博 士 ( 理 学 ) 御 領 学 位 論 文 題 名
P‑and T‑Violatng Superconductors and Induced Chern‑Simons Terms
(空 間及 び時 間反 転対 称性を破る超伝導とチャーンサイモン項)
学位論文内容の要旨
潤
最近、parity(P)とtime reversal symmetry (T)が破れているような超伝導相の 存在 が、 銅酸化物高温超伝導体やSr2Ru04等unconventionalな超伝導(ゲージ対 称性以外の対称性も自発的に破れている超伝導)の系において議論されている。こ れ ら の 系 に お いて 、 磁 場 中 の2次 元 電 子 系 や2十1次 元Dirac QEDのよ うなPと Tを破 る系 と同 様、Chern−Simons termがfermionを積分することによりinduce されることを示す。
Induc,eされるChern・Simons termは通常、トポロジカルに安定な性質を持つ。
とぃうのも、この項の係数は運動量空間における電子の伝播関数の巻き付き数に比例 し、それゆえ量子化された値のみ持つことが許される。この事実より、磁場中の2次 元電子系において量子ホール効果が起ることが説明される。なぜなら、Chern‑Simons termから電場に対して垂直に流れるホール電流が自然に導出され、またその伝導度
(ホール伝導度)が、量子化されているChern‑Simons termの係数に一致するから であ る。 とこ ろで 、上 に述 べた性 質は 量子 ホー ル系 や2十1次 元Dirac QEDのよ うにゲージ対称性が明白に存在する場合においてのみ示されている。ゲージ対称性 の自発的破れが生じた場合、induceされるChern・Simons termがどのような性質を 持っかは非自明な問題である。
この問題を議論する上で最適な、かつ現存する系として我々はPやTを破る超 伝導の系をとりあげた。この系では、同じオーダーパラメター(ギャップ関数)が ゲージ対称性とP、Tを同時に破っている。ゲージ対称性の破れからGoldstone mode が存在する。南部(1960)により得られた超伝導体に対するワード・高橋恒等式 を用いると、induceされるChern‑Simons termの係数はトポロジカル不変な部分に 対してGoldstone modeによる補正を受けることを示す。
Unconventionalな超伝導の系で生ずる現象を議論する際、これまでは対称性の考 察から求めたGinzburg‑Landau理論(超伝導の系における低エネルギー有効理論)
を用いた議論がなされてきたが、その中にChern‑Simons termは含まれていなかっ た。ところで、Chern‑Simons termは、ゲージ不変性を持つ項の中でも最も次元の 低い項として知られている。そのため、低エネルギー領域の物理に重要な寄与をお よぼ す。 よっ て、 我々 の議 論からPやTを破る系においてはChern−Simons term はGinzburg‑Landau理論に含まれるべきであり、実際この項が測定にかかり得る効
ー117 ‑
果を与えることを主張する。
その例として、P、Tを破る超伝導体を試料の端に対して垂直な一様静電場中にお いた場合を考える。この時、試料の端から磁場の侵入長程度の領域で電場に垂直な 電流が生じることが示される。これはChern―Simonst.ermにより導かれるホール電 流である 。この電 流から得 られる磁場 の大きさ はSQUIDで測定 し得るorderであ ることを示す。
学位論文審査の要旨
主 査 教 授 石 川 健 三
副 査 教授 河本 昇 副査 助教授 北 孝文 副査 助教授 中山隆一 副査 助教授 鈴木久男
学位論文題名
P‑and T‑Violatng Superconductors and Induced Chern‑Simons Terms
(空 間及び時 間反転対称 性を破る 超伝導と チャーン サイモン項)
空 間 反 転(P) や 時間 反 転 (T)に 対 する 不 変 性を 持た ない弱い 相互作用の 存在の ため、ミク ロな世界 ではPやTは 破れてい る。しか しながら 、電磁相互 作用では この対称 性が成立し ている。 電磁相互 作用をカ の起源と するマク 口な世界は 、よって 空間反転や 時間反転に 対して不 変なはず である。 ところが 、これら の対称性が マクロな 世界でも破 れているこ とが、生 物系や化 学系で分 かってい た。さら に最近これ らの対称 性を低温で 破る超伝導 や超流動 等の凝縮 系が存在 すること が分かっ てきた。こ れらの凝 縮系の流体 的または電 磁気的性 質は重要 な興味深 い問題で ありその 解明が待た れていた 。これを理 論的に明ら かにする ことが本 論文の目 的であり 、著者は これらの対 称性の破 れを反映す るChern−Simons項が物 理系の性 質を決め る有効作 用のなかに誘起されることを示すこと に成功する と共に、Chern―Simons項の性 質の解明 、これによって生ずる現象の解析、並 びに新現象 の予言を 行った。
マ クロ の 世 界で の 相互 作 用 の起 源 はPやTにた い し て不 変な電磁 相互作用で あるが無 限の自由度 からなる 量子多体 系では、 基底状態 がこれら の対称性を 破ること がある。こ のとき、対 称性の自 発的な破 れが起き る。本論 文では、PやTの対称性 とU(1)変 換に対 する対称性 が、同時 にある量 の凝縮に より自発 的に破れ る際起きる 超伝導と 超流動現象 を解 明 した 。 超 伝導 の 標準 的BCS機構 で はs―波 対 の 凝縮 でU(1)対 称性が自発 的に破 れ る がPやTは 破 れ な い 。 電 子 間 相 互 作 用 の 形 に よ っ て はBCS機 構 と は 異 な るp一 波 対やd一 波 対の 凝 縮 がお き る。 実 際 ヘリ ウ ム3のA相や 、 ストロン チウム系の 超伝導でp 一波 対 の凝 縮 が 起き 、 高温 超伝導 系でd―波 の凝縮が 起きてい ると思われ ている。 これ らの 凝 縮相 で 、PやTが同 時 に 破れ て い る時 な にが 起 き るのか、 その解明に は、電磁 気 ポテンシャ ルに対す るLandau―Ginzburg有効作用を求めることが最も単純明解な方法であ る。しかし ながら、 今まで超 伝導に対 してこの 研究は今 までなされ てない。 これらの対 称性を外部 磁場の影 響で破っ ている物 理系であ る量子ホ ール系ではChern−Simons項の計 算がなされ 、ゲージ 不変性の ためにChernーSimons項の係数 が運動量 空間での2点 グリー ン関数から 定義され るトポロ ジカル不 変量であ ること、 さらにその ため厳密 に量子化さ れた値をと る極めて 特異な物 理量であ ること等 の性質も 解明されて いた。と ころが本研 究対象の凝 縮系ではU(1)対称性が自発的に破れ事情が大きく異なっている。この際Cher n―Simons項 の 係 数 が い か な る 性 質 を 持 つ の か 興 味 深 い か つ 重 要 な 問 題 で あ る 。 御領潤氏は この問題 に対して 、経路積 分の方法 に基ずく 量子化法に 則り補助 場の方法 を使い、U(1)対称性 が時間反転や空間反転対称性と共に自発的に破れた際のゲージ不変 な有効作用 を求める 計算法を 明らかに した。次 にそれに 基づきChern−Simons項の係数を 解析しその 一般的表 式を求め ると共に 、これが トポロジ カル不変量 だけでな くトポロジ カル不変で ない他の 部分から成っていることを示した。トポ口ジカル不変でない項はU(1
)対称性が自発的に破れたことによる生ずるNambu―G01dstone励起モードの効果によるも のである。Nambu―Golds七one励起モードは通常の超伝導ではゲージ場に吸収されゲージ場 に質量を与えその自由度を失う。今の場合、chernーsimons項が特異であるため、その効 果が残る。その結果係数は量子化された値からずれることになる。cheでn―Simons項の係 数 の大 きさ はし かし なが ら、P、Tを破 るオ ーダ ーの 値が小 さい 場合 もほ とん ど同 じ大 きさとなる。次に誘起されたcheでnーsimons項により引き起こされる新現象を解析した。
PやTを 自発 的に 破る オー ダー は、 量子 ホー ル系 での 外部磁 場の 役割 をす る。 その ため
、 外部 磁場 なし に電 流と 電圧が直行するホール効果や、また偏向した光の偏向面が回転 す るフ んラ デイ 効果 が起 こることを予言した。これらの新しい現象や、その大きさの計 算 を 行 っ た 。 現 在 こ れ ら の 現 象 の テ ス ト が な さ れ よ う と し て い る 。 こ れ を 要 す る に 、 著 者 は 空 間 反 転 や 時 間 反 転 を破 る 超 伝 導 や 超 流 動 に 於 け る cheでn―Simons項についての性質解明とcheどn―simons項による生ずる物理解明を行ったも のである。その成果の一部はすでに公表され、おおきな関心を持たれている.これは場の 理 論 並 び に 凝 縮 系 の 物 理 の 理 解 に 対 し て 貢 献 す る と こ ろ 大 な る も の が あ る 。 よ っ て 著 者 が 北 海 道 大 学 博 士 ( 理 学 ) の 学 位 を 授 与 さ れる 資 格あ るも のと 認め る。
120ー