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眼科領域アレルギー性疾患に対する診断と治療

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Academic year: 2021

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はじめに 眼科においてアレルギー疾患といえばアレルギー 性結膜疾患を示すことが多い。アレルギー性結膜疾 患は「Ⅰ型アレルギーが関与する結膜の炎症性疾患 で,何らかの自他覚症状を伴うもの」と定義され1) 軽度の花粉症から重篤な春季カタル・アトピー性角 結膜炎まで多彩である。Ⅰ型アレルギー反応が関与 している結膜炎であれば,他の様式の炎症反応が混 在していてもアレルギー性結膜炎疾患と考えられ る。単にアレルギー素因を呈するだけではアレルギ ー性結膜疾患と判定するには不十分であり,結膜の 炎症性変化と掻痒感,眼脂,流涙などの何らかの自 覚症状がある場合のみアレルギー性結膜疾患と診断 する。また,アトピー性皮膚炎に合併するアトピー 性眼症には眼瞼炎・角結膜炎・円錐角膜・白内障・ 網膜剥離などあり,眼瞼から網膜まで広い組織にわ たり,重症例では視力の著しい低下をまねく。しか し,ほかのアレルギー疾患であるアトピー性皮膚 炎,喘息,花粉症(アレルギー性鼻炎),食物アレ ルギーなどに比較して専門外来を常設する施設は少 ない。患者の多くが季節性や通年性アレルギー性結 膜炎であり,一般外来で対応可能な点眼療法のみで 症状の改善を認めるからかもしれない。しかしなが ら,花粉症は今や国民の 2∼3 割が発症する国民病 となり,その大量飛散は労働力の低下を招き経済指 標にまで影響を及ぼす。また顔面に難治性結節性紅 斑を有する成人型アトピー性皮膚炎患者の増加によ り重篤なアトピー性眼症を羅患している患者も増え ている。さらに,アレルギー性結膜疾患の低年齢 化,高齢化による患者数の増大も大きな問題であ る。それらを踏まえ,アレルギー性結膜疾患の診 断・検査・予防・治療における現状と問題点を述べ る。 Ⅰ. アレルギー性結膜疾患の分類 1. 現

アレルギー性結膜疾患(allergic conjunctival disor-ders:ACD)は増殖性変化,アトピー性皮膚炎の合 併により以下に分類される(図 1)。 ①アレルギー性結膜炎(allergic conjunctivitis: AC,図 2) 結膜に増殖性変化のみられないアレルギー性結膜 疾患がアレルギー性結膜炎である。アレルギー性結 膜炎のうち,症状の発現が季節性のものを季節性ア レルギー性結膜炎(seasonal allergic conjunctivitis: SAC),花粉によって惹き起こされるものは花粉性 結膜炎とも呼ばれる。季節,気候の変化により増 悪,寛解があるものの,症状の発現が通年性のもの を 通 年 性 ア レ ル ギ ー 性 結 膜 炎(perennial allergic conjunctivitis:PAC)と呼ぶ。 ②アトピー性角結膜炎(atopic keratoconjunctivi-tis:AKC,図 3) 顔面にアトピー性皮膚炎を伴う患者に起こる慢性 のアレルギー性結膜疾患が AKC である。AKC には 増殖性変化を伴わない症例が多いが,巨大乳頭など の増殖性変化を伴うことがある。 ③春季カタル(vernal keratoconjunctivitis:VKC, 図 4) 結膜に増殖性変化が見られるアレルギー性結膜疾 患が VKC である。結膜の増殖性変化とは眼瞼結膜 の乳頭増殖,増大あるいは輪部結膜の腫脹や堤防状 隆起を指す。アトピー性皮膚炎を伴う症例も多い。 VKCでは点状表層角膜炎,角膜びらん,遷延性角 膜上皮欠損,角膜潰瘍,角膜プラークなどの種々の 東京慈恵会医科大学葛飾医療センター眼科 境界領域

眼科領域アレルギー性疾患に対する診断と治療

く め がわ こう いち

久 米 川

浩 一

キーワード:アレルギー性結膜疾患,アトピー性皮膚炎,アトピー性眼症

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程度の角膜病変がみられる。

④ 巨大乳頭性結膜炎(giant papillary conjunctivi-tis:GPC,図 5)

コンタクトレンズ,義眼,手術用縫合糸などの機 械的刺激による上眼瞼結膜に増殖性変化を伴う結膜 炎を指す。GPC は contact lens related papillary con-junctivitisで最も重症な型に相当する。VKC と類似 しているが,a)乳頭の形状が異なる,b)GPC で はほとんどの場合角膜病変を伴ない,などの点で VKCと GPC の臨床像は異なる。

2. 問 題 点

AKCは以前,アトピー性皮膚炎(atopic dermati-tis:AD)に合併する非増殖性アレルギー性結膜炎 と定義されてきた。ゆえに上眼瞼結膜に巨大乳頭を 認めるときは AD を合併していても VKC と診断し ていた。しかし臨床上,顔面または眼瞼に重度の ADを認めかつ上眼瞼結膜に巨大乳頭を認める症例 は,AD を認めない VKC と比較して,重症度,治 療抵抗性,発症年齢などが明らかに異なっており, VKCとして同一の疾患の範中に入れるには無理が あった。そこで 2006 年度「アレルギー性結膜炎疾 患ガイドライン」2)では“AKC においても巨大乳頭 を伴う症例がある”とし,巨大乳頭をもっている AKCを分類上認めた。AKC と VKC の病態の相違 については今後臨床,基礎の両面より検討されなけ ればならないと考えられる。 Ⅱ. アレルギー性結膜疾患の診断 1. 現 アレルギー性結膜炎(季節性・通年性)の診断は 問診,自覚症状,他覚所見のみでみなされることが 多い。問診では症状が季節性または通年性である か,アレルギー体質か,家族歴の有無などを確認す る。自覚症状としては痒み,充血,異物感,眼脂な どを訴える。また重度の AKC・VKC などではそれ らに加え痛みや角膜障害に伴う羞明や異物感を強く 訴える。他覚所見としては充血,浮腫,濾胞,乳頭 を認める。VKC においては上瞼瞼結膜巨大乳頭や トランタス斑,輪部の充血・肥厚などを認める。重 度の VKC・AKC には角膜合併症が生じる。角膜合 併症には軽度の角膜上皮症から落屑様角膜上皮障 害,遷延性角膜上皮剥離,シールド潰瘍,角膜プラ ークまで多様である。また炎症が長期化すると周辺 より新生血管が侵入し,角膜混濁を惹起する。AKC に合併する眼症(アトピー眼症)にはアトピー性眼 瞼炎,白内障,網膜剥離,円錐角膜などがある。 2. 問 題 点 眼科医はあまりアレルギー検査をしない。インタ ーネットによるアンケート調査3)では,ほとんどの 眼科医が,問診,自覚症状,他覚所見で確定診断を つけている。もちろん定型的な症例については問題 がないと思われる。しかし,診断に迷う症例,治療 に抵抗する症例,再発を繰り返す症例においては結 膜の好酸球検出,血清抗原特異的 IgE 値測定を施 図 1 アレルギー性結膜疾患の分類2,3) アレルギー結膜疾患は,1)増殖性変化のないアレルギー性結膜炎,2)アトピー性皮膚炎に 合併しておこる AKC,3)増殖性変化のある VKC,4)異物の刺激によって惹き起こされる GPCに分類される。アレルギー性結膜炎は症状の発生時期により SAC と PAC に分類される。

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行し,確定診断をつけるとともに,患者のアレルギ ープロフィールを認識し,生活指導に利用すること が望ましい。 Ⅲ. アレルギー性結膜疾患の検査法 1. 現 結膜および全身のⅠ型アレルギー反応を証明する ことであり,局所と全身の検査に分かれる。 1) 局所検査法 a. 結膜における好酸球浸潤の同定 ヒト正常結膜には粘膜関連リンパ装置が存在し, 感染防御のため,リンパ濾胞には T 細胞系,B 細 胞系,抗原呈示能をもつマクロファージ系の細胞 が,固有層には好中球,肥満細胞などが常在する。 しかし,好酸球は常在しない。ゆえに,好酸球の検 出はアレルギー診断に確定的な意味をもつ。検体採 取法には,眼脂採取,ブラッシュサイトロジー,結 膜生検などがある。ブラッシュサイトロジーは点眼 麻酔後,上眼瞼を反転してサイトブラシを用いて結 膜を数回擦過し,ブラシをそのままスライドに塗布 する。スライドガラス上の塗布細胞中の好酸球の検 出には Hansel 染色(エオジノステインⓇ)またはギ ムザ染色(ディフ・クイックⓇ)を用いる。 b. 点眼誘発試験 皮膚テストや血清抗原特的 IgE 測定検査などで 抗原が推測できる場合,既知の抗原液を点眼するこ とにより結膜炎の発症を確認する方法である。薄い 濃度から抗原を点眼し,その 10 分後に掻痒感を確 認し,細隙灯顕微鏡で臨床所見を観察する。掻痒感 が出現しなければ,除々に抗原濃度を上げていく。 陽性と出た場合は掻痒感や充血が出現する。欧米で はよく行われるが,わが国ではほとんど行われな い。 c. 涙液検査 アレルギー性結膜疾患患者涙液中にはケミカルメ ディエーターのヒスタミン,サブスタンス P,ロイ 図 4 VKC の上眼瞼結膜所見3) 結膜充血,浮腫,眼脂,巨大乳頭の形成がみられる。 図 2 AC の上眼瞼結膜所見3) 軽度の充血と浮腫がみられる。 図 3 AKC の上眼瞼結膜所見3) 充血,混濁,結膜下の線維化がみられる。 図 5 GPC の上眼瞼結膜所見3) 充血,ドーム状の巨大乳頭がみられる。

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症状の悪化 (重症) 症状の改善 (軽症) 5)ステロイド内服薬は2週間程度を目安とする 4)眼瞼保湿や夜間就眠時の効果を期待 3)ステロイド点眼薬は低力価のものから使用 2)鼻症状や瘙痒感が強い場合 1)第一選択 抗アレルギー点眼薬 (メディエーター遊離抑制薬1),ヒスタミン H拮抗薬2) 抗アレルギー内服薬 (メディエーター遊離抑制薬,ヒスタミン H1拮抗薬2)) ステロイド点眼薬3)または NSAIDs ステロイド眼軟膏4) ステロイド内服薬5)または 瞼結膜下注射 外科治療 コトルエン B4,好酸球塩基性蛋白(ECP),免疫関 連分子の IgE,IL―4,IL―5,エオタキシン,プロテ アーゼのトリプターゼ,キマーゼなど多用な分子を 検出できる。そのなかでキットが販売され,簡単に 測定できるのが涙液中総 IgE 量―免疫クロマトグ ラフィキットである。結膜局所 IgE 量を測定する ことができ,診断的価値が高い。 2) 全身検査法 全身の検査では抗原特異的 IgE 抗体の存在を検 出する。 a. 皮膚テスト 安価で短時間に判定でき,なおかつ患者がその結 果を直接みることができる。皮膚テストには前腕皮 膚に抗原を皮内注射する皮内テストと,皮膚を擦過 し,スクラッチエキスⓇを滴下するスクラッチテス トがある。 b. 血清抗原特異的 IgE 測定 採血により得られた血清を検査室に依頼する。数 値化されて判定されるもの疑陽性,疑陰性ともにあ り得る。また,検査にかかる費用が高価な点が問題 であるが,保険適応を受けているものもある。 項目別に検査する方法と多項目を同時に検査する 方法があり,前者は目的とする抗原が予測される場 合に行い,後者はスクリーニングを目的として行 う4) 2. 問 題 点 既知の血清抗原特的 IgE マルチキットを構成し ている各抗原はアトピー性皮膚炎や喘息の原因抗原 で構成されており,アレルギー性結膜疾患独特の特 異抗原マルチキットの開発が必要である。また,ア レルギー性結膜炎のみの発症患者においては,血清 中抗原特異的 IgE が上昇していない症例も多々あ り,涙液中の抗原特的 IgE マルチキットの開発と 廉価での販売が期待される。 Ⅳ. 治 アレルギー性結膜炎疾患治療の中心は薬物治療で あり,その治療内容を図 6 に示す。第一選択は抗ア レルギー薬であり,重症度により非ステロイド性抗 炎症性点眼薬やステロイド点眼薬などの使い分けが 必要となる。さらに症状がコントロールできない難 治性重症アレルギー性結膜疾患(アトピー性角結膜 疾患や春季カタル)に対しては,免疫抑制点眼薬の 使用,ステロイド内服薬,瞼結膜下注射,そして即 効性のある乳頭切除術などの外科的治療も検討す る。 1. 局所療法(点眼,眼結膜下注射,乳頭切除) 1) 現 状 点眼には以下の種類がある。 ・肥満細胞膜安定化剤点眼(インタールⓇ,アイビ ナールⓇ,リザベンなど) ・ヒスタミン H1受容体拮抗薬点眼(リボスチンⓇ, ザジテンⓇ,パタノールなど) ・低力価ステロイド点眼(0.1% フルメトロンⓇ ど) ・0.1% 水性シクロスポリン 点 眼(パ ピ ロ ッ ク ミ ニⓇ ・高力価ステロイド点眼(0.1% リンデロンⓇA ど) 軽度の SAC・PAC に対しては肥満細胞膜安定化 剤またはヒスタミン H1受容体拮抗薬のどちらか 1 剤を用いる。急性期で痒みの強いときは H1受容体 拮抗薬,慢性期には膜安定剤を用いることが多い。 中等度症例には両者を用いたり,どちらか一方に低 図 6 アレルギー性結膜疾患の治療3)

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力価ステロイド点眼(0.02%∼0.1% フルオロメト ロン)を加える。重度の SAC・PAC に対しては前 記 3 剤を併用する。 軽度・中等度の AKC に対しても同様であるが, AKC患者の多くに眼瞼炎を合併することが多く, 眼瞼炎の治療をしっかりしないと角結膜炎もよくな らない。重度の AKC・VKC においては上記の 3 剤 を併用しても治療に抵抗する症例が多いので,高力 価ステロイド点眼(0.1% ベタメサゾン 4∼6 回/ 日)を使用する。使用時には感染や眼圧上昇に注意 が必要である。それでも良くならないときは,ロン グアクティングなステロイド(トリアムシノロン) の瞼結膜下注射や外科的乳頭切除を考慮する。ま た,VKC に合併する角膜プラークやシールド潰瘍 に対し掻爬術を施行する。しかし,活動期に施行す ると上皮がかぶらず強い痛みを訴えるので,施行す る時は鎮静期に行う。さらに遷延性角膜上皮欠損が 続くときは,羊膜移植を施行することがある。 2) 問 題 点 免疫抑制剤点眼である 0.1% シクロスポリン水溶 性点眼液(パピロックミニⓇ)の適用としては春季 カタルのみである。使用法についてはまだ確定的で はない。輪部型の VKC,ステロイドで眼圧上昇を 認める症例,長期間ステロイド使用例,などが適用 になる。効力としては 0.1% フルメトロンと 0.1% ベタメサゾンの中間ぐらいで,即効性より長期点眼 による増悪中止という印象がある。今後どのような 症例に効果的か検討していく必要がある。また,0.1 %タクロリムス点眼が期待される。効力は 0.1% ベ タメサゾン以上で,ステロイド抵抗性の VKC・AKC に使用が期待される。今後,抗アレルギー薬,ステ ロイド,免疫抑制剤の各種点眼使用法が疾患・重症 度別に確立されなければならない。 2. 全身療法(抗アレルギー薬・ステロイドの内 服) 1) 現 状 一般にアレルギー性結膜疾患の治療に抗アレルギ ー薬の内服を必要とすることはない。また,抗アレ ルギー薬(内服錠)の保険適用疾患にアレルギー性 結膜疾患は含まれておらず眼科で処方するときには アレルギー性鼻炎またはアトピー性皮膚炎の併記が 必要となる。 現在抗アレルギー薬に分類される薬剤には第二世 代抗ヒスタミン薬,化学伝達物質遊離抑制薬,Th12 サイトカイン阻害薬,トロンボキサン A2阻害薬, ロイコトルエン拮抗薬などがある。なかでも第二世 代抗ヒスタミン薬は化学伝達物質遊離抑制作用に加 え H1受容体拮抗作用を併せ持つため抗アレルギー 効果と同時に止痒作用も期待できるので,花粉性眼 瞼炎やアトピー性眼瞼炎には第一選択薬である。第 二世代抗ヒスタミン薬の最も多い副作用は眠気であ るため睡眠前投与が効果的である。以下の場合に は,抗アレルギー薬の内服を積極的処方する。 a. 重症の季節性アレルギー性結膜炎(花粉症) で,花粉性眼瞼炎を伴う症例 花粉の飛散が多量の年には結膜炎のみでなく,眼 瞼皮膚に発赤と痒みを呈する花粉症眼瞼炎を発症す る患者がいる。特に夜間に痒みが強く,止痒効果を 持つ第二世代抗ヒスタミン薬の内服が効果的であ る。 b. アトピー性角結膜炎で重症のアトピー性眼瞼 炎を合併している症例 アトピー性眼瞼炎は痒み・ヒリヒリ感・痛みを伴 い患者にとってたいへん不快な疾患である。重症化 すると眼瞼内皮に伴う睫毛乱生,眼瞼外反に伴う閉 眼障害による乾燥性角結膜炎で角結膜上皮障害が発 生する。また,その痒みのために長期間にわたり眼 を強くこすったり,叩打する行動が白内障や網膜剥 離を惹起すると考えられている。ゆえに眼瞼炎は皮 膚科と眼科との境界上にある疾患であるが,その治 療に眼科医も積極的に参加するべきである。アトピ ー性眼瞼炎の薬物療法は眼瞼皮膚局所の炎症にはス テロイド外用薬やタクロリムス軟膏で対応するが, 掻痒を軽減し,掻破行動を抑える目的で抗アレルギ ー薬の内服を使用する。 c. 小児例 小児で点眼に対し強い恐怖感を持ちコンプライア ンスが極度に悪い症例がある。また眼瞼炎を合併し た場合,小児には眼を掻くことに対する罪悪感がな いため,itching―scratching cycle の悪循環に入りや すい。小児の眼瞼皮膚は薄く掻痒により急激に悪化 しやすく,止痒効果のある内服は必要である。 d. 点眼アレルギーがある症例 多くの抗アレルギー点眼薬で眼瞼皮膚の接触性皮 膚炎が起こることが報告されている。また,多くの 点眼薬には防腐剤が入っており,抗アレルギー点眼 薬のように長期に点眼する薬剤では,薬剤性角膜障 害を惹起することがある。点眼が処方できない時,

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内服薬を処方することがある。 e. アレルギー性鼻炎を合併している症例 花粉症で,アレルギー性鼻炎を合併している症例 では結膜炎に対する点眼処方とともに内服薬・点鼻 薬を処方し,鼻症状をとってやると眼症状(特に痒 み)が改善することが多い。 2) 問 題 点 重度の AKC・VKC に対するステロイドの内服は 一時的には著明な効果を示すが,漸減,中止すると 再度悪化するだけでなく,リバウンド現象が起き増 悪することが多い。また長期間小児にステロイドを 内服させると成長障害を起こすので注意が必要であ る。ステロイド内服を使用するときは,局所療法の みで改善しない児童が入学試験などを受けるため一 時的?に改善させなければならない時に限る。 Ⅴ. 予 1. 現 眼科日常外来においては予防指導についてはあま りなされていない。 2. 問 題 点 1) 初期療法 スギ花粉症に対する初期療法は耳鼻咽喉科領域に おいてよく行われているが,眼科においては少な い。飛散予定日 2 週間前より抗アレルギー薬の点眼 を開始することにより花粉飛散時または飛散後の症 状の軽減を目的とする。対象患者としては,血清ス ギ抗原特異的 IgE が高値,毎年花粉症による眼症 状で苦しめられている患者で,かつその年の花粉飛 散が多いと予想されたときに限る。抗アレルギー薬 点眼を発症前より使用することは薬の処方をいたず らに多くし医療経済的に問題がある。しかし,初期 療法をすることにより明らかに飛散直後の症状発現 や飛散後の症状増悪を抑制した5)。初期療法の奏功 メカニズムは明らかではないが,抗アレルギー薬の 点眼により,結膜局所の IgE 産生の低下,肥満細 胞の脱顆粒閾値低下などが考えられている。 2) 生活指導 患者自身が自分のアレルギープロフィールを知る ことが大切である。マルチセットの血清特異的 IgE を測定し自分がどの抗原に対しアレルギーを持って いるのかを認識させ,生活指導することによって症 状の発現を予防できる。 Ⅵ. その他の関連疾患 1. アレルギー性結膜疾患に合併する眼疾患 アレルギー性結膜疾患に合併もしくは併発する眼 疾患は,アトピー性皮膚炎もしくはアトピー素因に より生じる眼合併症または眼疾患である。代表的な 疾患として,アトピー性眼瞼炎,円錐角膜,アトピ ー性白内障,網膜剥離および伝染性膿痂疹やカポジ 水痘様発疹症,伝染性軟属腫に代表される皮膚感染 症による外眼部感染症があげられる。 1) アトピー性眼瞼炎 ①概念 アトピー性眼瞼炎は,全身の皮膚に生じているア トピー性皮膚炎が眼瞼および眼瞼周囲皮膚に生じた ものと考えられ,乳児型,幼児型および思春期以降 にみられる成人型に分類される。アトピー性皮膚炎 における眼瞼炎の合併頻度は,15∼90% と報告に より差がある6,7) ②臨床所見・臨床診断 乳幼児のアトピー性眼瞼炎は,びらん,痂皮,浸 潤性紅斑,亀裂,鱗屑などが病変の主体である。成 人型では,苔癬化病巣が高度で,眉毛部外側 1/3∼ 1/2の脱毛または疎毛化(Hertoghe 徴候),下眼瞼 内側の雛壁(Dennie―Morgan 徴候),眼瞼皮膚の色 素沈着による黒色化などが特徴的な所見とされ,眼 瞼不全,涙点外反,マイボーム腺炎,睫毛脱毛,睫 毛乱生,眼瞼下垂などの所見が加わることも多い8) ③治療 アトピー性眼瞼炎軽症例の治療は,アトピー性皮 膚炎に準ずる洗顔とスキンケアが推奨される8)。眼 瞼皮膚のスキンケアは,保湿剤を用いて皮膚の乾燥 を予防するが,保湿剤には,エモリエント効果が期 待できる白色ワセリン,モイスチャライザーとし て,ヘパリノイド入りクリームなどが用いられてい る。また,セラミド療法9)としてセラミド含有ジェ ルを用いる方法が報告されている。 重症例に対しては,スキンケアに加えて副腎皮質 ステロイド(ステロイド)軟膏,免疫抑制剤軟膏な どを追加する。眼瞼に使用するステロイド軟膏は, 作用が中等度(medium)または作用が弱い(weak) が望ましい。また,ステロイド軟膏には,フラジオ マイシンなどのアミドグリコシド系抗菌薬には過敏 な症例が存在するため,使用時には注意が必要であ る。ステロイド軟膏の使用は短時間に止める。中止

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する場合には topical corticosteroid withdrawal syn-dromeなどのリバウンド現象に注意し,用量を漸 減する。また,ステロイド酒!,ステロイド緑内 障,感染症などの副作用に十分な注意を払う必要が ある。免疫抑制剤は,ステロイド薬と同様の消炎目 的で使用する場合とステロイド離脱困難例にステロ イド離脱目的で使用する場合がある。 2) 円錐角膜 ①概念 円錐角膜は角膜中央部が円錐状に突出し,菲薄化 する非炎症性,進行性の疾患である。多くの場合, 特発性であるが,全体の約 26∼30% の症例でアト ピー性皮膚炎の合併がみられる9,10)。アトピー性皮 膚炎を合併する例では,円錐角膜とともにアトピー 性眼瞼炎,アトピー性角結膜炎,春季カタルを併発 している例が多い。一方,アトピー性皮膚炎に円錐 角膜が合併する頻度は,1% 前後11)と報告されてい る。円錐角膜の成因は,角膜上皮説,角膜実質説, 外傷説などが報告されているが,現時点では不明で ある。 ②臨床所見・臨床診断 細隙灯顕微鏡検査で,角膜中央部付近に円錐状の 突 出 と 菲 薄 化 が み ら れ る。進 行 の 程 度 に よ り, Fleischer ring, keratoconus line,ボーマン膜断裂な どの所見を伴う。またアトピー性皮膚炎例では,老 人環様混濁を伴っていることがある。菲薄化した角 膜部分のデスメ膜破裂により,急激に角膜実質の浮 腫性混濁を伴って膨化することを急性水症(acute hydrops)と呼び,眼瞼を強く擦る癖のある症例に 生じやすいとされる。 細隙灯顕微鏡検査で診断不可能な初期病変には角 膜形状解析が有用である。角膜形状の変化は,フォ トケラトスコープまたは角膜トポグラフィにより診 断するが,フォトケラトスコープでは,円錐角膜の 初期変化が診断しにくいため,現在では角膜トポグ ラフィによる診断が主流である。 ③治療 治療は,ハードコンタクトレンズによる屈折矯正 が主体である。ハードコンタクトレンズにより十分 な視力矯正が得られない例,ハードコンタクトレン ズ装用により高度の角膜上皮障害が生じる例では, 角膜移植が適応となる。ただし,アトピー性眼瞼炎 が高度な例では,角膜移植後の感染症,創傷治癒遅 延,拒絶反応などの術後合併症に対する対策を十分 に行う必要がある。 アトピー性皮膚炎例では,巨大乳頭結膜炎の合併 または春季カタルの増悪により,コンタクトレンズ 装用が困難になる場合がある。コンタクトレンズに 対するケア,特に蛋白除去を含めたレンズの汚れに 対するケアを徹底させることが予防法として重要で ある。また,防腐剤を含まない抗アレルギー点眼薬 を使用して結膜炎に対する予防を行う。重症例に対 しては,巨大乳頭に対する治療として,副腎皮質ス テロイドの水性懸濁液の瞼結膜下注射や免疫抑制剤 の点眼などを行い,巨大乳頭を平坦化させた上で再 装用させる方法をとる場合がある。しかし,ステロ イド薬および免疫抑制剤は,感染症に対する宿主の 防御機能を著しく低下させる薬剤であることを念頭 におき,コンタクトレンズ装用時の定期検査を厳重 に行う必要がある。 3) アトピー性白内障 ①概念 アトピー性皮膚炎における白内障の合併率は, 10∼37% と報告され12,13),大多数は 20 歳代に発症 する。性差に関しては,男女差なしとする報告と男 性に多いとする報告がある。 ②臨床症状・臨床診断 アトピー性白内障の水晶体混濁は,前嚢下のヒト デ状混濁が特徴的とされているが,後嚢下混濁がみ られる場合もある。後嚢下混濁は,ステロイドの影 響が考えられているが,ステロイド非投与例にも後 嚢下混濁はみられる。水晶体混濁の進行とともに, 羞明感,霧視,視力低下などの自覚症状が増強す る。 ③治療 アトピー性白内障に対しては,他の白内障と同様 に,水晶体吸引術あるいは超音波乳化吸引術および 眼内レンズ挿入術が選択される。眼底の状態によっ ては,網膜剥離を防止する目的で,輪状締結術が併 用される場合もある。 4) 網膜剥離 ①概念 網膜剥離の発生頻度はアトピー性皮膚炎症例の約 1∼8%14,15)であり,顔面のアトピー性皮膚炎が重症 であるほど合併しやすい傾向がある。好発年齢は 10 歳代後半∼20 歳代である。 ②臨床所見 顔面の叩打癖がある症例が多い。また,白内障合

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併例や白内障術後例での発症が多い傾向にある。裂 孔の好発部位は,鋸状縁や毛様体扁平部が多い。若 年者に発症しやすいために,扁平で進行の遅い網膜 剥離が特徴である。時として,巨大裂孔や赤道部不 正裂孔により急速に進行する網膜剥離がみられる。 また,増殖硝子体網膜症(proliferative vitreoretino-pathy:PVR)に移行しやすい重症例も多くみられ る16)。症状は,無症状のもの,飛蚊症や霧視を自覚 するもの,高度な視力低下や視野欠損がみられるも のなど網膜剥離の状態により様々である。網膜剥離 の診断には,双眼倒像鏡と圧迫子を用いた眼底検 査,圧迫子が付属した三面鏡などによる眼底検査な どを行い,眼底周辺部を含めて詳細に観察すること が必要である。眼底の透見が困難な場合には,超音 波生体顕微鏡(ultrasound biomicroscope:UBM) が有用である。 ③治療 他の網膜剥離と同様,強膜バックリング手術が基 本である17)が,毛様体皺壁部裂孔,多発裂孔,後極 部裂孔,PVR,裂孔不明例などは硝子体手術が適応 とされる。 おわりに アレルギー性結膜疾患はほかのアレルギー疾患 (アトピー性皮膚炎・喘息・アレルギー性鼻炎・食 物アレルギー)などと重複し発症することが多い。 かつアレルギー反応の臓器特異性は一個体で時間的 差異をもって発症してくる(アレルギーマーチ)。 ゆえに,他科と協力してひとりの患者の治療をして いかなくてはならない。眼科,内科,小児科,皮膚 科の垣根を取り外したアレルギー疾患センターのよ うな施設ができ,外来にかかると目,鼻,呼吸器, 皮膚,消化管までみてくれる。そして,生活指導ま でしてくれるアレルギー外来が理想である。 参 考 文 献 1) 日本眼科医会アレルギー眼疾患調査研究班:ア レルギー性結膜疾患の診断と治療のガイドライ ン.大野重昭(編):日本眼科医会アレルギー眼 疾患調査研究班業績集.日本眼科医会,東京.9― 11,1995. 2) 海老原伸行:眼科アレルギー外来の現状と問題 点.眼科 48:1773―1779,2006. 3) 海老原伸行,大野重昭,内尾英一:アレルギー 性結膜疾患診療ガイドライン 病態生理.日眼 会誌 110:103―133,2006. 4) 奥田 稔:鼻炎診断ガイドライン.気道アレル ギー’98.メディカルビュー社,東京,1998,121― 125. 5) 海老原伸行:季節性アレルギー性結膜炎におけ るイブジラスト点眼予防投与の効果.あたらし い眼科 20:259―262,2003. 6) 中野栄子,岩崎琢也,小山内卓哉,山本和則, 宮内 恵:アトピー性皮膚炎の眼合併症.日眼 会誌 101:64―68,1997.

7) Turf SJ, Kemeny DM, Dart JKG, Buckley RJ: Clinical features of atopic keratoconjunctivitis. Ophthalmology 98:150―158, 1991.

8) 海老原伸行:アトピー性眼瞼炎.大野重昭,他 (編):NEW MOOK 眼科 6 アレルギー性眼疾

患.金原出版,東京,2003,109―115.

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参照

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