早稲田大学大学院 環境・エネルギー研究科
博士論文審査報告書
論 文 題 目
日本からアジア圏までの広域資源循環システム の設計と開発に関する研究
Design and Development of a Wide-Area Resource Recycling System in Japan and Asia
申 請 者
胡
浩
Hao HU
環境・エネルギー研究科 環境配慮デザイン研究
2011年 2月
1
わが国の廃棄物処理・リサイクルに関する基本的対応は、大きな転換期を迎えている。その背景のひとつには、
収集・回収から処理までの一連の流れにおける環境負荷の低減とリサイクルの高度化を求める循環型社会構築 への強い要請である。また、循環資源の活用先である産業の急速な海外移転も大きな影響を与えている。加えて わが国では資源の確保、とりわけ近年その困難性が指摘されている希少性資源に関しては、国内産業の維持か らも重要で、その対応として廃棄物からの回収を目指した「都市鉱山」開発の必要性が指摘されている。
以上のような情況での転換の方向の答えのひとつは、これまでの自区域内処理からの脱却であり、廃棄物リ サイクルの広域化である。しかしながら広域化にあたっては、そのためのインフラストラクチャーの整備状況や循 環資源の需要をベースに、廃棄物の特性に合わせた低環境負荷化、安全・安心の確保、高効率・高能率化、高度 資源化が図られなければならない。
本研究では上記を踏まえたうえで、環境性と経済性の両面からわが国をはじめ、アジア圏との連携を含めた広 域的な資源循環のあり方を攻究したものであり、時宜を得た意義深いものである。
本論文は、8章から構成されている。
第1章は序章であり、本研究の背景、目的を明らかにするとともに、日本国内の廃棄物や循環資源の広域処理 と日中間の国際資源循環に関する従来研究を整理している。とくに長距離輸送を含めたシステム全体の安全の 確保および周辺住民の安心感の醸成の重要性を示し、本研究の新規性・独自性・必要性を示している。さらに、国 内外における廃棄物処理・資源循環の広域化をめぐる問題点とその対応について述べている。
第2章では、環境性・経済性の両者を考慮した静脈施設・技術の評価法である BAS 評価手法の開発について 述べている。
処理対象物の排出から収集・運搬、輸送・中間処理、最終処分まで多岐にわたるプロセスに対応可能な BAS 評 価手法の開発を行っている。環境負荷の定量化については、統合化指標 ELP(Environmental Load Point)を活用 することで、単一指標のみではなく、地球温暖化や大気汚染等の9つのインパクトカテゴリーを統合的に評価可能 であり、カテゴリー間のトレードオフ関係も包含できるものとなっている。コストの推定に関しても、LCC(Life Cycle Cost)の考え方に基づき、基本的には施設の建設から運用までを評価対象としている。
BAS の中核部分となる中間処理の評価に関しては、実績値と推定値のいずれかが選択でき、前者は既存施設 の評価に、後者は施設新設や広域化計画の検討の際の評価に活用することを想定している。推定値ベース型の 設定にあたっては、プラントメーカー14 社よりの施設別・規模別の基本性能・環境性能・コスト情報をもとに、各社 の専門家集団によるブレーンストーミングによって、単純焼却や焼却発電、ガス化溶融、灰溶融、溶融飛灰の山 元還元、灰水洗等の中間処理に関するLCI(Life Cycle Inventory)とLCCのデータベース(以下、DBと表記)を構築 している。また、推定値ベース型に対応する収集・回収の環境負荷・体制・コスト等の評価手法には、グリッドシテ ィモデルを導入し、シミュレーション精度の向上を図っている。
さらに開発した BAS 評価手法をパッケージ版ソフトウェアとして実現し、数カ所の自治体での試用を通じて、そ の改善を行うとともに、高い評価を受けている。
第3章では、開発した BAS 評価手法を用いて個別施設の環境性能の改善と広域化対応について検討し、評価 手法の有効性を示すとともに広域化の環境性・経済性の両者における効果について述べている。
千葉県 I 市を例に、収集・回収から中間処理、最終処分までの一貫を評価範囲とし、処理方法の変更を行う場合 のシナリオ評価を行い、現状と比較した場合の環境負荷とコストの変化を定量的に示している。その結果では、ガ ス化溶融と山元還元を組み合わせたケースが費用対効果の面で最も有効であるとしている。しかしながら、対象 としたいずれのケースも環境負荷の低減がコスト増を招くものとなっており、コスト削減への対応の一例として、
実現性の高い隣接の2市との広域灰溶融の導入を検討している。その結果では、広域対応によって約 6%のコス ト削減効果が得られることを示している。
さらに、三重県での広域灰溶融処理の先進事例を対象に実績値に基づく評価を行い、広域灰溶融の有効性を
2
確認している。上記の2例によって、実績値ならびに推定値ベース型の BAS 評価ソフトウェアが有効に活用でき ることを検証している。
第4章では、溶融飛灰の山元還元をモデルに、有害性・希少性廃棄物の日本国内での広域的な資源循環シス テムの構築とその展開について述べている。
まず、排出側自治体 143 施設および受入企業 9 社を対象に、山元還元の意向と受入の現状に関して、アンケー トおよび現地調査を実施し、その実状を取りまとめている。また、ELP ならびに CO2等の単一指標を用いて LCA の観点から溶融飛灰の処理方式の現状とその改善策に関する検討を行い、山元還元の有効性を提示している。
次いで、トレーサビリティを確保した溶融飛灰情報管理システムの実現を目的に GPS やバーコード等の IT 技術 を活用したシステムの開発およびその実証試験を実施し、ITツールの適用可能性を検討するとともに、今後の技 術開発や研究の方向性を明確にしている。
さらに、排出から貯蔵、搬出、処理および最終的な資源化までを対象とした溶融飛灰物流管理 DB のフォーマッ トの設計を行っている。そこでは画像情報の重要性を示すとともに、それらを含めた情報の取得を実施している。
安全・安心な広域処理システムを担保するためには、排出側と受入側双方の自治体・企業間ルールが必要で あり、このための事前協議・事前準備・計画・実施の各段階におけるルール案を作成している。この案を、受入側 がK市の企業を対象に展開させ、実際の運用の実現までに発展させている。加えて、上記事業の関連自治体へ のヒアリング調査を通して、運用システムの高度化を継続して実施している。
第5章では、広域化対応として、リサイクルポートを活用した海上輸送の効果とその際に活用が想定される静 脈物流管理ツールの有効性に関する検証結果について述べている。
適材適所のリサイクルの実現およびその環境負荷とコストの低減を図るには、大量かつ安価な運搬が可能な 海上輸送が有効であり、また、港湾近隣のリサイクル施設の集積および後背地域にある既存動脈施設との連携 といったポテンシャルの効果も期待される。このような対応が可能な港湾が国土交通省によってリサイクルポート として指定され、現在全国で21港が対象となっている。しかしながら、海上輸送とリサイクルポートの、より広範な 活用には、港湾管理者や地域住民の理解が肝要であり、さらなる安全性・信頼性の高い静脈物流管理を含めた システムの構築が求められている。
著者らは、2008年度に国土交通省が実施主体となるリサイクルポートを活用した静脈物流海上輸送の実証試 験に参画して、GPS や RFID 等のトレーサビリティツールの適用可能性の検証を行い、各種ツールの有効性と管 理特性を検討・整理している。廃棄物保管ヤードや AIS(Automatic Identification System)受信機等、リサイクルポ ートや船舶に特有の既存インフラの活用と合わせて、その導入にあたっての課題と対応策に関する検討を行って いる。また、海上輸送を介したトレーサビリティ確保のための静脈物流管理 DB のフォーマットを設計するとともに 一部のデータを収集している。
さらに、ELP を用いて LCA の観点から海上輸送の環境負荷の推定を行い、トラックでの陸上輸送の場合は燃料 消費と排ガスによる環境負荷が大きく、海上輸送に変更することで、大幅な環境負荷の軽減が可能であることを 示唆している。
第6章では、以上の研究成果を踏まえ、資源循環の広域化をアジア諸国との連携で展開することを想定して汎 用性の高い国際資源循環管理システムの設計・開発を行っている。
資源循環の海外連携では、相手国における環境汚染の回避と輸送過程での事故・不法投棄等の防止が肝要で あり、このためには処理・リサイクル先に厳選することと合わせて静脈物流管理システムの構築とその厳格な運 用が求められる。
ここでは上記システムに関して、金属くず、廃プラスチック等の一般品目を対象に三層構造システムの設計・開 発を行っている。まず第1層は、国際資源循環での主体的企業が統括的責任を明確にしたコンソーシアム型グリ ーンサプライチェーンの構築であり、環境汚染の防止に配慮した企業群による処理・輸送システムを構想・構築す ることであるとして、その構築フローをモデル化して示し、関係主体それぞれの役割を計画から運用までの段階
3 別に整理している。
第2層は、IT 技術を適用してのトレーサビリティを確保した静脈物流管理システムの運用であり、ここでは国内 向けに開発した同様のシステムを国際資源循環に適用する場合の検討を行い、日本から中国までのトレースシ ナリオを想定して実際に運用する際の情報取得方法や手順等をまとめている。また、EIR(Equipment Interchange Report)といった国際間における通関手続きに含まれる情報管理も、ツールの一つとして本システムに組み込ん でいる。また、国際資源循環の静脈物流管理のための DB フォーマットについても国内の例を参考に設計を行っ ている。
さらに第3層は、取得した情報の共有化システムであり、日本と相手国における関係者間の効率的な実現策と して ASP(Application Service Provider)システムの導入に向けた検討を行い、適用する際の留意点を整理してい る。
第7章では、設計・開発した国際資源循環管理システムの有効性を検証するために、日中間を対象とした実証 試験を行い、その結果について述べている。
まず、実証試験に先立ち、中国における E-Waste を含めた関連品目の法規制の動向および循環資源の輸入手 続きフローに関する現状調査を行い、中国内での関連法規制や手続きの現状を明らかにしている。
つぎに、銅スクラップ、ミックスメタルと廃プラスチックを対象に、バラ積み船とコンテナ船による国際資源循環 管理システムの実証試験を行っている。日中両国での関係主体企業と共同で、日本側排出事業者から中国での 最終処分までの一貫した実証試験を行い、開発した国際資源循環管理システムの有効性を確認するとともに、両 国における課題とその対応策を整理し、実現への方向性を明確化している。とくに、中国現地でのインフラストラ クチャーの整備状況および作業員の IT リテラシーレベル等を考慮したうえで本システムを導入する際の検証を行 い、課題とその対応策を整理している。また、情報共有・管理に関しては、中国現地作業員によるASPシステムの 運用試験を行い、その有効性を確認している。最終的に、実証試験の結果の踏まえた日本・中国の現状に沿った 導入可能性の高い国際資源循環管理システムの提案を行っている。
第8章では、本論文のまとめとして本研究で得られた成果を要約するとともに、今後の研究の展望について述べ ている。
以上、要するに本論文は、環境性・経済性の両者を考慮した静脈施設・技術の評価法である BAS 評価手法の 開発をベースに、廃棄物の特性や原料としての利活用の趨勢から国内外での広域的な資源循環システムの設計 ならびに開発を行ったものである。開発された BAS 評価手法は汎用性が高く、ユーザーとなる自治体や関連メー カーからも高い評価を得ている。また、一般廃棄物ならびに有害性・希少性の高い特殊な廃棄物の広域化処理や リサイクルポートを活用した静脈物流システムについての検討・実証は、今後のわが国の対応に多くの示唆を与 えるものとして評価できる。さらに日中間の循環資源管理システムの構築を目的とした実証試験は、その実現に 道を開いた点で極めて意義深いものである。
これらの成果は、わが国をはじめ、アジア圏における廃棄物処理ならびに循環資源への対応に関して多大の 示唆と貢献をなすものであり、高く評価される。よって、博士(工学)の学位論文として価値あるものと認める。
2011 年 2 月
審査委員 主査 早稲田大学教授 永田 勝也 早稲田大学教授 工学博士(早稲田大学) 勝田 正文 早稲田大学准教授 博士(工学)早稲田大学 中垣 隆雄 早稲田大学准教授 博士(工学)早稲田大学 小野田 弘士