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補文標識thatの利用と補文主語の長さの関係

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補文標識 that の利用と補文主語の長さの関係

The Relationship Between

the Use of Complementizer that and the Length of Complement Subject

キーワード:第二言語習得、読むこと、自己ペース読み課題 坂東 貴夫 BANDO Takao 1. 背景 外国語学習者が初期段階でいきなり複雑な文構造から学び始めることは少なく、多くの場合、簡単な単語 や句、単純な文構造から学び始める。そして、学習が進むにつれ、より複雑な言語表現を使用できるようにな る。読解活動についても、単文単位の理解から始まり、徐々に複雑な構造を持つ文を理解できるようになると 考えられる。

しかし、Clahsen and Felser (2006)が主張する「浅い構造仮説(Shallow Structure Hypothesis: 以下 「SSH」)」では、意味理解が母語話者と同程度にできる習熟度の高い第二言語学習者の場合でも、母語話 者と同様の統語処理をしているわけではないとされる。

例えば、Marnis, Roberts, Felser, and Clahsen (2005)は、英文処理における filler-gap 依存に関する 調査を行い、英語母語話者と英語学習者を対象に、例(1)のような多重埋め込み節を含む文構造を持つ文と そのような構造を持たない例(2)のような文を使用して、その読解時間を比較した。

(1) The nurse whoi the doctor argued e’i that the rude patient had angered ei is refusing to work

late.

(2) The nurse whoi the doctor’s argument about the rude patient had angered ei is refusing to

work late.

(Marinis, Roberts, Felser, & Clahsen, 2005: p. 61) 結果として、母語話者は、直後に関係節の境界(ei)があると考えられる箇所(had angered)で、関係節の構造

上の違いによる読解時間の差があり、(1)の条件を速く読んでいた。それに対し、学習者の場合、2 条件間で 読解時間の差が見られなかった。その結果から、母語話者は間に存在する節境界(e’i)を利用して処理をする

が、学習者はそのような情報を文処理に利用できないと考えられている。

また、Felser and Roberts (2007)は、英語母語話者とギリシア語を母語とする英語学習者を対象に、例 (3)のような文の聴解処理中に、呈示される絵(例文では SQUIRREL や TOOTHBRUSH)が有生物か無生 物かを判断する課題を行った。

(3) Fred chased the squirrel to which the nice monkey explained…

a. …the game’s difficult rules [SQUIRREL / TOOTHBRUSH] in the class last Wednesday. b. …the game’s [SQUIRREL / TOOTHBRUSH] difficult rules in the class last Wednesday.

(Felser & Roberts, 2007: p. 20) この結果においても、両群間で異なる反応が見られた。母語話者は、(3a)のような統語的な区切りとなる箇所 の方が(3b)のような区切りでない箇所で呈示されるよりも速く反応したのに対し、学習者にはそのような統語 的な位置による反応時間の差は見られなかった。このことよりFelser and Roberts は、学習者は抽象的な統 語表象を構築する能力が不足していると結論付けている。

SSH 以外の点からも両群間で統語処理が異なることが示されており、例えば、動詞下位範疇化情報の選 好性がどのように読解処理に活用されるかを調査したDussias and Cramer Scaltz (2008)においては、結

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果の一部に、学習者が母語話者とは異なる統語処理をする可能性が示された。この研究では、英語母語話 者とスペイン語を母語とする英語学習者を対象に、例(4)や例(5)のような、主文目的語と補文主語に関する 曖昧性を持つガーデンパス(GP)文を用いて、直接目的語が後続しやすい動詞(DO動詞: 例. admit)と補文 が後続しやすい動詞(SC 動詞: 例. confirm)という動詞下位範疇化情報の選好性について調査した。 (4) The ticket agent admitted (that) the mistake might not have been caught.

(5) The CIA director confirmed (that) the rumor could mean a security leak.

(Dussias & Cramer Scaltz, 2008: pp. 505-506) この実験では、母語話者と学習者で動詞下位範疇化情報の選好性が同じ動詞の場合は、両群間とも同じよ うな文処理をするという統語処理の傾向が示された。その一方、母語話者はSC 動詞、学習者は DO 動詞と いうように両群間で動詞下位範疇化情報の選好性が異なる動詞が主文動詞に使用されると、両群間で異な る統語処理がなされることが示された。このような選好性の違いによる異なる統語処理の可能性は、補文接 続以外に、前置詞句付加の選好性を扱った研究でも示唆されている(Frenck-Mestre & Pynte, 1997)。

以上のように、「学習者が母語話者と比べて不十分な統語処理をする」という仮説に関しては、先行研究に おいて支持するような結果が幾つか得られているが、同時に幾つかの疑問も示されている。

第一に、前述のMarnis et al. (2005)と同様、英文処理における filler-gap 依存に関する調査を行った Omaki and Schulz (2011)は、英語母語話者と英語学習者を対象に、例(6)や(7)のような文を用いて、語彙 的意味の繋がりの適切さ(plausibility)の違いに関して、各条件でどのように反応するかを調べた。

(6) [Nonisland, implausible/plausible]

The city/book that the author wrote regularly about was named for an explorer. (7) [Island, implausible/plausible]

The city/book that the author wrote regularly saw was named for an explorer.

(Omaki & Schulz, 2011: p. 575) 学習者は不完全な統語表象を構築するとしたMarnis et al.とは対照的に、Omaki and Schulz の結果では、 両群間で同様の反応が示され、意味理解が強調される条件では、複雑な文構造でも学習者が母語話者並 みの統語表象を構築することが示唆された。 第二に、動詞下位範疇化情報の選好性に関しては、前述のように、選好性が異なる一部の動詞が用いら れると両群間で異なる統語処理がされる可能性が示されている。しかし、その他の多くの動詞では両群間で 同様の統語処理をすることが確認されており、動詞下位範疇化情報のような語彙情報が強く関わらなければ、 統語処理自体に違いが生じないとも言える。また、動詞下位範疇化情報の選好性の違いは、母語転移の影 響等により生じると考えられるが、それを学習により乗り越えることが出来るか否かについては十分に検討さ れていない。興味深いことに、英語やスペイン語の基本語順(SVO)とは異なる基本語順(SOV)を持つ日本語 や韓国語のような言語を母語とする英語学習者を対象にした研究では、習熟度が高くなるにつれて選好性 が変化したり、文処理における選好性の利用の度合いが変化したりすることが示されている(Bando & Yamashita, 2012; Lee, Lu, & Garnsey, 2013; Nakamura, Arai, & Harada, 2013 等)。ターゲット言語 の動詞下位範疇化情報の選好性は、学習により習得することができ、母語転移の影響を克服できることが示 唆されていると言えるだろう。 第三に、SSH は限定的な文構造に関する研究結果に基づいていることが挙げられる。SSH の主張を支 持するような、母語話者と学習者間の統語処理の違いを行うことを示した研究は比較的少ない。そして、これ までに取り上げた研究から考えると、両群間で統語処理の相違が生じるのは、文構造は複雑であるが意味理 解があまり困難ではない場合か、学習者の習熟度の低さや母語の影響により語彙知識がターゲット言語の話 者と異なる場合に限られることになる。Omaki and Schulz (2011: p. 568)は、Marnis et al. (2005)や

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ではないと主張しているが、統語知識のみの差が文処理に影響を及ぼすことを示している研究は極めて少 ないと言って良いであろう。仮に、plausibility が影響する場合や、動詞下位範疇化情報のような語彙知識 が影響する場合を除くと、母語話者と学習者で異なる統語処理をする可能性はどれ程あるのだろうか。 このような、純粋に統語知識のみによる統語処理の差が両群間にあるのかという批判や、限定的な統語構 造にしか当て嵌まらないのではないかという批判に対応するには、より直接的に統語処理に関係し、意味情 報や語彙情報から独立しているような要素について調査する必要があるだろう。例えば、補文標識that のよ うな統語処理のみに直接的に関わる要素について、両群間で利用の仕方が異なることが示されれば、これま での研究で示されているよりも広範囲かつ頻繁に学習者の「浅い処理」が生じると言えるであろう。 そこで本研究では、補文標識that の文処理への利用について調査する。補文標識 that は専ら統語処理 に関わるものと考えられる上に、英語学習のかなり早い段階で学習されるものである。しかし、習熟度が上が るにつれて利用の度合いがどのように変わるか、補文標識が十分に活用されない条件が有るか否かなどは、 これまであまり検討されていない。読解実験を行い、意味理解に至るまでのオンライン読解処理において、 補文標識thatがどのように利用されるかを読解時間等を指標として検討する必要があると思われる。どのよう な条件で補文標識が十分に利用されないのか、文処理への負荷が変わる場合に補文標識の利用の度合い がどのように変わるのかを調べ、十分に利用できない場合があれば、それが母語話者の統語処理との差とな る可能性が高いと言えるであろう。 そのためには、実験対象とする英文について、様々な条件を設けて広範囲に調査する必要があるが、今 回は予備的検討とし、補文標識と補文動詞までの線的距離の影響について調査する。例(4)や例(5)のような 主文目的語と補文主語に関する曖昧性を持つGP 文を利用し、その補文主語の単語数を増減することにより、 線的距離の条件を変え、読解時間に差が生じるか否かを調べる。 実験対象者にも様々な条件を設ける必要があるが、学習者の文処理は、初期段階では単語単位で処理さ れるが、熟達するにつれて統語標識を利用した単位の処理が可能になり、母語話者に近付くと仮定できる。 そこで、母語話者との比較の前段階として、学習者のみを対象とし、彼らの習熟度に基づき相対的に 2 群に 分け、下位群と上位群の間で補文標識that の利用に差が生じるかを検討する。仮に両群間で相違が生じる のであれば、線的距離による処理負荷を更に高めると上位群と母語話者との間にも同様の現象が起こると考 えられる。そのような場合に母語話者も対象にして、上位群学習者の結果と比較する必要があるであろう。 以下では、上記のような検討に基づき、日本語を母語とする英語学習者を対象に、英文処理における補文 標識 that の影響と補文標識と補文動詞との間の線的距離の影響に関する調査を目的として行った読解実 験について報告する。 2. 研究課題 本研究における研究課題は以下の通りである。 研究課題(1) 補文標識 that の有無が読解処理に影響を及ぼすか 研究課題(2) 補文主語の語数の違いが補文標識 that の利用に影響を及ぼすか 研究課題(3) 英語学習の習熟度の違いにより、補文標識 that の利用に違いがあるか 3. 本実験 3.1 実験参加者 実験には、日本語を母語とする英語学習者として大学生または大学院生計36 名が参加し、事前アンケー トに記載された TOEIC スコアまたは他の英語資格試験結果から算出した TOEIC 換算スコアを利用して、 相対的に18 名ずつ上位群・下位群の 2 群(表 1 参照)に分けた。両群の TOEIC 平均スコアは、対応のない t検定の結果、統計的有意差が見られた(t (1, 34) = 9.78, p < .01)。参加者は全員、自由意志により参加し、 実験終了後に金銭的報酬を得た。実験に先立ち、口頭および書面にて実験内容や個人情報の取り扱い等 の説明を行い、その際、休憩や実験中止が任意である旨も伝え、倫理面に配慮して実験を実施した。

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表1 実験参加者(N = 36)の TOEIC スコアデータ 平 均 標準偏差 最高点 最低点 上位群 (n = 18) 834.67 86.08 940 710 下位群 (n = 18) 588.78 63.01 700 480 3.2 実験材料 本実験では、以下のような3 種類の文構造を用いた。 (8) [ゼロ that 補文条件]

The student learned the point was not so helpful. (9) [that 補文・補文主語 2 語条件]

The student learned that the point was not so helpful. (10) [that 補文・補文主語 4 語条件]

The student learned that the most difficult point was not so helpful.

これらの3 条件において、主文目的語と補文主語に関する曖昧性を原因として統語処理中に一時的混乱 が生じる現象(GP 現象)の有無を基に、補文標識 that の文処理への利用度合いを判断した。 通常、英文処理では、予測と異なる文構造が出現すると処理負荷が増加するとされる。例えば、例(8)のよ うな文では、主文動詞に直接目的語が後続すると読み手が予測する場合、予測と異なる文構造であることが 分かる語句(非曖昧化領域: was not)において、統語処理上の一時的混乱である GP 現象が生じ、読解時間 が増加する。しかし、例(9)のように補文標識があると、補文構造が予測できるため、GP 現象は発生しない。 結果として、例(8)と例(9)の非曖昧化領域において読解時間の差が観察されることになる。 また、補文標識 that が、どのような条件でも同程度に利用されるのか、それとも条件が変わると予測への 影響も異なるのかを検討するため、例(10)のように補文主語を 4 語にして、補文標識から補文動詞までの線 的距離を変えた条件を設けた。使用される単語数の増加により認知負荷が高まり、補文動詞に対する予測が 弱くなるのであれば、GP 現象が発生し、例(9)のような補文標識からの線的距離が短い場合と比べ、例(10) の非曖昧化領域では読解時間が長くなることが予測される。

実験文として、これらの3 条件(ゼロ that 補文条件、that 補文・補文主語 2 語条件、that 補文・補文主語 4 語条件)について各 20 文(20 セット計 60 文)を作成した。3 条件の各セットは、例(8)・(9)・(10)で示したよう にthat の有無、補文主語に挿入される形容詞句の有無が異なるのみであり、他の箇所の単語は同一になる ように作成された。実験文で使用する単語は、なるべくJACET8000 (2005 年版)のレベル 3 以内の単語を 用いて、語彙難易度の統制を試みた。 実験文の呈示に関してはカウンターバランスが考慮され、3 種のリストが用意された。各リストは、実験文20 文(各条件 6 文または7文)で構成されたが、各セットのひとつの条件を使用する場合に他の 2 条件を同一リ スト内で使用しないようにした。例えば、例(8)・(9)・(10)のセットで、ゼロ that 補文条件である例(8)が使用さ れた場合、他の条件となる例(9)・(10)は同一リスト内で使用しなかった。 また、実験文以外に、例(11)のような単語数等を統制したフィラー文 36 文を作成し、内容確認に関する 2 択の質問を後続させた。実験では、各参加者は実験文20 文およびフィラー文 36 文の計 56 文を読んだが、 その呈示順はプログラミング言語によりランダマイズされた。

(11) フィラー文: The students were talking in the room at that moment.

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3.3 実験方法

実験参加者に対して個別に実験を行った。参加者ごとに、3 種のリストのうち 1 種(計 56 文)を用いた。参加 者は、まず事前アンケートおよび同意書の記入をし、4 文の読解を練習として行った後、本実験に臨んだ。本 実験は10~20 分続き、その後、事後アンケートを記入した。

3.3.1 自己ペース読み課題

読解時間の測定は、プログラミング言語Hot Soup Processor を用いて制作された単語単位の呈示による 移動窓方式・非蓄積型の自己ペース読み課題により行った(自己ペース読み課題の詳細は、Jiang, 2012; Just, Carpenter, & Woolley, 1982 等参照)。

参加者には事前に、「意味理解を伴いながら出来るだけ速く読むこと」に加え、「文の読解後に簡単な内容 確認用の 2 択問題が表示される場合があること」を伝え、意味理解を目的とする読解を促した。前述のとおり、 フィラー文(36 文)に問題が後続するよう設定されていたが、実験の最後まで意味理解を目的とする読解を促 すため、問題数については事前に伝えなかった。問題の解答方法は、モニター上に表示される TRUE と FALSE のボタンをマウスクリックする方式とした。 3.3.2 実験デザイン 2×3 混合計画であり、相対的習熟度(上位群、下位群)を被験者間要因、文タイプ(ゼロ that 補文条件、 that 補文・補文主語 2 語条件、that 補文・補文主語 4 語条件)を被験者内要因とした。 3.4 予測 一般に例(8)のような GP 文と例(9)のような非 GP 文を比較すると、前述の通り、非曖昧化領域に現れる語 句(例. was not)で読解時間の差が生じるとされる。本実験も読解時間を基に分析を行うが、各条件について 考えると以下の様に結果が予測される。 予測1. [ゼロ that 補文条件 > that 補文条件] 補文標識が適切に利用される場合、that 補文条件で非曖昧化領域の読解時間が短くなる。 予測2. [補文主語 2 語条件 < 補文主語 4 語条件] 補文主語の長さが影響する場合、補文主語 4 語条件で非曖昧化領域の読解時間が長くなる。 また、英語学習の習熟度の違いにより、上位群と下位群で補文標識that の利用に関して違いがある場合、 予測1および2に対する反応が両群間で異なる可能性が考えられる。その場合、相対的習熟度と文タイプの 交互作用が表れることが予測される。 以下では、本実験のデータ解析方法とその結果について述べ、これらの予測に適合したか否かを見る。 前述のとおり、GP 現象が現れる可能性の高い領域は非曖昧化領域であるが、確認のため、その前後の曖 昧名詞(例 8~10 では point)と後続領域(例 8~10 では so)のデータについても言及する。 3.5 結果 データ分析にあたり、まずフィラー文に付した内容確認用の問題の正答率を算出した。全体の平均正答率 は95.14%であり、参加者個人の正答率が最低でも 88.89%であったため、全参加者が適切な読解活動を行 ったとみなし、全員分の読解時間データを採用した。次に、外れ値処理として、文頭語・文末語のデータを除 いた各参加者の1単語あたりの平均読解時間と標準偏差を求め、「平均値±標準偏差×2.5」の範囲外となる 測定値を、切り捨て値で置換した(全データの 3.05%)。 結果として、各条件・各領域の平均読解時間および標準偏差は表2 のようになった。以下では、各領域で 行った分散分析(被験者分析)結果を中心に述べる。ただし、文タイプの各水準のデータ数が少ないため、項 目分析は行わない。

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表2 各領域の平均読解時間 (単位: ミリ秒) 相対的習熟度 条件 曖昧名詞 (1 語: point) 非曖昧化領域 (2 語: was not) 後続領域 (1 語: so) 上位群 (n = 18) ゼロthat 補文 564 [169] 978 [274] 466 [147] that 補文・補文主語 2 語 532 [149] 852 [181] 429 [132] that 補文・補文主語 4 語 590 [152] 856 [151] 431 [100] 下位群 (n = 18) ゼロthat 補文 656 [221] 1150 [230] 506 [179] that 補文・補文主語 2 語 669 [218] 983 [144] 483 [122] that 補文・補文主語 4 語 697 [281] 990 [206] 480 [143] 注1. [ ]内の数値は標準偏差. 注2. 非曖昧化領域(2 語)の読解時間は、計測された単語単位の読解時間の和により算出. 3.5.1 曖昧名詞 GP 効果が発生する直前となる曖昧名詞では、習熟度の主効果に関して有意傾向(F1 (1, 34) = 3.60, p < .10, η2 = .074)が見られ、相対的習熟度の上位群が下位群よりも速く読み進めていた。文タイプの主効果 や交互作用については有意にはならなかったが、両群とも that 補文・補文主語 4 語条件が他の条件よりも 読解時間が長かった。このことにより、形容詞句の挿入により、補文標識から補文動詞までの線的距離が長く なると、この曖昧名詞の読解に負荷が高まる可能性があることが窺われた。 3.5.2 非曖昧化領域 非曖昧化領域は、主文目的語と補文主語に関する曖昧性を持つ GP 文で一時的な処理困難が生じる箇 所とされているが、本実験でも、習熟度の主効果が有意(F1 (1, 34) = 6.21, p < .05, η2 = .10)になっただけ でなく、文タイプの主効果も有意(F1 (1, 34) = 12.58, p < .01, η2 = .09)になった。 ただし、多重比較の結果、ゼロ that 補文条件の読解時間が他の 2 条件より長くなっただけであり(ps < .05)、補文主語の単語数の違いによる読解時間の有意差は見られなかった(p > .10)。また、2 要因間の交 互作用はなかった(F1 (1, 34) = 0.25, p > .10, η2 = .00)。 これは、前述のとおり、補文標識が無い場合はこの領域でGP 現象が発生するため、補文主語として再解 釈しなければならないという処理負荷が掛かるが、補文標識が存在すると、そのような処理負荷が掛からない 分だけ速く読み進めていくことができるためと考えられる。 しかし、補文主語の長さによる影響は見られなかった。直前の曖昧名詞では、有意ではないものの補文主 語4 語条件が補文主語 2 語条件よりも読解時間が数十ミリ秒長くなっていたが、この非曖昧化領域ではその 差も縮まり、ほぼ同じ速さで読み進められていることが分かった。 3.5.3 後続領域 後続領域として非曖昧化領域の直後に続く語を設定したが、他の GP 文研究で時々観察される波及効果 (Spill-over Effect)は観察されず、交互作用も含め、どの要因も統計的有意にはならなかった。この領域だ け、習熟度の影響も見られなかったが、それはこの領域では前置詞等の比較的文字数の少ない単語が多く 用いられたことが原因と思われる。 4. 考察 本研究の目的は、英語学習者による英文処理において、補文標識that の有無が影響を及ぼすか、補文 主語の語数の違いが補文標識 that の利用に影響を及ぼすか、そして、習熟度の違いにより補文標識 that の利用に違いがあるかを明らかにすることであった。これらの課題について、補文標識の有無と補文主語の

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結果として、GP 文処理を扱った先行研究(Bando & Yamashita, 2012; Dussias & Cramer Scaltz, 2008; Lee, Lu, & Garnsey, 2013 等)と同様、補文標識の有無による英文処理への影響が見られた。補文 標識がない場合、非曖昧化領域で処理困難に陥ったことを示唆する読解時間の増加が観察されたが、補文 標識がある場合は、読解時間は短くなり、そのような処理困難が発生しなかったことから、今回の実験参加者 は、補文標識を効果的に利用して読み進めていると判断することができる。 また、補文主語の語数について2 語条件と 4 語条件を設けたが、今回の結果では条件間で読解時間の差 は見られず、補文主語の語数の違いが補文標識that の利用には影響しないことが示された。この点につい ては、ふたつの理由が考えられる。ひとつは、曖昧名詞の直前に形容詞を挿入する方法で線的距離を長くし たため、修飾・非修飾の関係を含むことになる曖昧名詞句内において処理負荷が高くなったとしても、一度 名詞句という処理単位を構築してしまえば、非曖昧化領域の補文動詞を処理する際には大した負荷にはな らなかったのではないかということである。今回は、補文標識から補文動詞までの線的距離を長くするために 形容詞句を加えたが、補文動詞の直前に副詞句を挿入する等の別の方法が取られると異なる結果になるか も知れない。もうひとつの理由として、2 語と 4 語という差自体が大した差ではないという可能性も考えられる。 人間の短期記憶に関してよく述べられる「マジカルナンバー7±2」という法則からも明らかなように、今回用い た補文主語の語数は短いと言える。語数を増やして補文標識からの線的距離を更に長くすると、異なる結果 になるかも知れない。 習熟度の影響としては、曖昧名詞と非曖昧化領域にて読解速度の差が見られ、上位群が下位群よりも速く 読み進めていた。しかしながら、どの領域においても交互作用は確認されず、補文標識 that の利用に関し ては、習熟度の影響はなく、両群とも同じような読み方をしていることが示唆される。その理由のひとつとして、 実験参加者の習熟度が比較的高かったことが挙げられる。下位群でも500点台後半のTOEICスコアを持っ ており、参加者全員が補文標識の使用に関しては十分に熟達していた可能性があり、結果として上位群・下 位群の区別が作用しなかったと言える。今回検討した補文標識that は、学習の早い段階で学ばれる項目で あることに加え、専らに統語処理に関わる情報であるため、日頃のインプット量も比較的多いと考えられる。も う少し習熟度の低い学習者を対象にすると、異なる結果となる可能性もあるかも知れない。また、逆説的に考 えると、どの程度の習熟度になると今回用いたような負荷に影響されるのかが分かれば、補文標識that の習 得時期が分かるのではないかと思われるが、それは今後の課題としたい。 また、本研究の目的のひとつは、第二言語学習者による不十分な統語処理が、これまでの研究で言われ ているよりも広範囲かつ頻繁に起きるかを探ることであった。今回の結果のみから判断すると、上位群・下位 群とも補文標識を適切に利用し、補文主語の長さによる処理負荷の影響も受けていないことが分かったため、 補文標識that に関して不十分な統語処理は起きていないと言えるだろう。 上記のほか、今後の課題として、補文標識 that の利用に関して広範囲に調査する必要性が挙げられる。 補文標識から補文動詞までの線的距離を長くするのは、限定用法の形容詞句の挿入や前述した副詞句の 挿入だけでなく、関係節などの後置修飾による構造的複雑性の影響も考慮する必要がある。それ以外にも、 本研究では補文標識that に限定詞 the が後続する刺激文のみが用いられたが、名詞句が直接後続するよ うな場合に、共起関係への敏感さが処理の違いを生むような語彙的影響の可能性も考えられる。 また、今回は予備的検討であり、英語母語話者を対象としなかったが、習熟度の高い学習者においても条 件間で差が生じるような条件が見つかれば、そのような条件を母語話者がどのように処理するかを調査する と興味深い結果が得られ、前述したSSH に対する検討も更に深まるであろう。 4.1 教育的示唆 補文標識that を扱った本研究の結果には、幾つかの教育的示唆が含まれると思われる。まず、文法指導 や読解指導において、補文標識の有無が指導内容の理解に関わる可能性があることが推察できる。本研究 では、補文標識の有無が読解時間に影響を及ぼすことが示されたが、これは、授業内で用いる例文に補文 標識 that を付与するか否かが、学習者の理解度に影響することに繋がることを示唆している。また、線的距 離による負荷に対して補文標識that の利用はあまり影響を受けなかった結果から、補文標識 that が複雑な 文構造による処理負荷を克服することに役立つと考えられる。これは、補文標識 that を習得することが、より

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複雑な文構造を理解するための重要なステップであることを示唆していると思われる。 5. 結論 本研究では、読解実験を行い、補文標識that の利用と補文主語の長さの関係について検討した。その結 果、補文標識の有無は読解に影響を及ぼし、その利用は補文主語の長さに影響されないことが示された。た だし、この結果は予備的検討として行われた限定的な実験データに基づくものである。今後、様々な変数を 用意して読解実験を行い、補文標識等の専ら統語情報に関わる知識について、学習者が母語話者と同程度 に習得しているのかを調査する必要があるだろう。 (金沢学院大学) 引用文献

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Nakamura, C., Arai, M., & Harada, Y. (2013). The use of verb subcategorization information in processing garden-path sentence: A comparative study on native speakers and Japanese EFL learners. Studies in Language Sciences: Journal of the Japanese Society for Language Sciences, 12, 43-69.

Omaki, A., & Schulz, B. (2011). Filler-gap dependencies and island constraints in second-language sentence processing. Studies in Second Language Acquisition, 33, 563-588.

表 1  実験参加者( N  = 36)の TOEIC スコアデータ  平  均 標準偏差 最高点 最低点 上位群   (n = 18)  834.67  86.08  940  710  下位群   (n = 18)  588.78  63.01  700  480  3.2  実験材料  本実験では、以下のような 3 種類の文構造を用いた。    (8)  [ゼロ that 補文条件]
表 2  各領域の平均読解時間                                          (単位 :  ミリ秒) 相対的習熟度 条件 曖昧名詞 ( 1 語: point)  非曖昧化領域( 2 語: was not)  後続領域( 1 語: so)  上位群 (n = 18)  ゼロ that 補文    564 [169]    978 [274]    466 [147] that 補文・補文主語 2 語   532 [149]   852 [181]   429 [132]

参照

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