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野外教育における段階的な参加とその影響に関する研究 [ PDF

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Academic year: 2021

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概要 本研究では、課程が段階的に構成され、参加者が継続的 に参加するボーイスカウトに着目し、指導者になるまで多 様な要因から段階的な参加を継続している個人の過程を明 らかにしようとした。 分析にあたり、正統的周辺参加論を援用し、検討する要 因を想定するとともに、ライフストーリー研究の手法を用 いて個人の参加の過程をあらわした。 問題の所在 近年、「自然との触れ合い,屋外での遊びなどが減少」 を受けて、「自然の中で心の豊かさを求め,人間性を回復 しようとするアウトドアの志向」が高まり、野外教育が注 目されている。 実践として、様々な自然体験活動やキャンプなどの宿泊 体験が展開されているが、その多くは自然の家やキャンプ 場などの特定の場所で単発的に参加するプログラムであり、 段階的に継続して参加する活動はほとんどない。 野外教育の研究としても 1 回の取り組み、特に長期的な キャンプにおける量的な効果を測定するものが主流であり、 段階的で継続的な活動は野外教育の分野ではほとんど対象 にされていない。 しかしながら、野外教育において単一の活動に段階的に 継続して参加することは、活動が段階的に高度になり個人 の意識的な取り組みを要求するのにあわせて、徐々に参加 が深まり、加えて継続的に参加し、活動を反復することで、 より参加の影響が定着しその影響が実感されると考える。 以上をうけて、本研究は野外教育における段階的な活動 における参加の影響と参加を支える要因をボーイスカウト を事例として明らかにしようとする試みである。 ここで、ボーイスカウトを検討対象とする理由は、この 活動が、就学 1 年前から大学生まで長期に渡って継続的に 参加できる活動であり、かつその課程が明確に、そして段 階的に構成されている点、さらに大学生まで参加した参加 者が指導者になって活動に参加するという点からである。 また、その役割を変えて参加していくこと、活動が段階 的に自主的になっていくことから、ボーイスカウトの実践 を理解するのに正統的周辺参加論が援用可能であると考え、 これにより今まで明らかにされてこなかった経験の内実に 迫れると考えている。 本研究ではボーイスカウトの中でも福岡県連盟のボーイ スカウトを対象としている。その理由は、日本連盟のもと にある各県連盟は共通の教育方法で活動しているという前 提があり、その中でも、福岡県連盟は戦後まもなくから活 動が再開されており構成員の幅が広いと想定した点、最も 調査を進められる可能性が高い点から今回の調査地に設定 している。 研究の方法としては、ボーイスカウトにおいてその段階 的に継続する活動での参加の影響と参加を支えている要因 を明らかにするために、正統的周辺参加論から援用して参 加を支える要因と参加の影響を想定した。 さらにライフストーリーの手法を用いて、インタビュー 調査から対象者のおこなってきた活動、そこでの役割につ いての語りを中心に個人の参加の過程をまとめた。 その個人の過程から、参加の影響を自覚的に語っている 語りを抽出し、想定した「内的な変化」「技能の修得」との 関わりを検討した。さらに対象者の変化の自覚や主体的な 活動の語りの中で正統的周辺参加論から想定した①集団の 中での人間関係、②集団の中での役割、③ボーイスカウト の進歩、技能の要因について抜き出し、個人の過程の中で どのようにはたらき、意味づけがなされているのか検討し た。 1 章 野外教育の展開と課題 1章では、まず「野外教育」という概念と先行研究をま とめ、野外教育が野外に関わる教育的活動を示す幅広い概 念である一方で、研究の分野では長期の単発な活動の中で の変化や巧みな活動の構成に焦点を当てた研究がほとんど であり、その参加が長期的に捉えられておらず、また段階

野外教育における段階的な参加とその影響に関する研究

―ボーイスカウトを事例に―

キーワード:野外教育,ボーイスカウト,段階的な参加,正統的周辺参加 教育システム専攻 前川隆輔

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的・継続的な活動については検討されてこなかったことを 明らかにした。 「野外教育」という語の使われ方を先行研究からみると、 野外教育は幅広く捉えられてきており、活動でいえば、野 外での自由な遊びなども含まれ、意図的でない取り組みな らば、歴史的に古くから存在していたと考えられる。広く 野外教育が定義される中で、教育として考えられるとき、 その目的と方法は限定される。つまり野外教育の目的は身 体的成長、精神的成長を総合した全人的成長であり、活動 は組織的・計画的に運営されるべきだという考えである。 野外教育の研究は、その参加の影響を求めようとする研 究が大部分を占めている。主にキャンプの経験が社会的ス キルや友人関係などに与える影響をアンケート調査などの のち、因子分析などを用いて活動の効果を考察する実証研 究が主流である。近年では、少ないながら活動の影響を長 期的に捉える研究が出てきている。 先行研究の課題 まず、活動前後あるいは活動直後までの影響に関しては、 先行研究の蓄積があるが、その影響を長期的な視点で検討 した研究は少ないことが挙げられる。故に、その効果が野 外教育の目的である全人的成長に貢献しているのか明らか ではないという問題がある。 また、本論で検討する段階的に継続した活動について、 その必要性は「野外教育の充実について」のなかでも指摘 されているが、長期的な活動の影響が多くの研究者によっ て検討されているのに対し、段階的に継続した活動の影響 を論じた研究がないことが挙げられる。 2 章 ボーイスカウト運動の特徴 2 章では、段階的に継続して参加するボーイスカウトに着 目し、その方法を具体例を踏まえ、特徴をまとめた上で、「正 統的周辺参加」からその参加を支える要因と参加の影響を 想定した。 ボーイスカウトの基本的な特徴として、各隊は幼年期か 青年期にわたる各年齢層への適応を意図して、制度と野外 活動を徐々に意識的な取り組みが達成されるように段階的 に構成されている。下図のように子どもはその自発性を 徐々に高めていくこと、大人の関わりも徐々に減っていか なければならないとの考えから、隊という5つの大きな段 階を設定している。そして、各部門ではより上の部門に青 少年が継続して参加することを奨励している。 大人の意思決定(関与) 青少年の意思決定(自発性) ビーバー カブ ボーイ ベンチャー ローバー (リーダーハンドブックp11 の図より作成) ボーイスカウトの教育方法は「ちかいとおきて」「行うこ とによって学ぶ」「パトロールシステム」「象徴的枠組み」「個 人の進歩」「自然」「成人の支援」の7つの要素にまとめら れている。 本論では、この教育方法が段階的に運用されている点に 着目している。これらの隊は上にあがるにつれ、「成人の支 援」が減り、スカウトの「自発活動」が増加するように意 識的に、各隊でその活動内容や活動方法によって段階的に 配置されている。例えば、その活動単位がビーバーでは「群」 で全員一緒に行動する、カブでは「組」となり、子どもの 小集団に成人が参加する形態になる。ボーイでは子どもだ けで班を形成し、ベンチャーローバーでは個人単位の活動 になると活動形態や役割も段階的に構成されている。 正統的周辺参加からみる参加を支える要因と参加の影響 正統的に周辺に位置する新参者の十全的な熟達者への段 階的で継続的な参加を扱った「正統的周辺参加論」から援 用して、ボーイスカウトの参加を支える要因と参加の影響 を想定する。 レイブらは『状況に埋め込まれた学習』の中で「正統的 周辺参加」と名づけた、実践共同体の中で正統的に周辺に 参加している新参者が十全的な参加へと参加の位置を変え ながら参加していく過程を新参者と古参者の関係、活動に ついての一つの語り口を提供するもので、学習を理解する 一つの方法であるとしている。 そして、「正統的周辺参加」の参加を支える要因として、 集団成員との「競合的関係」や「具体化した到達点」とし ての熟練者があげられ、それを集団内での人間関係とまと めて検討した。 同様に参加者に課せられた「組織的業務の一部」を担う という役割の存在などを役割として要因の一つとしてまと めた。 さらに、コミュニティの道具は、参加者の進歩の進行表 の役割を持ち、参加者を十全的参加へ進むプロセスに沿っ て導いてくれるものであるとの記述から実践コミュニティ の道具も、要因の一つとしてまとめた。

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参加の影響 参加の影響としては十全的な参加者に近づくことで参加 している者の内的な変化が想定される。 加えて、「知識や技能の修得には、新参者が共同体の社会 文化的実践の十全的参加へ移行していくことが必要」とい った記述から、新参者であるスカウトがスカウト活動の中 で扱われる技能についてその十全的参加へ向かうとともに 学んでいると仮定する。 3 章 ボーイスカウトの参加の過程と影響 3章では、聞き取り調査の結果から、入隊時から指導者 になるまでの過程を、多くの活動と役割を体験してきた個 人の過程として時系列で整理し、参加の影響について考察 した。 第一節 調査の概要 本研究の目的は、段階的な野外教育への参加とその影響 がどのようにあらわれるのか、加えて参加を支える要因を 実際の参加者に焦点をあて明らかにするものである。よっ て調査では実際の参加者の体験と参加を続けられた要因を 明らかにすることを目的とする。 その目的のもと、聞き取りはボーイスカウトの参加者の 中でも、指導者になった 8 名の方を対象におこなった。 その理由は、ボーイスカウトの指導者になることがボー イスカウトの参加者の中でも、参加が継続的に成され、か つ主体的にボーイスカウト活動に取り組んだ結果と考えた ためである。 対象者の選定は知り合いを紹介してもらう「雪だるま式 抽出法」でおこなった。これは質的研究では統計学的に厳 密な手順を踏んだデータの一般化可能性よりも、参与観察 で知り合った人々とのラポールの深さによって得られるデ ータの「信憑性」を重視するためである。 この際、対象者の所属団が重ならないように配慮して選 定をおこなった。 尚、調査者自身も今回の対象にあたる福岡県でスカウト 経験があり、ボーイスカウトの指導者をしている者に該当 することを付しておく。こういった調査者と対象者の類似 性は野田らの述べるように対象者の語りの一般的な理解に とどまらず、よりその対象者に即した聞き取りができると 考えている。 調査の方法として、ライフストーリーインタビューの方 法をとり、できるだけ対象者が自由に発言できるよう、会 話が途切れたらこちらから発話のきっかけを出す程度の質 問をこころがけた。 第二節 分析の方法 聞き取りに際して、補足的にその当時の役割、当時の感 情、印象を尋ねている。 そのうえで、聞き取りを時間軸に沿って並べ、活動へ参 加する役割の変化を中心に過程を構成している。特に上進 (年齢を満たし次の隊へ進むこと)のきっかけや個人の感 情や印象が変化した経験に着目し、個人が参加が主体的に なっていく過程を表した。 その後、語りの中で参加の影響として語られるものを抽 出し、想定したアイデンティティの変化などの「内的な変 化」と「技能の修得」の軸からその性格を検討した。 対象者の過程と参加の影響 対象者の過程として、本論では聞き取りを引用しながら、 8人の語りを詳細に提示した。その上で個人の参加の過程 についてまとめた。 例えばAさんの場合であれば、参加は親に連れられて始 まっている。最初のビーバー隊のときの活動は「遊び」だ ったとふり返っている。次の段階のカブ隊の「しか」の時 には後輩ができ「しっかりせな」と思い、その後組長の役 割がある中で、責任を感じている。次にボーイ隊にあがり、 その活動を「あそびだけじゃない」と感じ、「上下関係」の 中で班長をこなし、ベンチャーでは、団行事の企画などを おこなっている。そして、指導者かローバーかを考える上 で、生れ月の関係からローバーに同期がいないことと隊長 たちのようになりたいとのボーイの後半ぐらいから意識し はじめたことから指導者になっている過程としてまとめら れた。 そして、個人の語りから与えられた役割、上下関係につ いて共通して「班長」「先輩」さらにその印象として「あこ がれ」「楽しい」、「責任」といったキーワードがある程度共 通してみられた。 参加の影響として想定していた「内的な変化」と「技能 の修得」に関しては語りの中にみられた。加えてその影響 が意識されない、分からないといった性格のものであり、 またその継続的な参加から「習慣」になっていることもあ った。 4 章 参加を支える要因 4 章では2章で想定した個人の参加を支えてきた要因に ついて、正統的周辺参加論から導いた以下の 3 つ、①集団 の中での人間関係、②集団の中での役割、③ボーイスカウ トの進歩、技能のそれぞれについて個人の参加の中で、ど のように参加へ向かわせる要因となったか、調査対象者の 語りの中で自身の感情も含めて語った部分を抜き出し、ど

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のように参加を深めているのかについて個人の聞き取りか ら考察した。 各要因について検討した結果、隊指導者の役割も段階的 に構成されており、それがスカウトにも、対応の変化が実 感できるもので、そこでうれしさや自由な活動のおもしろ さを感じている。また指導者の直接的な指導だけでなく、 「あこがれ」の対象となっている。ここでの「あこがれ」 は野外活動において自分たちにできないことができる点に 加え、「プログラム」や「ボーイスカウト」以外のことでも 「あこがれ」をもち、自身の「目標」にするケースがある。 年上の参加者の存在から参加者は次の活動や技能に対し ての具体的なイメージが持ちやすくなっており、年の近い 先輩はその直接的関与と見聞から次の段階への橋渡しにな っている、一方で年上の存在がない場合、自主的な活動や 主体的な活動をはじめるきっかけを失う事例がみられた。 また、同期の存在はスカウトにとって先輩後輩でない気 安い関係であり、仲間意識をもつ一方で、同期の間に「競 争意識」をもたらしている。 後輩は、基本的に年下のスカウトであり、参加者が年を 重ねるにつれ、隊の中にも全体でも後輩が増えていく、ボ ーイスカウトでは先輩後輩は基本的に「上下関係」として 理解されており、後輩に対しては世話をしていくし、先輩 が指導をおこなっていく役割がある。特に集団の中で一番 の新参者の時から、後輩ができたときは、一番未熟で無責 任な状態から少し技能と責任が求められる段階への変化で あるといえる 役割を果たすことも参加を支える要因のひとつである。 ボーイ隊では「下っ端」は肉体労働の部分で班の活動に参 加する。そこで、先輩を見てあるいは指導を受けて野外活 動の技能を習得していく。グループのリーダーとしては特 にボーイ隊の班長の役割で、子どもだけの班を任されて責 任を感じながらも、班を運営していくなかで、計画して実 行するというサイクルを理解し、自覚的に活動している性 格が指摘できる。 まとめると、ボーイからベンチャーへなど隊を越えて参 加を継続させているのは、年上のスカウトから見聞きした 技能や活動などの「あこがれ」や「興味」と同期の存在が 大きく、活動の中で班長などの責任のある役割を果たすこ とで、参加が意識的になっていく。 同一の活動への段階的で継続的な参加は、基本的に上下 の人間関係を伴ってくると想定できる。さらに段階的に構 成されていることで多様な人間関係とそれに伴う役割が存 在している。ボーイスカウトでは年齢によってその先輩後 輩の上下関係は固定され、「うえ」「した」とともに継続し て活動していく。つまり、固定された関係をずっと伴って、 例えば下っ端から班長へとその役割を変えていく。そこで の先輩後輩の間で指導の中心は専ら野外活動の「技能」で あり、これは直接教えてもらうだけでなく、活動に参加し ながら、覚えていくものである。そうして覚えたものをま た後輩に教えていくという形が個人の参加を支え、その関 係を豊かにしている。 終章 本研究の意義と課題 本研究の意義は、今まで野外教育の領域で扱われてこな かった段階的に参加するタイプの活動を具体的な事例を元 にその過程を明らかにしたことにある。ボーイスカウトに おいて、段階を上がるごとに役割や活動が変化する中で、 その変化がどう参加者に影響するかを検討し、固定化され た人間関係の中で参加を続け、「あこがれ」や「恩」から次 の段階に移行する過程であることを明らかにした。ここで の複数の人から成る「隊指導者」への「あこがれ」や「恩」 は継続的に活動に参加してこその感情であるといえる。 残された課題としては、今回は扱えなかったが、参加者 の周辺に存在する団や保護者との関係性や支援、覚えてい ない経験や自覚できない参加の影響が語りの中に見られた。 そこで、参加者の目線からだけでなく、参加者の保護者や 指導者の語りを検討することで、より個人の過程が明らか になると考えられる。この点については、今後の課題とし たい。 主要引用文献 ・ジーン・レイブ エティエンヌ・ウェンガー著 佐伯胖 訳『状況に埋め込まれた学習―正統的周辺参加―』1993 年 ・ボーイスカウト日本連盟『スカウティングの本質的特徴』 2001 年 ・ボーイスカウト日本連盟『ボーイスカウト隊 リーダー ハンドブック』2006 年 ・野田恵 辻英之「山村留学卒業生への「ライフストーリ ー研究」の試み―自然体験活動が人生に与える影響につ いて―」『自然体験学習の指導者養成カリキュラム』ネイ チャーゲーム研究所 2009 年 主要参考文献 ・桜井厚・小林多寿子 『ライフストーリーインタビュー 質的研究入門』2005 年 ・田中治彦『少年団運動の成立と展開―英国ボーイスカウ トから学校少年団まで』1999 年

参照

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