• 検索結果がありません。

“( 構 造 ) デ ザ イ ン ” と 合 理 性

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2022

シェア "“( 構 造 ) デ ザ イ ン ” と 合 理 性"

Copied!
4
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

(要約)

ひとつの大きな価値観で物事を総括できなくなりつつある現代において、

デザインはある特定の価値観・観点からの合理性や美的感覚のみでは捉え られなくなってきている。ネイ&パートナーズの代表作であり様々な賞を 受賞したクノッケ歩道橋と、最近完成し筆者も設計に関わり、地域住民の 評判の高いスメーデンポート歩道橋。橋の“かたち”の対照的な2つの作 品からみえる現代の構造デザインと合理性の在り方のひとつを提起する。

多様な合理性の中でのデザイン

 合理的かつ美しい構造物の設計を行うために、近年、意匠と構造の融合、

コラボレーションが話題になる。しかし、意匠設計者の“かたち”を基本に、

その技術的解決を構造設計者が担うケースが大半である。日本で橋梁デザ インというと、“景観”という概念で表層の意匠を整える、もしくは、平面 的なプランニング操作でデザインを行う作業になるか、土木エンジニアが 設計する橋においては、安全性、経済性、メンテナンス性といった技術的 側面からデザインされることがほとんどである。

 国立代々木競技場の構造設計者、坪井善勝は「真の美は、構造的合理性 の近傍にある」といったというが、“近傍”という部分に構造デザインの真 理があるように思う。また、構造的合理性は、1960-70 年代のように技術が 拓く明るい未来へのビジョンが有効だった時代には有効であったかもしれ ないが、ひとつの価値観で物事を括れなくなった現代においては、たくさ んある価値観の中のひとつにすぎない。“近傍”に含まれる範囲は、時代に よって移り変わる可能性があるし、設計者の思想によっても変わり得るも のなのだと捉えることができるのではないか。“近傍”という言葉は、歴史、

景観、経済性、メンテナンス、環境性など多様な観点を統合的に解く美し い解が、次善の選択の中にある様子を的確に表現している。現代の構造デ ザインにおいて合理性の捉え方が多様になってきていることは、欧州の橋 梁設計者の多様さをみてもわかるはずだ。

 とはいえ構造デザインといった場合、構造的合理性が欠かせない重要な 要素であることには変わりはない。特に、分断された2点をつなぐという 主となる機能がシンプルな橋梁設計においての構造的観点の重要性はなお さらである。場所ごとの境界条件を読み込み、重力に逆らって水平方向に どのように橋をかけるかという技術的解決を思考することは、橋の設計の

“( 構 造 ) デ ザ イ ン ” と 合 理 性

渡 邉 竜 一 ︱ 株 式 会 社 ネ イ & パ ー ト ナ ー ズ ジ ャ パ ン

 

醍醐味である。では技術的側面が主軸となる橋梁の世界において、これか らの“(構造)デザイン”の在り方とはどのようなものなのだろうか。筆者 が在籍するベルギーの構造設計事務所ネイ&パートナーズの対照的な2つ の作品を紹介しながら、そのヒントを投げかけたいと思う。2 橋とも意匠、

構造設計ともにネイ&パートナーズである。

 “(構造)デザイン”と括弧をつけているのは、これから述べることが構 造的視点を題材にしつつも、広義のデザインに適用可能な内容だと考える からだ。構造だけのデザイン、美しさや使いやすさだけのデザインなどひ とつの価値観に偏重した設計に違和感を覚える。と同時に、デザインとい う行為は、人の営みを思考する行為で、単一の観点から思考されるべきで はないと考えるのである。

1. クノッケ歩道橋

所在地:クノッケ-ヘイスト (ベルギー)

橋梁形式:鋼板シェル構造 歩道橋 橋長:102 m

発注者:フラマン政府 設計期間:2004 〜 2008 年

街のシンボルとしての橋

 クノッケ - ヘイストは、北海に面した白い砂浜が美しいビーチが広がる 観光名所の一つである。本橋はサウル自然保護地区とビーチをつなぐサイ クルルートの一部で、交通量の多い道路幅 30m のエリザベス通りを安全に 跨ぎつつ、街のシンボルとなる歩行者・自転車専用の橋が求められた。課 題はスパン割ではなく、ビーチ方向に位置するランプ部を既存のサイクル ルートをどのようにスムーズに接続させるかであった。曲線の線形は、街 のシンボルである歴史的塔状建造物の位置を意識しつつ、スムーズなサイ クルルートの接続という観点から決定した。(図1)

シンプルなディテール、省メンテナンス

 橋台部では地中に固定され、支間部は空中に浮いているように見えると いう見かけ上も構造上も異なる違いから生じる不均衡なバランスをデザイ ン処理している(図 5)。橋脚支柱の腕部分がシェル面から切り離されてい 写真1. クノッケ歩道橋

景観・デザイン研究講演集 No.9 December 2013

304

(2)

ることで、構造体は、力が均衡状態でバランスするときに生じる浮遊感 を獲得する。すべての部材が接合されると、橋台で固定された橋本体は、

中間支間の橋脚地点でのピン接合により水平方向に移動する。このこと により、温度収縮に対応可能となる。上部工、下部工とも一体となった ひとつのエレメントで構成され、メンテナンス上不利になる伸縮ジョイ ントは不要となる。また橋台部は固定支点となるため非常にシンプルな ディテールが可能となる。

構造アイデアを軸に諸要素をひとつに集約、統合する減算的デザイン  本橋は、水平方向、鉛直方向の荷重への対応を組み合わせた従来の構 造体と異なり、すべての力が一体的に扱われデザインされている。いわ ば曲面の鋼板シェルである(図4)。設計プロセスの出発点は、力学的に 不要な部分を取り除いた静的な連続桁モデルであった。支柱にハンモッ クのように吊り下げられたシート状の構造体とすることで印象的な“か たち”を獲得(図2, 図 4)。そこに荷重がかかることで曲面が生成される。

3 次元曲面の鋼板はそれ自体ですべての荷重を処理する。付加的な部材 は一切ない。全体の“かたち”を一旦決めてから、中間部サポート付近 に開いた開口部をより軽量となるよう構造最適化を行った(図3)。開口 部の適正な位置、サイズを見つけ出すため、航空工学で使用される最適 化プログラムを使用している。ここでは、20 世紀の加算的な設計の在り 方から、減算的な設計手法へのシフトを見てとることができる。

 

曲げモーメント図

曲げ応力に従った材料の配置

構造最適化により部材を最小限にする

図 3.構造から発想された“かたち”

P2

0 40m

500mm 0

1m 0

4m 0

1

5 6 4 1

2 3

500mm 0

0 1m

4m 0

1

5 6 4 1

2

3 1. 4 x M52(4.6) ボルト

2. 50mm S 355 K2G2 スチフナー 3. Ø 200mm S 355 K2G2 脚部 4. 40mm S 355 K2G2 スチフナー 5. コンクリート 第一フェーズ 6. コンクリート 第二フェーズ

500mm 0

1m 0

4m 0

1

5 6 4 1 2 3

図1. 平面図 

図2. 横断面図 橋脚支柱からハンモックのように吊り下げられている

図 4. 厚さ 12mm の一枚の鋼板による特徴的な形状

図 5. 橋脚支柱と主構造部の接合部 どちらもスチール板要素からなる

図 6. ピン橋脚のディテール

305

(3)

2.スメーデンポート歩道橋

所在地:ブリュージュ (ベルギー)

橋梁形式:鋼板連続桁 歩道橋 橋長:60 m

発注者:ブリュージュ市 設計期間:2009 〜 2010 年

歴史的景観の中でのデザイン、繊細な構造による限りなく透明な橋  スメ−デンポート(鍛冶屋の門)は、ブリュージュ中心市街地へのゲート である中世の歴史的建造物である。門内部で道幅が極端に狭くなるため、

近年の交通量の増加によって、朝夕の交通渋滞、事故の要因となっていた。

ブリュージュ市は文化庁の指導のもと、既存の門の両側に新しい歩道橋を 建設することを決定。新しい歩道橋は、交通問題を解くと同時に、歴史的 景観を損なわない最大限の配慮が求められた。既存建造物に敬意を払うべ く、橋の線形は、門を包み込むような平面形状とした。素材はメンテナン スと緑豊かで煉瓦造の街並みに囲まれる風景からコールテン鋼を選択。橋 面はコンクリートタイルで仕上げられる。繊細なディテールは職人の手工 芸的な仕上がりを意識している。

身体スケールの部材構成

2橋は共に幅員 2.5m、橋長は、それぞれ 62.6m( 南側 )、57.2m(北側)で ある(図 9)。橋台と水平ブレースの位置は両橋ともに同じである。既存の 橋のアーチ部スパンに合わせること、身体スケールの部材構成を意図する ことから、支間長は 5.027m と経済スパンよりも短く設定している。橋脚 60mm × 60mm, 板厚 30mm の鋼板から切り出された主構造兼高欄、90mm 厚の床版など、構成部材は人の身体スケールに近くなるよう設計している。

主部材と二次部材を不可分なひとつに要素に統合する

 高欄は、鉛直荷重に対する構造としても機能する。構造システムとして はワーレントラスとフィーレンデールの混合である(図 7)。手すりは、ト ラスの上弦部 (80x30mm) であり、トラスの下弦部が桁の役割を担う。これ らの部材で曲げモーメントに抵抗し、支柱状の斜材でせん断に抵抗する。

高欄のトラスパターンは、内部応力の状態から決定された。せん断力は橋

脚部に近づくにつれて大きくなるため、手すり子はワーレントラスのよう に傾斜していくと同時に、材料を最小限にするため、支間中間部に向けて 見付幅が小さくなっている。見付幅は、橋脚付近で 30mm, その後 20mm, 支間中間部で 10mm となり、板厚 30mm の鋼板からウォータージェットで 切り出した。主構造と高欄の区別が無くなることで、主部材、二次部材の ヒエラルキーは消失する。必要な機能を足し合わせて付加していくのでは なく、ひとつの部材が複数の要素を共在させている点に注目したい。

水平剛性の確保 − クラシカルな対応

水平剛性は床版のアーチ状のラチス架構およびコンクリートタイルによっ て担保される(図 8)。架構は 2 つの橋軸方向の桁部 (30x90mm)、0.5m お きの横構 (30x90-115mm) からなる ( 図 10)。横構の間のコンクリートタイル は、圧縮材として機能する。水平方向には橋台部(LZ1, LZ2)と橋台に最 も近いブレース部(WZ1, WZ2)でのみ支持される(図 11)。支間長 60m の橋としては非常に剛性の低い構造であるため、水平方向への振動に対し て非常にセンシティブとなる。そのため、橋台の隣のブレース部でも水平 固定した。他の橋脚支柱は、主桁とほぞ接ぎのような形のピン接合として いる(図 10)。構造機能ごとに部材を対応させるクラシカルな対応だが、

この選択は、スケール感、リズム、質感といった場所性、意匠からの要因 と関係している。最終的に獲得したい様相によって着地点は揺れ動く。

歴史的建造物を包み込む照明計画

写真 2. スメーデンポート歩道橋

図 7. 構造システム

ブレース部 ブレース部

コンクリートタイル(圧縮ストラット)

水平荷重

橋台 横構 橋台

図 8. 水平荷重への対応

306

(4)

夜間の照明は、手すり内部に LED 照明が線状に配置され、歴史的建造物 を包み込む橋の線形を際立たせている(写真 3)。

これからの“(構造)デザイン”

 紹介した 2 つの例は、アイコニックな存在感のある橋と視覚的に存在感 のない橋と非常に対照的である。どちらも構造的アイデアをベースにしな がらも、場所によってデザインの落とし込まれ方が異なっている。両者に は共通点も幾つかある。一枚の鋼板面に構造が集約される、構造と高欄の 区別がないなど構造部材のヒエラルキー(部材構成)を最小限にした減算 的なデザインである点。材料を必要最小限に切り詰める工夫。ジョイント レス、コールテン鋼の使用などメンテナンス、耐久性に配慮したディテー ル。海岸沿いのリゾート風景、緑と落ち着いた煉瓦造が並ぶ街並みといっ たそれぞれの場所性に合わせた素材、色彩の選択。現代の解析、製作技術 を活用した点。そして、最も着目すべきは、どちらの橋も単一の合理性と

5027

15本30mm×30mm 520mm×30mm 12本10mm×30mm 5本20mm×30mm 15本30mm×30mm

110

1200

桁 30mm×90mm

橋脚 60mm×60mm

0 10m

LZ1 WZ1

LZ2 WZ2

図 9. 平面図 歴史的建造物を包み込む 写真 3. 夜景

図 10. 主構造兼高欄ディテール

図 11. 立面図

写真 4. ディテール

写真 1,2,3,4 ©Jean-Luc Deru 図版 Ney & Partners いう観点からでは、橋の“かたち”を記述することはできない点である。

なぜなら、例えばクノッケ歩道橋の“かたち”はモーメント図のみからで は発想、記述され得ないし、スメ−デンポート歩道橋は、スパン割や効率 のよい工場製作を意識したモジュール化を意識しつつも、最も効率のよい 経済スパンではない。根底に構造的アイデアがありつつ、場所ごとの固有 性を感じ取り、“かたち”の有り様を思考することで、論理的な言語化と、

美しさを伴ったデザインが可能となっている。

 これからの(構造)デザインとは、個人の感覚的な“かたち”でもなく、

合理性を積み重ねた加算的な“かたち”でもない。歴史、場所性、経済性、

施工性、メンテナンスなど複雑な要素の統合の上に成り立つ現代の合理解 は、最適解ではなく次善の解なのかもれない。本稿の 2 橋が思考の共通点 を持ちつつも、対照的な“かたち”に結実していることからも見て取れる。

そこでは、恣意性の少ない普遍的な秩序(構造)と、身体感覚的な心地よ さ(意匠)を同時に思考していくことが重要となるのではないだろうか。

307

参照

関連したドキュメント

本稿で は, スペイ ン語 の PN と TPN の差異 を分析 し, その特徴を見た。畢貴,PN は動詞 の前 に 置かれ ると否定極性 を命題 に与え ること

Timelines of estimated steel ordered and maximum spans of bridges.. 来た。 1990 年代には最大となる年間

生徒が教師の期待を探るようなことなく,純粋 に回答を求める探究型の授業が実現できない

じような化学状態にあるものの、CuOに見られるシェイ

(10a) と (10b) との対比は { i.. 感激 }) を説明するのに, [[z は感 覚である ]] のような概念比喩を,おのおの想定すること

$2/3$ であり、 $\lambda$ が最も不安定なスパン方向波数であると考えられる。 座標原点は衝突板と噴流中心軸の交点に位置し ,

渦のスパン方向の傾きは小さいので、

3.2.2 桁構造 (1)構造形式と適用範囲 RC 構造,PRC 構造,PC 構造,鋼とコンクリートの合成構造は,種々の形式として橋梁な どに適用される.各形式で一般的に適用されるスパンを表