静的増分解析に基づく履歴型ダンパーの最適設計法に関する研究
小田 和也 1. 序論 近年,阪神淡路大震災を契機に建物の機能確保や経 済的損失の軽減,構造骨組の損傷回避などの性能が求 められている.これらの社会的要求に応える場合,主 体構造を弾性範囲の挙動に抑え,エネルギー吸収を意 図した弾塑性ダンパーを組み込む制振構造が有効とさ れている.現在,ダンパーは動的解析の義務付けられ た高さ 60m 以上の建築物で主に普及しており,静的設 計法が主流な 60m 以下の建築物にはあまり普及してい ない.そこで本研究では,ダンパーの累積塑性変形に よる動的な制振効果を反映したダンパーの等価エネル ギー係数の概念を導入することでダンパーを静的に扱 えるようにし,簡易的でかつ合理的なダンパー設計法 を提案することを目的とする. 2. 解析概要 合理的なダンパー設計法を導出するために数値解析 を行う.数値解析は,ファイバーモデルの柱梁要素を用 いた有限要素解析であり,弾性骨組および弾塑性骨組 に対する静的解析および地震応答解析を行う.静的解 析における外力分布は Ai 分布とし,劣化域は変位制御 とする.地震応答解析は Newmark の β 法(β=0.25)を用 いた微少時間刻みに対する増分解析で,各増分段階で は Newton-Raphson 法による収束計算を行う.減衰は, 減衰定数が 1 次の固有モードに対して 2%の剛性比例型 である.入力地震波には LA01∼20 波1)を使用し,応答 値は各波の最大応答の平均値を用いて評価する.使用 材料は SN490 級の鋼材であり,応力−ひずみ関係モデ ルは図 1 のように Menegotto 曲線で構成し,文献 2)の 履歴則に従って図 1(a)のスケルトンカーブを図 1(b)の ように履歴曲線が消費していくものとする. 3. 等価エネルギー係数の定義 履歴型ダンパーの制振効果を静的に評価するために 導入するダンパーの等価エネルギー係数 γ について説 明する.図 2 のように,ある地震力を受けたときの最 大応答層間変形角が Rfとなるような純骨組があるとす る.そして,この純骨組に対して目標層間変形角 Rtar を設定する.骨組の補強によって応答を Rtarに近づけ る場合は,骨組の剛性を増大させて Rtarにおける層せ ん断耐力を ΔQfだけ増加させる必要がある.このとき のエネルギー吸収量は図 2 中の斜線で示した三角形部 分の面積で表される.一方,剛塑性のような荷重変形 関係で三角形と同じ面積を得ようとする場合は,図 2 中の破線で示した台形部分の面積となり,Rtarにおける 耐力増分は Qd´となり,ΔQf よりも低減できる.さらに, 地震時の繰返し変形による減衰を考慮することで,実 際に必要な耐力を Qdに低減できる.これがダンパーの 制振効果であり,実際の耐力増分は Qdであっても見か け上の耐力増分が Qd´で表され,あたかも同じエネルギ ー吸収量を満足したと考えることができる.このとき, Qd に対する Qd´の比を γ で表し,エネルギーの観点で 等価性を満足することから γ を等価エネルギー係数と 呼ぶ.また,幾何学的関係からγ は(1)式のように求め ることができる.なお,ダンパー付骨組と変形制御能 力が等価な骨組のことを等価骨組と呼ぶ. 図 2 等価エネルギー係数の定義 59-1 目標層間変形角 Rtar Rtar ΔQf Qd Qf Rf 純骨組 等価骨組 ダンパー 付骨組 最 大 応 答 層 せ ん 断 耐 力 最大応答 層間変形角 ' Qd Qd 2 f d Q Q (1) (a)鋼材のスケルトン (b)鋼材の履歴曲線 図 1 鋼材の応力−ひずみ関係4. 等価エネルギー係数の算定 4.1 解析モデル・解析変数 図 3 のような単層単スパンの鉄骨骨組モデルを用い る.骨組部分は,表 1 に示すように弾性および弾塑性 の 2 種類を考える.ダンパー形式はブレース支持せん 断パネル型とする.ダンパー部分には完全弾塑性型の 低降伏点鋼(τy=100N/mm 2 )を使用し,支持ブレースは弾 性とする. 解析変数は,骨組の性質,純骨組の固有周期 Tf ,ダ ンパーの水平力分担率β ,目標層間変形角 Rtarである. なお,β については(2)式で表すものとする. ここで,Qf および Qdはダンパー付骨組の層間変形角 が Rtarのときに,骨組およびダンパーがそれぞれ負担 する水平力を表す.表 1 に解析変数を示す. 4.2 解析結果 解析変数に従って等価エネルギー係数 γ の値を算定 した.解析結果を図 4 に示す.固有周期が短い方が γ の値が小さくなる傾向がある.これは周期が短いと等 価骨組の応答速度が小さくなるので等価骨組のひずみ エネルギーが小さくなるからと考えられる.また,水 平力分担率β が大きくなると,ダンパーの降伏耐力が 上昇してエネルギー吸収能力が発揮されにくくなるの でγ の値が小さくなる. ダンパー設計に用いる等価エネルギー係数 γ の値は 簡単のためにダンパーの水平力分担率β として一般的 な値とされている 0.1∼0.2 付近のもの平均して用いる ことにする.そうすると,弾性骨組の場合はγ = 7 程度 で,弾塑性骨組の場合はγ = 5 程度となる.本論では弾 塑性骨組を対象としており,すべてγ = 5 として設計を 行う. 5. ダンパー設計法 5.1 設計法の概要 本設計法は 2 段階の手続きを踏む. ・設計①(手順Ⅰ∼Ⅵ): 多質点系を1質点系に縮約 後,1質点系の代表点を目標層間変形角 Rtarに近づ けるダンパー耐力を求める.縮約は,(3)式と(4)式を 用いて有効質量 M と代表点変位 Δd を求めることで 行う. mi:i 層質量,δdi:i 層変位 ・設計②(手順Ⅶ): ①で設計したダンパー耐力を各 層について修正し,各層の応答を Rtarに近づけるた めのダンパー耐力を求める. 以下では設計①と②の具体的手順について記述する. 5.2 ダンパー設計①(手順Ⅰ∼Ⅵ) Ⅰ)地震強さのレベルとそれに対応するダンパー付骨 組の目標層間変形角 Rtar (1質点系の代表点変位の目 標値Δdtarを代表高さ Heで除したもの)を設定する. 代表高さ Heについては,ここでは簡単のため建物高 さの 2/3 倍とする. Ⅱ)図 5 のように純ラーメン骨組の静的増分解析を行 い,縮約1質点系の代表点変位が目標値 Δdtarに達し たときのベースシアーQBを求める. 図 3 単層単スパン骨組モデル (a)純骨組 (b)ダンパー付骨組 支持ブレース せん断パネル 骨組の性質 Tf (s) β Rtar (rad.) 弾性 0.5 0.05 1/300 1.0 0.10 1.5 0.15 1/150 弾塑性 2.0 0.20 2.5 0.30 1/100 3.0 0.40 表 1 解析変数 図 4 等価エネルギー係数γ の算定結果 (c)等価骨組 2 2 ( ) (3) i i i i m d M m d 2 (4) i i i i m d d m d Δdtar ベースシアー Q 代表点変位 B Δd Q 代表点変位 ベースシアー 図 5 静的増分解析の流れ f f d Q Q Q (2) 0 5 10 15 0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 等 価 エ ネ ル ギ ー 係 数 γ 固有周期Tf(s) (a)弾性骨組 0 5 10 15 0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5 β=0.05 β=0.10 β=0.15 β=0.20 β=0.30 β=0.40 等 価 エ ネ ル ギ ー 係 数 γ 固有周期Tf(s) (b)弾塑性骨組 59-2
Ⅲ)図 6 のようなベースシアーと代表点変位の関係か ら(5)式を用いて等価粘性減衰定数 heqを求める 3).この とき,履歴ループの振幅を代表点変位の目標値Δdtarと すると履歴減衰を過大評価するので,文献 4)を参考に 振動時における骨組の最大変形の半分程度を平均振幅 と考え,Δdtar/2 を履歴ループの振幅とする. なお,全体の減衰定数については,計算で求めた heq と内部減衰 2%を足し合わせて評価する. Ⅳ)減衰定数に応じた設計用疑似変位応答スペクトル を利用し,縮約1質点系の代表点変位が目標値Δdtar となるための必要固有周期 Tnを求める Ⅴ)Tnから必要剛性 Knを(6)式により求め,さらに(7) 式から Rtarのときの必要水平耐力 Qnを求める. Ⅵ)等価エネルギー係数 γ を用いると,実際に必要な ダンパー耐力 Qdが(8)式により得られる. このダンパー耐力 Qdは第 1 層の必要ダンパー耐力 Qd,1に相当するので,第 2 層より上層のダンパー耐力 Qd,iは第 1 層の β と等しくなるように設計する. 5.3 ダンパー設計②(手順Ⅶ) 設計①で得られたダンパー付骨組の各層の層間変形 角の応答が一様になるように,手順Ⅶによって各層の ダンパー耐力を最適化する.①のダンパー付骨組の各 層の層間変形角の動的応答については,純ラーメン骨 組の静的解析で代表点変位が目標値Δdtarに達したとき の各層の層間変形角 Rstatic,iで評価できると仮定する. Ⅶ)(9)式を適用し,修正後のダンパー耐力 Qd,i *を求め る.式中の添え字「i」は第 i 層を表す. (9)式は,速度一定領域では周期によらずエネルギー が一定になることから,(10)式のように最大層間変形角 と最大層せん断耐力の積が一定になると仮定して導い たものである. 6. ダンパー設計法の精度検証 6.1 解析モデル・解析変数 解析モデルは,図 8 に示すような鉄骨造のラーメン 骨組である.モデル A は 12m-6m-12m の 3 スパン,モ デル B は 8m-8m-8m の 3 スパンである.単位床面積当 たりの重量は 8.0kN/m2とする.骨組の断面設計は,許 容応力度計算の長期荷重の設計条件で行った. (h)軸組図:12 層モデル B せん断パネル型ダンパー 8m 8m 8m 4 8 m (1 2 @ 4 m ) (g)軸組図:12 層モデル A 12m 6m 12m 4 8 m (1 2 @ 4 m ) せん断パネル型ダンパー (c)軸組図:4 層モデル A 12m 6m 12m 1 6 m (4 @ 4 m ) せん断パネル型ダンパー (d)軸組図:4 層モデル B せん断パネル型ダンパー 8m 8m 8m 1 6 m (4 @ 4 m ) (e)軸組図:8 層モデル A 12m 6m 12m 3 2 m (8 @ 4 m ) せん断パネル型ダンパー (f)軸組図:8 層モデル B せん断パネル型ダンパー 8m 8m 8m 3 2 m (8 @ 4 m ) 図 8 解析モデル ベースシアー Q 代表点変位 dtar Δ W 弾性ひずみエネルギー 1ループ分の面積ΔW B 2 ー1Δdtar 2 ー1Δdtar -図 6 等価粘性減衰定数 heqの算定 2 2 (6) n n K M T Qn Kn Rtar H e (7) 1 (5) 4 eq W h W (a)基準階伏図:モデル A 6 m 6 m 12m 6m 12m (b)基準階伏図:モデル B 8m 8m 8m 8 m 8 m (8) 2 n B d Q Q Q * , , , * , , (9) f i static i f i d i d i tar Q R Q Q Q R * * , , , , , (Qf i Qd i) Rstatic i (Qf i Qd i) Rtar (10) 59-3
なお,解析変数は表 2 に示す通りである. 6.2 設計用疑似変位応答スペクトルの検討 本論では,設計用地震力の PGV を 50cm/s とする場 合の目標層間変形角 Rtarを 1/150rad.と設定している. この場合,5.2 節の手順Ⅲで示した方法により等価粘性 減衰定数 heqの値を算定すると 2%程度の値が得られた. よって,全体の減衰定数は h=4%とする. 図 9 に変位応答スペクトルを示す.これらのスペク トル波形は,PGV を 50cm/s に基準化した LA01∼20 波の各スペクトルを平均したものである.純ラーメン 骨組の代表点変位の最大値(図 9 中の●印および○印) が h=4%のスペクトル波形に良く一致しており,減衰定 数の評価が適切であると言える.よって,h=4%の波形 を直線近似したものを設計用疑似変位応答スペクトル として用いる. 6.3 地震応答解析結果 提案設計法によって設計したダンパー付骨組の地震 応答解析を行った.図 10 には設計用地震力 PGV を 50cm/s とし,目標層間変形角 Rtarを 1/150rad.とした解 析結果を示している.縦軸は層,横軸は最大応答層間 変形角である.△が純ラーメン骨組の応答を,■がダ ンパー付骨組の応答を,破線が目標層間変形角を表す. いずれの解析モデルにおいても純ラーメン骨組の段階 で見られる各層の最大応答層間変形角のばらつきがダ ンパーによって一様化され,かつ目標値に近づいてい ることが分かる.よって,ダンパー設計法の精度が高 いと判断できる.また,PGV を 75cm/s,Rtarを 1/100rad. とした場合も,PGV を 100cm/s,Rtarを 1/75rad.とした 場合も同様の結果が得られた. 7. 結論 等価エネルギー係数を利用した履歴型ダンパーの静 的設計法を提案した.本設計法は,各層の最大応答層 間変形角を一様化し,かつ目標値に近づけるためのダ ンパー耐力を求めるものであり,本論で扱った解析モ デルに対して精度が高いことを確認した. 今後は,提案設計法の不整形骨組に対する検証や, ダンパーを設置した構面とダンパーを設置していない 構面を連結した場合の検証などを行う. SD (mm) 0 100 200 300 400 0 1 2 3 T(s) 4層骨組 8層骨組 12層骨組 骨組A 骨組B h =10% h =4% h =2% 0 0.005 0.01 0.015 0.02 0.025 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 最大応答層間変形角(rad.) 層 (c)12 層モデル A 0 0.005 0.01 0.015 0.02 0.025 1 2 3 4 最大応答層間変形角(rad.) 層 (d)4 層モデル B 0 0.005 0.01 0.015 0.02 0.025 1 2 3 4 5 6 7 8 最大応答層間変形角(rad.) 層 (e)8 層モデル B 0 0.005 0.01 0.015 0.02 0.025 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 最大応答層間変形角(rad.) 層 (f)12 層モデル B 図 9 設計用疑似変位応答スペクトル(PGV=50cm/s) 図 10 各層の最大応答層間変形角 0 0.005 0.01 0.015 0.02 0.025 1 2 3 4 最大応答層間変形角(rad.) 層 (a)4 層モデル A 【参考文献】
1) Federal Emergency Management Agency: State of the Art Report on Systems Performance of Steel Moment Frames Subjected to Earthquake Ground Shaking,FEMA-355C,2000.9 2) 孟令樺,大井謙一,高梨晃一:鉄骨骨組地震応答解 析のための耐力劣化を伴う簡易部材モデル,日本建築 学会構造系論文集,No.437,pp.115-124,1992.7. 3) 性能設計のための建築振動解析入門,北村春幸著, 彰国社,pp.111-128,2002.8. 4) 小川厚治,中原寛章:強震を受ける鋼構造ラーメン 骨組の梁に生じる塑性変形,鋼構造論文集,第10 巻 第39 号,pp.89-120,2003.9. 5) 和田章,岩田衛,清水敬三,安部重孝,河合廣樹: 建築物の損傷制御設計,丸善株式会社,1998.09 6) 河野昭彦,平田寛:履歴型ダンパー付多層骨組の地 震時の応答層間変形角分布の改善法について,日本建 築学会構造系論文集,第73 巻第 634 号,pp.247-251, 2008.12. 7) 建築技術【特集:限界耐力計算法の理解と活用】, 株式会社建築技術,No.614,2001.4 8) 秋山宏:エネルギーの釣合に基づく建築物の耐震設 計,技報堂,1999.1 0 0.005 0.01 0.015 0.02 0.025 1 2 3 4 5 6 7 8 層 最大応答層間変形角(rad.) (a)8 層モデル A 表 2 解析変数 層数 スパン 入力地震波 PGV(cm/s) Rtar(rad.) 4 50 1/150 8 LA01∼LA20 75 1/100 12 100 1/75 A B 59-4