
(本稿では 100,000
回)。モデルに組み込まれた 変数に基づいて、観察されたネットワークが再 現された場合に、そのモデルは「収斂 (converge)」
したとみなされ、モデルに組み込まれた変数が、
偶然に生じるよりも頻繁に、観察されたネット ワークにおいて生じるかを判断するための推定 値と標準誤差が算出される(Harris 2014; Lusher
et al. 2013; Robins et al. 2007)。変数の推定値が
プラス方向に統計的に有意な場合、例えば、同 じ研究分野という2
者間関係の属性の場合では、同じ研究分野の研究者間で知識共有が行われる 傾向があることを意味し、その一方で、変数の 推定値がマイナス方向に統計的に有意な場合、
同じ研究分野の研究者間で知識共有が行われな い傾向があることを意味する。ただし、ERGM による分析において推定値が統計的に有意であ ることは、その変数が偶然に生じるよりも頻繁 あるいは稀に観察されたネットワーク(本稿の 場合では、I-Chooseプロジェクトにおける
13
名 の研究者間の知識共有ネットワーク)において 生じていることを意味しているのであり、他の ネットワークに対して一般化できることを意味 しない。本研究では、ERGMによる分析を行う ために、R の statnetパッケージ(Handcok et al.2003)を使用した。
3. 3 使用する変数
3. 3. 1 説明の対象となる変数
本稿において説明の対象となる変数は、13
12 ロースター方式とは、例えば「誰と知識共有しますか」という質問と名前のリストが提供され、回答者が、知識共有する人の名前を選 択するという方式である。
13 質問に対し「2」、「3」、「4」、「5」、「6」あるいは「7」を選択した場合。
は
0
あるいは1
の2
値をとり、研究者i
と研究 者j
が同じ言語を選択している場合に「1」と なり、研究者i
と研究者j
が異なる言語を選択 している場合に「0」となる。制御変数をみていくと、「参加期間」変数 は、プロジェクトが開始された
2009
年7
月か らデータ収集が行われた時点の間で、プロジェ クトに参加している期間を尋ねている。平均は24.5
ヶ月で、標準偏差は9.2
ヶ月となっている。「参加期間」を制御変数として使用する理由は、
参加期間が長くなれば、他の参加者と接触する 機会が増えること、また、プロジェクトに関す る知識が増えることで、知識共有に影響を与え る可能性があるためである。次に「影響力」変 数は、それぞれの研究者のプロジェクトにおけ る影響を把握するために、回答者に「表に記載 された方々の中から、プロジェクトに対して最 も影響力がある方を
5
名選択してください。た だし、『影響力』は、プロジェクトに関して、自分の望むように、他者を信じ、考え、行動さ せる能力を意味します」と尋ね、その結果とし て、それぞれの研究者が選択された回数であり、
それぞれの研究者が他の研究者から影響力があ るとみなされている程度を表わしている。平均 は
5.4
で、標準偏差は4.2
となっている。「影響 力」を制御変数として使用する理由は、チー ム・サイエンスにおけるリーダーの重要性が指 摘されており(Gray 2008)、そして、リーダー シップが影響力を発揮するプロセスであること から(Sparrowe and Liden 1997)、影響力が知識 共有に影響を与える可能性があるためである。「英語」変数は、I-Choose
プロジェクトで用い られている言語が英語なので、英語を主要言語 とする研究者が知識共有の際に主導的な役割を 果たす可能性があることから制御変数としてお り、英語を主要言語とする7
名を「1」、他の言 語を主要言語とする6
名を「0」とする2
値変 数である。2者間関係の属性である「共同研究 の経験」変数は、13
行13
列の対称行列であり、I-Choose
プロジェクト以前に、研究者i
と研究者
j
が共同研究を行った経験があれば「1」、な ければ「0」となっている。「共同研究の経験」を制御変数として使用する理由は、以前に共同 う
3
つのタイプの変数をモデルに組み込むことができる。本研究では、ネットワーク構造と して
2
つの変数(「辺の数(edges)」、「推移性(geometrically weighted edge-wise shared partner:
GWESP)」)、行為者の属性として 3
つの変数(「参加期間」、「影響力」、「英語」)、2
者間関係 の属性として4
つの変数(「距離」、「同一の研 究分野」、「同一の言語」、「共同研究の経験」)の合計
9
つの変数を使用する。本稿のリサーチ・クエスチョンに関連する変 数からみていくと、リサーチ・クエスチョン
1
は、研究者間の距離が知識共有に与える影響に ついてであり、このために使用されるのが「距 離」変数である。この変数は13
行13
列の対称 行列であり、行列の各要素(i, j)は、研究者i
と研究者j
が所属する組織間の距離を表わして いる。つまり、行例の要素(i, j)の値が大き ければ、研究者i
と研究者j
が所属する組織間 の距離が離れていることを意味し、行例の要素(i, j)の値が小さければ、研究者 i
と研究者j
が 所属する組織間の距離が近いことを意味する。次に、リサーチ・クエスチョン
2
では、研究 分野が同じであることが知識共有に影響を与 えるか否かが問われている。回答者は、「経済 学」、「工学」、 「情報科学」、 「経営学」、 「政治学」、
「行政学」、「その他」の 7
つの選択肢から研究 分野を選択し、5名が情報科学、3名が経営学、2
名が政治学、1名が行政学、2名がその他を 選択している。「同一の研究分野」変数は、13 行13
列の対称行列であり、行列の各要素(i, j)は
0
あるいは1
の2
値をとり、研究者i
と研究 者j
が同じ研究分野を選択している場合に「1」となり、研究者
i
と研究者j
が異なる専門分野 を選択している場合に「0」となる14。
リサーチ・クエスチョン
3
では、言語が同じ であることが知識共有に影響を与えるか否かが 問われており、このために使用されるのが「同 一の言語」変数である。回答者は、「英語」、 「フ
ランス語」、「スペイン語」、「その他」の4
つの 選択肢から主要な使用言語を選択し、7名が英 語、1名がフランス語、2名がスペイン語、3 名がその他を選択している。「同一の言語」は、13
行13
列の対称行列であり、行列の各要素(i, j)
14ただし、政治学と行政学を同一の研究分野とした。
おける密度、平均次数、集中化を表わしている。
密度は、ネットワークにおける存在可能な紐帯 数に対する実際に存在している紐帯数の割合で あり、
0
から1
までの値をとる。密度の値が「0」
の場合はノード間に紐帯が全く存在しないこと を意味し、「1」の場合は全てのノードが他の全 てのノードと繋がっていることを意味する。次 数は各ノードがもつ繋がりの数である。各ノー ドがもつ繋がりの数には多寡があるが、特定の ノードに繋がりが集中している程度を測定する ための指標が集中化であり、0から
1
までの値 をとる。集中化の値が「0」
の場合は全てのノー ドの次数が同一であり、「1」
の場合は特定のノー ド以外の全てのノードがその特定のノードとの み繋がっていることになる16。
図
1
の「対面による知識共有」ネットワーク と図2
の「インターネットによる知識共有」
ネッ トワークを比較すると、図2
の紐帯数が多いこ とが明白である。これは、表1
のネットワーク 指標からも明らかであり、「対面による知識共 有」ネットワークの密度が0.269
であり、ノー ドあたりの平均次数が3.231
であるのに対し、「インターネットによる知識共有」ネットワー
クの密度は0.615
であり、ノードあたりの平均次数が
7.385
となっている。これは、対面よりもインターネットによって定期的に知識共有し ている研究者が多いことを意味している。また、
図
1
の「対面による知識共有」ネットワークで は紐帯のない研究者が3
名いるのに対し、図2
の「インターネットによる知識共有」
ネットワー クでは紐帯のない研究者は存在していない。集 中化を比較すると、「対面による知識共有」ネッ
トワークの集中化が0.371、「インターネットに
よる知識共有」ネットワークの集中化が0.455
となっており、「インターネットによる知識共 有」ネットワークのほうが特定の研究者に紐帯 が集中している。「対面による知識共有」ネッ トワークよりも「インターネットによる知識共 有」ネットワークの密度が高いので、特定の研 究者がハブとなることで研究者間の知識共有を 効率化している可能性がある。本稿の問題関心である研究分野の一致あるい 研究を行った経験があれば、その経験に基づき
コミュニケーションおよび知識共有が容易にな ると考えられるからである。
最後に、ネットワーク構造に関する
2
つの変 数については、「辺の数」変数は、通常の回帰 分析の切片にあたるもので、ERGMにおける モデル化の際に通常使用される変数である。「推
移性」変数はネットワークに一般的にみられる 構造的特徴を捉える変数であり(Harris 2014)、前述のように、友達の友達は友達であるという 関係性を捉える変数である。
4.分析結果
4. 1 ソシオグラムおよびネットワーク指 標による分析
ERGMによる分析を行う前に、13名の研究 者間の「対面による知識共有」ネットワークお よび「インターネットによる知識共有」ネット ワークを、視覚的にネットワークを表現する
「ソ
シオグラム(sociogram)」とネットワーク指標 を用いて分析しておきたい15。図 1
および図2
は、それぞれ、「対面による知識共有」
ネットワー クおよび「インターネットによる知識共有」
ネッ トワークのソシオグラムである。それぞれの図 におけるノードは研究者を表わしている。ノー ドの形は研究分野を表わしており、四角は情報 科学、上方三角形は経営学、丸は政治・
行政学、下方三角形はその他となっている。ノードの色 は主要言語を表わしており、黒が英語、濃いグ レーがスペイン語、薄いグレーがフランス語、
白がその他となっている。ノードの大きさは、
影響力を反映しており、ノードのサイズが大き いほど影響力が大きいことを意味している。ま た、ノード間の紐帯は、図
1
であれば、紐帯で 結ばれた研究者が定期的に対面による知識共有 を行っていることを意味しており、図2
であれ ば、紐帯で結ばれた研究者が定期的にインター ネットによる知識共有を行っていることを意味 している。表1
は、それぞれのネットワークに15 ネットワーク指標の計算は、社会ネットワーク分析のためのプログラムであるUCINET(Borgatti et al. 2002)を用いて行った。また、
ソシオグラムの作成は、NetDraw(Borgatti 2002)を用いて行った。
16 密度、次数、中心化についての詳しい説明は、金光(2003)、Wasserman and Faust(1994)、安田(2001)を参照。
者の紐帯が少ない傾向を読み取ることができる が、これは、フランス語を主要言語とする研究 者がカナダの研究機関に所属しており、スペイ ン語を主要言語とする研究者がメキシコの大学 に所属していることから生じる近接性の影響を 反映している可能性がある。最後に、ノードの 大きさは研究者の影響力を反映しているが、大 きいノードほど、つまり影響力の大きい研究者 ほど多くの紐帯をもつ傾向があることが窺える。
は相違が知識共有に与える影響について、図
1
の「対面による知識共有」ネットワークおよび 図2
の「インターネットによる知識共有」ネッ トワークをみると、図1
においても図2
におい ても研究分野と知識共有の明確な関連を読み取 ることはできない。また、どちらの図において も言語と知識共有の明確な関連を読み取ること もできない。ただし、図1
および図2
からフラ ンス語およびスペイン語を主要言語とする研究図 1 「対面による知識共有」ネットワーク
図 2 「インターネットによる知識共有」ネットワーク
トによる知識共有にどのような影響を与えるの だろうか」というリサーチ・クエスチョン
2
に ついては、「対面による知識共有」ネットワー クと「インターネットによる知識共有」ネット ワークのいずれについても、「同一の研究分野」変数は統計的に有意となっていないので、研究 者間での研究分野の一致あるいは相違は、知識 共有が行われるか否かに対して影響を与えてい ないことになる。
「研究者間での言語の一致あるいは相違は、
プロジェクト・レベルにおける研究者間の対面 による知識共有およびインターネットによる知 識共有にどのような影響を与えるのだろうか」
というリサーチ・クエスチョン
3
については、「同一の言語」変数は、「対面による知識共有」
ネットワークについてプラス方向に
1%水準で
統計的に有意となっているが、「インターネッ トによる知識共有」ネットワークについては統 計的に有意となっていない。つまり、対面によ る知識共有は主要言語が同じ研究者間で行われ る傾向があるのに対して、研究者間での言語の 一致あるいは相違はインターネットによる知識 共有には影響を与えていないことになる。次に、制御変数についてみていくと、「辺の 数」、「推移性」、「影響力」が
2
つのネットワー ク対して同様の影響を与えているのに対して、「英語」は 2
つのネットワークに対して異なる 影響を与えている。また、「参加期間」
および「共
同研究の経験」は、いずれのネットワークにつ いても統計的に有意ではない。ネットワーク構造に関する変数からみていく と、「辺の数」は、「対面による知識共有」ネッ トワークと「インターネットによる知識共有」
ネットワークの両方についてマイナス方向に
1%水準で統計的に有意となっている。 「辺の数」
は、ネットワーク形成に対する一般的な性向を 捉えており、この結果は、例えば次に説明する
「推移性」などの何らかの条件がない限り、研
4. 2 ERGM による分析ソシオグラムおよびネットワーク指標を用い た分析は、I-Chooseプロジェクトに参加してい る研究者間の知識共有パターンを概観するには 有効なツールであるが、研究者間の知識共有に 影響を与える要因を理解するうえで限界があ る。これらの分析では、複数の要因のなかで、
どの要因が研究者間の知識共有に影響を与えて いるかを明らかにすることができないのであ る。例えば、図
1
および図2
から、フランス語 およびスペイン語を主要言語とする研究者の紐 帯が少ない傾向を読み取ることができるが、こ れは、フランス語を主要言語とする研究者がカ ナダの研究機関に所属しており、スペイン語を 主要言語とする研究者がメキシコの大学に所属 していることから生じる近接性の影響によるも のなのか、それとも、言語による影響なのかが 判然としないのである。そこで、紐帯の有無に 対する複数の要因の影響を同時に捉えることの できるERGM
による分析結果をみていきたい(表 2)。
まず、「研究者間の距離は、プロジェクト・
レベルにおける研究者間の対面による知識共有 およびインターネットによる知識共有にどのよ うな影響を与えるのだろうか」というリサー チ・クエスチョン
1
に係わる「距離」変数から みていくと、「距離」は「対面による知識共有」ネットワークと「インターネットによる知識共 有」ネットワークの両方についてマイナス方向
に
5%水準で統計的に有意となっている。この
結果は、研究者間の距離が遠くなると、対面に よる知識共有だけでなくインターネットによる 知識共有も行われなくなる傾向があることを示 している。
次に、「研究者間での研究分野の一致あるい は相違は、プロジェクト・レベルにおける研究 者間の対面による知識共有およびインターネッ
対面による知識共有 インターネットによる知識共有
密度 0.269 0.615
平均次数 3.231 7.385
集中化 0.371 0.455
表 1 ネットワーク指標
る知識共有」ネットワークにおいて、「同一の 言語」がプラス方向に統計的に有意であること を踏まえると、英語を主要言語とする研究者は 英語を主要言語とする他の研究者と知識共有を 行うが、他の言語を主要言語とする研究者とは、
対面による知識共有を行わない傾向があること が窺える。
研究者間の知識共有に対する
9
つの変数の影 響をみてきたが、9つの変数を用いたモデルは「対面による知識共有」ネットワークと「イン
ターネットによる知識共有」ネットワークとも に収斂しており、観察されたネットワークの再 現に成功している。図3
および図4
は、「モデ ルからシュミレーションによって多数生成され たネットワークにおける統計量の分布を求め、観察されたネットワークの統計量との比較をす る」(鈴木 2017: 191)ことで、観察されたネッ トワークの再現に成功しているか否かを評価す るための「当てはまりの診断図(goodness of fit
diagnostics plot)」である。図 3
および図4
にお ける黒い線は、観察されたネットワークの統計 量を表わしており、グレーの線は95%の信頼
区間を表わしている。「対面による知識共有」
ネットワークと「インターネットによる知識共 究者間で知識共有が行われないことを示唆している。「推移性」は、前述のように、友達の友 達は友達であるという関係性を捉えており、
「対
面による知識共有」ネットワークについてプラス方向に
5%水準で統計的に有意、「インター
ネットによる知識共有」ネットワークについて プラス方向に
10%水準で統計的に有意となっ
ている。この結果は、2つのネットワークとも に、研究者間で閉じたネットワークが形成され る傾向があることを示唆している。「影響力」
は、「対面による知識共有」ネットワークについて
プラス方向に10%水準で統計的に有意、「イン
ターネットによる知識共有」ネットワークに ついてプラス方向に1%水準で統計的に有意と
なっている。この結果は、影響力の大きな研究 者ほど対面とインターネットの両方によって多 くの研究者と知識共有を行っていることを示し ている。
「英語」は 2
つのネットワークに対して異な る影響を与えており、「対面による知識共有」ネットワークについては、マイナス方向に
1%
水準で統計的に有意となっているが、
「インター
ネットによる知識共有」ネットワークについて は、統計的に有意となっていない。「対面によ対面による知識共有 インターネットによる知識共有
辺の数 -2.4027***
(.2356) -1.7130***
(.1339)
推移性 .7815**
(.3013) 1.1132*
(.5732)
距離 -.0005**
(.0002) -.0008**
(.0003)
同一の研究分野 .5990
(.6968) 1.3017
(.8218)
同一の言語 1.2335***
(.3220) .6072
(.5798)
参加期間 .0009
(.0236) -.0316
(.0496)
影響力 .1110*
(.0606) .2488***
(.0804)
英語 -1.5959***
(.4311) -.8194
(.6748)
共同研究の経験 .4676
(.6677) -.3127
(.7151)
表 2 ネットワーク形成に影響を与える要因
注: *=p< .10, **=p< .05, ***=p< .01;括弧内の数字は標準誤差
数を用いたモデルは観察されたネットワークの 再現に成功していると評価することができる。
つまり、上記の
ERGM
による分析結果が信頼 性の高いものであると評価することができる。有」ネットワークともに、
「次数(degree)」、 「辺
単位他者共有(edge-wise shared partners)」、 「ノー
ド間最短距離(minimum geodesic distance)」の いずれの統計量においても、黒い線がほぼ95%の信頼区間内にあるので、本稿の 9
つの変図 3 「対面による知識共有」ネットワークの当てはまりの診断図
図 4 「インターネットによる知識共有」ネットワークの当てはまりの診断図
促進するためであると考えられる(Feld 1981)。
しかしながら、研究分野の相違が知識共有に影 響を与えていないという結果は、積極的に研究 分野の境界を越えた知識共有が行われているわ けではないことも意味しており、研究分野の境 界を越えた知識共有により多様性のメリットを 活かすためには、何らかの方策が必要となるこ とを示唆している。
第
3
点目は、研究者間での言語の一致あるい は相違はインターネットによる知識共有には影響 を与えていないが、対面による知識共有は主要言 語が同一の研究者間で行われる傾向があり、主 要言語が異なる研究者間では行われにくい傾向 があるということである。前述のように、対面に よるコミュニケーションは曖昧性の高い知識・情 報の共有に最も適していることから(Olsen andOlsen 2000)、対面による知識共有では曖昧性の
高い知識をやりとりする高度なコミュニケーショ ンが求められるので、研究者間での言語の相違が 対面による知識共有の妨げとなっている可能性が ある。ここでもまた、言語の境界を越えた知識共 有により多様性のメリットを活かすためには、何 らかの方策が必要となることが示唆されている。以上の
3
点を踏まえて、チーム・サイエンス、特に研究成果を実際に産出する基礎的な活動単 位であるプロジェクト・レベルにおける研究者 間の知識共有についての本稿の結論は、(1)イ ンターネットの活用によって知識共有に対する 距離の影響を低減することはできるが完全に克 服することはできない、(2)研究分野や言語の 境界を越えた知識共有が自動的に生じるわけで はないので、チーム・サイエンスが多様性のメ リットを活かし、ソーシャル・イノベーション に貢献するためには、研究分野や言語の境界を 越えた知識共有を促進するためのマネジメント が必要となるということである。
それでは、距離および主要言語の相違が研究 者間の知識共有にマイナスの影響を与えていた
I-Choose
プロジェクトでは、どのように研究者間の距離および言語の壁を越えた知識共有を促 進することができるであろうか17
。ERGM
によ 5.考察と結論ここまで、多様性と統合というパラドックスを 抱えるチーム・サイエンスにおける研究者間の知 識共有に影響を与える要因について、特に研究成 果を実際に産出する基礎的な活動単位であるプロ ジェクト
・レベルを対象として、社会ネットワーク
分析の知見に基づき近接性と同類性の影響に注目 して検討を行ってきた。I-Chooseプロジェクトに 参加している13
名の研究者間の「対面による知 識共有」ネットワークと「インターネットによる知 識共有」ネットワークという2
種類のネットワー クを分析した結果、研究者間の距離という近接性、および、同一の研究分野と同一の言語という同類 性が研究者間の知識共有に与える影響について以 下の
3
点が明らかとなった。第1点目は、対面よりもインターネットによっ て定期的に知識共有している研究者が多いもの の、研究者間の距離が、「対面による知識共有」
ネットワークだけでなく、距離による制約が少 ないと考えられる「インターネットによる知識 共有」ネットワークにも影響を与えることであ る。研究者間の距離がインターネットによる知 識共有に対してもマイナスの影響を与える理由 としては、チーム・サイエンスに参加している 研究者は、曖昧性の高い知識・情報を共有する 必要があり、対面によるコミュニケーションが 曖昧性の高い知識・情報の共有に最も適してい るので(Olsen and Olsen 2000)、インターネッ トによる知識共有は対面による知識共有に取っ て代わる代替手段ではなく補完手段となり、そ の結果として対面による知識共有と同様に距離 の制約を受けることになるためと推測される。
第
2
点目は、研究者間の研究分野の一致ある いは相違が、知識共有に影響を与えていないこ とである。この結果は、研究分野の相違は少な くとも知識共有の妨げとなっていないことを意 味している。その理由としては、本稿が対象と したプロジェクト・レベルでは、目標や成果が 比較的に具体的であり活動の焦点が明確である ことが、研究者間の知識共有を含む相互作用を17ここで注意しなければならないのは、前述のように、ERGMによる分析において推定値が統計的に有意であることは、その変数が偶然に生 じるよりも頻繁あるいは稀に観察されたネットワーク、本稿の場合では、I-Chooseプロジェクトにおける13名の研究者間の知識共有ネット ワークにおいて生じていることを意味しているのであり、他のネットワークに対して一般化できることを意味しないということである。つまり、
ここで述べる研究者間の知識共有を促進するための方策は、I-Chooseプロジェクト以外に必ずしも適用できるわけではないということである。
から収集したデータを使用しており、本研究で 得られた結果の一般化については慎重でなけれ ばならないということである。一般化のために は他の事例において同様の分析を行う必要があ る。例えば、I-Chooseプロジェクトには社会科 学分野の研究者が多く参加しているので、自然 科学分野の研究者が多く参加する研究プロジェ クト、あるいは、I-Chooseプロジェクトと異な る規模の研究プロジェクトにおいて同様の分析 を行うことは、本研究で得られた結果が一般化 できるか否かを検討するうえで有意義であろ う。また、米国を拠点とする研究プロジェクト から収集したデータを使用しているので、日本 を拠点とする研究プロジェクトでは、同様の結 果が得られるのかについてもデータを収集し検 討する必要があるだろう。第
2
に、対面よりも インターネットによって定期的に知識共有して いる研究者が多いものの、研究者間の距離は、対面だけでなくインターネットによる知識共有 の制約になっていた。この結果に対して、曖昧 性の高い知識・情報を共有するには対面による コミュニケーションが適しているので(Olsen
and Olsen 2000)、インターネットによる知識共
有は、対面による知識共有を代替ではなく補完 するための手段となり、対面による知識共有と 同様に距離の制約を受けることになると解釈し ているが、この解釈を裏付けるためには、研究 者間の知識共有パターンに加え、どのような知 識が対面およびインターネットにより共有され ているのかを明らかにする必要がある。そこで、研究者間の知識共有という紐帯の内容について 調査することが今後の課題となる。最後に、本 稿ではチーム・サイエンスにおける研究者間 の知識共有というプロセスを検討しているが、
チーム・サイエンスの成果については検討して いない。研究者間の知識共有のあり方と成果の 関係を検証することも今後の課題である。
る分析結果は、「対面による知識共有」ネット ワークと
「インターネットによる知識共有」
ネッ トワークともに、研究者の属性や2
者間関係の 属性とは独立して、推移性が知識共有に影響を 与えることを示していた。前述のように、推移 性は、研究者i
と研究者j
が知識共有を行い、かつ、研究者
j
と研究者k
が知識共有を行って いる場合に、研究者i
と研究者k
との間でも知 識共有が行われるという関係性である。例えば、英語を主要言語とする研究者
i
が英語を主要言 語とする研究者j
と知識共有しており、この英 語を主要言語とする研究者j
がスペイン語を主 要言語とする研究者k
と知識共有していると、英語を主要言語とする研究者
i
とスペイン語を 主要言語とする研究者k
の間でも知識共有が行 われる可能性が高くなるのである18。このよう
に推移性というネットワークの構造的な特徴を 利用することにより、言語あるいは距離の壁を 越えた知識共有を促進できると考えられる。次 なる問題は、異なる言語あるいは距離を架橋す る研究者j
の役割を誰が果たすのかということ である。この役割には、影響力のある研究者が 適任なのではないだろうか。ERGMによる分 析結果は、影響力のある研究者が、対面によっ てもインターネットによっても多くの研究者 と知識共有する傾向があることを示していた。よって、影響力のある研究者が積極的に主要言 語の異なる研究者、あるいは、距離の離れた研 究者と知識共有を行うことによって、主要言語 の異なる研究者
i
と研究者k
あるいは、距離の 離れた研究者i
と研究者k
の知識共有を促進す ることができるであろう。チーム・サイエンスのプロセスの改善・向上 により、ソーシャル・イノベーションへの貢献 を促進すること意図して、チーム・サイエンス に参加している研究者間の知識共有に影響を与 える要因を分析し、その分析に基づきプロセス の改善・向上への方策を示してきたが、本稿は いくつかの課題を残している。最後に、それら の課題について述べておきたい。第
1
に、本稿 では、I-Chooseプロジェクトという1
つの事例18距離についても同様であり、米国の大学に所属している研究者iが同じ米国の大学に所属している研究者jと知識共有しており、この 米国の大学に所属している研究者jがメキシコの大学に所属している研究者kと知識共有していると、米国の大学に所属している研究 者iとメキシコの大学に所属している研究者kの間でも知識共有が行われる可能性が高くなる。