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システム / 制御 / 情報,Vol. 61, No. 9, pp , 解 説 ヘルスモニタリングのための心拍変動解析 藤原幸一 * 1. はじめに R wave RR Interval ウェアラブルコンピュータ, ウェアラブルデバイスと いう言葉を耳にするようにな

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(1)

381

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解 説

ヘルスモニタリングのための心拍変動解析

藤原 幸一*

||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||

1. はじめに

ウェアラブルコンピュータ,ウェアラブルデバイスと いう言葉を耳にするようになって久しい.ウェアラブル デバイスとはその名の通り身につけて利用できる端末の ことであり,そのコンセプトは古くからあったが,普及 には至っていなかった.しかし,近年の半導体技術の進 化などによるデバイスの小型化・高性能化とLTE網の 普及による常時ネットワーク接続,そしてスマートフォ ンが普及し誰もが高性能なコンピュータを持ち歩くよう になったことで,ウェアラブルデバイスの普及とそれを 利用したサービス開発の可能性が拓けたといえよう.

ウェアラブルデバイスに期待されるサービスとして,

ヘルスモニタリングが挙げられる.すでにスマートウォッ チには加速度センサや心拍センサが搭載され,運動時の 消費カロリーや睡眠状態などを推定できると謳うアプリ も多数リリースされている.このようなアプリは,薬機 法上,医療機器に該当しない「健康管理アプリ」という 扱いであり,直接的にユーザの健康状態や特定の疾患を 監視するものではない.実際,スマートウォッチに搭載 されている加速度センサや心拍センサでは,測定できる 生体情報の粒度にも限界がある.

自律神経活動を反映する生体現象として,心拍変 動(Heart Rate Variability; HRV)が知られている[1]. HRVとは心電図(ECG)上のR波とつぎのR波の間隔

(RR間隔; RRI)のミリ秒オーダのゆらぎのことである.

紙面の都合上,HRVと自律神経活動の関わりについて 詳細な機序を示すことはできないが自律神経系は循環,

呼吸,消化,発汗・体温調節や代謝などを制御するもの であるから,多くの疾患が自律神経活動と関係してい る.実際にこれまでに自律神経活動評価のため,数種類 のHRV指標が提案され,循環器系疾患の診断などに用 いられてきた.そこで,ウェアラブルデバイスを用いて 常時HRVを監視することができれば,より高度なヘル スモニタリングが実現できると考えられる.

本稿では,HRVとその解析手法について概説し,さ

京都大学 大学院 情報学研究科システム科学専攻

Key Words: health monitoring, heart rate variability, mul- tivariate statistical process control, epilepsy.

0 4000

time [ms]

RR Interval R wave

第1図 典型的なECG波形

らに筆者らが実際に開発したてんかん発作予知システム について紹介する.

2. 心拍変動解析

本節では,HRV解析とその測定について紹介する.

2.1 RR

間隔

典型的な心電図(ECG)波形を第1図に示す.ECG波 形はいくつかのピークから構成されているが,最も高い ピークをR波とよび,R波とつぎのR波の間隔[ms]を RR間隔(RRI)という.

健常な被験者から取得したRRIデータを第2図(a)に 示す.RRIデータは等間隔に取得されていないため,そ のまま解析することが難しい.そこで,スプラインなど を用いてRRIデータを補間し,等間隔にデータをリサン プリングする.第2図(b)は,第2図(a)のRRIデータ を1 sec間隔でリサンプリングした結果である.

2.2

時間領域指標

時間領域指標は,RRIデータより計算することがで きる.

meanNN: RRIの平均値.

SDNN: RRIの標準偏差.

RMSSD:隣接するRRIの差の根平均二乗.

Total power: RRIの分散.

NN50: ある時間内に隣接するRRIの差が50 msec を超えるペアの個数.

2.3

周波数領域指標

周波数領域指標は,リサンプリングされたRRIデー タのパワースペクトル密度(Power Spectrum Density;

PSD)より求めることができる.ここで,RRIデータの PSDの計算には,Fourier変換または自己回帰(Autto

(2)

0 20 40 60 80 100 600

800 1000

#Beat

RRI [ms]

(a) Raw RRI data

0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5

frequency[Hz]

Power Spectrum

LF/HF =1.4 (c) Power Spectrum Density

30 60 90

600 800 1000

time [sec]

RRI [ms]

(b) Resampled RRI data

LF

HF

第2図 HRV解析結果:(a) RRIデータ,(b)リサンプル後 のRRIデータ,(c) PSDとLF/HF

Regression; AR)モデルを用いることができる.

LF: PSDの低周波領域(0.04Hz–0.15Hz)のパワー.

交感神経活動を反映しているとされる.

HF: PSDの高周波領域(0.15Hz–0.4Hz)のパワー.

副交感神経活動を反映しているとされる.

LF/HF: LFとHFの比.交感神経活動と副交感神 経活動のバランスを表す.

第2図(c)に,第2図(b)のRRIデータのPSDとLF/HF を示す.

なお,医学的なHRV解析ガイドラインでは,周波数 解析を正確に行うには,RRIデータを少なくとも2分間 以上計測すること,およびECGサンプリング周波数は 200Hz以上とすることが推奨されている[1].

2.4 HRV

測定

心拍数を測るのに,手首などの血管を指で軽く押さえ て脈動の回数を数えるということをしたことのある読者 も多いだろう.脈波センサはこの方法同様に,赤外光な ど光学的手法を用いて血管中の血流変化(脈波)を測定 し心拍タイミングを検出するセンサであり,これを光電 式容積脈波記録法(photoplethysmography;PPG)とよ ぶ.PPGは皮膚上であればどこからでも取得可能で測 定が容易であるため,スマートウォッチに搭載されてい る心拍センサも多くがPPGセンサである.

しかしPPGセンサは血流変化よりに心拍タイミング を検出するものであるため,検出される心拍タイミング は,心電図上のR波タイミングとは一致しないことに 留意する必要がある[2].第3図に筆者らの実験による PPGとECGを同時測定し比較した結果を示す.第3図 (a)は健常者の安静時におけるPPGとECGを同時測定 し,ピーク検出アルゴリズムによってPPGから検出さ れた心拍タイミングとECG上のR波タイミングを検出 した結果である.これによると,PPGでも心拍タイミ

10 15 20 25 30

700 800 900 1000 1100

-100 -50 0 50

100 (b) Bland-Altman

5

0 Time [s]

Reference [ms]

Error [ms]

ECGPPG (a) ECG and PPG

第3図 脈波と心電図との比較:(a)波形の同時測定,(b) 検出された心拍タイミング精度の比較

ングが検出できているように見える.一方,第3図(b) はBland-Altmanプロットとよばれる図で,横軸に二つ の測定値の平均値,縦軸に二つの測定値の差をプロット している.2節に記載のようにHRV解析の医学ガイド ラインでは,周波数解析を正確に行うにはECGサンプ リング周波数を200Hz以上,すなわちR波を5ms以内 の精度で検出することが求められている.しかし,第3 図(a)より,PPGとECGによる心拍タイミングは,安 静時にあっても20 ms以上も誤差があり,その誤差が一 定ではないことがわかる.紙面の都合上,図は掲載しな いが,体動時はさらに誤差が大きくなったり,PPG波形 にアーチファクトが混入しピークそのものが検出できな くなることもある.したがってPPGセンサでは,高精 度にHRV指標を計算し自律神経機能を評価することは 困難である.

これまでは長時間のECG記録にはホルター心電計が 用いられてきた.しかし,ホルター心電計は取り扱いに 専門知識が求められ,また装置も高価であることが問題 であった.HRVの測定にはR波だけ検出できればよい ため,R波検出だけに限れば装置を大幅に簡略化できる.

このような考え方に基づき,小型,安価で誰にでも取り 扱いの可能なウェアラブル心電センサ(第4図)が開発 されている[3].このセンサはミリ秒オーダでR波を検 出可能であり,RRIデータをBluetooth LEを介してス マートフォンと通信できる.さらに筆者らは,本センサ に対応したリアルタイムHRV解析スマートフォンアプ リを開発した.開発したアプリはウェアラブルセンサよ り送信されたRRIデータよりリアルタイムにHRV指標 を計算,可視化できる.これらウェアラブルセンサとリ アルタイムHRV解析アプリによってはじめて,病院や 実験室の外で日常生活時のHRVをリアルタイムに計算 できるようになったといえる.

3. HRV データからの異常検出

近年の機械学習技術の発展によって,医用画像や生体 信号を解析することで疾患の診断や鑑別を自動化する技 術の開発が進んでいる.通常,機械学習を用いてモデル を構築する場合は,ラベルが付与された質の高いデータ

(3)

383

第4図 ウェアラブルセンサ

が大量に必要である.しかし,臨床でデータを収集する 場合はモデリングに十分なデータを集めるのが困難,ま たは高コストな場合が多い.たとえば,専門医でないと 診断の困難な疾患も多く,発作など着目したい症状が現 出している状況でデータを採る機会がまれなことがある.

また,健常者からデータを採取する場合でも,時間拘束 やセンサ装着の手間があるため,手軽に依頼できるわけ ではない.そもそも,患者の臨床データの収集でも健常 者からのデータ採取でも倫理審査が必要であり,人権や 安全面の確認,個人情報保護などを考慮しなければなら ない.したがって,HRVデータの解析においても,大量 にデータが利用できること,または着目している症状に ついてのデータが十分に利用できることを前提としない 解析手法が求められる.

このような問題は,正常データに混入している一部の 異常なデータを検出する異常検出というタスクとして考 えることができる.異常検出の場合は,正常なデータが あればモデルが構築できるため,発作などの異常データ を大量に収集しなくてもよい.

3.1

多変量統計的プロセス管理

(MSPC)

筆者らがHRVデータから発作予知などに用いてい る手法が,異常検出手法の一つである多変量統計的プ ロセス管理(Multivariate Statistical Process Control;

MSPC)であるが,これは古くからプロセス制御分野で

用いられてきた実績のある枯れた技術である[4]. MSPCは主成分分析(Principal Component Analysis;

PCA) [4]に基づいた手法であり,プロセスに異常が発 生した場合に測定変数間の相関関係が変化することに着 目して,測定変数間の相関関係を監視する.このため,

MPSCではT2統計量とQ統計量を同時に監視する.

いま,データ行列をX∈ ℜN×M とし,各列は平均0 に中心化され,適切にスケーリングされているものとす る.通常は各変数の分散が1となるようにスケーリング される.ただし,MNはそれぞれ測定変数の数,およ びサンプル数である.Xの特異値分解(Singular Value Decomposition; SVD)は

X=U ΣVT

=[ UR U0

][ ΣR 0

0 Σ0

][ VR V0

]T

(1)

と表される.ここで,Uは左特異ベクトル,Σは特異値を 対角に並べた行列,V は右特異ベクトルである.PCAで は,Xの右特異ベクトルとして負荷量行列VR∈ ℜM×R が得られ,VRの列空間が主成分の張る部分空間である.

なお,R(≤M)は採用する主成分の数である.

主成分得点はXの主成分の張る部分空間への射影と して得られる.主成分得点行列TR∈ ℜN×R

TR=XVR (2)

となる.TRからXを再構築した行列Xˆは

Xˆ =TRVRT=XVRVRT (3) だから,

E=X−Xˆ =X(I−VRVRT) (4) が次元圧縮によって失われる情報,すなわち残差である.

この残差を用いてQ統計量は Q=

M

m=1

(xm−xˆm)2

=xT(I−VRVRT)x (5) と定義される.ここで,xは新たに測定されたサンプル である.Q統計量は,サンプルと主成分の張る部分空間 の距離の2乗であるから,変数間の相関関係に基づいた サンプルとモデル構築データの非類似度を表している.

さらに,サンプルがモデル構築データの内挿であるこ とを保証するために,HotellingのT2統計量を用いる.

T2統計量は T2=

R

r=1

t2r σ2tr

=xTVRΣR−2VRTx (6) と定義される.ここで,σtrは第r主成分得点trの標準 偏差である.T2統計量は主成分によって張られる部分 空間におけるサンプルの原点からの規格化された距離を 表す.つまり,T2統計量が小さいほどサンプルはモデル 構築データの平均に近い.

MSPCでは,T2統計量およびQ統計量のいずれか があらかじめ設定した管理限界を超えた場合に,異常が 発生したと判断する.管理限界をどのように設定すれ ばよいかについてはさまざまな考え方があるが,たと えば99%または95%信頼区間,すなわち正常データの 99%または95%が正常であると判定されるように設定 する方法がよく用いられる.T2統計量はPCAにおける メジャーな主成分の張る部分空間におけるデータの変動 を監視し,Q統計量はマイナーな主成分の張る部分空間 でのデータの変動を監視しているといえる.このように データをメジャーな主成分およびマイナーな主成分の張 る部分空間に分割してデータ監視するというMSPCの

(4)

Algorithm 1MSPCを用いたモデリング

1: i番目のユーザ(i= 1,···,I)の健常時に採取したRRI データyiよりHRV指標X˜{i}を計算する.

2: X˜{1},···,X˜{I}をひとつの行列X˜にマージする.

3: X˜ を適切に標準化し,標準化後の行列をXとおく.

4: XからSVDによりΣRおよびVRを計算する.

5: i番目のユーザのT2およびQ統計量の管理限界 T¯2{i}Q¯{i}を適切に決定する.

性質は,HRVの異常検出において重要な役割を担うこ とがわかってきた.この点は4.3節で議論する.

3.2 HRV

によるヘルスモニタリング

HRV解析とMSPCを組み合わせることで,ユーザの 状態を監視する.Algorithm 1に,モデル構築手順を示 す.y{i}i番目のユーザの健常時に採取したRRIデー タである.そしてRRIデータから2節に記載のHRV解 析手法を用いてHRV指標X˜{i}を算出し,それらをI人 分集めてMSPCにてモデルを構築する.HRV指標には 個人差が存在するため,ステップ5でそれぞれのユーザ に適した管理限界を設定する必要がある.

モニタリングは,Algorithm 2の手順で実施される.

本アルゴリズムはユーザのHRVデータをMSPCを用い て解析することで,正常もしくは異常の判定を行う.こ こで,y[t]∈ ℜはセンサで取得されたt番目のRRIであ る.τはカウンタ,Cは2値の状態C={N,A}であり,

NAはそれぞれ正常と異常を表す.すなわち,¬N=A であり,本アルゴリズムではあらかじめ定めた時間¯τ以 上連続してT2またはQ統計量が管理限界を超過しない 限り,状態CAに遷移しないものとする.これはアー チファクトがECGに混入すると,T2およびQ統計量 が大きく変動するためである.最終的にHRVデータよ り異常が検出されると,ユーザに通知される.

4. てんかん発作予知

本節では,HRVを用いたヘルスモニタリングの例と して,筆者らが開発に取り組んでいるてんかん発作予知 システムについて紹介する[5].

4.1

てんかん

栃木県鹿沼市や京都市祇園で起きたクレーン車,乗用 車の暴走により,多数の死傷者が出た痛ましい事故は記 憶に新しい.これらの事故原因としてドライバのてんか ん発作が挙げられており,2013年改正道路交通法でてん かん患者の自動車運転免許取得に一部制限が課せられる ことになった.しかし,てんかん患者の運転免許取得は,

2003年に条件付きで認められたもので,てんかん患者の 行動の制限は,その流れに逆行するものである.

てんかんとは脳細胞のネットワークに起きる異常な神 経活動のため,けいれんや意識障害などのてんかん発作 を来す疾患である.疫学的には,患者は人種や性別を問

わず人口の1%程度といわれており,日本では約100万 人の患者がいるとされる.適切な抗てんかん薬を選択す ることによって,てんかん患者の約7割は発作を抑制で きるが,3割のてんかん患者は抗てんかん薬では発作を 抑制できないため,このようなてんかんを難治性てんか んとよぶ[6].てんかん発作に伴う事故によって,重傷,

死亡につながる場合があり,交通事故に限らず,発作に 伴う風呂場での溺死や,コンロでの調理中における火傷 は数多く報告されている.しかし,患者が数十秒前にて んかん発作を予知できれば,発作までに身の安全を確保 することができ,生活の質(QoL)を改善することができ る.運転中であっても発作兆候を検知し車を安全に停止 できれば,てんかん患者の運転免許取得を過剰に制限す る必要はない.

従来,脳波(Electroencephalogram; EEG)を用いた てんかん発作予知の研究が行われているが[7],脳波計は 身体の拘束が大きく身体運動によってアーチファクトが 混入するため,これを日常生活で用いることは現実的で はない.てんかん発作起始前には,心拍パターンに変化 が現れることが知られている.これは発作症状が始まる 前に脳内では異常脳波が発生しており,その異常脳波が 自律神経系に影響して心拍にも影響するためであると考 えられている[8,9].

このことより,HRVをリアルタイムに監視すること ができれば,発作起始前に発作を予知できるものと考え られる.

Algorithm 2HRVによるモニタリング 1: τ[0]←−0,C[0]←− Nと設定する.

2: while do

3: センサよりt番目RRIy[t]を取得する.

4: HRV指標x[t]˜ を算出する.

5: x[t]˜ を標準化し,これをx[t]とする.

6: (5),(6)式を用いて,x[t]よりt番目のT2Q統 計量T2[t]およびQ[t]を求める.

7: if ((T2[t]>T¯2∨Q[t]>Q)¯ (C[t1] =N))

((T2[t]≤T¯2∧Q[t]≤Q)¯ (C[t1] =A)) then

8: τ[t] =τ[t−1] +y[t].

9: else 10: τ[t] = 0.

11: end if

12: if τ[t]≥¯τ then

13: C[t] =¬C[t−1] andτ[t] = 0.

14: end if

15: t+ 1番目のRRIデータy[t+ 1]が取得されるまで 待機する.

16: end while 祇

(5)

385

4.2

臨床データへの適用

東京医科歯科大学病院,東北大学病院,国立精神・神 経医療研究センターにおけるてんかん外科手術の術前検 査時に,難治性てんかん患者の発作間欠期および発作周 辺期RRIデータを収集した.本臨床データ収集および 解析は,東京医科歯科大学倫理委員会ほか各施設におい て倫理委員会の承認を受けて行った.ビデオ脳波モニタ リングシステム(日本光電製Neuro Fax EEG-1200)を 用いて,てんかん患者の発作ビデオ,ECG,EEGデー タをおよそ24~72時間記録した.これらの検査はEEG 測定用シールドルームにて実施した.

EEGデータと発作ビデオに基づいて,日本てんかん 学会認定医2名が発作起始時刻を正確に同定した.つぎ に発作起始前15分から発作起始後5分の計20分のECG データを,発作周辺期ECGデータとして切り出した.

一方,MSPCによるモデリングのために,発作間欠期に 記録されたECGデータをいくつか切り出し発作間欠期 ECGデータとした.データ長は20分である.

最終的にてんかん患者A–Nの14名より,計70時間 分のデータを収集した.このうち,発作間欠期データは 8名の患者より11例収集できた.収集されたECGデー タよりR波を検出してRRIを計算,さらにHRV指標を 求めた.

第5~7図に,患者Aの発作間欠期および発作周辺期 のRRIデータおよび,それらより計算したHRVデータ を示す.なお,図中の縦線が発作起始時刻である.これ らの図より,発作が起こるとRRIが大きく変化している ことから,確かにてんかん発作が自律神経活動に影響す ることがわかる.第7図の発作周辺期HRVデータでは.

ほぼすべてのHRV指標が発作起始5分程度前に変化し ているが,第6図の発作間欠期データでも発作を含んで いないにもかかわらずHRV指標の突然の変化が認めら れる.これらの結果より,HRV指標を個別に監視する だけでは発作を予知できないことがわかる.

そこで,約19時間分の発作間欠期データをモデリン グデータとして,MSPCを用いた発作予知を試みた.主 成分数は,その累積寄与率が90%以上となるように設定 し6であった.またT2Q統計量の管理限界は,患者ご とに信頼区間が99%となるように決定した.

第6,7図のHRVデータに対して,発作予知を適用し た結果を第8,9図に示す.これらの図で,破線はT2統 計量およびQ統計量の管理限界である.これらの結果 より,T2Q統計量ともに発作起始の少なくとも4分 前に管理限界を超えていることがわかる.一方,発作間 欠期データでは,T2Q統計量ともに管理限界をほと んど超えることがない.結果として,T2Q統計量で の感度は,それぞれ55%と91%であった,また,誤検 出(False Positive: FP)率は,それぞれ1.2回/hと0.7 回/hであった.これらの性能は従来のEEGベースの発

Time [s]

0 300 600 900 1200

RRI [ms]

700 850

1000 Interictal RRI

Time [s]

RRI [ms]

900 1050

1200 Preictal RRI

0 300 600 900 1200

第5図 患者AのRRIデータ:(上)発作間欠期,(下)発作 周辺期

800 900

1000 meanNN

0 50

10 SDNN

0 4000

8000 Total Power

0 20

40 RMSSD

0 10

20 NN50

0 1000

2000 LF

0 200

400 HF

0 300 600 900 1200

0 5

10 LF/HF

0 300 600 900 1200

Time [s] Time [s]

第6図 患者Aの発作間欠期HRVデータ

600 900

1200 meanNN

0 50

10 SDNN

0 1000

2000 Total Power

10 30

50 RMSSD

0 25

50 NN50

10 30

50 LF

0 300 600 900 1200

200 350

500 HF

0 300 600 900 1200

0 2

4 LF/HF

Time [s] Time [s]

第7図 患者Aの発作周辺期HRVデータ 作予知の性能と同程度である[7].

4.3

考察

MSPCを用いた発作予知では,T2統計量よりもQ統 計量の方が,感度,FP率ともに高い性能を達成してい る.そこで,FPが発生している時間帯のEEGデータ とビデオを確認した.ビデオによると,T2統計量にお いてFPが発生している時間帯のほとんどで,患者が食 事をしたりベッドの上で身体を動かすなど,自律神経系 に大きく影響をする活動を行っていた.T2統計量はメ ジャーな主成分の張る部分空間でのHRVの変動を監視 しているため,体動などに起因するHRVの大きな変動 によってFPが発生したものと考えられる.一方,EEG データを判読したところ,Q統計量にてFPが発生した 時間帯のいくつかで,発作間欠期てんかん性放電があっ たことがわかった.これは臨床上の発作には至っていな いが,脳内ではてんかん症状が現れていたことを示して いる.つまり,Q統計量はマイナーな主成分の張る部分 空間におけるHRVの変動を監視しているが,自律神経 活動の変化に起因するHRVの小さな変動に反応してい ると考えられる.

(6)

Time [s]

0 300 600 900 1200

T2

0 20 40

Time [s]

0 300 600 900 1200

Q

0 0.4 0.8

第8図 発作予知結果:患者Aの発作間欠期

T2

0 20 40

Time [s]

0 300 600 900 1200

Q

0 0.4

0.8 Time [s]

0 300 600 900 1200

第9図 発作予知結果:患者Aの発作周辺期 筆者らは,HRV解析とMSPCを用いて居眠り運転検 知システムの開発も手がけているが,HRVの監視にお けるT2Q統計量の性質について同様の現象が見られ ている[10].すなわち,居眠り運転検知においてもT2 統計量よりもQ統計量の方が,感度,FP率ともに高い 性能を達成し,またT2統計量におけるFPの発生には 同様に体動が起因となっていること,Q統計量はマイク ロスリープとよばれる脳波上の一瞬の睡眠現象に反応し FPが発生していることが確認されている.

5. 今後の展望

てんかん発作予知システムは,2014年より東京医科歯 科大学付属病院などで臨床試験を開始している.また,

居眠り運転検出システムも民間企業とともに,2017年中 の実用化を目指して実証試験を行っている.

自律神経活動は多様な疾患と関わりがあるため,HRV 解析を用いたヘルスモニタリングは応用可能性が広いと 考えられ,筆者らもHRV解析の適用範囲の拡大を目指 し,さまざまな科の医師らと共同研究を実施している.

今後,HRVを用いたヘルスモニタリングの実用化に 向けた壁として想定されるのが,規制対応である.たと えば,てんかん発作予知システムは認証基準のないクラ ス2の医療機器に該当するため,上市には治験を行い有 効性および安全性について確認し,規制当局によって承 認を受ける必要がある.これはてんかん発作を予知する という「効能」を謳うためであるが,基本的に何らかの 疾患名を謳うと医療機器に該当すると考えた方がよい.

規制当局による認証・承認は医療機器の有効性および安 全性確保のため当然の手続きであるが,ヘルスモニタリ ングサービスの開発においても注意が必要である.すな わち,特定の疾患や発作をモニタリングできると謳うと 医療機器に該当してしまう.

ユーザのどのような状態をモニタしたいのか,その結

果からどのようなアクションをするのか,商品・サービ スとしてどのような効能を謳うのか,今後は新たなサー ビスの可能性を模索しつつ,有効性・安全性の確保につ いて,規制当局とコミュニケーションをしながらの工夫 が求められるだろう.

(2017年2月20日受付) 参 考 文 献

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[9] K. Kato et al.: Earlier tachycardia onset in right than left mesial temporal lobe; Neurology, Vol. 83, pp. 1332–1336 (2014)

[10] K. Fujiwaraet al.: Driver drowsiness monitoring by multivariate statistical process control of heart rate variability; IEEE Trans. Intell. Transp. Syst. (sub- mitted)

著 者 略 歴

ふじわら原    こういち

1981年1月11日生.2009年3月京都 大学大学院工学研究科化学工学専攻博士後 期課程修了.2012年7月京都大学大学院 情報学研究科システム科学専攻助教,現在 に至る.医用デバイス開発などの研究に従 事.IEEE,計測自動制御学会,化学工学 会などの会員.

参照

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