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(1)

腸骨静脈ステント開発のための

前臨床 in vitro 性能試験方法に関する研究

Study on the Pre-Clinical in vitro Performance Testing Methods for the

Development of Iliac Vein Stent

2018 年 2 月

志田 卓哉

Takuya SHIDA

(2)
(3)

腸骨静脈ステント開発のための

前臨床 in vitro 性能試験方法に関する研究

Study on the Pre-Clinical in vitro Performance Testing Methods for the

Development of Iliac Vein Stent

2018 年 2 月

早稲田大学大学院先進理工学研究科 および

東京女子医科大学大学院医学研究科 共同先端生命医科学専攻

循環器医工学研究

志田 卓哉

Takuya SHIDA

(4)
(5)

目次

第1章 序論

1.1 はじめに………1

1.2 深部静脈血栓症治療のガイドラインに関して………2

1.3 本研究の目的と意義………8

1.4 本博士論文の構成………9

第2章 腸骨静脈に適応外使用された動脈ステント及びCE Markingを取得した静脈 ステントの不具合と有害事象の分析 2.1 目的………11

2.2 方法………11

2.2.1 不具合報告データベースによる不具合と有害事象の調査(日本・米国)…11 2.2.2 文献検索データベースによる有害事象の調査………13

2.2.3 腸骨静脈の解剖学的特徴の調査………14

2.3 結果………14

2.3.1 不具合報告データベースによる不具合と有害事象の調査結果 (日本・米国)………14

2.3.2 文献検索データベースによる有害事象の調査結果………17

2.3.3 腸骨静脈の解剖学的特徴の調査結果………19

2.4 考察………22

2.4.1 腸骨静脈に適応外使用された動脈ステント及びCE Markingを取得した静脈 ステントの不具合と有害事象の比較………22

2.4.2 腸骨静脈へのステントの適応外使用………23

2.5 小括………25

第3章 前臨床in vitro性能試験項目の設定 3.1 目的………27

3.2 方法………27

3.2.1 動脈ステントに関するガイダンスと規格の調査及び分析………27

3.2.2 腸骨静脈に対するステント治療における臨床研究のエンドポイントの調査及 び分析………27

3.3 結果………28

3.3.1 動脈ステントに関するガイダンスと規格の調査及び分析結果………28

3.3.2 腸骨静脈に対するステント治療における臨床研究のエンドポイントの調査及 び分析結果………35

3.3.3 腸骨静脈ステントの前臨床 in vitro 性能試験項目の設定………39

3.4 考察………40

3.4.1 前臨床 in vitro 性能試験条件と方法の検討………40

(6)

3.4.2 腸骨静脈ステントと腸骨動脈ステントで求められる性能の違い…………42

3.5 小括………45

第4章 腸骨静脈ステントの前臨床in vitro性能試験 4.1 目的………47

4.2 使用機器………48

4.3 模擬血管の設定………49

4.3.1 模擬血管の寸法………49

4.3.2 模擬血管の物性………49

4.4 方法………50

4.4.1 ステント寸法、展開図、CAD 図面の取得………50

4.4.2 圧縮抵抗性の性能試験………52

4.4.3 局所圧縮抵抗性の性能試験………54

4.4.4 曲げ負荷に対する柔軟性の性能試験………56

4.4.5 キンク抵抗性の性能試験………57

4.5 結果………58

4.5.1 ステント寸法、展開図、CAD 図面の取得結果………58

4.5.2 圧縮抵抗性の性能試験結果………59

4.5.3 局所圧縮抵抗性の性能試験結果………59

4.5.4 曲げ負荷に対する柔軟性の性能試験結果………61

4.5.5 キンク抵抗性の性能試験結果………62

4.6 考察………64

4.6.1 圧縮抵抗性、局所圧縮抵抗性に関する考察………64

4.6.2 キンク抵抗性に関する考察………66

4.6.3 最適構造提案に向けた有限要素解析………67

4.7 小括………81

第5章 結論 5.1 本研究の成果………82

5.1.1 腸骨静脈に適応外使用された動脈ステント及び CE Marking を取得した静 脈ステントの有害事象の分析………82

5.1.2 前臨床 in vitro 性能試験項目の設定………82

5.1.3 腸骨静脈ステントの前臨床 in vitro 性能試験………83

5.2 本研究の意義………83

5.3 展望………85

参考文献………86

謝辞………92 研究業績

(7)

図目次

第1章 序論

図1-1 CIRSEによる腸骨静脈治療の分類

図1-2 本博士論文の構成

第2章 腸骨静脈に適応外使用された動脈ステント及びCE Markingを取得した静脈 ステントの不具合と有害事象の分析

図2-1 FDA MAUDEを利用した調査スキーム

図2-2 文献検索データベースを利用した有害事象調査スキーム

図2-3 文献検索データベースを利用した腸骨静脈の解剖学的特徴の調査ス キーム

図2-4 腸骨静脈に使用されたステントの適応と文献の割合 図2-5 腸骨静脈に使用されたステントの文献報告の国別割合 図2-6 腸骨静脈の解剖学的特徴と有害事象の関係

図2-7 近年の静脈血栓塞栓に関連する国の取り組みのタイムライン 図2-8 文献公表時期とステントの適応別文献報告数の関係

第3章 前臨床in vitro性能試験項目の設定

図3-1 エンドポイントと文献件数の関係 図3-2 動脈と静脈の血管構造の違い

第4章 腸骨静脈ステントの前臨床in vitro性能試験 図4-1 ステント検査装置

図4-2 ステントとシリコーンチューブの位置関係 図4-3 圧縮抵抗性の性能試験

図4-4 局所圧縮抵抗性の性能試験

図4-5 曲げ負荷に対する柔軟性の性能試験 図4-6 キンク抵抗性の性能試験

図4-7 圧縮抵抗性の性能比較 図4-8 局所圧縮抵抗性の性能比較

図4-9 曲げ負荷に対する柔軟性の性能比較 図4-10 Sinus XLの測定の様子

図4-11 キンク抵抗性の性能試験時の外観 図4-12 扁平率と断面積減少率の関係

図4-13 扁平率と断面積減少率の関係(近似曲線)

図4-14 ステントのセル形状の違い 図4-15 圧縮抵抗性とセル数の関係 図4-16 局所圧縮抵抗性とセル数の関係 図4-17 圧縮抵抗性と断面積の差異の関係

(8)

図4-18 局所圧縮抵抗性と断面積の差異の関係 図4-19 圧縮抵抗性の有限要素解析

図4-20 圧縮抵抗性の実験結果と有限要素解析結果の比較 図4-21 キンク抵抗性の有限要素解析

図4-22 曲げ負荷に対する柔軟性の有限要素解析結果 図4-23 ストラット同士の干渉の確認

図4-24 提案したデザインのストラット同士の干渉の確認 図4-25 Zilver Venaの構造

図4-26 Sinus Venousの構造 図4-27 提案したデザイン

図4-28 提案したデザインの解析結果(全体図、断面図)

(9)
(10)

1

第 1 章 序論

1.1 はじめに

静脈血栓症(Venous Thromboembolism;VTE)は静脈に血栓が生じ、静脈での 狭窄、閉塞、炎症が生じる疾患であり、治療法の開発が望まれている1。静脈血 栓症は深部静脈血栓症(Deep Vein Thrombosis;DVT)と肺血栓塞栓症(Pulmonary

Embolism;PE)に大別される。深部静脈血栓症は四肢深部静脈の血栓性塞栓に

より、静脈の還流障害、肢のうっ血を引き起こし、血栓後症候群(Post Thrombotic

Syndrome;PTS:下肢浮腫、色素沈着、潰瘍形成)の原因となる。深部静脈血栓

症の血栓が肺動脈まで運ばれる疾患が肺血栓塞栓症であり、その 90%以上の塞 栓源は深部静脈血栓症であると言われている2

日本における年間の静脈血栓症の症例数は2.3万症例、米国における年間の静 脈血栓症の症例数は91万症例、欧州における年間の静脈血栓症の症例数は76.5 万症例であり、欧米と比較して日本では顕著に少なく、見過ごされている症例 が多いと考えられる疾患である。(表 1-1)深部静脈血栓症、肺血栓塞栓症の症 例数は、生活様式の欧米化、高齢者の増加、疾患に対する認識及び診断技術の 向上に伴い、増加傾向にある1

表 1-1 日本、米国、欧州の静脈血栓塞栓症の症例数

日本1 米国3 欧州4 深部静脈血栓症 15,000 380,000 465,000

肺血栓塞栓症 7,800 530,000 300,000 静脈血栓塞栓症

(深部静脈血栓症

+肺血栓塞栓症)

22,800 910,000 765,000

死亡者数 - 300,000 370,000

深部静脈血栓症の原因の一つとして、左総腸骨静脈が右総腸骨動脈と交差す る部分で、腸骨静脈が圧迫され、血流障害による血栓形成を引き起こす腸骨静 脈圧迫症候群(May-Thurner Syndrome)がある5。腸骨静脈圧迫症候群は、1957

年にMay とThurner が発見した。430 例の剖検の結果、全体の22%に左総腸骨

静脈の局所的な狭窄病変を認め、病変部が隔壁を伴った血管内皮の肥厚が観察 され5、発見者の名前をとってMay-Thurner Syndromeと呼ばれるようになった。

腸骨静脈圧迫症候群の治療方法として、カテーテルから血栓を溶解する薬を 投与して血栓を溶解する経カテーテル血栓溶解法、カテーテルにより血栓を吸 引する血栓吸引療法、金属の網目状の構造体であるステントを病変に留置する ステント治療等がある。ステント治療は他の治療法がない患者に対して、腸骨

(11)

2

動脈用ステント等が 1995 年頃以降から欧米で適応外使用されてきた 6。Volker らは左総腸骨静脈の Spur(血管内にコラーゲンやエラスチンが堆積することに より形成される中隔)に発生する血栓に対するステント治療と血栓吸引療法を 比較し、血栓吸引療法では 73%が再閉塞したのに対し、ステント治療での再閉 塞は 13%であり、ステント治療は長期の開存性を保つのに有効であると報告し ている6

2010年以降、腸骨静脈ステントとしてCE Markingを取得した製品が5種類出 てきており(表 1-2)、欧州では深部静脈血栓症に対して腸骨静脈ステントが使 用されている。一方、日本、米国においては既承認品が存在せず、腸骨動脈ス テント等が適応外使用されているのが現状であり、より優れた腸骨静脈ステン トの開発が望まれている。

表 1-2 CE Markingを取得した腸骨静脈ステント

製品名 Zilver Vena VICI

Venous Sinus

Venous Sinus

Obliquus VENOVO 製造販売業者 Cook VENITI Optimed Optimed BARD

欧州 CE Marking

(2010)

CE Marking

(2013)

CE Marking

(2012) CE Marking

MarkingCE

(2015) 日本

(厚生労働省) 未承認 未承認 未承認 未承認 未承認 米国(FDA)

治験実施中

(2013/10 開始)

治験実施中

(2014/4 開始)

未承認 未承認 未承認

1.2 深部静脈血栓症治療のガイドラインに関して

現在の日本、米国、欧州における深部静脈血栓症に対するステント治療の位置 付けを把握するため、深部静脈血栓治療に関するガイドラインを調査した。深 部静脈血栓治療のガイドラインは日本では1 つ、欧州では 1 つ、米国では 3 つ 存在している 1,7,8,9,10。日本では、日本循環器学会から「肺血栓塞栓症および深 部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイドライン(2009年度改訂版)」1 が発行されており、静脈ステントはClassⅡb(データ・見解より有用性・有効性 がそれほど確立されていない)に分類されている。(表1-3)

(12)

3

表 1-3 肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断、治療、予防に関するガイド

ライン(2009年度改訂版)における深部静脈血栓症治療のクラス分類

(文献1より引用)

治療方法の分類 治療方法の詳細 クラス(※)

薬物療法

抗凝固療法(ヘパリンとワルファリンの

併用) ClassⅠ

血栓溶解療法(ストレプトキナーゼ、ウ

ロキナーゼ等) ClassⅡb 理学療法(運動・圧迫) 弾性ストッキング ClassⅠ

カテーテル療法

カテーテル血栓溶解療法 ClassⅡb カテーテル血栓吸引療法 ClassⅡb 静脈ステント ClassⅡb

外科的血栓摘出術 - ClassⅡb

※クラス分類(文献1より引用)

 ClassⅠ:検査・治療が有効、有用であることについて証明されているが、あ

るいは見解が広く一致。

 ClassⅡ:検査・治療の有効性、有用性に関するデータまたは見解が一致して

いない場合がある。

 ClassⅡa:データ・見解から有用・有効である可能性が高い。

 ClassⅡb:データ・見解より有用性・有効性がそれほど確立されていない。

 ClassⅢ:検査・治療が有用でなく、ときに有害であるという可能性が証明さ

れている。或いは有害との見解が広く一致。

欧州ではCIRSE(Cardiovascular and Interventional Radiological Society of Europe) からCIRSE Standards of Practice Guidelines on Iliocaval Stenting7が発行されてお り、CEAPクラス(表1-4)が3~6の静脈閉塞の患者がインターベンション治療 の対象であることが言及されている。(図1-1)CEAPとは臨床徴候、病因、解剖 学的分布、病態生理の 4 項目を層別化し、下肢静脈瘤の重症度を判別する方法 である。

(13)

4

図 1-1 CIRSEによる腸骨静脈治療の分類(文献7より引用)

表 1-4 CEAP(Clinical-Etiology-Anatomy-Pathophysiology)分類

(文献11より引用)

臨床分類 C0 視診・触診で静脈瘤なし

C1 クモの巣状(径1mm以下)あるいは網目状(径3mm以下)の静脈瘤 C2 静脈瘤(仕立で径3mm以上)

C3 浮腫

C4 皮膚病変(C4a:色素沈着・湿疹、C4b:脂肪皮膚硬化・白色萎縮)

C5 潰瘍の既往 C6 活動性潰瘍

米国ではAmerican College of Phlebology(ACP)、American Heart Association(AHA)、 Society for Vascular Surgeryからそれぞれ下記に示す3つのガイドラインが発行さ れている。診療科の異なる専門家の立場から、それぞれガイドラインが発行さ れている。

① Practice Guidelines Chronic Deep Venous Obstruction –Management of Obstruction of the Femoroiliocaval Venous System8[American College of Phlebology(ACP)]

(14)

5

② The Postthrombotic Syndrome:Evidence-Based Prevention,Diagnosis,and Treantment Strategies: a scientific statement from the American Heart Association9 [American Heart Association(AHA)]

③ Early thrombosis removal strategies for acute deep venous thrombosis: Clinical Practice Guidelines of the Society for Vascular Surgery and the American Venous Forum10[Society for Vascular Surgery]

①のガイドラインでは、腸骨静脈へのステンティングに対して、表1-5に示す グレードに分類されている。ステンティングの推奨はGrade1B、Grade1Cに分類 され、エビデンスレベルに差はあるものの、ステンティングはリスクよりベネ フィットの方が大きい治療であることが報告されている。

表 1-5 ACP (American College of Phlebology)ガイドラインにおける腸骨静脈 ステンティングのグレード分類(文献8より引用)

対象と治療方法 グレード

(※)

QOLに影響を及ぼす下肢の痛み、浮腫を伴う腸骨大腿静脈閉塞(非

血栓/血栓)に対し、バルーン血管形成術、ステンティングを推奨。 Grade1B QOLに影響を及ぼす下肢の痛み、浮腫を伴うIVC(Inferior Vena

Cava;下大静脈)閉塞(非血栓/血栓)に対し、バルーン血管形成 術、ステンティングを推奨。

Grade1C

残存狭窄が血栓溶解後のイメージングで確認された場合、静脈の開 存及び血流を維持させるため、急性の腸骨大腿静脈血栓を考慮した CDT(Catheter Directed Thrombolysis;経カテーテル血栓溶解療法)

併用のバルーン血管形成術、ステンティングを推奨。

Grade1B

他の起こりうる原因が排除され、深刻な腸骨静脈の閉塞が症候を説 明するのに十分と考えられた場合、QOLに影響する深刻で慢性的 な骨盤の痛み、性交疼痛症、背部の痛みを伴う血栓後腸骨静脈閉塞 の患者にバルーン血管形成術、ステンティングを推奨。

Grade1C

※グレード分類

リスク・ベネフィット ベネフィット>>リスク 1

ベネフィット≧リスク 2 エビデンスレベル

高 A 中 B 低 C

(15)

6

②のガイドラインでは、腸骨静脈へのステンティングに対して、表1-6に示す ようにクラス・エビデンスに分類されている。ステンティングはベネフィット がリスクと同等以上の治療であり、エビデンスは限定的な集団の評価のみであ り、高くはない。

表 1-6 AHA(American Heart Association)ガイドラインにおけるクラス・エビ デンスレベル分類(文献9より引用)

治療方法の推奨 治療方法の詳細 クラス・エビデンス レベル(※)

血栓後症候群に対 するエンドバスキ ュラー、外科的治 療[対象は深刻な 症候性の腸骨静 脈・大静脈閉塞患 者]

1.外科手術(F-Fバイパス等) ClassⅡb エビデンスレベルC 2.経皮血管形成術(ステント、バ

ルーン)

ClassⅡb エビデンスレベルB 3.外科手術と経皮血管形成術のコ

ンバイン

ClassⅡb エビデンスレベルC 4.弁置換、静脈移植 ClassⅡb

エビデンスレベルC 血栓後症候群に対

する運動療法

少なくとも 6 ヶ月のエアロビック 運動、足の強化トレーニングを含む 管理されたエクササイズトレーニ ングプログラム

ClassⅡb エビデンスレベルB 血栓後症候群に対

する薬物療法

Rotosides、Hidrosmin、Defibrotide の安全性と有効性は不確実

ClassⅡb エビデンスレベルB

血栓後症候群予防 のための急性深部 静脈血栓症に対す る血栓溶解と経皮 血管形成術

1.経カテーテル血栓溶解療法、

PCDT(Pharmacomechanical catheter directed thrombolysis;血栓吸引、バ ルーン拡張、ステント留置といった 機械的な治療も行う経カテーテル 血栓溶解療法):経験のある施設で、

急性(14日以内)の症候性の機能 的な許容能力(1年以上の余命、低 い出血リスク)のある広範囲の深部 静脈血栓症の患者。

ClassⅡb エビデンスレベルB

2.経カテーテル血栓溶解療法、

PCDTの前後、施術中の全身の抗凝 固療法。

ClassⅠ

エビデンスレベルC 3.経カテーテル血栓溶解療法、

PCDT後の再血栓とそれに続く血 栓後症候群の予防のためのバルー ン血管形成術(ステント有り、無し)

の施術。

ClassⅡb エビデンスレベルB

(16)

7

治療方法の推奨 治療方法の詳細 クラス・エビデンス レベル(※)

血栓後症候群予防 のための急性深部 静脈血栓症に対す る血栓溶解と経皮 血管形成術

4.経カテーテル血栓溶解療法、

PCDTに患者が候補者でない時、経 験のある施設で急性(14日以内)

の症候性の機能的な許容能力(1年 以上の余命、低い出血リスク)のあ る広範囲の深部静脈血栓症の患者 に対する外科的血栓摘出術。

ClassⅡb エビデンスレベルB

5.全身の血栓溶解は深部静脈血栓 症治療に推奨されない。

ClassⅢ

エビデンスレベルA

表 1-7 推奨クラスとエビデンスレベル(文献9より引用)

CLASS Benefit>>>Risk Procedure/ Treatment should be performed/

administered

CLASSa Benefit>>Risk Additional studies with focused objectives needed It is reasonable to perform procedure/

administer treatment

CLASSb BenefitRisk Additional studies with broad objectives needed ; additional registry data would be helpful

Procedure/ Treatment may be considered

CLASS No Benefit or CLASS Harm

LEVEL A Multiple populations evaluated Data derived from multiple

randomized clinical trials or

meta-analysis

Recommendation that procedure or treatment is useful/

effective

Sufficient evidence from multiple randomized trials or meta-analyses

Recommendation in favor of treatment or procedure being useful/ effective

Some conflicting evidence from multiple randomized trials or meta-analyses

Recommendation’s usefulness/ efficacy less well established

Greater conflicting evidence from multiple randomized trials or

meta-analyses

Recommendation that procedure or treatment is not useful/ effective and may be harmful

Sufficient evidence from multiple randomized trials or meta-analyses

LEVEL B Limited populations evaluated

Data derived from a single randomized trial or

nonrandomized studies

Recommendation that procedure or treatment is useful/

effective

Evidence from single randomized trial or nonrandomized studies

Recommendation in favor of treatment or procedure being useful/ effective

Some conflicting evidence from single randomized trial or

nonrandomized studies

Recommendation’s usefulness/ efficacy less well established

Greater conflicting evidence from single randomized trial or nonrandomized studies

Recommendation that procedure or treatment is not useful/ effective and may be harmful

Evidence from single randomized trial or

nonrandomized studies LEVEL C

Very limited populations evaluated Only consensus opinion of experts, case studies, or standard of care

Recommendation that procedure or treatment is useful/

effective

Only expert opinion, case studies, or standard of care

Recommendation in favor of treatment or procedure being useful/ effective

Only diverging expert opinion, case studies, or standard of care

Recommendation’s usefulness/ efficacy less well established

Only diverging expert opinion, case studies, or standard of care

Recommendation that procedure or treatment is not useful/ effective and may be harmful

Only expert opinion, case studies, or standard of care

③のガイドラインでは、表1-7に示すようにステントの留置位置に応じたグ レード分類がされている。腸骨静脈のステンティングは、リスクよりベネフィ ットの方が大きいことが明確であるが、エビデンスは乏しい。

(17)

8

表 1-8 Society for Vascular Surgeryガイドラインにおけるグレード分類

(文献10より引用)

詳細 グレード(※)

慢性腸骨静脈圧縮、もしくはどの血栓 除去方法によってもカバーされていな い閉塞病変に対する自己拡張型ステン トの使用

Grade1C

大腿、膝下静脈に対し、ステントは使

用しないこと。 Grade2C

※グレード分類

 Grade1C:リスクよりベネフィットが大きいことが明確。エビデンスは観察研

究、ケーススタディ等で乏しい。

 Grade2C:ベネフィットとリスクの関係が不明瞭。エビデンスは観察研究、ケ

ーススタディ等で乏しい。

各々のガイドラインにおいて、深部静脈血栓症に対するステント治療はリス クよりベネフィットが大きいことが示されているが、エビデンスは乏しいこと が分かっており、今後のエビデンス蓄積が望まれる状況である。

1.3 本研究の目的と意義

現在、本邦では腸骨静脈ステントの承認品がなく、臨床試験の前にデバイスの 安全性と有効性を確認する前臨床in vitro性能試験項目が設定されていない。

本研究では、(1)腸骨静脈に対するステント治療の課題、腸骨静脈の解剖学 的特徴を調査及び分析することにより明確化し、(2)動脈ステントに関するガ イダンスと規格、腸骨静脈に対するステント治療における臨床研究のエンドポ イントを調査及び分析することで、腸骨静脈ステント開発に必要な前臨床 in

vitro性能試験項目を明示することを目的としている。また、CE Markingを取得

した静脈ステントを用い、提案した性能試験項目で性能試験を行い、ステント デザインの違いが性能に及ぼす影響を検証し、より優れた腸骨静脈ステントの 構造を探究することを目的としている。

本研究では、国内における腸骨静脈ステントの開発、承認申請を見据え、腸 骨静脈ステント開発に必要な前臨床in vitro性能試験項目を明確化し、性能試験 方法を提示するものである。

(18)

9

1.4 本博士論文の構成

本論文は、次の5 章で構成されている。(図 1-2)第 1章では、深部静脈血栓 症の原因の一つである腸骨静脈圧迫症候群の概要について述べたうえで、腸骨 静脈圧迫症候群の治療に使用される腸骨静脈ステントの開発の状況をまとめ、

腸骨静脈ステントの前臨床in vitro性能試験方法の策定の重要性と本研究の意義 について述べた。

第2章では腸骨静脈に適応外使用された動脈ステント及びCE Markingを取得 した静脈ステントについて、不具合と有害事象の調査及び分析、腸骨静脈の解 剖学的な特徴を調査及び分析し、腸骨静脈に対するステント治療の課題と腸骨 静脈の解剖学的特徴を明らかにした。

第 3 章では、動脈ステントに関するガイダンスと規格、腸骨静脈に対するス テント治療における臨床研究のエンドポイントを調査及び分析し、腸骨静脈ス テントに必要な前臨床in vitro性能試験に必要な項目を抽出した。

第4章では、CE Markingを取得した静脈ステントを用い、ステントデザイン

が第2章、第3章の結果を踏まえて選定した腸骨静脈ステントに必要な4つの 性能(圧縮/局所圧縮抵抗性、柔軟性、キンク抵抗性)に及ぼす影響を検証し た。更に、実験結果を踏まえ、既存のCE Makingを取得した腸骨静脈ステント では達成されていない、圧縮抵抗性、キンク抵抗性、柔軟性の3つの性能を同 時に高めるステント構造を試案し、有限要素解析により検証した。その結果、

腸骨静脈ステントに求められる上記の3つの性能を高められるデザインを提案 することができた。

第5章では、各章で得られた知見をまとめ、腸骨静脈ステント開発に必要な

前臨床in vitro性能試験に関して提言をまとめた。腸骨静脈に適応外使用された

動脈ステント及びCE Markingを取得した腸骨静脈ステントの不具合と有害事象 を分析し、腸骨静脈の解剖学的特徴と関連付け、腸骨静脈ステント開発に必要

な前臨床in vitro性能試験項目を明確化し、性能試験項目中の圧縮/局所圧縮抵

抗性、キンク抵抗性、柔軟性の性能試験方法を提示した。

(19)

10

図 1-2 本博士論文の構成

(20)

11

第 2 章 腸骨静脈に適応外使用された動脈ステント及び CE Marking を取得した静脈ステントの不具合と有害事象の分析

2.1 目的

本章では、腸骨静脈に適応外使用された動脈ステント及びCE Markingを取得 した静脈ステントの不具合と有害事象、及び腸骨静脈の解剖学的な特徴を調査 及び分析し、腸骨静脈に対するステント治療の課題と腸骨静脈の解剖学的特徴 を明らかにすることを目的とした。

2.2 方法

2.2.1 不具合報告データベースによる不具合と有害事象の調査(日本・米国)

腸骨静脈に適応外使用された動脈ステント及びCE Markingを取得した静脈ス テントの不具合と有害事象をデータベースにより調査した。不具合は医療機器 の品質、安全性、性能等の具合が良くないことをいい、有害事象は使用された 医療機器により患者に好ましくない影響を及ぼすことをいう。

日本の不具合と有害事象は、厚生労働省 薬事・食品衛生審議会(医療機器・

再生医療等製品不具合等報告のデータベースを利用し、調査期間は 2006/09~

2016/09 の 10 年間とした。日本では承認された腸骨静脈ステントが存在しない

ため、適応外使用となる腸骨動脈ステント、血管ステント、胆管ステント、気 管支ステント、食道ステントを対象として調査した。

米国の不具合と有害事象は、FDA MAUDE(Manufacturer and User Facility Device Experience)のデータベースを利用した。検索条件はManufacturer、Brand Name、Product Code、Dateにそれぞれ入力し、AND検索を実施した。

米国では承認された腸骨静脈ステントが存在しないため、適応外使用となる 腸骨静脈ステント、腸骨動脈ステント、胆管ステント、腸骨/中心静脈ステン トとした。データベースに入力するキーワードに関して、ManufacturerはVENITI、 Cook、ANGIOMED、Cordis、Boston Scientificとした。Brand Nameは腸骨静脈ス テントであるVICI Venous、Zilver Venaの2種類、腸骨動脈ステントであるZilver、 LUMINEXX、SMART、EPICの4種類、腸骨/中心静脈ステントであるWallstent の1種類とした。Date(検索期間)は2006/09/01~2016/09/01の10年間とした。

Product CodeはNIO(Iliac stent)、FGE(Biliary catheter and Accessories)とした。

不具合及び有害事象の総数を調査・分析し、腸骨静脈に関連する不具合と有害 事象を抽出した。MAUDEに挙げられている報告では、デバイスとの因果関係が

(21)

12

不明なものもあり、不具合と有害事象を併せて抽出した。調査のスキームを図 2-1に示す。また、各ステントの適応、構造を表2-1に示す。

図 2-1 FDA MAUDEを利用した調査スキーム

表 2-1 各ステントの適応と構造

適応 ステント名 構造

腸骨静脈 VICI Venous

レーザーカット型A Zilver Vena

腸骨動脈/

胆管

Zilver LUMINEXX

SMART EPIC

腸骨動脈/

中心静脈 Wallstent

編み込み型B

(A) 金属チューブをレーザーカットすることにより作製される。

(22)

13

(B) 複数本の金属素線を編むことにより作製される

2.2.2 文献検索データベースによる有害事象の調査

腸骨静脈に適応外使用された動脈ステント及びCE Markingを取得した静脈ス テントの有害事象を文献検索データベース(PubMed、Cochrane Library、EMBASE、

Web of Science)により調査した。検索式はそれぞれのデータベースで、(Iliac OR

Iliofemoral)、(Vein OR Venous)、Stent をそれぞれ AND 検索した。検索期間は

2016/10/04以前とした。調査のスキームを図2-2に示す。

図 2-2 文献検索データベースを利用した有害事象調査スキーム

PubMedによる文献調査の結果、635件の文献が検索された。それらの文献の

中で腸骨静脈ステント治療に関する文献は97件であった。Cochrane Libraryによ る文献調査の結果、11 件の文献が検索され、それらの文献の中で腸骨静脈ステ ント治療、及び腸骨静脈の解剖学的特徴に関する文献は5 件であった。Web of

Science による文献調査の結果、416 件の文献が検索され、それらの文献の中で

腸骨静脈ステント治療に関する文献は128件であった。EMBASE による文献調 査の結果、69 件の文献が検索され、それらの文献の中で腸骨静脈ステント治療

(23)

14

に関する文献は66件であった。それぞれの文献検索データベースで該当した文 献について、異なるデータベースで同じ文献が該当している場合は 1 つのみを 残し、182件の文献が抽出された。

2.2.3 腸骨静脈の解剖学的特徴の調査

腸骨静脈の解剖学的特徴を文献検索データベース(PubMed、Cochrane Library、

EMBASE、Web of Science)により調査した。検索式、及び調査のスキームは2.2.2

と同様とした。調査のスキームを図2-3に示す。

図 2-3 文献検索データベースを利用した腸骨静脈の解剖学的特徴の

調査スキーム

2.3 結果

2.3.1 不具合報告データベースによる不具合と有害事象の調査結果(日本・米国)

日本の不具合報告データベースに報告されている不具合と有害事象を調査し た結果、報告が無いことが明らかになった。

米国の MAUDE に報告されている不具合と有害事象を調査した結果、総数は

(24)

15

3,272件であった。データベースのEvent Description、Manufacturer Narrativeの内 容を精査した結果、腸骨静脈に関連する不具合と有害事象は88件あった。不具 合と有害事象を分類した結果、ステントフラクチャー、ステントの圧縮、再狭 窄/閉塞、ステントマイグレーション、ステントショートニング、手技に関連 する合併症、デバイス不良の7つに分けることができた。

そのうち、ステントフラクチャー、ステントの圧縮、再狭窄/閉塞、ステン トマイグレーション、ステントショートニングはステント性能に起因した不具 合と有害事象であり、全体の37%(33/88件)を占めることが明らかになった。

また、手技に関連する不具合と有害事象(手技に関連する合併症)は 56%(49

/88件)、製造不良に関連する不具合と有害事象(デバイス不良)は7%(6/88 件)であった。ステントフラクチャー、ステントの圧縮、再狭窄/閉塞は動脈 ステント、腸骨静脈ステントのいずれでも発生していることが明らかになった。

結果のまとめを表2-2に示す。

(25)

16

表 2-2 FDA MAUDEによる不具合と有害事象の調査結果のまとめ

不具合と

有害事象 因子 記載内容例

腸骨静 脈ステ ント

動脈 ステン

割合

% ステントの内訳 ステント

フラクチャ

ステン ト性能

ステントが疲労破

1 2

37

VICI Venous:1

SMART:2 ステントの

圧縮

ステント留置後、ス

テントが圧縮変形 1 2 VICI Venous:1

Wallstent:2 再狭窄/

閉塞

ステント留置後、ス テントが再狭窄・閉

1 9 Zilver Vena:1

Zilver:1

Wallstent:8 ステント

マイグレー ション

ステント留置後、ス テ ン ト が 移 動 し 病

変カバー不能 10

Zilver:1

LUMINEXX:2

SMART:1

Wallstent:6 ステント

ショートニ ング

デ リ バ リ ー 時 と 留 置 時 で 極 端 な ス テ ン ト の 長 さ の 相 違 が生じ、病変をカバ ー不能

7 Wallstent:7

手技に関連

する合併症 手技

後 拡 張 バ ル ー ン で ステントを拡張し、

ステントが破損 1 Zilver Vena:1

想 定 し た 留 置 位 置 と は 異 な る 場 所 で ス テ ン ト 留

後 拡 張 バ ル ー ン で拡張する際に、

ス テ ン ト に 引 っ 掛け、ステントが 移動

カ テ ー テ ル 抜 去 時 に ス テ ン ト の ス ト ラ ッ ト に 引 っ掛け、ステント が移動

IVUS をステント に引っ掛け、ステ ントが移動

病 変 に カ テ ー テ ルが引っ掛かり、

抜去不能

ス テ ン ト が 再 収 納不能

病 変 を ス テ ン ト が 全 て カ バ ー し ない(予想よりス テントが短い)

ガ イ ド ワ イ ヤ ー が ス テ ン ト 上 で スタックし、抜去 不能

48 56

(26)

17 不具合と

有害事象 因子 記載内容例

腸骨静 脈ステ ント

動脈 ステン

割合

% ステントの内訳

手技に関連

する合併症 手技

後 拡 張 バ ル ー ン が破損する

屈 曲 病 変 で シ ャ フトがキンク

デバイス 不良

製造 不良

ス テ ン ト が 展 開 不能

ス テ ン ト 留 置 途 中 で コ ン ト ロ ー ラ ー の 不 具 合 発

ス テ ン ト 端 部 が 拡張不良

ス テ ン ト 全 体 が 拡張不良

6 7

総数 4 84 100

2.3.2 文献検索データベースによる有害事象の調査結果

文献調査の結果から、Wallstent(腸骨動脈/中心静脈ステント)、及び腸骨動 脈ステント、浅大腿動脈ステントの適応外使用が91%であり、Wallstentが使用 された文献は65%と半分を占めた。腸骨静脈ステントが使用された文献は3%で あった。(図2-4)また、適応外使用の文献件数は米国が45%で最も多かった。(図 2-5)腸骨静脈ステントが使用された文献は3%(3件;アイルランド、ドイツ、

オランダ)であった。

ステント性能に起因する有害事象はステントの圧縮が8件12-19、ステントフ ラクチャーが2件20,21、ステントマイグレーションが11件19,21-30、ステントシ ョートニングが2件6,22、ステントテーパリングが2件21,31、ステントのキンク が1件22、血管のストレートニングが1件22、再狭窄/閉塞が10件13,22,23,32-36

であった。ステントマイグレーション、ステントショートニング、ステントテ ーパリングはレーザーカット型ステントでは報告はなく、編み込み型ステント でのみ報告されていた。再狭窄/閉塞は動脈ステント、腸骨静脈ステントのい ずれでも発生していることが明らかになった。有害事象の調査結果のまとめを 表2-3に示す。

(27)

18

図 2-4 腸骨静脈に使用されたステントの適応と文献の割合

図 2-5 腸骨静脈に使用されたステントの文献報告の国別割合

(28)

19

表 2-3 文献調査による有害事象の調査結果のまとめ

有害事象

研究の種類

腸骨 静脈 ステ ント

動脈 ステ ント

使用された ステント

ステントの

圧縮 8 後ろ向き観察研究:712-18

前向きコホート研究:114 5 3 Wallstent:3

Zilver:1

Palmaz:1 ステント

フラクチャ

2 ・ 後ろ向き観察研究:220,21 2 Wallstent:2 ステント

マイグレー ション 11

後ろ向き観察研究:522-26

前向きコホート研究:

219,21

ケースレポート:327-29

メタアナリシス:130

9 2 Wallstent:9

ステント ショートニ

ング 2 後ろ向き観察研究:122

前向きコホート研究:16 2 Wallstent:2 ステント

テーパリン

2 後ろ向き観察研究:131

前向きコホート研究:121 2 Wallstent:2 ステントの

キンク 1 ・ 後ろ向き観察研究:122 1 Wallstent:1 血管の

ストレート

ニング 1 ・ 後ろ向き観察研究:122 1 Wallstent:1

再狭窄/閉 10

後ろ向き観察研究:

813,22,23,32-34

前向きコホート研究:135

ケースレポート:136

1 6 3

Sinus Venous:1

Wallstent:1

LUMINEXX:1

SMART1

Palmaz2

2.3.3 腸骨静脈の解剖学的特徴の調査結果

文献検索データベースにより腸骨静脈の解剖学的特徴を調査した結果、表2-4 に示す不具合と有害事象、及びその原因と示唆される解剖学的特徴が明らかに なった。図2-6に腸骨静脈の解剖学的特徴と有害事象の関係を示す。

① 左総腸骨静脈と右総腸骨動脈が交差する部分において、左総腸骨静脈が圧縮

12,13され、その結果、ステントの圧縮や再狭窄・閉塞が発生する12-14,37-39

また、その圧縮径は血管径の50%以上14,37-39という報告があった。

② 左総腸骨静脈と右総腸骨動脈が交差する部分において、左腸骨静脈が右総腸 骨動脈の拍動により圧縮され、ステントがフラクチャーした報告があった

32,40

(29)

20

③ 総腸骨静脈が椎間板の圧迫により屈曲し20、その結果、ステントのキンク、

血管のストレートニング、再狭窄・閉塞が発生する20,22,36。また、そのキン ク角度は50°20という報告があった。

④ 外腸骨静脈が鼠径靭帯の圧迫により連続的に屈曲し、その結果、ステントの フラクチャー36や再狭窄・閉塞7,33,41,42が発生するという報告があった。

⑤ 下大静脈から総腸骨静脈にかけての分岐部において、ステントのマイグレー

ション15,19、ステントのテーパリング、閉塞が発生するという報告があった

15,19

表 2-4 不具合と有害事象、腸骨静脈の解剖学的特徴の関係

不具合と有害事象 腸骨静脈の解剖学的特徴

FDA MAUDE 文献検索データベース 事象 数値の指標

ステントの圧縮、

再狭窄/閉塞

ステントの圧縮、再狭窄/

閉塞12-14,37-39

左総腸骨静脈が右総腸 骨動脈の圧迫により圧 7,8

圧縮径:

血管径の 50%以上

9,32-34

ステントフラクチャー ステントフラクチャー32,40

左総腸骨静脈が右総腸 骨動脈の拍動により圧 32,40

-(※)

再狭窄/閉塞

ステントのキンク、血管の ストレートニング、再狭窄

/閉塞20,22,26

総腸骨静脈が椎間板の 圧迫により屈曲20

キンク 角度:50°20

ステントフラクチャー、

再狭窄/閉塞

ステントフラクチャー41 再狭窄/閉塞7,33,41,42

外腸骨静脈が鼠径靭帯 の圧迫により、連続的に 屈曲41

-(※)

ステントマイグレーシ ョン、閉塞

ステントテーパリング、ス テントマイグレーション、

閉塞15,19

下大静脈-総腸骨静脈

の分岐部15,19 -(※)

※文献調査では定量的な数値に関するデータは無し。

(30)

21

図 2-6 腸骨静脈の解剖学的特徴と有害事象の関係

(31)

22

2.4 考察

2.4.1 腸骨動脈に適応外使用された動脈ステント及びCE Marking を取得した静脈ス

テントの不具合と有害事象の比較

FDA MAUDEデータベースによる不具合と有害事象の調査結果と、文献検索

データベースによる有害事象の調査結果を比較すると、ステントテーパリング、

ステントのキンク、血管のストレートニングはFDA MAUDEデータベースの調 査では確認できていないことから、不具合と有害事象の調査では文献検索デー タベースとFDA MAUDEデータベースで相互補完する必要があることが分かっ た。

FDA MAUDEデータベースによる不具合と有害事象の調査では、動脈ステン

トの不具合と有害事象が 84 件(95%)、静脈ステントの不具合と有害事象は 4 件(5%)であり、動脈ステントを使用した場合の方が CE Marking を取得した 静脈ステントを使用した場合と比較して多かった。また、文献検索データベー スによる有害事象の調査では、動脈ステントの有害事象が28件(97%)、静脈ス テントの有害事象は1件(3%)であり、動脈ステントを使用した場合の方がCE

Markingを取得した静脈ステントを使用した場合と比較して多かった。また、ス

テントの圧縮、ステントフラクチャー、再狭窄/閉塞は動脈ステント、静脈ス テントのいずれでも発生しており、どちらのステントでも発生し得ると考えら れる。腸骨静脈におけるステントフラクチャーは、圧縮変形や屈曲変形によっ て生じる可能性があることが示唆された。ステントマイグレーション、ステン トショートニングは動脈ステントで頻繁に発生し、静脈ステントでは発生して いなかった。これは、編み込み型ステントである Wallstent がよく使用され、そ の構造が起因していると考えられる。

動脈ステントは周期的な拍動に対する半径方向の剛性と耐久性が求められる。

一方で、静脈は拍動しないが、解剖学的な特徴により圧縮変形や屈曲変形が作 用する。その結果、ステントの圧縮やステントのフラクチャーが発生するため、

静脈ステントにおいてはこれらの負荷に対する性能が求められる。

また、再狭窄/閉塞は動脈ステントを使用した場合に頻繫に発生しているこ とが明らかになった。これは、動脈ステントには静脈で発生する再狭窄/閉塞 を抑制する性能が不足しているためであると考えられる。静脈は動脈と比較し て内弾性板組織が欠け、中膜が薄い。動脈ステントで使用される自己拡張型ス テントは、血管内で連続的な半径方向拡張力を発生させると共に、ステントが 真っ直ぐな形状に記憶されているため、血管端部への負荷を発生させ、血管壁 を損傷させるリスクがある。このことが内膜肥厚形成を加速させると考えられ る22,43

(32)

23

また、Andrew らは左総腸骨静脈と右総腸骨動脈が交差する部分におけ

る”Spur”(中隔)に関して言及している。左総腸骨静脈と右総腸骨動脈が交差す

る部分において、静脈の内皮に慢性的、且つ連続的に傷が付き、このことがコ ラーゲンやエラスチンの堆積をもたらし、Spurを形成する44。Spurの存在によ り、左総腸骨静脈に静脈血の停滞が起こりやすくなり、Spur の部位において血 栓による閉塞が発生しやすくなる45

動脈ステントはこういった静脈の解剖学的特徴や血管の構造を考慮した設計 ではないため、再狭窄/閉塞が頻繁に発生したと考えられる。

2.4.2 腸骨静脈へのステントの適応外使用

文献検索データベースの調査結果から、米国での適応外使用の文献が全体の 37%と最も大きい割合であった。また、Wallstent(腸骨動脈/中心静脈ステント)

や腸骨動脈ステントが古くから多く適応外使用されており、米国では腸骨静脈 に用いるステントへのニーズがあったと示唆された。(図2-4)

米国では末梢血管の治療に胆管ステントが多く適応外使用されてきた。適応 外使用による有害事象の発生の報告も多かったが、有効な治療手段に乏しいた め、有害事象のリスクよりもステント治療のベネフィットの方が高いという報 告があった46。腸骨静脈に対するステント治療においても、ステント治療のベ ネフィットが高く、適応外使用が多くされてきたと示唆される。腸骨静脈ステ

ントは2010年にCE Markingを取得したZilver Venaが最初に開発されたステン

トである。開発が遅れた一つの要因として、静脈血栓症に対する認識不足が挙 げられる。静脈血栓症に対する認識は2000年までは不足していたが、2001年~

2009年に静脈血栓症に対するカンファレンスやワークショップがなされ、静脈 血栓症に対する認識が向上した47。(図2-7)腸骨静脈ステント開発の重要性を メーカーが認識し、開発が開始されたと示唆される。

(33)

24

AHRQ:Agency for Healthcare Research and Quality APHA:American Public Health Association

ASH:American Society of Hematology

CMS:Centers for Medicare and Medicaid Services

NATT:National Alliance for Thrombosis and Thrombophillia NQF:National Quality Forum

図 2-7 近年の静脈血栓症に関連する国の取り組みのタイムライン

(文献40より引用)

これまで適応外使用されてきたステントの多くは編み込み型ステント

(Wallstent)であり、ステントマイグレーション15,19、ステントテーパリング15,19、 が頻繁に発生していた。2010年から2014年にかけて、腸骨静脈ステントが市場 に流通し始めたが、それらは全てレーザーカット型である。(図2-8)レーザー カット型のステントは、構造的にこれらの有害事象が起こりにくいと推測され、

ステントマイグレーションやステントテーパリングに対する性能は高く求めら れないと示唆される。今後の腸骨静脈ステント開発を促進させるためにも、ス テントの構造、腸骨静脈の解剖学的特徴を踏まえた前臨床in vitro性能試験項目

(34)

25

の設定が必要である。

図 2-8 文献公表時期とステントの適応別文献報告数の関係

2.5 小括

腸骨静脈に対するステント治療に関する不具合と有害事象を調査及び分析し た結果、ステントの圧縮、ステントフラクチャー、ステントマイグレーション、

ステントショートニング、ステントテーパリング、ステントのキンク、ステン トのキンク、血管のストレートニング、再狭窄/閉塞が抽出され、ステント治 療の課題であることが明らかになった。ステントの圧縮、ステントフラクチャ ー、再狭窄/閉塞は動脈ステント、腸骨静脈ステントのいずれでも発生してい た。ステントマイグレーション、ステントショートニング、ステントテーパリ ングはレーザーカット型ステントでは報告はなく、編み込み型ステントのみで 報告されていた。

また、腸骨静脈の解剖学的特徴を調査及び分析した結果、左総腸骨静脈と右 総腸骨動脈との交差部、総腸骨静脈と椎間板の交差部、外腸骨静脈と鼠径靭帯 の交差部、下大静脈と総腸骨静脈の分岐部で上記有害事象が発生し、有害事象

Zilver Vena CE Marking

Sinus Venous CE Marking

VICI Venous CE Marking

Venovo CE Marking

(35)

26

は解剖学的特徴の影響が大きいことが明らかになった。ステント構造、有害事 象を踏まえた前臨床in vitro性能試験項目の設定が必要である。

(36)

27

第 3 章 前臨床 in vitro 性能試験項目の設定

3.1 目的

第2章では、腸骨静脈に適応外使用された動脈ステント及びCE Markingを取 得した静脈ステントの不具合と有害事象の調査と分析、及び腸骨静脈の解剖学 的な特徴の調査と分析を行い、腸骨静脈ステントに求められる性能、腸骨静脈 の解剖学的特徴を明らかにした。

本章では第 2 章の結果を踏まえ、動脈ステントに関するガイダンスと規格の 調査及び分析し、更にデータベースや文献調査を用いて腸骨静脈に対するステ ント治療における臨床研究のエンドポイントの調査及び分析することで、腸骨 静脈ステントに必要な前臨床in vitro性能試験項目を設定することを目的とした。

3.2 方法

3.2.1 動脈ステントに関するガイダンスと規格の調査及び分析

既存の動脈ステントに関するガイダンスには、動脈ステントに必要な前臨床

in vitro性能試験項目が記載されており、腸骨静脈ステントの前臨床in vitro性能

試験項目への適応の可能性が示唆されるため、日本、米国、欧州の動脈ステン トに関するガイダンスと規格を調査及び分析した。第2章の不具合と有害事象、

腸骨静脈の解剖学的特徴の調査及び分析の結果を踏まえ、腸骨静脈ステントに 必要な前臨床in vitro性能試験項目を選定した。

3.2.2 腸骨静脈に対するステント治療における臨床研究のエンドポイントの

調査及び分析

臨床研究のエンドポイントは、臨床におけるデバイスの安全性と有効性を評 価する項目が設定されており、腸骨静脈ステントの前臨床in vitro性能試験項目 を設定する際に分析をしておくことが、臨床環境を考慮した前臨床in vitro性能 試験項目の設定に繫がる。腸骨静脈に対するステント治療における臨床研究の エンドポイントは、臨床研究データベース、及び文献検索データベースを利用 して調査及び分析した。

① 臨床研究データベースによる腸骨静脈に対するステント治療における臨床 研究のエンドポイントの調査及び分析

Clinical Trial.govを利用し、調査した。検索式は(iliac OR iliofemoral)、(vein OR

(37)

28

venous)、stentをそれぞれAND検索した。検索期間は2017/08/08以前とした。

② 文献検索データベースによる腸骨静脈に対するステント治療における臨床 研究のエンドポイントの調査及び分析

文献検索データベース(PubMed、Cochrane Library、EMBASE、Web of Science) を利用し、調査した。検索式、及び検索スキームは前章の 2.2.2 と同様とした。

エンドポイントの分析の対象は前向き介入研究、前向きコホート研究、後向き 観察研究とした。

3.3 結果

3.3.1 動脈ステントに関するガイダンスと規格の調査及び分析結果

腸骨静脈ステントに関するガイダンスと規格は存在しないことが明らかにな った。日本、米国、欧州の動脈ステントに関するガイダンスと規格は 7 つ存在 していた。動脈ステントに関するガイダンスと規格の調査結果を表3-1に示す。

参照

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