コンクリート工学
8001. は じ め に
単品受注の現地生産,屋外での作業,工程ごとの分業 生産で行うという性格の建設業は,工場内で生産する製 造業に比べて労働生産性が低い。ロボット導入で自動化 の進む製造業の生産性が年々向上していることから,製 造業との差も年々拡大しつつある。また,労働力が高齢 化する一方,経験をもつ熟練工のリタイアによって熟練 工が不足する状況になっている。このような状況のもと,
建設業においても,製造業と同様に,ICT(情報通信技 術)を高度に駆使した建設生産システムの導入を図るこ とが必要と考えられる。すでに,土木工事ではマシーン コントロール,マシーンガイダンス,TS(トータルステー ション)や GNSS(Global Navigation Satellite System)
を用いた計測技術など,情報化施工技術が個別に開発さ れ,現場に適用されている。しかし,施工段階に留まら ず,調査,設計,施工,維持管理の建設プロセス全体に 高度な ICT を拡大させ,各段階で必要な情報が利用で きるようにしていくことが重要である。
建設プロセス全体で高度な ICT を導入するための情 報基盤を「次世代 CALS」と呼ぶことにし,本稿では,
これまでの国土交通省の CALS の取組みを振り返り,今 後の次世代 CALS の展望と国土技術政策総合研究所の 取組みを紹介する。
2. 公共事業での CALS/EC の取組み
国土交通省では,事業プロセス全体で情報を電子化し,
異なる組織間,事業段階間で情報の交換,共有,連携を 実現する CALS/EC に取り組んできている。具体的には,
事業段階を跨いだデータ連携のために業務成果や工事完 成図書を電子化して納品してもらう電子納品,受発注者 間で工事関係書類等を共有する情報共有システムの活用 などを実施してきている。これらの取組みによって,紙 資料を受け渡した場合と比べて,データの修正変更や再
利用,成果品の保管や検索が容易になり,また工事施工 中の情報共有により手戻りの防止や受発注者間のコミュ ニケーションの円滑化につながっている。
また,建設事業においては,図面が最も重要な情報で あり,設計図,関係機関への説明図,発注図,施工計画 図,工事完成図,維持管理の管理図など,事業段階で 様々な図面の作成,利用が頻繁に行われる。図面の作成 に当たっては,設計図など,前の事業段階で作成した図 面を再利用して行うこから,電子化された図面の利用を 促進するために,CAD データの作成方法やファイル形 式を定めた CAD 製図基準
1)を策定して,データを電子 納品し,再利用している。
このように,建設事業の CALS/EC は少なからず業務 効率化に寄与しているものの,情報化施工やデータベー スを活用した施設管理など,高度な建設生産システムへ の寄与は,今のところ十分とはいえない。これは,あく まで紙資料を電子化したレベルでの業務改善であり,人 間が情報を検索,閲覧し,意味を理解した上で再利用す るといった従来の仕事のやり方を支援するレベルに留 まっているためである。
3. 建設生産システムの高度化に寄与する次世代 CALS
高度な建設生産システムを構築するためには,従来の 紙資料に基づく仕事のやり方から,ICT を駆使した仕事 のやり方に抜本的に変える必要がある。すなわち,単純 作業はできるだけコンピュータで作業を行わせて,人間 は知的労働に特化する。BPR(Business Process Reengi
neering)を伴う ICT の利用で,業務は効率化される。
各種データべース,3 次元 CAD,3 次元解析,CG(コ ンピュータグラフィック)や VR(バーチャルリアリ ティ),GIS,情報化施工,IC タグ,モバイル端末など の技術が急速に進展し,建設事業においても多くの業務 でコンピュータ支援が得られるようになる。図
-1に将 来のコンピュータ支援による事業プロセスとシステムの 利用,業務改善効果を整理した。この図は,国土技術政 特集/建設業における IT 革命最前線/3.土木における IT 活用の最前線
土木事業の建設生産システム高度化に向けた 次世代 CALS の展開
─国土技術政策総合研究所の取組み─
青 山 憲 明 *
* あおやま・のりあき/国土交通省 国土技術政策総合研究所 高度
情報化研究センター 情報基盤研究室 主任研究官
Vol. 50, No. 9, 2012. 9
801建物 道路 柵
緩和曲線A B C
E C 直線
曲線半径R 直線
緩和曲線A 交点IP
C C
1,280画素以上とする
10.011.012.013.014.0 11.012.013.014.015.0
10.5
5.06.07.08.09.0 6.07.08.09.010.0 0.01.02.03.04.0 1.02.03.04.05.0
0.5
業務名称平成13年度 ○○地区広域地質調査 ボーリング名
区間深度 調査業者名 HB-1 GL±0.00m~-5.00m
○○コンサル(株)
採取年月日平成14年3月29日
測量
設計
用地取得
積算
施工
維持管理
関係機関協議 住民説明 TS・GPS・航空レーザ
(3 次元地形データ取得)
道路設計用 3 次元 CAD
(3 次元道路設計)
CG(コンピュータ グラフィックス)
積算システム 3 次元 CAD
(統合的管理)GIS
設計データ(中心線,縦断,横断),
用地取得計画[SXF,XML]
用地実測図 関係機関協議結果
測量,地質調査,設計データ[SXF,XML]
関係機関協議結果,発注図面,数量総括表
工事完成図[SXF]
道路施設基本データ[CSV]
出来形・品質管理データ
道路施設基本 データ[CSV]
工事完成図
[SXF]
完成図[GIS] MICHI データ 道路工事 基盤地図情報[JPGIS]
施設管理図[GIS]
ボーリングデータ[XML]
3 次元データ(DM,GIS,CAD)による 地形・地質データの受渡し
測量用 CAD
(3 次元地形データ作成) 3 次元地質解析ソフト
(3 次元地質データ作成)
3 次元データ,
プロダクトモデルの 流通・利活用
CAD データを 活用した数量の
自動算出
受発注者間 情報共有
電子納品
電子成果品の 保管管理
TRABIS
基本データ 道路施設 ベース
システム間連携 による情報の 一元的な取得
情報の集約
GIS 管理図面の活用
業務プロセス
利用システム
CALS/EC の 実施項目
CALS/ECの効果
[フォーマット] 情報 GIS による
施設管理システム
3 次元可視化 施設の
IC タグ レジストリ 標準インター 地名辞典 フェース
( 維持管理 システム )
電子納品・
保管管理システム 保管管理システムと 維持管理 DB との連携
災害対応 変状の 3 次元
測量システム 電子野帳
巡回・点検
巡回・点検システム
施設管理 許認可 行政相談 現場からの情報取得
データ収集 効率的な
( ポータルサイト 情報公開 構築 )
XML 化 帳票の スマートフォン,
タブレット端末 帳票作成 システム
国土地盤情報 検索サイト
国民
凡 例 基盤地図情報
ダウンロードシステム 帳票の 簡素化 ワンデー
レスポンス
情報化施工 3 次元マシンコント
ロールシステム 出来形・品質計測 システム(TS・GPS)
情報共有 システム
上流工程の 情報の引継
協議結果の下流 工程への伝達 GIS 上での用地データ
の統合的管理
測量,地質調査,
設計成果
整備計画
行政相談記録 点検記録
(過年度) 成果品 実績データ
予算要求資料
(過年度)
入札契約情報 工事実績 工事成績
事業で必要な 3 次元地理空間データ取得
情報収集の 効率化
移動コストの縮減
データ二重入力の 排除 設計の効率化
設計成果の品質向上
(細部の確認,ミス防止)
スムーズな 合意形成
積算の効率化
コスト縮減
透明性確保
成果品の長期保存
情報検索・取得の 効率化・高度化
情報の再利用性向上
現場との情報のやりとり のリアルタイム化 維持管理データ
ベース更新の 効率化・迅速化
施工の効率化・
高度化
行政サービスの向上
意思決定の 迅速化
施設管理の 効率化・高度化 工期短縮
品質向上 不要な手戻りの回避
地質調査
予算要求
業務・工事ごと(年度ごと)
入札・契約
納品・検査
成績評定
清算・繰越 電子納品
保管管理システムへ
システム間連携による 散在する情報の集約
統合的な DB 環境の構築
メタデータ レジストリ
入札・契約手続の オンライン化
入札情報の 一元的な提供
電子入札・
契約
入札・契約 システムの連携 PPI
電子入札 電子契約 支払決議 CORINS
成績評定 システム
管理システム 予算執行 受注者 発注者
インターネット
事業の流れから見た次世代 CALS/EC 全体イメージ
図
-1事業の流れから見た次世代 CALS/EC 全体イメージ
コンクリート工学
802策総合研究所が調査研究した技術を,事業プロセス全体 にマッピングしたものである。3 次元設計,CG を利用 した住民説明,GIS を利用した用地や施設管理,情報化 施工,維持管理で利用する情報の各業務段階でのデータ 取得と統合管理等により,スムーズな合意形成,意志決 定の迅速化,ミスの防止,作業効率化などの効果が発揮 されることを示した。将来のシステムとして鍵となるシ ステムは 3 次元 CAD,GIS,情報共有システム,情報化 施工技術,各種維持管理システム,現場で利用するモバ イル端末が考えられる。
現在,特に注目されているのは 3 次元 CAD である。
建築分野では,BIM(Building Information Modeling)で も利用されているように,3 次元設計,3 次元情報の可 視化,情報の統合管理を行うツールとして期待が大き い。土木分野でも,今後は 3 次元データの利用によって,
生産性向上が期待される。
例えば,道路設計では,平面,縦断,横断設計は密接 に関係しており,平面線形や縦断線形が変われば,地形 に対応した横断形状も変わる。従来の 2 次元設計では,
平面,縦断,横断設計を別々に実施することから,最適 な設計になるまで試行を繰り返すことになり,大変な労 力となる。道路設計用の 3 次元 CAD では,道路設計の 手順が組み込まれており,平面,縦断,横断設計が関連 して行われる。このため,設計に要する作業は,従来に 比べて短時間ですむ。また,構造物の設計に 3 次元 CAD を利用すると,平面,立面,横断面図をそれぞれ作成す る従来の 2 次元設計に比べて,図面間の不整合が発生し ないので設計ミスの防止につながる。空間的な把握も容 易になり,構造比較や部材の干渉チェック等の細部の確 認ができる。さらに,3 次元 CAD データから CG を作 成することで,住民説明,関係機関協議に活用し,スムー ズな合意形成,不要な手戻り回避ができる。情報化施工 でも,コンピュータを搭載した建設機械の自動制御技術 や施工支援技術,各種センサーを搭載した建設機械によ
る品質管理の自動化技術の開発が進められているが,こ れらの技術では,土構造物の 3 次元形状を把握する必要 があるので,3 次元データを作成している。
3 次元データの利用が土木分野で広まる中で,BIM と 同様の考え方で,土木のプロダクトモデルとして CIM
(Construction Information Modeling)が提唱されてい る
2)。CIM は,土木の調査,設計,施工,維持管理の一 連の建設プロセスのなかで関連する情報を統合・融合 し,設計の効率化,品質向上,施工性の向上,維持管理 の高度化といった新しい建設管理システムを構築する考 え方である。以下に,国土技術政策総合研究所が実施し ている 3 次元プロダクトモデルの開発について述べる。
4. 3 次元プロダクトモデルの開発
3 次元データの利活用は,建設生産システムの高度化 にとって重要な技術となる。道路設計では,平面,縦断,
横断設計が連動して行われるソフトウエアを説明したが,
これが実現できるのは CAD ソフトウエアの内部で 3 次 元のプロダクトモデルが存在しているからである。3 次 元 CAD で設計し,サーフェースやソリッド等の 3 次元 CAD データを交換する場合は,受け渡された施工者が 起工測量結果を踏まえて 3 次元 CAD でデータを修正,変 更しなければならず,不慣れな施工者の場合はデータ修 正変更ができないおそれがある。一方,3 次元 CAD デー タの基になった道路中心線形,縦断線形,横断面等の設 計データであれば,横断面の変更,修正があっても容易 に可能であり,変更したデータを用いて 3 次元 CAD デー タにすることができる。3 次元 CAD データの基になる データを交換することはきわめて有効である。
国土技術政策総合研究所では,3 次元形状を再現する データモデルを 3 次元プロダクトモデルと呼び,その標 準化を検討している。検討しているプロダクトモデルは,
我が国の道路設計用ソフトウエアや情報化施工システム との親和性を考慮したモデルであり,図
-2に示すよう
3 次元 CAD データ
パラメトリックな設計情報
平面線形要素(道路中心線)
曲線始点 座標 BC
曲線終点 座標 EC 直線
緩和曲線 変数 A 曲線半径 R
直線 緩和曲線 変数 A
交点座標 IP 道路中心線
縦断線形要素(道路中心線)
縦断曲線長 L
縦断変化点座標 横断形状要素 幅員 W
勾配 i % 勾配 1:X 標準横断断面を構造物の中心線形に当てはめていくと
構造物の 3 次元形状が再現される。
図
-2道路の
3次元プロダクトモデル(道路中心線と横断形状の組み合わせ)
Vol. 50, No. 9, 2012. 9
803に,道路構造の骨格となす道路中心線形と道路横断形状
を組み合わせることで,3 次元形状を構築することがで きる。道路中心線は,平面線形と縦断線形の設計データ をもつ 3 次元の線であり,平面線形の構成点や平面線形 と縦断線形の設計パラメータをもつモデルである。横断 形状は,横断構成要素の幅員,勾配,比高等の設計パラ メータで形状をモデル化したものである。データモデル は,XML スキーマで記述されており,データの意味,
定義を明示したシステムに依存しないデータ形式となっ ている。このため,線形計算ソフト,3 次元 CAD,2 次 元 CAD,情報化施工システム(TS 出来形管理のソフト ウエア)等の異なるシステムでのデータ交換,利用が可 能であり,今後の建設生産システムの有力な情報基盤と なり得ると考えている。
5. 情報化施工への 3 次元プロダクトモデルの利用
上記で検討している 3 次元プロダクトモデルの利用方 法の 1 つとして,工事施工における情報化施工がある。
国土交通省では,ICT を建設施工に積極的に活用して生 産性と向上を実現する情報化施工を推進している。その 1 つとして,図
-3に示すトータルステーションを利用し た出来形管理技術がある。この技術は,盛土や切土,舗 装を対象に,出来形計測点の測量を,従来の巻き尺やレ ベルに変わってトータルステーションを用いて測量する ものであるが,測量機器に 3 次元設計データを入力して おくと,出来形計測点へのプリズムの誘導や,現地での 設計値と出来形計測値の確認ができる。現在は,施工業 者が 3 次元設計データ(道路中心線形や横断形状データ)
を入力しているが,2 次元図面の数値を読み取ってシス テムに入力することから,データ入力作業の負荷が大き い。このことが,中小規模の工事での情報化施工導入の 課題となっている。
このため,設計段階で 3 次元プロダクトモデルを作成
し,そのデータを利用したのり面と地形とすり付け,現 地合わせ等のデータ修正作業になれば,最初から 3 次元 データを作成するのに比べて,大幅なデータ入力作業の 軽減につながる。
6. お わ り に
3 次元データの利活用など,ICT を建設事業に導入す ることで建設生産システムの高度化,効率化が図られよ うとしているなかで,それを支える情報基盤の役割は非 常に重要である。コンピュータが意味を理解し,異なる システムで作成されたデータでも利用できるようにする ために,オブジェクト指向をもつデータ交換,利用技術 の開発が不可欠であり,次世代 CALS を展望したとき,
意味,定義が明示的に示されるデータモデルの構築は,
次世代 CALS の重要な役割であるといえる。本稿で紹 介した道路等の 3 次元形状をモデル化した 3 次元プロダ クトモデルは,設計データをモデル化したものであり,
システムに依存せず,情報化施工など様々なシステムで 利用可能なデータであるといえる。
国土技術政策総合研究所では,2 次元から 3 次元への 移行を確実に行うために,3 次元プロダクトモデルの研 究を通じて 3 次元 CAD の利用環境を整備する取組み行っ ており,本稿で紹介した。現在,3 次元プロダクトモデ ルの策定,公表に向け,関係機関と協議を進めている。
今後は,ソフトウエアの開発支援,現場への適用確認等 を通じて,早期の導入,普及に引き続き取り組んでいく 予定である。
参考文献
1) 国土交通省:CAD 製図基準(案),平成 20 年 5 月,http://www.
calsed.go.jp/calsec/rule/cad5.pdf
2) 佐藤直良:BIM から CIM へ─建設生産システムのイノベーショ ンに向けて─,土木学会 建設マネジメント委員会 2011 年度公共 調達シンポジウム,2011. 11
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