リレ―ションシップ・アプローチの変遷と新展開 (1)――新たなビジネスにおける「関係性」の意味 と役割の解明――
著者 和田 正春
雑誌名 東北学院大学論集. 経済学
号 135
ページ 19‑46
発行年 1997‑09‑25
URL http://id.nii.ac.jp/1204/00024497/
リ レ ー シ ョンシ ッ ブ ・ アプロ ー チ の 変遷と新展開( l )
新たな ビジネ ス における 「 関係性 」 の 意味と役割 の 解明
和 田 正 春
はじめに
本論では, 昨今, 学術的, 実務的関心を集めている
「
リレ
ーションシップ
・ マ
ー ケ テ ィ ン グ 」について,その理論的変通を中心に考察する。
経済 主体間の交換を研究対象とした初期のマーケティング研究が, どの様なプ ロセスを経て今日の
リレ
ーションシップ研究へ
と発達していったのか, ま たその転換点はどの様な所にあるのかなど, 考察すべきことは多い。
本論
の
ねらいは, 既存の経済合理性に基づく交換関係に立脚したマー ケ テ ィ ン グ・
アプローチが, 今日の
多様な経済・
社会関係を解明し,マー ケテ ィ ン グの方向性を示していく上でど
の
様な限界を抱えているのか, また リ レーションシップ・
アプローチとか「関係性」アプローチといわれるマー ケ テ ィ ン グの
新たな方向性について, どの
様な点が旧来のもの
と異なって いるのかを明らかにすることにある。
そして次代のマー ケ テ ィ ン グ 研 究 の 中心になると期待されるリレ
ーションシップ・
アプローチについての理解 を よ り 鮮 明 な も のにすると同時に, リレ
ー シ ョ ン シ ッ プ に よ っ て のみ カ パーされるであろう社会関係や環境, さらにはビジネス ・ ス
タイルの変化 といったものの特性をも明らかにすることを日指すものである。
本論は, 今日
の
リレ
ーションシップ論議が, データペース活用など.
個別対応型アプローチが可能になる環境が整つたことから発生したものであ ると提えるのではなく
,
マーケティングが本質的に有していた「
関係づくり 」
機能がより明示的な形で発現したものであるという視点を採用する。
東北学院大学論集経済学第l35号 l997年9月
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l東北学院大学論集 経済学第135号
それはマーケティングが果たすべき,企業と生活者(あるいはビジネ
ス空
間と生活空間)の間の
調整機能, そしてその複限的アプロー チ ( ビ ジ ネス
と生活の両面を並行して捉える)の必要性に注目するものであるといえる。
リ レーシ ョ ン シ ップ
・ マ
ーケティングは,従来のマー ケ テ ィ ン グ ( 限 界 的に高められたトランザクション・ マ
ーケティング)に代わる発想として, 従来のマー ケ テ ィ ン グ・
リ ー ダ一
企業に積極的に採用されている。
広範な データペースの利用や個別的な商品提供, 柔軟なサービス ・
情報提供体制 な ど , その方向性はかなり明確なものになっている。
しかしそれとは別に, 企業と生活者の
関係をどの様に構築していくべきかという視点から, むし ろ中小企業を中心に, 新たな動きが進められている。
例えば,
地城振興の ために協同して活動する個人, 企業, 自治体の
結びっ
きなどである。
そ う した動きはマーケティングにおける大きな方向転換と提えられるぺきもの であり,個別性を普通化するのではなく,個別性を個別性として理解し, お互いの
個別性を尊重し合うような結びつきをビジネスの
中に反映すると い うス
タイルであるといえる。
経済合理性ばかりでなく,
信額や期待とい う新たな概念が市場交換の
中にも不可欠になっていると考えられる。 マ
ーケティングは,そうした新しい交換を促進する役割を負つているといえる
。
本論は, 交換関係に関する研究の流れを振り返ることで, 今日の リ レー ションシップ
・ マ
ー ケ テ ィ ン グ の位置づけを再考することを日指す。
それ はある意味でマー ケ テ ィ ン グ の社会的価値の再発見を期待するもの
であ り , ビジネス
における倫理 (社会的な価値を反映するための基盤) を実現 するためのツールとしてのマー ケ テ ィ ン グ の役割を見いだそうとするもの である。1 .
リレ
ーションシ
ップ ・ マ
ーケテ
ィング再考
今日マーケティング界で最も華やかな ト
ビ
ッ ク で あ る リレ
ーションシップ ・ マ
ーケティングについて, そのブーム的な虚飾を廃し,それが新たに 提示してきた「
企業・
願客間の
長期安定的関係構集」
という点に重点をお2
-
20-
lリ レ ー シ a ン シ ップ
・
ア プP ー チの変遷と新展開(l)いて, その理想と現実を対比させながら
,
リ レーシ ョ ン シ ップ・ マ
ー ケ テ ィングが日指すものを明らかにしていこうと考える。
1 - 1 .
リレ
ーションシップ ・ マ
ーケティング概観リ
レ
ーションシップ・ マ
ーケティングと呼ばれる関係構集型, 関係立脚 型のマーケティング手法に対する関心の高まりは, 紛れもなく願客情報処 理技術に対する実用的な見込みが立つたことを背景にしているといえる。
「
リ レーションシップ」
と い う と ら え 所の
ない, それでいて何かしら本質 的な響きを持つこの
言葉が, 何を意味し, 何を日指すものであるのかを解 明することが, リレ
ーシ ョ ン シ ッ プ・ マ
ーケ テ ィ ン グ の効呆的,発展的実 践を促進すると考える。
しかし現実には, リ
レ
ーションシップ・ マ
ーケティングという用語は, 明確な定義や解釈が行われないままに一
人歩きしている感がある。
こ う し た現象自体はビジネス界では珍しいことではなく, その目的や手法が理解 されていれば実務上では間題があるわけではないが,「
リレ
ーションシップ」
ないしは「関係性」
といった概念が重要視されるようになった理由に ついては, 最低限慎重に考察されねばならない。
というのも, 現在は従来のマ
ー ケ テ ィ ン グ・
パラダイムの転換期にあるといわれ, 新たなパラダイ ムの核として注目されているのが「
リレ
ーションシップ」や「
関係性」 と いう概念と考えられているからである。
マーケティングは, 願客や社会と の関わり方, その中での位置づけという点から常にその方向性を検討され ているといえるが, 同様の議論の
中で特にエ
ポ ッ ク・
メ イ キ ン グ な もの
を あげても, 古 く はコ
ンシューマリズムに端を発する企業の社会的責任論が あ り , 最 近 で も N o r d i cSchool
! ) が提唱した願客満足の理念に関する流l ) Nordic Schoolof Ser
vi
ce と し て 知 ら れ る。
Nor mann
やGronroos な ど, スカンジナビァ諾国の研究者が構成.
,'l ン パ ー で あ り , サ ービスの質的向 上を日的として,企業内,企業間の機能的関通, ビジ g ン に よ る 続 合 の 必 要 性に着日した点が特徴的とされる。
この視点は.
主 と し て ョ ーP ツ パのサ ー ビス・
マ ー ケ テ ィ ン グ, リ レ ー シ g ン シ ッ プ・
マー ケ テ ィ ン グ 研 究 の 中 に /''
-
2l-
3東北学院大学論集 経済学第135号
れの中などにも新たな視点は見受けられる
。
しかしそれがパラダイム・
シ フトといった大きな枠組みの変化をもたらしたとはいわれていない。
それ が今, リレ
ーションシップや関係性が従来のパラダイムを転換させる概念 とされるのはどの様な理由からなの
だろうか。 また本当にそれはパラダイムの
転換なの
だ ろ う か。
もしそうだとすれば,その新しいパラダイムはマー ケティングの考え方や手法にどの
様な変化を生み出すの
だ ろ う か。
こ れ らの
疑間を解決することがマー ケ テ ィ ン グ の新展開を知る上で重要であると 考えられる。
リ
レ
ーシ ョ ン シ ッ プ・
マーケティングは,関係の
もたらす価値に注日し, その価値を增大させることを日指すものであると考えられる。
しかし願客 との関係強化の必要性は最近になって初めて指摘されるようになったわけ ではない。 Levitt
2 )は83年に技術進歩とサーピス化が売手と買手の関係 強化の必要性の增大をもたらすことを指摘している。
それが今なぜ改めてリ
レ
ーションシップ, 関係性なの
だ ろ う か。
l幅
, ロ
3 )は, l.
取引の安定性向上のため, 2. ヘ ビ
ーユ
ーザ一
重視によるマーケティングの効率化,
3 .
商品の增幅化, 4.
商 品 ラ イ フ サ イ ク ルの短縮化,5 .
サービス化の進展,そしてその背景としての6.
情報技 術の進歩・
普及を, 関係性という考えが重視されるようになった理由とし てあげている。
これらの理由は, 企業のマ
ーケティング活動の方向性が関 係構集へ
と向かったことを説明するものとしては納得できるものである。いわばこれは市場のニーズが高度化し, 先 が 読 み に く く な っ た こ と が 企 業 の対象をマスから特定願客, 個
へ
と変化させ, それを情報化が後押しをし たという提え方に他ならない。
この把握は, リレ
ーシ ョ ン シップ・ マ
ー ケ、
、
,,色濃く存在している。
2 ) Levitt,T. , After the Sale is
Over ,Harvard Business Review .
& p
-
0ct,. l9833 ) l島口充輝,「関係性構集とその条件」,矢作恒雄
・
青井倫一 ・ l B
ロ充輝・
和 田充夫著,「イ ン タ ラ ク テ ィ プ マ ネ ジ メ ン ト」 , ダ イ ヤ モ ン ド 社 , l 9 9 6 , p p .l93
-
l954
-
22-
リ レ ー シ g ン シ ップ
・
ア プ P ー チの変通と新展開(l)ティングの重要性を取り上げた諸著, 例えばMcKenna4 ) や
one to oneマ
ーケ テ ィ ン グ5 ),maximarketing
6 )等にも共通してみられるもので あ り , リレ
ーシ,,
ンシップ重視の方向へ
と企業活動が転換していった共通 の原因と考えられているといえる。
Relationship Marketing
という概念を明示的に示したのは83年のBerry
7 )の
論文であるといわれている8i
金融サービス
における願客維持 の実質的な価値を示 しっっ ,
既存顧客の維持が新規願客獲得以上に重要で あ る (新規顯客の獲得は中間的な日標に過ぎないとBerry
は述ぺてい る。
) ことを指摘した点で.
この論文をリレ
ーシ ョ ン シ ッ プ・ マ
ー ケ テ ィングの出発点と考えることは理解できる
。
またBerryは,情報技術を利 用 す る こ と で 願 客 との関係を個別化 (customize
) す る こ と が , 願客維持 の原点であるとしている。
この視点はBerry&Parasuraman
9 )に も 引 き継がれ, 彼らはリレ
ーシ ョ ン シ ップ構築のあり方をその結合(bonds) の核となる特性からfinancial.
social,strucuralの3タイプに分類し, 今日航空会社が行つている利用ポイントによる還元サービスの様に, 金銭 的なぺネフィットを核として構築された関係から,企業・
願客相互が相手 を理解し.
願客の要請に企業が個別的に対応し, それを積み重ねたことか ら構築される互恵的な関係まで, 願客維持のために構集される関係につい て , 分 類 を 行 な っ て い る 。4 ) McKenna
.
R.,三表商事情報産業グループ訳, 「ザ・
マ ー ケ テ ィ ン グ」,,ダ イ ャ モ ン ド 社 , l 9 9 2
5 ) ド ン
・
ぺ パ ー ズ&マ ー サ・
ロ ジ ャ ー ス 著 , 井 関 利 明 監 訳 , 「 0 n e toOne
マ ー ケ テ ィ ン グ
一
願 客 リ レ ー シ g ン シ ッ プ 戰 略 」 , 1 9 9 5 , ダ イ ヤ モ ン ド 社 6 ) Rapp,Stan.
&Collins.
Thomas L., Beyond MaxiMarketing:thenew power ofcaring and daring',McGraw Hill,l994
7 ) 比
一 . L..
L.,'Relationship Marketin g ' i n B e n y , L.
L. .
Shostack,,
G
.
L . a n d U p a h , G . D . (eds),Emerging Perspectives on Services MarketingAmerican MarketingAssociation.
pp.21y- '
288 ) それ以前にはサービス
・
マ ー ケ テ ィ ン グ の 領 域 で , 関 係 の 重 要 性 が 論 じ ら れていた。 Berry もその延長にこの論文を位置づけていると考えられる。9 ) Berry, L . L . a n d Parasuraman,A.
.
'Marketing Services:Com-
peting throughtime' , F r e e Press
.
l99l-
23-
5東北学院大学論集経済学第l35号
以来,Gionroos
lo)やH a kkanson n
) その視点を受け継いだKotler
l2)や
Christopher等
l 3) 日本ではl購l口l4) 等に依つて リ レー シ ョ ン シ ッ プ・
マ
ーケティングの考え方が示されてきたのであるが, リレ
ーションシップマ
ー ケ テ ィ ン グ の目的が既存願客の維持であり, そのために個別的な対 応を行う必要があるという点は全てに共通している。
その意味で, 今日リレ
ーシ ョ ン シ ッ プ・ マ
ーケティングといわれているものは,Berry を最 初とする, 願客維持のための願客との長期的関係構集,
及びそれに基づく 個別的対応の実現を日的としたマーケティング活動を指すと考えることが で き る。
井関l5)は, リレ
ーシ ョ ン シ ッ プ・ マ
ー ケ テ ィ ン グ は 「長期的な 願客との「関係づくり」
を重視し,願客維持のための仕掛けと組裁作りを, 情報テクノロジーの活用によって実現しようとする戰略的立場」
及び「豊 かな先進社会でビジネスの
成果を上げるには, 願客維持戦略こそが不可欠 だと主張する立場」
としているが,この井関の定義が,今日の
リレ
ーショ ンシップ・ マ
ーケティングに対する一
般的な理解, その範國を示したもの
と 考 え る こ と が で き よ う
。
新規顯客獲得から既存願客維持
へ
とマーケティングの目的をシフトさせ たという点で, リレ
ーションシッ プ・ マ
ーケティング論識の新しさは十分 に指摘できると思われる。
船ロ
が示した理由が頭在化し, 情報技術の進展 があっ1た-
ことで, リレ
ーションシップ・ マ
ーケティングはマー ケ テ ィ ン グ l 0 ) Gronroos, C., 'Relationship approach tomarketing inservicecon -
texts:the marketing and organizationalhehavior interface'
.
Joumalof-
BusinessRe9earch,20,l990
.
pp.
3-
l ll l ) H
a
kkanson,H. .
'InternationalMarketing and Purchasing of In-
dustrialGoods°, John Wiley,l982
l2) Kotler
.
P.
, ' M a rketingManag,
ement(7thed.
),Prentice - H
a l l , l 9 9 l l3) Christopher,M.
, P a y n e , A.
F.
T.
a n d Ba
llantyne .
D. .
'Relation-
shipMa「keti
ng
',Butterworth-
Heinemann, 的9ll4)
l a
ロ充1部.
「I a
客満足型マーケティングの構図」,有要関, 開4 , p p.
l74-
204
l5) 日本経済新聞
.
l996年ll月l5日, 「や さ し い 経 済 学 : リ レ ー シ a ン シ ッ プ マ ー ケ テ ィ ン グ ① 」 井 関 利 明 よ り6
-
24-
リ レ ー シ ョ ン シ ップ
・
ア プ o ー チの変選と新展開(l)に新たな方向性を拓いたといえる
。
これは, 今なぜ関係性か, と い う 疑 間 にある程度の回答を与えるものであると考えられる。
しかしこれら
の
議論の中で, どうしても考えられなくてはならない点が ーつ脱落しているように思われる。
それは, ここでふれられたことは企業 に と っ て リレ
ーションシップ を 構 築 す る こ と の メ リ ッ ト で あ り , 理 由 で あ るが, リレ
ーションシップのもう一
方の相手である願客.
とりわけ個人願客にとってのリ
レ
ーションシッブを構築することの理由が依然として明ら かではないということである。
企業が意識を変えたから願客もそれに追随 す る と い うのは, 本来相互的である (という概念を含む) 関係という視点 を論じる上であまりに一
方的すぎるといえる。
企業がリレ
ーシ ョ ン シ ップ に向かう理由があるように, 願 客 に と っ て も リレ
ーションシップを歓迎す る, 少 な く と も 企 業の方針転換を受容する理由がなくてはならないと考え られる。
願客側からの見方に
っ
い て は , 本 論 後 半 ( 2 ) に お い て 取 り 上 げ , そ の 中におけるリレ
ーシ ョ ン シ ッ プの意味について考察したいと考えている。
1 - 2 .
リレ
ーションシップの独自的価値の明示①Gronroosの視点から
実務レぺルでは, その手法の具体性と効果の点から, 特に情報テクノロ ジー
の
利用という部分に焦点が当てられ, データペース ・
マーケ テ ィ ン グ=
リレ
ーションシップ・ マ
ー ケ テ ィ ン グ と い っ た 理 解 も あ り , また「願客 田い込み」
が リレ
ーシ ョ ン シ ッ プ・
マーケ テ ィ ン グ の目的であるという理 解 も あ る。
リレ
ー シ ョ ン シ ッ プ・
マーケティングが従来のマー ケ テ ィ ン グ 活動と同様に, 願客に対する働きかけであるとするならば, 前記のような 考え方が生じてくるのは当然であるといえる。そうした手法がより洗練さ れ , 精融なものとして確立されることは,
リ レーションシップ ・ マ
ーケ ティ ングの理論体系を整備する上で不可欠なプロセスでもある
。
しかしここで私が注目したいのは, リ
レ
ーションシップや関係性という-
25-
7東北学院大学論集 経済学第l35号
概念がマー ケ テ ィ ングに持ち込まれたこ とがマー ケ テ ィ ングのバラダイム シフトであるといわれている点である
。
なぜリレ
ーションシップ と い う 概念がそれほど大きなインパクトをマー ケ テ ィ ン グの理論体系に与えると 考えられるのだ ろ う か。
Berry
にしろ,Gronroos に し ろ , リレ
ーションシップを想起した根底 はサービス ・
マー ケ テ ィ ン グ に あ る 。 サ ービス
には本質的に生産と消費が 不可分 (inseparability) という特性がありl 6) 願客と企業の接点を如何に 提え,
質的に高いものにするかということが重視されたl 7t
必然的な相互 作用を効呆的,効率的なものに す る こ と は , サ ービス ・
コストを低下させ, より個別的で質の高いサービスの実現にっ
ながるということを体系的に明 らかにすることが, サービス ・ マ
ーケティングにおいては大きな課題の一
つであった
。
既存願客を維持することの経済効果が検討されたのも, そ う した流れの中であった。 Berry
が リレ
ーシ ョ ン シ ップ・ マ
ー ケ テ ィ ン グ を提起したのは, サ ービスという特殊な商品のマー ケ テ ィ ン グ と い うコ
ン テ ク ス トの
中であり, サービスの
本質的特性という理解の
中で, リ レーシ ョンシッブが願客にとっても必然的なものという理解があったと考えられ る。
こうしたBerryの視点を路襲しながらも,Gronroosはパラダイムと いう用語は使わないまでも, 従来のものとは異なるマー ケ テ ィ ン グ の あ り 方をリ
レ
ーションシップと関連づけて説明しているl8)。
彼はrelationship:definition
of
marketingとして,従来のマー ケ テ ィ ン グ の機能を拡張す る定義を行つている。
この点において,Gronroosはリレ
ーシ ョ ン シ ップ を サ ーピス ・
マーケティングのものからマー ケ テ ィ ン グ 全 般へ
と普通化 し, より多様な主体間の関係を想定した上で, リレ
ーションシップをマーl6) 生産
へ
の参加性とも呼ばれる。 詳細は Lovelock, Christopher H..
Ser-
vice Marketing ,Prentice
-
Hall,l984参照17) Lovelock,Christopher H
.
, ManagingSer,llices:Marketing,0pera-
tions
.
and Human Resources'', P r e ntice-
Hall,l988l8) Gronroos,C.
.
op.cit., l 9 9 08
-
26-
リ レ ー シ a ン シ ッ プ
・
ア プ o ー チの変通と新展開(l)ケ テ ィ ングの主たる対象と したのである
。
次に示す
のがGronroosの
定義である。Marketing is to establish,maintain,enhance and commerc -
ialize customer relationships
(often butnot necessarily always long term relationships)sothat
theobjectives of the parties
in-
volvedare met.This is done by a mutualexchange andfulfill -
ment of promises.
訳 : マー ケ テ ィ ン グ は , 願 客 と の リ
レ
ーシ ョ ン シ ップ (一
般に長期的であるが, 必ずしもそうである必要はない) を構集
・
維持・
活用する ことで, その
リ レーションシップに関わる主体の日的を達成すること を日指した活動である。
その日的は, 相互の交換と約東の
因. :
行によっ て達成される。こ
の
定義では, リレ
ー シ ョ ン シ ップの部分がそれでなければならない理 由が明らかではない。
相互の目的を達成することを日指すのであれば,
従 来行われてきたマス・ マ
ー ケ テ ィ ン グ や ト ラ ン ザ ク シ ョ ン ' マー ケ テ ィ ン グといわれるものでも同様である。
しかしこの
定義の意味は最後の一
文に あ る と い え る。
まず「
相互の交換」は,mutualbenefit(互恵性・
互酬性) を示していると考えられる。
Gronroosはこの定義の
補足として, リレ
ーシ ョ ン シップの維持
・
強化させる方向であらゆる資源が投入されねばなら ないと述べている。
企業が願客との取引に深く関与することで, より強い 願客のロイヤルティを引き出すという相互関係が, リ レーシ ョ ン シ ッ ブ を 取り上げる意義と考えられる。
更に注日されねばならないのが「約東 (promise)」 という用語である
。
これは彼の著 作 に 広 く 見 ら れ る 表 現 で あ る が , フィ ン ラ ン ド の 研 究 者
Calonius
が紹介したものとされている。
リレ
ーシ ョ ン シップは「約束」
の締結によ一
,,て構築され, 維持されるとされる。 「
約東」の内容は契約のように個別的
・
具体的ではなく,提供される商品・
サービスの保証はもと よ り , リレ
ーションシッブを維持していく上で必要となる情報や支援の提-
27-
9東北学院大学論集 経済学第l35号
供等を 「包括的に
」
含むものであり, 同様のものが買手である願客にもリレ
ーションシップに対するコミ ッ ト メ ン ト に 対 す る「
約束」
として課せら れ る と い う 構 造 を と る。
これは期間・
範囲を特定しないリレ
ーションシッ プに対するコミ ッ ト メ ン ト を , リレ
ー シ ョ ン シップの主体双方が実現する こ と が リ レーションシップを通じて目的を達成することにつながるという 考え方である。
また彼は,「約束」
が 締 結 さ れ る こ と か ら リレ
ーションシ ップが構築され,「
約東」が 実 行 さ れ る こ と で リレ
ーションシップが維持 され, それに基づいて新たな「
約束」
が結ばれることによってリレ
ーシ ョ ンシッブが発展するとしている。
この 考 え に 従 う と リレ
ーションシップの
成否
の
健を握るのは,「
約束」
と い う こ と に な る 。「
約東」 については逆説的であり, 定義としては良いものとは言い難い が, ここで注日すべきなのは,Gronroos が リレ
ーシ ョ ン シ ップを構築・
維持していくためには, 互恵性の原則を守りながら相互作用を行うことと 同時に, かなり社会交換的な支援
・ コ
ミ ッ ト メ ン ト が 求 め ら れ る と い う 点 を示したことにあると考えられる。
それは互恵性や相互作用というもの
が まだ経済合理性, 経済的交換の
範曙で提え得るのに対し, リレ
ーションシ ッブにはそれらに含まれない要素が不可欠であるという意味とも考えられ る。
彼の定義が注日されるのは, リレ
ーションシッブという必ずしも経済 合理的, 産業社会的といえない部分を持つ要素を, マー ケ テ ィ ン グ と い う 産業社会的な活動の核に据えたという点, 更にいうならばマーケ テ ィ ン グの
領域を非産業社会的な領域にまで拡大する可能性l 9 ) を 示 し た と い う 点l9) こ の 視 点 は い わ ゆ る ソ ー シ ャ ル
・
マ ー ケ テ ィ ングとは対象を異にするもの である。
非 ビ ジ ネ ス 領 城 に お け る マ ー ケ テ ィ ン グ の 応 用 に つ い て は , 社会変 革 キ ャ ン べ ー ンの実行という視点から, K o t l e r , P . a n d Roberto,E.
L.,,So
aa
lMarketing' , T h e Free Press,l989に詳しく組介されている。
ま た そ の 後 も 非 営 利 組 機 を 対 象 に し た 研 究 等 ( 例 え ば K o t l e r.
P . ,,Marketing for Nonprofit
Organizations',2nd .
ed.
,Prentice-
Hall,,1 9 8 2 や Lovelock,C
.
H.
and Weinberg.
C.
B.
, Marketing for Public and Nonprofit Managers , J.Wiley of Sons,l984)の中で,マ ー ケティング手法の応用範因の広さは確認されているといえる。
し か し こ こ/''
l0
-
28-
リ レ ー シaン シ ッ プ
・
ア プ ローチの変通と新展開(!)に あ る と 考 え ら れ る
。
間題はそうしたGronroosの指摘がマー ケ テ ィングのパラダイム
・
シ フトと呼べるものであるか, という点であるが, それにふれる前に彼が考 え る リレ
ーションシ ップの姿をもう少し具体的にイメージしてみたいと思 う。
まずカスタマイズされた製品を実現するために企業と願客が協力して 取 り 組 む と い うのはリレ
ーシ ョ ン シップ・
マーケティングの説明によく用 いられる例であるが, それは彼の説明に従えば最初の「
約東」 が履行され ている過程に過ぎず, リレ
ーションシップが構集されるかどうかはまだわ からない。
カスタマイズが上手くいって願客が満足し, その企業に対して 特別な信額を寄せ, 企業もアフターケア等の機会を通じて願客とコンタク トを持ち, 共に次の機会を期待しながら交流を続ける, と い っ た も のが差 詰 め リレ
ー シ ョ ン シ ップの
イ メ ー ジ と い う こ と に な る のだ ろ う が , それが 実現されるには幾つかの条件が必要になろう。
②
「
約東」 概 念 と リレ
ーシ ョ ン シ ップGronroosの考えるリ
レ
ーシ ョ ン シ ップは,識論の
前提にサービスがあ ることから,その端結に企業と願客の密接な相互作用があると考えられる。
「約束
」
という概念の中には, 願客が求める成果を実現するために, 企業 が 可 能 な こ と は 何 で も す る と い う ト ー タ ル・
プ ロ ダ ク ト 志 向 , 約 束 し た こ とは確実に成行する, という企業側に相対的に重いコ
ミ ッ ト メ ン ト が 期 待 さ れ て い る と い う こ と が 含 ま れ て い る こ と が 彼の
記述から何えるが, これ は理念的なものであり, 具体的なプロセスは示されてはいない。
しかし最 初の「約束」を創り上げる段階で,企業・
願客間の密接な相互作用が行わ れなければ, 願客の求める成果やその実現に企業が関与できる範囲, 関与 の仕方, 顧客の個別の事情等は明らかにできない。
従つてまず密接な相互、、, .
で取り上げた視点は, ビジネス活動の中で従来ではビジネスから排除されて きた, あるいは無視されてきたものを取り込むという点で特徴的であると考 え ら れ る。
-
29-
l l東北学院大学論集経済学第l35号
作用,
コミュニ
ケーションからスター ト す る と 考 え ら れ る。
「
約東」が成立するまでの相互作用は, リレ
ーションシップに含まれず, 新たな「約東」
が 結 ば れ る こ と か ら リレ
ーションシップがスター ト す る と Gronroosは提えているから, リレ
ー シ ョ ン シップ は 第 l の 「約東」の廠 行状況を評価する段階を経ねばならない。
従つて リレ
ーションシップは, 願客が評価する成果と, リレ
ーションシップを実現することで得られる価 値が共にある程度明示されていることが前提となると考えられる。
そして その成果が高く, リレ
ーションシップ実現の
効果が期待できる程度が高け れ ば , リレ
ーションシ ップは実現されることになるとされる。しかしリレ
ー シ ョ ン シップが「約束」
が履行されたことに依る信頼関係を基盤にすると い う こ と が 示 さ れ て い る 以 外 , 成 果 と リレ
ーションシップの強弱(長短) の関係や「
約束」 内 容 と リレ
ー シ ョ ン シ ッ プ の 強 さ ( 長 さ ) の 関 係 と い っ たことは示されてはいない。
また具体的な「
約束」
がない場合の
リレ
ーシ ョンシップの継続にっ
いても, 信額関係が維持されるという以外の記述は 見られない。
その点からG ronroosの定義が観念的なものであるという
批判は, リレ
ーションシップ・
マー ケ テ ィ ン グの
具体像を明らかにすると いう視点からは要当なものであると考えられる。
それでもGronroosのリ
レ
ーシ ョ ン シ ップの
成立条件を考えると, 次 のような幾つかのポイントを抽出することができる。
l
.
企業願客
ニ
ーズと自社のシーズの対応関係が明確に理解されていること 願客の個別的情報を獲得し, 選別して対応できる販売・
生産体制が あ る こ と願客の個別的状況を理解し, 調整できる能力を有する顯客インタフ ェイスが あ る こ と
その商品
・
サービスが柔軟性を持つて い る こ と個別的な価格設定が可能であること (個別的な原価管理が可能であ る こ と )
l 2
-
30-
リ レ ー シ●ン シ ッ プ
・
ア プP ー チの変通と新展開(l)・
企業として個別的な願客対応を推進していける体制が整つているこ と2
.
願客自 ら
の
目 指 す 成 果 (ニ
ーズ)が明確であり, それを発信できる能力 が あ る こ と企業と直接接し, 自らのニーズを説明し,調整する
コ
ミュニケーシ ョン能力があること個別対応型商品の価格に
っ
いて, 適当な理解を持つて い る こ と (通 常より高額になる可能性が大きい)3 .
商品・
サ ービス
リ
レ
ーションシップという長期的な関係を結ぶメリットが活きる商 品であること(適当な購買頻度,接触頻度)こ こ で 抽 出 し た ポ イ ン ト は , 今日いわれているリ
レ
ーシ ョ ン シ ッ ブ・
マー ケ テ ィ ン グの具体的な機能内容と限定要素と
一
致していると思われる
。
「顧客の特性を限定し, 企業のシ
ーズをその特性に適合するところに 集中させることで, 限定的ではあるが, 確実に願客満足を高めることが可 能であり, それが相互に有益なリレーシ ョ ン シ ッ プを生み出す。
しかしそ う し た リレ
ーションシップが有効になる領域は,願客が積極的にコ
ミ ッ ト する高関与型の商品・
サービス
に 限 ら れ た もの
で あ る。」
と い う の が , リレ
ーションシップ・
マーケティングに対する一
般的な意見ではないだろう か。
そ し て リレ
ーションシ ップの生み出す価値が,新旧の調査の再検討か ら明らかにされてきたことで, リレ
ーションシッブの構築は多くの企業に とって積極的に取り組むべき課題となったといえる。
例えば利用度に応じ て キ ャ ッシュ
パ ッ ク す る と い っ た サ ービスがあらゆる業界で行われるよう になり,文字通り情報技術を活用した顧客「囲い込み」 が リレ
ーションシップ
・ マ
ーケティングの最も具体的な例となっていったといえる。
Gronroosの定義は, リ
レ
ーシ ョ ン シップ・
マー ケ テ ィ ン グ に 関 す る も のの中でも最も観念的と思われるものである。
しかしその包括的な視点故-
3 l-
l 3東北学院大学論集経済学第l35号
に,
Kotler
2D) 等に影響を与えたと考えられる。
今日様々な研究者, 実務 家が考察を加え, リレ
ーシ ョ ン シップ・
マーケティングはより概念的にも 整備されたと考えられるが, その実は彼の描いたリレ
ー シ ョ ン シ ゛ソプの姿 から演得的に導き出せるものである。
更に情報システムの利用という課題へ の l a
斜 は , そ れ が リレ
ーションシップ ・ 一 、
'ーケ テ ィ ン グの実現上重要な 意味を持つことは疑いの
ないところではあるが, リレ
ー シ ョ ン シ ップの有 効性を普遍化させるために用いられた実務面からの拡張であるということ が で き よ う。
そしてそれは,リレ
ーションシップの持つ意味を経済合理的, 産業社会的にの
み評価した結果でもある。
事実,G r onroos
が指摘した信 額といった概念は, 企業や担当者, 商品に対する強いロイヤルティといっ た従来の意味以上に解釈されることはなかったし, 具体的な取引 (「
約束」
でもよい) を伴わないリレ
ーションシップは考察の対象とされることはほとんどなかった
。
Gronroosの行つたマーケ テ ィ ン グ を リ
レ
ーションシップという視点か ら再考しようとする試みは,大きなインバクトを持つて伝えられているが, その
内容は少なからず歪曲された部分があるといえる。
歪曲という表現が 不適切であるなら, 今日のマーケ テ ィ ン グ・
パラダイムの中に, それを評 価する視点が欠けているといえよう。
それが彼の定義を,マ
ー ケ テ ィ ン グ パラダイムのシフトを指摘するための礎としている理由であると考えら れるが, 現パラダイムに大きく依存している産業社会の
中で新たなパラダ イムの特質を明らかにしていくことは容易ではない。 Gronroos
自 体 , こ の定義をサービス ・
マーケティング領域でのコア・
コンセプト的なものと して象徴的にしか用いていないこともあり, リレ
ーシ ョ ン シップがパラダ イム・
シフ トの根幹にある概念といわれる理由については詳細に考察され ていない。
と も す れ ばコ
ミュニケ ーションや相互作用,信額,相互理解と い っ た リレ
ーションシップに対する相互のコミ ッ ト メ ン ト を 示 す よ う な 用 語が多用され.
それによってリレ
ーションシップのイメージが固定化され 20) Kotler.
P..
'Marketing Management', 8th. ed., Prentice-
Hal1, l994l4
-
32-
リ レ ー シ●ン シ ッ プ
・
ア プ ロ ー チの変通と新展開(l)つつあるような印象も受けるが, 現段階ではリ
レ
ーションシップが新たな パラダイムのコア・
コンセプトなのか, 現パラダイムの中での交換形態の メ タモルファ ーゼなのかといった間題は未解決なままである。その間題についての解答は, リ
レ
ーションシップをもう少し分析的に理 解し, 現パラダイムの中での比較を経て, 明らかにされることになろう。
1 - 3 .
交換関係おの歴史的考察リ
レ
ーションシップという概念がパラダイム・
シフトの核に位置づけら れる理由は, 従来の文献の
中には明確には記されていない。
大きな組裁的 戦略的変更を求められるため, といった意見も見られるが, 願客の
視点 から包括的に商品・
サービスを検討し直し,従業員の「真実の解間」
2 l ) における役割に注目し, 組機的な支接体制の
変更などは, 80年代後半から 既にサービス ・ マ
ネジメント分野で指摘されていたが, その時にはパラダ イム論議が生じることはなかった。
それが今パラダイム・
シフトといわれ る理由はなぜだろうか。
G ronroosの定義に見られたrelatio ns hip
という抽象概念に多くの研究 者が呼応した。
それは現実の市場現象を解明する上で,relationship
とい う概念が新しく, また有効であったからであろうし,研究者それぞれが感 じていた従来の手法の限 界 と そ こ か らの
飛展をその概念に見たからであろ う。
サービス・
マーケ テ ィ ン グへ
の関心の高まり,そして計量的分析に終 始していたマーケティング研究の中に, 取引の人間的, 心理的な側面を重 視するNordic S c h o o l の イ ン パ ク トのある研究成果がNormann やGronroos
によって紹介されたこと, 実務界におけるサービス ・
ク オ リ テ ィ向上プーム・
願客満足ブーム22)が.
リレ
ー シ ョ ン シップに対する関心21) Ca!lzon, J
. .
'Moments of Truth°,Ballinger.
l98722) このプームでは,Normann やAlbrecht等, 1●ン サ ル タ ン ト が 大 き な 影 響力を有していた
。
彼らの論理的青最にあったのは, Nordic Schoolの考 え方であり, それは題1客視点からの発想を組機的に展開するという特徴を/'
'-
33-
l 5東北学院大学論集 経済学第l35号
が高まった時代背景として考えられる。
Kotlerは早くからリレー シ ョ ン シ ップ
・ マ
ーケティングに関心を示し, Gronroos同様,リレ
ー シ ョ ン シ ップを核としたマーケティング観を示し て い る。「マ
ー ケ テ ィ ン グ と は , 顯 客 や そ の 他の利書関係集団(stake -
holders) との関係を, その全集団の日的が自社の収益を満足させ得るよ う に , 確 立
・
維持・
発展させるビジネス ・
タ スク で あ る 」 と い う の がKotlerの
リレ
ーションシップ・
マーケティングの定義a)で あ る が , こ れ は彼自身が述ぺているとおり, Gronroosの定義に従つたものである。
リレ
ーションシップの
範国を顧客やその他の利書関係者集団と特定した点, 収益についてふれた点でマーケティング活動の定義としては具体性を增し ているが,Gronroos
同様, リレ
ーシ ョ ン シ ッ プという新しい概念が単発 的な取引を対象とするマーケティングを越えたものとして必要になるとい う意識が見られる。
但しそれが特定の業種や商品に限定的なものなのか,
普通的なものなのかという点については,Marketing Management の
構成の変化から2o, Kotlerは普通的なものとして考えているであろうと いう推測はできるものの明示的ではない
。
リ
レ
ーションシップがパラダイム・
シフトのコア・ コ
ンセプトであるか どうかという答えに直接結びっ
かないかもしれないが, リレ
ー シ ョ ン シ ッ プという概念が登場してくる背景を把握しておくことは有益であると思わ れる。
ここでは, 次の2つの流れにっ
いてレビューすることにする。
、、 .
有していた。
Albrecht.
K.
, At America'sSe
rvice', Dow Jones-
Irwin,,l988
23) Kotler,P., op.cit
.
l99424) リ レ ー シaン シ ッ プ
,
交換・
取引-
リ レ ー シaン シップの分類.
あるいはlll レ ー シ g ン シ ッ プ
・
マーケティングという用語がKotlerの'Marketing Management' や Principles of Marketing'に本格的に登場したのは,, 92年頭からである。 Marketing Management第8版に至つて.
マ ー ケ テ ィングの基本・lf念 と し て 紹 介 さ れ る よ う に な り
.
そのウ'
'イ トは確実に高まって い る と い え る
。
l 6
-
34-
リ レ ー シ ョ ン シ ップ
・
ア プP ー チの変選と新展開(l)① 交換に対する関心
売手と買手の間で行われる交換を容易にすることがマー ケ テ ィ ン グ の 目 的 で あ る と い うのは, AMAの定義を持ち出すまでもなく, 広く認められ ている見解であろう
。
この交換に対する認識を最初に明確に示したのは, Aldersonであると考えられる。
Aldersonはマー ケ テ ィ ン グ 研 究 の あ ら ゆる領域に多大な影響力を残している。
彼はマー ケ テ ィ ン グ を シ ステ ム と して捉え,異質市場(heterogeneous market)における価値の交換の実 現をマー ケ テ ィ ン グ の 目 的 と 考 え た25。 Aldersonの
視点は,シス
テムと してのマーケ テ ィ ングが, 異質的な市場の中で, 異質的需要に異質的供給 を適合させていく過程で生じる諸機能がどの様に形成されていくかという 点にあると考えられる。
応用経済学の 一
領域としてマーケ テ ィ ン グ が 捉 え られる風潮の中で, 市場の異質性を特定し, 交換を実現する状況を作り出 す活動の体系としてマーケティングを位置づけたことは, その後の研究に とって重大な示唆を与えるものであったと考えられる。
交換についてのマーケティング研究の匯史を続けると, Aldersonに続 く新たな視点を示したの
がMcInnes
26)で あ る と 考 え ら れ る。 McInnes
は, 生産者と消費者の間の
潜在的な市場関係を活性化することがマー ケ テ ィ ン グの
タス
ク で あ る と し て い る。
また彼は市場は生産者と消費者が二一
ズ や ウ ォ ン ツ の 充 足 を 目 指 し て 行 う 社 会 的 交 換 (
socialexchange
) か ら 生ずるとしている。
彼の考えを総合すると, マーケティングの対象は単な る経済的取引としての交換ではなく.
社会的な要素をも含むものであると い う こ と に な る。
25) Alderson, W . , T h e AnalyticalFramework for Marketing
.
in1lll
larketing Classics,8thed .
, E n i s , B.
M.
,Cox, K . K.
and Mokwa.
M . P
.
eds.
Prentice-
Hall.
l995,pp.22-
32, (Reprinted from Con-
ference of Marketing Teachersfrom Far Westem States
.
Duncan.
D.ed
.
,Berkeley:Universityof Califomia,l958,pp.l5-
28)26) McInnes,W
.
, A ConceptualApproach to Marketing',in Theory in marketing,Cox,R. .
Alderson.
W . a n d Shapiro.
S.
J . e d s .,,Richard D.Irwin,1964,pp.51
-
67-
35-
l7東北学院大学論集 経済学第l35号
Alderson
の組織行動システムの概念27)は, 共通の利害関係を持ち, 市 場と相互作用することによってマーケティング過程を進行させるものとさ れている。
企業と家計が主要な組織行動シス テムと考えられているが, 組 織行動システム内の相互作用に関しては, 「利益と生存を極大化する」 た めのあらゆる社会的交換を含むものと推定される。 しかし異なる組織行動 システム間の交換は, 品揃え形成などのマーケティング機能の発現によっ て実現される異質的・
需要供給の
適合のための経済的交換であり, そこに は社会的交換という概念は見いだせない。
後に Aldersonが示した 「交 換法則」
28) を見ても, 行為者自体の知覚や選好が最適な交換を決定する 上で重要であることはふれられているが, 直接社会的な価値(思い入れ等) が交換対象となるとは考えられていない。
その点で,McInnes
が社会的 交換を生産者と消費者の
間の交換に認めたという点は, 大きな意味があると考えられる
。
し か し M c I n n e s は , 空 間 , 時 間 , 知 覚 , 評 価 , 所 有 権の5つの次元が あ り , そのそれぞれについて生産者と消費者
の
間で分離が生じていること から交換が発生するとしているが, そこには社会的交換の社会的という部 分は特にふれられていない。
それが明示されるのは,Kotler
のl972年の 論文29) においてである。
Kotlerはマー ケ テ ィ ン グの核となる概念は取引であるとし, 取引を2 主体間の価値の交換と定義した
。
そしてその価値は, 財やサービス, 貨特 を含むものの,それに限定されない。
例えば時間やエ
ネルギー, 感 情 な ど の 資 源 も 含 ま れ る と し た。
Kotlerは交換の発生メカニズムに関してはAlderson
のものを継承していると思われるが, 生産者や消費者を交換に 27) Alderson,W., Dynamic marketing Behavior:A FunctionalistTheoryof marketing ,Richard D
.
Irwin,Inc., l 9 6 5 , p p.
25-
4528) Alderson,W
.
and Martin.
M.
W. .
Towards a Form
alTheoryof-
Transactions and Transvections
.
Journalof Marketing Research,2(May),l965
.
pp.1l7-
l2729) Kotler
.
P., A Generic Concept of Marketing', Journalof Marketing.
36(April).
l972,pp.46-
54l 8
-
36-
リ レ ー シ g ン シ ッ プ
・
ア プPーチの変通と新展開(l)向かわせる動機については遥かに幅広く提えていると考えられる
。
また明 確な価値物だけではなく, 価値があると認知されるものが全て交換対象と な る こ と を , Kotlerは指摘しているといえる。
そしてマーケターは交換 される価値の対象を幅広く捉えることが重要であり, それが交換を促進す る上でのマー ケ タ ーの役割であることを指摘している。
Kotlerが社会的な価値を広く交換の対象と提え, 取引という価値交換 を通じて, そうした価値の增大にマーケティングが関与するという視点を 示したことは, 交換をマー ケ テ ィ ン グ の主要な研究領域とし, 議論の材料 を提供したという点で大きな意味を持つと考えられる
。
Kotlerが, ソー シャル・
マー ケ テ ィ ン グ , 非営利組織のマーケ テ ィ ン グ と マー ケ テ ィ ン グ の領域を拡大させていった背景には, こうした広範なマー ケ テ ィ ン グ に 対 す る ビ ジ ョ ン が あ っ た か ら と 考 え ら れ る。
Kotlerに至つて,交換は,マーケティングの研究対象として明確な位 置づけを得たわけだが, 社会的交換という概念を取り込んだことで, マー ケ テ ィ ン グ 独 自の交換概念に
っ
いて, より明確にしていく必要に迫られる こ と に な っ た。
しかしこれまでの研究は,マ
ーケティングが交換ないしは 取引をその研究対象とすることについて, あるいはそこから得られるマー ケ テ ィ ン グ・
システムの機能的変化について, マーケティング研究の程野 を広げることには貢献したものの, それは交換という現象それ自体に言及 したに過ぎなかった。
その因果関係を特定し, 理論体系を整備していくた めには,Bagozzi
の研究を待たねばならなかった。
Bagozziは,それまでの断片的,記述的な交換研究を批判し,社会的 行為者間で結ばれる交換関係の論理的解明に取り組んだ最初の研究者とい われる
。
非マ
ーケティングの理論を積極的にマーケティングに取り入れ, マー ケ テ ィ ン グの主たる研究対象である交換を体系化していった。
その端 結は,l975年の
論文である3ll1。
, その中で彼は,交換が従来いわれているよ 30) Bagozzi,R.
P.,'Marketing as Exchange', Joumalof Marketing,Vol.39(0ct.)
.
l975.
pp32-
39-
37-
l 9東北学院大学論集 経済学第l35号
う な 2 主 体 間の取引に特定されないこと
.
間接的な取引もあり得ること, 無形財や象徴が取引の対象となりうることなどをあげ, 交換概念を拡張する必要を訴えた
。
交換の
タイプ, 交換の手法や意味が紹介されているが, 数多くの心理学や行動科学の概念が取り入れられており, 取引の実態に即した理論構築が日指されたと考えられる
。
彼は, 人や組截はなぜ交換関係に入るのか, 交換はどの様にして生まれ, 解体し, あるいは回選されるのか, という基本的な2つの課題を提起して い る
。
この
間題に対する回答は未だに明示されてはいないが,マ
ーケ テ ィ ング領域において独自の
解答を示すことが必要であることを指摘したのがBagozzi
だ っ た と い え る。
同論文において最も注日されるのは,
SocialMarketing
に関する記述 の部分である。 こ こ で この
テ ーマが取り上げられているのは, 同論文で彼 が指摘した交換の
性格や意味をより明示的に示すという日的故と考えられ るが, 同時にそれはあらゆる社会関係の中に交換が存在し, あらゆる社会 関係にマ
ー ケ テ ィ ン グ が 関 与 し う る と い う こ と を 示 そ う と す る 彼 の 意 識 の 現れであると考えられる。
また彼は, 交 換 関 係 (exchange
relationship) の一
部には継続的に行われるものもあるが.
それはどの様な理由に依るの か, という間題を提起している。
これは, 今日の
リレ
ーシ3ンシップにも 直接つながるものであると考えられる。
さ ら に Bagozziは,l978年の論文3 l )において,交換を社会的活動と捉 え , マーケティング交換関係についての新たな視点を示した
。
それは社会 関係の中に位置づけられる交換という彼の交換に対する視角をより特徴的 に示したものと考えられる。
彼は,交換は買手と売手の刺激・
反 応 と い う , 交換主体単独の行為として捉えるべきではなく, その交換関係固有の「社 会的活動」であると規定した。
交換の
結果は, 交換の
ために行われる交渉3 l ) Bagozzi, R.
.
Marketing as Exchange:A Theory of Transactions in the Marketplace'.
American BehavioralScientist,2l(March April) 4,l978,pp.535-
55620
-
38-
リ レ ー シ●ン シ ッ プ
・
ア プ ロ ー チの変通と新展開(l)や駆け引き, 売手と買手の力関係や
コ
ン フ リ ク ト, 両者間で共有さえた意 味に依存しているという点において, その交換関係に固有のものであろう と い うの
が, 彼の視点である。
この指摘の背景には, 社会学の社会的交換 理論の影響があるのは明らかであるが, 交換という行為とその背景にある 交換関係を明確に分離したことは, Bagozziの大きな功績であると考え られる。
そして彼は,交換関係を社会的行為者(socialactor)変数(行 為者自身の魅力,類似,専門的能力,プレステージ等),社会的影響変数 (コ
ミュニケーション,共有された情報等),状況変数(代替手段の存在, 法的規制や社会規範等) の3変数の関数であるとした。
そしてそれを受けて,l979年の論文32)で,Bagozziは交換を「結果, 経 験 , 行 為」の3点から概念化を試みた
。
交換の
結果,交換に伴う経験, 交換行為がそれぞれマーケティングの分析対象になることを指摘したこと は , マーケ テ ィ ン グ の一
般 理 論 と し て 交 換 理 論 を 位 置 づ け よ う と し たBagozziの意欲
の現れと考えられる。
リ レーションシップを考える上で,Bagozziの最大の功績は,交換が 交換関係固有
の
ものであるという点を指摘した点である。
長期継続される 交換関係とリレーションシップと呼ばれる概念はどの様な相違点があるの か, と い うのは極めて大きな間題であるが, その考察の論理基盤を提供し てくれたのがBagozziであるといえる。
Bagozzi以降も
,
交換に関する研究はHunt等の手によって進められ ているが, ここでは省略する。 Bagozzi
が交換を関係固有のものと規定 したことは,交換を単純に短期的,単発的な取引と捉え, リ レー シ ョ ン シ ッブという長期的関係と対比することは困難になった。
リレ
ーシ ョ ン シ ッ ブが広義の交換と異なるとするならば, より分析的にその特徴を明示して い く こ と が 必 要 に な る と 考 え ら れ る。
32) hgozzi, R
.
, Toward a FomalTheoryof Marketing Exchanges'.
in Conceptualand TheoreticalDevelopments in Marketing,Ferrell, 0 . C . , B r o w n , S
.
W . a n d C . W . L a m b , J r . e d s . , A m e r i c a n MarketingAssociation, l979,pp.43l-
447-
39-
21東北学院大学論集 経済学第l35号
交換に関するマー ケ テ ィ ング理論は,
Bagozzi の 一
般理論化へ
の取り 組みがあったにもかかわらず, 幾つかの重大な課題に独自の回答を与えら れていない。
なぜ交換関係に参加するのか, 交換関係はどの
様に創られ, 維持され, 発展し, 解消されるのか, 交換される価値はどの
様に創られ, どの様に認知さえるのかなど, およそ根本的とも思われる間題が不明なま まである。
その理由は明らかではないが, この理論が整備されてくるのと 期を同じくして, マネジリアル・ マ
ー ケ テ ィ ン グの理論が体系化され, 支 配的地位を得るに至つ た こ と が あ る と 考 え ら れ る。
不明なまま残された間 題はいわば商学的間題であり.
マネジリアルな色彩を強めるマー ケ テ ィ ン グの中で, 所与, ないしは環境変数の一
つとして実態のないままに取り残さ れ た と 考 え ら れ る
。
Alderson以来, 交換の理論は交換主体の
人間的性 質を重視してきた。
社会学や心理学からの概念の借用は, その伝統とは無 縁ではないであろう。
リ
レ
ーションシップという概念に対する注日は, 合理主義的, 機械的なマ
ネジリアル・ マ
ーケティング, そしてそれを主導してきた産業社会に対 する批判的な意味合いもあるのではないだろうか。
無論, 交換理論の発展 形として, その本質的課題へ
の挑戦という側面も十分に考えられるのであ る が.
再度マ ネジリアル・
アプローチに成果をフ ィ ー ド バ ッ ク で き る よ う なものに し て い く こ と が , 今後の交換理論の役割であるといえよう。
②Nordic
Schoolの視座Nordic
Schoolは, リレ
ーシ ョ ン シップ・
マー ケ テ ィ ン グ と い う 概 念 の成立に深く関わっていると考えられる。 Nordic
S c h o o l は , サ ーピス マー ケ テ ィ ン グ , サ ービス ・
マネジメントの分野において,Gronroos やNormann,Gummesson,H
数ansson等を中心に,特にサービスの人 間的側面からサービスの質的向上, 統合的管理を目指した学派といえる。
サービス文化, インターナル
・ マ
ーケティング等, 彼らによって示された 新たなアイディアは,実務界を中心に大きな支持を集め, サ ーピス研究に22