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郊外大規模店舗 1 の立地規制が出店動向に与えた影響に関する研究
政策研究大学院大学 まちづくりプログラム MJU10056 田渕 俊郎
1はじめに
1-1 本研究の目的
近年,モータリゼーションの進展等を背景として,特 に地方都市では都市機能の無秩序な拡散が進むとともに,
中心市街地の居住人口やいわゆる「シャッター通り」と なった商店街が増えるなど中心市街地の空洞化が進んで いる。政府はこのような拡散型の都市は,暮らしにくく 非効率であるとして集約型都市へ転換する様々な政策を 実施している。
このような中,政府は 2006 年 5 月に都市計画法および 建築基準法の一部を改正(以下改正都市計画法等)し,
中心市街地衰退の大きな要因とされる床面積が1万㎡超 の郊外大規模店舗について立地規制を行った。
これまでにも,大型店舗2の立地に関する規制等は,戦 前の第1次百貨店法からはじまり,大店法(改正),まち づくり三法(大店立地法)など制定,改正,廃止を繰り 返してきたが,これらの改正に加え,今回の改正都市計 画法等の効果を検証しておく必要があると考えた。
本論文は,改正都市計画法等による郊外大規模店舗の 立地規制が出店動向(規模・場所・件数)にどのような 影響を与えたかに焦点を当て,定量的に実証分析すると ともに立地規制の副作用を考察する。
1-2 先行研究と本研究の位置づけ
地方都市における中心市街地活性化に関する研究は多 く存在する。福士(2010)3は,公共施設の設置と中心市 街地の売上げの関係について実証し,中心市街地小売総 売上増減率と中心市街地昼間人口増減率の関係には強い 相関関係があり,昼間人口の増加に資するとは言えない
「文化観光施設」や「交流施設」などの公共施設の設置 は中心市街地の売上の増加につながるケースは尐ないこ とを指摘している。また赤松(2010)4は,中心市街地に 対する補助金が増加する中で中心市街地人口の増加のみ を目的とした補助事業については,支出に見合う効果が ないことを実証し,投資効果の小さい中心市街地への補
助金は見直す必要があるとしている。
また,坂上ら(2009)5は大型店 VS 中小規模店という構 図の中で中小小売店舗を守るために実施した大型店舗の 出店調整は政府の思い通りには機能してこなかったこと を示し,松浦ら(2006)6は,大規模店舗の参入(退出)
は,当該地域の「商業の活性化」に対して正(負)の影 響があることを実証し,現在は「大型店 VS 中小規模店」
から「市街地 VS 郊外」に転換されているとしている。こ の「市街地 VS 郊外」の構図の中で,2006 年の都市計画 法等の改正は,中心市街地を活性化させるために,大規 模店舗を中心部へ誘導するものであるが,法改正が店舗 の出店動向にどのような影響を与えたかについて全国的 な調査・分析を行っている研究は見当たらない。そのた め研究テーマとして取り上げ,その効果を分析するもの である。
1-3 2006 年都市計画法等の改正内容
床面積が1万㎡超の店舗,映画館,アミューズメント 施設,展示場などの大規模集客施設について,商業地域,
近隣商業等の用途地域を除いて原則立地不可とし,これ により大規模店舗を中心市街地に誘導するものである。
2 規模規制の理論分析
2-1 大型店舗の出店規制について
一般的に競争市場で参入規制をすると市場供給曲線を 構成する個別の供給曲線が尐なくなり,自由参入の場合 と比べて市場供給曲線が左方へシフトし死重の損失が発 生する7が,第1次百貨店法~大店法時代の大型店舗の出 店規制も同様な考え方で説明できる。企業は総費用とし て固定費用と可変費用が必要となるが,規模規制をした 場合,最適規模に近づけようと店舗を細分化するものと 考えられる。この場合,店舗の開設費用などの固定費用 が増えるとともに供給曲線(限界費用曲線)も左へシフ トする。これにより,販売価格が上昇し,取引数量が減 尐する。生産者余剰の増減は需要曲線および供給曲線の 弾力性によって異なるが,消費者余剰は減尐し,社会全
2
O L S 郊外大規模店舗申請件数
係数 標準偏差 t値 P 値 道路実延長 0.0000714 0.0001203 0.59 0.554 1世帯当たり乗用車保有台数 0.4758663 0.6868212 0.69 0.490 一人あたりの既存店舗面積 0.24112 1.317094 0.18 0.855 可処分所得 0.5619352 0.9842884 0.57 0.569 大型小売店年間販売額 2.566008 *** 0.6644628 3.86 0.000 法改正ダミー 0.5193194 ** 0.2369906 2.19 0.030
サンプルサイズ 128 Adj R-squared = 0.1795 (注) ***,**,*はそれぞれ 1%,5%,10%で統計的に有意であることを示す。
O L S 郊外大規模店舗申請件数
係数 標準偏差 t値 P 値 道路実延長 0.000299 0.0000775 0.39 0.700 1世帯当たり乗用車保有台数 0.3624284 0.439078 0.83 0.411 一人あたりの既存店舗面積 -0.669109 0.800067 -0.84 0.405 可処分所得 0.7911335 0.7191618 1.10 0.273 大型小売店年間販売額 1.14975 *** 0.4265279 2.70 0.008 法改正ダミー -0.5933394*** 0.1703385 -3.48 0.001
サンプルサイズ 128 Adj R-squared = 0.1991 (注) ***,**,*はそれぞれ 1%,5%,10%で統計的に有意であることを示す。
郊外中規模店舗申請件数 O L S
係数 標準偏差 t値 P 値 道路実延長 0.0000865 0.000131 0.66 0.510 1世帯当たり乗用車保有台数 0.8405297 0.7424109 1.13 0.260 一人あたりの既存店舗面積 0.1559733 1.352786 0.12 0.908 可処分所得 -0.2409115 1.215988 -0.20 0.843 大型小売店年間販売額 2.169225 *** 0.7211906 3.01 0.003 法改正ダミー 0.4920754 * 0.2880153 1.71 0.090
サンプルサイズ 128 Adj R-squared = 0.1991 (注) ***,**,*はそれぞれ 1%,5%,10%で統計的に有意であることを示す。
販
売 価 格
取引数量 Qe
Qr Pe
Pr 自由参入下
の供給曲線 規模規制下 の供給曲線
死荷重 E
R Qe:自由参入下での均衡数量
Pe:自由参入下での均衡価格 Qr:規模規制下での均衡数量 Pr:規模規制下での均衡価格
FIX
eFIX
r利潤=収入-総費用(固定費用+可変費用)
生産者余剰=利潤+固定費用 生産者余剰=収入-可変費用
体としては非効率となる。(図1)
図1 規模規制下の需要供給曲線
3 郊外大規模店舗の規模規制が出店動向(場所・規模・
件数)に与えた影響の検証
3-1 郊外店舗の出店状況について
郊外大規模店舗は法改正が行われた 2006 年から法施行 の 2007 年までの 2 年間は増加しているが,法施行後の 2008 年には減尐に転じ,その後は横ばいである。(図 2)
一方店舗面積でみてみると 2006 年~2007 年の間に急増 する傾向は,店舗数と同じであるが,法施行後は1万㎡
超店舗より5千~1万㎡の中規模店舗8の割合の方が大 きくなっている。(図3)
図 2 郊外店舗申請件数
図 3 郊外店舗数(面積)
3-2 仮説
図1より次の仮説を立て,法改正等の影響を分析する。
仮説1 法改正から法施行まで間に郊外大規模店舗の 申請件数が増加した。
仮説2 法施行後は,立地規制により郊外大規模店舗 の申請件数は減尐した。
仮説3 法施行後は1万㎡超店舗が規制されることに よって 5 千~1 万㎡の中規模店舗にシフトする。
3-3 推定式及び推定方法
実証方法は 2004・2005 年を法改正前,2006・2007 年を法改正時,2008・2009 年を法改正後として,県別 のパネルデータを用いて計量分析を行ない,法改正が 郊外大規模店舗等の申請件数に与えた影響を実証する。
対象地区は東京都および政令指定都市のある都道府県 を除く全国の地方都市 32 県とし,推定式は以下のとお りである。なお,分析にあたっては hausman 検定を行 い最小二乗法,固定効果モデル,変量効果のうちいず れかを採用した。
推定式 ε:誤差項 3-4 検証結果
【仮説1推定結果】
大型小売店年間販売額が 1%,法改正が 5%で統計的に有 意であり,前年の年間販売額が新規出店に影響を与え,
法改正により一県あたり約 0.5 店舗の駆け込み申請があ ったと認めることができる。
【仮説2推定結果】
年間販売額と法改正ダミーが 1%で統計的に有意であ り,立地規制の影響を受け,新規出店件数が減尐したも のと認められる。
【仮説3推定結果】
3
中心大型店舗数 固定効果モデル
係数 標準偏差 t値 P 値 一人あたりの既存店舗面積 4.044098 7.046062 0.57 0.567 可処分所得 -0.0640511 3.336692 -0.02 0.985 大型小売店年間販売額 14.9222 10.42824 1.43 0.154 郊外大規模店舗立地数 -0.6309668 *** 0.1727917 -3.65 0.000
サンプルサイズ 192 within=0.1899 between=0.3606 overall=0.3174 (注) ***,**,*はそれぞれ 1%,5%,10%で統計的に有意であることを示す。
年間販売額が 1%,法改正ダミーが 10%で統計的に有意 であり,法改正ダミーと中規模店舗の出店数に強い相関 関係があるとは言えないものの,法施行により,中規模 店舗にシフトしたことが確認された。
以上の結果より地方都市部では法改正から法施行まで の 2 年間に郊外大規模店舗の申請件数が増加し,法施行 後は立地規制により郊外大規模店舗の申請件数は減尐し た。また法施行後は 1 万㎡超店舗が規制されることによ って 5 千~1 万㎡の中規模店舗にシフトしたことが明ら かとなった。
4 法改正の副作用について 4-1 店舗の撤退動向分析
中心部の大型店舗総数は 2008 年までは増加している が,2009 年を境に減尐に転じている。(図 4)また中心大 型店舗数の増減率を立地形態別に見るとターミナル型で は増減はなく,駅前・駅近辺型で 2.4%,商店街型で 13.2%
の店舗が減尐しており,さらに法改正のあった 2006 年か ら 2007 年までの 2 カ年分を加えると商店型店舗は 23.3%
と大幅に減尐していた。(図 5)
図 4 大型店舗総数(中心部)
図 5 大型店舗総数増減率(中心・立地形態別)
中心部の店舗が撤退する理由にはさまざまな要因があ ると思われるが,法改正による郊外大規模店舗のかけ込 み申請が中心大型店舗の撤退に影響を与えたことは否定 できない。そのため,郊外大規模店舗の立地と中心大型 店舗数の関係についても計量的に分析を行った結果,郊 外大規模店舗の出店は中心大型店舗数にマイナスの影響 を与えることが,1%で統計的に有意であった。本分析は データの制約上,1 千㎡超店舗を対象にしているが,零
細店舗等はさらに大きい影響をうけたものと考えられる。
推定式 ε:誤差項
また大手SC1社に焦点を絞り,撤退状況について調査 を行った結果,2006 年から 2010 年の 5 年間に撤退した 店舗は 39 店舗あり,このうち 29 店舗(約 75%)が中心 市街地からであった。その中には郊外に出店しているに も関わらず,同時期に中心市街地から撤退しているもの もあり,企業は採算のとれない中心市街地から戦略的に 撤退しているとも推測できる。
4-2 大規模店舗の出店動向分析 (1)法施行後の申請の変化
法施行後に本来立地が規制される郊外 1 万㎡超店舗の 出店動向の調査を行った。改正都市計画法等では,郊外 大規模集客施設の立地を完全に抑制するものではなく,
第二種住居地域,準住居地域,工業地域では用途地域の 変更又は用途を緩和する地区計画決定,また白地地域で は用途地域の指定等により立地が可能となっている。つ まり,2006 年の法改正により,全く 1 万㎡超の店舗が郊 外立地できなくなったというわけではなく,手続き方法 や形状を変え立地するようになったと言うことができる。
図 6 は法施行後において,本来立地が規制される1万
㎡超の店舗について,その立地が認められた理由を個別 に調査した結果であり,分割申請9,区画整理事業,跡地 利用,地区計画,用途変更の 5 ケースが確認された。(図 6)この中でも分割申請については,所在地,建物設置者,
届出日が同じで,店舗の合計面積が 1 万㎡超のものであ るが,これらの店舗は個々の店舗が一体のもの(駐車場 の共有など)として営業している。これらは,法の抜け 道とも言える申請である。
図 6 郊外 1 万㎡超店舗の立地状況(施行後)
(2)分割立地の非効率性
4
Q1:規模規定がない時の数量 P1:規模規定がない時の価格 Q2:Q1/2
P2>P1
規模規制をしても、細分化され、均衡 数量になる。これにより余分なコスト
が発生し非効率になる。
出 店単 価
A
店舗面積 Q1 Q2
P2 P1
1 万 ㎡ の 規 模 規 制
余分なコスト
B×2棟
通常,店舗が新規出店する場合,計画・設計費用,
用地取得・周辺調整(交渉費用),本工事費用・関連工 事費用(インフラ整備費用)等の経費が必要となるが,
これらの経費は規模が大きくなるほど,単位面積当た りのコストは安くなる。規模規制があり,社会的に必 な店舗面積に近づけようと分割立地した場合は,企業 にとって余分なコストが発生し,非効率になると考え られる。(図 7)
図 7 分割立地の非効率モデル 4-3 中小規模店舗の出店動向分析
法施行後の中小規模店舗10の出店動向について四国 地方の中心市街地活性化区域を指定している 3 都市を 対象に分析した。分析方法は,法施行前(~2007 年)
の既存店舗および法施行後(2008 年~)に出店した店 舗を地図上にプロットし,エリア内における店舗の立 地状況および商業施設の集積傾向を分析したものであ る。高松市(図 8)は,地形上平地が多く,広範に大 型店舗が広がっており,法改正以前から郊外化が進ん でいるのが特徴である。法施行後の新規出店件数は 11 件あったが,このうち中心市街地への出店は無く,国 道 193 号線,県道 10 号線などの郊外幹線道路沿いに出 店する傾向にある。また,新規出店場所の周辺には既 存店舗も多く,郊外部での新たな商業集積地を形成し ていることが確認された。
図 8 大型店舗の立地状況(高松市)
このように新設店舗は郊外部の幹線道路沿いでかつ周 辺に既存店舗が多い場所に立地する傾向にあり,特に新 設バイパス道路は,中小規模店舗が連なりロードサイド 商店街と化している状況である。このため,法改正以前 から既に郊外化が進んでいる地方都市では,都市計画規 制の強化のみにより郊外化を抑制することは困難である と考えられる。
5 まとめ
店舗の最適な規模を導くことは困難であるにもかかわ らず,規模規制が実施されたことによる影響を分析,考 察した。また,規制の副作用の例示を行い,分割申請や 規制値未満の店舗が集積するのであれば本来の政策目的 を果たさないことも示した。これらの分析結果を踏まえ,
都市計画規制の強化が中心市街地の再活性化をもたらす 可能性は低く,改正都市計画法等は政府の目的どおりに は機能していなと言える。また効果が明確でなく,副作 用がある規模規制は廃止したほうがよいことを提言する。
最後に,先行研究では中心市街地の住宅政策等の補助 金については,支出に見合う効果がないことが指摘され て,本研究では都市計画規制の強化が中心市街地にプラ スに働く可能性は低いと結論づけた。そのため既に郊外 化が進んだ地方都市において,政府が介入して郊外化を 抑制し,中心市街地を再活性化させることは困難な状況 である。
今後は中心市街地を守る政策を継続的に実施していく かどうか,各自治体の判断が重要になろう。
1 大規模店舗とは床面積が 1 万㎡超の店舗をいう。
2大型店舗とは百貨店法,大店法,大店立地法等の対象となる大型の店 舗全般をいう
3福士竜司(2010)「中心市街地活性化政策における公共施設設置・移転 の効果に関する研究」(政策研究大学院大学政策研究科平成 21 年度ま ちづくりプログラム論文集,2010 月 3 月)
4赤沼孝昭(2010)「地方都市における中心市街地居住推進事業に関する 考察」(政策研究大学院大学政策研究科平成 21 年度まちづくりプログ ラム論文集,2010 月 3 月)
5阪上貴紀(2009)「大規模小売店舗に対する規制緩和と中心市街地の衰 退」一橋経済学, 3(2): 117-141
6松浦寿幸,元橋一之(2006)「中・大規模店の参入・退出と中心市街地 の活性化に関する計量分析」RIETI Discussion Paper 2006/7 06-J-051
7八田達夫(2008)『ミクロ経済学Ⅰ』東洋経済 p.98
8中規模店舗とは床面積が 5 千~1 万㎡の店舗をいう
9大店立地法届出状況を同住所のもので並べ替えることによってピッ クアップし,担当者への調査を行い作成した。
10小規模店舗とは床面積が 1 千~5 千㎡の店舗をいう