ジオポリマー硬化体の物性と構造利用に関する基礎的研究
(3)鉄筋を配置したジオポリマーモルタルはりの曲げ挙動
前田建設工業(株) 正会員 ○松林 卓 正会員 南 浩輔 正会員 舟橋 政司 (公財)鉄道総合技術研究所 正会員 上原 元樹 正会員 佐藤 隆恒
1.はじめに
ジオポリマー法による硬化体は,石炭灰や高炉スラ グなど産業副産物を活性フィラーとして大量に使用で き,かつ一般的なコンクリートと比較して 80%もの CO2削減を可能とする材料 1)として注目されている.
本材料の基礎理論や実用化に向けた研究 2)が近年行わ れているが,構造部材への適用に関する検討例は少な い.
本研究では,ジオポリマー法により作製したモルタ ル(以下,GPモルタルと記す)を用いた鉄筋を配置した 曲げ破壊型のはりを製作し,曲げ試験を実施した.ま た,試験結果から,曲げ挙動の評価に関する検討を行 った.
2.実験概要
使用材料は,活性フィラーとしてフライアッシュⅠ 種(密 度 2.40g/cm3)を , 細 骨 材 と し て 山 砂(密 度 2.56g/cm3)および砕砂(密度 2.70g/cm3)を,アル カリ溶液として水ガラスと水酸化カリウムを混 合したものを用いた.GPモルタルの配合を表1 に示す.なお,GP硬化体の作製方法は既報2)に 準じて行った.試験体の加温条件は温度 80℃,
湿度90%RHとし,加温後は,温度20℃,湿度 60%RH の恒温恒湿室内で試験材齢(28 日)まで 気中養生を施した.
試験体寸法は10×10×40cmとし,鉄筋を図1に示す ように配置した.試験体数は3体とし,載荷はスパン 30cm の3等分点載荷により行った.試験日における GP モルタルの物性値を表2に,鉄筋の物性値を表3 に示す.計測項目は,荷重,スパン中央部の鉛直変位,
試験体側面の変位,スパン中央部における引張側主鉄 筋のひずみとした.試験体側面の変位測定位置は図2 に示すとおりであり,鉛直変位を計測するための変位 計設置面と反対側の側面において,パイ型変位計を用 いて計測した.
キーワード ジオポリマー,石炭灰,フライアッシュ,産業副産物,CO2削減
連絡先 〒179-8914 東京都練馬区旭町1-39-16 前田建設工業(株) 技術研究所 TEL:03-3977-2241 表1 GP モルタルの配合(kg/m3)
F S AL フロー値(mm)
530 1415 265 234×240 F:フィラー,S:細骨材,AL:アルカリ溶液
100
60 40 40 60
40 40 100
8416
D4 D6
25 50 25
100
100 100
50 50
400
載荷点 載荷点 CL 50
50
支点 支点
(単位: )mm
図1 試験体の配筋 表2 GP モルタルの物性値 試験項目 物性値 試験方法 圧縮強度 28.5N/mm2 JSCE-G 505-2010 静弾性係数 11.3kN/mm2 供試体作製:JSCE-F 506
試験方法:JIS A 1149 曲げ強度 3.62N/mm2 JIS A 1106
表3 鉄筋の物性値 呼び名 降伏点
N/mm2
ヤング係数
kN/mm2 使用箇所
D6 362 194 主筋
D4 388 184 スターラップ
純曲げ区間
100
157015
(単位: ) 変位計測位置
mm 図2 試験体側面の変位計測位置 土木学会第67回年次学術講演会(平成24年9月)
‑879‑
Ⅴ‑440
3.実験結果
(1) 破壊状況および荷重-変位関係
各試験体の荷重-変位関係を図3に示す.試験体は,荷重 13~15kN程度で曲げひび割れが発生し,44~47kN程度で 鉄筋が降伏し,その後,若干荷重が増加した後に圧縮側の GPモルタルが圧壊した.試験終了後の試験体のひび割れ発 生状況の例を図4に示す.3体の試験体の破壊状況に特筆す べき相違は見られなかった.
(2) ひび割れ発生前後における中立軸の変化
代表的な荷重時における部材軸方向のひずみ断面高さ方 向の分布例を図5に示す.ひずみは試験体側面で計測した変 位を検長で除することにより求めた.同図には,一般的な鉄 筋コンクリートはりの理論に基づいて算出した,全断面有効 およびひび割れ断面における中立軸位置(
x
gおよびx
cr)を 併せて示した.同図から,ひび割れ発生荷重である14.8kN 以降,中立軸位置がx
gからx
cr付近に移動していることがわ かる.(3) ひび割れ発生前後における曲げ剛性の変化
曲げモーメント
M
と曲率φ
の関係例を図6に示す.M
お よびφ
は,日本コンクリート工学会規準(JCI-S-003-2007)に 基づいて算出した.同図には,一般的な鉄筋コンクリートは りの理論に基づいて算出した,全断面有効およびひび割れ断 面におけるM
とφ
の関係を併せて示した.同図から,ひび 割れ発生以前の実験値は,全断面有効の曲げ剛性の勾配とほ ぼ一致しており,ひび割れ発生以降にはひび割れ断面の曲げ 剛性の勾配に漸近する傾向が見られる.(4) ひび割れ発生,鉄筋降伏荷重および曲げ耐力
一般的な鉄筋コンクリートはりの理論を用いて求めたひ び割れ発生荷重と変位,鉄筋降伏荷重と変位,ならびに等価 応力ブロックを用いて算出した曲げ耐力(材料係数および部 材係数は1.0とした)を計算値として,実験値とともに図7 に示す.これによれば,鉄筋降伏荷重の実験値が計算値より も大きかったが,荷重-変位関係の計算値と実験値は概ね一 致した.
4.まとめ
鉄筋を配置したGPモルタルの曲げ挙動は,一般的な鉄筋 コンクリートはりと概ね同様であり,鉄筋コンクリートと同 じ理論で曲げ挙動を評価できる見込みが得られた.
参考文献
1) 相原直樹他:鉄道用材料のLCAによる環境評価,鉄道総研 報告,Vol.23,No.6,pp.5-10,2009
2) 上原元樹:ジオポリマー法による環境負荷低減コンクリー トの開発,鉄道総研報告,Vol.22,No.4,pp.41-46,2008
図3 荷重-変位関係
図4 載荷終了時のひび割れ発生状況の例
図5 部材軸方向ひずみの高さ方向分布の例
図6 曲げモーメント
M
と曲率φ
の関係の例図7 荷重-変位関係(計算値との比較)
0 20 40 60
0.0 0.5 1.0 1.5 2.0
変位(mm) 荷重(kN)
No.1 No.2 No.3
0 20 40 60 80 100
-1000 -500 0 500 1000 1500 2000 ひずみ(μ)
高さ(mm)
5.1kN 14.8kN 15.3kN 20.3kN 30.3kN 40.2kN
(全断面有効)
xg
(ひび割れ断面)
xcr
0 10 20 30 40 50
0 0.2 0.4 0.6 0.8
変位(mm) 荷重(kN)
No.1No.2 No.3 計算値 曲げ耐力計算値
0 500 1,000 1,500 2,000
0 0.00002 0.00004
曲率 (1/mm)
曲げモーメント M (N・ mm)
実験値 計算値
ひび割れ断面 全断面
有効
cr cI E 1
g cI E 14.8kN 1
曲げモーメントM (kN・mm) φ
土木学会第67回年次学術講演会(平成24年9月)
‑880‑
Ⅴ‑440