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﹁ 技 術 の デ ザ イ ン か ら 人 間

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Academic year: 2021

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いま「空間」は大きな曲がり角にきている。正確にいえば2 0世紀初頭以来の大 きな曲がり角である。そして当然の事ながら、建築空間も乗り物の中の空間も列 車の空間も、この「空間」という領域でおこりつつある大きな革命から逃れる事 はできない。空間革命はあらゆる空間を巻き込みつつ、世界のあらゆる国々を巻 き込みながら、とどめようのない勢いで進行しているのである。そこでは、一体 何が起ころうとしているのだろうか。それは人類の歴史の中でどんな意味をもっ ているのだろうか。

まず着目すべきは、今おこりつつある空間革命と2 0世紀初頭の空間革命とは、

実は一対のものだという事である。2 0世紀初頭の建築家やインテリアデザイナー 達は、ひとつのコンプレックスに悩まされていた。すなわち「乗り物の方が建築 より進んでいる」というコンプレックスである。乗り物は時代の寵児であり、流 行の先端そのものと見えたに違いない。建築という動きようのない鈍重なものと 比較した時、乗り物は新しい時代の軽快さを象徴するものであった。彼らはその 著作の中で列車、自動車、船、飛行機のデザインのすばらしさをたたえ、そのデ ザイン・ヴォキャブラリーを自ら設計する建築空間の中にとり入れようと試み た。汽船風の丸窓や白いスチールパイプの手摺が先を争うように建築に取り入れ られた。

2 0世紀の空間はすべて「乗り物コンプレックス」に支配されていた。建築より は乗り物の方が進んでいる。新しい。乗り物の中でも早いもの(たとえば飛行機)

ほど進んでいるというコンプレックスである。当の乗り物のデザイン自体も「乗 り物コンプレックス」に支配されていた。いかにも乗り物ふうの近代的な軽やか なデザインが求められ、中でも最も「進んだ乗り物」である飛行機のデザインが、

列車をはじめとするすべての乗り物デザインのモデルとされた。

04 JR EAST Technical Review-No.1

慶応 大学 理工 学部 教授

P r o f i l e

1 9 5 4 神奈川県生まれ

1 9 7 9 東京大学院修了

1 9 8 5 - 8 6コロンビア大学建築・都市計画学科客員研究員

Asian Cultural Council給費研究員

1 9 8 7 空間研究所設立

1 9 9 0 隈研吾建築都市設計事務所設立

1 9 9 8 - 建築省「建築審議会」委員

1 9 9 8 - 9 9慶応義塾大学環境情報学部環境情報学科特別招聘教授

2 0 0 1 - 慶応義塾大学理工学部教授

2 0 0 2 - 国土交通省「社会資本整備審議会」専門委員

国土交通省「社会資本技術開発会議」委員

東日本旅客鉄道株式会社の主要駅改良に関するアドバイ ザー

S pecial feature article

﹁ 技 術 の デ ザ イ ン か ら 人 間

の デ ザ イ ン へ

(2)

今おこりつつある空間革命は、このコンプレックスからの解放に他ならない。

その原因は、もはや、乗り物の技術が最も進んだ技術とは言えなくなったことに ある。飛行機でさえも今や先端技術ではない。今先端にあるのは、コンピュータ ーテクノロジーやバイオテクノロジーである。それらは、乗り物のテクノロジー とは異なり、形が見えない。形のマネのしようがない。その結果、先端技術の形 態的イメージを空間デザインが追いかけるという2 0世紀の構図自体が終わってし まったのである。

その時、先端技術にかわる新しいデザインの規範とは何だろうか。それは空間 を利用する人間そのものであると僕は思う。当の人間の身体が、ゆっくりとくつ ろげなくてはいけない。とりわけ列車をはじめとする乗り物のデザインにおいて は、身体という視点が重要となる。移動という特殊な環境の中で、身体をいかに やさしく守り、くつろがせるか。それこそが移動空間のデザインの原点でなけれ ばならなかったはずなのである。

そういう視点で列車のデザインを見直した時、2 0世紀の列車デザインがいかに 多くの大事なものを無視し、置き忘れてきたかに気付かされるのである。たとえ ば素材。プラスチックやアルミといった「モダン」で「軽快」な素材ばかりが追 求され、いかなる素材を人間の身体が求めているかという視点は希薄だった。た とえば、オイルのしみ込んだ木のフロアのような、豊かで深い味わいをもった素 材を復活させる可能性はないのだろうか。

光の重要さもまた忘れ去られていたもののひとつである。影やばらつきのない 均質な白い光だけが追求されてきた。テーブルの上に置かれたランプのように、

ひとりひとりの心の中にしみ入るような温かい光を取り戻す可能性はないのだろ うか。僕にとってヨーロッパの列車の旅の最大の魅力は、列車のテーブルの上で そんなやさしい光に出合い、その光にワインをかざす事である。

あるいはコンバートメントのようなこじんまりとした落ち着きのある空間も、

身体にとってはきわめて魅力的である。茶室のような小さい空間の中で、空間と 身体とが豊かな会話をかわす術を、日本人は持っていた。日本の室内の中には、

身体をくつろがせるための知恵がたくさん詰まっていたのである。しかし、2 0世 紀の「乗り物コンプレックス」の荒波の中で、日本は世界に先駆けてそれらの知 恵を放棄してしまったのである。

しかし、今や時代は反転しはじめた。身体を基点にして、すべての空間デザイ ンをやり直す時代が到来したのである。今こそ、われわれ日本人の空間の知恵が、

再び発揮されなければならない。列車のデザインは、そのための、またとないフ ィールドとなるであろう。日本の列車は世界一だと言われるような繊細な知恵が、

本来われわれには備わっていたはずなのである。

05 JR EAST Technical Review-No.1

JR EAST Technical Review

参照

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