支持体(石膏地)研究による写実油画表現
教科領域教育専攻 芸術系(美術)コース 西 山 貴 浩
要旨
I研究の目的
人物は他の対象に無い性格や考えなどを 伝える。その時に、感じ得た情報を、どう
にか絵に表現できないかと考えるようにな り、次第にモデルと向き合う時間が増えた。
それにともない、数多くの感じ取った情報 は細部にまでいきわたり、おのずと細密描 写にこだわるようになった。
今回の制作では女性を対象とする。男性 に無い女性の持つ、しなやかな美しい体形 は圧倒的な存在感を生み、画面上で構成さ れる静物や風景などの対比がより強く表現 される。そして、人物の内面から汲み取り 表現できるようにし、新たに用いる古典技 法と石膏地をうまく合致させながら作品の 完成度を高めたい。
H研究の方法
人物表現の制作を行う上での重要なもの が細密描写であると考える。支持体では綿 密描写がより引き立つような支持体を制作 することが求められる。それは即ち、下地 の段階から完成を見通しながら、フラット なマチエーノレの中にも対象を意識した、に わかに変化した表面を作ることである。い ざ、描き込みに入るまでに、複雑な工程を 踏むことにより、絵の具は人体の表情を生 み、命が吹き込まれるのを感じるロ一見、
無駄に思われる下層の木炭・鉛筆の細密描
指導教員 鈴 木 久 人
写も、一つ一つが繊細な線となる。後の中 層のテンペラでは表現できない、対象の位 置関係を補助し、薄く塗られる上層にある 油画の難しい明暗の変化にしっかりと現れ ているのである。しかし、人物以外の背景 の対象における差別化として、描画時の工 程に多少の変化を生じさせことが必要とな ってくる。さらに上層、油画での違和感を 補正する必要がある。それにより新たな、
材料を文献研究により導き出し、自己の制 作研究の指針とした。自分なりの絵画材料 研究により、制作に生かすこととした。
直人物・写実表現の特質
主に、人物を中心とした写実画家の特徴 などをみることにより、以下の3点につい て述べることができる。現段階での私の考 える写実表現とは、①情報伝達の変化=絵 画は昔、情報を伝達する役割をしていた。
しかし現代では、写真などの普及により写 実絵画の在りょうが変化している。ワイエ スなどの画家が天才といわれるのは写真を 超えた新たな美意識が生まれたことを、意 味している②美意識による自分探し(物語 性=美意識には、絵画美、景観美、などの さまざまなものがあるが。私の考える美意 識とは、対象から自然と感じられる、象徴 的な美しさである。対象が、どのような状 況におかれ、何を伝えているのか、それが 制作者を通すことで、絵画でなければ感じ
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られないものが生まれる)③視覚的イメー ジの結晶(精神的密度=現代の写実表現に は視覚情報をすべて研究し描く方法と、研 究した後、必要な情報のみを描く方法があ る。精神的密度はどちらも共通すると考え る。)
N制作における人物表現 1エスキース
テーマに沿い女性モデルを撮影し、あら かじめ撮り貯めていた背景やデ、ッサンなど を基にエスキースを作成する。
2支持体制作
エスキースに合わせ板を作成し、日止め には謬を使用しその上に 10パーセントの 謬を調合した石膏地を 2回繰り返し塗り重 ねる。間めに調合した石膏地を 3回目に塗 り重ねる。そうすることによりサンドペー ノぐーをかけたときに、人物に最適なフラッ トなマチエール左、背景や木材などに扱う 凹凸のあるマチエールが生まれるのである。
3
下書き下書きの状態から細部にこだわり、写実 表現を行う。このときは硬い鉛筆と、木炭 を練りこませるようにしっかり描くo この とき大体の明暗をつけておくo フェキサチ フで定着させる。このあと 7パーセントの 謬水を石膏地に塗る。光沢を持つ表面がう
まれる。
4油彩(インプリマテゥーラ)
調合した油と油絵具を
3:1
の割合で溶 き画面全体に最初の油絵具を載せる。この 作業により、主張色を決定するだけでなく、人物の肌質にあった油絵具をのせることに より効果輸に上層段階に反映される。
5テンペラ
おおまかに人物の表情を読みハッチング
を行う。人物の細かな鍛の表現などの質感 を生むことが出来る。
6油画(おおまかな表情を描く)
背景と人物に不透明色を塗る。対象固有 の量感を表すことが出来る。この作業によ
り立体感が生まれる。
7練りこみテンペラ(グラッシュ)
工程6での油絵具が主張しあい若干落ち 着きがないため画面を統一させる。速乾性 である、練りこみテンペラに顔料を加えた ものを水で希釈し全体に塗り分ける。この ことにより、適度に奥行きが生まれ油絵具 が画面に定着する。
8油画(仕上げ)
人物の細部を仕上げる。人物の体温を感 じるよう部分的に油絵具の透明色によるグ ラッシュにより温かみを出し、細部を面相 筆により仕上げる。
V今後の課題
人物を制作していくにつれて、前項目で の、技法効果により、幅広い表現が可能に なったのを実感している。今回の課題でも あった古典技法を駆使した結果、複雑な職 人のような細密描写の中に、表現意図に応 じた効果が現れ的確に描画材を扱うことが 出来た。今後もさまざまな絵画技法を研究 し、より表現の幅を広げていけるよう勤め ていきたい。しかし、絵をみて絵を考えて いる傾向があり、独自性に欠けているよう に思われる。それらを改善するために、石 膏地・練りこみテンペラを始めとして更に よい表現を研究する必要がある。今後も引 きつづき、人物を対象として時代を風刺で きる人物作品を描いていきたいものである。
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