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地域活性化システム論カリキュラム研究会報告書

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Academic year: 2021

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3 「なかの里・まち連携」の取組み 3.1 中野区の紹介 23 区の西側に位置する中野区は、新宿から 5 分という近さにもかかわらず、多くの商店 街や人情味溢れる住宅街という暮らしに密着したまちの性格を持っている、人口 311,207 人(平成23 年 1 月 1 日現在)、面積 15.59 平方キロメートルの区である。古く武蔵野台地 の西端に位置したこの地域は、江戸時代に入り物資の流通経路の役割とともに、江戸市民 の台所を賄う穀物、野菜の供給地となって発展してきた。近代になって、鉄道路線の開設 とともに、人口も増え、都心に働く人々の住宅地として発展してきた。 中野区の人口密度は23 区中で最も多く、世帯の半数以上は単身世帯であり、20 代の人口 比率が高いという特徴がある。住環境は、都心に近く交通の便が良いうえに、比較的安価 な賃貸住宅が多いため、生活利便性がとても高く、あらゆる世代が暮らしやすい生活都市 となっている。 近年はサブカルチャーの発信地としての「中野ブロードウェイ」でも全国的に有名であ り、国内外を問わず多くの人が訪れている。 3.2 連携の目的 「なかの里・まち連携」は、住民が主役となった地域間の連携や交流を行い、地方(里) と、中野区(まち)がともに豊かで持続可能な地域社会を目指すため始まった取組みであ る。 地球温暖化などの環境問題、過密都市で、自然とふれあう機会の喪失などの中野区の課 題と、過疎化による人口減少・後継者不足、地場産業の衰退などの地方の課題に対し、そ れぞれの「強み」を活かし「弱み」を補完しあい解決を図るなど、住民が中心となった連 携事業の実現を通じて、地方と中野区がともに豊かで持続可能な地域社会となることを目 指すものである。 平成21 年 3 月 28 日、連携自治体(中野区、常陸太田市、富岡市、館山市、中野市、喜 多方市、甲州市)で「なかの里・まち連携宣言」を下記のとおり宣言した。 【なかの里・まち連携宣言】 1 中野区と参加自治体は、連携して都市と地方にまたがる新たな地域ムーブメントを 開始することとし、そのムーブメントを(仮称)「なかの里まち連携」交流事業と呼び ます 2 中野区と参加自治体は、幅広く人的交流、文化交流、経済交流、環境交流など、幅 広く交流を深めます 3 中野区と参加自治体は、互いの抱える課題を理解しあい、互いに課題の解決に寄与 しあう連携事業を追求します 4 中野区と参加自治体はそれぞれの住民に働きかけ、公民協力して交流事業を企画・

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実施し、交流の具体的成果を目指します 5 交流の主役は住民です。行政は黒子に徹し、交流の成果も住民に帰するものを目指 します 3.3 連携の展開・テーマ 里・まち連携は、これまでの地域間(自治体間)交流の枠を超え、民間活力を活用した さまざまな連携事業を通じ、住民同士の交流や生きがいの創出、食の安全や暮らしの豊か さの実感など、新たな住民ニーズに応えるものであり、以下のテーマにより事業の創出・ 実施を推進している。 (1)市民(区民)の手によるつながりと豊かなライフスタイルの創出 日帰り観光や滞在型水産体験など、多様なふれあいを通じて、地方と中野区民の さまざまな交流を進めます。 (人を結ぶ観光・体験交流) (2)生産地と消費地の顔が見える関係、食の安全と暮らしの豊かさの実現 生産地と消費地の間で安全・安心の産品による経済交流を通じ、地方の生産者と 中野区の消費者とが、お互いの顔が見える関係づくりを進めます。 (暮らしを結ぶ経済交流) (3)持続可能な地域社会に向けた自然エネルギー活用と環境保全 里とまちが協力して、リサイクルの推進や自然エネルギー活用による地球温暖化 防止に取り組み、さらに残された自然環境を守り育てます。 (自然を守る環境交流) 3.4 連携自治体の選定 中野区とともに里・まち連携推進を担う地方の連携自治体については、これまで中野区 と交流のあった自治体や交流意向のある自治体に呼びかけを行い、賛同のあった自治体か ら連携自治体を選定している。 選定にあたっては、(1)連携事業により中野区の価値を高めることのできる資源を有す る自治体、(2)ブランド、特産品を有している、と中野区民が認定できる自治体、(3) 連携事業によって中野区・連携自治体のメリットが相互に活きる自治体という基準を設け、 さらに、区民アンケートも行い、連携6自治体を選定した。 3.5 連携の状況 平成21 年度の中野区が把握している連携自治体との交流は、下記のとおりである。この 交流実績は、中野区が把握しているもののみであり、実際は、この数値以上に行政を通さ ない住民や商店会、農家等の積極的な交流活動が行われている。

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区民へのPRとしては、冊子「里・まちガイドブック」の作成やホームページ・区報等 で事業を紹介している。 【中野区での交流事業実施回数】(平成21 年度) 館山市 常陸太田市 甲州市 喜多方市 富岡市 中野市 21 10 10 7 3 2 【平成21 年度 交流事業実施状況詳細】 ※中野区把握分のみ 実施日 事業・イベント名 場所 参加自治体 4/5(日) 商店街イベント「房州 館山」 中野ブロードウェイ商店街 館山市 4/25(土) 「館山直送野菜&くだもの市」 オリンピック中野坂上店 館山市 5/30(土) 「館山直送野菜&くだもの市」 オリンピック中野坂上店 館山市 5/31(日) 「カワシマ元気村発!川島商店朝 市にふるさとの味がやって来る」 川島商店街 館山、常陸太田、 甲州、喜多方 6/26(金)∼ 7/6(月) 里・まちパネル展 区役所ロビー 全連携自治体 6/27(土) 「館山直送野菜&くだもの市」 オリンピック中野坂上店 館山市 6/28(日) 「館山市たてやまんち」 中野ブロードウェイ商店街 館山市 7/12(日) 「海ほたるがやってきた」 中野ブロードウェイ商店街 館山市 7/25(土)∼ 10/18(日) 里・まちアンテナショップ 中野サンプラザロビー 全連携自治体 7/25(土) 「館山直送野菜&くだもの市」 オリンピック中野坂上店 館山市 8/2(日) 「伊勢エビまつり」 中野サンプラザ前広場 喜多方市 8/8(土) 「来た!喜多方」 中野サンプラザ前広場 喜多方市 8/15(土) 「又来た!喜多方」 中野サンプラザ前広場 喜多方市 8/19(水) 「又来た!喜多方」 中野サンプラザ前広場 喜多方市 8/21(金)、 22(土) 「川島夜市にふるさとの味がやっ て来る」 川島商店街 館山、常陸太田、 甲州 8/22(土)、 29(土) 「100% 常陸太田」 中野サンプラザ前広場 常陸太田市 8/29(土) 「館山直送野菜&くだもの市」 オリンピック中野坂上店 館山市 9/6(日) 「富岡の富」 中野サンプラザ前広場 富岡市 9/25(金) MADE IN 甲州 中野サンプラザ前広場 甲州市 9/26(土) 「館山直送野菜&くだもの市」 オリンピック中野坂上店 館山市

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9/27(日) 「物産展&甲冑試着にトライ」 中野ブロードウェイ商店街 館山市 10/17(土) アンテナショップファイナルイベ ント「ワインとジャズの夕べ」 中野サンプラザ宴会場 甲州市 10/24(土) 「館山直送野菜&くだもの市」 オリンピック中野坂上店 館山市 11/1(日) 「実りの秋大感謝祭」 南台商店街 館山、常陸太田、 甲州 12/23(水) 「里まち連携クリスマスフェア」 宝仙寺前通商店会 常陸太田市 2/7(日) 起創展街 中野にぎわいフェスタ 2010 オープニング 中野駅南口商店会、中野ブロ ードウェイ商店街 館山市 3/3(水) 起創展街 中野にぎわいフェスタ 2010 中野駅南口商店会 館山市、甲州市 3/13(土) 起創展街 中野にぎわいフェスタ 2010 中野サンプラザ前広場 館山、常陸太田、 甲州、喜多方 (出所) 中野区資料 3.6 中野区と連携自治体の交流・連絡会 中野区では、連携自治体との意思疎通を図り、事業を推進するために、各連携自治体へ の訪問や、担当者連絡会を開いて交流を図っている。 平成22 年度は、年度当初に中野区担当者が常陸太田市、館山市、喜多方市、甲州市を訪 問し、里・まち事業について意見交換を行っている。 また、里・まち連携の方針を協議するために、「なかの里・まち連携自治体担当者連絡会」 を開催している。平成22 年 7 月 6 日に、「第一回なかの里・まち連携自治体担当者連絡会」 を開催した。議事は、平成21 年度事業の振り返りと、平成 22 年度事業についてであった。 この中で、連携自治体からは、「商店街から少しずつ話が来るようになり、つながりがで きるようになったのが大きい」、「イベントでは、漁業関係者が朝採れたものを中野で出店 した。PR もできたし、関係者も大変喜んでいる」との意見がでた。 3.7 今後の取組み予定 ○平成22 年度モデル体験交流事業 幅広く交流を進めるために、モデル体験交流を行う予定である(常陸太田市、館山市)。 今後の体験交流を促進するにあたり、常陸太田市、館山市の魅力を体験できるモデルとし て行う。また、中野区側で、交流に熱意を持っている人と、連携自治体側の熱意を持って いる人を結び付け、里・まち連携事業を支えていただくサポーターを育成するという目的 もある。体験交流事業であるので、単なる観光が目的ではない。 PR は区報で行うが、区民向けだけでなく商工会議所を通じて、企業にも声をかけていく。 将来的には、企業の協賛を得られるようにする。区内の旅行専門学校にも参加を呼び掛け

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る。 【館山市モデル体験交流(1 泊 2 日)】 無人島「沖ノ島」での北限のサンゴなどの海辺の自然体験や、夜の桟橋でのウミホタル 観察会、漁師や海での体験メニュー実施者との懇談会、早朝の定置網漁体験などを通じ、 館山の海の恵みを活かした活動の可能性を考える交流ツアー。 (内容) ・無人島沖ノ島探索(「NPO たてやま海辺の鑑定団」と海辺の自然観察、ビーチコーミン グ15 ・夕焼けで語る会(懇談会・夕食) ・ウミホタル観察会 ・定置網漁体験 ・漁業の話を聞く・意見交換 ・漁師の朝ごはんを食べる(漁で獲れたての魚) ・農園の話を聞く・意見交換 ・おみやげ花摘み ・海ほたるで昼食 【常陸太田市モデル体験交流(1 泊 2 日)】 十割そばやベーコンの燻製づくり、イタリアンシェフと考える里の夕食会、高原の星空 観測会、現地のお母さんが作る朝ごはんなど、「食」を通じて交流を深め、常陸太田の豊か な自然を活かした活動の可能性を考える交流ツアー。 (内容) ・ベーコンの燻製仕込み ・蕎麦打ち体験 ・滝めぐりハイキング ・ぬく森の湯 ・イタリアン夕食交流会 ・天体観測会 ・まいたけ収穫体験 ・座禅体験 ・お母さんのふるまい朝食・交流会・ベーコン試食 ・西山荘視察 ・鯨ヶ丘地区散策 15 ビーチコーミングとは、海辺の漂着物などを拾い集め、興味のある物をコレクションし たり、由来を調査したり、加工した上で雑貨をつくったりすること。

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○常設アンテナショップの開設 里・まちのアンテナショップの開設を検討する。中野区内の空き店舗を活用する。アン テナショップには、PR の面もあるが、採算も取れるようにしていく。 中野区内には、既に喜多方のアンテナショップが二店舗出店しており、連携して里・ま ちのアンテナショップ開設検討を進めていく。 ○環境交流 連携事業では、経済交流、体験交流を先に進めたため、環境交流が後回しになっている が、中野区では、大豆について考える団体がでてきており、大豆栽培を行っている連携自 治体との環境体験交流事業も検討していく。また、里山保全、間伐材の再利用などでの交 流も考えていく。 ○今後の運営体制 里・まち連携開始当初より、事業推進の仕組みとして自治体担当者や地元関係団体代表 等で構成する「なかの里・まち連携推進協議会」の構想があり、組織化に向けて準備作業 を進めている。将来的には、この「里・まち協議会」が連携事業の枠組みや方針、実施事 業を定めていく予定である。 また、平成22 年度は、事務局運営、専用ホームページ構築、交流事業企画等推進のため に業務委託を実施し、委託業者と連携して事業を進めている。 ○専用ホームページの開設 里・まち連携は、以前は中野区ホームページ中のコンテンツとして入っていたが、平成 23 年 3 月より、専用ホームページの運営を開始した16 専用ホームページとすることで見やすくなるとともに、コンテンツを増やし閲覧者の増 加を狙う。コアターゲットとして、食、旅行に一番感度が高い20∼30 代の女性を想定して 作成する。イベント情報など、記事の作成は各連携自治体が行うが、20∼30 代の女性が読 んで興味をひくように表現を工夫する。 また、行政のホームページでは、書き込める内容等に制約が多いので、協議会が設立さ れたら早めに協議会のホームページに移行し、PR 活動を活発にしていく予定である。 16 アドレスは次のとおり(http://www.nakano-satomachi.com/)

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4 連携自治体等の取組状況 4.1 千葉県館山市 4.1.1 館山市の紹介 館山市は、年間平均気温16℃以上の千葉県房総半島南部に位置する。人口は、50,084 人 (平成23 年 1 月 1 日現在)、面積は 110.21 平方キロメートルである。館山は、温暖な気候 に恵まれて、1 月にはポピーやストック、菜の花が咲き乱れ、花畑は満開になる「花のまち」 である。また、31.5 キロの海岸線を持ち、マリンスポーツのメッカとして、夏の海水浴場 として、さらには、サンゴの北限ともいわれる美しい海中の世界を持つ「海のまち」でも ある。緑豊かな館山市は、県立館山野鳥の森が「森林浴の森100 選」、平砂浦海岸付近は「白 砂青松百選」「日本の道100 選」にも選ばれている。また中世の頃には、戦国武将里見氏が この地を治めていた。曲亭馬琴作の「南総里見八犬伝」の舞台になったこの地には、今で も里見氏の史跡の数々や八犬伝のロマンが香る史跡が残されている。住んでよし、訪れて よし、館山は魅力あふれるまちを目指している。 4.1.2 取組み内容 館山市はもともと中野まつりに参加しており、その縁もあって里・まち連携に参加した。 中野区の資料では、平成21 年度、連携自治体中で最も交流回数が多く、住民の動きも活発 である。また、中野区の商店街とも連携を深めており、館山市へのツアーなど相互交流の 企画も行われている。 特徴的な取組みとしては、中野区商店街での産直販売の他、館山市での体験農業受入れ や商店街企画ツアーの受入れがある。これが、行政主導ではなく、住民主導で行われてい ることが館山市の先進的な特徴である。 「里・まち連携」という行政がつくった枠組みに、商店街・住民・農家・漁師・NPO・ 体験観光協議会がうまく関わって活用し、成果をあげている事例である。また、館山から は産直販売で中野に多く行っているが、中野からも体験交流で来訪者があり、双方にメリ ットがある交流として良い関係が築けている。 館山と中野のつながりとしては、(1)オリンピック中野坂上店と(2)ブロードウェイ 商店街が中心となっている。基本的に、市職員は表に出ず、民間が主体となった交流を進 めている。 (1)オリンピック中野坂上店との連携 市の複数の農家が中心となり、オリンピックと連携して「館山直送野菜&くだもの市」 をスタートした。JAも関わっておらず、中野区まで農家が順番に自分たちで運搬してい る。オリンピックと農家が直接交渉し進んでいる取組みである。

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(2)ブロードウェイ商店街との連携 市が公用車2 台で運搬し、現地では市職員が観光等をPRしている。農産物、海産物(伊 勢海老やサザエなど)、お土産の販売を行っている。 ブロードウェイ商店街からは、役員が館山まで泊まりで視察を行っている。そして今で は、中野区を通さず商店街から市に直接依頼が来ることもあり、「LOHAS KIDS」(子供向 け)や大人向けのツアーなど、商店街企画のツアーを毎年開催している。 また、商店街の2階に館山市のパンフレットコーナーが常設され、PR を行っている。 (3)館山体験観光協議会 地元の農家、漁師の集まりで、中野まつりに元々参加していたが、市を通さずに様々な 体験・イベントを実施している。12 月から 3 月は菜花摘み、4 月からは筍掘りや田植え、5 月はそら豆、6 月には枇杷、7、8 月はトウモロコシ、9 月は稲刈り、芋掘り、落花生、10 月は芋掘り、11 月には冬野菜収穫、などを行っている。 中野区の「上鷺畑」(中野区立上鷺小学校区域にある会)という市民団体を通じ、田植え、 稲刈りなど多数の体験を通して交流を進めている。 (4)観光取組み 館山市では、観光・交流を重要施策と捉えており、財政が厳しい中ではあるが、水族館、 桟橋等インフラ整備を進めている。 (5)課題・今後の取組み 東京湾アクアラインができて、東京から車で館山市に来るための時間が大幅に短縮され 利便性が向上し、来訪しやすくなったが、逆に日帰りで帰りやすくなってしまったという 点が課題となっている。宿泊者数が減少すると、ペンションや民宿経営、飲食業等、観光 関連産業としては打撃である。 今後の取組みとしては、産直販売だけでなく、人の交流を進めていくこと、水族館が平 成23 年度末に完成予定であるので、これを交流のひとつの拠点として、活性化を図ってい くことが進められている。 ■交流実績(中野から館山へ) 実施日 事業名等 内容等 平成21 年 7 月 24 日∼25 日 LOHAS KIDS ブロードウェイ商店街の企画で 76 名の小学生が参加。 9 月 8 日∼9 日 なかの里・まち連携 南房総 館山 60 組 120 名様ご招 待!!1 泊 2 日(4 食付) ブロードウェイ商店街の企画(サマ ーセールの一環・大人向けのツアー)

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平成22 年 5 月 9 日 田植え体験 中野区「上鷺畑」会と館山体験観光 協議会で開催。費用はひとり 3000 円で約70 人の参加。 8 月 10 日∼11 日 中野区商店街連合会青年部研 修旅行 研修旅行で館山市と勝浦市を訪問。 9 月 5 日 稲刈り体験 体験観光協議会開催。約70 人参加。 4.1.3 移住・定住政策 館山市の特徴として、住民・NPO が活発に活動しているということがあるが、一例とし て、移住・定住を促進する NPO「おせっ会」がある。「おせっ会」は、元商工会議所青年 部が中心で、40 代のカリスマ的リーダーが活躍している。 市が移住・定住政策に取り組み始めた頃、タイミングよく受け皿になり、平成19 年以降、 「おせっ会」を通じた移住者は29 世帯 74 人にものぼる。特徴的であるのは、定年退職し た層ではなく、若者の移住が多いことである。40 代以下が半数以上となっている。 他の自治体では、補助金・助成金等を出して移住・定住を促進しているが、館山では補 助金・助成金等は出しておらず、移住者を特別扱いしてはいない。 雇用機会の確保は課題だが、技術を持った人たち(建設、IT、飲食業等)は収入を確 保することが比較的可能であるようである。 「おせっ会」主催で月に一回、移住者の「誕生会」を実施し、交流を持つようにしてい る。独自に様々な説明会やイベントを実施しており、成果をあげ、かつ市に頼らない活動 を進めている。 4.2 茨城県常陸太田市 4.2.1 常陸太田市の紹介 常陸太田市は、茨城県の北東部にあって県都水戸市から20 ㎞、東京から 120 ㎞圏に位置 している。人口は、56,192 人(平成 23 年 1 月 1 日時点)、面積は、372.01 平方キロメート ルである。 昭和29 年 7 月に 1 町 6 村が合併し常陸太田市が誕生し、翌年、世矢村と河内村を、さら に平成16 年 12 月に金砂郷町、水府村、里美村を編入して現在に至っている。 多くの遺跡や古墳群に見られるように、縄文・弥生の時代からこの地域の中心地として 栄え、平安時代の末よりは、奥七郡など県北地方一帯を支配した常陸の豪族、佐竹氏の本 拠地として約 470 年繁栄した。江戸時代に入ると、徳川光圀公が晩年を過ごした西山荘や 水戸徳川家歴代藩主の墓所である瑞龍山、11 代藩主昭武公の山荘天竜院などに代表される ように水戸藩領地として発展し、明治時代には郡役所の設置や棚倉街道の商業中心都市と

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して繁栄をしてきた。 また、平安時代より72 年毎に行われ、平成 15 年(2003 年)には第 17 回目が行われた 西金砂神社と東金砂神社の磯出大祭礼など、歴史と文化あふれるまちである。 4.2.2 取組み内容 経済交流は、中野区の商店街(宝仙寺前通商店会、川島商店街、南台商店街)で物産展・ イベントを実施した。他にも、中野サンプラザ内のレストランへの農産物の提供などを行 った。特に、宝仙寺前通商店会とは密接な交流を進めている。 体験交流では、稲作ツアーなどを実施した。5 月から 10 月までの全 7 回の日程で行った。 通常は、田植えや稲刈り体験のみであるが、育てる課程も体験できるのは珍しい。また、 参加費は全7 回 12,000 円で、さらに収穫したお米 25kg がもらえるという特典もある。こ の事業は、中野区の区報に募集広告が掲載された。連絡先を常陸太田市として、市が責任 を持って事業を企画・運営する形をとった。 常陸太田市では、事業を企画する際は、+αのサプライズを考え、楽しく交流できるよ うに考えている。稲作ツアーでは、農作業の合間に参加家族をカブトムシ取りに連れてい った。これは好評であった。第 3 セクターの里美ふれあい館が実施する形式をとり、収入 は同館に入るようにした。また、滝を見るツアーも開催した。昼食にはおにぎり、特産の 十割蕎麦も出して喜ばれている。 イベントにおいても、ただ産直販売で特産物を売るだけでなく、楽しく交流して人のつ ながりができるように考えている。釣堀セットを持ち込んで、子供を喜ばせたり、my 箸作 りイベント、自前のバーカウンターを活用するなどして参加者の印象に残る取組みを実施 している。他にも、七夕まつりのための竹を提供するなど、中野区側のニーズに応える工 夫をしている。 そのような収益にはならないが、交流と今後のつながりを重視した取り組みが実を結び、 中野ボーイスカウトの常陸太田市へのキャンプ交流につながっている(20∼30 名)。 事業を評価する際には、数値で図りやすい「交流イベント開催回数」や「交流人口」、「産 直販売売上高」などを指標として説明することが求められがちであるが、常陸太田市では、 そうした数値を重視しすぎると、単発イベントでただ数を稼ぐための取組み中心になって しまい、次につながらないと考えている。そこで、売上げとは直接関連がない、中野区の 子供たちや商店街との交流イベントや、体験交流事業などを通じて人と人のつながりを着 実に築いている。 常陸太田市は、以前からグリーン・ツーリズムに力を入れており、その取組みは進んで いる。「ワーキングホリディin 常陸太田」として、短期滞在で援農ボランティアを募集し、 都市と農村の交流と活性化を図っている。そのため、交流の受け皿となる農家は一定数で てきている。しかし、さらに交流を拡大していくためには市民の力が必要であり、「受け皿 作り」を実現するための市民勉強会の開催などに取り組んでいる。

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まちづくりの基本を行政主導から市民参画・協働へと転換し,自分たちのまちの課題・ 問題を自分たちで解決するという市民意識の向上とまちづくりに参画する機会の促進を図 るために、常陸太田青年会議所と協働で、市民討議会を開催している。平成22 年 10 月に 開催した第四回市民討議会では、「交流によるまちづくり∼交流人口の増加に向けて∼」 と「地域の魅力を活かしたまちづくり∼あなたのまちの地域資源∼」の二つをテーマに、 無作為抽出で集まった市民が議論し、市に提言書を出した。 常陸太田市では、交流人口の増加策が地域活性化、行政経営という視点からも、重要と 考えている。地域資源を最大限に活かし、地域経済も活性化できるような、持続発展的な 取り組みを市民協働のもとに進めている。 【常陸太田市と宝仙寺前通商店会との交流】 時期 内容 平成21 年 3 月 なかの里・まち連携開始 中野区から、宝仙寺前通商店会を紹介してもらう 10 月 商店会から現地視察のため、常陸太田市来訪。竹コンサートなど に参加。懇親会も実施。18 名参加。 12 月 クリスマスフェア。常陸太田市から商店会にバス2台、70 名が参 加。餅つきイベント、産直販売実施。 平成22 年 5 月 商店会から常陸太田市に、御輿担ぎのために 20 名が参加。 7 月 商店会七夕祭り。常陸太田市から竹100 本届ける。 8 月 大人の遠足in 常陸太田。商店会から。常陸太田のぶどう園、西山 荘、龍神大吊橋、滝めぐり、夏野菜の収穫、ぬく森の湯をめぐる。 45 名が参加。 9 月 常陸太田市から商店会に御輿担ぎ参加。 12 月 クリスマス里・まちイベント。商店会における産直販売。 4.3 山梨県甲州市 4.3.1 甲州市の紹介 甲州市は甲府盆地の東部に位置し、人口は35,300 人(平成 23 年 1 月 1 日現在)、面積は 264.01 平方キロメートルである。 甲州市は、ぶどう、モモ、スモモ、カキ、サクランボ、イチゴなどの果樹栽培を中心と した農業が基幹産業となっており、品質、生産量ともに日本有数の産地となっている。ま た、勝沼地域を中心に大小30 を越すワイナリーで醸造されるワインは、生産量でも日本有 数の産地になっており、地元のぶどうを使ったワインの品質は国内外においても高く評価 されている。

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さらに、塩山地域でつくられているころ柿も味・品質ともに高く評価されており、柿を 軒先につるす風景は冬の風物詩にもなっている。このほかぶどうやモモ、サクランボやイ チゴ狩りなど年間を通じて様々な果実を味わうことができる観光農園が多数あるなど農業 を基盤とした産業が集積している。 また、武田家ゆかりの歴史的な文化財や国内のワイン醸造発祥にまつわる産業遺産など 近代化産業遺産も数多く点在し、甲州街道や鎌倉への古道など歴史的な街道も残っており、 歴史に彩られた文化資産が数多く存在している。 4.3.2 取組み内容 甲州市は、宝仙寺前通商店街、川島商店街、南台商店街、中野駅南口商店会との交流が あり、特産品販売を行っている。 特徴的な取組みとしては、甲州の特産品であるワインを用いて、平成21 年アンテナショ ップファイナルイベントとして、「ワインとジャズの夕べ」を開催したことがあげられる。 これは、中野サンプラザ13 階の宴会場で行い、非常に好評であった。 市役所の取組みだけでは限界があり、住民との協働で交流を進める必要があるが、その ためには、受け皿づくりのセクションが必要との認識がある。甲州市では、平成22 年から、 市民協働推進室を設置して、住民との協働を進めている。 また、交流の担い手として、交流まちづくり協議会があるが、徐々に住民主体の会議に なってきている。この組織が、中野区との住民同士の交流をしている。中野区の川島商店 街が勉強会で甲州市に来ていたことがきっかけとなり、商店街との交流も進んでいる。現 在は中野区を介さず、直接商店街から連絡があり、交流を進めている。 活動の受け皿が大切であるとの認識から、受け皿の一つとして、平成 22 年 11 月に「あ る∼くこうしゅう推進協議会」を設立した。ある∼くこうしゅう(市内におけるウォーキ ング運動)を普及・推進する中で、交流人口の増大と地域の活性化、市民の健康づくりを 図り、「豊かな自然 歴史と文化に彩られた果樹園交流のまち 甲州市」づくりに寄与する ことを目的としている。 4.4 福島県喜多方市 4.4.1 喜多方市の紹介 会津の北部に位置していたことから北方(きたかた)と称されていたが、明治 8 年、昭 和29 年の町村合併により喜多方市となり、平成 18 年に喜多方市、塩川町、山都町、熱塩 加納村、高郷村の1 市 2 町 2 村の 5 市町村が合併し、現在の喜多方市となった。人口は 52,284 人(平成23 年 1 月 1 日現在)、面積は 554.67 平方キロメートルである。 市の主幹産業は農業であるが、年間 170 万人の観光客が訪れている観光都市でもあり、 喜多方ラーメン、宮古そばは全国的にも有名である。北には飯豊連峰、東に雄国山麓が裾

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野をひろげ、南には阿賀川、日橋川と豊かな自然にも恵まれ、さらなる観光都市の発展を 目指している。 4.4.2 取組み内容 【庁内推進体制】 「なかの里・まち連携事業」や中野区民との交流を推進するため、庁内推進体制の整備 を図った。 1 中野区との交流推進プロジェクト会議 内 容:参加に向けた交流内容及び事業提案等の検討 2 なかの「里・まち」連携委員会 内 容:宣言後の交流事業の推進 委員長:総合政策部長 事務局:産業部観光交流課グリーン・ツーリズム推進室 【取組内容】 ・喜多方市の中野区との交流取組みは下記のとおり。 日時 内容 平成20 年 10 月 11 日、 12 日 「中野まつり」出展参加 平成21 年 3 月 28 日 なかの里・まち連携宣言。キックオフ交流イベントで地場産 品販売。 5 月 31 日 中野区川島商店街「朝市」出展 10 月 10 日、11 日 「中野まつり」出展参加 6 月 26 日∼7 月 6 日 なかの里まち連携パネル展(区役所ホール) 7 月 25 日∼10 月 18 日 なかの里まちアンテナショップ設置、オープンイベントで地 場産品販売、中野サンプラザ内飲食店舗へ食材提供 8 月 8 日 アンテナショップ販促イベントで地場産品販売 8 月 15 日、19 日 地元農産物等直売組織が直売会開催 平成22 年 5 月 30 日 中野区川島商店街「朝市」出店 10 月 9 日、10 日 「中野まつり」出展参加 11 月 8 日 中野区商店街連合会研修受け入れ 【アンテナショップ】 なかの里まち連携交流事業とシンクロする形で首都圏にアンテナショップを設け、喜多 方の地場産品や安心・安全な農林産物等を消費者に理解してもらいながら販路の開拓や拡 大するとともに、消費者へ広く喜多方の観光の情報発信を行い、市への誘客推進を図るこ

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とを目的とする喜多方市アンテナショップ実行委員会を立ち上げた。(平成21 年 7 月 22 日 設立) 財源として、平成 21 年は「地域活性化・経済危機対策臨時交付金」(内閣府)を活用し た。 中野サンプラザホールでのなかの里まちアンテナショップ終了後、平成21 年 8 月 15 日 と19 日に中野サンプラザで農産物の直売会を実施した地元農産物直売組織「身土不二」が この直売会をきっかけに、同年10 月中旬から川島商店街に店舗を構え営業していたことか ら、この店舗(店舗名「愛土゛屋(あいづや)」)内に、翌年 1 月から「喜多方市」アンテ ナショップを設置した。首都圏での消費者の嗜好・動向の把握、地場産品の販売PR及び 観光の情報発信等を行い、「なかの里まち連携事業」の経済交流の推進を図った。 <平成21 年度> 実行委員会が出品の意向及び販売品の数量等をとりまとめ、身土不二(農産物直売組織) に販売を委託し、販売手数料として売上代金の10%を実行委員会が徴する。 ※平成22 年 1 月現在 <平成22 年度以降> 喜多方市アンテナショップでの販売を希望する業者は、直接身土不二に申請する。販売 手数料として売上代金の30%(消費税別)を身土不二が徴する。 ※平成23 年 1 月現在 市内業者 (10 業者 44 品目)※ 身土不二 (愛土゛屋) 実行 委員会 手数料10% 販売委託 (業務委託料) 申請・出品 売上代金100% 代金支払 売上代金90% 市内業者 (25 業者 64 品目)※ 身土不二 (愛土゛屋) 手数料30% (消費税別) 申請・出品 代金支払 売上代金70% 実行 委員会 ・名称の継続使用 ・出品業者の紹介・斡旋 ・観光物産ポスター提供 ・法被、のぼり旗等貸与 【支援】 【協力】

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平成21 年度は、国の交付金を活用して手数料を 10%に抑え、周知の意味も込め、幅広い 出店を促した。国の交付金がなくなった平成22 年度からは、交付金なしでも継続できる仕 組みとするために、手数料を30%とした。平成 22 年 4 月の切り替え当初は、手数料増等 の関係で販売業者数や品目数は減少したが、地元野菜等の品数が少なくなる冬期間でも出 来る限り喜多方産品を販売したいとの考えから、積極的に地元業者へアンテナショップで の出品販売の働きかけを行い、平成23 年 1 月現在では、制度切り替え(手数料 10%→30%) の前よりも業者数や販売品目が増えている。 経営は、身土不二の事務局を務めスーパーを経営する民間事業者が行っている。平成 22 年度からB to B 形式としており、持続可能な経営を目指している。物品の運送費は、「愛土゛ 屋」の負担であるが、平成21 年 10 月に川島商店街 1 号店の開店に続き、2 号店、3 号店を 展開し、コスト減と売上げ増を目指している。 喜多方市アンテナショップの成功要因として、「喜多方ラーメン」から来る全国的な知名 度がある。また、中野区の地元商店街に進出するということは、商店街の八百屋、果物屋 等と販売商品が重なり、競合するということである。そのため、地元の商店街の理解と協 力関係の構築が重要となる。 (販売品目) ・米、大根、長ネギ、ほうれん草、根菜(玉ねぎ、じゃがいもなど)、キャベツ、果物、ラ ーメン、味噌、醤油、菓子(凍み餅、豆菓子、たまりせんべい)等 【経済交流の成果】 「なかの里・まち連携事業」として平成21 年度に期間限定で中野サンプラザになかの里 まちアンテナショップを設置し、市内21 業者 48 品目の地場産品の販売PRを実施した。 中野サンプラザは、コンサートや発表会等に使用される施設で、当該期間中数十万人が来 場しており、喜多方の地場産品を販売PRし、首都圏の市場(消費者)への露出や認知度 を高めるには、大変効果的な取組みであった。 このアンテナショップでの喜多方市の売上は、連携事業参加自治体の中でトップであっ た。これは、喜多方市の知名度が他自治体より高く、喜多方ラーメンだけでなく、それ以 外のものも消費者の購買意欲を刺激できたことが要因である。 また、なかの里まちアンテナショップの販促イベントとして、平成21 年 8 月に中野サン プラザ屋外で農産物の直売を行った農産物直売組織「身土不二」が、この取組みがきっか けとなり、同年10 月中旬に中野区川島商店街に店舗を構え、喜多方産の米、野菜、果物等 の農産物を中心に産直販売を行うようになり、首都圏での喜多方産農産物の販路拡大に繋 がった。 さらに、翌年1 月には、この店舗内に喜多方市アンテナショップ「愛土゛屋」を設置し、

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喜多方の農産物以外の地場産品の販売のほか喜多方の魅力である観光物産の情報発信も行 うようになった。 農産物直売組織「身土不二」は、翌年 7 月には中野区野方商店街に、今年 1 月には北区 十条に、出店し事業拡大を図っており、新たに出店した店舗内にも喜多方市アンテナショ ップを設置し、喜多方市の情報発信する拠点の数やエリアの拡大が図られている。 【課題と今後の取組み】 (交流・グリーン・ツーリズム) 経済交流はアンテナショップの設置等で進み、次の取組みは体験交流の充実である。喜 多方市は、平成 15 年に全国の市として初めて「グリーン・ツーリズムのまち」を宣言し、 修学旅行生の受け入れなどを行うグリーン・ツーリズムの先進地であり、今後、中野区と の連携が進めば中野区民にとって、様々な体験交流ができる機会が増える。 中野区から見ると、喜多方市は他の連携自治体と比べて遠く、日帰りできないというの が気軽に来られないというデメリットであるが、視点を変えると、日帰り圏でないので、 宿泊してもらえるというメリットもある。 当初はグリーン・ツーリズムを行政主導で進めてきたが、活動を進める中で、民間の得 意分野は民間に任せるということで交流活動の受け皿も増え、協働の取組みに進化してき ている。「喜多方市グリーン・ツーリズムサポートセンター」は平成21 年に NPO 法人化し、 農家・農泊開業者やグリーン・ツーリズム実践団体とツーリストをつなぐ総合窓口として 機能している。喜多方市における交流における農家民泊数は増加している状況であるが(図 4−1)、今後、さらに交流を進めていくには、体制(サポートセンター、庁内組織)を強 化し、受け入れ態勢を強化することが必要となる。

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図4−1 喜多方市グリーン・ツーリズム交流人口 (出所) 喜多方市資料 (アンテナショップの充実) 「愛土゛屋」内で販売されている商品の充実を図るため、供給者や商品品目を拡充する とともに、連携のパートナーである中野区民に喜んでもらえるよう良い物を安価で提供で きる販売流通システムの確立を図る。 (喜多方食文化のPR) これまでのアンテナショップなどの取組みのほか、喜多方市の魅力ある食文化を紹介し ながら、郷土料理や地場産品を使った料理を食する機会の創出など新たな経済交流を図る。 そのために、中野区学校給食等への食材供給や、喜多方ラーメン・蕎麦等を食べる場所(店 舗)の設置を検討する。 4.5 群馬県富岡市 4.5.1 富岡市の紹介 富岡市は、群馬県の南西部に位置し、鏑川と高田川が市域を東流し、鏑川水系を中心に 形成された河岸段丘と里山に囲まれている。平成18 年 3 月 27 日に富岡市と妙義町が合併 して誕生した新富岡市となった。人口は52,894 人、(平成23 年 1 月 1 日現在)、面積は 122.90

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平方キロメートルである。気候は年間を通じて温暖で、地盤も安定しており、災害も少な く、四季の変化に富んだ風光明媚な地域である。 上信越自動車道などの交通網の整備により、首都東京と約1時間で結ばれており、歴史 的にすばらしい資源が数多くあるが、中でも明治 5 年に設立された富岡製糸場17は、現在、 世界遺産登録を目指し、推進事業や周辺整備を進めているところである。 4.5.2 取組み内容 合併前の旧妙義町と中野区とに「上高田」という同じ地名があり、それが縁で交流が始 まった。その縁もあり、なかの里・まち連携に加わった。中野区からは田植えや稲刈り、 野菜収穫に来てもらい、妙義町地域からは中野まつりに参加したり、太鼓を披露しあった りして交流を進めている。 平成19 年 1 月の富岡製糸場の世界遺産暫定リスト記載をきっかけに、観光政策への取組 みを強化され、市民のまちづくりへの意識が一気に高まっている。世界遺産登録には、歴 史的な街並みの保全、養蚕文化などの地域資源を活かしたまちづくりなど、市民の協力が 不可欠である。急増した観光客を市全体でもてなし、まちなかの活性化につなげていくた めに、個人や各種団体など、市民ボランティアの輪をどんどん広げ、富岡製糸場を核とし て、中野区や全国各地からの観光客の呼び込みに取り組んでいる。 4.6 長野県中野市 4.6.1 中野市の紹介 平成17 年 4 月 1 日に中野市と豊田村が合併して誕生した新「中野市」は、長野県の北東 部に位置し、県都長野市からは鉄道で約30 分から 40 分で結ばれている。 北は飯山市、木島平村、東は山ノ内町、南は長野市、小布施町、高山村、西は飯綱町に 隣接している。また、斑尾山、高社山など象徴的な山々を背景として、千曲川、夜間瀬川 などが形成した河岸段丘や扇状地、穏やかな傾斜地に集落が発達している。 人口は47,498 人(平成 23 年 1 月 1 日現在)、面積は 112.06 平方キロメートルである。 気温は年間差が大きく、夏季は30℃以上、冬季は−10℃以下となる内陸性気候である。 産業は農業がさかんで、リンゴやブドウの栽培では全国でも有数の品質と生産量を誇っ ている。早くからエノキダケの栽培に取り組み、キノコや果樹、野菜、花きの施設栽培の 先進地としても知られている。 4.6.2 取組み内容 「中野区」と「中野市」は同じ「中野」つながりで交流があり、昭和60 年から、中野ま 17国家の威信をかけて造られた富岡製糸場は、東西文化の交流をもたらし、「トミオカシル ク」は世界にその名をとどろかせた。

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つりに参加してきた(当時の農政課が担当。現在は売れる農業推進室とJA中野市で参加)。 平成17 年 10 月 3 日には、災害時等協定を締結した。 平成20 年 10 月に中野区から各市長に里まち連携事業の趣意書が送付され、打ち合わせ 会議等を経て、翌年3 月 28 日から里・まち連携事業に参加した。 中野区との交流は、中野まつりへの参加が中心である。 4.7 商店街の取組み 里・まち連携事業の中で、中野区の商店街が担う役割は大きい。連携自治体が産直販売 やイベントを行うにあたり、その多くが商店街との共催で実施している。また、イベント・ 産直販売の他に、商店街から連携自治体へツアーを組んでの訪問や、研修旅行に行くなど の取組みも出てきている。自治体の力だけではできない交流事業において、受け皿のひと つである商店街がどのように取り組んできたのか、中野区川島商店街を訪問し、その取組 みについて、商店街理事長、前理事長等にインタビュー調査を行った。 【川島商店街の取組み】 (きっかけ) 当初は中野区から、里まち連携事業と、連携自治体を紹介された。中野区が、館山の漁 業組合と話をつけてきて、川島商店街でイベントをやってほしいとのことで始まった。 館山市から、朝採れた魚を運び、産直販売を行ったが、当日に値段を決めて売るという ことで、時間的に厳しく、初めてのことだったので大変だった。切り身ではなく、まるご と1 匹単位で売るので値決め等も難しく大変だったが、新鮮で安かったので喜ばれた。 里・まち連携事業以前から行っていた「朝市」や「夜店市」等のイベントに連携自治体 に参加してもらう形でスタートした。 (効果) 里まち連携で交流してよかった点は、里まち連携の中から、喜多方市アンテナショップ の「愛土゛屋」もできたことである。これが一番大きいのではないか。商店街としては、 以前からやっている八百屋、果物屋、米屋もあるので、難しいところもあるが、「愛土゛屋」 はアンテナショップを出すときに、商店街にも加入し、会費も払っている。仲間となって 商店街全体が盛り上がっていくといい。イベントの時だけ産直販売で盛り上がるのではな く、アンテナショップとして店を構えるということがよい。イベントをやれば、非日常性 に惹かれて人は来るが、それが活性化というのはまちがいである。なにもやらなくても人 が来る、それが本当の活性化である。 川島商店街では、空き店舗対策として「げんき村」事業を行っている。空き店舗対策と いうものは全国的にみてもなかなか成功事例はなく、苦労しているが、ここで試験的にチ

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ャレンジショップを出して、その後、本格的に店を出していってもらうと空き店舗対策と していいと思っている。「愛土゛屋」も「げんき村」出身である。 東京には地方出身者も多く、朝市、夜店市では、山梨出身の人が甲州市ブースにいった り、喜多方出身の人(商店街事務局で 2 名いる)が喜多方出店ブースに行ったら店員が偶 然知り合いで盛り上がるなど、楽しく交流ができている。 (課題) 経済交流関連の補助が初年度はあったが、2 年目からなくなってしまった。代わりに人的 交流関連の予算が付いたが、経済交流予算をもう少し段階的減らして、人的交流予算に移 行するなど、予算のつけ方を工夫してほしい。急に補助がなくなると、イベントそのもの ができなくなる。また、なくすのであれば、その後どのようにして継続させられるかの知 恵をもらえると助かる。 人事異動で、担当が変わると、話が通じなくなって困る。うまく引き継げるようにして ほしい。個人的な関係を築いていくのは大変である。上の人の考えも変わるし、予算の考 えも変わってくる。中野区には、約80 の商店街があるが、こうした事業等を引き受ける商 店街は少ない。商店街の規模や、引き受け手の問題などがある。 (今後) 里まち連携については、中野区、連携自治体、商店街にそれぞれメリットがないと、長 続きしない。それぞれにメリットがある仕組みをつくる必要がある。地方から来たときに、 なんらかの利があれば継続していくのではないか。商店街の直接的な利益はないが(イベ ントでの出店料等はとっていない)、店が増えて活気が出て、商店街に行くと楽しいとお客 さんたちに感じてもらうというのがメリットの一つではある。また、商店街と地方とのさ まざまな連携の可能性もでてきている。

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5 中野区モデルの有効性分析 5.1 里・まち連携の効果と成功要因 平成21 年度の中野区が把握している連携自治体との交流は、下記のとおりである。 館山市 常陸太田市 甲州市 喜多方市 富岡市 中野市 中野区 交流回数(H21) 21 10 10 7 3 2 ― 人口(H23.1.1) 50,084 56,192 35,300 52,284 52,894 47,498 311,207 人口増減率 -0.88 -6.04 -1.73 -7.29 -1.62 -1.52 +0.19 財政力指数 0.65 0.45 0.56 0.40 0.69 0.55 ---実質公債費比率 7.5 13.7 17.8 20.1 14.7 13.0 3.7 (人口増減率(%)は、H23.1.1 時点と H17 国勢調査時を比較。小数点第 2 位で四捨五入。財政力 指数・実質公債費比率(%)はH20 年度) 【取組み・効果】 主な効果は下記の点である。 ・交流人口の増による活性化 ・農業体験等による農・食への理解増進 ・アンテナショップの開設 ・商店街との産直販売イベント等での交流・活性化 ・各連携自治体のPR効果 ・地域資源の発掘・再評価 ・人と人とのつながりの醸成 中野区での取組みでは連携自治体によってばらつきは出ているものの、最も多く交流事 業を開催している館山市は21 回、連携自治体との交流回数は計 53 回にも及ぶ。これは、 東京23 区の姉妹都市等交流の平均回数の 11.8 回18を大幅に超えており、里・まち連携の効 果があると認められる。また、アンケートでは23 区での姉妹都市等の交流都市数は平均 2.5 都市であった。 また、平成21 年 7 月 25 日(土)∼10 月 18 日(日)の長期間にわたって中野サンプラ ザロビーにおいて「里・まちアンテナショップ」を開催している。これは、各連携自治体 持ち回りでアンテナショップの運営を行い、ファイナルイベントも開催し好評のうちに終 了した。 18 姉妹都市交流等(国内)に関するアンケート調査による。調査対象:東京 23 区、調査時 期:平成23 年 3 月 9 日から 3 月 24 日、調査方法:郵送によるアンケート回収結果:有効 回収数 16(69.6%)。

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里・まち連携の交流目的として、体験交流、経済交流、環境交流があるが、交流事業の 詳細をみると、連携市の特産品等の産直イベントが圧倒的に多く、まずは取り組みやすい 産直販売による経済交流から始めている状況である。経済交流では、中野区の商店街との 共同イベントが多く、商店街が大きな役割を果たしている。 常陸太田市と館山市では、体験交流も重視し、農業体験や中野区民との交流イベントも あわせて行っている。また、モデル交流事業を館山市と常陸太田市で実施予定であり、今 後各連携自治体に広げていく予定である。 喜多方市はアンテナショップを中野区川島商店街、野方商店街に出店し、喜多方産品を 通じて地域に根付いた取組みをしている。アンテナショップは行政が行うと経営が難しい が、喜多方市の場合は、民間事業者が経営し、市は実行委員会の枠組みを作り側面的支援 を行っている。このため、市からの補助金なしでアンテナショップの持続的な運営が可能 となっている。 地方の自治体では、交流人口を増やすために、PR 活動が欠かせないが、ここでも連携の 効果が出ている。館山市は中野ブロードウェイ 2 階に館山を紹介するコーナーを設けても らい、PR を進めることができた。常陸太田市は、中野区報に農業体験の募集を掲載し、周 知を図ることができた。自治体がPR をする場合、場所代等の費用もかかってしまうが、連 携自治体や商店街と協力することで、少ない費用でPR ができることも効果の一つである。 また、例えば東京駅で単発のPR イベントを開催するよりも、連携先である中野区で交流も 兼ねたイベント等を何度も開催することで、自治体の認知度をあげやすくなるのではない か。「選択と集中」戦略としても、全国に広くPR するより、連携自治体に絞ることが効果 的であると考える。 また、なによりも交流参加者の満足度が高いことがあげられる。常陸太田市で実施した 稲作体験交流事業では、中野区からの参加者が単なる農業体験だけではなく、カブトムシ 取りや滝めぐりツアーを行うなど、訪問するたびに驚くイベントが用意されており、「楽し かった。また来年も参加したい」との声が聞かれた。これは口コミで友人にも広がってお り、次年度以降も交流の輪が広がっていくことが期待されている。地元に都市部からお客 様を招くということは、いかにもてなすかということを考えるきっかけとなり、地域資源 の発掘や再評価につながり、また、それを支える市民の力が育っていくもととなっている。 こうした結果を見ると全体として交流事業は進み、成果をあげていると考えられる。中 野区以外の自治体は人口減少傾向が続き、財政的にも厳しい。そうした中で、里まち連携 に取組み交流人口を増やし、地域活性化に結びつけている。 【成功要因】 里・まち連携事業は全体としては効果をあげているが、どのような要因が連携事業に必 要だったのか。自治体連携の成功要因を探る。

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(1)自治体を核としたネットワーク結合 まちづくりの核となり、住民・住民団体・NPO・商店街・地元企業とのネットワークを 持つ自治体が他の自治体とつながることで、お互いの豊富な地域内ネットワークと地域資 源が、自治体を経由して外部とのネットワークを築くことが可能となったことは大きな意 味を持つ(図5―1)。 このことにより、これまで地域内部的ネットワークのみで活動しがちであった各ステー クホルダーが、自治体のネットワークブリッジを経由して、外部ネットワークグループと 直接につながることが可能となり、活動の幅が広がっている。 里・まち連携で一例をあげると、館山市の農家・漁師・協議会が館山市や中野区を介さ ずに直接、中野区の商店街とつながり、イベントや体験農業を行うなどの動きに結びつい ている。 図5−1 自治体連携ネットワーク A市 住民 住民団体 農家 協議会 住民 中野区役所 NPO 企業 地域ネットワーク 商店街 NPO 地域ネットワーク 自治体が媒介となり、自律的に 新しいネットワークが生まれていく 里・まち連携 (出所)筆者作成 (2)戦略的な連携 総合的な人的交流と違い、活性化や課題解決を目的としているので、連携参加自治体の 意識が違っている。

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(3)都市と地方の両方にメリット 里・まち連携を始めた時の趣旨にもあるように、お互いが抱える課題に対し、それぞれ の「強み」を活かし「弱み」を補完しあい解決を図るために連携するものであるので、地 方の自治体と、都市の自治体でお互いにメリットを感じあえれば、連携・交流が進んでい く。当初の連携枠組みで、どの自治体とネットワークを組むかということがまず重要とな る。連携を組む前の事前打ち合わせを行い、お互いの持つ地域資源や課題、相手自治体に 求めることをある程度はっきりさせる必要がある。 なかの里・まち連携では、海・山に位置するバラエティに富んだ自治体と連携し、交流 を進めていることが成功要因となっている。特に、館山市、常陸太田市とは体験交流等を 通じて市民も巻き込んだ密接な交流を展開している。逆に、富岡市、中野市は、定期的な 交流はあるが、その先の展開につながっておらず、お互いのニーズにギャップがある可能 性もある。 (4)住民との協働 よりよいまちづくりのためは、行政のみの力ではなく、住民協働で行わなければならな い。交流事業は特に、住民が主役となる取り組みである。そのため、交流活動の受け皿と なる市民団体が活発であると交流が進みやすい。各自治体でのインタビューにおいても、 ほとんどの自治体が「受け皿」の充実が交流の成功要因と答えていた。 館山市では、里・まち連携の枠組みを行政がつくったところ、地元の協議会や農家、漁 師などが動き出し、体験受け入れや産直販売など行政を介さずに行ってきている。行政が 交流の枠組みをつくり、住民が自主的に交流を進めている「住民主導型」の理想的なケー スといえる。 また、喜多方市では、中野区でのアンテナショップを地元でスーパー経営を行う民間事 業者に運営してもらうことで出店を可能にし、経営の効率化も図られている。 中野区の商店街も、当初は区からの依頼や仲介で動き始めたが、徐々に独自の交流活動 を進め、商店街同士の連携も進んできている。 (5)行政からの効果的なアプローチ 住民との協働が進めばよいが、行政からの働きかけなしに成功するケースは稀である。 一般的には行政が「協働のまちづくり」を掲げても、思惑通りには進まないことが多い。 そのような中で、市が仕掛け・きっかけを作らないと受け皿は生まれないとの考えのも とで、積極的に動いて地域資源の掘り起こしから受入れ団体の育成まで行っているのが常 陸太田市であり、「行政先導型」の取組みである。 常陸太田市では、重視している「受け皿作り」を実現するために、勉強会の開催や、特 産品の開発、市民討議会での「交流によるまちづくり」テーマの議論を行い、意識の高揚

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を図っている。農産物直売所「内子フレッシュパークからり」の成功で有名な愛媛県内子 町でも、成功要因として度重なる勉強会(内子町知的農村塾)の開催があった。新しい取 組みを進めていくためには意識改革が重要であり、勉強会を継続して続けることで意識が 変わり、「からり」の取組みに結びついた。 また、交流や特産品の開発にあたっては、地元のネットワークを最大限活用しており、 まちのキーパーソンと積極的に会合を持ち協力を求め、徐々に理解者を広げていっている。 市民の力を得るためには、市職員の努力も欠かせない。職員は、現場にいくケースが多 い。ボランティアで中野区へ行く場合もある。雑用・手伝いであっても、とにかく現場に いき、そこからアイデアを生み出していこうという考えである。 そのため、商店街の人との親密度は高く、さまざまなイベントの企画につながっている。 他自治体の担当者からも、「常陸太田はすごい」との声が出ている。熱心な担当者の属人的 な取組みであると、異動があった場合に取組みが頓挫したり、それまで築いたネットワー クがなくなったりしてしまうことが多いが、このあたりも自覚的に同僚を巻き込んで後継 者を育成しながら進めている。 市民や職員だけの取組みでは視点に偏りがでるので、外部視点も取り入れている。外部 からの意見をもらうことで、新しいアイデアや創発が生まれている。地域おこし協力隊、 総務省地域力創造アドバイザー、早稲田塾との連携(学生インターンシップ)、芸術家と 連携し、まちづくりを進めていることも大きな推進力となっている。 (6)行政の信用力 行政が里・まち連携のような、都市と地方のネットワークの枠組みを自治体が中心とな ってつくったことが大きい。行政の信用力は大きく(特に地方では大きい)、住民も安心し て交流事業に参加することができるし、新たなイベントを立ち上げるのも、地元住民の協 力を得やすい。 このような行政の信用力があるからこそ、館山市では行政が連携の枠組みをつくっただ けで、行政の積極的関与なしに地元の農業・漁業・市民が動きだし、市民レベルでの交流 が進んでいるといえる。また、喜多方市のアンテナショップも、民間事業者が連携開始後、 中野に出店して、それを喜多方市が側面支援して経営が軌道に乗り始めている。 これをNPO と比較すると、行政の強みがより見えてくる。昨今の農業・環境への意識の 高まりを受けて、都市と農村をつなぐNPO も多く立ち上がっているが、設立当初の時期は 活動を軌道に乗せることが難しい。通常のNPO には、資金、人材も乏しく、また、知名度 もないため信用力も少ない。唯一の強みは理念であり、その理念に共鳴して活動への参加 者や資金が徐々に集まり、活動する中で徐々に信用を上げていくしかない。 一例として、少人数での田舎体験・農業体験旅行を行っているNPO 法人「田舎時間」で は、設立当初の課題として、まず、交流先の農家が見つからなかったということがあった。 「本当の田舎体験がしたくて受け入れ農家を探していたがなかなかうまくいかず、飛込み

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ではだめだと感じた。友人のつてで、親戚の農家のおじさんを紹介してもらい、そこから さらに、役場の人を紹介してもらった。そして、役場の人から、田舎体験受入れをしてく れる、やる気のある農家を紹介してもらった。役場の人は地元で信頼されている。そこか らうまくいった」との体験談であった。 NPO も、活動を継続的に続けて実績を積んでいけば信用力も高まっていくが、スタート アップ時には行政の信用力にはかなわない。これは行政の大きな強みであり、都市農村連 携を自治体が行う大きな意義であると考える。 (7)アンテナショップ アンテナショップ全体の現状については、2.4 で述べたとおりである。喜多方市アンテ ナショップの斬新さや成功要因、今後の可能性について、他事例との比較もしながら検証 したい。 2.4 で、道府県単位のアンテナショップが多いと書いたが、最近では市町村単位で出店す るケースも見られる(2011 年 1 月現在で 13 店舗19)。特徴としては、道府県運営パターン と異なり、郊外に出店するケースが多いことが挙げられる。きっかけは姉妹都市や友好都 市の場合が多いものの、結果として、市町村単位の運営の方が、収支のバランスをより考 えていることを示唆している。また、比較的最近に開設されている店舗が多く、運営には 様々な工夫がみられる。 いくつか例を挙げると、例えば、長野県大町市の「信濃大町アルプスプラザ」では、運営 を店舗所在地である立川市のNPO に任せている。長野県木島平村では、「調布&木島平食 の駅新鮮屋」の開設の他に、村を挙げて調布市との連携を深め、濃密な人的交流を進めて いる。長野県富士見町は、「多摩市&長野県富士見町共同アンテナショップPonte」を 2010 年に開設し、そこでは多摩市の農産物も扱うことでお互いのメリット向上に努めている。 武蔵野市は、「アンテナショップ麦わら帽子」を開設している。市と友好都市 8 市町20が共 同出資21する形態となっており、運営を民間企業出身者に任せるなど、各地方のPRに加え 収支にもこだわり、黒字運営を達成した全国でも稀有な事例である。 19 地域活性化センター作成資料による。 20 山形県酒田市、岩手県遠野市、長野県安曇野市、千葉県南房総市、広島県大崎上島町、 新潟県長岡市、富山県南砺市、鳥取県岩美町 21 出資額は、各自治体の規模で決められている。

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出店自治体名 所在地 アンテナショップ名 開設年 運営 きっかけ 長野県大町市 立川市 信濃大町アルプスプラザ 2010 年 立川市NPO 姉妹都市 長野県木島平村 調布市 調布&木島平村 食の駅 新鮮屋 2003 年 木島平村財団法人 姉妹都市 長野県富士見町 東京都多摩市 多摩市 多摩市&長野県富士見町共同アンテ ナショップPonte 2010 年 多摩市NPO 友好都市 武蔵野市他 武蔵野市 アンテナショップ麦わら帽子 2001 年 有限会社(共同出資) 友好都市 (出所)地域活性化センター作成資料より筆者抜粋 一方、喜多方市アンテナショップは、姉妹都市等による連携ではなく、里・まち連携と いう新たな枠組みの下で生まれた点や、運営当初から民間事業者が先導していた点、(自治 体からすると)運営コストがほとんどかかっていない点、里・まち連携に参加している別 の自治体の農産物等も取り扱う予定である点など、多くの点で日本全体でも稀有な形態と なっている。行政・民間事業者双方のリーダーシップや、市の特殊性(知名度高)による ところも大きいだろうが、里・まち連携という枠組みがなければ、店舗が開設されること はなかった。この点、中野区モデルの有効性が見て取れる。 上の事例からは、効果的なアンテナショップ運営には、本章でふれてきた(1)から(6) 成功要因が多く含まれていることが分かる。継続的運営には、NPO や農家などを含めた自 治体を核としたネットワーク結合が重要である。採算性の確保に加え、自分の自治体を効 果的に売り込む戦略的な連携も求められる。また、都市のNPO が活躍したり、都市側の物 産も扱う場を設けたりするなど、都市と地方の両方にメリットのある形態が望ましい。そ こでは、都市・地方双方で、住民との協働が生まれている。店舗開設時には、行政から効 果的なアプローチ(連携の枠組み作り、コーディネートなど)をし、その信用力を利用す ることで新しい連携が生まれ、アンテナショップによる売り上げ以外の効果(人的交流な ど)が発生する。この点、アンテナショップの運営は、都市と地方の連携の縮図ともいえ る。 5.2 里・まち連携から見える課題と自治体連携の今後の見通し 里・まち連携事業は全体としては効果をあげているが、いくつかの課題が見られる。課 題の内容、要因、今後の見通しについて探る。 【課題と見通し】 (1)自治体連携によるメリットの明確化 都市側、地方側がお互いにメリットを明確に捉えきれていない部分がある。 図5−2 市町村運営アンテナショップの一例

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