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企業のコスト競争力に関する内的要因の研究 : 完 全制御型植物工場における栽培工程と人工栽培技術 を中心として

著者 殿崎 正芳

著者別名 TONOSAKI Masayoshi

その他のタイトル Study on the internal factors of cost

competitiveness in the enterprise : Focusing on production process and artificial

cultivation technique in the complete control type plant factory

ページ 1‑223

発行年 2019‑03‑24

学位授与番号 32675甲第461号

学位授与年月日 2019‑03‑24

学位名 博士(政策学)

学位授与機関 法政大学 (Hosei University)

URL http://doi.org/10.15002/00021766

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博士学位論文

論文内容の要旨および審査結果の要旨

氏名 殿崎 正芳 学位の種類 博士(政策学)

学位記番号 第703号

学位授与の日付 2019年 3月24日

学位授与の要件 本学学位規則第5条第1項(1)該当者(甲) 論文審査委員 主査 教授 井上 善海

副査 教授 樋口 一清

副査(学外)農林水産省研究調整官 中野 明正

企業のコスト競争力に関する内的要因の研究

―完全制御型植物工場における栽培工程と人工栽培技術を中心として―

Ⅰ.著作内容の要旨

1.本論文の目的と意義

殿崎正芳氏は、1994年に早稲田大学大学院商学研究科修士課程を修了し、現在は日立キ ャピタル株式会社に勤務している。2012年に法政大学大学院政策創造研究科博士課程に入 学、2016年に法政大学大学院政策創造研究科博士課程単位取得退学、現在に至っている。

殿崎氏の今回の学位請求論文「企業のコスト競争力に関する内的要因の研究 -完全制 御型植物工場における栽培工程と人工栽培技術を中心として-」は、マイタケの人工栽培 に関して、株式会社ホクト(以下、「ホクト」という)、株式会社雪国まいたけ(以下、「雪 国まいたけ」という)、一正蒲鉾株式会社(以下、「一正蒲鉾」という)の大手企業三社を 取り上げ、国内の生産量トップの企業であるホクトのコスト競争力を構成している要因と そのメカニズムを「マイタケ」の人工栽培における「技術」と「工程」の観点から明らか にしたものである。

先行研究における生産技術や工程に関連する研究は、主に自動車などの工業製品を中心 に議論されてきた。しかし、本論文は工業製品ではなく、これまで議論されてこなかった

「生物(菌類:マイタケ)」に着目しているところが一つの特徴である。分析のフレームワ ークとしては、資源ベース理論に基づく企業内部の要因からの視点及びダイナミック・ケ イパビリティ論に基づく環境変化への適応能力の視点等を踏まえつつ、実証的な手法によ り実際に発生している現象(栽培技術や工程等の違いなど)や活動(研究・開発、人材育 成、社内連携など)に重点を置き、その中から浮かび上がってきた事実を基に理論を構築 している。とりわけ、「生物(菌類:マイタケ)」ならではのコスト競争力の要因を明らか

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2 にしている点が、独創的である。

2.本論文の構成と内容

2.1 本論文の構成

本論文の構成は次の通りである。

第1章 序 論

第1節 本論の問題意識 第2節 本論の目的

第3節 現行の政策について 第4節 植物工場事業について 第5節 本論の概要

第6節 本論の構成

第2章 現状分析

第1節 植物工場の現状 第2節 キノコ産業について 第3節 キノコの現状について 第4節 マイタケについて

第5節 マイタケの人工栽培の歴史 第6節 キノコの人工栽培技術の特徴 第7節 小 括

第3章 先行研究レビュー

第1節 植物工場に関する先行研究 第2節 資源ベース理論に関する先行研究 第3節 組織能力に関する先行研究 第4節 競争優位性に関する先行研究

第5節 日本の農業経営(ビジネス)に関する先行研究 第6節 本論における研究の意義

第4章 分析視座と研究方法 第1節 研究対象について 第2節 リサーチ・クエスチョン 第3節 研究の方法

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3 第5章 事例研究Ⅰ:ホクト株式会社

第1節 概 要 第2節 事業の変遷

第3節 研究・開発と栽培技術 第4節 大量生産技術

第5節 社内システム 第6節 小 括

第6章 事例研究Ⅱ:株式会社雪国まいたけ 第1節 概 要

第2節 事業の変遷

第3節 研究・開発と栽培技術 第4節 大量生産技術

第5節 社内システム 第6節 小 括

第7章 事例研究Ⅲ:一正蒲鉾株式会社 第1節 概 要

第2節 事業の変遷

第3節 研究・開発と栽培技術 第4節 大量生産技術

第5節 社内システム 第6節 小 括

第8章:事例研究の総括 第1節 予備的考察 第2節 考 察 第3節 結 論

第4節 本論の限界と今後の課題

第9章:植物工場に関する政策提言

第1節 植物工場全般に関するインプリケーション 第2節 専門家育成に関するインプリケーション 第3節 まとめ

補足資料 参考文献

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4 2.2 論文の概要

本論文の概要は、以下の通りである。

すなわち、第1章では、問題の所在、本論文のねらい、本論の構成などを示している。

第2章では、まず、現状分析としてキノコ産業やキノコの人工栽培技術の特徴を概観 している。次に、キノコの人工栽培技術や大量生産技術が如何に高度な専門知識や技術 を必要とするかを明示するために「製品の基本設計思想」の観点から考察を行っている。

そして、マイタケの人工栽培における工程および要求機能を分析し、それが複雑な調整 を必要とする「インテグラル型工程アーキテクチャ」であることを提示している。

第3章では、先行研究レビューを行い、研究の意義を明らかにしている。先行研究レ ビューの結果から、①これまで国内のキノコの人工栽培技術に関しては、基礎技術に関 する研究が中心であり、経営学的な視点からの研究事例が極めて少ないこと。②従来の キノコに関する研究の多くは小規模農業の延長として捉えたものであり、工場的生物生 産(植物工場等)に関する企業経営の視点から、キノコメーカー(製造業:マイタケ事 業)として事業を捉えた研究は極めて少ないこと。③従来の経営資源や組織能力あるい は生産管理等に関する研究は、工業製品が中心であり、キノコの工場的生物生産が技術 的に発展途上にあることもあり、キノコの工場的生産事業の内的要因に関しては議論が なされてこなかったこと。④本論文で事例研究において取り上げた三社に関して、内的 要因の観点から議論されたことがないことなどが明らかになった。こうした先行研究の 状況をふまえ、第3章では、本研究に密接に関連する分野である完全制御型植物工場に おける企業のコスト競争力研究の意義を明らかにしている。

第4章では、分析の視座と研究方法を明らかにしている。具体的には、研究対象の選 定理由、リサーチ・クエスチョン(以下、「RQ」という)、研究方法について提示して いる。本論のリサーチ・クエスチョンは下記の通りである。

RQ1:ホクトと競合他社における栽培工程を比較して、

(1)栽培工程にどのようなコスト競争力を高める要因(コスト削減要因)が 存在しているのでろうか。

(2)ホクトは、どのような点に着目し、どのような方法で、コスト競争力を 高めたのであろうか。

RQ2:ホクトの「異質性」と「固着性」を有している資源(技術的要因)とは、

どのようなものなのであろうか。

RQ3:ホクトのコスト競争力を構築するための仕組み(資源の組合せとプロセス)

はどのように形成されているのであろうか。

分析のフレームワークは、資源ベース理論、ダイナミック・ケイパビリティ論、VR IO分析をベースに行っている。そして、コスト競争力の要因分析は、戦略に留まらず、

具体的なオペレーションの部分や事業の仕組みにまで落とし込み考察を行っている。

調査手法は、資料調査に加えインタビュー調査や工場視察などを行っている。インタ

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ビュー調査は、半構造化インタビューにて実施され、インタビュー・ガイドに従う一方 で、予定した質問に対する回答以外の周辺情報の収集にも重点を置き、被質問者が有す る主観的理論、周辺知識など幅広く情報収集を行っている。インタビューの対象は、事 例研究の対象企業だけではなく、植物工場の専門家、過去にキノコ事業を行っていた実 績のある企業(撤退企業)等にも行っている。インタビューの被質問者は、研究所の研 究員だけではなく、社長(創業者)、広報・IR、秘書室、営業、工場長、経営企画・

事業企画等など幅広い部門を対象に行い、立場・職種等の異なる被質問者から多面的に 情報収集が行われ検証されている。

第5章から第7章では、三社についての事例研究を行っている。第5章では「ホクト」、

第6章では「雪国まいたけ」、第7章では「一正蒲鉾」を取り上げ、マイタケの人工栽 培における「技術」と「工程」を内的要因の観点から考察している。各事例研究では、

事業の変遷を概観しつつ、 研究・開発と栽培技術を中心に論じ、各社毎のマイタケの 栽培技術や栽培工程の特徴を明らかにしている。具体的には、研究所の体制、設備、野 生株や種菌、培地、栽培方法、栽培工程などについて調査している。特に、コスト競争 力の重要な要因となる大量生産技術や社内システムは、研究所・工場・営業の連携や教 育体制・方法などを社内会議やマニュアル・社内規定の有無など具体的な作業レベルま で落とし込み調査がなされている。

第8章では、事例研究の総括として、考察を行い、結論を述べ、最後に今後の課題に ついて言及している。考察では、第5章から第7章で明らかになった事実に基づき三社 を比較し、ホクトのコスト競争力を構築する要因を明らかにしている。そして、結論と して、ホクトの研究所について、①充実した研究・開発体制、②品種ごとの大型栽培実 験室、③野生株の蓄積数の多さとそれを活用した独自の培養株、④優れた交配技術、⑤ 優れたスクリーニング技術の「5つの要因」、その研究・開発力によって確立された① マイタケの形状・重量を制御する技術、②成長スピードを制御する技術、③ビン栽培の 技術、④資材の開発技術の「4つの栽培技術」、さらに、技術を改良・発展させる価値 創造や環境適応力を育むためのシステムとして「高速人材育成システム」「栽培技術の ブラッシュアップシステム」が存在することを示した上で、これらがどのように組み合 わさってコスト競争力を構築しているかを明らかにしている。

第9章では、キノコ生産を含めた植物工場に関する政策提言を行っている。具体的に は、植物工場業界全体に関して、①研究・開発(資金面、技術連携など)、②植物工場 間の供給連携および集約化、③植物工場のプラント・資材の標準化と開発支援、④高齢 者・障害者雇用を軸としたモデル構築などの諸点について提言を行っている。さらに、

専門家育成に関しては①環境制御システムの専門家育成、②高度な経営能力を有した人 材育成、③厳密な事業計画の策定などについて論点を明らかにし、本論文を締め括って いる。

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Ⅱ.審査結果の要旨

1.審査経過

政策創造研究科では、殿崎正芳氏の申請を受け、学位論文審査委員会を設置し、2018 年10 月 25 日、殿崎正芳氏からの口頭説明を受け、審査委員との質疑応答を行った。

これを踏まえて、審査委員会として学位を授与することが適当であるとの結論に達した。

審査委員は、以下の3名である。

井上 善海(法政大学大学院 政策創造研究科 教授) 主査

中野 明正(農林水産省 農林水産技術会議事務局 研究調整官) 副査(外部委員)

樋口 一清(法政大学大学院 政策創造研究科 教授) 副査 2.評価

2.1 本論文の成果

本論文の成果は、「生物(菌類:マイタケ)」の人工栽培における企業のコスト競争力 に関する内的要因を新たな観点から解明したことである。具体的には、まず、三社の栽 培工程を比較し、ホクトが機械化(自動化)を実現しているが、競合他社においては機 械化(自動化)が実現できていない工程が3工程(「破袋」「収穫」「小分け(カット)」)

あることを示している。その上で、競合他社にて取り組まれている栽培工程のコスト削 減方法の主な手段は、機械・装置メーカーに依存した工程の機械化(自動化)であるが、

ホクトは機械・装置メーカーだけに依存せず、機械化を前提に「機械化に適合したマイ タケ」の研究・開発に取り組み、「商品(マイタケ)自体を機械・装置の規格に適合す るような形状・性質に変えることで工程の機械化(自動化)を図る」という新たな発想 と方法でコスト削減を成し遂げたことを明らかにしている。

本論文では、こうしたホクトのコスト競争力の優位性を可能にした要因が「資源の異 質性」と「資源の固着性」を有する経営資源(技術的要因)にあることを示し、それが 高度な研究・開発力を有する研究所の「5つの要因」、すなわち、①充実した研究・開 発体制、②品種ごとの大型栽培実験室、③野生株の蓄積数の多さとそれを活用した独自 の培養株、④優れた交配技術、⑤優れたスクリーニング技術、及びその研究・開発力に よって確立された「4つの栽培技術」、すなわち、①マイタケの形状・重量を制御する 技術、②成長スピードを制御する技術、③ビン栽培の技術、④資材の開発技術、さらに、

技術を改良・発展させる価値創造と環境適応力の仕組みとしての「(匠の技)高速人材 育成システム」「栽培技術のブラッシュアップシステム」があることを明らかにしてい る。

また、本研究では、ホクトの技術的優位性が、競合他社においては「暗黙知」として 極めて少人数の専門家の「匠の技」として体化されている環境制御技術の一部を、組織

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の「形式知」として定式化し、工場の「共通言語」として定着させたことにあることを 明らかにしている。こうしたプロセスには、ホクトの「工場を再現した大型の実験室」

の存在が大きく関わっている。ホクトでは、競合他社にはない大型の実験室があること で、本番環境に近い状態での栽培実験が可能となり、栽培実験の徹底的なデータベース 化によって、工場におけるスケール・アップ問題の迅速な改善が図られ、競争優位性に 繋がっていることを示している。

本論文は、マイタケの人工栽培に関する大手企業三社についての実証的な視点からの 詳細な検討を通じて、植物工場における企業のコスト競争力に関する内的要因を明らか にしたものであり、オリジナリティが高い論文であると評価できる。本論文は、我が国 の植物工場に関するビジネスモデルの構築の観点からの研究に新たな一歩を印すもの となっていると言えよう。

2.2 残された課題

本論文の主題である企業のコスト競争力は、価値活動の観点から見ると、バリューチ ェーン全体の川上から川下に至る様々な価値活動の組合せで形成されるものである。本 論文は、価値活動の中で主要な要素となる人工栽培における「技術」と「工程」に焦点 を置き考察を行ったものであり、バリューチェーンの他の部分でコスト競争力を構成す る要因については、考察の余地を残している。

また、本論文では、マイタケの人工栽培における企業のコスト競争力を明らかにする ため、ホクト、雪国まいたけ、一正蒲鉾の大手企業三社に焦点をあて研究を行っている。

これらの企業がキノコの人工栽培の市場において大きなウエイトを占め、競争力を考察 する上で重要であることは言を俟たないが、キノコ産業において事業者数としては大き なウエイトを占める中小零細事業者についての研究に関しては課題が残っている。

さらに、本論文においては、マイタケを取り上げたが、他の品種で人工栽培されてい る食用キノコ(エリンギ、ブナシメジ、シイタケ、他)についても併せて解明していく 必要があると考えられる。

政策面では、近年、スマートフードチェーンシステムなど、ICTを活用した新たな動 きが注目されている。こうした動向をも考慮しつつ、本研究での調査方法や分析手法を さらに普遍化し、今後の植物工場に関する政策立案のプロセスに役立てていくことも課 題であると考えられる。

これらの諸点については、今後、殿崎氏がさらに研究を深めていくことを期待したい。

3 結論

以上のように殿崎正芳氏が提出した学位請求論文は、テーマ設定、分析手法と内容な ど、いずれの点をとっても、オリジナリティと学術的な寄与が認められ、博士号の授与 に値するものと考えられる。

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本論文審査小委員会は、委員全員の一致した意見として、殿崎正芳氏に博士号(政策 学)が授与されるべきであるとの結論に達した。

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