博士 ( 地 球 環境 科学) 野村 冬樹
学 位 論 文 題 名
Seasonal trends of habitat usagelntWOurSlneSpeCleS , adeStruCtiVebeaSt 乙 み S 勿 S ロ ァ Cf 〇 S ツ ¢ S 〇 ¢ 髭 SZS andanagriCulturalpeStf 形 励〆 C チ 〇 S7 銘 ロ尻り 榴刀銘 S ( 人 身 被 害 を 及 ぼ す エ ゾ ヒ グ マ と 農 業 被 害 を 及 ぼ す マ レ ー グ マ に お け る 生 息 地 利 用 の 季 節 変 動 )
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
,エ ゾヒ グマ (Ursus arctos yesoensis)とマレーグマ(llelarctos malayanus)の生息地利用およ び そ の 季 節 変 動 と 、 日 周 活 動 性 に つ い て 、1996〜2001年 に 研 究 を 行 っ た 。 本 研 究 は 、 ラ ジ オ テ レ メ ト リ ー 、 植 生 調 査 、 糞 分 析 、 自 動 写 真 撮 影 、 文 献 調 査 に 基 づ く 。 食 肉 目 ク マ 科 動 物 ( 以 下 ク マ 類 ) は 現 在 世 界 に8種 生 息 し 、3亜 科 に 分 類 さ れ て い る 。 こ の う ち ジ ャ イ ア ン トパ ンダ (イiluropoda melanoleuca)と メガ ネグマ(Tremarctos ornatus)はそれぞれ独立の亜科 に 分 類 さ れ て お り 、 そ の 他6種 はUrsinae亜 科 に ま と め ら れUrsine bear( 真 性 ク マ 類 )と 呼 ば れ て い る 。 近 年 の 人 口 増 加 に よ り 、 真 性 ク マ 類 と 人 間 と の 間 で は 様 々 な 形 態 の 軋 轢 が 生 じ て お り 、 北 方 の ホ ッ キ ョ ク グ マ ( リmaritimus)、 ヒ グ マ ( ひarctos)、 ア メ リ カ ク ロク マ
(ひamericanus)では 人 身被 害が 多く 、南 方の ツキ ノワ グマ(Selenarctos thibetanus)、ナマケ グ マ(Melursus ursinus)、 マ レ ー グ マ で は 農 業 被 害 が 多 い 。そ のた め分 布各 国で は、 問題 の 解 決 に 向 け て 様 々 な 取 組 み が 始 め ら れ て い る が 、 成 功 例 が 少 な い 。 本 論 文 で は 、 ま ず 人 身 被 害 を 及 ぼ す 種 と し て エ ゾ ヒ グ マ 、 農 業 被 害 を 及 ぼ す 種 と し て マ レ こ グ マ を 調 査 対 象 種 に 取 り 上 げ 、 而 種 の 行 動 ノ く タ ー ン の 特 性 を 把 握 し た 。 次 に 、両 種の 生息 地利 用の 季節 変動 に 影 響 を 与 え る 要 因 に つ い て 考 察 し た 。 ま た 、 こ れ ま で 議 論 さ れ て い な か っ た ヒ グ マ の 食 草 の 選 好 性 に つ い て 検 討 し 、 野 生 下 で 不 明 で あ っ た マ レ ー グ マ の 繁 殖 活 動 に っ い て 考 察 を 試 み た 。 最 後 に 、 両 種 と の 共 存 を 目 指 し た 管 理 へ の 提 言 を 行 い 、 こ の 提 言 の 一 般 化 の た め に 他の真性クマ類に関する知見との比較を行った。
エ ゾ ヒ グ マ は 、 北 海 道 ・ 渡 島 半 島 西 岸 部 の ブ ナ(Fagus crenata)林 に お い て 、 北 海 道環 境 科 学 研 究 セ ン タ ー に よ っ て 標 識 さ れ た1頭 の 成 獣 メ ス を 追 跡 し て 調 査 が 行 わ れ た 。 ブ ナ が 凶 作 で あ っ た1996年 の 越 冬 明 け か ら 晩 秋 ま で の 追 跡 の 結 果 、 調 査 個 体 の 年 間 行 動 圏 の 面 積は16.8krri2で、春、夏 、秋の季節別行動圏の面積はそれぞれ2.9 krri2、10.3kFri2、7.9 krri2 で あ っ た 。 ま た24時 間 連 続 追 跡 か ら 、 調 査 個 体 は 夜 間 の 方 が 休 息 し て い る 割 合 が 高 く 昼 行性であり、この地域の昼間の人間活動の少なさが示 唆された。
調 査 個 体 の 季 節 別 行 動 圏 内 に お け る 植 物 の 現 存 量 調 査 と 食 痕 調 査 か ら 、 春 に は オ オ ハ ナ ウド(llelacleum dulce)、 夏に はエ ゾニ ュウ(Angelica ursina)が選 択的 に採食されており、オ オ ブ キ(Petasites japonicus)は春 に、 その 現存 量に よ り多 く採 食さ れて いる こと が示 唆さ れ た 。 ま た 糞 分 析 の 結 果 、 秋 に は コ ク ワ(Actinidia arguta)の 果 実 が 多 く 採 食 さ れ て い た 。 各 季 節 別 行 動 圏 内 の 餌 の 分 布 と 調 査 個 体 の 環 境 利 用 か ら 、 春 に は 餌 が 均 一 に 分 布 し て い
たものの調査個体は針葉樹人工林を選択的に利用し、比較的内陸部で行動していたため、
前年の越冬穴の立地環境と出穴後の不活性の影響が示唆された。夏の行動圏内では内陸部 のチシマザサーブナ群落が選択的に利用されており、餌密度の高さの影響が考えられた。
秋の行動圏内の餌密度は沿岸部の二次植生の環境で高く、調査個体の利用も増加したが環 境選好性は認められず、この原因として年間行動圏内で全活動期を通じて利用された内陸 部の一部分の影響が考えられた。しかしながら、餌の分布の影響を受けた調査個体の生息 地利用の季節変動は、渡島半島におけるヒグマの有害駆除捕殺地点分布の季節変動と一致 しており、この地域で人間との軋轢を軽減するためには、ヒグマの生息地利用の季節変動 について、野外活動者への積極的な情報提供や教育の徹底が有益であると考えられた。
マレーグマは、ボルネオ島北部のマレーシア・サバ州タビン野生動物保護区の低地熱帯`
林と、隣接するアブラヤシ(Elaeis guineensis)プランテーションにおいて、1999年より4頭
( オス成獣
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頭、メス成獣2頭)を捕獲、標識放獣して2001
年まで2年間の追跡が行われ た。ドラム岳ワナによる4頭の捕獲に要した努力量は470トラップナイトであり、エゾヒ グマの捕獲成功率の倍以上であった。調査個体の2000年の年間行動圏は、最長径でオス が5.2 km
、5.1km、メスが3.2km
、3.8kmであり、ナマケグマとの比較からマレーグマ の行動圏は真性クマ類中最小であると推測された。24
時間連続追跡の結果、調査個体は昼夜とも活動していたがプランテーションの利用は、作業者の有無に拘わら.ず夜間に限定されていた。また、オス個体の方がメス個体よりも一 回あたりのプランテーション滞在時間が長く、深遠部まで侵入する傾向が見られた。また、
雌雄それぞれは通年一定の頻度でプランテーションを利用していたが、雨季(
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〜3月)の利用頻度には有意差が見られ、オスの方が高頻度で利用していた。このようなプランテ ーション利用強度に見られる雌雄差から、被害の軽減にはオス個体の除去が効果的である。
しかしながら保護獣であるマレーグマの場合、生体捕獲、奥地放獣による非致死的対応が 要求される。そのため、オス個体の捕獲確率を上げるには、雨季にプランテーションの深 遠 部 に ド ラ ム 罐 ワ ナ を 設 置 し た 捕 獲 作 業 が 有 効 で あ る と 考 え ら れ た 。
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組の雌雄個体は10月末の数日間のみ随伴が見られ、年に一度の繁殖期がこの時期にあ る可能性が示唆された。また、このメス個体が2000
年の2〜3
月にプランテーションを利 用しなかったことから、1999年の繁殖期に交尾が行われて出産に至った可能性が示唆され、繁殖活動がこの時期のメスの生息地利用に影響を与えていたと考えられた。この繁殖期以 外の雌雄の分離から、マレーグマの婚姻形態は仔育てにオスの手助けを必要としない条件 的一夫一妻
(Facultative monogamy)
であることが示唆され、メス個体どうしの行動圏の重 複状況もこれを支持していた。自動撮影装置で撮影された写真は、仔連れメス、成獣2頭 のファミリーがそれぞれ1枚撮影されたほかは全て単独獣で、3頭以上の成獣からなる群 れ(clan)
を形成している証拠は得られなかった。他の真性クマ類の行動特性は、ホッキョクグマでは、海氷上の主要な餌であるアザラシ の季節的な分布に合わせて行動圏を大きく移動することが分かっている。北米のヒグマで も、ベリー類の分布に同調して標高移動をすることが分かっており、アメリカクロクマで も秋の堅果類の分布に同調した行動圏の移動があることが分かっている。またツキノワグ マ、ナマケグマは行動圏の季節変動が小さく、農耕地の利用も通年にわたり、日周活動は 人間や捕食者のような環境の影響を受けにくいことが分かっている。以上のことから一般 に、北方の真性クマ類では本研究のエゾヒグマ同様、餌の分布に同調して行動圏の季節変 動が大きい傾向が見られ、偶発的な人身事故を誘発する原因になっていると考えられた。
また南方の真性クマ類では本研究のマレーグマ同様、行動圏の季節変動が小さく、日周活 動は人間や捕食者などの環境の影響を受けにくい傾向が見られ、このような行動特性が局 所的な農業被害を誘発する原因になっていると考えられた。
学 位論文審査の要旨
主査 教授 東 正剛 副査 教授 岩熊敏夫
副 査
教 授
青 井 俊 樹 ( 岩 手 大 学 農 学 部 ) 副査 助教授 幸島司郎(東京工業大学生命理工学部)
学位論文題名
Seasonal trends of habitat usagelntWIourSlneSpeCleS , adeStruCtiVebeaSt て乃 S 勿 S ロァC めS ツ¢S 〇¢刀S ぬ andanagriCulturalpeStf た励アCf 〇S 絖口尻り櫛刀勿S (人身被 害を及ぼすエゾヒグマと農業被害を及ぼす マ レ ー グ 了 に お け る 生 息 地 利 用 の 季 節 変 動 )
世界には6種の真性クマ類が分布し、北方の種は主に人身被害を、また南方の種は 主に農業被害をもたらす傾向が強い。申請者は、前者の代表としてエゾヒグマを、後 者の代表としてマレーグマを取り上げ、野生動物管理上最も重要な情報である行動圏 利用パターンの季節変動を中心に生態研究を行った。
渡島半島で行われたエゾヒグマの雌の生態調査で独創性の高い点は3っある。第一 に、行動圏内で綿密な植生調査、食痕調査、糞分析を行い、食草を単に得やすくて食 しているものと、積極的に好んで食しているものに分類できたことである。第二に、
行動圏の季節変動に影響を及ぼす要因を解析し、春は越冬穴の位置、夏はェゾニュウ の分布、秋はコクワの分布が行動圏を決定する主要因であることを見出している。第 三に、渡島半島の海岸域で特に秋にクマとヒトの遭遇が集中するのは、この地域でコ クワが豊富であることに起因していることを明らかにした。これまでにもエゾヒグマ の行動圏に関する研究は数例あるが、綿密な植生調査に基づいて行動圏の季節変動を 解析した例はなく、これらの成果は高く評価できる。
マレーグマの研究はポルネオ島にあるマレーシア・サパ州のタピン動物保護区で行 っている。世界の真性クマ類
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種の中でもマレーグマの科学的研究例は最も少なく、本研究が初めての本格的な生態研究と言っても過言ではない。従って、今回得られた 結果はいずれも独創性が高い。まず、申請者は雌
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頭、雄2頭、計4頭に発信器を装 着して個体追跡を行い、1)このクマの行動圏サイズは、これまで最小と言われてい たナマケグマの行動圏よりもさらに小さいこと、2)エゾヒグマとは対照的に、行動 圏の季節変動が少ないこと、3)夜、油椰子のプランテーションに出没し、大きな被 害を与えていること、4)
雌よりも雄の方がプランテーションの奥深くまで侵入し、滞在時間も有意に長いこと、などを明らかにした。また、動物園などでの観察例から、
このクマの繁殖期は定まっていないと考えられていたが、野生個体は
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月頃に交尾し、瞭な繁殖期を有することを初めて明らかにした。さらに、これまでの断片的な報告 ら、このクマは雄雌のぺアーに子供数頭を加えた家族集団が一緒に行動していると えられていたが、個体追跡と自動撮影装置を用bゝた研究から、他の真性クマ類と同 ように、単独行動が基本であることが明らかとなった。本研究は、マレーグマに関 る聞違った情報をいくっか修正した点でも価値が高い。
最後に、これらの研究成果と他の真性クマ類の生態に関する綿密な資料調査から、
のことが特定のプランテーションなどにおける集中的な農業被害を引き起こしている 考えられる。しかし、雌雄の形態差がほとんどないマレーグマを
と雌の殺傷確率と高め、個体群の急速な減少を引き起こす可能性 回比較的有効であることが確認されたトラップによる生け捕り、
動物に有効な遠距離放獣による管理が望ましいと提言している。
の研究が必要であるが、具体的なデータに基づく野生動物管理学 できる。
によって管理す あることから、
び行動圏の小さ のクマ類につい の提言として評
審査員一同は、これらの成果を高く評価し、また研究者として誠実かつ熱心であり、
大学院課程における研鑽や取得単位なども併せ、申請者が博士(地球環境科学)の学 位を受けるのに十分な資格を有するものと判定した。
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