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カレントトピックス 国境を越えるセラピストの活動

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Academic year: 2021

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著者プロフィール 現職

国際医療福祉大学成田保健医療学部作業療法学科 学 科長・教授

社会活動

特定非営利活動法人 難民を助ける会 AAR Japan  理事

国際リハビリテーション研究会 代表

編著書

国際リハビリテーション学─国境を越える PT・

OT・ST.羊土社.2016年

地域包括リハビリテーション実践マニュアル.羊土 社.2018年

学歴

東京都立大学人文学部卒業

国立療養所東京病院付属リハビリテーション学院卒業 国際医療福祉大学大学院医療福祉学研究科保健医療学 専攻満期退学

職歴

青年海外協力隊マラウイ隊員

国際医療福祉大学保健医療学部作業療法学科 杏林大学保健学部作業療法学科

1 .はじめに

近年,我が国のセラピストが国境を越えて活躍する 機会が過去に比べて明らかに拡大している.これは,

中短期的な視野で見るとアベノミクスなど現政権の政 策による影響があることは間違いないが,長期的・巨

Corresponding author:

国際医療福祉大学成田保健医療学部作業療法学科

〒286-8686

Tel:0476-20-7701 Fax:0476-20-7702 E-mail:[email protected]

国境を越えるセラピストの活動

河 野   眞

国際医療福祉大学成田保健医療学部作業療法学科

キーワード:国際リハビリテーション,国際協力,シリア難民

(2)

視的に見るといわゆるグローバリゼーションの進展に よってもたらされた現象とも考えられる.

ICT など科学技術の発展に基盤を置くグローバリ ゼーションは今後も深く広く進行こそすれ,縮小・後 退することは考えにくい.そのため,国境を越えたセ ラピストの活動も今後ますます拡大していくものと予 測できる.

本稿では,21世紀初頭のセラピストによる国境を越 えた活動を描き出すことで,この領域の現在の概要を 捉え,将来の方向性を検討する一助としたい.

2 .セラピストが国境を越えて活動をする枠組み 現在,作業療法士・理学療法士・言語聴覚士など我 が国のセラピストたちが国境を越えて活動を展開する には,さまざまな枠組みや立場を利用することが可能 である.以下では主だったものの概要を紹介する.

( 1 )JICA ボランティア注,1 )

独立行政法人 国際協力機構(Japan International Cooperation Agency:JICA)は我が国を代表する政 府開発援助(Official Development Assistance:ODA)

の実施機関であり,我が国の二国間援助のほとんどを 担っている.

JICA ではいくつかの枠組みで途上国へのボラン ティア派遣を実施しており,その代表的なものが青年 海外協力隊とシニア海外ボランティアである.これら のボランティアはいずれも職種別に募集が実施されて おり,作業療法士・理学療法士・言語聴覚士といった セラピストも募集職種となっている.(表 1 )

1 )青年海外協力隊

1965年に最初の隊員をラオスに派遣して以降(当時 の名称は日本青年海外協力隊),青年海外協力隊(以 下,協力隊)は2018年 6 月末までに累計43,864人の隊 員を世界のさまざまな国に派遣している.

派遣期間は原則 2 年間であるが, 1 ヶ月から参加可 能な短期派遣制度も備えている.金銭面では,派遣に 要する交通費が JICA から支給されるのはもちろんの こと,派遣期間中の現地生活費も派遣国の物価や経済 状況に応じた金額が支給される.

募集対象年齢は20歳以上40歳未満であり,対象職種 は120以上に及ぶ.保健医療分野では理学療法士・作 業療法士・言語聴覚士などのセラピストだけでなく,

看護師・薬剤師なども派遣されており,かつては医師 が派遣された時期もあった.

派遣先での勤務内容は,指導職・管理職的な役割を 求められることもあるが,現地スタッフと共に直接の 臨床業務に従事することが大半である.

2 )シニア海外ボランティア

協力隊に遅れること25年,1990年に開始されたのが シニア協力専門家(現在のシニア海外ボランティア)

事業である.これは40歳以上70歳未満を対象とするも のであり,2018年 6 月末までに累計6,382名が本事業 を通して派遣されている.

派遣期間については協力隊と同様であるが,金銭的 な面では,家族を同伴する場合の交通費と生活手当の 支給が認められている点で異なっている.

勤務内容は,直接の臨床業務に当たることもある が,現地スタッフへの指導や管理職的役割を求められ ることが多い.

( 2 )国際協力 NGO

NGO と は Non-Governmental Organization の 略 で ある.字義どおりには,「非政府組織」というだけの 意味であり,営利・非営利の別は含まないが,しかし 一般的には非政府系の非営利団体のみを NGO と呼ぶ ことがほとんどである.日本では法律上,特定非営利 活動法人(NPO 法人)となっていることが多い.

NGO の中でも特に国際協力を活動の柱としている 団体を国際協力 NGO と呼ぶ.近年,セラピストが国 際協力 NGO に職員として勤務する例が少しずつでは あるが増加しつつある.また,セラピストが外部専門 家として NGO の事業に参画する機会も増えている.

以下ではごく簡単に概要を説明する.

職   種 青年海外協力隊 シニア海外ボランティア

医    師 16 92

看   護   師 1,825 69

薬   剤   師 233 15

臨床検査技師 362 18

理 学 療 法 士 563 23

作 業 療 法 士 366 21

言 語 聴 覚 士 43 5

2018年 6 月30日時点 表 1  JICA ボランティア 保健医療分野 職種別派

遣実績(人数)

(3)

1 )国際 NGO

NGO の中でも各国に事務所を構えて大規模に活動 を展開している団体を国際 NGO と呼ぶ.例えば保健 医療分野では,国境なき医師団が代表的な国際 NGO として挙げられる.

リハビリテーション分野の国際 NGO としては,

Humanity & Inclusion( 旧 名 Handicap International を2018年 1 月に改名)が代表的な団体の一つである.

約36年の歴史を持つ Humanity & Inclusion は,現在 約60ヶ国で活動を展開しており,多くのセラピストが その職員として活躍している2 )

また前述の国境なき医師団のように保健医療分野を 対象とする国際 NGO やワールド・ビジョンのように 障害児を含めた児童分野を対象とする国際 NGO でも セラピストが職員や外部専門家としてかかわる機会は ある.

2 )日本の NGO

日本に母体を置く NGO でセラピストが職員として 勤務する例も近年少しずつ見られるようになっている.

例えば,難民を助ける会(AAR Japan)(図 1 )は 日本に母体のある国際協力 NGO としては予算規模の 大きな団体であるが,活動の 5 本柱の一つに「障がい 者支援」を掲げている3 )

.そのためもあって,これま

でに複数のセラピストが職員として勤務し,またセラ ピストや車椅子技術者など複数の外部専門家がかか わってきた.

その他,日本に母体を置く少なからぬ国際協力 NGO が保健医療分野で活動しており,これら NGO にセラ ピストが職員や外部専門家としてかかわることもあり うる.

( 3 )病院丸ごと輸出

現在,経済産業省を中心として,新幹線や上下水道 など我が国のインフラストラクチャーをその運用シス テムごと輸出する施策が推し進められている.このう ち,日本の医療機関による海外進出を病院丸ごと輸出 と呼ぶ.

リハビリテーション分野における病院丸ごと輸出の 例としては,北原国際病院によるカンボジアなどアセ アン諸国への進出が挙げられる4 )

北原国際病院の例では日本のセラピストが現地に駐 在し,現地人リハスタッフの指導に当たっている.

JICA ボランティアや国際協力 NGO が非営利の活 動を行っているのに対して,病院丸ごと輸出は営利活 動であるという点に大きな違いがある.

( 4 )医療ツーリズム・在日外国人支援

JICA ボランティア,国際協力 NGO,病院丸ごと輸 出などは文字通りセラピスト自身が国境を越えて実施 する活動であるのに対し,医療ツーリズムや在日外国 人支援におけるセラピストの活動は日本国内で実施す る国境を越えた活動といえる.どちらも,国境を越え て日本にやって来た外国人に対し,その文化・習慣・

社会などといった背景を意識しながら実施する必要の ある活動だからである.

このうち,医療ツーリズムは我が国の先進的な医療 を受けることを目的として来日する外国人へのサービ ス提供である.病院丸ごと輸出と同様に経済産業省が 力を入れていることから今後拡大が予測され,リハビ リテーション分野でもセラピストが医療ツーリズムへ の対応を求められることは増加するだろう.

また,留学や就労等を目的として来日する外国人の 増加に伴い,在日外国人に医療サービスを提供する必 要性も拡大している.リハビリテーション分野でも,

例えば高田馬場さくらクリニックのように在日外国人 支援としてのリハサービス提供を活動の柱の一つとす る医療機関も出て来ている5 )

社会のさまざまな領域でのグローバリゼーションの 進展に伴い,セラピストが日本国内に居ながらにして 国境を越えた対応を求められることは今後も増えこそ すれ減ることはないのだろう.

( 5 )その他

JICA ボランティアとしてだけでなく,JICA 本体 の職員として勤務するセラピストも散見される.この 場合,セラピストとして臨床業務にあたることはな 図 1  難民を助ける会 AARJapan

(4)

く,一般職員としての勤務になる.また,JICA の国 際協力事業に専門家として従事する例も数こそ多くな いが以前から存在している.これらもセラピストが国 境を越えた活動に携わる際の枠組みといえるだろう.

国際協力事業の企画・運営・実施を業務とする国際 協力コンサルタント会社で勤務するセラピストも近年 散見されるようになった.この場合も臨床業務に当た ることはほとんどなく,一般社員と同様の勤務内容と なる.このようなコンサルタント会社の一例として,

(株)コーエイリサーチ&コンサルティング(https://

www.k-rc.co.jp/)が挙げられる.

さらに,最近は中国など経済発展の著しい一部の新 興国で,医療サービスの提供を業とする現地法人に直 接雇用され臨床業務に携わる日本人セラピストも見ら れるようになった.中国におけるそのような会社の一 例として,台州悠康健康管理有限公司(http://www.

yk-health.com/)が挙げられる.

3 .セラピストによる国境を越えた活動例

ここでは筆者が経験しているトルコにおけるシリア 難民支援事業でのリハビリテーション専門家としての 活動を事例として紹介する.

こ の 事 業 は 前 述 の 国 際 協 力 NGO AAR Japan に よって実施されているものである.AAR Japan では 2012年からトルコにおいてシリア難民への支援を実施 してきたが,筆者は2016年から外部専門家として参画 することとなった.

国連難民高等弁務官事務所の資料によると,2018年 8 月時点でシリアの内戦を逃れて国外で生活を送って いる難民の数は561万人を超える.そして,このうち 約355万人以上がトルコで難民生活を送っている6 )

一般に難民というと難民キャンプで生活しているイ メージを持たれがちであるが,これほどの規模になる とキャンプはその収容能力という点で充分に機能しな い.そのため,トルコのシリア難民はそのほとんどが都 市部に散在して生活している7 )

.これは都市型難民と

呼ばれ,現在の難民支援上の一つの課題となっている.

当然であるが,他の人間集団と同様,難民にも一定 の割合で障害児・者が含まれる.シリア難民の場合,

内戦以前から障害を持っていた群と内戦に起因して障 害を負った群の 2 つが存在することが特徴である.原 因はともかくとして,難民の中でも特に障害児・者は 支援の届きにくい脆弱な層の一つであると言われてい る.そこで,AAR Japan ではトルコでの活動の一つ の柱として障害のある難民の支援に取り組んでおり,

そのためセラピストが外部専門家として投入されるこ ととなった.

現在の事業は,地域に根ざしたリハビリテーション

(Community-Based Rehabilitation : CBR)の方法論に 基づいて展開されている.事業は大きく 2 つの構成要 素に分けられる.つまり,①シリア難民コミュニティの 形成と活性化,②障害のあるシリア難民の地域生活支 援と難民コミュニティへのインクルージョン,である.

このうち,筆者は②を中心にかかわっている.その 中では,ⅰ)他の日本人セラピストと協働した,シリ ア人理学療法士への指導・研修の提供 ⅱ)障害イン クルーシブなコミュニティ組織・コミュニティ活動の 形成・実施,という 2 つのテーマに取り組んでいる.

(図 2 ・ 3 )

基本的に筆者を含め日本人セラピストは外部専門家 という立場であり,年数回の短期出張をベースに現地 活動を行う.そして,日々の支援業務は AAR Japan

図 2  日本人理学療法士によるシリア人理学療法士への研修 図 3  シリア難民障害児向けのイベント

(5)

の現地職員が筆者ら外部専門家の助言を参考にしつつ 実施するという体制が取られている.

シリア情勢は現在も不安定であり,シリア難民の母 国への帰還の時期は全く不透明である.このため,筆 者ら日本人セラピストを含む支援活動は今後もしばら く継続するものと予測される.

この活動は同時代の国際的な課題にセラピストがリ ハビリテーションという切り口で微力ながらも貢献で きる可能性を示す例ではないかと考えている.

4 .まとめ

旧来は協力隊に限られていたセラピストによる国境 を越えた活動の場が,現在では著しく多様化し拡大し ていることを報告した.その上で,活動例の紹介を通 して,世界が取り組むべき喫緊の課題に対してリハビ リテーションという切り口からセラピストが貢献でき る可能性を示した.本稿を通して,一人でも多くのセ ラピストが国境を越えた活動に動機づけられ,広く世 界を活動の場とすることを期待している.

注 2018年秋をもって,次のような名称変更がなされた.

  旧)JICA ボランティア→新)JICA 海外協力隊   旧)シニア海外ボランティア→新)シニア海外協力隊

  それに伴って制度の中身も一部変更されたが,詳しくは参考 文献中にある JICA ボランティアホームページを参照のこと.

文献

1 )JICA ボランティアホームページ,https://www.jica.go.jp/

volunteer/,2018年9月12日閲覧 .

2 )Humanity & Inclusion ホ ー ム ペ ー ジ,http://www.hi-us.

org/,2018年9月12日閲覧 .

3 )難民を助ける会 AAR Japan ホームページ,http://www.

aarjapan.gr.jp/,2018年9月12日閲覧 .

4 )Kitahara medical strategy international ホ ー ム ペ ー ジ,

https://kitaharamsi.com/wp-content/uploads/2013/12/

logo4.png,2018年9月12日閲覧 .

5 )塩田渡留侍,冨田茂,磯松鉄浩,他:在日外国人患者を対 象とした外来リハビリテーションの実践,国際リハビリテー ション研究会第1回学術大会 配布資料,2017,11.

6 )Syria Regional Refugee Response,UNHCR operation portal refugee situations,https://data2.unhcr.org/en/

situations/syria,2018年9月12日閲覧 .

7 )墓田桂,難民問題,中公新書,中央公論新社,2016,71-73.

参照

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