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本論文では、金属錯体が示す反応特性と金属イオンが置かれた配位環境へ密接な関係 があることに着目し、配位環境を利用した電子・エネルギー貯蔵触媒の特性制御を目的 とした。その結果、(i) 電子求引性の高いターピリジン配位子を用いることによって、

CO2を還元する電子貯蔵触媒の開発 (第 2 章)、(ii) 長い T1寿命を持つキレート配位子

(環状ポリアミン + フェニル配位子) を用いることによって、ジスプロシウム(III)錯体

を用いたエネルギー貯蔵触媒の開発 (第3章) およびキレート配位子のアルキル置換基 の立体効果によってテルビウム錯体(III)が示す励起寿命の制御 (第 4 章) に成功した。

以下に、結果の概略を記す (図5-1)。

図5-1 本研究の概要.

第2章

本章では、電子求引性の高いターピリジン配位子を用いることによって、H2の 2 電 子を貯蔵可能なロジウム(III)錯体を合成し、常温・常圧における H2 の活性化に成功し た。H2から電子を貯蔵したロジウム(I)錯体の生成は、単結晶X線構造解析とX線光電 子分光法 (XPS) により明らかにした。ロジウム(I)錯体は、CH3Iを還元することでRhIII– CH3結合を持つロジウム(III)錯体を生成した。また、塩素イオンの代わりにより脱離し やすい水分子を導入することによって CO2 の還元による酢酸の合成に成功し、初めて 新モンサント法の反応メカニズムを明らかにした。従来の電子貯蔵触媒に対し、1つの 金属イオンに 2 電子を貯蔵することで還元力が向上し、初めての CO2の還元反応に達 成したと考えられる。この結果から、

第3章

本章では、長いT1寿命を有するキレート配位子 {(MeMeArOH)3tacn} を用いることによ って、ジスプロシウム(III)錯体を用いたエネルギー貯蔵触媒の開発に初めて成功した。

窒素下と酸素下において発光挙動 (量子収率、発光寿命) が変化することから、一次的 に貯蔵した光のエネルギーが酸素 (3O2 ) へ移動し、エネルギー貯蔵触媒として働くこ とを明らかにした。この錯体の酸素に応答する発光強度が温度依存性を示すこと (温度 低下に伴う発光強度の増加と酸素応答性の減少)、DyIIIイオンの直接励起による発光強 度も酸素に応答することから、従来のランタニド錯体と同じメカニズムでエネルギーが 貯蔵されることを明らかにした (ランタニドイオンから T1 への逆エネルギー移動によ るT1の長寿命化)。通常、DyIIIイオンは他のランタニドイオンに比べ短い励起寿命を持 つため、DyIIIイオンから T1への逆エネルギー移動が起こらない。それに対し、今回の 配位子は (i) 長い T1寿命と (ii) DyIIIの励起準位との適切なエネルギー差を持つことに よって、初めてDyIIIからT1への逆エネルギー移動によるエネルギー貯蔵に達成したと 考えらえる。

第4章

本章では、キレート配位子 {(RMeArOH)4cyclen} (R = tBu、Me) の置換基 (R) の立体効 果を利用して、エネルギー貯蔵可能な8または7配位構造のテルビウム(III)錯体を合成 し、テルビウム(III)錯体のエネルギー貯蔵能力 (励起寿命) の制御に成功した。配位子 の軌道と混合しない f 軌道の電子を持つため、多様な配位数 (2-12) を示すランタニド 錯体の配位環境を、簡単なアルキル基の立体効果を利用して制御し、それをテルビウム (III)錯体が示す励起寿命の制御まで繋げた。配位環境が置換基によって制御されること は、添加する塩基の量に関係なく、用いた置換基 (配位子) によって同じ配位構造の錯 体が合成されることから明らかにした (R = tBuの場合は8配位、R = Meの場合は7配 位構造)。励起寿命は、前章と同様に3O2へのエネルギー移動反応を用いて確認した。酸 素濃度の変化に伴う発光強度の変化からスターンボルマー定数 (KSV) を算出し、励起 寿命を比較した。KSVの値が、(i) 配位子とTbIIIイオンの結合距離、(ii) ガドリニウム(III) 錯体が示す発光寿命と相関があることから、テルビウム(III)錯体における励起寿命が、

配位子とTbIIIイオンの結合距離で制御されたことを見出した。

本論文では、次世代の電子 (H2) またはエネルギー (光) 資源を用いた貯蔵触媒の反 応特性が、金属錯体の配位環境で制御されたと言える。具体的には、電子貯蔵触媒を用 いた CO2 還元反応系を構築し、エネルギー貯蔵触媒におけるランタニド錯体の領域を 拡張した。また、電子・エネルギーを効率的に貯蔵するための分子設計指針を提供し、

目的に適した配位環境構築の重要性を示唆した。これは、錯体化学だけではなく、触媒 化学・光化学・グリーンケミストリー分野にかけて大きな意義があると思う。今後、本 論文で得られた成果が、革新的な電子・エネルギー貯蔵触媒の開発につながることを期 待する。

発表論文目録

第3章 ジスプロシウム(III) 錯体を用いたエネルギー貯蔵触媒の開発

“An oxygen-sensitive luminescent Dy(III) complex”

Nakai, H.; Seo, J.; Kitagawa, K.; Goto, T.; Matsumoto, T.; Ogo, S.

Dalton Trans. 2016, 45, 9492–9496.

第4章 テルビウム(III) 錯体によるエネルギー貯蔵触媒の励起寿命制御

“Control of Lanthanide Coordination Environment: Synthesis, Structure, and Oxygen-Sensitive Luminescence Properties of an Eight-Coordinate Tb(III) Complex”

Nakai, H.; Seo, J.; Kitagawa, K.; Goto, T.; Nonaka, K.; Matsumoto, T.; Ogo, S.

Inorg. Chem. 2016, 55, 6609−6615.

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