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アジア太平洋研究科 博士学位論文要旨

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Academic year: 2022

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アジア太平洋研究科 博士学位論文要旨 生産技術・下請取引関係の国際移転

―中国における金型取引を例に―

4006S303-0 Tomoya KANEMURA 兼村智也 主指導教員 小林英夫教授

Keywords : 生産技術,下請系列的取引関係,中国,自動車部品,金型 , 現地化

日本機械工業の競争優位の一つとして、特定の製品を効率よくつく る「生産技術」がある。多国籍企業による直接投資を説明する「優位 性の保有」に従えば、企業が直接投資によって外国に子会社を設立す る際、当該企業は現地資本の企業に対して競争上不利な面が数多くも つため、何らかの優位がないと現地資本の企業との競争に勝つことは できない。この理論に従えば、海外で生産活動を行う日本の機械工業 にとって、その競争優位の移転は不可欠となる。ところで、生産技術 は内部経営資源からの調達と外部依存に分かれるが、特に日本企業に おいては後者の割合が高い。それでも内部と同様の競争優位を維持で きたのは、外部組織であっても内部と同様に扱うことができ、さらに 外注先から QCD 競争力強化につながる「優先的対応」を引き出すこと ができる「下請系列的取引関係」が大きい。そこで本研究では生産技 術のなかでも、外注比率が高く、下請系列的取引関係への依存度が高 いプレス金型を取り上げ、近年、現地調達の進展がする中国の日系乗 用車1次部品及び中国系金型メーカーを対象に、(研究課題1)日系 1次部品メーカーによる中国製プレス金型の調達が進むのは、日本製 金型と同様の品質になったためか、(研究課題2)その際、下請系列 的取引関係のなかで日本の金型メーカーから得られた「優先的対応」

を中国系金型メーカーから享受することは可能か、といった2点につ いて明らかにしている。

(研究課題1)については、技術移転からの分析が中心の先行研究 では品質を「要求形状・精度の実現」という狭義で捉えている場合が 多く、「加工時の生産性」や「型寿命」などユーザーからの視点が欠 落している。本研究では、ユーザーが評価する品質を「表層の品質」、

それらを規定する材料品質、設計力などを「基層にある条件・技術」

とし、両者の関連図を提示した。さらに同図を分析枠組みとし、日系 1次部品メーカーへのヒアリング等を通じて個別条件・技術を評価し、

生産性や耐久性などの面で中国製の品質は日本製に比べ劣ることを 明らかにした。それでも利用が可能になるのは、デジタル技術による 代替や日本人技術者等の技術指導に加え、日系1次部品メーカーによ る「妥協」があるためで、その妥協が可能になるのも中国で得られる 特殊要因、具体的には「市場特性」、「要素条件」、「生産方式・工夫」

を活かしながら中国製金型に「適応」しているからであることが明ら かになった。

(研究課題2)については、先行研究により明らかになった下請系 列的取引関係の形成に必要な発注側企業、受注側企業のそれぞれがお かれる環境としての条件(以下、『環境条件』とする)が中国にある か否かの検証を行った。発注側にあたる日系1次部品メーカーの『環 境条件』としては「市場の成長性」、「生産能力の不足」が必要になる が、二つともその存在が確認された。受注側である中国系金型メーカ ーの『環境条件』には発注側企業間に比べて相対的に厳しい「受注側 企業間の競争」、「市場開拓力の不足」、「技術力の不足」が必要になる が、前二者は確認されなかった。次に、日系1次部品メーカーと中国 系金型メーカーの取引に下請系列的取引関係にみられる事象(以下、

『取引事象』とする)が確認されるか否かの検証をそれぞれの取引に ついて行った。日系1次部品メーカーには、その『取引事象』である

「発注の継続性・安定性」、「技術革新性」、「企業ブランド性」、「支払 履行性」が確認され、優良な中国系金型メーカー確保をめぐる競争相 手である欧米系メーカーに対して優位にあることが確認された。なか でも外資系メーカーと取引をもつ金型メーカーにとってニーズの大 きい「技術革新性」や、業種上の特性からくるニーズの大きい「受注

の継続性・安定性」が含まれていることが特筆される。一方、中国系 金型メーカーの取引には支払い、権利関係にかかる『取引事象』につ いては取引契約書の記載どおりに履行されているものの、設計変更へ の協力や作り込みへの協力など納期、品質にかかる『取引事象』では

「優先的対応」がみられる。また価格決定方式は希望価格を受け入れ ており、これより経営への介入があることもうかがわれ、日本人技術 者等も常駐する企業もみられることも確認された。さらに、両者の取 引において「関係的技能」や一部に「資産の特殊性」など取引コスト の削減につながる『取引事象』もみられ、取引関係が存続する要因が 確認された。

総括すると、受注側の中国系金型メーカーの『環境条件』、『取引事 象』が不十分であることから、両者の関係は日本にみる下請系列的取 引関係そのものではない。しかし、品質、納期にかかる部分では中国 系金型メーカーからの「優先的対応」がみられ、日系1次部品メーカ ーもこれを享受していることが出来ている。すなわち、中国でも生産 技術の競争優位は確保されるという結論を得た。

下請系列的取引関係でないにも係わらず、中国系金型メーカーから

「優先的対応」が得ることができるのは日系1次部品メーカーの「技 術革新性」、「継続性・安定性」を持った取引が魅力になっているから である。これらは、日系1次部品メーカーよりも表面上の発注単価が 高い欧米系メーカーからは得ることのできない取引内容である。日系 と取引をもつ中国系金型メーカーは例外なく欧米系とも取引をもっ ており、それぞれの優位性を活かした受注をしていることが明らかに なった。こうしたことは競争優位の異なる多国籍の企業が集結する中 国だから可能になると言える。逆に言えば、そうした環境をもつ中国 だからこそ「技術革新性」や「継続・安定性」を持った発注と引き替 えに、下請系列的取引関係のなかで得るのとほぼ同様の「優先的対応」

を得ることができるということになる。

[主要参考文献]

中国機械工業年鑑編集委員会/中国模具工業協会編『2008中国模具 工業年鑑』。

中国汽車技術研究中心/中国汽車工業協会編『2007年版中国汽車工 業年鑑』。

藤本隆宏(2003)『能力構築競争』中公新書。

板垣 博(1997)『日本的経営・生産システムと東アジア』ミネルヴ ァ書房。

兼村智也(2009)「在中国日系サプライヤーの現地適応-日系T1サ プライヤーによる中国製プレス金型の現地調達進展の要因とそ の意味-」国際ビジネス研究学会編『国際ビジネス研究』第1巻 第2号。

兼村智也(2011)「中国における日系自動車1次部品メーカーの取引 優位性-プレス金型取引にみる欧米系メーカーとの比較から-」

国際ビジネス研究学会編『国際ビジネス研究』第3巻第2号。

潘 志仁(2001)『生産システムの海外移転』白桃書房。

田口直樹(2001)『日本金型産業の独立性の基盤』金沢大学経済学部 経済学部研究叢書11。

Williamson,O.E. (1985),“The economic institutions of capitalism:

firms, markets, relational contracting”,New York,NY: Free Press.

参照

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