報
告
キャリーオーバーしたネフローゼ症候群患者の
ステロイド治療に伴う体験:
一ボディ・イメージの変化による体験に影響を与えた人的要因一
井 上 由紀子
tte a,・ 渤騨 鱗
〔論文要旨〕
本研究の目的は,思春期から青年期へとキャリーオーバーしたネフローゼ症候群患者のステロイド治 療に伴うボディ・イメージの変化の体験に影響を与えた人々の存在を明らかにすることである。6名の 協力者に半構成面接を実施し質的帰納的に分析した。その結果,彼らは病気前と変わらずに【普通に接
してくれた仲の良い友だち】や【すべてを受けとめてくれた母親】さらに,容姿を気にせず【ありのま までいられた家族の存在】に支えらか情緒的安定を得ていた。一方で【無神経な大人】の対応に傷つき
【自分を左右させた医師の存在】があった。
彼らがボディ・イメージの変化に伴うさまざまな体験:を経て現実受容,自己受容していく過程には,
情緒的安定が不可欠であり親友,母親家族医師の存在が重要であった。看護者は,彼らにとって情 緒的安定をもたらす存在を彼らの成長過程の視点から捉え,その関係性の深まりや変化について性差を 考慮しながら支援することが必要である。
Key words;ネフローゼ症候群,ステロイド治療,キャリーオーバー,ボディ・イメージ,情緒的安定
1.はじめに
近年,小児医療の進歩により小児難治性疾患 の救命率が改善する一方でキャリーオーバー患 者の進学,就職結婚などの問題が生じてい る1・2)。キャリーオーバーが問題となる小児難 治性疾患には,先天性心疾患,気管支喘息慢 性腎疾患等の慢性疾患が含まれる3)。慢性疾患 児のストレス研究では慢性腎疾患児のストレス が最も高く,特に高校生女子に顕著で,その 内容はステロイド治療による容姿の変化であ る4)。中でもネフローゼ症候群三児は,ステロ イド治療が不可欠であり再発による長期投与か
ら他の慢性腎疾患児と比較し中学,高校と進む に従い多くの生活場面で服薬に伴うストレスが 高くなり,疾患の特性や治療内容の相違からの 支援の必要性が指摘されている5)。一方,ダイ エットブームや痩身傾向を讃美する社会,文化 の中で健康な思春期対象者の身体に関する認識 は,客観的体格指標ではなく自分の身体部位へ の主観的な認知であること617),また痩身体型 を標準と捉える傾向が報告されている7, 8)。思 春期,青年期とキャリーオーバーしたネフロー ゼ症候群患者は,こうした社会風潮,そこでの 仲間たちと共に社会生活を営んでいる。ボディ・
イメージの形成は思春期から青年期の重要な発
Regarding Experiences Carried over from Steroid Therapy on Patients Suffering from Nephrotic Syndrome
一 Human Factors which Affect the Adolescents’ Acceptance of Their Changed Body rmage 一 Yukiko INouE
日本赤十字北海道看護大学看護学部(看護師/教育職)
別刷請求先=井上由紀子 日本赤十字北海道看護大学看護学部 〒090-0011北海道北見市曙町664-1 Tel/Fax : 0157-66-3613
(2052)
受付08.6.27 採用09.12.15
達課題であり自己概念の基礎を成すものであ る9)。自分の身体に最も敏感なこの時期にステ ロイド治療によるボディ・イメージの変化を体 験することは自己概念の構築に大きな影響を与 えるといえる。しかし,これまでの研究ではス テロイド治療を受ける患児が容姿の変化による ストレスが高いこと,思春期の発達段階的特徴 からの支援が必要であるという視点にとどまり 疾患の特性や治療内容の相違,さらに当事者で あるステロイド治療を継続しながら思春期,青 年期とキャリーオーバーしたネフローゼ症候群 患者の立場からその体験は十分に明らかにされ てはいない。キャリーオーバーした患者の主体 性を尊重した自立への支援には,疾患や治療内 容,発達段階をある程度限定し当事者の体験に 視点を向けた検討が重要と考える。
そこで著者は,以前思春期,青年期とキャリー オーバーしたネフローゼ症候群患者のステロイ ド治療に伴う体験をボディ・イメージの変化に 焦点をあてて検討し本誌において報告した10)。
その結果,ステロイド治療により変貌する自分 に直面した彼らは,その衝撃から回避的行動を とるが,一方で変貌する自分へのやるせない思 いをエネルギーとして自己再建へ対処してい た。その対処過程で彼らは友だち関係の変化や 再発によるステロイド剤の増量などからステロ イドが自分に必要不可欠であることを認識し現 実受容していた。
今回は,彼らの語りを“体験に影響を与えた 人々の存在”という視点で分析し検討した。
皿.用語の定義 1.ボデイ・イメージ
自分の身体に対する心象であり,それは自分 の身体に関係するあらゆる知覚と経験によって 形成され相互作用の中で絶えず修正され変化し
ていく観念である11・ 12)。
2.キャリーオーバー
小児慢性疾患を思春期や成人期まで持ち越す こと13)。本研究ではネフローゼ症候群をもち成 人期への移行過程にある思春期,青年期の患者 に焦点をあてた。
3.ネフローゼ症候群患者
本研究では,原発性あるいは続発性のネフ ローゼ症候群14)に罹患しステロイド治療を受け 現在は寛解期または継続治療中で外来通院して いる者とした。
皿.研究方法
研究目的およびその意義から質的帰納的方法 を選択し実施した。
1.研究協力者の選択
協力者は,ネフローゼ症候群に罹患し思春 期,青年期とステロイド治療を継続し現在は寛 解期または継続治療中で外来通院している者と
した。総合病院と全国「腎炎・ネフローゼ児を 守る会」の2家族会に依頼し研究目的,方法を 説明し承諾が得られた施設から協力者の紹介を 受けた。
2.データ収集および分析方法
データ収集は2004年5月から8月に行った。
面接は3回実施し1回目は協力者の背景を確認 し関係性を築いた。2回目は研究目的を明らか にするための面接ガイドを作成し90分前後の半 構成面接法を用いた調査を実施した。面接は,
「ステロイド治療によってからだにどのような 変化がありましたか」という質問から始め,思 いや感情行動などボディ・イメージの変化に 伴う体験を協力者の語りの流れに沿って行っ た。3回目は面接内容の真実性を高めるため分 析結果を面接および文書で確認した。分析は① 面接内容を録音したテープから逐語録を作成し データとした。②データを繰り返し読みテーマ に関連ある文脈に着目しコード化した。③コー ド化したものを比較検討し類似性を考えながら 分類整理しサブカテゴリーを明らかにした。④ サブカテゴリーの特性を検討し,さらにサブカ テゴリーの類似性と相違生に留意しながらカテ ゴリー化した。分析過程では小児看護専門家と 質的研究の専門家にスーパーバイズを受けた。
3.倫理的配慮
研究の承諾に関しては,協力者とその保護者 に研究目的,方法を説明し協力の依頼をした。
協力者の権利を保護するための守秘義務答え たくない質問には答える必要がないこと,研究 協力を辞退する権利,データの保管と研究終了 時の処分などについて説明し両者から同意が得
られた場合を対象とし文書で承諾を得た。
1V.結 果
1.研究協力者の背景(表1)
表1に示したように協力者は6名で男子3 名,女子3名,年齢は平均年齢20.5歳で16歳か ら26歳であった。協力者は,いずれもステロイ ド治療による副作用について初回入院時あるい は再発時に医師からその概要の説明は受けてい
た。
2.キャリーオーバーしたネフローゼ症候群患者の ステロイド治療に伴う体験一ボディ・イメージの 変化による体験に影響を与えた人的要因一
研究目的から分析した結果,5つのカテゴ リー(表2)が抽出された。抽出された5つの カテゴリー【】と,それを構成するサブカテ ゴリー『』およびカテゴリーを説明するため,
その内容を表しているデータを「」で表す。
また,以前の研究10)で抽出されたカテゴリーは
〔〕で示す。
以前の研究10)では,キャリーオーバーしたネ フローゼ症候群患者のステロイド治療に伴う体 験をボディ・イメージの変化に焦点をあてて検 討した。その結果,彼らはステロイド治療によ
り〔変貌する自分〕を目の当たりにし〔変貌す る自分へのやるせなさ〕から〔他者からの回 避〕行動をとり,一方でやるせない思いをエネ ルギーとして〔変貌への対処〕に努力していた。
しかし,寛解と再発を繰り返す中で〔顔の丸さ に伴う友だち関係の変化〕を体験しステロイド 治療が必要不可欠な〔現実の“しかたなさ”か らの歩み出し〕を行い同時に〔ぬぐいされない 不安〕を抱いていた。
今回,このような彼らの体験に影響を与えた 周囲の人々として,病気前と変わらずに【普通 に接してくれた仲の良い友だち】や,何を言っ ても【すべてを受けとめてくれた母親】,さら に容姿を気にせず【ありのままでいられた家族 の存在】から情緒的安定を得ていた。一方,【無
表1 研究協力者の背景 年 齢 16歳18歳,19歳,21歳23歳,26歳 性 別 男子3名,女子3名
診断名
原発性ネフローゼ症候群5名(微小変化型4 シそのうち2名は頻回再発型,膜性増殖性腎 鰍P名)
ア発性ネフローゼ症候群1名(ループス腎炎)
発症年齢 幼児期1名,小学校高学年以上5名
主な経過
6名いずれも再発を経験し多い協力者は9回
。療経過中に透析経験者1名,父親からの腎 レ植者ユ名
現在の治療
6名いずれも外来定期受診中
Xテロイド治療継続中4名,2名はステロイ hが切れて3~5か月目
社会的属性
高校生1名,大学受験資格のため勉強中1名,
ミ員1名,自宅で英語の勉強中1名,医療 齧蜉w校生ユ名,看護師1名
家族背景 6名いずれも核家族兄弟・姉妹がいる 担当医師 治療過程で小児科医師から腎臓専門医師に変
Xは3名,他は小児科医師が継続担当している
神経な大人】の対応に傷つき【自分を左右させ た医師の存在1があった。
1)普通に接してくれた仲の良い友だち
これは,ステロイド治療による顔の丸さから クラスメートの中傷を受けるなど友だち関係が 変化する中で病気前と変わらずに接してくれた 仲の良い友だちの存在を表している。彼らは仲 の良い友だちあるいは親友という言葉で自分 にとって大切な友だちの存在を表現していた。
「外見の“太ったね,痩せたね”って仲の良い友 だちからは聞いたことがない。仲の良い友だち は普通に接してくれたから気持ちが楽だった」,
「親友との関係は病気しても変わらなかった。
本当に普通に接していた」と『外見には触れな い仲の良い友だち』を語り,特に女子の協力者 は外見には触れなかったこと,男子の協力者は 関係性が変わらなかったことを語った。また,
「高校でもこういう病気なんだって仲の良い友 だちには話していたからわかってくれて(顔が 丸いとか)全然言ってこない」,「仲の良い友だ ちは“具合悪いとき俺に言えよ”とか副作用の こと昔からだからわかってくれた」と『病気を 理解してくれた仲の良い友だち』の存在を語っ た。さらに「再発でまた顔丸くなった時“また 薬か?頑張れよ”とか言ってくれて何かすごく 嬉しかった」,「仲の良い友だちはイジメの経験:
表2 キャリーオーバーしたネフローゼ症候群患者のステロイド治療に伴う体験 一ボディ・イメージの変化による体験に影響を与えた人的要因一
カテゴリー サプカテゴリー コード
外見には触れない仲の良い友だち
太った・痩せたって仲の良い友だちは言わない,仲の良い友だちは特 ハな目で見ない,親友との関係は病気しても変わらなかった,仲の良
「友だちは普通に接してくれた
病気を理解してくれた仲の良い友だち 仲の良い友だちには病気のこと話せた,仲の良い友だちは副作用のこ
ニ理解してくれた 普通に接してくれ
ス仲の良い友だち
励ましてくれた仲の良い友だち 再発のたび元気づけてくれた,親友といると病気のこと忘れた,仲の ヌい友だちがいたから学校へ行けた
心を和ませた仲の良い友だちの面会 親友は面会に来ても病気の話はしなかった,仲の良い友だちの面会は オかった
支えてくれた異性の存在 側にいてくれた彼女,相談にのってくれた彼 母親へぶつけて発散した副作用の辛
ウ
母親へ顔の丸い辛さを言った,母親へひたすらしゃべった,母親へ顔 フ丸い理由を何度も聞いた
すべてを受けとめ
トくれた母親 常に自分のことを考えてくれた母親 いつも自分のことを考えてくれた母親ヤツ当たりしても許してくれ ス母親
母親から得る癒し 話を聞いてくれたことで癒された,大丈夫って言ってほしくて語った,
齔eは慰めてくれた
兄弟の前ではいつもの自分 弟とは顔の丸さを気にせず遊んだ ありのままでいら
黷ス家族の存在 自分のことのように考えてくれた姉妹 顔が目立たない髪型を考えてくれた妹,相談にのってくれた姉
心強い父親 意見とかちゃんとくれた,ドライブ誘ってくれた
傷ついた大人の言動 病気のことばかり聞かれた,自分ではどうしようもないこと聞かれた 無神経な大人
大人の対応への腹立たしさ 病人に言う言葉ではない,普通の会話したかった 自分を左右させた
緕tの存在
医師の対応に一喜一憂する自分 辛かった断定的な言葉,本当のことを言って欲しかった,話を聞いて ルしかった
病気に対する自覚を促した医師 励まし話を聞いてくれた先生,選択権を与えてくれた先生
がある子もいて(顔の丸さを中傷されたこと)
話したりして“気にしなくていいじゃん”って。
何かそういう友だちがいたから学校へ行けた」
と『励ましてくれた仲の良い友だち』を語り「信 頼している友だちっていうのは面会に来ても病 気の話をしないんです。僕から話せば“ああ,
そうなんや。大変やな”とか“これからどう治 療すんの?とか聞いてくれる。普段は全く雑談 ですよね」,「(親友が)面会に来てくれること は嬉しかった。顔見たらホッとしますね」と『心 を和ませた仲の良い友だちの面会』を語った。
また2名の協力者は「幼なじみの彼女がずっと 側にいて助けてくれた」,「彼氏が自分と同じ仕 事しているからいろいろ相談した。身体のこと 一番に考えなって言ってくれた」と友だちでも あり恋人でもある『支えてくれた異性の存在』
を語った。
2)すべてを受けとめてくれた母親
これは,母親が彼らにとってかけがえのない 存在であることを表しており,母親は発病から 現在に至るまでさまざまな体験をするわが子を 側で支え続けていた。「母さんには何度も顔が 丸いこと“嫌だ,嫌だ”って言った」,「お母さ んに“何で顔丸いの?”ってわかっているけど 何回も聞いた。“辛い”って言った」,「もう,何 かしゃべってストレス発散していたっていう感 じ。お母さんが面会に来た.ら,もうひたすらしゃ べっていた。しようもないことも,いっぱいしゃ べった。」と『母親へぶつけて発散した副作用 の辛さ』を語り,「しゃべる」,「言った」・とい.
う行動はいずれも女子の協力者であった。一方,
男子の’協力者は,「母親はいつも僕のこと考え てくれてヤツ当たりしても黙って許してくれ た」,「母親が頑張ってくれてどうしても学校行 きたいのなら私とマンションに住もうって。母
親にしたら二重生活でした」と『常に自分のこ とを考えてくれた母親』を語った。また「母さ んは“しかたないしょ”とは言うけど話を聞い てくれるから,またしゃべろう!って思った」,
「(顔の丸さを中傷されたこと)お母さんに言う しがなかった。でも,言ってしまうと泣いちゃっ た。口に出すと泣いちゃっていた」と『母親か
ら得る癒し』を語った。
3)ありのままでいられた家族の存在
これは,副作用による顔の丸さから回避的な 行動をとる彼らが,副作用も忘れありのままで いられた家族の存在を表している。「弟たちは,
“顔が丸い”とか言わないからじゃれ合って遊 んだ」と『兄弟の前ではいつもの自分』を語った。
また,「“髪型によってホッペ強調されちゃうよ”
とか妹が教えてくれた」,「お母ちゃんも相談に のってくれて,きょうだいだから話し易かった
し,自分のことのように考えてくれた」と『自 分のことのように考えてくれた姉妹』がいた。
さらに「友だちに言いにくいことも親や家族に はしゃべった。父親は意見をちゃんとくれた」,
「説得力あるっていうか。お父さんが“大丈夫”っ て言うんやったら!って思う」と『心強い父親』
を語った。
4)無神経な大人
これは,彼らが再発などで入院生活をおくる 中,面会に訪れる“大人”の言動から深く傷つ いた気持ちを表している。「足の手術の時,大’
人の人が面会に来て心配だから聞くんだろう けど“どうして,そんなになったの?”って聞 かれるのが嫌で私だってわからないよ!って」,
「面会に来た大人の人に“透析ならんで良かっ たな”って言われて“何がいいんだろう?”って いう思いですよ。僕にとっては!何と比べてっ てことですよね」と『傷ついた大人の言動』を 語った。また,「私がこんなこと悩んでいるん だけどって病気のこと言った時にいろいろ意見
くれるのは嬉しいけど病気のことばっかりで普 通の話をしたいのに!って思った」,「透析にな らなかったかもしれないけど,副作用からの精 神的苦痛とこれからの生活を考えると…あんな 軽い一言は病人に対して言う言葉ではないなっ て僕は思いましたね」と『大人の対応への腹立 たしさ』を語った。
5)自分を左右させた医師の存在
これは,治療過程で信頼する医師の対応に 気持ちや行動が左右されたことを表している。
「背中が毛深くなったことに気づいた時に先生 に“背中毛深くなったでしょう?って言ったら
“いや,そんなことないよ。普通だよ”って言わ れたのがかえって悲しかった。本当は普通じゃ ないのに。濃くなっているのに。“そうだね”っ て普通に思ったこと言ってほしかった」,「先生 の一言がうち(私)の心を動かすみたいで先生 が笑顔だと,ああ今日は(検査データ)良かっ たんや!とか思って。“良くならないな”って言 われると何か自分が悪いみたいで。先生の一言 で,心が落ちたり上がったり影響力があります よね」と『医師の対応に一喜一憂する自分』を 語った。一方,「先生は励ますっていうか“身 体大事にしろよ。自分の身体なんだから”って。
そうだなあ!って(容姿)変わっても自分の身 体なんだ!って思った」,「(再発して)先生が
“このままじゃ入院するだけだから”って“薬何 錠から?”って聞いてくれて“6錠から”って僕 から言って。先生は僕のことわかってくれてい た」と『病気に対する自覚を促した医師』の存 在があった。
V.考 察
1.ボディ・イメージの変化による体験に影響を与 えた人々の存在とその意義
思春期から青年期の友だちの意義として宮 下15)は次の3点をあげている。一つは情緒的安 定が得られること,二つ目に自己を客観的にみ つめられること,三Q目に人間関係が学べるこ とである。このような友だちの存在の意義は,
彼らにとって【普通に接してくれた仲の良い友 だち】で説明される。〔変貌する自分へのやる せなさ〕から〔他者からの回避〕そして〔顔の 丸さに伴う友だち関係の変化〕という辛い体験 をする10)彼らは,『外見には触れない仲の良い 友だち』や『励ましてくれた仲の良い友だち』
により情緒的安定を得ていた。特に,女子の協 力者は,仲の良い友だちは外見に触れなかった
ことを強調しその気遣いに感謝していた。また,
『病気を理解してくれた仲の良い友だち』,『心 を和ませた仲の良い友だちの面会』で表される
ように仲の良い友だちや親友には,病気や副作 用のことを伝え,病気とは関係のない会話をす
ることで不安感や孤独感が軽減されていた。中 村ら16)の思春期糖尿病患児を対象とした研究結 果においても患児は親友と過ごすことで情緒の 安定を得ておりこの時期,情緒的安定をもたら す存在として親友の重要性が確認された。また,
異性の友人との関わりは通常,同性の友だちと の充実した関わりを経てばじめて健全な形で成 立する15)といわれるように『支えてくれた異性 の存在』は,容姿を超えた関係性の深まりがあっ
た。
このように彼らにとって仲の良くない友だち は,ボディ・イメージの変化により自分を排斥 し脅かす存在であった10)が,反面,仲の良い友 だちと親友は,ボディ・イメージの変化に関 係なく病気前と同じように普通に接してくれ る存在であった。親友からの励ましや支えば,
彼らに情緒的安定をもたらし,“このままで良
い” ニいう自己受容,現実受容に影響を与えて いた10)。さらに,親友への感謝の気持ちを他者 への思いやりと能動的な行動に発展させてい
た10)。
親友とともに【すべてを受けとめてくれた母 親1は,彼らにとって副作用の辛さをどんな形 でぶつけても受け入れ癒してくれるかけがえの ない存在であった。女子の協力者は母親へ「しゃ べる」,「語る」あるいは「泣く」という感情表 出で辛さを発散していた。それに対し男子の協 力者は,母親に対し思いのまま感情を表出する ことはないが自分のことを何よりも優先し行動 してくれた母親を客観的に捉え感謝していた。
慢性疾患児を対象としたソーシャルサポート の研究IZ 18)においても友人と母親のサポート源 が父親 きょうだい,医療者よりも有意に高く 友人と同様に母親の存在が重要なサポート源で あるといえる。今回,思春期から青年期という 発達段階では,性差で母親からのサポートとサ ポートの受けとめ方に相違があることが確認さ
れた。
【ありのままでいられた家族の存在】では,
前述した母親の存在を基盤とした家族の存在が あった。〔変貌する自分〕に直面し〔変貌する 自分へのやるせなさ〕から〔他者からの回避〕
行動をとる一方で〔変貌への対処〕に努力す る10)彼らにとってありのままでいられる家族の 存在から情緒的安定を得ていた。家族のサポー
トの重要性は,丸ら19)の10代の小児慢性疾患者 の心の問題と看護の実態調査からも家族が無関 心であったり家族の不安が高く子どもの疾患に ついて理解や受容がなされにくい場合は対応が 困難といわれている。一方,親の過干渉,過保 護から患者の自立を難しくしているともいわれ ている20)。Wolman21)は,慢性疾患をもつ青年 は健康な青年よりも情緒的安定が低いが疾患の 有無にかかわらず青年期の情緒的安定のために は家族関係が最も重要な要因であると報告して いる。また,情緒的安定は,青年期の自立の発 達と個人化のプロセスに不可欠であると述べて いる。この点は,家族の形態や機能が多様化し 家族そのもののあり方に関連するさまざまな問 題が生じている現代において慢性疾患の有無を 超えて多くの意味を含んでいるといえる。今回,
協力者はいずれも核家族に所属し形態や機能に 多様性がなかったことが結果に大きく影響して いることは否定できないが家族の存在の重要性 が明らかとなった。
【無神経な大人】では,この時期は大人の言 動を客観的に捉え疑問や矛盾を抱きながら自分 の信念や価値観を明確にしていく時期である22)
といわれる。彼らも無神経な大人の言動に傷つ きながら,〔現実の“しかたなさ”からの歩み 出し〕により現実を受容し,さらに“自分が言 われて傷ついたことは人に言わない”,“傷つい た人の気持ちになれる”という他者への思いや
りに変換させていた10)。
【自分を左右させた医師の存在】では,信頼 するが故に医師の言動を非常に敏:感に受けとめ る彼らがいた。彼らの語りには,ネフローゼ症 候群の病期の特徴が顕著に表現されており,医 師の存在はステロイドが必要不可欠な自己受 容へ影響を与えていた。Robertazz)は,グラン デットセオリーを用いて思春期の慢性疾患者を 対象に健康専門家への認識を検討し,①人とし て扱ってください,②理解してください,③普 通に接してください,④少しは励ましてくださ い,⑤強制はしないでください,⑥選択権を与 えてください,⑦ユーモアのセンスをもってく
ださい,⑧あなたが何をしているかを自覚して くださいという8つのカテゴリーを抽出してい る。今回,彼らの語りから同様の内容が見出さ れ医師の対応を敏感に感じ取り一人の人間とし て向き合ってほしいという彼らの思いが明らか になった。その思いは発病から継続している小 児科医師あるいは治療過程で腎臓専門医師に変 更した場合で相違はなかった。また,彼らが他 の人と同じように受容されているという認識の ためには「普通」という感覚は不可欠なものと いえた。
2.看護への示唆と研究の限界
彼らがボディ・イメージの変化に伴うさまざ まな体験:を経て現実受容,自己受容さらに他者 への思いやりや能動的な行動へ発展していく過 程Io)には情緒的安定が不可欠であり,親友,母 親家族,医師の存在が重要であることが明ら かになった。特に親友の存在は重要であり,看 護者は発症時期から教育現場と継続的に連携を 図り,可能な限り彼らが学校生活を送り仲間と の関わりが維持できるように支援することが重 要である。また,母親を基盤とした家族の存在 は,容姿を気にせずありのままでいられるとい う何にも代え難い存在であり,看護i者は患者と 家族との関係性やコミュニケーションを成長過 程の視点で捉え,性差を考慮しながら対応して いくことが必要である。さらに患者と医師との 関係性の調整は看護者の大きな役割である。看 護者は,彼らが子どもから大入へと成長してい く過程をアセスメントし,意思決定・選択への 支援:,成人医療への橋渡しを調整することが重 要である。
本研究は,対象者数が少ないこと,家族背景 が類似していたことなど,いくつかの限界があ る。今後は,対象者数を増やし多様な家庭背景 をもつ協力者のデータ分析から比較検討が必要 である。
謝 辞
本研究にご理解とご協力をいただいた協力者の皆 様ならびに協力者の方々をご紹介してくださるに あたりご配慮くださった全国「腎炎・ネフローゼ児 を守る会」の顧問脇坂千鶴子様に感謝とお礼を申し
上げます。
なお,本研究は2004年度札幌医科大学保健医療学 部修士論文の一部であり,要旨は日本看護科学学会 第25回学術集会において発表した。
文 献
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them. Six adolescents with carried’over nephrotic syndrome cooperated in this study. Each of them had a semi-structured interview. An inductive and qualitative analysis was performed on the obtained data. The results found that they felt emotionally stable when they were with [their good friends who treated them in the same manner as before they developed the syndrome] , with [their mothers who accepted them as they were] , or with [their farnily
members who enabled them to lead their lives free from negative feelings about their changed physi-
cal appearance]. On the other hand, they felt hurt by [insensitive elder people] or by [inconsiderate doctors] . Good friends, mothers, family members and doctors, as well as emotional stability produced by interacting with these people were key in the process of the adolescents with the carried-over syndrome accepting themselves as they were while having experiences, bad or good, in their lives.
These findings suggest that nurses should find out who around those adolescents can understand them and help them to develop emotional stability.
In an effort to provide adequate support, nurses should also be required to follow the deepening and changing relationships occurring between those ado-
lescents and the persons helping them to stabilize emotionally, taking into account the possibility of their genders being playing a role in forming their relationships.
(Summary)
Adolescents who have carried over nephrotic syn-
drome from their pre-adolescent period tend to suf一
(Key words)
nephrotic syndrome, steroid therapy, carry over,
body image, emotional stability