動作法初心者の母親指導に関する事例研究
一母親指導へのスーパーパイザ一介入の効果ー
障害児教育専攻 仲 地 誠
1 .問題と自的
本研究では, 5泊6日の集団集中訓練におい て実施された14回の各訓練に「母親指導」を組 み込み,動作法初心者である筆者が母親指導を 行い,筆者の母親指導に対しスーパーバイザー (以下,
s
V)からスーパービジョンを受ける ことで,筆者の母親指導にどのような効果が得 られるかを2事例(事例A,事例B)の事例研 究により検討する。ll.研究方法 1 .訓練者
訓練者は筆者で,平成13年5月より毎月 3か 所の動作法月例訓練会に参加し,平成13年度夏 期集団集中訓練に参加している。
2.対象児(者) ,母親, S V
〔事例A)
対 象 者 :18歳女性(障害者授産施設に通所)。
脳性まひ。自力でのあぐら座位姿勢保持が可能 だが,右凸の側轡で,腰は左前方にねじれ,体 重は右尻にのる。
母 親 :57歳。訓練歴は10年で,集団集中訓練 への参加は今回で6回目である。
S V:養護学校教諭 (44歳男性)。集団集中 訓練への参加は今回で 7回目である。
〔事例B)
対 象 児 5歳女児(心身障害児通園施設に在 籍)。脳性まひ。自力でのあぐら座位姿勢保持 は困難であり,両肩を補助したあぐら座位では 頚が起きず,上体が屈で左凸の側轡となり,腰 が左後方へ引け,体重は左尻にのる。
母 親 :31歳。訓練歴は3年で,集団集中訓練 への参加は今回で2回目である。
S V:
養護学校教諭 (41歳男性)。集団集中 訓練への参加は今回で、28回目である。3. 訓練期間・場所・時間
平成14年8月にT県(事例A)及びK県(事
指 導 教 官 安 好 博 光
例B) で実施された 5泊 6日の集団集中訓練に おいて1事例ず、つ行った。訓練は1回60分,計 14回 (1
B
3回,初日と最終日のみ1回)行わ れた。4.手続き 1 ) 訓 練
1回60分の訓練の前半30分間は訓練者が対象 児(者)の訓練を行い,後半30分間を母親指導 の時間として設定した。母親指導の時間の流れ は以下の通りである。①訓練者が母親指導を行 う前に,母親のみで対象児(者)への訓練を行 う(母親指導前訓練)。②母親の訓練に対し,
訓練者が母親指導を行う(訓練者による母親指 導)。③訓練者が母親指導を行った後に,母親 のみで対象児(者)への訓練を行う(母親指導 後訓練)。④訓練者が母親指導を行っている場 にS Vが介入し,スーパービジョンを行う(訓 練者による母親指導へのS Vの介入)。
2)分析課題
[事例A)あぐら座位による側轡右凸部の弛め
〔事例B)補助によるあぐら座位姿勢保持 5.分析の視点
〔事例A)
1 )訓練者の訓練技法の分析 ( 1) w終了』・『未終了』の頻度
(2) w未終了』における達成したステップ の変容
( 3 ) [対象者の逃げ] ‑<訓練者の働きか け>の変容
(4)訓練者の働きかけに対する対象者の適 切な対応の割合
2)母親の訓練技法の分析
母親指導前訓練,母親指導後訓練各々を訓練 者の訓練技法の分析と同様の視点で分析する。
3 )訓練者とS Vの介入の分析
( 1) w終了』における訓練者とS Vの介入
ハU
nノ臼 n r山
の内容と母親の修正成否
(2) w未終了』または『停止』における訓 練者と
sv
の介入の変容( 3 )訓練者と
sv
の介入の時期的関連性 [事例 B]1 )訓練者の訓練技法の分析
( 1 )姿勢補助パターンの流れの変容 (2 )姿勢の歪みの変容
2 )母親の訓練技法の分析
母親指導前訓練,母親指導後訓練各々を訓練 者の訓練技法の分析と同様の視点で分析する。
3)訓練者と
sv
の介入の分析( 1 )訓練者と
sv
の介入の介入方法別頻度(2 )訓練者と
sv
の介入の内容と母親の修 正成否(3)訓練者と
sv
の介入の時期的関連性r n .
結果と考察〔事例 A]
1 )訓練者の訓練技法の変容
訓練開始時,対象者の逃げに対し,訓練者は 不適切な働きかけを行うことが多かったが,訓 練5 (3日目)頃から次第に対象者の動きに注 意をあてることができ,対象者の逃げを予測し,
確実に止めることができるようになった。
2)母親の訓練技法の変容
訓練開始時,対象者の逃げの強さから,母親 は逃げを止めることが困難であったが,訓練6
( 3日目)頃から対象者の動きに注意をあてる ことで,逃げの初期の段階で働きかけることが 可能となり,逃げを止めることができるように なった。
3)訓練者と
sv
の介入の変容訓練開始時より
sv
は,母親や対象者の細か な動きに注意をあてて介入を行っていた。訓練 者はそのsv
の介入の様子を観察することで,訓練4 (2日日)には母親の補助のずれによっ て対象者の逃げが生じていることに気付き,母 親の補助に対しても注意をあて,母親の補助を 修正するために介入を行えるようになった。訓 練9 (4日目)には,対象者の逃げが出現した 初期の段階で母親に対し介入を行うことができ るようになった。
[事例 B]
1 )訓練者の訓練技法の変容
訓練開始時,訓練者は両顎,頚,腰を補助し
ていたが,訓練5 (3日目)には腰の補助を外 せ,訓練11(5日目)には左肩のみの補助で姿 勢の歪みを修正することが可能となった。
2 )母親の訓練技法の変容
訓練開始時,母親にとって困難で、あった後頭 部の補助を,訓練5 (3日目)以降外すことが でき,姿勢の歪みを補助を増減させることで修 正することも可能となった。訓練13 (5日自) には腰の補助を外すことが可能となった。
3 )訓練者と
sv
の介入の変容訓練開始時より
sv
は,母親の訓練技法に適 した姿勢の修正方法を指導していた。訓練者は そのsv
の介入の様子を観察することで,訓練 8 (4日目)には母親の訓練技法に適した頚の 歪みの修正方法を選択し,指導することが可能 となった。また,訓練開始時,訓練者のことば での指導(指示)は抽象的で母親に伝わりにく かったが,sv
のことばでの指導を参考にする ことで,訓練8頃には具体的に指示することが できるようになった。N.全体考察
事例A,事例Bともに,母親指導へ
sv
が介 入することによって,以下の効果が得られた。①母親が介入を必要としている状況に訓練者が 気付かなかった際には,
sv
の介入が先に行わ れ,訓練者はその様子を客観的に観察すること で,訓練者が母親指導を行う際に必要な視点の 獲得につながった。②訓練者の指導の不適切な 点に対し,即座にsv
介入が行われることによ って,訓練者は何が問題であったかに気付き,sv
の指導を手本に次の指導へ活かすことがで きた。事例A,事例Bでは,課題の差異により訓練 者の介入を行う際に必要な視点を獲得するまで の期間に相違がみられた。事例Bの課題はタテ 系動作訓練であり,訓練開始時より訓練者は対 象児の姿勢の歪みに注意をあてることができた が,事例Aの課題はリラクセーション訓練であ ったため,訓練者は母親や対象者の何に注意を あてればよいかを理解するまでに期間を要した。
以上の考察から,安好 (1992)が指摘した,
訓練者の訓練技法の習得には,
sv
に直接スー パービジョンを受けるという臨床経験を多くす ることが必須であることと同様に,母親指導に おいてもsv
の介入の必要性が示された。つω
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