九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
配位環境を利用した電子・エネルギー貯蔵触媒の特 性制御
ソ, ジュンチョル
https://doi.org/10.15017/2534408
出版情報:九州大学, 2019, 博士(工学), 課程博士 バージョン:
権利関係:
九州大学大学院工学府 物質創造工学専攻
博士論文
配位環境を利用した電子・エネルギー貯蔵触媒の特性制御
ソ ジュンチョル
2019
目次
第1章 緒言 1
1-1. 序 1
1-2. 電子貯蔵触媒 2
1-3. エネルギー貯蔵触媒 3
1-4. 本論文の構成 4
1-5. 参考文献 6
第2章 ロジウム(III)錯体を利用した電子貯蔵触媒によるCO2還元反応 7
2-1. 序 8
2-2. 実験 9
2-2-1. 試薬および測定機器 9
2-2-2. [RhIII(HO-terpy)Cl3] (Rh_1) の合成 10
2-2-3. [RhI(HO-terpy)Cl] (Rh_2) の合成 11
2-2-4. [RhIII(HO-terpy)(CH3)ClI] (Rh_3) の合成 12
2-2-5. [RhIII(HO-terpy)(H2O)3](NO3)3 {[Rh_1ʹ](NO3)3} の合成 13
2-2-6. 電気化学的測定 14
2-2-7. X線結晶構造解析 14
2-3. 結果と考察 15
2-3-1. 錯体の合成と同定 15
2-3-2. Rh_1によるH2の活性化 18
2-3-3. Rh_2によるヨードメタンの酸化的付加反応 19
2-3-4. Rh_3によるCO2還元反応 22
2-4. 結論 27
2-5. 参考文献 28
第3章 ジスプロシウム(III)錯体を用いたエネルギー貯蔵触媒の開発 29
3-1. 序 30
3-2. 実験 31
3-2-1. 試薬および測定機器 31
3-2-2. [{(MeMeArO)3tacn}DyIII(THF)] (Dy_1)の合成 32
3-2-3. Dy_1/PSの作成 32
3-2-4. X線結晶構造解析 32
3-3. 結果と考察 34
3-3-1. Dy_1の合成と同定 34
3-3-2. Dy_1の光物性評価 36
3-3-3. Dy_1の酸素応答性評価 39
3-3-4. Dy_1の酸素応答メカニズム 41
3-4. 結論 45
3-5. 参考文献 46
第4章 テルビウム(III)錯体によるエネルギー貯蔵触媒の励起寿命制御 48
4-1. 序 49
4-2. 実験 51
4-2-1. 試薬および測定機器 51
4-2-2. {(tBuMeArOH)4cyclen} 52
4-2-3. [H{(tBuMeArO)4cyclen}TbIII] (Tb_2tBu) の合成 53 4-2-4. [H{(tBuMeArO)4cyclen}TbIII] (Sm_2tBu) の合成 54 4-2-5. [H{(tBuMeArO)4cyclen}TbIII] (Gd_2tBu) の合成 55 4-2-6. [{(MeMeArOH)(MeMeArO)3cyclen}GdIII] (Gd_2Me) の合成 56 4-2-7. [{MeMeArO)3tacn}GdIII(THF)] (Gd_1) の合成 57 4-2-8. Tb錯体 (Tb_2tBuおよびTb_2Me) とMe2SO4の反応性評価 58
4-2-9. X線結晶構造解析 58
4-3. 結果と考察 59
4-3-1. {(tBuMeArOH)4cyclen} の合成と同定 59
4-3-2. Tb_2tBuの合成と同定 61
4-3-3. Tb_2tBuの光物性および酸素応答性評価 67
4-4. 結論 76
4-5. 参考文献 77
第5章 結言 79
発表論文目録 82
謝辞 83
第1章 緒言
1-1. 序
植物の光合成、建物の腐食、食品の発酵など、我々の世界は絶え間なく続く化学反応 で囲まれていると言っても過言ではない。このような化学反応が起こるためには、電子 (e–) や光のエネルギー (hn) を効率よく与える触媒が必要である。金属錯体は、多様な 配位環境を設計することにより、その特性を合目的に制御することが可能であるため、
化学反応の触媒として非常に有用である 1,2)。本小論では、「水素 (H2) からの電子を貯 蔵する機能を利用して還元反応を行う錯体を電子貯蔵触媒」、「光のエネルギーを貯蔵す る機能を利用してエネルギー移動反応を行う錯体 (ランタニド錯体) をエネルギー貯 蔵触媒」として定義する(図1-1)。
図1-1 本小論で定義する (a) 電子および (b) エネルギー貯蔵触媒.
1-2. 電子貯蔵触媒
現在、世界は化石燃料の枯渇問題に直面し、次世代燃料の利用へ焦点を当てている3,4)。 水素は、豊富かつクリーンなエネルギー資源で、ヘテロリティックな開裂により2つの 電子とプロトンのみを生成する理想的な電子源である (H2 ⟶ H+ + H– ⟶ 2H+ + 2e–)。金 属錯体は、水素からの電子を一次的に貯蔵する機能を持ち、還元反応のような化学反応 の触媒として用いられる。図1-2には、これまで水素を電子源とした還元反応を触媒す る過去の研究例を示す5)。1961年のHalpernらが用いた塩化ルテニウム(III)から始まり、
様々な電子貯蔵触媒による金属イオンや有機化合物の還元反応が行われてきた。本小論 の第2章では、電子貯蔵触媒を利用したCH3IとCO2の還元による酢酸の合成について 述べる。
図1-2 電子貯蔵触媒を利用した還元反応の研究例. 出発錯体を基準 [0] としたときの、錯体に
出入りした電子の数. 電子は負の電荷を持つため、電子が入る方がマイナス、電子が出る方がプ ラスの目盛りとする.
1-3. エネルギー貯蔵触媒
光のエネルギーは、枯渇の問題がないクリーンなエネルギー資源である。21 世紀は 光化学の時代と言えるほど、光エネルギーを用いた活発な研究が行われている6)。特に、
ランタニド錯体は、光のエネルギーを一次的に貯蔵する機能を持ち、f軌道に電子を有 することによって、ランタニドイオン (LnIII) と配位子の軌道がほぼ独立的に存在し、
エネルギー貯蔵触媒として有用である (図1-3)7,8)。具体的には、配位子のT1とランタニ ドイオンのエネルギー差が非常に小さい場合 (ΔE < 3500 cm-1)、T1とランタニドイオン の励起軌道との平衡状態が形成され、周りの熱によりランタニドイオンから T1 への逆 エネルギー移動 (BET: Back Energy Trasnfer) が起こる。これによってランタニド錯体を 用いるとT1を長寿命化する (エネルギー貯蔵能力の向上) ことができる。しかし、ラン タニド錯体は、エネルギー貯蔵触媒として使用可能な金属が制限されていること (Eu,
Tb, Er, Yb, Nd) や結晶構造が明らかではないため配位環境の制御が困難であるという問
題がある。本小論の第3および4章では、環状ポリアミンとフェニル基配位子による配 位環境を利用して、それぞれの問題点に対する解決方法について議論する。
図1-3 逆エネルギー移動 (BET) を利用したランタニド錯体のT1の長寿命化.
1-4. 本論文の構成
本論文では、電子・エネルギー貯蔵触媒において、触媒となる金属錯体の配位環境を 利用して、還元反応への利用や励起寿命などの特性を制御するとこを目的とした (図1-
4)。基本構成は、電子貯蔵触媒 (第2 章) とエネルギー貯蔵触媒 (第 3–4 章) の開発と
その特性制御になっている。
第2章では、新規ロジウム(III)錯体を電子貯蔵触媒としたCO2還元反応について述べ る。電子求引性の高い配位子を用いることで、常温・常圧下で H2から2つの電子を貯 蔵可能な触媒を開発し、CO2の還元による酢酸の合成に成功した。また、触媒サイクル における各中間体を単離することで、反応メカニズムを明らかにした。
第3章では、発光性ジスプロシウム(III)錯体をエネルギ―貯蔵触媒として用いた初め ての研究例について紹介する。酸素 (3O2) へのエネルギー移動反応による光物性の変化 からエネルギー貯蔵能力を確認し、ガドリニウム(III)錯体の光物性を評価することによ ってそのメカニズムを明らかにした。
第4章では、アルキル置換基の立体効果によってランタニド錯体における配位環境の 制御に成功し、それをテルビウム(III)錯体における励起寿命のコントロールに繋げた。
具体的には、3O2へのエネルギー移動反応による光物性の変化と、ガドリニウム(III)錯体 の光物性により議論する。
第5章では、得られた結果を総括し、本論文の意義と今後の展望を述べる。
図1-4 本研究の概要.
1-5. 参考文献
1 (a) A. Lavie-Cambot, M. Cantuel, Y. Leydet, G. Jonusauskas, D. M. Bassani, N. D.
McClenaghan, Coord. Chem. Rev., 2008, 252, 2572–2584. (b) R. Noyori, T. Ohkuma, Angew.
Chem. Int. Ed. 2001, 40, 40–73.
2 (a) R. Matheu, M. Z. Ertem, J. Benet-Buchholz, E. Coronado, V. S. Batista, X. Sala, A. Llobet, J. Am. Chem. Soc. 2015, 137, 10786–10795. (b) D. Wang, R. Huang, W. Liu, D. Sun, Z. Li, ACS Catal. 2014, 4, 4254–4260. (c) I. Castro-Rodriguez, H. Nakai, L. N. Zakharov, A. L.
Rhein-gold, K. Meyer, Science 2004, 305, 1757–1759.
3 (a) Special issue on “Renewable Energy”, Chem. Soc. Rev. 2009, 38, 1–300. (b) C. Tard, C.
J. Pickett, Chem. Rev. 2009, 109, 2245–2247.
4 Special issue on “Toward a Hydrogen Economy”, Science 2004, 305, 957–976.
5 (a) S. Ogo, K. Ichikawa, T. Kishima, T. Matsumoto, H. Nakai, K. Kusaka, T. Ohhara, Science 2013, 339, 682–684. (b) S. Ogo, H. Nakai, Y. Watanabe, J. Am. Chem. Soc. 2002, 124, 597–
601. (c) J. F. Harrod, S. Ciccone, J. Halpern, Can. J. Chem. 1961, 39, 1372–1376.
6 (a) Y. Wang, X. Wang, M. Antonietti, Angew. Chem. Int. Ed 2012, 51, 68–89. (b) C. E. Hoyle, C. N. Bowman, Angew. Chem. Int. Ed 2010, 49, 1540–1573. (c) M. C. DeRosa, R. J.
Crutchley, Coord. Chem. Rev. 2002, 223–234, 351–371.
7 (a) X.-d. Wang, O. S. Wolfbeis, Chem. Soc. Rev. 2014, 43, 3666–3761. (b) L. Armelao, S.
Quici, F. Barigelletti, G. Accorsi, G. Bottaro, M. Cavazzini, E. Tondello, Coord. Chem. Rev.
2010, 254, 487–505.
8 (a) Y. Amao, Y. Ishikawa, I. Okura, T. Miyashita, Bull. Chem. Soc. Jpn. 2001, 74, 2445–2449.
(b) M. H. V. Werts, J. W. Hofstraat, F. A. J. Geurts, J. W. Verhoeven, Chem. Phys. Lett. 1997, 276, 196–201. (c) A. Beeby, D. Parker, J. A. G. Williams, J. Chem. Soc., Perkin Trans. 2 1996, 1565–1579.
第 2 章 ロジウム(III)錯体を利用した電子貯蔵触媒による CO
2還元反応
概要
本研究では、新規ロジウム(III)錯体 [RhIII(HO-terpy)Cl3] (Rh_1) を用いて、常温・0.1 MPaの水素雰囲気下・水中におけるH2の活性化に成功した。H2から2電子を貯蔵した 低原子価のロジウム(I)錯体 [RhI(HO-terpy)Cl] (Rh_2) は、XPSおよびX線構造解析によ りその構造を明らかにした。Rh_2 へのヨードメタンの酸化的付加反応によってロジウ ム(III)錯体 [RhIII(HO-terpy)(CH3)ClI] (Rh_3) が生成し、X線構造解析によって同定した。
Rh_3はCO2と反応しなかったが、クロロ配位子の代わりにアクア配位子を導入したロ ジウム(III)錯体 [RhIII(HO-terpy)(H2O)3](NO3) {[Rh_1ʹ](NO3)3} を用いることによってCO2
の還元による酢酸の合成に成功し、その反応メカニズムを明らかにした。
Seo J.; Yatabe T.; Matsumoto, T.; Ogo, S.
Manuscript in preparation
2-1. 序
酢酸 (CH3COOH) は、酢酸ビニル・無水酢酸・酢酸エステルの原料やテレフタル酸合 成の溶媒として使われるなど化学工業において重要な化合物であり、世界中で 1 年間 1300万トン以上製造されている1)。現在の酢酸の工業的製造法は、メタノール (CH3OH) と一酸化炭素 (CO) を用いたモンサント法であり (CH3OH + CO → CH3COOH)、1966 年から半世紀以上に渡って酢酸の合成を担っている (図2-1)2)。
図2-1 従来の工業的な酢酸合成法 (モンサント法).
近年、安全・コスト面のためCOの代わりに豊富かつ再生可能な資源であるCO2とH2
を 用 い て 酢 酸 を 合 成 す る 新 モ ン サ ン ト 法 が 開 発 さ れ た (CH3OH +H2 + CO2 →
CH3COOH + H2O)3)。しかし、高い水素の圧力や温度が必要であり、未だその反応メカニ
ズムは明らかになっていない。
本研究では、電子求引性の高いターピリジン誘導体を支持配位子として用い、水素の 活性化エネルギーを下げることができる水を溶媒分子として使うことによって 4)、常 温・常圧下で H2の活性化を行う新規ロジウム(III)錯体 [RhIII(HO-terpy)Cl3] (Rh_1) を開 発した。また、各反応の中間体を単離することによって新モンサント法の反応メカニズ ムを明らかにした。
2-2. 実験
2-2-1. 試薬および測定機器
すべての実験は、窒素下にて、標準的なシュレンク (Schlenk) 技術またはグローブボ ックスを用いて行った。H2 (99.9999%)、CO2 (99.995%)は、住友精化株式会社から購入し た。ヨードメタンは東京化成株式会社から購入した。4′-Hydroxy-2,2′:6′,2ʺ-terpyridine (HO-
terpy) は和光純薬工業株式会社から購入した。購入した試薬は、精製を行わずに実験に
使用した。
1H NMRスペクトルは、JEOL JNM-AL300 spectrometerとJEOL JNM-ESC400 FT-NMR
spectrometerを用いて記録した。DMSO-d6中での1H NMRスペクトル測定はテトラメチ
ルシラン (TMS) を内部標準として使用した。エレクトロスプレーイオン化質量分析法
(ESI-MS) のデータは JEOL JMS-T100LC AccuTOF により得た。FT-IR スペクトルは、
PerkinElmer Spectrum Two (個体) を用いて測定した。元素分析は、Yanaco CHN-coder MT- 5を用いて行なった。X線光電子分光法 (XPS) のデータは、350 W出力の単色Al-Kαの X線源を備えたPHI 5800 XPSシステムによって記録し、結合エネルギーは、配位子の 炭素原子のC 1s結合エネルギーを 285.0 eV と仮定して補正した5)。ガスクロマトグラ フィー質量分析法 (GC-MS) のデータは、SHIMADZU GCMS-QP 2010 を用いて記録し た。
2-2-2. [RhIII(HO-terpy)Cl3] (Rh_1) の合成
スキーム2-1. [RhIII(HO-terpy)Cl3] (Rh_1) の合成
RhCl3・3H2O (300 mg, 1.1 mmol)およびHO-terpy (284 mg, 1.1 mmol) のエタノール (40 mL) 溶液を 3 時間加熱還流した。得られたオレンジ色の粉末をろ過し、エタノールで 洗浄した (収率: 98%)。得られた粉末のN,N-ジメチルアセトアミド溶液にジエチルエー テルを蒸気拡散させることで、X線構造解析に適した単結晶を得た。1H NMR (300 MHz, DMSO-d6): δ 12.71 (1H, s, HO-terpy), 9.25 (2H, dd, H3, H3ʺ, 3JHH = 5.7 Hz), 8.61 (2H, d, H6, H6ʺ, 3JHH = 8.1 Hz), 8.33 (2H, dt, H4, H4ʺ, 3JHH = 7.8 Hz), 8.09(2H, s, H3′, H5′), 7.92 (2H, dt, H5, H5ʺ, 3JHH = 7.8 Hz)。FT-IR (cm-1, solid state): 3031 (aliphatic C–H), 1616 (aromatic C=C or C=N), 1601 (aromatic C=C or C=N), 1574 (aromatic C=C or C=N), 1470 (aromatic C=C or C=N), 1450 (aromatic C=C or C=N), 1422 (aromatic C=C or C=N)。Anal. calcd. for [Rh_1⋅C4H9NO]
(C19H20N4O2Cl3Rh): C, 41.82; H, 3.69; N, 10.27%. Found: C, 41.57; H, 3.82; N, 10.10%.
N N
N OH RhIIICl3⋅3H2O +
Ethanol N2, reflux
N
N N
RhIII Cl
HO Cl
Cl
0
Rh_1
2-2-3. [RhI(HO-terpy)Cl] (Rh_2)の合成
スキーム2-2. [RhI(HO-terpy)Cl] (Rh_2) の合成
Rh_1 (105 mg, 0.23 mmol) のメタノール溶液 (30 mL) を室温・水素雰囲気下 (0.1 MPa) で20時間撹拌した。得られた黒色の粉末をろ過し、メタノールで洗浄した (収率: 92%)。
得られた粉末のアセトニトリル溶液にジエチルエーテルを蒸気拡散させることで、X線 構造解析に適した単結晶を得た。FT-IR (cm-1, solid state): 3030 (aliphatic C–H), 1615 (aromatic C=C or C=N), 1600 (aromatic C=C or C=N), 1574 (aromatic C=C or C=N), 1468 (aromatic C=C or C=N), 1449 (aromatic C=C or C=N), 1421 (aromatic C=C or C=N).
in H2O
0 H2 (0.1 MPa), 25℃
0
N
N N
RhIII Cl
HO Cl
Cl
N
N N
RhI Cl HO
Rh_1
Rh_2
2-2-4. [RhIII(HO-terpy)(CH3)ClI] (Rh_3)の合成
スキーム2-3. [RhIII(HO-terpy)(CH3)ClI] (Rh_3) の合成
Rh_2 (90 mg, 0.23 mmol) のメタノール溶液 (20 mL) にヨードメタン (289 µl, 4.6
mmol) を加え10時間撹拌した。反応溶液をろ過し、溶媒を減圧留去した。アセトン (20
mL)を加え、得られた橙色沈殿をろ過することで回収した (収率: 21%)。得られた粉末の メタノール溶液を乾固させることで、X線構造解析に適した単結晶を得た。 ESI-MS (in MeOH): m/z 401.9 [Rh_3 – I–]+ {relative intensity (I) = 100% in the range of m/z 200-2000}. 1H NMR (300 MHz, DMSO-d6): δ 12.68 (1H, s, HO-terpy), 8.99 (2H, d, H3, H3ʺ, 3JHH = 5.4 Hz), 8.56 (2H, d, H6, H6ʺ, 3JHH = 8.1 Hz), 8.36 (2H, t, H4, H4ʺ3JHH = 8.4 Hz), 8.03 (2H, s, H3′, H5′), 7.90 (2H, dt, H5, H5ʺ3JHH = 7.2 Hz), 0.98 (3H, d, RhIII–CH3, 2JRhH = 2.1 Hz). FT-IR (cm-1, solid state): 2890 (aliphatic C–H), 2666 (aliphatic C–H), 1620 (aromatic C=C or C=N), 1603 (aromatic C=C or C=N), 1573 (aromatic C=C or C=N), 1470 (aromatic C=C or C=N), 1446 (aromatic C=C or C=N), 1418 (aromatic C=C or C=N).
in MeOH CH3I
0
N
N N
RhIII Cl HO CH3
I Rh_3 0
N
N N
RhI Cl HO
Rh_2
2-2-5. [RhIII(HO-terpy)(H2O)3](NO3)3 {[Rh_1ʹ](NO3)3}の合成
スキーム2-4. [RhIII(HO-terpy)(H2O)3](NO3)3 {[Rh_1ʹ](NO3)3} の合成
Rh_1 (300 mg, 0.65 mmol) と硝酸銀 (445 mg, 2.62 mmol) に300 mLの水を加え、12時 間加熱還流した。反応溶液をセライトろ過し、溶媒を減圧留去した。残留物にメタノー ル (40 mL) を加え、セライトろ過し、溶媒を減圧留去した。さらに、水 (20 mL) を加 え、セファデックスG-10カラムクロマトグラフィーによって残りの塩化銀を除去した。
その後、溶媒を減圧留去し、黄色粉末を回収した (収率: 55%)。ESI-MS (in H2O): m/z 367.9 [Rh_1ʹ – 2H2O – 2H]+ {relative intensity (I) = 100% in the range of m/z 200-2000}. 1H NMR (400 MHz, D2O): δ 8.98 (2H, d, H3, H3ʺ, 3JHH = 6.0 Hz), 8.43 (2H, d, H6, H6ʺ, 3JHH = 8.4 Hz), 8.36 (2H, t, H4, H4ʺ3JHH = 8.0 Hz), 7.92 (2H, dt, H5, H5ʺ3JHH = 7.6 Hz), 7.86 (2H, s, H3′, H5′).
H2O 3AgNO3 0
N
N N
RhIII Cl HO Cl
Cl Rh_1
3+
N
N N
RhIII OH2 HO OH2
OH2 [Rh_1ʹ](NO3)3 3AgCl
(NO3)3
2-2-6. 電気化学的測定
電気化学的分析は、nBu4NPF6 (100 mM) を電解質として含むRh_3のアセトニトリル 溶液 (0.2 mM) を用いて行なった。測定は室温にて、グラッシーカーボン電極を作用極 として、BAS660A電気化学測定装置を用いて行なった。Fc+/Fc (フェロセニウム/フェロ セン) を基準電位とし、掃引速度200 mV s-1 にてサイクリックボルタンメトリーの測定 を行なった。
2-2-7. X線構造解析
単結晶をガラス棒の先端に固定し、極低温 (100 K付近) で測定した。X線源として Mo-Ka照射 (λ= 0.71075 Å) を用い、反射強度および格子定数の測定は Rigaku/MSC
Saturn CCD X 線回折装置で行った。収集したデータの処理は、CrystalClear program
(Rigaku) を 用 い て 行 っ た 。 す べ て の 計 算 は 、Molecular Structure Corporation の
CrystalStructure結晶学的ソフトウェアパッケージを使用して実行した。
2-3. 結果と考察
2-3-1. 錯体の合成と同定
塩化ロジウム(III)とHO-terpyをエタノール中で加熱還流するとこで、黄褐色粉末の新 規ロジウム(III)錯体 Rh_1 を得た (スキーム 2-1)。得られた粉末の N,N-ジメチルアセト アミド溶液にジエチルエーテルを蒸気拡散させることで、X線構造解析に適した単結晶 を得た (図2-2、表2-1)。Rh_1のRhIIIイオンには、1分子のmeridional型HO-terpyの3 つの窒素と 3 分子の塩素イオンが配位した 6 配位の歪んだ八面体構造でることがわか った。さらに、1H NMRスペクトル (図2-3)、IRスペクトル (図2-4) により同定を行な った。
図2-2 Rh_1のORTEP図 (ellipsoids at 50% probability). 溶媒分子 (N,N-ジメチルアセトアミド) および O-H 以外の水素原子は省略している. 原子間距離 (l/Å) および角度 (f/˚):Rh1–N1 = 2.038(4), Rh1–N2 = 1.943(4), Rh1–N3 = 2.037(5), Rh1–Cl1 = 2.3406(14), Rh1–Cl2 = 2.3690(14), Rh1–
Cl3 = 2.3418(14), N1-Rh1-N2 = 80.94(18), N1-Rh1-N3 = 161.63(18), N2-Rh1-N3 = 80.75(19), N1-Rh1-C11 = 90.78(13), N1-Rh1-Cl2 = 99.94(13), N1-Rh1-Cl3 = 87.89(13), N2-Rh1-Cl1 = 87.89(14), N2-Rh1-Cl2 = 178.09(14), N2-Rh1-Cl3 = 89.73(14), N3-Rh1-Cl1 = 89.96(13), N3-Rh1-Cl2 = 98.41(14), N3-Rh1-Cl3 = 90.62(13), Cl1-Rh1-Cl2 = 90.39(5), Cl1-Rh1-Cl3 = 177.43(5), Cl2-Rh1-Cl3 = 92.00(5).
Rh1
Cl3 N1
N2
N3 O1
Cl1
Cl2 H1
表2-1 Rh_1の結晶学的データ
Rh_1 Formula C19H20N4O2Cl3Rh
Fw 545.66
Crystal system triclinic
Space group P-1 (No. 2)
a (Å) 8.4862(12)
b (Å) 11.1358(12)
c (Å) 12.5028(18)
a (deg) 68.820(7)
b (deg) 87.1587(10)
g (deg) 74.279(8)
V (Å3) 1059.0(3)
Z 2
µ (cm-1) 12.06
F(000) 548.00
Dcalcd(g/cm3) 1.711
Temperature (K) 93
Reflections collected 9034
Independent reflection 4579
(Rint = 0.0437)
Data/parameters 4579/262
R1[I > 2s(I)] 0.0519
wR2 (all data) 0.1617
Goodness-of-fit 1.091
図2-3 Rh_1の1H NMR スペクトル (DMSO-d6中). テトラメチルシラン (TMS) のメチル基の プロトン共鳴を0.00 ppmとして参照. †: DMSO
図2-4 Rh_1のFT-IRスペクトル (固体状態).
3000 2000 1000
波数 (cm-1)
ν(C=C or C=N)
†
H2O
15 10 5 0
N N RhIII N OH
ppm
TMS
2-3-2. Rh_1によるH2の活性化
Rh_1の水溶液を室温・常圧 (0.1 MPaの水素雰囲気下) で撹拌することで、黒色粉末 の低原子価ロジウム(I)錯体 [RhI(HO-terpy)Cl] (Rh_2) を得た (スキーム 2-2)。同定は、
単結晶X線構造解析 (図2-5)、X線光電子分光法 (XPS: X-ray photoelectron spectroscopy、
図2-6)、IRスペクトル (図2-7) により分析した。単結晶X線構造解析の結果から、HO-
terpy の3つの窒素と結晶化の溶媒分子として用いたアセトニトリルの 1つの窒素が配
位した平面四角形構造であることを明らかにした。また、Rh_2のXPSスペクトルでは、
Rh 3d3/2と3d5/2の電子の結合エネルギーが312.4と308.2 eVであり、ロジウム(III)錯体 Rh_1の値 (314.6と310.0 eV) より低いことを示している。この結果は、ロジウムイオ ンの酸化数が 1であることを示唆している6)。Rh_1は、メタノールやN,N-ジメチルア セトアミド溶液中においてもH2の活性化ができることから、HO-terpyによりRhIII中心 金属の電子密度が下がり、H2の電子が貯蔵可能となったと考えられる。H2の活性化反 応では、水素分子のヘテロリティックな開裂を行うため、溶媒分子がルイス塩基として 機能したと考えられる4)。
図2-5 Rh_2の ORTEP図 (ellipsoids at 50% probability). O-H以外の水素原子は省略している.
N1 Rh1 N2
N3 O1
H1
N4
図2-6 Rh 3d軌道領域における (a) Rh_1と (b) Rh_2のXPSスペクトル.
図2-7 Rh_2のFT-IRスペクトル (固体状態).
2-3-3. Rh_2によるヨードメタンの酸化的付加反応
Rh_2 とヨードメタンをメタノール中で撹拌することで、ヨードメタンが Rh_2 に対 し酸化的付加した黄色粉末のロジウム(III)錯体 [RhIII(HO-terpy)(CH3)ClI] (Rh_3) を得た
(スキーム 2-3)。得られた粉末のメタノール溶液を乾固させることで、X 線構造解析に
適した単結晶を得た (図2-8)。Rh_1のRhIIIイオンには、HO-terpyの3つの窒素と1分
3000 2000 1000
波数 (cm-1)
ν(C=C or C=N)
310
315 305
Binding energy (eV) (a)
Rh 3d3/2 310.0 Rh 3d5/2
314.6
312.4 308.2
(b)
子の塩素イオンが平面上に配位し、酸化的付加により生成したヨウ素イオンとメチル基 がz軸上に配位した6配位の歪んだ八面体構造であることがわかった。さらに、エレク トロスプレーイオン化質量分析 (ESI-MS、図2-9)、1H NMRスペクトル (図2-10)、IRス ペクトル (図2-11) により同定を行い、サイクリックボルタモグラム (CV、図2-12) に より、その性質を調べた。1H NMRスペクトルでは、メチル基のピークがRhIIIイオンと のスピン–スピン相互作用によるダブレットの分裂パータンを示した (2JRhH = 2.1 Hz) 7)。
図2-8 Rh_3のORTEP図 (ellipsoids at 50% probability). O-H以外の水素原子は省略している.
図2-9 Rh_3のESI-MSスペクトル (メタノール中). (b) m/z 401.9のシグナルは [Rh_3 – I]+ に対 応する. (c) [Rh_3 – I]+ の同位体分布の計算値. †: m/z 493.9 [Rh_3 – Cl]+
Rh1
C1 N1
N2 N3
O1
I1
Cl1 H1
500 1000 1500 1030
m/z (a)
m/z (b)
(c)
2000 1040
401.9 401.9
†
図2-10 Rh_3の1H NMRスペクトル (DMSO-d6中). テトラメチルシラン (TMS) のメチル基の プロトン共鳴を0.00 ppmとして参照. †: DMSO
図2-11 Rh_3のFT-IRスペクトル (固体状態).
15 10 5 0
ppm
H2O
N N RhIII N OH
CH3
TMS
†
3000 2000 1000
波数 (cm-1)
ν(C=C or C=N)
図 2-12 Rh_3のサイクリックボルタモグラム (アセトニトリル中). Fc+ = フェロセニウムイオ ン. Fc = フェロセン.
2-3-4. Rh_3によるCO2還元反応
Rh_3の水溶液を室温・二酸化炭素雰囲気下 (4 MPa) で24時間反応させたが、CO2の 還元はできなかった。図2-13aには、Rh_2とヨードメタンの反応後、Rh_3を単離する 前の試料を用いて測定した1H NMR スペクトルの結果を示す。図2-13b – 2-13eには、
それぞれの領域の拡大図を示す (9.9–9.1、2.82–2.74、2.00–1.92、1.34–0.75 ppm)。図2-13b にはHO-terpy由来 (d, H3, H3ʺ, 3JHH = 5.6 Hz) であると考えられる4種類のピークが観測 された (●: 9.60 ppm、●: 9.53 ppm、●: 9.44 ppm、●: 9.24 ppm)。図2-13eにはRhIII–CH3由 来 (d, 2JRhH = 1.6–2.4 Hz) であると考えられる3種類のピークが観測された (■: 1.26 ppm、
■: 0.98 ppm、■: 0.87 ppm)7)。0.98 ppm (■) はRh_3由来のピークであった (図2-10)。図
2-13fには、この試料を用いて同じく室温・二酸化炭素雰囲気下 (4 MPa) で反応させた
後の1H NMRスペクトルを示す。図2-13g – 2-13jには、図2-13b – 2-13eと同じ領域の 拡大図を示す。図2-13gから9.53 (●)、9.44 (●) ppmのピークが消失したことが確認でき
る。図2-13jから1.26 (■)、0.87 (■) ppmのピークが消失したことが確認できる。代わり
に、図2-13hの2.79 ppm (▲)と図2-12iの1.96 ppm (▲)には新たなピークが検出された。
これまで報告された RhIII–OOCCH3由来の領域 (1.81–2.65 ppm) に検出されたことから
-1.8 -1.4
E (V vs Fc+/Fc) -0.6
-0.4 -0.8 -1.0 -1.2 -1.6
Current (μA)
0
-50 50 100
8)、RhIII–CH3へCO2が挿入し、酢酸塩が生成したと考えらえる。H2の活性化やCO2の還 元において、中心金属に対して空配位座の生成が必要である4)。しかし、Rh_3のクロロ 配位子は中心金属と強い結合を生成するため、脱離せず CO2と反応しなかったと考え られる。それに対し、反応系にあるより脱離しやすい水やヨウ素イオンが配位した化学 種は、配位子の脱離によってCO2との反応が可能となり、酢酸が生成されたと考えられ る。配位子の影響を確かめるため、塩素イオンの代わりに水が配位した新規ロジウム (III)錯体 [RhIII(HO-terpy)(H2O)3](NO3)3 {[Rh_1ʹ](NO3)3} を合成し (スキーム2-4、図2-14、
2-15)、同様の実験を行なった結果、GC-MS により 5%の収率で酢酸の生成が確認でき
た。この結果から、[Rh_1ʹ](NO3)3 を触媒として用いることによって酢酸の合成に成功 し、CO2の還元において空配位座が重要であることを明らかにした (図2-16)。
図2-13. (a) Rh_2とヨードメタンの反応直後の1H NMRスペクトル (DMSO-d6中). (b-e)スペクトル (a) の9.9–9.1、2.82–2.74、2.00–1.92、1.34–0.75 ppm領域の拡大図. (f) CO2 (4 MPa、メタノール中)と反応後の 1H NMRスペクトル (DMSO-d6中). (g-j)スペクトル (f) の9.9–9.1、2.82–2.74、2.00–1.92、1.34–0.75 ppm領域の拡大図. テトラメチルシラン (TMS)のメチル基のプロトン共鳴を0.00 ppmとして参照. †: DMSO ppm 02468101214ppm 02468101214
ppm 9.29.49.69.8ppm 2.78ppm 9.29.49.69.8ppm 2.78
ppm 1.96ppm 0.81.01.2ppm 1.96ppm 0.81.01.2 (a)(b)(d) (c)
(e) (f)(g)
(i) (h)
(j)
図2-14 [Rh_1ʹ](NO3)3のESI-MSスペクトル (水中). (b) m/z 367.9のシグナルは [Rh_1ʹ – 2H2O – 2H]+ に対応する. (c) [Rh_1ʹ – 2H2O – 2H]+ の同位体分布の計算値. †: m/z 430.9 [Rh_1ʹ – 2H2O – H + NO3]+.
図2-15 [Rh_1ʹ](NO3)3の1H NMRスペクトル (D2O中). †: H2O
†
10 8 4 0
N N RhIII N OH
ppm
6 2
500 1000 1500 365
m/z (a)
m/z (b)
(c)
2000 370
367.9 367.9
†
図2-16 (a) Rh_1および (b) Rh_1ʹによる新モンサント法の触媒サイクル.
2-4. 結論
本章では、電子求引性の高いターピリジン誘導体と用い、水の効果を利用することで、
常温・常圧でH2の2電子を貯蔵可能なロジウム(III)錯体を合成し、CO2の還元反応によ る酢酸の合成に成功した。H2から電子を貯蔵したロジウム(I)錯体の生成は、X線構造解 析およびX線光電子分光法 (XPS) により明らかにした。また、それぞれの反応中間体 を単離することで新モンサント法の反応メカニズムを明らかにした。
2-5. 参考文献
1 A. W. Budiman, J. S. Nam, J. H. Park, R. I. Mukti, T. S. Chang, J. W. Bae, M. J. Choi, Catal.
Surv. Asia 2016, 20, 173–193.
2 P. M. Maitlis, A. Haynes, G. J. Sunley, M. J. Howard, J. Chem. Soc. Dalton Trans. 1996, 2187–2196.
3 (a) M. Cui, Q. Qian, J. Zhang, C. Chen, B. Han, Green Chem. 2017, 19, 3558–3565. (b) Q.
L. Qian, J. J. Zhang, M. Cui, B. X. Han, Nat. Commun. 2016, 7, 11481–11487.
4 S. Ogo, Coord. Chem. Rev. 2017, 334, 43–53.
5 J. F. Moulder, W. F. Stickle, P. E. Sobol and K. D. Bomben, Handbook of X-ray Photoelectron Spectroscopy, Physical Electronics, Inc., Minnesota 1995.
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(b) Y. Okamoto, N. Ishida, T. Imanaka, S. Teranishi, J. Catal. 1979, 58, 82–94.
7 (a) M. E. O'Reilly, D. R. Pahls, J. R. Webb, N. C. Boaz, S. Majumdar, C. D. Hoff, J. T. Groves, T. R. Cundari, T. B. Gunnoe, Dalton Trans. 2014, 43, 8273–8281. (b) O. V. Ozerov, C. Guo, V. A. Papkov, B. M. Foxman, J. Am. Chem. Soc. 2004, 126, 4792–4793. (c) L. Gonsalvi, J.
A. Gaunt, H. Adams, A. Castro, G. J. Sunley, A. Haynes, Organometallics 2003, 22, 1047.
8 (a) G. Kohl , H. Pritzkow, M. Enders, Eur. J. Inorg. Chem. 2008, 4230–4235. (b) M. Basato, A. Biffis, G. Martinati, C. Tubaro, C. Graiff, A. Tiripicchio, L.A. Aronica, A. M. Caporusso, J. Organomet. Chem. 2006, 691, 3464–3471. (c) T. Yoshimura, K. Umakoshi, Y. Sasaki, Chem. Lett. 1999, 267–268.
第 3 章 ジスプロシウム(III)錯体を用いたエネルギー貯蔵触媒の 開発
概要
本研究では、光のエネルギーが貯蔵可能な発光性ジスプロシウム(III)錯体 (Dy_1) の 開発に初めて成功し、酸素 (3O3) へのエネルギー移動反応による光物性の変化からエネ ルギー貯蔵能力を評価した。窒素下 (Φ = 0.05、τ = 17.7 µs) および酸素下 (Φ = 0.011、τ
= 4.1 µs) において発光挙動が変化し (Ksv = 305 M-1、THF中)、Dy_1を導入したポリス チレンフィルムもその触媒能力を示した (Ksv = 0.0077%-1)。反応メカニズムは、Dy_1と 同じ配位子を用いたガドリニウム(III)錯体 (Gd_1) の光物性を用いて議論した。
H. Nakai, J. Seo, K. Kitagawa, T. Goto, T. Matsumoto, S. Ogo, Dalton Trans. 2016, 45, 9492–9496.
3-1. 序
酸素 (3O2) へのエネルギー移動反応が起こる (酸素応答性を示す) エネルギー貯蔵 触媒は、環境・生物学分野における光学センサーの材料として用いられている1)。中で も、ランタニド錯体は、その特異な発光特性 (大きいストークスシフト、鋭い発光ピー ク、長い発光寿命) のため近年注目を集めている。これまで、酸素応答性を示すランタ ニド錯体として、赤 (Eu)2)・緑 (Tb)3,4)・近赤外 (Nd、Er、Yb)5)の発光を示すランタニド 錯体が報告されている。しかし、実用化に向けて利用できる色は赤・緑に限られており、
酸素応答性を示す黄色発光のDy錯体は未だ報告されていない6)。
2014年、Nakaiらは環状ポリアミン 1,4,7-triazacyclononane (tacn) の窒素にフェニル基 を修飾した配位子 {(MeMeArO)3tacn}3– を用いて、高い発光強度 (Φ = 0.91、窒素下) お よ び 高 い 酸 素 応 答 性 (Φ = 0.054、 空 気 下) を 示 す テ ル ビ ウ ム(III)錯 体 [{(MeMeArO)3tacn}TbIII(THF)] (Tb_1) を報告した (図3-1a)4b)。
本 研 究 で は 、{(MeMeArO)3tacn}3– を 配 位 子 と し た ジ ス プ ロ シ ウ ム(III)錯 体 [{(MeMeArO)3tacn}DyIII(THF)] (Dy_1) の合成し、その光物性および酸素応答性について調 べた (図3-1b)。
図 3-1 酸素応答性を示す (a) テルビウム(III)錯体 (Tb_1) と (b) ジスプロシウム(III)錯体 (Dy_1).
(a) Tb_1 (Ln = Tb) (b) Dy_1 (Ln = Dy)
N N
N O
Ln
IIIO
O
O
3-2. 実験
3-2-1. 試薬および測定機器
すべての実験は、窒素下またはアルゴン下にて、標準的なシュレンク (Schlenk) 技術 またはグローブボックスを用いて行った。DyIII(OTf)3とポリスチレン (Mw 35000) は Aldrich社から購入した。N2ガス (99.999)、N2/O2混合ガス (70/30%、50/50%、25/75%)、
O2 ガ ス (99.9999) は 、 住 友 精 化 株 式 会 社 か ら 購 入 し た 。{(MeMeArOH)3tacn} = {(CH2(CH3)2C6H2OH)3C6H12N3} は文献に従って合成した7)。
UV/Vis吸収スペクトルは、JASCO V-670 UV-visible-NIR Spectrometer (光路長:10.0 mm) を用いて行なった。元素分析はYanaco CHN-coder MT-5を用いて行なった。スピンコー
トはMikasa MS-A100を用いて行なった。
発光と励起スペクトル、発光寿命 (>20 µs)、発光量子収率は Horiba Jobin Yvon FluoroMax-4P Spectrofluorometerを用いて測定した。発光寿命 (<20 µs) は、NanoLED (300 nm) と TBX-850 detector (250-850 nm) を 搭 載 し た Horiba Jobin Yvon DeltaFlex
Spectrofluorometerとシャープカットフィルター (L-42) を用いて測定した。二成分以上
から発光を示す試料の発光寿命を測定する場合、減衰曲線に双指数関数の近似を適用し て解析した。これにより、二成分の発光寿命 (τ1、τ2) を算出した。低温 (–100 ℃) での 発光スペクトルは、Unisoku thermostated cell holder USP-203-Aを用いて測定した。発光 量子収率は以下に示す式に従い、標準物質との相対強度を用いることで測定した。
Φx/ Φst = [Ast(λ)/Ax(λ)][Ix/Ist][nx2/nst2]
ここで標準物質として硫酸キニーネ (Φ = 0.60) を用い、Φは量子収率、Aは吸光度、
Iは発光強度、nは使用した溶媒の屈折率を示している 8)。また、添字のstおよび xは それぞれ標準物質と試料を表している。全ての分光学測定は3回以上行なった。
酸素応答性の評価は、N2ガス、N2/O2混合ガス (70/30%、50/50%、25/75%)、O2ガス、
空気を用いて測定した (流量 > 5 mL min-1; 時間 > 5 min)。図3-9と3-14のTHF溶液中 における酸素濃度 (1.01、0.75、0.50、0.30、0.00 x 10-2 M) は文献に従って計算した9)。
3-2-2. [{(MeMeArO)3tacn}DyIII(THF)] (Dy_1) の合成
スキーム3-1. [{(MeMeArO)3tacn}DyIII(THF)] (Dy_1)の合成
{(MeMeArOH)3tacn} (300 mg、0.56 mmol) およびDyIII(OTf)3 (344 mg、0.56 mmol) のア セトン/THF (100/1、10 mL) 混合溶液を室温で5分間撹拌した。その後トリエチルアミ ン (0.26 mL、1.85 mmol) を加え、さらに3時間撹拌した。得られた白色粉末をろ過し、
アセトンで洗浄した (収率: 70%)。得られた粉末の酢酸エチル/THF (1/1) 溶液を乾固さ せることで、X 線構造解析に適した単結晶を得た。UV/vis (THF): λmax/nm (ε/M-1 cm-1) = 302 (13000). Anal. calcd. for [{(MeMeArO)3tacn}DyIII(THF)] (C37H50DyN3O4): C, 58.22;
H, 6.60; N, 5.51%. Found: C, 58,16; H. 6.63; N, 5.44%.
3-2-3. Dy_1/PSの作成
Dy_1 (0.050 g L-1) とポリスチレン (PS、9.950 g L-1) を含むジクロロメタン溶液を調 製し、その溶液 (45 µL) を石英基盤 (20.0 mm × 7.0 mm) 上に滴下した。その後、スピ ンコート (120秒間で0 – 500 rpmまで回転数をスロープアップ) することでDy_1/PSを 作製した。
3-2-4. X線構造解析
単結晶をガラス棒の先端に固定し、極低温 (100 K付近) で測定した。X線源として Mo-Ka照射 (λ= 0.71075 Å) を用い、反射強度および格子定数の測定は Rigaku/MSC
Saturn CCD X 線回折装置で行った。収集したデータの処理は、CrystalClear program
Acetone/THF i) DyIII(OTf)3 ii) NEt3
Dy_1 N
N
N OH
OH
HO
{(MeMeArOH)3tacn}
N N
N O
DyIII O
O O
(Rigaku) を 用 い て 行 っ た 。 す べ て の 計 算 は 、Molecular Structure Corporation の
CrystalStructure結晶学的ソフトウェアパッケージを使用して実行した。結晶学的データ
は、Cambridge Crystallographic Data Center (CCDC) にSupplementary Publication No. CCDC
1465217 (Dy_1) として保管されている。
3-3. 結果と考察
3-3-1. Dy_1の合成と同定
1,4,7-tris(3,5-dimethyl-2-hydroxybenzyl)-1,4,7-triazacyclononane {(MeMeArOH)3tacn} と
DyIII(OTf)3のアセトン/THF (100/1) 溶液にトリエチルアミンを加え、室温で3時間撹拌
することで白色粉末のジスプロシウム(III)錯体 Dy_1 を得た (スキーム 3-1)。得られた 粉末の酢酸エチル/THF (1/1) 溶液を乾固させることで、X線構造解析に適した単結晶を 得た (図3-2a、表3-1)。Dy_1のDyIIIイオンは、tacn骨格中の3つの窒素原子、フェニ ル基の 3 つの酸素原子、結晶化溶媒である THF の酸素原子が配位した 7 配位の monocapped octahedron幾何構造であることがわかった (図3-2b)。
図3-2 (a) Dy_1のORTEP図 (ellipsoids at 50% probability) . 水素原子は省略している. 原子間距 離 (l/Å) および角度 (f/˚):Dy1–N1 = 2.547(4), Dy1–N2 = 2.530(4), Dy1–N3 = 2.523(4), Dy1–O1 = 2.176(3), Dy1–O2 = 2.190(3), Dy1–O3 = 2.180(3), Dy1–O4 = 2.460(3), O1–Dy1–O4 = 79.51(12), O2–
Dy1–O4 = 80.52(12), O3–Dy1–O4 = 75.10(12). (b) Dy_1のDyIIIイオンに配位している原子による幾 何構造.
Dy1 O1
N1 N2
N3 O3
O4
O2
(a) (b)
O3
O4
O1
O2
N2 N3
N1
Dy1
表3-1 Dy_1の結晶学的データ
Dy_1 Formula C37H50N3O4Dy
Fw 763.32
Crystal system Triclinic
Space group P-1 (No. 2)
a (Å) 7.9076(14)
b (Å) 14.308(3)
c (Å) 16.300(3)
a (deg) 68.911(6)
b (deg) 76.832(9)
g (deg) 85.214(9)
V (Å3) 1675.4(6)
Z 2
µ (cm-1) 22.77
F(000) 782.00
Dcalcd(g/cm3) 1.513
Temperature (K) 112
Reflections collected 20482
Independent reflection 7646
(Rint = 0.032)
Data/parameters 7646/412
R1[I > 2s(I)] 0.0421
wR2 (all data) 0.1283
Goodness-of-fit 1.166
3-3-2. Dy_1の光物性評価
図3-3にはDy_1のUV/vis吸収スペクトルを示す (室温、THF中)。吸収帯である302
nm (ε = 13 × 103 M−1 cm−1) は、フェニル基 (MeMeArO–) のπ → π* 遷移に由来する10)。吸 収帯はTb_1と同様に、配位子よりわずかにレッドシフトしている4b)。
図3-3 Dy_1のUV/vis吸収スペクトル (室温、THF中).
図3-4には窒素下におけるDy_1の発光スペクトルを示す (赤色、室温、THF中、λex
= 300 nm)。典型的なDyIIIイオンの4f–4f遷移由来の4つのピークが観測された。青色発
光を示す485 nmと黄色発光を示す575 nmのピークは、4F9/2 → 6HJ遷移 (J = 15/2と13/2) によるものであった6)。また、664 と752 nmの弱いピークは、4F9/2→ 6H11/2と4F9/2 →
6H9/2 + 6F11/2 遷移によるものであった。この発光スペクトル全体の色度座標 (CIE coordinates)は、黄色の領域に位置する (x = 0.456、y = 0.461、図3-5)。黄色発光 (電気双 極子遷移由来:4F9/2 → 6H15/2、ΔJ = 2) と青色発光 (磁気双極子遷移由来) の面積比は
5.2 (黄色/青色) となった。これは DyIIIイオンが対称性の低い環境に置かれていること
示し (反転対称性がない)11)、単結晶 X 線構造解析から得られた結果とも良い一致を示 した (図3-2b)。
配位子から DyIII イオンへの有効なエネルギー移動は、(i) 配位子由来の発光はない
(図3-4、赤色)、(ii) Dy_1のUV/vis吸収と励起スペクトルがよい一致を示すことから示
唆された (図3-6、室温、THF中、検出波長: 575 nm)。窒素下におけるDy_1の量子収率 400
300 500 600 700
0 10 5 15 20
波長 (nm) ε/103 M-1 cm-1
800
は5 %、発光寿命は17.7 µsであり (図3-7a、室温、THF中)、過去に報告された発光性 ジスプロシウム(III)錯体の中でも優れた量子収率を示した (Φ = 0.01–0.12、溶液状態)6)。
図3-4 Dy_1の発光スペクトル (赤色:N2下、青色:O2下、室温、THF中、λex = 300 nm、6.2 × 10-5 M).
図3-5 Dy_1のCIE色度座標 (室温、THF中、λex = 300 nm)。
強度
400
300 500 600 700
波長 (nm)
800
(0.456, 0.461)
Dy_1
図3-6 Dy_1のUV/vis吸収スペクトル (破線、室温、THF中) と励起スペクトル (赤色、室温、
THF中、検出波長: 575 nm).
図3-7 (a) Dy_1の (a) N2下 (赤色、17.7 µs) および (b) O2下 (青色、4.1 µs) における発光減衰 曲線 (室温、THF中、λex = 300 nm). 単一指数関数を用いた近似曲線 (黒色).
強度
400
300 500 600 700
波長 (nm)
800
(b)
強度
20
0 40 60 80
時間 (μs) (a)
強度
20
0 40 60 80
時間 (μs)
3-3-3. Dy_1の酸素応答性評価
酸素下におけるDy_1の発光量子収率は1.1 %、発光寿命は 4.1 µsであった (図3-4青 色、3-7b)。窒素と酸素を交互に吹き込んだ際、発光強度は少なくとも10回以上よい可 逆性を示した (図 3-8、室温、THF中)。さらに、Dy_1 が示す酸素応答性はスターンボ ルマー式 (I0/I = 1 + KSV[O2]) (I0: 窒素下における発光強度、I: 酸素存在下における発光 強度、[O2]: 酸素濃度、KSV: スターンボルマー定数) により評価した。THF溶液中、酸 素濃度 0.00 (窒素下) から 1.01 × 10−2 M (酸素下) における Dy_1 のスターンボルマー
図3-8 Dy_1の室温・THF溶液中において窒素と酸素を交互に吹き込んだ場合の発光強度 (575 nm) の可逆的な変化 (赤色:N2下、青色:O2下、5.7 × 10-6 M).
図3-9 Dy_1のスターンボルマープロット (I0:窒素下における発光強度、I:酸素存在下におけ る発光強度、KSV = 305 M–1、R2 = 0.9937、室温、THF中、λex = 300 nm、検出波長: 575 nm、1.5
× 10-6 M).
規格化した強度
1
0 2 3 4
繰り返し回数
6 7 8
5 9 10
0 1
I0/I
0.20
0.00 0.40 0.60 0.80
酸素濃度 (10-2 M)
1.00 1
2 3 4
プロットは良好な直線関係を示した (図3-9、KSV = 305 M-1、R2 = 0.9937)。Dy_1のKSV
は Tb_1 (8300 M-1)4b) よりは低い値であったが、この結果からジスプロシウム錯体も適
切な配位子を用いると、酸素応答性を示すことが可能であることが示唆された。
また、Dy_1 を導入したポリスチレンフィルム (Dy_1/PS) も酸素応答性を示した (図
3-10)。Dy_1/PSの酸素濃度0 (窒素下) から 100% (酸素下) におけるスターンボルマー
プロットは良好な直線関係を示した (図3-11、KSV = 0.0077%-1、R2 = 0.9925)。Dy_1/PS のI0/I100 (1.90、I0 = 窒素下における発光強度、I100 = 酸素下における発光強度) は、ラン タニド錯体を用いた酸素センサーの中でも優れた値を示した (I0/I100 = 1.19–3.38)1a)。
図3-10 Dy_1/PSの発光スペクトル (赤色:窒素下、青色:酸素下、室温、THF中、λex = 300 nm).
図3-11 Dy_1/PSのスターンボルマープロット (I0:窒素下における発光強度、I:酸素存在下に
おける発光強度、KSV = 0.0077 %–1、R2 = 0.9925、室温、λex = 300 nm、検出波長: 575 nm).
強度
400
300 500 600 700
波長 (nm)
800
I0/I
20
0 40 60 80
酸素濃度 (%)
100 1
1.5 2
3-3-4. Dy_1の酸素応答メカニズム
一般的な発光性ランタニド錯体における酸素応答メカニズムは、配位子の最低励起三 重項 (T1) とランタニドイオンの最低励起エネルギー準位の平衡状態形成により説明さ
れる 1c,2,3)。平衡状態では、周りの熱によりランタニドイオンから T1へエネルギーが戻
り、3O2 へのエネルギー移動が起こり始め、ランタニド錯体の発光が減少する。平衡状 態を作るためには、T1 とランタニドイオンの最低励起エネルギー準位のエネルギー差
(ΔE) が重要である。しかし、ジスプロシウム(III)錯体の場合は、適切なエネルギー差を
有しても、DyIIIイオンの発光寿命が他の酸素応答性を示すランタニドイオンに比べ短い ため、平衡状態を作ることが難しいと考えられてきた1c,3c)。従って、酸素応答性を示す ジスプロシウム(III)錯体を作るためには、適切なエネルギー差を有すると同時に、長い 寿命を持つT1が必要となる。
Dy_1のT1準位は、ガドリニウム(III)錯体 [{(MeMeArO)3tacn}GdIII(THF)] (Gd_1) のリン 光スペクトルから計算した (図3-12、22940 cm-1)。また、DyIIIイオンの最低励起エネル ギー準位 (4F9/2) は、Dy_1の発光スペクトルから計算し (20619 cm-1、図3-4)、T1と4F9/2
のエネルギー差は2321 cm-1であった。発光寿命は、平衡状態 (4F9/2からT1への逆エネ ルギー移動が起こる) を作るため十分長いと考えられる。低温 (–100 ℃) においては、
発光強度は増加し (図3-13)、酸素応答性は減少した (図3-14)。これは熱による逆エネ ルギー移動が起こることを示す。Gd_1のリン光寿命により、Dy_1のT1寿命は τ = 315 µsであると予想され (図3-15)、平衡状態を作るのに十分長いと考えられる。また、Dy_1 のDyIIIイオンを直接励起 (λex = 470 nm、 6H15/2 → 4F9/2) させたときも酸素応答性を示し
(図3-16)、この結果からもT1と4F9/2の平衡状態が形成されていることがわかる。
図3-12 Gd_1 (結晶) の発光スペクトル (アルゴン下、室温、λex = 250 nm). 励起時点から測定開 始までの間隔: 50 µs.
図3-13 Dy_1の (a) N2下と (b) O2下における発光スペクトル (赤色: –100 ℃、黒色: 室温、THF 中、λex = 300 nm).
強度
400
300 500 600 700
波長 (nm)
800
(a)
強度
400
300 500 600 700
波長 (nm)
800
強度
400
300 500 600 700
波長 (nm)
800 (b)
図3-14 Dy_1の–100 ℃ (▲、1.5 × 10-5 M、KSV = 274 M-1、R2 = 0.9998) および室温 (●、1.5
× 10-5 M、KSV = 317 M-1、R2 = 0.9999) におけるスターンボルマープロットスターンボルマー プロット (I0:窒素下における発光強度、I:酸素存在下における発光強度、THF 中、検出波長:
485 nm ).
図3-15 Gd_1 (結晶) のアルゴン下における発光減衰曲線 (青色、室温. 検出波長: 436 nm、λex
= 250 nm). 双指数関数を用いた近似曲線 (黒色、τ1 = 315 µs、成分比1 = 70%、τ2 = 155 µs、成分 比2 = 30%).
I0/I
0.20
0.00 0.40 0.60 0.80
酸素濃度 (10-2 M)
1.00 1
2 3 4
強度
1
0 2 3
時間 (ms)
図3-16 Dy_1の4F9/2 → 6H13/2遷移由来の発光スペクトル (赤色: N2下、青色: O2下、室温、
THF中、λex = 470 nm)
560 580
波長 / nm
600
強度
3-4. 結論
本章では、環状ポリアミンにフェニル基を修飾した配位子 {(MeMeArOH)3tacn} を用い ることによって、ジスプロシウム(III)錯体を用いたエネルギー貯蔵触媒の開発に初めて 成功した。窒素下と酸素化において発光挙動が変化することから、一次的に貯蔵した光 のエネルギーが酸素 (3O2 ) へ移動し、エネルギー貯蔵触媒として働くことを明らかに した。この錯体の酸素に応答する発光強度が温度依存性を示すこと、DyIIIイオンの直接 励起による発光強度も酸素に応答することから、従来のランタニド錯体と同じメカニズ ムでエネルギーが貯蔵されることを明らかにした。
3-5. 参考文献
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