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個から全体に広がる表現追究

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Academic year: 2021

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個から全体に広がる表現追究

著者 芝 幸弘

雑誌名 福井大学教育実践研究

巻 32

ページ 121‑125

発行年 2008‑01‑31

URL http://hdl.handle.net/10098/1655

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1.はじめに

!2年冬の題材を受けて

2007年3月,修学旅行先の横浜にて,創作音楽ドラマ

『私達の手で −未来のために−』を上演した。これは,

子どもたちが「万博」をテーマに2年間学習してきた総 合的な学習の集大成であり,福井の活性化を図り奮闘し ている人達の取り組みやその実情を調べていった中で

「今、自分たちが未来に向けてできること」をテーマに 創り上げた作品である。音楽科では,それを受けて「音 楽を協働的・主体的に創る喜びを感じること」「感動体 験を共有し音楽性を高める」ことをねらい,曲の創作・

表現の追究に取り組んだ。この上演に対しての評価は大 変高く,発表会場の担当者からは次年度の上演も依頼さ れたほどである。しかし,子どもたちの自己評価は意外 に厳しく,「もっと自分たちの想いを伝えたい」「より質 の高い音楽表現を目指したい」と更に高いレベルでの作 品の実現を目指した。

"作品としての完成度を高める

毎年6月中旬に行われる連合音楽会。そこでの発表に 向けて,40分ある作品を10分にまとめなければならない。

前回の活動において台詞や全体の流れといった構成につ いて十分吟味したものを,時間制限等更に厳しい条件の 中,一体どのようにすればより聞き手に感動を伝えるこ とができるのかを考え再構成していく。「配役や台詞の 精選」「舞台での動き」といった構成面での追究,「感動 を伝える」ための表現面での追究という2つの活動を軸 に学習を展開する。

構成面での追究においては,時間制限は勿論であるが 次の2つのことを重視して取り組ませる。まず第一に作 品に込めたメッセージの保持である。台詞や音楽の短縮

が,内容の軽視につながらないように留意する。次に,

「全員参加」を意識した構成にすることである。本題材 のような作品の場合,ストーリー性や台詞の関係上,一 部のキャスト中心の構成になりがちだが,それを最小限 に抑え「全員」での活動や演奏を増やすことにより,個 人の意識向上や感動につながると考える。

表現面の追究においては,「伝える」ことの難しさを 実感し,その具体的解決策を見出していく。そこで構成 の際にこだわった「言葉」に焦点をあて,ニュアンスや イントネーション,更には子音や助詞の扱いにまで追究 のレベルを深め,こだわりをもって,より立体的な音楽 作りを目指すことが,本校音楽科の核となる学び「感動 を音楽表現に高めるプロセスを大切にする」につながる と考えた。

2.学びの姿

!3年生になり,音楽文化の担い手になったことを実感 する。(第1時〜2時)

3年生最初の授業は,『Gloria』(モーツァルト「戴冠 式ミサ」より)の音取りから始まった。(※『Gloria』

は,合唱祭〈文化祭の中に位置づけ〉の中で,毎年3年 生の学年合唱曲として歌い継がれており,この曲を歌う ことが一つのステータスのようになっている。)まず最 初に昨年の3年生の演奏を鑑賞した。子どもたちからは

「すごい!」「早く歌いたい!」との声があがる。そこ で,簡単にラテン語の読み方を説明した後すぐにパート 練習に入った。各パートごとに,リーダーを中心に生き 生きと活動を始めたが,どのパートもラテン語という言 葉の壁と曲そのものの難しさに苦労していた。それでも,

途中教師の支援をうけながら,どのパートも最後までき ちんと音程が取れたようである。全パートが音取りを終

個から全体に広がる表現追究

福井大学教育地域科学部附属中学校 芝 幸 弘 教育実践報告

福井大学教育地域科学部附属中学校(以下「本校」という)では,第2学年の3月に修学旅行を実施 している。その中で,総合学習の一環として,子どもたちは1年生の時から学んだことや経験したこと を創作音楽ドラマという形で発表する。本研究では,一度上演された創作音楽ドラマを福井市連合音楽 会(毎年6月中旬に実施)に向けて再構成していく中で,「自分たちの想いを,もっと伝えたい。」「聴 いてくれる人達に感動を与えたい。」という子どもたちの気持ちを受け,日本歌曲での表現追究を通し,

新たな視点から表現力を高めていく。グループでの楽曲分析や意見交換を通し「言葉」の大切さに気づ き,言葉を大切にした表現を個人発表・相互評価で追究・確認することにより,聴き手により深く自分 たちの想いを伝えることができるようになる。子どもたちは個の学びが全体の表現力向上につながって いくことを実感していく。

キーワード:感動,表現追究,日本歌曲,言葉,個人発表・相互評価

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えた段階で,「一度合わせてみたい」との声があがり,

伴奏者のピアノに合わせて初めて『Gloria』が合唱され る。途中,何度もつまずきながらもなんとか最後まで歌 いきったところで,子どもたちから歓声があがった。そ んな子どもたちに今後の目標としてプロによる演奏(D VD「カラヤンの遺産」より)を見せたところ「格が違 う」「すごい」との声があがった。

!連合音楽会に向けての課題と解決策を探る。(第3時)

6月中旬に開催される連合音楽会に向けて,現状の確 認と今後の課題についての話し合いを行った。連合音楽 会実行委員からは「前回の音ドラの時よりも一人一人の 意識が低下している」との声があがる。それを受けて,

子どもたちは一生懸命歌おうと頑張るが,なかなか前回 のような満足感のある歌が歌えない。そこでその原因に ついて考えていく。

教 師「どうして満足する歌が歌えないの?」

安 子「本番に近くなれば良くなると思う。」

教 師「今の歌と前回の音ド ラ と で は 何 が 違 う と 思 う?」

安 子「緊張感がない…」

晃 太「感情がこもっていない。」

教 師「じゃあ,前の演奏を超えるためには,これから どうすればいい?」

篤 夫「一人一人の意識を高める。」

教 師「それは一人一人の意識が低いってこと?」

篤 夫「キャスト以外のみんなの意識がまだ低いと思う。

全員がもっと真剣になれば良くなると思う。」

教 師「そうすれば今までの作品を超えられる?」

篤 夫「…あと技術かな」

教 師「技術って?」

篤 夫「発声とか歌い方の工夫とか」

教 師「他にない?」

安 子「歌詞の分析とか曲の分析とか…」

前回の演奏を超えるためにはどうすれば良いか話し合 っていく過程で, 気持ち 以外に歌唱力の向上など具 体的な解決策が見えてきた。

"日本歌曲「花」の表現を追究する。(第4時〜6時)

「花」の表現追究の意味をつかむ

前時に話合った内容を受け,「個人レベルの意識・技 術の向上」が今後の課題であることを確認した。その上 で教師から「花」(作詞:武島羽衣 作曲:滝廉太郎)

での表現追究を通し,連音で歌う曲の表現力向上を図る ことを提案した。

最初全体で「花」の音取りをした後,Sop.・Alt.・Ten.

・Bassのグループ(各パート一人)でハーモニーを確 認する。重唱では「音程が分からなくなる」「歌い辛い」

という意見も出たため,全員が主旋律を一人で歌うこと にした。更にグループ内でペアを作り,個人発表・相互 評価を行った。相互評価では,最初ほとんどの生徒が「姿 勢が悪い」「声が小さい」などの初歩的なアドバイスに 終始していた。そのため,「詩や曲に込められた想いや 情景」についてグループで話し合わせ,歌詞や曲想にも 視点が広がり,それをもとに評価しアドバイスができる ようになることをねらった。

グループで話し合う中で,歌詞や曲想から感じたこと を表現しようとする意識が芽生えてきた。そこでA「ウ ィーン少年合唱団」とB「鮫島有美子」が歌う 椰子の 実 を演奏者を伏せて聴かせた。

教 師「どっちの方が曲の情景や気持ちが伝わってく る?」

晃 太「Bの方」

教 師「どうして?」

晃 太「なんか寂しげな感じが伝わってくる。あと,A は日本語じゃないみたい。日本人じゃない?」

みんな「そうそう!」

教 師「晃太君の言うとおりです。Aはウィーン少年合 唱団です。」

みんな「やっぱり!」

教 師「Aの方が伝わってきたっていう人はどうしてそ う感じた?」

雄 一「なんとなく…」

悠 香「ハーモニーがいい」

教師との対話の中で課題を見出していく

個人発表、相互評価で表現を追及する 芝 幸弘

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!!

安 子「Bの方はありきたりって感じでなんか飽きそう。

Aはなんか新鮮な感じがする。」

教 師「作曲者や作詞者の想いは,Bの方が伝わるって 感じた人の方が多かったけど,どうして?」

みんな「歌詞がはっきり分かるから。」

好みの差はあったものの,「言葉」が情景や想いを伝 えるための大きなポイントであることに気づいたようで ある。

「言葉」が伝わる歌い方を探る

椰子の実 の比較鑑賞を受けて,「言葉」に焦点を 当て,グループで表現を探っていく。

その際,「花」の中でも表現が多様である3番の部分 に限定し活動した。

ここでも話し合ったことを意識しての個人発表・相互 評価を行った。子どもたちは「言葉」を意識した歌い方 として「言葉の出だし」や「子音や助詞の処理」(※合 唱部は普段の活動で意識しているため,このような意見 が見られた)などに気がついていたのだが,アドバイス の内容はやはり「姿勢」や「声量」についてが多く,「言 葉」や「曲想」についてのアドバイスはあまり見られな い。そこで,代表グループに発表してもらい,その後話

し合った内容と歌う際に注意した点ついて発表してもら うことにした。

篤夫班「16分休符が言葉を区切っているみたいに感じた ので休符と言葉の出だしを意識した。あと, 眺 めを何に の部分を盛り上げて最後はしっとり と終わるように意識した。」

智史班「情景を思い浮かべ,優しい感じで歌った。」

発表後に「雨」(藍川由美:『「日本のうた」歌唱法』

より)を鑑賞し,「全ての音を響かせる歌い方」と「言 葉の抑揚を生かした歌い方」の違いを感じ取った。子ど もたちに,どちらが情景が伝わるように感じたか尋ねる と,ほとんどの生徒が言葉の抑揚がある方が情景が伝わ ると反応を示した。

言葉の抑揚を生かした歌い方を追究する

前時の鑑賞を受けて,子どもたちは「言葉の抑揚」に ついて意識するようになった。また,前回の授業の中で 篤夫班が 休符 について気づいていたことを取り上げ,

そのことと絡めて教師が全体に説明をした後,最後にも う一度グループでの表現追究と個人発表・相互評価を行 った。そこではアドバイスの中に,ようやく「言葉」に ついての内容が見られるようになってきた。

「おなかから声を出した方がいいです!」

「1つのフレーズを,もっとつなげてなめらかに!」

「もっと感情(心)をこめる」

「単語ごとでしっかりと区切った方が!」

グループ内での追究の後,全体で合わせてみる。教師 が気になる点「げにいっこくも〜」(母音の連続)につ いておさえた後,一度録画してみた。それを『花』の追 究をする前に録画したものと比べてみたところ,その違 いを子どもたちも実感できたようである。授業のまとめ として『通過点』(創作音楽ドラマより)についてもグ ループで表現について簡単な話し合いを行った。

!創作音楽ドラマ『私達の手で −未来のために−』の 合唱曲の表現を追究する。(第7時)

各クラスごとの学びの後,学年全体で一つの表現を目 指した。実行委員を中心に,全体の流れや動きを確認す る中で,子どもたちは合唱に取り組む。教師からのアド 文節による歌い分けを意識し始める

グループで表現を追究していく

千枝から里奈へのアドバイスの変容

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バイスもあるが,『花』での学びを生かし,「言葉」の表 現を意識していたようである。また,「聴き手に自分た ちの想いを伝える」ために簡単な身体表現(手振りを付 ける)も取り入れるようになるなど,「感動を伝える」

ための表現面での追究に広がりが見られた。

$本題材での学びを振り返る。(第8時)

音楽集会・連合音楽会での発表を終え,子どもたちの 顔は大変充実していた。連合音楽会実行委員でもある悠 香は活動を次のように振り返る。

〈悠香の活動の振り返り〉

○「Gloria」

自分の中では,日本語の歌より歌いやすかっ た。初期の段階で合わせるところまでいってし まったので,あとは練習するのみ。絶対先輩の 演奏を超えたいです。

○「花」の追究

自分や友達の声の良いところ・悪いところを お互いに聴き合うと,新たな発見ができました。

合唱部ではない子からの素直な意見など,とて も勉強になりました。あと,花という曲は大好 きなので楽しめました。

○「創作音楽ドラマ」の追究

言葉 という,あまり今までやってきてい ない分野でした。音ドラの時も,ただ一生懸命 歌うだけで言葉をあまり伝えてなかったので,

伝えるテクニックというものに驚きました。自 分たちもまだまだだなあと思いました。

○音楽集会・連合音楽会の振り返り

音ドラを10分に短縮したもので,あれだけ作 れたので,自分の中ではかなり満足しています。

みんなも連音が近づくにつれ,本気になってく れる子も大勢いました。キャストのみんなも頑 張ったけど,日に日に Back のみんなの表情も 変わっていくのが感じられて,成功したなと思 いました。

また,章寛は「創作音楽ドラマ」の追究では「 花 を 歌う前と後では全然レベルが違っていた。」と振り返っ ている。

今回の学びの成果を実感できたことは,次の夏の題材

「合唱祭で感動を伝えよう」において更なる表現の充実 につながっていくものと思われる。

3.省察

!グループ活動内における個人レベルでの追究

今回のグループ活動のねらいは「個人の意識と表現力 の向上」であった。グループ内で話し合い,一つの曲に

対し共通の価値観を見出すことから,お互いに同じ視点 でアドバイスを与えることができる。また,逆に言えば,

自分が表現しようと意識できていることでしか他者にア ドバイスが与えられない。そういった視点で今回の活動 を振り返った時に,個人発表・相互評価という一つのサ イクルは,個人レベルにおいて〈表現−振り返り〉とい う位置づけができるのではないかと考える。また,他者 に与えるアドバイスの変容は,本人の学びの履歴そのも のであり,表現に対する意識の深まりを認識できるもの であったと思われる。しかし,個人発表を「どれだけ真 剣に表現しようとしていたか」と振り返った時に,些か 疑問が残る。活動の最初の頃「声が小さい」「姿勢」な どのアドバイスで終始していたのは,単に子どもたちが

「個人」での発表そのものに慣れておらず,しっかりと 表現できていなかっただけであるとも考えられる。また,

子どもたちの振り返りの中にもそういった言葉が多々見 受けられた。活動を積み重ね,グループでの話し合いや 様々な鑑賞教材から,表現に対するいろいろな視点を見 出したことは,子どもたちの「アドバイスの変容」から も事実であると考えられるが,ねらいとしていた「個人 の意識と表現力の向上」に今回の活動がどれほど効果的 だったかは,まだまだ改善の余地があるように思われる。

"日本歌曲「花」での学びの意味

本題材において,日本歌曲「花」を導入したのには2 つの理由があった。1つ目は,歌唱における「言葉」と いうものの捉え方やその表現方法を学ぶのに適した曲で あるということ。そして,もう一つは「公立の中学校」

においても教材として取り上げられている曲であり,本 校での実践が本校限りのものではなく,どの学校でも生 かせるものになることを目指したからである。

「花」で表現の方法を追究し,その過程や考え方が,

主の題材である「創作音楽ドラマ」の曲の表現追究に生 かされていく。そんな理想を描いて授業を展開したが,

本当にそれで良かったのだろうか。「花」そのものが表 現の追究を深めるのに十分な価値を持っているものであ り,今回の活動がその価値にどれだけ迫れていただろう か。また,「花」での活動を「創作音楽ドラマ」につな げるというような回りくどい展開をしなくても,同じよ うな活動を直接主たる曲で行えば良かったのではないか。

そのような葛藤が自分自身の中に残っている。

#グループでの学びが全体に広がる

「花」の表現追究において,各グループとも自分たち の感じたことをもとに,それなりに表現をまとめること ができたと思われる。今回は教師からの提案で「言葉」

に焦点を当て,その表現の技術や意識をもとに全体の表 現がまとまっていった。しかし,それで本当に良かった のだろうか。もっと子どもたちが個々の音楽観をもとに 全体で議論する場を設けても良かったのかもしれない。

芝 幸弘

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勿論,時間の関係もあり難しいのが現実であるが,更に 問題となってくるのが,どのように話し合い活動を収束 させるかということである。今回は,各グループでの話 し合いをお互いの発表を聴き合うことでまとめることを ねらったが,話し合う中で凝り固まった自分なりの音楽 観はそう変わるものではなく,またそれを強引に変える ことにも抵抗を感じる。個の学びを全体に広げる時に,

お互いの音楽観が受け入れられるように,探究と収束の バランスを考えた活動を展開しなければならないことを

実感した。

参考文献

柳伸明 (2006) 福井大学教育地域科学部附属中学校 研究紀要第34号

藍川由美 (1998) これでいいのか、にっぽんのうた 石井昭示 (2006) 唱歌の散歩道 ―日本人の心のふ

るさと―

A study of the expressions which spread from indivisual to the whole.

Yukihiro SHIBA

Key words: impression , A study of the expressions , words , traditional Japanese songs , indivisual performance•mutual evalu- ation

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