九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
越波を利用した波浪エネルギー獲得技術の開発と水 質改善への応用
岡田, 知也
九州大学工学環境都市建設システム工学
https://doi.org/10.11501/3134997
出版情報:Kyushu University, 1997, 博士(工学), 課程博士 バージョン:
権利関係:
第4章 種々の設置形態における越波量の評価
4. 1
まえがき前章までに規則波, 不規則波および斜め入射波と種々の形態の入射波に対する 基本越波構造物の実験が行われた. その結果, 種々の入射波形態に対して構造物の 最適形状の決定および越波量の算定が可能となった. これまでの実験では, 越波構 造物は底面に直接設置されており 法面勾配は一様であった. ここで越波構造物の 設置形態を大別してみると (
1
)基本型のように底面に直接設置されるタイプ,( 2
)構造物上に設置されるタイプおよび( 3 )浮体構造物として係留されるタイ プに分けられる. 波の進行に着目すると タイプ(2
)では入射波は構造物によっ て反射するのに対し タイプ(3
)では越波構造物の下部を透過する. そこで本研 究では, それぞれ(2
)と(3
)のタイプを反射型構造物および透過型構造物と呼 ぶことにする. 本章では それぞれの越波構造物の具体的な応用例を各節で提案 し, その応用例を踏まえて, 反射型および透過型構造物それぞれに対して実験を行い, 越波量の定量的な評価を行った.
4. 2
反射型情造物による越波量港湾施設の防波堤のケーソン上に越波構造物を設置した場合, 得られた水位差 を用いて比較的きれいな港外の海水を閉鎖的で海水交換の少ない港内に導入した り, 越波により得られた溶存酸素の豊富な表層水を成層化して貧(無)酸素化した底 層部に送り込むことにより, 生物作用を活発化させて水質浄化を図ることなどが可 能となる. 同様な試みは透過堤I )や潜堤2)等を用いても現在検討されている.
しかしながら, ケーソン上に設置された越波構造物は前面に直立壁を伴ってい ること, また集波できる範囲が構造物の幅と同じ範囲に限定されるという2点が従 来からの越波構造物と大きく異なっているため新たな検討が必要である. 前面部が 直立壁になっている越波構造物は 発電用としてではあるが電源開発総合技術研究 所3)によっても検討されている.
本節では, 前面に直立壁を伴う2次元 . 3次元越波構造物に関する実験を系統
- 46-
的に行い, 越波量の定量化および最適形状の決定について検討する.
4. 2. 1 実験装置および実験方法
実験は越波堤のみの2次元越波構造物に対する実験と, 越波堤に更に集波堤が 取り付けられた3次元越波構造物に対する実験に大別される. 実験には長さ
16
m, 高さ0.6 m, 幅0.25 mの造波水槽を用いた. 越波構造物の設置位置は造波板 から10mの位置であり 越波構造物の幅は水槽の幅と同じく0.25mである. 越 波構造物の形状は図-4.1に示されている通りで 図中では3次元越波構造物が 模式的に示されている. 越波構造物と越波現象は左右対称、であると考えられる為,図に示す様に一方の側壁を中心線とみなして集波堤は片側だけに取り付けられてい る. 越波量の測定に際しては 越波構造物により発生した反射波によって入射波が 変形され始めてから反射波が造波板に戻った後再び構造物に到達するまでの時間内 の波のうち5波(造波開始後第9波から第13波まで)の波に対して測定がなされ た. したがって これらの波は防波堤前面で通常見られる反射の影響を受けた波で
ある.
この測定を5回繰り返して越波量の平均値を求めた.4. 2. 2 実験条件
l入射波単位入口幅当たりの越波量Q3 (cm2/1波) (添え字3 は3次元越波構造 物による越波量を意味する)は, 入射波の構造物設置位置における構造物がないと
きの波長L, 波高H, 水深17, 法先水深h' , 越波構造物の波の進行方向長さし
図-4.1 実験装置の概略および反射型構造物の諸量
- 47 -
集波 堤の入口幅BI 出口幅Boおよび天端高hcに依存する ものと考えられる.
れらの諸量聞の関係を次元解析を用いて無次元 表示すると
、�
、ーー
03ーパH hc h' h
1
Bo\
HL
� \
L.
H.
L L L B,J (4.1 )
となる. 全実験を通じ水深を0.40 m , 周期を1.0sに固定しているため波長は1.51 mとなり , 水深 波長 比hlLは0.27に固定された. また図-4.1に示された諸量を 用いると式(4.2)の関係が成り立ち, これらの関係から無次元越波量は式(4.3)のよ
うに表すことも できる. ここ で, 8は法面勾配である. 2次元越波構造物の場合に は, 越波量Q2(cm2/1波) (添字2は2次元越波構造物による越波量を意味する)
は式(4.4)となる.
tan8
=位並,(hclH) . (HIL) + (h 'IL)
1 (lIL)
03_ パ H . hc . tan 8 . l_ . B 0 )
HL
J\ L ' H '
,L' B, /
生
HL =� f
(\
互L . H . 主ζ
tan8 .. l_
L) I
( 1) 2次元越波構造物(Run No. 1)
(4.2)
(4.3)
(4.4)
式(4.4)中の無次元パラメータである波形勾配HIL, 相対天端高hclH , 相対堤 長l/Lおよび法面勾配0を表-4.1
(Run No.
1)の実験条件の下でそれぞれ独立 に変化させて実験を行った. 波形勾配が0.01のときのみ実験装置のスケール上の 制約から相対天端高hclHに対し 0.25の代りに0.37を採用した.( 2 ) 3次元越波構造物
a ) 集波堤の効果を明らかにする為の実験(Run No. 11)
波形勾配HIL が0.03の入射淡を用い 法面勾配0は2次元越波構造物の実験 結果(図-4.7参照)から決定された最適法面勾配30。 を採用した. 相対堤長l/
Lは 0.20に固定した. そこで相対天端高hclHと集波比8018,のみ独立に変えて 実験を行った. 実験条件を表-4
. 1 ( R u n N o.
n)に示す.- 48 -
b )
越波量の相対堤長l/Lへの依存性を明らかにする為の実験(Run No. 111)
波形勾配HIL を実際の海域の通常時の 条件に程近い0.01に固定し, 越波堤の 法面勾配Oを波形勾配HILが0.01の場合の最適勾配20。 に固定した(図-4.7 参照)
.
したがって式中の無次元パラメータである相対天端高hclH, 集波比Bol B,および相対堤長 l/Lのみをそれぞれ独立に変化させて実験を行った. 表-4.1 (Run No. III)に実験条件を示す.c )
波形勾配H/Lが越波量に及ぼす影響を明らかにする為の実験(Run No. IV)
相対堤長l/Lは0.2 に固定され, 法面勾配はそれぞれの波形勾配に応じて図-
4.7により求められる最適法面勾配が用いられた.
無次元パラメータである相対 天端高hclH, 集波比BoIB,および波形勾配HILを表-4.1 (RunNo.IV)に示す 値でそれぞれ独立に変化させて実験を行った. この実験においても波形勾配が0. 01の時には相対天端高 hclH
に対し0.25の代りに0.37を採用した.表-4.1 反射型構造物に対する実験条件
Run No .H/L hc/H θ flL Bο!B,
[ 0.05, 0.20 0.03 i 0 50 0 75
任意0.10. 0.30 0.05 1.25
H 0.03 1.25. 1.75 30 0.20 2.25
[0.37, 0.75
II I 0.01 1.25. 1.75 20 0.10.0.30
2.25 IY
j 0 25,(0 37)25(H/凶01) 0.75, 1.25 30-(H/L=0.03) 0.20
0.05
ト75, 2.25 3Y (H/L=0.05)1.0
- 49 -
0.10
口
hc/ H
=0.25
。 hc/H
=0.75
ー ー ー ー ・ ・ ・ ・ ・ . . ・・・ ・ ・ - ー ー ・ e ・・・・ . . . ー ・ ー,ー ・ ー ー ・ ー ー ・ー ・ ・・ーー ー ・ ・・ ー,. . . . ー ー ・ ・ 4・ ー ・ ー・4・ . . .
ーー・ーーー・・ ・ ー ー..ー ー・・ー ーー・ー・ ・ ー ー ー ・ ー ・ ・・・・・..ー・・ ーー・ー.._.ー・. ... . ーーー ーー ・ー、 ー ・・・ー ー・ ーー . . . ー ー ・
。 hclfl
=卜25言 。05 {...:. ...l 巳....巳日泊 三 臼 一明
I 日-臼 L..J
... . ..
:
.. ... . . .D
. . . . ...;
.. ... .... . 冷�:�
. .日
... .
. . 0'冷 6ν六会、 令ト ー一--0
一 ・ …
グ冷 .-:���. ;� .O ..-O.0…t)0.�O... <
,
0.00 I G二一
0.00 0.50 1.00
tan8
図-4.2
Q〆HLとtan8の関係(H/L=0.03,I/L=0.20)
4. 2. 3 実験結果と考察 ( 1) 2次元越波構造物
図-4.2はHIL= 0.03. l/L = 0.20において相対天端高をパラメータとして無次
元越波量Q21HLと法面勾配tan8の関係を示し たも のである. 法面勾配の変化に対 し無次元越波量は極大値をもつことが分かる. この一連の実験から相対堤長IILが 小さくかっ波形勾配HILが大きい場合にはそれほど明瞭なピークは現れないが,
相対堤長l/Lが大きくなるかもしくは波形勾配HILが小さくなるにつれ極大値の 存在が明確となる傾向がみられた.
図-4.2で示さ れた無次元越波量 Q21HL と法面勾配0の関係を普遍表示する ために, 無次元越波量と法面勾配に関する代表量を図-4.3で定義する. 極大値 の値を最大無次元越波量(Q2IHL)max , そのと き のtan8の値を最適法面勾配(tan8
)maxとし, (tan 8 )max 12に対する無次元越波量を(Q2IHL)*と定義する . これ らの 量を用いて無次元量φとヂを次のように定義する.
φ=-(Q2IHL)イQ2IHL)*
(Qν'HL)max - (Q2IHL)*
tp = __i!_ αη8) (tan8)mαχ
- 50-
(4.5)
斗む\Nq
( Q2/HL )max
(Q2/HL)き包 丁
(tane )max
(tan e )max tan e
図-4.3 無次元越波量を普遍表示するための代表諸量1.5
ハU
0.5
's
口0.0
口 口 口口
ー0.5
口 ロ
イO。王ト一一也
s
口.0 0.5 1.0
ト52.0
tp
図-4.4 φとVの関係
図-4.4は, 図-4.2と同様の多くのグラフからこれらの代表量を読み取り,
全ての実験データを式(4.5)で規格化してプロットしたものである. 多少のばらつ きはみられるが, 無次元越波量は図中の曲線でかなり良く普遍表示されることが
分かる.
任意のH, L, hc,
}νIγ"
l等の条件が与えられたとき図一4.4の由線を用いて 越波量を算定するには(ωQ2〆/HL)maxい, (ωQ2〆/HL)μ*,(οtan e
)r汀maことが必必、要でで、ある. 図-4.5は最大無次元越波量(Q2/HL)maxを, 図-4.6は(Q2/
HL)*を相対堤長l/Lをパラメータとして相対天端高hc/Hに対して示したもので
- 51 -
0.10
I/L = 0.05
口
I/L = 0.10
I/L = 0.20
I/L = 0.30
0.08 。
0.06
0.04
5Eへ、Nh\NO」
念
口
0.02
nu 1.5
0.00 0.5 0.0
hc/H
(Q2/HL)maxとhc/Hの関係 図-4.5
0.10
I/L = 0.05
口
I/L = 0.10
0.08 。
I/L = 0.20
I/L = 0.30
。
ム0.06
0.04
ゴdh\NQ
。 0.02
ハU 1.5
0.5 0.00
0.0
Izc/H
(Q2/HL)京とhc/Hの関係 図-4.6
- 52 -
2.0
I/L = 0.05
口I/L = 0.10
口1.5 。
I/L = 0.20
ロS」 も ロ Eへ HC
ハU。 A I/L = 0.30 8
0.5
0.06 0.04
0.02 0.0
0.00
H/L
(tan
e)maxとhc/Hの関係図-4.7
ある. 波形勾配が異なっていても相対堤長が等しいデータは両図中では同じ印で 示している. (Q2/HL)max, (Q2/HL) *ともに波形勾配 H/L, 相対堤長l/Lにそれ
ほど強くは依存せず相対天端高hc/Hの増加に対し単調に減少することが分かる.
図-4.7は最適法面勾配(tan8 )maxを相対堤長l/Lをパラメータとして波形勾 配 H/Lに対して示したものである. 相対天端高hc/Hが異なっても相対堤長l/Lが 等しいものは同じ印で示した. 相対堤長が 小さい場合(特にI/L=0.05の場合) は, 波形勾配が大きくなるにつれて (tan8 )max はかなり大きな値をとるようにな る. これは波の谷が法先部に到達した際に法先部が水面から出ない様な 状況すな わち法面勾配が大きい状況で極大値が現れたものと考えられる
. 図-4.5におい
て, 相対堤長が小さく波形勾配が大きい場合(図中口印)の最大無次元越波量 (Q2/HLJmaxが他に較べかなり小さいことからも, 相対堤長が小さく波形勾配が大 きい場合の最適形状はその条件内では一応最適形状であるが一般的意味では必ず しも最適勾配ではないと判断された. したがって, 図-4.7中ではl/L=0.05 , H/L=0.05 の条件のデータを除いて近似曲線を施している. 波形勾配の増加に伴い最 適法面勾配は増加する傾向があることが分かる .
- 53 -
0.10十..
……
臼…・・ hc/H = 0.25
』斗足
、\
"->( 0.05
一一勺γ--
hc/H = 0.75 ー・ーで〉・←
hclH = 1.25
ー - -t::r - hc/H = 1.75
一--冠- -
hc/H = 2.25
0.5
BolBI
トO
図-4.8
Q.〆HLとBoIB,の関係(HIL=0.03, l/L=0.20)
5.0
4.0
一一一臼'一 hc/H= 0.25
c""'l 3.0
ぞ丸
\
。
一一。一一
hc/H = 0.75
- . _ . 8 - . _ .
hdH =卜25一-là-
- hc/H = 1.75
一--{亙一-
- hc/H = 2.25
ハunU ハU ハUハU
0.25 0.50
BolBI
0.75 1.00
図-4.9
Q〆Q2と BoIB, の関係(HIL=0.03, l/L=0.20)
( 2 ) 3次元越波構造物
a
) 集波堤の効果図-4.8は相対天端高をパラメータとして無次元越波量Q31HLと集波比BoIB,
の関係を示したものである. 当然のことではあるが相対天端高hclHが増加するに つれ無次元越波量Q31HLは減少する. また, 相対天端高hclH が小さい場合には 集波比BoIB,の減少(集波堤が閉じる方向)に伴い無次元越波量Q31HLは単調に
- S4 -
0.08
口
/IL = 0.05
。 /IL = 0.10
。 /IL = 0.20
3ω4j
ム/IL = 0.30
合 合
0.021
口
口
6
0.00
0.0 0.5
トO1.5 2.0 2.5
hclH
図-4.10 IILをパラメターとした越波量の比較(HIL=O.O
1, BoIBI=0.36)
減少するが, 相対天端高hclHが大きくなるにつれ単調減少の傾向は弱まり, つい には一旦増加した後に減少に転じる傾向を示すよつになる. これは天端高が小さく 容易に越波する場合には集波堤は単なる抵抗や反射要因にしかならないが, 相対天 端高が大きくなって越波堤のみでは越波しにくくなると集波堤による波の増幅効果 により, 天端高と集波堤内での波高の比すなわち有効相対天端高が小さくなるため 越波量は増大すると考えられる.
図-4.9 は集波堤の効果をより明らかにするため, 集波堤の無い場合(Bol B,=l )の越波量に対する集波堤を取り付けた場合の越波量の比Q3IQ2 (以下, 越波
量比)と集波比の関係を相対天端高hclHをパラメータとして示したものである.
天端高が波高以上(hclH孟1.0)になると越波量比がl以上になり集波堤が有効に 機能し始めることが分かる. 越波堤のみでは越波しないような高い天端高に対して も集波堤を取り付けることにより越波可能となることも十分考えられる. この様な 場合には越波量比の値は無限大となる.
b
) 越波量の相対堤長l/Lへの依存性それぞれの相対堤長I/Lに対し相対天端高hclHをパラメータとして無次元越波 量Q3IHLを集波比 BoIB,に対して示してみると(図--4.8参照), I/L=0.05を除
- 55 -
図-4.11
H/Lをパラメターとした越波量の比較(IIL=0.20, Bo/B,=0.36)
けばa )で述べた傾向, すなわち相対天端高が大きくなると無次元越波量は集波比 に対して明瞭なピークをもっという傾向が見られた. そこで相対堤長I/Lへの越波 量の依存性の有無をより詳細に検討するため, 集波比が0.36の場合に対し無次元 越波量と相対天端高の関係を相対堤長l/Lをパラメータとして図-4.10に示す.
図-4.10 からl/L=0.05 の場合を除けば無次元越波量の相対堤長 l/L への依存性 はほとんどないことが分かる. 他の集波比に対しでも無次元越波量の相対堤長l/L への依存性は見られなかった. l/L=0.05に関しては前述したように波高に較べ て法 先水深が非常に小さいため他の3つのケースとは異なった傾向を示していると思わ
れる.
c
) 波形勾配H/Lが越波量に及ぼす影響各々の波形勾配HIL に対し相対天端高hclHをパラメータとして無次元越波量 Q31HLを集波比 BoIB,に対して示してみると(図-4.8参照) , 波形勾配が異なっ ても各々a )で述べた傾向をもっていた. そこで波形勾配HILによる越波量への影 響の有無を詳細に調べるため集波比が
0.36
の場合に対して波形勾配HIL
をパラ メータとして無次元越波量と相対天端高の関係を図-4.11に示す. 波形勾配HILに対し多少のばらつきがあるが相対堤長の場合と同様, 波形勾配による越波量へ の影響もそれほど強いものではないということが分かる. 他の集波比に対しでも無
- 56 -
0.12
一一白一一一 hc/H = 0.25 一一長ヨー hc/H= 0.37 一.-<)-._.-
hc/H=0.75
---(ヨ-• hc/H = 1.25 0.08
一一企--- hc/H = 1.75 一一温一一 hc/H = 2.25dh\。
0.04
0.0
0.0 0.2 0.4 0.6
BO/BI
0.8
トO図-4.12 無次元越波量の表示
次元越波量の波形勾配
H/Lへの依存性は見られなかった.
d )
越波量の表示b)
, c) から越波堤の法面勾配が最適勾配であるとき, 無次元越波量は相対 堤長l/Lおよび波形勾配H/Lからはそれほど強い影響を受けないことが分かった.従って, 無次元越波量と集波比の関係を相対天端高のみをパラメータにして表示す ることができる. 図-4.12はb), c)で得られたデータのうちl/L=O.05の場 合を除いたすべてのものがプロットされており, 相対堤長および波形勾配が異なっ ていても相対天端高が等しいものは同じ印で示している. 図中の曲線は各々の相 対天端高に対して近似由線を施したものである. 多少のばらつきはあるが, 相対天 端高のみをパラメータとした近似曲線で無次元越波量は集波比に対して精度よく表 示されることが分かる.
4. 3
透過型構造物による越波量越波構造物が浮体として係留されて用いられる場合は, その設置形態は透過型 となる. 当然, 海域での使用が主として考えられるが, 本節では大波浪や船舶との
づIζ、J
衝突の心配もなく, 設置が容易なダム湖や貯水池での適用を具体例として挙げて以 下に述べることにする.
近年, ダム湖や貯水池においてアオコの発生による異臭や水質の悪化が大きな 問題となっている. これらの多くは停滞水域となっており, 急速な水の入れ替わり がそれほど期待できない上, 夏期には温度成層化して下層は貧酸素もしくは無酸素 状態となり嫌気化する. また貧(無)酸素状態では底層からの窒素やリンなどの栄 養塩の溶出が増加することが報告されている. そこでその対策として, ダム湖や貯 水池内の流動の促進や, 貧酸素底層に溶存酸素を供給する技術の開発が行われてき た. その代表的な技術は人工エネルギーを用いて曝気を行うものであり(例えば,
松梨 ・宮永4), 池田. 浅校らへ池田6)の研究), 実際に現場で適用されている事例 も幾っか見られる. しかしながら, 人工エネルギーを一切使わずにその水域に内在 する自然エネルギーを有効に利用して, これらの対策が実行できれば地球環境上最 も好ましい. 自然のエネルギーを利用する技術としては, 風のエネルギーの利用が スウェーデンで開発 ・提案されている7) 風力で風車を回転させてポンプを稼働さ せ, 溶存酸素の豊富な表層水を底層部に送り込むものであるが, 風速が小さい(5 m/s以下)ときには全く作動しないこと, また機械部分を含むためメンテナンスが 厄介で、あるなどの欠点をもっ. それに対し本研究は, ダム湖
・貯水池に発生する表
面波(風波)のエネルギーを効率的に利用することを試みたもので, 図-4.13に 示すような浮体型越波構造物を設置し, 越波により獲得されたポテンシャルエネル ギーを用いて, DOを豊富に含む表層越波水を貧(無)酸素底層に供給すると共 に, 湖内水の流動を促進しようとするものである. ダム湖や貯水池内の波浪は海洋 の波と較べると格段に小さいが, 観測例によると風速4.7 m/s で最大波高6.87 cm, 有義波高約2.79 cm , 有義周期0.66 sの波が発生することが報告されている 8) 著者の今回の研究はこの数センチ程度の波高の波を有効に利用しようというも のである.構造物の基本形状は波向き方向に一様法面勾配をもった浮体型のシンプルな構 造物である(図-4.13参照). 入射波は一様勾配をもった法面を遡上 ・ 越波して 貯水マスに水位差をもって貯えられる. 越波することにより浴存酸素が飽和状態に 近付いた越波水は, 得られた水位差によってパイプを通じて底層部に送り込まれ る. 本研究で提案する供給システムは膨大な量の供給水は望めないが, 酸素供給の 面では次の幾つかの長所をもっ.
( 1
)酸素供給率の低い曝気と較べて越波水には酸素が既に溶け込んでいるため酸素供給率が高い.
( 2 )表層から底層への導入過程において周囲水によってパイプの中の水温が冷
- 58 -
図-4.13 波浪エネルギーを用いたダム湖・貯水池の底層水の浄化の概念図
やされるため パイプから排出されるときの密度差は初期の表層と底層の 密度差より小さくなり 排出水は底層もしくは底層の上部に滞留すること が可能で、ある. また 一方向流を生成するために必要な水位差も小さくな
る.
( 3
)微調整が可能である. 必要ならば撤去により元の状態にすぐに復元できる.
( 4
)半永久的に効果が期待できる.( 5
)流動を伴うため成層化する夏期だけでなく 一年を通じて効果が期待できる.
( 6
)風の強い時 弱い時とむらがあっても良い. トータルとしてある程度の風波が起これば 十分効果が期待できる.
まえがきでも触れたように 本節で検討される浮体越波構造物は波のエネル ギーの一部が構造物の下側を通過することが特徴的な点であることから, 透過型構 造物(図-4.14
(b)参照)と呼ぶことにする.
本節では, この透過型構造物によ りどの程度の越波量が獲得できるのか実験的に検討を行う. また, 本供給システム による溶存酸素供給量を定量的に評価 ・検討する. さらに 実験結果をまとめるに 当たり, 前節で行われた反射型構造物(図-4.14 (c)参照)の実験結果を比較対- 59 -
hc
---
"!一τ『ナz
・・ ・--
!竺z ---_._-
�同ーlザi
h - m T十 ω
n 一 一ハU O 一 = μ 一 C 一 LH ρlu
←
r 一 D e 一 V 一
'G
一 ,a唱--v -
16m ( a)
'"1'"
e :
ーー 1- - - T
件一一l一一割
h = 40 cm
。透過
反射型越波堤 透過型越波堤
(c)
'D
実験装置の概略及び代表諸量の定義
図-4.14
象として整理 ・考察を行った.
4. 3. 1 実験装置および実験方法
図-4.14 (a)に示すような長さ16 m, 高さ0.6 m, 幅0.25m, 水深一様の造波 水槽を用いて実験は行われた. 法面には厚さ2mmのアルミ板を用い, そのアルミ 板を側壁に設けた溝にはめ込んで固定した. 構造物の設置位置は造波板から10 m の位置である. 入射波には規則波を用いた. 越波に関係する諸量は図-4.14中に 示されている水深h, 法先水深h', 越波堤の波の進行方向長さl , 天端高h.c, 法 面勾配Oおよびhでの波長L, 波高Hである. 越波量は第10波~第15波に対し て採取され, その平均値をl入射波当たりの越波量とした. 1人射波単位rpffi当たり
の越波量Q (cm2j波)を無次元表示すると無次元越波量Q/HLは次式で示される.
RUN
RUN 2
表-4.2 透過型構造物に対する実験条件
T(scc.:) L(l:m) h (cm) hlL H(l.:m)
0.\12
0. 70 76.4 40.0 0.52 2.17
3.75 1.411
1.02 151 40.0 0.26 4ι4
7.73 0.65 65.':1 53.0 O.XO
I.<}凸0.70 76.4 40.0 0.52 2.2<}
1.02 151 40.0 0.26 4.53
Q
_+' ( H hc h ' h l \
HL "\ L . H . L . L . L I
H/L I (cm) I/L
hc(じm)0.012
0.25.0前世. 1.150.0211 15.2 0.20
0.54.1凸3.2.71。似9
0.':14. 2.X 1. 4.6引
。010 0. 3X. 1.10. I.X<)
0.031 15.2 0.20 1.13.3.40.5.66
0.051 1.11':1. 5前f>. ':1.44
6cmから約7R cm
1.47
0.031
までlを�'r'(劣化さ1.72
せた
3.40
hdH h'(cm)
0.25.0.75. 1.00
Ocmから約20cm0.25.0.75. 1.25
までj白(1:変化させた0.25.0.75. 1.25
0 25. 0.75. 1.00
Ocmから約20cm0.25.0.75. 1.25
までj白,',:変化させた0.25. 0.75. 1.25
0.75
一一一
(4.6)
ところで,
h'ILは式(4.7)の関係を用いるとtan8
で置換できるため, 式(4.6)は 式(4.8)となる.tan8 = hc+h' - (hclH) . (HIL) + (h 'IL) ant1 -
=一一一一一 ごl (lIL)
Q
_+' (H hc …a h l \
HL J \ L
'H
' ,L
'L I
(4.7)
(4.8)
実験条件を表-4.2に示す.
RUN
1.では主に法面勾配tan8を変化させ,RUN 2.
では主に llLを変化させた. hlL
=
0.56, 0.80の 実験条件の場合には, 実験に用い た水槽の制約上波高をかなり小さくせざるを得なかったが, そのため越波に対し表 面張力の影響が確認された. そこで表面活性剤(メタノール)を100ml
(濃度に して0.06 %)注入して実験を行った. この場合の表面張力は4.31dyne/cmであっ た9)4. 3. 2 実験結果と考察
図-4.15
(a),
(b)はそれぞれ透過型および反射型越波堤に対する QIHL とtan8の関係をhclHをパラメータとして示したものの一例である. 同じ実験条件下 での両者を比較すると, 反射型越波堤の場合のQIHLの方が透過型越波堤の場合よ りも大きな値をとることが分かる. また, tan8の増加に伴い, 反射型越波堤のQI
HLは一旦増加し, 最大値をとった後に減少するのに対し, 透過型越波堤のQIHL
- 61 -
… … ' O : E …… 分 : …:j o --: 1 一;:ふ::: 臼 :i r i--:十 ;: 。: :: E …… 念 日 … 4 ……… ε …… ふMm M 臼 … … 一 4 1 t : … - jo- - 6 ・: ぐ ー汁l日 リ 一 日 … 一 rk H乱
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一 一 一 - 二O
、Nh\。
( a)
透過型hclH I
…白… 0.25 r
0.06 '11・+- 0.75↑ ぷ…
-
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ー .
0.00ドー�
t加。
(b)
反射型図-4.15 QIHLとtan8の関係
は最大値に達した後はほぼ一定値を保っている.
透過型構造物の越波量特性をより一層明らかにするため, 図-4.16で定義され る代表量を導入する. ( Q I H L ) m ax は 最大無次元越波量であり, 最適法面勾配 (tan 8)maxはそのときのtan8の値である.
図-4.17はHILとhlLをパラメータとして(QIHL)maxをIzclHに対して示した ものである. 図中の実線は反射型越波堤の場合の(QIHL)maxを示している. 反射型 構造物の場合は(QIHL)max ,まHILにはそれほど依存しないという結果が前節で得
- 62-
QIHL
tan8
図-4.16 代表諸量の定義
0.08
く,・〆O「/- ハU r
L
川 、一一、//
、 )一
1 i -
、 .h0ι
型
~ 、 一 白U4 41 ・ 、\\ 一 \ \ \ 一 次、 ふ盆
令δ ・ 「lll』ll11』ll'14Illi--
AU A斗 nU ハu nU
む\q」 kd戸-へ吋 ハu
HIL 0.01・
0.03・・・・
0.05
_._.-
h/L = ロ0.265 h/L
・= 0.523
o •
o •
0.02
0.00
0.0 0.5
「
hclH 1.5
図-4.17 (QIHL)ma:v.とhclHの関係
られているが, 透過型構造物の場合には (QIHL)max はhlL にそれほど強くは依存
せず,
HILをパラメータとして図中の近似曲線のように示されることが分かる.
また反射型に較べ透過型の場合は, hclHの増加に対し越波量は急激に減少し,
H注lではほぼ零となることが分かる. このことから透過型構造物を用いる際には 天端高は波高よりも小さく(hdH
< 1)設定する必要がある.
図-4.18は(tan8)maxをIzclH とhlLをパラメータとしてHILに対して示した ものである. (tan8)max はhclHおよびhlLにはほとんど依存しない.
hcl
図中の破線
- 63 -
h1L = 0.265んIL = 0.523
口 .
o •
o •
A 企
hclH 0.25 0.75 1.00 1.25 2.0
1.5
z
Q:) ).0
5
0.5
0.06 0.04
0.02
ハUハU ハUハunU
H/L
(tant乃maxとHILの関係 図-4.18
h, . 74; γ ο \ 。。十 十;」 口 , 一:, C ,; 一 一:: 口 ;… JS: : J , 'γ口4一:δ:goof -γ口γ;0・・4よ:
…ド
一 円
。 i d 十;:
一jj 州 一一一 日一一一一一一一一以W一一 一 :' 瓜Nγ
h/L
口
0.26
く〉
0.52
。 0.80
河口
三0.05
h斗ロご
\ 。 i
0.6 0.4
0.00 0.2 0.0
l/L
(Q/HL)maxとl/L の関係(HIL =0.03, hdH = 0.75, tane = (tane)max ) 図- 4.19
は透過型の全てのプロットに対する近似曲線であり, 実線は反射型構造物の結果で ある. 両者はほぼ一致している. 図中の破線により与えられた波形勾配に対して最 も効率的な透過型構造物の法面勾配が一義的に決定されることになる. 一般に沿岸 で発達した風波の波形勾配は0.03 --0.05, 一方短い吹送距離で強風によって発達 した風波の波形勾配は 0.05 -- 0.08と言われている. このことからダム湖等にお
ける風波を対象とする場合には 最も効率的な法面勾配はe =
tan-'(0.6)キ30。
であることが分かる.
- 64-
ハUハU
A
U
ハUハUハUハU
ハu
nu
nU 今、d
「4
11
ハU
NCAAM-g
(足\
q)}\
さE (足\ 。)
hlL
0.26
。
。
口。
0.2 0.3 0.1
h'IL
(Q/HL)max /[(Q/HL)max ]IIL=O.20とhïLの関係 図-4.20
図-4.19はHIL= 0.03, hclH = 0.75, tanÐ = (tanÐ)max に固定した 条件の下での (QIHL)maxとl/Lの関係をhlLをパラメータとして示したものである.
式(4.8)中で HIL, hdH
,
tanÐ , hlLを固定してI/Lを変えるというこ とは,上は0を固定して
h'を変えることと等価である.
なお, 図-4.17の(QIHL)maxは l/L = 0.20に固定して得られた関係 であった . そこ で, 図-4.20では横軸をhγLに変換し, 縦軸を(QIHL)maxをI/L=
0.20の場合の(QIHL)max で割った値 で示す .
れから法面勾配が最適勾配 である 場合には, h'が大きいほど越波量は増大する が, hγL = 0.20が限界値となりそれ以上は h' を大きくしても越波量は増大しな いということが分かる.ところでF 見かけ
、F
、ー'
3. 3
供給量に対する検討ダム湖の卓越波の条件を波高H= 3.0 cm, 周期T=0.7s (波長L= 76.4 cm, HI L = 0.04) , 構造物の条件を天端高(水位差) hcニ2cm, 横幅10 m , 法面勾配。
= 30。 とする. 波 と構造物の条件より, 相対天端高 hclH=
0.67 となり, 図-4.17
から最大 無次元越波量[(QIHL)max]IIL =
0.20は0.023を得る. また, !z'ILを0.20以 上すなわちh'を15.3cm以上 とすれば, 図-4.20より (QIHL)max j[(QIHL)max]IIL
=
0.20 = 2.0 となり, (QIHL)maxは0.046となる. 従って, 1波当り, 単位幅当りの 越波量は無次元越波量に波高Hと波長Lを掛けて 0.046X 0.03 X 0.76 =1.05
X 10・3 (m2j波)となる. 越波堤の横幅は10 m であるから, この構造物によって獲得されるl波当りの越 波量は
1.05XIO・3
X 10二 1.05X 10-2 (m3j 波)で、ある. 1波当りをl4 .
- 65 -
周期当り , すなわち0.7 s当りと考えると, 単位時間当りに獲得される越波量は 0.015 (m3/s), 1日当り1296 (m3/day), また1ヶ月当り38.9
x
103 (m3/ month)とな る. この越波量はおおよ そ 100 m X 100 mx
4 mの水塊に相当する. しかしなが ら, 実際の波は不規則波であること, 波の発生頻度はそれほど高くないことを考慮 しなければならない. 不規則波に対する越波量 獲得に関する実験(3章参照)か ら, 有義波高が規則波の波高と同じ場合に獲得される越波量は規則波の場合に獲得 される越波量のほぼ1/3であることが分かっている. また, 試験設置を予定してい るダム湖のダム管理所の風の観測データによると, 夏期の午前8時から午後6時ま での時間帯はほぼ毎日風が吹く. その時間帯全てに於て有効な波が期待できないと しても一日の内の3分のl程度は有効な波が期待できるとすれば, 期待される現実 的な供給量は実験結果から得られた値の1/10程度 , つまり1.5 (l/s)と考えるのが 妥当なところであろう.この供給量が水質改善に対して有意な量であるかどうか簡単な計算を行ってみ る. 越波水のDO濃度はほぼ飽和状態、であるとして10(mg/l)とすれば, 先程の 計算結果より表層から底層に送り込まれる1日当りのDOは10(mg/ l) X1296X 103 (l/day) X 1/10 = 1296 (g/day)である. 底層における酸素消費は底泥の酸素消 費のみとし , また 底泥の酸素消費速度は幾つもの諸条件に依存する量ではあるがこ こでは 2.0(gjm2/day)とすれば, それでも648 m2の範囲の酸素消費を補うことが できることになる.
4. 4
まとめ本章では , 越波構造物の設置形態によって分けられた反射型構造物と透過型構 造物に対して越波量の定量的な評価を行った. 得られた主要な結果を以下に示す.
反射型構造物に対して
· 2次元越波構造物
( 1
)入射波の卓越波の波高H, 波長L, 必要水位差hcが与えられている場合の最適勾配の決定および最大越波量の算定が可能となった.
( 2
)卓越波の波高H, 波長L , 必要水位差hcに対し, 任意の法而勾配0をもっ越波構造物によって獲得される越波量の算定が可能となった.
• 3次元越波構造物に対して
( 3 )天端高が それ 程大きくなく, 越波しやすい場合には集波堤の存在はむし
- 66-
ろ単位入射幅当たりの越波量を減少させる働きをもつが, 天端高が大きく なり2次元越波堤だけでは越波しにくい場合には集波堤は越波量を大きく
増加させる機能をもっ.
( 4
)入射してくる波の卓越波の波高H , 波長Lが既知の海域において, 越波 構造物の形状(BoIBI, l/L, hclH )が与えられれば越波量の算定が可能 となった.透過型構造物に対して
( 1
)透過型越波堤を用いる場合には天端高は波高よりも小さくすること(hclH < 1)が必要である. なお, 風が弱くて発生する風波の波高が所要天端
高より小さい(hclH > 1)場合は, 越波堤にV字型の集波堤を取り付け ることになる.
( 2 )ダム湖等における越波堤の最適な法面勾配は300 である.
( 3
)最適な法面勾配をもっ透過型越波堤の場合, h'が大きいほど越波量は増 大するが, h'IL = 0.20 以上に h' を大きくしても越波量はそれ以上は増 えない.( 4
)ダム湖 ・貯水池の卓越波のH, Lと表層水を底層部に送り込む為に必要な 水位差hcが与えられれば, その水域において最も効率的に獲得される場 合の越波量の算定が可能となった.(
5
)ダム湖で発生する小さな波浪でも水質改善に対して有意なエネルギーを有 していることが分かった.参考文献
1
)小田一紀 ・真栄平宜之 ・ 中西昭人 ・田中彬夫:波浪によるパイプ式透過堤の 海水 導入特性, 海岸工学論文集, 第42巻,pp.1116・1120, 1995.
2 )山本 潤・武内智行・中山哲厳・ 田畑真一・池田正信:志賀島漁港外港の導水工 による環境改善効果に関する現地調査, 海岸工学論文集, 第41巻, pp.l096
ー1100, 1994 .
3
)電発総技研:波力発電システムに関する調査研究, 電発報告, 1990.4
)松梨史郎, 宮氷洋一:気泡噴流に関する現地実験, 水工学論文集, 第34巻,pp. 145-150,1994.
5
)池田裕一, 浅枝 隆:気泡弾を用いた深層水揚水施設による密度成層の混合- 67 -
効率, 土木学会論文集, No.485/II-26, pp. 85-93,
1994.2.
6
)池田裕一:貯水池内温度成層における曝気循環流の特性と環境制御への適用 に関する研究, 学位論文, 1995.7
) (株)丸島アクアシステム:Create the waterfront N o. 1.
8
)高村浩彰, 多田彰秀, 安川武志, 市川 衛:ダム貯水池内での波浪観測につ いて, 土木学会年次講演会講演概要集, 第50回, pp.758-759, 1995.9 )西 一郎, 今井恰知郎, 笠井正威:界面活性剤使覧, 産業図書株式会社版,
1960.
- 68 -
第5章 越波促進技術の水質改善への応用
5. 1
まえがきダム湖や貯水池のような停滞水域において, 富栄養化がもたらす水質の悪化が問題 となっている. この問題の解決策として, 丹羽ら1)は, (a)藻類が異常増殖する要因 となる栄養塩類を流入河川水から除去すること, (b)流動を制御して藻類の異常増殖 を阻止すること, (c)藻類が異常増殖する以前に藻類そのものを除去すること, 等を 挙げている. 中でも比較的制御しやすい(b)に対して, 流動促進や貧酸素底層への溶 存酸素の供給を目的とした技術の開発が, 多くの研究者や技術者によって行われてき た. 本研究では, ダム湖・貯水池に発生する表面波(風波)のエネルギーを効率的に 利用することを試みており, 前章で示した図-4.13のような浮体型越波構造物を設 置し, 越波により獲得されたポテンシャルエネルギーを用いて,∞を豊富に含む表層 越波水を貧(無)酸素底層に供給すると共に, 湖水内の流動を促進しようとするもの である.
ダム湖で 発達する程度の波浪でも水質改善に対して有意であることは, すでに前章 において示した. 本章では, この水質改善法の実用化に際して問題となると思われ る, (1)ダム湖や貯水池で、の波浪の大きさおよび発生頻度, (2)実際の水域にお いて浮体型越波構造物で 獲得される越波量 , (3)表層水を貧酸素化した底層部に毎 秒数リットル送り込むことによる水質の変化, 以上3点に対して現地実験を通じて検 討を行った.
5. 2
夕、ム湖におけるj皮j良4寺性i冬期(1996年12月28日-- 1997年2月23日)および夏期(1997年6月6日~
1997年9月2日)に, 筑後川上流に位置する松原ダムのダム湖において波浪観
測
を実施した. 夏期の波 の観測は, 豪雨や台風による増水に伴うj荒木等の浮遊物によって しばしば中断させられたため, 満足で、きる十分なデータは得られな かった. そのた め, 夏期の波の諸量は風のデータ に基づいて推算されている2)
- 69 -
, J
,
,
図-5.1 松原ダム湖の形状と波浪観測地点
5. 2. 1 波浪観測
( 1 )ダム湖の地形と観測地点
, , r
,
,
, ,
松原ダム湖は南北(流下方向)に長く, 両側を山に挟まれた形状をしている ( 図ー5.1 参照). ダムサイトからおよそ100, 300, 600 mのところには 流木防
止ネット(網場)が施されて おり, ダムから300mのところ の第二網場に設置さ れている作業台上で観測を行った. 作業台はフロートを用いて浮設されているため 水位 の変動には追随するが, 風や波により振動を生じるという問題が ある. 観測地 点から陸岸までの距離を図ー5.2に示す. 方位を16分割して 観測期間中の水位 260 m対して地形図から読み取ったもの である. 図 中0, 90, 180, 270はそ れぞれ 北, 東, 南, 西に対応している. 今回の観測地点から陸岸までの最大距離は南南東
に1067m , 最小距離は東に1 25 mであった.
( 2
)波浪測定システム波浪1�1j定には長さ30 cmの容量式波高計(横河ウェザツク社製のCW2-003-H 型)をl台 用い, サンプリング間隔0.01s , 測定間隔2時間, 測定時間10分間
でデータを採取 した. 作業台からの反射波をなるべく避けるため, 作業台から2m 張り出したパイプに波高計を設置した(写真一5.1参照) •
風向 と風速は微風向風速発信器(0.4 -- 20 m/s) (横河ウエザック社製のA-733
ー70 -
90
45 135
。
。0mmooω一。。マJ00
180
, , , , ・.,
, • • • - -
一ι • .
・ ・ . ー、 .ー . .
315 225
270
図-5.2 波浪観測地点から陸岸までの距離
写真一5.1 波浪観測システム
型)を用いて測定した. 波浪データと同様にサンプリング間隔0.01
s
, 測定間隔 2時間, 測定時間10分間で, 波浪データと同時刻の風向・風速のデータを採取し ている. 標準的な風速の値であるU(Oを得るため, 本来, 水表面上10 m 地点も しくは鉛直方向に複数点で風の観測がなされるべきであるが, 設置の安定性の問題から本観測は水表面上4.0m地点のみで行われた(写真一5.1参照)
.
- 71 -
5. 2. 2 諸量の決定
(
1) H 1/3 およびT
図-5.3は波高記録の一例であり, 図-5.4はそ れに対する周波数スペクトル である. 図-5.4から卓越周波数はf=0.4 S.Iと1.5s・lの2つあることが分かる.
このような双子山の傾向は他の多くのデータに対しでも見られた. 周波数0.4S-Iと
1.5 S.Iを周期で表わすと2.5 Sと0.67 Sである. 図-5.5は図-5.3の一部を拡大 して示したものである. 表面波の周期は概ね1 s以下であることから, 周波数f=
0.4 S.I 前後の波動成分は作業台の振動および網場のフロートの振動によって生じ た波動成分と考えることにした. そこで, 作業台の変動成分および網場のフロート の振動によって生じた波動成分の除去を行った. 図-5.6は観測データから1.25 s問の単純移動平均を施されたデータを差しヲ|いたものである. 図-5.7 は図一
(cm)
6
。
。 100 200 300
Time (8)
400 500 600
図-5.3 波高記録の一例
0.1
� '" 0.01 g
g 。 001
0.0001
0.00001
0.01 nu H Z
10
図-5.4 波の周波数スペクトルの一例
- 72-
(cm)
G
5
1六 A
d\ 代 I^ / ザ
IV
。
295 300 305
Time (5)
図-5.5 拡大された波高データの一部
(cm)
。
.2
.3
。 100 200 300
Time (s)
400 500 。
図-5.6 作業台の振動成分が除去された波高データ
0.1
� '" 0.01 g
g o ool
0.0001
0.00001
0.01
nu 伺10
図-5.7 作業台の振動成分が除去された波高データ対する周波数スペクトル
-
73
-5.6に対する周波数スペクトルである.
f
= 0.4 S.1前後の雑音は完全に除去する ま でには至ら なかった が, 今回は このデータを用いて有義波高Hl!3お よび有義周 期Tl/3の算出を行った.( 2) u 10
今回の風の観測は水面上4m地点で行われた. そこで, 観測 によって得られた 風速U4から次のような過程で UIOを決定した. 風速分布を次式
U7
= 2.30三U*log _ z
K LO
K
: Karmanの定数(キ0 .4) , U* .摩擦速度,Zo
. 水面の粗度 定数に従うものとし3), また, U*はいか なるUIO に対しても
U*2
=CD U102
CD
:抵抗係数(キ 1 .0X 10.3 )
(5.1)
(5.2)
の関係が成り立つものと仮定した. その結果,
U4と UIOは次の関係になる .
U 1
0n
-仔
てU 4 10 0.97
-U 4
1 -7同 五十
(5.3)
UIOは 上式に基づいて決定された. な お, 風速分布 に滑面を仮定した場合は, U4 /
U 10
= 0.94 --0.95であった.5. 2. 3 風と波の関係
図-5.8に風速U4と波高Hl!3の観測結果 の一例を示す. 風速と波高の変動は非 常に良く対応して おり, 風速が 大きい とき には波高も大きくなっている. 観測期間 中, Hi/3の値は最大9. 2cmを記録した. 図-
5.9はHIDとUlOの関係を示したもの
である. 図中 の直線は最小2乗法近似によって得られたものである. 本研究が提案す る越波構造物を 稼動させるのに必要な波高を3 cm以上と仮定すると, 松原ダム湖の
今回の観測地点においては風速が3 m/s以上になれば十分越波構造物は稼動可能であ
- 74 -
… 同
一 一川
8
4 6
2
(ω\E)刷用頃
Feb 26 Feb 19
0 8 6 4 2
Jan 0 29 (1997)
(EO)傾挺
波浪観測結果の一例
図-5.8
10.0 9.0 。
。 。 8.0
。 。
。
。 7.0
E o
ユ 5.0
'-...
工
6.0
4.0 3.0 2.0 1.0
8.0 7.0 3.0 4.0 5.0 6.0
U 1 0 (m/s)
2.0 1.0 0.0
0.0
HI!3とUIOの関係
5.10はTI/3 とUIOの関係を示したものであ Tl/3は0.5 ---- 1.1 sの範囲のイ直をとっている. 深j毎
波長の範囲は0.4----1.9mである.
図-5.9
ることが図中の直線から分かる. 図一
風速が3m/s以上の領域では,
波としてTl/3から波長を換算すると,
る.
波の発生頻度
図- 5.11司 5.12は冬期および夏期の波高の頻度分布を示したものである.
の実線はその累積線である. 波高2.0,3.0,4.0cm以上になる頻度は冬期でそれそれ49.1,
図中
4
2 . 5 .
- 75 -
。
。
。
1.0
0.8
"
め0.6�
←司
0.4
O. 2
(的)
7.0 8.0 4.0 5.0 6.0
(m/s) 3.0
U10 1.0 2.0
0.0 0.0
TI!3とUIQの関係 図-5.10
700 600
500
訴似震
400
100 300 200
∞owm.hh 的.hh。“h
hhO判的.∞
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波高(cm)
冬期の波高の頻度分布
32.3, 18.6 %, 夏期で44.9,26.3, 12.9 %である. 冬期の方が季節風が強く波浪は大きい と一般に思われがちであるが, 夏期も冬期とほとんど同程度の波浪が発生することが
図-5.11
分かる. 越波構造物を稼動させるのに必要な波高を3 cm以上と仮定すれば, 松原ダ ム湖では年聞を通じて約3割の時間帯で
、越波構造物の稼動が期待で、きるこ
とになる.- 76-
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波高(cm)
夏期の波高の頻度分布
図-5.12
獲得越波量
「hd 3
越波構造物の形状
モデル機は2種類製作された. 実機としては横幅が10 m程の構造物を複数個考え ているが, 今回製作されたモデル機は実機よりも一回り小さい横幅4mの構造物であ る. ダム湖に発生する風はダム湖の長軸方向に卓越するという特性を踏まえ, 構造物 の方向が長軸方向に固定されるように網場に係留されるタイプがl号機である(写真 一5.2参照) . したがって1号機の越波機能は上流側と下流側の2つの方向を持って いるので, 上流側では越波堤のみの2次元越波構造物の試験を, 下流側では集波堤を 取り付けて(写真一5.2(b)参照) 3次元越波構造物の試験を同時に行った. 1号機 には, 波が入射し越波堤後部の取水マスに水が溜ると沈降して天端高が低下するとい う現象が見られた. これは浮力の不足によるものである. よって, 1号機改良型では
3 . 5 .
フロートを追加した. 一方, 構造物の方向が常に固定されているl号機に対し, 2号 機は風の力を利用して風の吹く方向に構造物の方向が変化するタイプであり(写真一 5.3参照) , アンカーにより係留されている. 取水マスが満水になっても構造物の沈
降が極力抑えられるようにフロート面積は大きく設計されている
.
各々の構造物の寸法を図-5.旬、 5.14司 5.15に示す. 構造物は透過型構造物で
- 77 -
(a) 上流側
(b) 下流側
写真一5.2 1号機の試験状況
写真一5.3 2号機の試験状況
- 78 -
寸
上訴4953
232
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」 232
断固A-A
図-5.13 越波構造物の寸法( 1号機)
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寸
上涼4Q53
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下士
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追加フロート 断面A-A図-5.14 越波構造物の寸法( 1号機改良型)
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あるので, 諸量の寸法の決定には透過型構造物に対して得られた前章の結果を用い た. 用いた結果はa)越波堤の最適法面勾配は 300 , b) h'IL孟0.2の2点である. 対 象水域はダム湖であるので, 設計波の波長LはL
<
1.0mとした. この設計波の下で b)が満足されるには法先水深h'注 20 cmであればよい. よって, 越波堤部の波の進 行方 向長さlを 40.0 cm , 越波堤部の頂点から底面までの高さ(= hc+ h')を 23.2
cm とした.集波堤の設計に際しては, 構造物の横方向の制約条件が入口幅BIなのか, それとも 出口幅 Bo なのかをまず最初に明確にする必要がある. 集波堤の絞り込みを大きくす るために, 出口幅Bo が制限されている場合には第2章で議論したように Bo を固定し てBIを大きくするのに対し, 入口幅BIが制限されている場合には第3章で議論したよ うにあを固定してBoを小さくする. 今回の試験では, 2次元越波構造物と3次元 越波 構造物を同じ入口幅で比較し, 集波堤の効果を確認することが目的であるので, 設計 される構造物は入口幅が限定されるタイプである. よって, 構造物の形状を決定する ためには, 第3章で議論された3次元の反射型構造物に関する実験結果を用いるが,
ダム湖に設置する構造物は透過型であるため設置形態は大きく異なる. しかしなが ら, hγL注0.2の条件 の下ではそれ以上h'を大きくしても越波量は増加しないという 前章の結果から(図-4.20参照), hγLミ0.2の条件下では透過型構造物も 反射型構 造物とみなせるものとし, 反射型の実験結果を用いて 集波堤の寸法を決定した. 反射 型の実験結果は全て波長と入口幅の比B/L が 5 0/151 =
0.33 の条件 の下で得られたも
のであるので 実験結果を実水域に適用する際にはこの条件 が満足されなければなら ないが, 本設計では構造物の横幅4.0mを考慮にいれて BI =40.0
cm (B,JL>
0.4)とし た. また,図-4.9から集波効果が最も大きいBolBI
は0.3 であることからBo = 12.0
cmとした.獲得された流量は取水マス底部の排水口に設置された電磁式積算体積計(愛知時計 電気社製)によって測定された. 排水口の先には本来ならば導水用のパイプが取り付 けられているが, 今回の試験では2号機のみに長さ15 m のピニルホースが取り付け られた. したがって 2号機の場合のみ所要水位差に, 導水パイプによる摩擦損失お よび表層と底層の密度差による影響を受けることになる.
5. 3. 2 測定結果
表-5.1は試験結果をまとめたものである. モデル機のタイプ, 天端高および波浪 条件 によって当然異なるが, 構造物幅4m当り, 単位時間当りに獲得される越波量は 平均しておおよそ 0.63l/sである. ただし, 6月2 6日---7月3日は豪雨の影響により 他の期間と較べると極めて大きな値をとっているため平均からは除外した. 実機の構